追跡・武器強度偽装事件
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■ショートシナリオ
担当:STANZA
対応レベル:11〜lv
難易度:やや易
成功報酬:3 G 80 C
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月19日〜11月24日
リプレイ公開日:2007年11月27日
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●オープニング
「ついに‥‥ついに手に入れたぞ、この俺に相応しい強度と抜群の切れ味を誇る、この剣を!!」
男は手にした剣を鞘から抜き放ち、その刀身を陽光にかざすと満足げに微笑んだ。
「美しい‥‥やはり美とは、それに相応しきものに宿るのだ‥‥そしてこの美しき剣に相応しい持ち主、それはまさしくこの俺!!」
そして男は、その業物を再び鞘に収めると冒険者ギルドへと向かった‥‥この剣の切れ味を試す為、そして山のような借金を返す為に、冒険を求めて‥‥。
その数日後。
「さ‥‥サギだあぁぁっっっ!!!」
彼は再び冒険者ギルドに姿を現した‥‥今度は依頼人として。
「聞いてくれよ! こんなのってアリかよ!? 人として許しておいて良いのか、ええっ!!?」
男は受付係の襟首を掴み、ガクガクと揺さぶる。
「ま、まあ‥‥おち、落ち着いて、くだ、だ、下さい、ね? 一体な、何があっ‥‥たたたたっ!」
「何がと聞きやがるか畜生っ! これだよこれっ!」
――だんっ!!
派手な音を立ててカウンターに置かれた物は‥‥ポッキリと折れた、大ぶりの剣。
「‥‥高かったんだぞ‥‥借金までして買ったんだぞ‥‥」
男は剣の残骸を見つめながら、ふ、ふふ‥‥と、不気味な笑い声を発した。
「強度と切れ味は折り紙付きだと、この店の品揃えの中でも最強の部類に入ると、そう言ってたのに‥‥っ!!」
だがしかし。その「最強剣」は、山賊‥‥しかも下っ端の放ったバーストアタックの前に、無残にも砕け散った。
「騙されたんだ‥‥そう、騙されたんだよ、俺は‥‥ふふ‥‥はははは‥‥」
しかし、騙されたのはその店の主人も同様だったようだ。
キャメロットの下町で小さな武器屋を営む老人も、思わぬ出来事に頭を抱えていた。
「信頼出来る工房じゃと思うたのに‥‥わしも、もうトシかのう‥‥まさか、こんなにあっさりと騙されるとは‥‥」
先日、つい最近この近所に工房を構えたばかりだという若者が、自作の武器を売り込みに来た。
見本として持参した武器は、そのどれもが一定以上の水準‥‥いや、長年様々な武器を見てきた老人の目にも、出来の良い、素晴らしいものだと感じられた。それに、その若者もまことに爽やかな、感じの良い男で‥‥
「後押しをしてやりたいと、そう思うたのにのう。武器どころか、人を見る目も衰えてしまったようじゃ。そろそろ隠居を考えるかのう‥‥」
老人は見抜けなかったのだ。見本以外は殆どが「見てくれ」だけの紛い物である事を。
「‥‥そういう訳でな‥‥店の爺さんからも頼まれてるんだ」
一通り泣き、笑い、そして叫んだ男は漸く落ち着いたのか、金袋をカウンターに置いて言った。
「その工房を調べてほしい。あの小僧、こっちが何を言っても知らぬ存ぜぬ、挙げ句には剣が壊れたのは俺の腕が未熟だからだと、こう抜かしやがった‥‥まあ、それを業物で補おうとしてたのは‥‥まあ、認めるが」
工房を調査し、動かぬ証拠を掴む事。その工房でナマクラ武器が作られている、もしくは他から仕入れて売り捌いている等の証拠だ。
「まあ‥‥そうだな、倉庫か何かに眠ってる武器がナマクラだらけだったりすりゃ、言い逃れも出来ないだろうと思うが‥‥」
工房の場所は自分が知っている。そこまでは案内するから‥‥と、その言葉と壊れた剣を後に残し、男は木枯らしと共に去って行った‥‥。
●リプレイ本文
「‥‥武器の強度偽装‥‥か」
セオフィラス・ディラック(ea7528)は掲示板に張り出された依頼書を見ながら呟いた。
「いざというときに命を預けることになる物にまやかしや偽りを持ち込まれるのを見過ごすわけにはいかないな。まぁ、それを見抜くのも戦士や騎士の実力のうちという所もないではないんだが‥‥とにかく、しかるべき所につきだして、性根を入れ替えてもらおう」
それに、この手の依頼で彼女が黙っているはずもない‥‥と、カウンターを振り返ると‥‥
いた。
やっぱり。
「‥‥これは‥‥ナマクラも良い所ですね」
アクテ・シュラウヴェル(ea4137)が、依頼人が置き去りにした真っ二つに折れた剣の断面を検分していた。
「同じ武器屋としてそのような商売をする工房は許せません。二度とそんな真似が出来ないようにしましょう」
喜んで協力しよう、何でも言いつけてくれ‥‥そう心の中で呟きつつ、セオは掲示板の前を離れる。
そろそろ「頼れる相棒」くらいには昇格できるといいなぁ‥‥。
「‥‥このような装い、知人には見られたくないものだ‥‥」
エスリン・マッカレル(ea9669)は、普段とはかなり趣の異なる、中身よりも見た目で勝負と言わんばかりのド派手な格好で町を歩いていた。
そして件の工房に、偶然見つけた風を装い入って行く。
そこは店舗も兼ねているらしく、壁には様々な種類の武器がまるで装飾品のように綺麗に並べられ、手に取れる位置にも多くの見本が並べられていた。
それを暫く興味深そうに眺めた後、エスリンは工房の主に声をかけた。
「剣の手入れを頼みたいのだが」
そう言って、大して手入れの必要もなさそうな銀の短剣を差し出す。
「はい、かしこまりました!」
まだ若い店の主人は人当たりの良さそうな笑顔で応えた。だが、見たところ店には剣の修理や手入れが出来そうな設備は見当たらない。
「作業場はこの裏にあります。でも僕、まだまだ駆け出しなので、その、作業の様子を誰かに見られるのは恥ずかしくて‥‥」
きちんと手入れをしておくから2〜3時間後に取りに来て欲しいという青年の言葉に素直に従い、短剣を預けたエスリンはひとまず店を後にした。
一方、その同じ頃‥‥店の裏手では、ギリアム・バルセイド(ea3245)とロッド・エルメロイ(eb9943)の二人が工房の実体を調査していた。
「ったく‥‥こういうのは本職がするべきなんだがなぁ」
ギリアムが呟くが、それでも仲間内では彼が最も隠密行動に適していた。
二人は目立たないように店の裏手に身を潜め、様子を窺う。若い主人が「裏にある」と言っていた作業場は、どこにもない。代わりに‥‥
「倉庫の中には、結構な数の武器が置いてありますね。何人かの男が忙しそうに動き回っていますが‥‥」
エックスレイビジョンで中を覗いたロッドが小声で囁いた。
「俺が同業者から聞いた話じゃ、結構被害が広がってるらしいな」
ギリアムが応える。
「奴等、小さな武器屋を狙っては盛んに売り込みをしてやがるらしい。初回の納品にはマトモな奴を‥‥しかも相場の半額程度で出して来るらしい。それで信用させて、後は‥‥って寸法だな」
今もどこかに出荷をする、その準備をしているのだろう。
「良い武器は誰でも欲しい物ですが、それを利用して、見た目だけの粗悪品を売りつけるとは、なんと卑怯な。許せません」
そこへ、今し方エスリンから短剣を預かった主人が現れ、男達の一人にそれを無造作に投げて寄越した。
「これを手入れして欲しいとさ。誰か適当にやっとけ」
先程までとは随分と違う、態度と口調。
「‥‥こいつは、クロで決まりだな」
仲間達に報告をすべく、二人は静かにその場を離れた。
「ほうほう、あんたらも武器屋ですかな」
依頼人のひとり、武器屋の老人は、尋ねてきたアクテとクロック・ランベリー(eb3776)の二人に事情を話し、使い物にならない剣の束を見せた。
「ひとつ、確かめさせて頂いてよろしいですか?」
アクテが尋ね、そのうちの見るからに立派そうな一振りを、同行したヤラレ役のセオに手渡した。
そこへ、メグレズ・ファウンテン(eb5451)がごく普通のショートソードで軽〜くバーストアタックをかけると‥‥
――ぱきーん!
セオが手にした見た目だけはご立派な剣は、根性のカケラも見せずにあっさりと折れた。
「職人として、こんな手を抜いた武器は許せんね」
クロックが折れた刃を拾い上げて言った。
それは、焼きが入っていないどころか‥‥材料を型に流し込み、冷やして固めただけのように見える。それでも表面に磨きをかければ、一見それらしくはなるだろう。
四人は武器屋の主人に礼を言うと、使い物にならない剣の束を証拠として回収し、その仕入先‥‥件の工房へと向かった。
そして再び、舞台は工房‥‥いや、詐欺青年の店、と言うべきか。
約束通りに短剣を受け取りに来たエスリンは、その出来映えに大袈裟に驚いて見せた。
「ほう、これは‥‥もう使い物になるまいと諦めていたものを」
「ご満足頂けたようで、光栄です。腕には自信がありますから」
嘘つけ。
しかしエスリンは、そう言いたいのをぐっと堪えて芝居を続ける。
「そうだな、若いのに見事な腕だ。この出来映えならば‥‥ここに並んだ他の武器についても信用して良さそうだ。どうだろう、この私の腕に相応しい最高の剣を探しているのだが‥‥ここに、それがあると思って良いのだろうか?」
「勿論ですとも!」
そう言って若者が壁から外した剣は、ゴテゴテと豪華な装飾の付いた、いかにも見かけ倒しのような代物だった。
だが、今のチャラチャラとした格好のエスリンには、とても良く似合う。
「なるほど‥‥よし、それを頂こうか」
エスリンはいかにも金に不自由のない貴族らしく、値段も聞かず、性能を確かめもせずに即決した。勿論、短剣の修理代を含めて後で全て回収するつもりではあったが。
「暫く使ってみて、気に入ったらまた寄らせて貰おう。我が領地で使う武器を誂えるのも良かろう‥‥」
その時、新たな客が店の中へ入って来た。用心棒(?)を連れた、アクテとクロックだ。
アクテは巷の評判を聞いて来たと言い、取引を持ちかけた。
「その前に‥‥実際の出来を確かめさせて頂きたいのですが。いくら評判が良いと言っても、こちらも商売ですから‥‥」
確たる保証がなければ、大口での取引は出来ない。
「ええ、それはそうでしょう。勿論、お好きなだけ試して頂いて構いませんよ」
青年はどれでも好きな物で試して良いと、壁に掛かった武器の数々を示した。流石にそれだけは偽りのない本物、という訳だろう。
「‥‥では、こちらの剣で‥‥」
アクテは一振りの剣を手に取ると、その刀身の一ヶ所をこっそりとヒートハンドで熱し、脆くしてからセオに手渡した。
「では、参ります!」
店の外、青年の目の前で、メグレズが右手に持ったファングブレードを使い、セオが持つ剣にバーストアタックを叩き込んだ。
――ぱきーん!
「そ‥‥そんな、馬鹿な!?」
「まぁ、そういう事もあるでしょう」
明らかに狼狽している青年に、アクテはあまり気にした様子もなく言った。
「どんな名人でも何百回に一回は事故はあるものですわ。他の剣で試してみましょう」
アクテは再び、こっそり細工した剣を手渡し‥‥
――ぱきーん!
「そ‥‥そんな筈はない! 見本は全て‥‥!」
「‥‥見本、は? と言うと、見本と実際の商品とでは何か違いがあるのでしょうか?」
アクテの目がキラリと光る。
「因みにこれは、あなたの工房からとある武器屋に納入された商品です」
メグレズが剣の束を青年の目の前に置いた。
「そしてこれは、何の変哲もない市販のショートソードです‥‥そうですね?」
確認を求められ、無関係な見物人‥‥を装ったエスリンが頷く。
「では‥‥」
メグレズはそれをセオに持たせ、次々と破壊して行った。
「これは」
ぱきーん!
「一体」
ぴきーん!
「どういう」
ぷきーん!
「事なので」
ぺきーん!
「しょうか?」
ぽきーん!
「‥‥さて、納得のいく説明を願いますかね?」
「く‥‥っ!」
蒼白な顔で額に汗を浮かべている青年の肩を、セオがぽんと叩いた。
「‥‥多分、素直に罪を認めた方がマシだと思うぞ?」
きっと、怖くて綺麗なお姉さんのお仕置きタイムが待っている‥‥
だが、青年は開き直った。
「くそ‥‥、折角上手く行ってたのに‥‥! 邪魔はさせない!」
合図と共に、裏の倉庫から人相のよろしくないお兄さん達が飛び出して来た。
「やれやれ、やっぱりこうなっちまうのか?」
物陰に隠れて様子を見ていたギリアムが、ぼやきながら前へ出る。
「仕方がありませんね‥‥」
ロッドはその場に隠れたまま、シャドウバインディングのスクロールを使って相手の動きを封じにかかった。
「ヤワな武器を売り捌いている連中だ。まさか、自分達のだけ質が良いってことは‥‥」
その、まさかだった。ギリアムが放ったバーストアタックは、相手の武器には効かなかった。
「こんな連中だ、思い切りやって構わんだろう?」
言葉通りに容赦なく剣を振るいながらクロックが言う。
「‥‥私は‥‥騙されていたのか!?」
エスリンは、まだ芝居を続けながら武器を弓に持ち替えて応戦した。
「先程の代金、返して貰おう!!」
かくして、怒りを炸裂させた熟練冒険者達の前に、卑劣な詐欺集団はあっさりと沈黙した。後はお姉さんのお仕置きが終わってから、然るべき所に引き渡せば相応の処罰が下される事だろう。
「貴方でしたら使いこなせると思いますので‥‥」
メグレズからファングブレードを譲り受けた依頼人は「本物」の感触にいたく感激していたようだ。
どの程度の借金を作ったのかは敢えて聞かないが、これで返済も少しは楽になる事だろう。それに、彼にも武器屋の老主人にも、ある程度の金は戻るだろうし‥‥多分、きっと。