【リトルバンパイア】それぞれの思い
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■ショートシナリオ
担当:STANZA
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:5 G 84 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:11月15日〜11月20日
リプレイ公開日:2007年11月23日
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●オープニング
とある町の小さな宿。
女性騎士リュディケイア・オルグレンは固い寝台に身を起こし、粥状になった犬の餌のようなものを口に運ぶ。
「不味い」
率直な感想に、それを作ったテリーは頬を膨らませた。
「しょーがないだろ、病人食なんてそんなもんだ。嫌なら食うな」
「誰が食べないと言った」
リュディケイア‥‥リューはそう言うと、残りの粥を一気に喉に流し込んだ。
「味わいさえしなければ、どんな物でもとりあえずは食える‥‥腐ってさえいなければな」
酷い言われようだが、例え文句だろうが悪態だろうが、何かを話してくれる事はテリーにとって嬉しい事だった。何しろそれまでは必要な、それも最小限の事しか話さず、何を聞いてもイエスかノーか、或いは黙殺‥‥そんな会話とも呼べない会話が続いていたのだから。
「結局、食うのかよ。お代わりは?」
「いや、いい」
それだけ言うと、リューは再び寝台に身を横たえた。
彼女は先日の事件‥‥穴に落ちたまま数日を過ごした事が原因で、それ以来体調を崩して寝込んでいたのだ。
「‥‥なあ、俺、いて良かっただろ?」
目を閉じたリューに、テリーが言った。
「‥‥まあな」
ぶっきらぼうな返事が返る。
「だからさ、足手まといとか、邪魔とか言うなよな? 俺だってこれでも‥‥頑張ってんだからさ」
具体的に何をどう頑張るのか、彼自身もまだ決めかねてはいたが。
「確かに、今回はな。助かった、と言うべきだろう‥‥おかげで馬を失いはしたが、命を失うよりはマシだ」
リューは目を閉じたまま、にこりともせずに言った。
「馬は‥‥悪かったよ。俺の不注意だった。でも、いつかきっと、返すから‥‥馬か、それとも何か他の形で」
だから、このまま自分を傍に置いてほしい。一緒に奴を追わせてほしい。
「あんたが奴を追ってる、その理由は知らない。でも、あんたに理由があるように、俺にだってちゃんと理由があるんだ。引けない理由が。だから‥‥」
だが、相手は既に軽い寝息を立てていた。
その数日後。すっかり体力を回復したリューは、少し用事があると言ってテリーを宿に残し、どこかへ出掛けて行った。
「戻る‥‥よな?」
疑うような目つきでそう訊ねたテリーに、リューは一言「ああ」とだけ答えた。
その翌日‥‥一見、男か女か判然としない一人の騎士が、キャメロットの冒険者ギルドを訪ねた。
燃えるような赤い髪を肩の辺りで短く切り揃え、顔には大きな傷跡が残るその人物は、小さな金袋をカウンターに置いて言った。
「おせっかいな坊やの、説得と護衛を頼む‥‥報酬は余り出せないが、これでどうだ?」
その中身はつい先程、長い髪を惜しげもなく切り、それを売った代金として手に入れたものだった。
「足りない分は後で何とかする。流石に、それ以上のものを売る気はないのでな」
「それは‥‥仕事の内容にもよりますが、具体的にはどのような?」
受付係の問いに、騎士は答えた。
「ここから歩いて一日ほどの町にある宿でボンヤリしている坊やを、自分の村へ帰るように説得してほしい。そして、先にも言ったが‥‥その坊やの護衛だ。恐らく、狙われるだろうからな‥‥奴に」
「奴‥‥とは?」
「バンパイアだ」
騎士は吐き捨てるように、その名を口にした。
「奴は私と関わりのある者を下僕にして楽しむのが趣味でな。あの坊やも私と共にいれば、いずれ狙われるだろう。だから、手遅れになる前に坊やを説得し、自分の村で大人しく、平穏無事な人生を送るように言い聞かせてやってほしい。護衛は、まあ‥‥ついでだ。万が一のために、といった所か」
恐らく自分の言う事はきかないだろうから、と騎士は苦笑した。
「奴を追うのは私の仕事だ。坊やの無念は私が必ず晴らすと、そう伝えてくれ」
そう言い残し、騎士はギルドを後にした。
その頃‥‥
「‥‥さすがに、そろそろお腹が空いてきたわね‥‥」
テリーがリューを待つ宿がある町の、周囲に広がる森の中。
薄暗いねぐらで、赤い瞳の少女が呟いた。
「でも、ただ食欲を満たすためだけのお食事って、あたしの主義に反するのよね。何か面白い獲物、いないかしら」
陽が暮れるのを待って、大きなコウモリに姿を変えた少女は「面白い獲物」を探して夜空に飛び立った。
●リプレイ本文
「やれやれ。リューの嬢ちゃん、そいつァ思い違いってモンだよ」
キャメロットの下町にある、とある安宿。
長かった深紅の髪をばっさりと切り、すっかり印象の変わったリューを前に、ベアトリス・マッドロック(ea3041)は大袈裟に肩をすくめて見せた。
「そういう大事な事ァ自分の口で伝えて、どんなに反対されてもお互い納得するまで話し合うべきこった。ったく、髪を売ってこんな依頼を出すほどテリーの坊主を気に掛けてンだから‥‥」
「気に掛けてなどいない」
リューは相手の言葉を遮って、無愛想に言い放った。
「足手纏い‥‥それだけだ」
「だとしてもね。言い難い事なら尚更、自分の口で言うモンじゃないのかい? 相手の為だからって自分の考えを押し付けても、何にも良い事ァない。お互い分かり合う努力が出来るってェ事が、主が与え賜うた人の力なんだからね!」
だが、リューはもうそれ以上何も話す気はないようだった。
「‥‥まァ依頼を受けた以上説得はするさ。けど坊主の決意次第で、村じゃなくてこっちへ連れて来る事になるだろうね。あたしとしちゃ、いっそあんたも一緒に行って話し合やァいいと思うンだが‥‥」
気が向いたら来ると良い、そう言い残して、ベアトリスは宿を後にした。
「俺は足手纏いなんかじゃない!」
一足先に宿に着いた冒険者達の言葉に、テリーは顔を真っ赤にして叫んだ。
「俺だって、ちゃんと役に立ってるんだぞ! この前の事だって、俺がいなきゃ穴に落ちたまま‥‥!」
「‥‥それは認めよう」
メアリー・ペドリング(eb3630)が言った。
「しかし、これから先もそのような助けが必要になるとは限らぬ‥‥寧ろ、リュー殿を危険に追い込む要因になるやもしれぬ。今の貴殿は余りにも無力すぎる事は、理解しておられるか?」
「よろしければ‥‥試してみませんか?」
九紋竜桃化(ea8553)がテリーの前に進み出た。
「バンパイアは、外見に反し非常に強敵です。私達でも勝てるか解らない、その様な相手に勝てる力が有りますか? 私がお相手しましょう。さあ、どれでもお好きな得物を‥‥」
「ちょ、ちょっと待てよ!」
模擬戦での力試しを持ちかけた桃化に対し、テリーは冗談じゃない、という風に首を振った。
「確かに俺は、その‥‥戦いは、アレだ。でも! あいつには強けりゃ勝てるって訳でもないだろ!?」
「そうねえ、この前はかなりの手練れが揃ってたみたいだけど、それでも逃げられたみたいだし」
今までの報告書と仲間から聞いた話を元に、本多桂(ea5840)が言った。
「だけど、それならあんたは何が出来るの? クレリックや神聖騎士になりたいって言ってたみたいだけど、そっちの修行もサッパリのようだし。あたしの見た所、あんたはレンジャー向きね。その方がきっと彼女の役に立つわ」
「‥‥レンジャー‥‥?」
「そうですね、テリーさんには森林での独特の勘と危険察知の能力があるようですし‥‥前にリューさんがかかったような罠も事前に発見できるようになれば心強いでしょうね」
グラン・ルフェ(eb6596)が言った。
「俺の得意分野なら色々と説明も出来るし、訓練も手伝いますよ。リューさんの重荷になりたくないなら、自分の身だけでも護れる力をつけて下さい」
「重荷‥‥なのか、俺は‥‥」
「そうでしょうね」
まんざら自覚が無い訳でもなさそうな、そんな口調で呟き、俯いたテリーに、シエラ・クライン(ea0071)が追い打ちをかけるように言った。
「リューさんからは、詳しい事情は何もお聞きしていませんけど、吸血鬼を追っていて、その趣味にまで言及した以上、彼女が身近な方を何度か失っているのは想像に難くないですから‥‥。彼女は貴方を守りきれないと判断したのでしょう。例え命は落とさなくとも、貴方に何かあれば‥‥彼女が吸血鬼を追う理由が1つ増える事になりますね」
「俺を狙ってるって言うのか、あいつが?」
顔を上げて一同を見渡したテリーに、クリステル・シャルダン(eb3862)が黙って頷いた。テリーはこの間、リューが穴に落ちた事件の時‥‥彼女と一緒にいる所をバンパイアに見られている筈だ。関係者だと知られた以上、手出しをして来ないとは考えにくい。それに、出発前に友人に占って貰った結果も、その可能性は高いと告げていた。
「それを知った上で‥‥これからどうしたいとお考えですか?」
クリステルは三つの選択肢を示した。即ち、これまで通りにリューと一緒に行くか、それとも修行の為に一時的に離れるか‥‥そして、リューの希望通り、村に帰るか。
「それだけは、絶対に出来ない。俺はあいつを追うと決めたんだ。それを果たすまでは、絶対に帰らない。それにあんたの言う通り、奴が俺を狙ってるなら‥‥どこにいたって危険に変わりはないだろ?」
「ですがリューさんには、村に戻ればあの事件の記憶が風化しない限り‥‥例え襲われても潜伏期間を経て下僕化する可能性は下がるとの読みもある筈です」
シエラが言った。
「私も熟練にはほど遠い身ですけど、冒険者の端くれとしては‥‥堅気や駆け出し程度の方が死地に赴こうとする事を見過ごしたくはないですね。死なれたら責任を感じない訳には行きませんし、寝覚めが悪くなりますから」
「そうだな‥‥だから、付いて行きたいと言うのであれば、貴殿は変わらねばならぬ」
と、メアリー。
「変われぬのであれば、リュー殿の為に貴殿は村に帰るべきだ」
そして帰る気がないなら‥‥問題はどう変わるか、そして変われるか、だろう。
「でも、レンジャーって弓使い、だろ? あいつもを弓使いだし‥‥」
「弓が苦手でも剣を使うレンジャーもいるわ。あんたの努力次第だけどね。それにスクロール魔法が使えるのだから十分役に立てるわよ」
桂の言葉に、テリーはもう少し考えさせて欲しいと言った。
「まだ、時間はある‥‥だろ?」
翌日‥‥宿の近くにある森で、テリーは早速、グランにレンジャーの手ほどきを受ける事になった。
「考えたんだけど‥‥やっぱり俺は聖職者ってガラじゃないし。それに、神聖魔法が必要なら‥‥あんた達みたいな冒険者とか、出来る人に頼めば良いんだよな?」
ただ、リューは他人の力を借りる事に抵抗があるようだが。
「でも、あいつが拒んでも、俺が助けを呼びに行く。足の速さだけは自信があるんだ」
先日、村で事件が起きた際にギルドへの使いを頼まれたのは、その足の速さと、危険を避けて確実に目的地に辿り着く事の出来る天性の勘を見込まれての事だった。
だが、それでも‥‥
「俺がもう少し危機感を持って急いでれば‥‥って、何度も悔やんだよ。でも、悔やんだってどうにもならない。俺は、例えリューに拒まれても、一人でもあの吸血鬼を追う」
「その覚悟があるなら、俺もリューさんに口添えしますよ。なかなか頑固そうな人みたいだから、説得は難しそうですけど‥‥」
グランはそう言いながら、持っていた清らかな聖水をテリーに渡した。
「気休めかもしれませんが、無いよりはマシでしょう」
「‥‥静かね‥‥」
現役レンジャーとその候補生が訓練に励む姿を遠巻きに眺めながら、仲間達は周囲を警戒していた。
昼間とは言え、まだ葉を落としていない木々の梢には陽の光を嫌う者が身を隠せるような暗がりは多い。だが、今の所何の動きもなかった。
「まあ、あれは自分から攻撃を仕掛けて来るタイプではなさそうだけど‥‥それだけに厄介な相手、かしらね」
桂が言った。これまで色々な相手と命の遣り取りをして来たが、今回は上物かもしれない。
「出て来たら、当分悪さの出来ない程度にダメージを与えないとね」
「‥‥だが、これだけ警戒されてはまず、姿を現す事はないだろうな」
背中で、聞き覚えのない声がした。
振り返った桂の目の前に現れたのは‥‥顔に大きな傷跡の残る、赤毛の‥‥恐らくは、女性。
「ええと‥‥依頼人、さん?」
相手は黙って頷いた。
「おや、嬢ちゃん。やっぱり来たんだね?」
ベアトリスがその背をどーんと叩く。だが、リューはそんな挨拶に動じた風もなく言った。
「やはり、無駄だったか。冒険者などに頼るものではないな」
そう言うと、リューは弓の練習をしているテリーの元へ歩み寄る。
「‥‥リュー!?」
気付いたテリーが嬉しそうに駆け寄ろうとしたが‥‥
――バキィッ!!
その横っ面に、鉄拳が飛んだ。
「な‥‥何すんだ、いきなりっ!!?」
「この程度の攻撃も避けられない者に、私の横に立つ資格はない。素人はさっさと村に帰れ」
冷たく言い放つリューに、テリーは猛然と食ってかかった。
「嫌だっ!! あんたが何と言おうと、俺は‥‥俺の人生は自分で決める! あんたに指図される覚えはない!」
「ならば、私の人生にも関わるな」
「ああ、こっちから願い下げだ!」
最早、売り言葉に買い言葉状態。見かねた桃化がそこに割って入った。
「確かに、この結果はあなたが望んだ通りのものではありません。ですが‥‥私達はあのバンパイアに遭遇し、その性格を多少なりとも知っています」
「そうね、何か先日は偉そうな事をのたまっていたみたいだけど、結局、命や人を弄んでいる事に変わりは無いわね」
「そこから考えても、テリー殿が村に帰ったからといって安全とは限らない、寧ろその後襲われるだけになるかも知れぬ‥‥いや、リュー殿も、それは当然わかっているとは思うが‥‥」
「村に帰っても、吸血鬼に対抗できる人がいない分、危険なのではないでしょうか? 事件の経験から、下僕化は防げるかもしれませんが‥‥でも、血を吸うだけが目的でないのなら、魔法や他の手段で攻撃して来るかもしれませんわ」
そして、下手をすれば村人全員が巻き込まれかねない。
「こいつが‥‥ただの足手纏い以上のものになれると言うのか?」
リューはその場にいる全員を睨み付けた。
「それは、わかりませんが‥‥素質はあると思いますよ」
グランが言った。
「少なくとも隠密行動に関しては、少し訓練すれば実戦で使える筈です」
弓の腕も訓練次第で使い物になりそうだった。
「俺は足手纏いにも、重荷にも、あんたが奴を追う理由にもならない! あんたが拒むなら、俺はひとりでも奴を追う!」
その言葉に、リューは暫く考え込み‥‥そして、言った。
「ならば、今から三ヶ月‥‥ひとりで生き延びて見せろ。それでもまだ命があるようなら、また会う事もあるだろう」
それだけ言うと、リューは踵を返し足早にその場を離れる。
「あの、連絡先は‥‥?」
「その時が来たら、ギルドに依頼でも出せばいい」
クリステルの問いに背を向けたまま答え、リューはそのまま森の奥へと姿を消した。
「‥‥三ヶ月‥‥」
呟くテリーに、ベアトリスが言った。
「なァに、リューの嬢ちゃんは10年以上奴さんを追ってるンだ。坊主が暫く修行してから追っても間に合うさ」
そんな様子を、吸血鬼はどこかで見ているのか、それともどこか他の場所で餌を探しているのか‥‥彼等を取り囲む森は不気味なほどに静まり返っていた。