【ボクらの未来】サヨナラの前に
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■ショートシナリオ
担当:STANZA
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 69 C
参加人数:7人
サポート参加人数:2人
冒険期間:11月14日〜11月19日
リプレイ公開日:2007年11月22日
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●オープニング
「え‥‥チビ、貰われて行っちゃうの?」
キャメロットの下町にある小さな孤児院で暮らす少年エストは、母親代わりの女性から話を聞かされると、その人の好さそうな顔を曇らせた。
チビというのは、この孤児院で暮らす一番年少‥‥4歳の少年テオの事だ。
「この間のハロウィンのお祭りであの子を見かけて、とても気に入ったらしいのよ。亡くなった息子さんに生き写しなんだとか‥‥」
「死んだ子の代わり? そんなの‥‥テオはテオだよ、そっくりだって、その子とは違う」
「それはそうよ。向こうの方も、それはわかってるわ。それに‥‥ちゃんとした里親が見付かったなら、ここで暮らすよりも幸せでしょう?」
「そんなの、わかんないよ」
エストは頬を膨らませた。
「僕はここが好きだし、母さんが大好きだよ。他の所なんて、行きたくない」
「あなたを手放したりはしないわ」
母さん、と呼ばれた女性は養い子の頭を優しく撫でて微笑んだ。
「あなたは、私が親友から託された大切な息子ですもの‥‥他の子とは、違うわ」
勿論、だからといって分け隔てはしない。彼女はきちんと、どの子にも等しく愛情を注いでいた。
「でも普通は、こんな施設で暮らすよりも何処かの家庭に入って、家族になる‥‥その方が幸せなのよ? テオ自身も行きたいって言ってるし」
「‥‥でも、そいつ、自分で迎えにも来ないんでしょ? ほんとに、大丈夫なの? 良い人なの? 上手いこと言って、ほんとは人買いだったとか、そんな事ないの?」
「エストは心配性ね。そんなに心配なら、自分で確かめてみれば良いわ」
母親はクスリと笑って言った。
用事でキャメロットに来ていたその夫婦は一度家に戻り、また改めて迎えに来ると言っていたのだが‥‥
「ちょうど2〜3日前から途中の街道にモンスターが現れるようになって、危なくて通れなくなってしまった‥‥そう、手紙には書いてあったわ」
その為、冒険者ギルドで人を雇い、それを退治してからテオを連れて来て欲しいと、手紙にはその為の資金も添えられていた。
「一緒に行ってみる?」
「え‥‥良いの?」
「あなたもそろそろ、ちゃんとした冒険に出ても良い年頃だわ。ついでに色々、勉強していらっしゃい。そして‥‥」
母親はそう言って、一振りの剣をエストの前に差し出した。
「これは、亡くなったあなたのお父様が使っていた物よ」
「‥‥父さん‥‥が?」
エストにとっては殆ど初めて聞く、父親の話。
「母さん、父さんの事も知ってるの? 今までなんにも教えてくれなかったじゃない!」
「‥‥時が来たら、ちゃんと話してあげるわ。そう、あなたがこの剣を使いこなせるようになったら‥‥ね」
その大きくて重い剣には、豪華な装飾と共に、エストが胸からから下げているペンダントと同じ、イルカの紋章が刻まれていた。
「これを、使いこなせるように‥‥」
だが、今のエストには持っているのがやっとだった。
「‥‥うん、わかった。約束だよ?」
母親は黙って頷く。
「じゃあ僕、ギルドに依頼出して来るね!」
エストはそう言うと、大きすぎる剣を背中に負い、町へ飛び出して行った。
●リプレイ本文
「エスト、久しぶりだな。腕は上がったか?」
出発前、集合場所に決めた冒険者ギルドでそう尋ねたアクア・ミストレイ(ec3682)に、エストは少し照れたような笑みを返した。つまり、余り変わり映えがしない、という事らしい。
「ならば、後で時間があれば稽古でも付けるか」
ジョン・トールボット(ec3466)がエストの淡い砂色の髪をくしゃくしゃと撫でる。
「うん、ありがとう」
その脇で、依頼内容を改めて確認していたウル・バーチェッタ(ea8466)が呟いた。
「里子‥‥か。エスト、テオはお前の弟のような存在なんだな?」
「うん‥‥あ、はい」
初対面のウルには、エストも少し緊張気味だ。
「ならばその夫婦がテオの新しい両親に相応しいかどうか確かめに行くぞ。兄が弟を心配するのは当然だ」
「はい、よろしくお願いします!」
「‥‥玉の輿の『た』の字もない様な依頼だな」
ソフィア・ハートランド(eb2288)がやる気のなさそうに重い腰を上げた。円卓の騎士の妻を目指しているという彼女にとっては、確かに何の旨味もない仕事かもしれない。
「まぁ、たまには騎士らしい事でもするか」
だが、口ではそんな事を言っているが、やる時はやるのだ。多分。
一行はエストを真ん中に挟むようにして街道を行く。
ギルドや酒場、それに途中で会った旅人などに聞いた話から、冒険者達は相手はバグベアだろうと見当を付けていた。
「それなら何度かやりあった事がある」
ウルが言った。
「テオを連れていたとしても怪我などさせはしないが、万が一ということもあるからな。だが‥‥どうする、退治したらすぐに呼びに戻るか?」
その問いに、セフィード・ウェバー(ec3246)とサリ(ec2813)が答える。
「そうですね‥‥まずはエスト君に、テオ君の里親になるのがどんな人なのか確認して貰いましょう。必要ならモンスターを退治した後で迎えに行きますが、引き渡すのは見定めが済んでから、ですね」
「ええ、エストさんの納得がいくまで里親さんと話して貰って、それからでも遅くないと思います。期限も設けられていませんし‥‥」
サリとしては自分達が連れて行くより、改めて迎えに来て貰った方が良いのではないかと考えていたが‥‥
「エストさんは、どうしたいですか?」
問われて、エストは暫く考えてから答えた。
「僕は‥‥やっぱり後で、その人達に迎えに来て貰った方が良いと思う。それくらいの手間も惜しむような人達には、渡したくないし」
「ならば、そうしよう。とにかくまずは、モンスター退治だな」
馬に乗ってゆっくりと先頭を行くジョンが、振り返ってそう言った。
「‥‥今日のところは出て来ないみたいだね。少なくとも、明るいうちは」
エストの横について、時折ブレスセンサーのスクロールを開いて敵の気配を探りながら歩いていたセフィア・リーンナーザ(ec3279)が言った。
「少し早いですが、この辺りで夜営にしましょうか?」
道の脇に程良い広さの空き地を見付けたセフィードが言った。地面のあちこちに、焚き火の跡が残っている。街道筋の宿を利用しない者は皆、この場所で夜を過ごすのだろう‥‥ただ、例のモンスターのせいだろう、今は他に人影もなかったが。
「食事の準備は私が受け持とう。エストは練習でもするか?」
と、アクア。
しかし、流石に重い剣を背負っての行軍はきつかったらしい。エストは「ごめん、ちょっと休ませて」と言うと、その場にへたり込んだ。だが、それでも背中の剣は下ろさない。
「余程、大事な物なんだな‥‥イルカの紋章、か」
その剣をまじまじと見つめたソフィアは、イギリス紋章目録を取り出して調べ始めた。
「‥‥何?」
「いや、その紋章が気になってな。どこの家の紋かと‥‥エストも知りたいだろう?」
だが、エストは首を振った。
「知りたい‥‥けど。この剣を使えるようになったら教えてくれるって、母さんが言ったんだ。だからきっと‥‥僕が大人になるまでは、知らない方が良い事なんだと思う」
「それで、良いのか?」
「‥‥うん。母さんは、約束を破るような人じゃないから」
「そうか‥‥悪かったな、余計な事をして」
「ううん、僕こそ‥‥ごめんね。せっかく親切に言ってくれたのに」
ソフィアは気にするなと言うようにエストの頭を軽く叩くと、一振りの剣を投げて寄越した。
「では、どこまで目標に近付いたか‥‥ちょっと試してみるか? 私はいらないから、これを使うといい」
「え? あ、ありがとう。でも気持ちだけ受け取っておくね。普通に使える剣はちゃんと持ってるから」
その時。周囲を警戒していたサリの耳が、何かの物音を捉えた。
「大きくて、重そうなものの‥‥足音、のようです」
その声に、冒険者達は夕闇の迫った周囲に目を凝らす。
‥‥いた。熊の体に猪の頭‥‥バグベアが、三頭。煮炊きの匂いに誘われたのか、こちらに近付いて来る。
「あっ! ダメだよ飛び出しちゃ!」
思い剣を担いだまま、前に出ようとしたエストの袖を、セフィアが思い切り引っ張った。
「でも、僕だって少しは‥‥!」
「下がってろ!」
ウルの厳しい声が飛んだ。
「まずは俺たちの戦いを見ていろ。冒険者に焦りは禁物だ。ここで命を落としたらお前の母親が悲しむだろう?」
「エストは暫く馬たちを護っててくれるか? これも大事な役割だからな」
アクアにもそう言われ、エストは仕方なく後ろに下がる。
その前に、ウル、サリ、セフィア、そしてセフィードが立ちはだかった。
一方、前衛は三人‥‥ソフィアは休憩の為に武装を解いたままだったが、咄嗟に槍だけをひっ掴むと片手にオーラシールドを作り出し、巨大な棍棒を振りかざした一頭のバグベアの前に飛び出した。
ジョンは相手の攻撃を盾で受け止めつつ、その脇腹にスマッシュを叩き込む。
アクアは二人のどちらかの援護に付くべきか一瞬迷ったが、それよりも残りの一頭に当たった方が良いと判断した。三頭ともそれぞれ誰かが付いていれば、後衛に攻撃が及ぶ心配はない。
「‥‥喰らえ!」
三人の攻撃の合間を縫って、ウルが後ろから矢を放つ。
セフィアはスリングで石を投げ、サリは万一敵が近付いて来た時に備え、ダガーを手に様子を見守る。
いくらかダメージが溜まった相手は、セフィードがコアギュレイトで動きを封じた。
「‥‥エスト、今だ! いけ!」
敵の一体を瀕死の状態まで追い込んだその時、ウルが叫んだ。
その声に、エストは反射的に腰の剣を抜き、弾かれたように前へ飛び出した。
目の前には今にも命の尽きそうなモンスターが一頭。恐らく、力のないエストでも一撃で倒せるだろう。コアギュレイトで拘束されている為、反撃も出来ない筈だ。
だが、エストは剣を振りかざしたまま、ぴくりとも動かない。
「どうした? 怖いのか?」
「こ、怖くなんか‥‥っ!」
言いつつ、手が震えている。
「背中の剣は、ただの飾りか?」
剣を使いこなすとは、命を奪う事も含まれる。
「う‥‥わああああっ!!!」
エストはぎゅっと目を閉じると、手にした剣を振り下ろした。
街道の脅威も去った翌日、一行は里親の家までの残る行程をゆったりとしたペースで進んでいた。
エストも一晩ぐっすり眠った為か、昨日のショックはかなり薄らいだようだ。
「あの、手合わせ‥‥お願いして良いかな?」
休憩時間には自分からそう頼んで来る程になっていた。
「気持ちだけでは剣は操れない。早くその剣を使えるようになる為にも、力をつけろ」
アクアは十手でエストの剣を受けながら、その剣筋について気が付いた事を指摘する。今までまともな師匠に付いた事のないエストにとって、それは貴重な経験だった。
「いつか使うこともあるだろう、使い方は覚えておいてくれ」
一通りの訓練が終わった時、アクアはパラのマントを手渡してそう言った。
「あ‥‥ありがとう」
そんな様子を、ジョンは少し眩しそうに見つめていた。エストのひたむきで純粋な気持ち、真っ直ぐに前を向いて歩こうとしているその姿が、彼には少し羨ましくもある。それは自分にはない‥‥かつての幼い自分にはなかったものだと、彼はそう感じていた。
次の相手を頼みに来たエストに向かって、ジョンは独り言のように呟く。
「‥‥私は自分が嫌で堪らない‥‥只、君らに力を貸せる事が自分を救ってるような気がしてな‥‥偽善ではあるが‥‥」
「え? 何? 何か言った?」
その声は小さすぎて、誰の耳にも届かなかった。
そして‥‥
「あの、初めまして。僕、テオの‥‥」
「ああ、お兄ちゃん、だね?」
「弟さんの事が心配で、私達の様子を確かめに来たのかしら?」
一行を出迎えた夫婦は、エストがサリに言われて持ってきたテオの絵を手渡すと、とても喜んだ様子でそれを受け取った。
「‥‥どうだい、あの人たちがテオ君を幸せにできないと思うかい?」
セフィードがこっそりと耳打ちする。
「わかんないよ。お芝居かもしれないし‥‥テオにとっては一生の問題なんだから、しっかり確かめなきゃ!」
疑うのは悪い事ではないが、と、セフィードは肩をすくめた。
「まあ、ほどほどにね」
「あの‥‥道も安全になりましたし、出来れば‥‥テオ君を迎えに来て頂けないでしょうか?」
おずおずと、サリが切り出す。
「孤児院でテオくん達と1〜2晩過ごして頂いて、その後一緒に戻られては? その方がテオくんも安心して知らない土地にいけるし、里親さんにある程度慣れてからのほうが家族として打ち解けやすいと‥‥あ、あの、すみません、差し出がましかったでしょうか‥‥?」
だが、夫婦はニコニコと微笑んでいた。
「私達も、道が安全になったならその方が良いだろうと考えていた所です」
だが、モンスターはいなくなったと言っても、危険が全て去った訳ではない。
「エスト君‥‥孤児院までの道中、護衛を頼めるかな?」
エストは驚いたように顔を上げ、そして‥‥嬉しそうに、大きく頷いた。