ふわもこ・ふえちゃった

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:7人

サポート参加人数:5人

冒険期間:11月17日〜11月22日

リプレイ公開日:2007年11月25日

●オープニング

 まん丸で、ふわふわもこもこ。
 大小ふたつ、まるで毛玉のようなそれは、肌触りも良さそうだ。
「これで色がなあ‥‥白やピンク、水色、せめて淡い黄緑色だったら可愛いのに」
 しかし、男が地下室で目にしたそれは、濃い緑色。毒々しいという表現がピッタリの、本能的に「こいつには近寄らないほうが良い」と感じさせるような色合いだった。
 これはきっと、冒険者の仕事だ。素人が手を出すと、とんでもない目に遭う‥‥そう感じた男は、すぐさまギルドに駆け込んだ。

「‥‥ああ、触らなくて正解でしたね。下手をすると死んでいましたよ」
 受付係の言葉に、男は驚いて声を上げた。
「死ぬ‥‥って、そんなに危険なモノなのか、あの色さえ違えば可愛らしいふわもこは!?」
「ええ、何しろ死亡毒を持ったカビのカタマリですからね」
 緑のふわもこの正体は、ビリジアンモールド。大きさは直径1メートルほどのものと、その3倍くらいのものと言うから、スモールとミドルだろう。
 ジメジメした場所に発生するそれは、触れたり振動を与えると、死亡毒の胞子を巻き上がらせるという厄介な代物だった。
「カビか‥‥そう言えばドアを開けた瞬間、ものすごいカビ臭い匂いが鼻をついたな」
 男は独り言のように言った。
 彼の家はギルドにほど近い、人通りも多く賑やかな場所にある。その立地条件を生かして、今度新しく食堂でも始めようかと考えている所だった。
「貯蔵庫に使えないかと思ったんだが‥‥」
 まあ、カビを片付けて綺麗に掃除さえすれば、何にでも使えない事はないだろう。
 問題は、どうやってそのカタマリを片付けるか、だが‥‥。
 10メートル四方程度の部屋のど真ん中に、それは鎮座しているらしい。
「その辺りは専門家に任せるとしよう。じゃあ、頼んだよ」


 ‥‥と、そんなやりとりが交わされたのが、20日ほど前の事。
 だがその時は仕事が難しすぎると感じたのか上手い具合に人手が集まらず、結局そのふわもこは地下に放置される事となった。
 そして‥‥
「‥‥増えた」
 男は冒険者ギルドのカウンターに突っ伏して力なく言った。
 もしかしたら自然消滅しているのではないかと淡い期待を抱きながら地下を覗いた昨日。それまでは中小二つの塊だったものが、三つに増えていたのだ‥‥しかもサイズアップして。
「えーとつまり、スモール、ミドル、ラージと三拍子揃った、と‥‥」
「まあ、そういう事だろうね」
 受付係の問いに、男は他人事のように答える。
「地下を使うのは諦めようかとも思ったんだがね‥‥放っておいたらきっと、地下が緑のふわもこだらけになって、そのうち上まで溢れ出すんだろうなあ‥‥あははは‥‥」
 乾いた笑いがギルドの店内に響いた。

 そんな訳で再びギルドに張り出される事となった、ビリジアンモールド退治の依頼。
「頼むよ、開店も間近なんだから‥‥きちんと片付けてくれたら、自慢の料理をサービスするからさ」
 行列の出来る店になる事は間違いない‥‥店の地下がカビだらけ、などという衛生上よろしくない事実が発覚さえしなければ‥‥それが過去形だろうと現在進行形だろうと。
 そう言い残して、男は不安げにギルドを後にした。

●今回の参加者

 ea6333 鹿角 椛(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb1165 青柳 燕(33歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb7700 シャノン・カスール(31歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb8539 狛犬 銀之介(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ec1783 空木 怜(37歳・♂・クレリック・人間・ジャパン)
 ec1858 ジャンヌ・シェール(22歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ec3138 マロース・フィリオネル(34歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

クァイ・エーフォメンス(eb7692)/ 水之江 政清(eb9679)/ 雀尾 嵐淡(ec0843)/ オグマ・リゴネメティス(ec3793)/ 九烏 飛鳥(ec3984

●リプレイ本文

「‥‥ほう、これはまた‥‥」
 依頼人に挨拶を済ませ、件の地下室を覗いた青柳燕(eb1165)は目を輝かせ、早速退治にかかろうとした仲間を制して言った。
「済まんが、いま少しだけ待ってくれんかの‥‥折角いい感じに揃っておるんぢゃ。是非とも記録に残しておきたいのでな、ちょいとスケッチだけさせてくれぃ」
 言うや否や、階段の上に陣取った燕は絵筆を取り出す。大中小と揃って並んだ緑のふわもこは、絵心をそそるものらしい。
「しかし、あまり近寄れぬのが難点ぢゃが‥‥優良視力でそこら辺はカバーかのぉ」
 下手に近寄って振動でも与えようものなら、たちまち致死性の胞子を撒き散らす、それは厄介な代物だった。
「カビかぁ。あれ厄介なんだよな‥‥油断してると店の在庫が侵食されて‥‥でも、ここまで成長させるのは‥‥なかなか出来るもんじゃないけど」
 燕の手許を覗き込みながら、故売屋を生業としている鹿角椛(ea6333)が言った。
「一番いいのは湿気を取ることなんですけど‥‥どうしましょうか」
 マロース・フィリオネル(ec3138)が地下室を見渡して言う。部屋の上部には換気と明かり取りの為に窓が作られているが、そこを開けただけでは何の効果もない事は、地下室の現状を見ればわかる。
「じゃ、俺は今のうちに消毒液でも作っておくかな」
 空木怜(ec1783)はそう言って、ひとまずその場を離れた。植物用の解毒剤をベースに、アルコールと清らかな聖水を加えれば殺菌効果が期待出来そうな気がする。本当に効くかどうかは‥‥
「まあ、ダメモトでやってみるさ」

 そうこうするうちに、燕のスケッチもあらかた出来上がったようだ。
「後は終わってからゆっくりやるわい。‥‥で、どうするかのう?」
 ふわもこは、入口の付近から奥へとサイズアップして並んでいる。色々試すなら、まずはサイズ的にも手前のスモールからだろう。
「プラントコントロールを試してみるか」
 シャノン・カスール(eb7700)が階段の上から小さなふわもこを制御しようと試みる。
「これで胞子が飛び散るのを防げれば‥‥誰か、試しに切りつけて貰えるか?」
 その要請に応えて進み出た勇者は、狛犬銀之介(eb8539)。
 彼は出来るだけ胞子を吸わないようにと布で口元を覆い、息を殺してふわもこに近付いた。そして、植物に対して特効のある刀を押し当ててみる‥‥
 確かに、胞子を出さないようにふわもこを制御する事は可能なようだ。ただし、衝撃で反射的に舞い上がったり、飛び散ったりする純粋に物理的な現象は防ぎようがない。それは、マロースが試したコアギュレイトでも同じだった。
 小さい物ならそれだけでも何とかなるかもしれないが、大きい物は直径5メートル。反射的に飛び散る胞子の量も半端ではなかろう。
「やはり、安全策を採った方が良いか‥‥」
 胞子を吸わないうちにと銀之介を下がらせ、シャノンはフリーズフィールドのスクロールを取り出した。
「これで凍らせる事が出来れば、切り分けも容易くなるだろう。効くかどうかはわからんが、物は試しだ」
 シャノンは出来るだけ全てのふわもこがその中に入るように魔法をかけ、他の仲間達が窓や出入り口をしっかりと塞ぐ。
 これで一晩放置すれば、シャーベット状にザクザク切れるように‥‥なってると良いなあ。

 そして翌日。念の為に被せておいた、塗らした毛布‥‥それもパリパリに凍ってはいたが、それを外してみると。
「うわ、毛布に緑の霜柱がくっついています!」
 湿らせた布を重ねて口元を覆ったジャンヌ・シェール(ec1858)が、くぐもった声で叫ぶ。
 しかも、表面の霜柱は既に死んでいるような。
「すごい! シャノンさん、名案でしたね!」
 ふわもこ本体の方も、見事に凍り付いている‥‥ように見える。少なくとも、小さいヤツは。
 一晩寝てすっかり魔力を回復したシャノンは、椛から借りたバーニングソードのスクロールを使い、希望者の武器に魔法の炎を纏わせた。
「ふむ、ではわしはでかいのを退治しようかの」
 仲間達がすっかり凍った小さなふわもこを、サクサクと楽しげに切り分け、袋に小分けにしている様子を横目で見ながら、燕は一番大きな‥‥ラージみどりふわもこの前に立った。だが、それは直径5メートル。下手に下から切りつけて、バランスを崩したふわもこが崩れてきたら‥‥ちょっと、想像したくない。
「あー、そのやたらデカいのは後でブッ壊すから、隣のヤツを頼めるか?」
 椛に言われ、燕は隣のミドルサイズに標的を変えた。それでも、直径3メートル。
「凍っている‥‥ようには見えるが。それでも、勢いよく殴りつけると胞子が飛ぶ恐れがあるからの。ここは慎重に‥‥」
 燕は炎を纏った霞刀の刃を、ふわもこの表面に押し当てた。それはジュウジュウと音を立てながら、表面を焼かれて行く。だが、刀を内部に突き刺した瞬間‥‥
「‥‥む。ナマ‥‥ぢゃろうか‥‥?」
 流石に中まで完全に凍らせる事は無理だったようだ。
「はーい、退避退避ー! そこ、射線に入るなよー。当たるとちょいと痛いぞー。って言うか胞子が飛び散るぞー?」
 そこから先は遠距離攻撃の出番。椛は仲間達を下がらせると、いつでも脱出出来るように階段の一番上からライトニングサンダーボルトを連発した。半端に凍ったカビの塊や、生カビが砕け、胞子が盛大に飛び散る。
 暫く後、舞い上がった胞子が落ち着いた頃を見計らって、シャノンが再びフリーズフィールドをかけた。細かく千切れたふわもこ達は、今度こそ完全に凍ってくれるだろう。

 そして更に翌日。今度こそきちんと想定通りに凍り付いたふわもこの残骸を、冒険者達は人海戦術で外に運び出す。
 シャノンのゴーレムは‥‥重すぎて階段を踏み抜く危険がある為に、運び出しには使えなかった。
 運び出された残骸はジャンヌが依頼人に借りた荷車に薪と一緒に乗せられ、郊外の空き地へと運ばれた。自分の馬に引かせたその荷車には、ジャンヌお手製の看板が掲げられていた‥‥即ち「美味しい料理が自慢の食堂、間もなく開店!」とか何とか。
「え、この荷物ですか? 開店準備の為に出たゴミですよ。これから燃やしに行く所です」
 道行く人に荷物について尋ねられた時にはそう答える。
「嘘はついていません、よね?」
 そして、地道に穴を掘り‥‥ウォールホールでは深さが足りなかった‥‥出来た深い穴に薪や周囲の枯草を放り込んで盛大に燃やす。そこに生焼けを防ぐために油をかけた残骸を袋のまま投げ入れ、少しずつ燃やしていった。

「さて、カビが片付いたら‥‥掃除だ!」
 ふわもこの残骸が残る地下室で、怜が叫んだ。
「再発防止のために手は抜けないぞ。壁の隙間とかにカビが残ってる可能性もあるから徹っっっ底的に!」
 そして、特製の消毒液を残骸にふりかけてみる。
「‥‥お? 効いてる‥‥のか?」
 効果がある‥‥ように見えるが、ブレンドした成分の何が効いているのか、それを判別する為には植物知識の他に毒草についての知識が必要だった。
 それに加えて、マロースも部屋全体の汚れにピュアリファイをかける。ふわもこ本体には効かないが、それが繁殖する元となる汚れを浄化する事は出来るようだ。
 それが済んだ後は、本格的な大掃除の開始だ。
 まずはシャノンがレビテーションで宙に浮き、天井の汚れを落とす。銀之介はそれを集め、更に隅々まで丁寧にブラシをかけた。その上でまた丁寧に雑巾をかけ、石造りの床や壁の隙間に挟まったゴミや汚れはナイフを使って丁寧に掻き出すという徹底ぶりだ。
「‥‥大きな声じゃ言えないけど、故売屋なんてモンをやってる関係でカビを抑える方法はいろいろ知ってるんだ」
 地下室が綺麗に片付いたとの報告を受けて様子を見に来た依頼人に、椛が小声でそう言った。
「床に直積みにしたり壁に密着させて置かず風か流れる道を作る、のが一番簡単かな?」
「とにかく風通しを良くして、湿気を溜め込まないようにするのが一番だと友人が言っていました」
 と、それを受けてマロースも言葉を継ぐ。
「後は‥‥暖炉で燃え残った炭などを地下室に置いておくと、湿気を取るのに効果があるという話を聞いたことがあるんですが、実際はどうなんでしょうか?」
 ただの燃えカスと「炭」とでは全くの別物なのだが‥‥まあ、燃えカスにもそれなりの効果がある、かもしれない。幸いこの地下室は石造りで、万が一燃え残りがあったとしても火事にはならない。何事もやってみて損はないだろう。
「ともあれ、またギルドに駆け込むような事のないよう、掃除はきちんとしてくれよ?」
 ふわもことの死闘を思い出したのか、見違える程にサッパリとした地下室を眺めながら、椛が苦笑混じりに言った。

 そして最終日。
 燕とジャンヌの協力で店の内装も何とか形になってきた頃‥‥
「いやあ、本当に助かったよ。看板まで作って貰って‥‥後はこれを店の表に掲げるだけで、いつでもお客さんを迎えられるぞ」
 依頼人は上機嫌でそう言った。
「今まではろくな材料もなくて、賄い食程度の物しか出せなかったが、今日は奮発して色々仕入れて来たからな。自慢のメニューを片っ端から堪能してくれ」
 この手の店では、実は賄い食が一番美味しかったりもするのだが、まあ、それはそれ。冒険者達は出来たばかりのメニューの中から好きな物を注文し、存分に舌鼓を打った。
「とても美味しかったです。危険なお仕事を頑張った甲斐がありました!」
 食後のハーブティーを楽しみながら、ジャンヌが満足げに言った。
「ふむ、わしもまたキャメロットに来る機会があれば寄らせて貰うぞい」
「ああ、いつでも来てくれ。これからレパートリーも増やすからな、メニューは半額、新作の試食なら無料でサービスするぞ!」
 依頼人は上機嫌でそう言った。
 やがて迎えた開店初日。冒険者達の宣伝効果もあってか、店はなかなかの繁盛ぶりだったという‥‥。