ミノタウロスの花嫁
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■ショートシナリオ
担当:STANZA
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:5
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:11月25日〜11月30日
リプレイ公開日:2007年12月03日
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●オープニング
冬が目前に迫ったこの時期、そいつは必ずやって来る。
黒ずくめの服を着て、顔まで黒い布ですっぽり覆った、怪物の下僕。
若い娘のいる家を探して、全体が真っ黒に塗られた不気味な矢を玄関に突き立てる為に‥‥。
「嫌だよ! どうして姉さんがイケニエなんかに‥‥!」
「仕方がない‥‥お前も知っているだろう? あの黒い矢の意味を‥‥」
僕の抗議に、父さんは諦めたように言った。
そりゃ、僕だって知ってる。あの黒い矢が刺さった家からは必ず、裏の洞窟に住むバケモノにイケニエを出さなきゃいけない事くらい。もし拒んだりしたら、バケモノが怒って、その家だけじゃなく村全体を壊しに来るって事も‥‥。
「でも! なんで姉さんなんだよ!?」
僕は壁に掛けられた縫いかけの白いドレスを見た。豪華とは言えないけど、母さんがお嫁に行く姉さんの為に作ってる花嫁衣装だ。姉さんは来月、それを着てこの村を出て行く事になってたのに。
「幸せの絶頂にいる者を、どん底に突き落とす‥‥それが奴のやり方なんだよ」
父さんはもう、すっかり諦めてるみたいだ。だけど‥‥
「その怪物、本当にいるの?」
僕は前から疑問に思っていた事を口にしてみた。だって、あの洞窟には誰も近付いちゃいけないって言われてるし、入口も大きな岩で塞がれてて中を見る事も出来ない。年に一度、イケニエが捧げられる時だけ開くらしいけど、それを見た人は下僕達に殺される。だから怪物の姿を見た人は誰もいないんだ。時々、何かの唸り声みたいなのが聞こえるけど、それだって、ただの風の音かもしれない。
「もし、ほんとにいるなら、やっつけちゃえば良いじゃないか!」
何もいないなら、そんなインチキ‥‥絶対に許せない。
でも、父さんは首を振った。
「今までに何人も、そうして幸せを奪われてきた‥‥もし怪物を退治出来たとしても、その人達は帰って来ないんだよ? それにもし、お前の姉さんだけが不幸から逃れてみろ。今まで犠牲を払ってきた人達がどう思うか‥‥きっと一家全員、この村には住めなくなる。他に行く宛てもないのに、そんな事になったら‥‥」
「だから、姉さんをイケニエにしても良いって言うの!? あの真っ黒い下僕達が迎えに来るまで、黙って待ってろって言うの!? そんなの、絶対間違ってる! こんな村、住めなくなったっていい! 僕は絶対、姉さんを助けるんだ!!」
父さんが止めるのも聞かずに、僕は家を飛び出した。
キャメロットまで行けば、怪物を退治してくれる人達がいる。怪物さえやっつければ、もう誰もイケニエなんかにならずに済むんだ。今まで皆が黙って怪物の言う事を聞いてきたからって、これから先もずっと黙ってなきゃいけない、逆らっちゃいけない‥‥そんな事、絶対にない。
そして3日後、僕はやっとの思いで冒険者ギルドに辿り着いた。
「‥‥お願いします、怪物をやっつけて、姉さんを助けて下さい! ほっといたら、牛みたいな怪物の花嫁にされちゃうんだ!」
‥‥そこまで言ったのは覚えてる。
でも、温かい店の中に入ったら、急に眠くなってきて‥‥
「‥‥お、おい、坊や!? 大丈夫かい!?」
倒れ込んだ少年を、受付係が慌てて抱き起こす。その腕の中で、少年は安心したように寝息を立てていた。
よく見れば、手足も顔も泥だらけ、剥き出しになった細い足には何ヶ所も小さな擦り傷が出来ていた。
「よほど苦労して、ここまで辿り着いたようですね‥‥」
受付係は少年を奥の部屋に寝かせると、彼に代わって依頼書を書き始めた。
「どうやら急いでいる様ですし‥‥とりあえず人だけでも集めておいた方が良いでしょう。詳しい事は、この子が目を覚ましてから聞けば良い‥‥」
見たところ金も持っていないようだが‥‥まあ、その辺りは後でどうにでもなる。例え結果的に報酬がゼロであろうと、集まってくれる冒険者はいる筈だ。
「牛のような怪物‥‥ミノタウロス、かな‥‥」
かくして、冒険者ギルドにまた、新しい依頼書が張り出される事となった。
●リプレイ本文
「馬鹿な! 怪物に生贄を捧げての安寧などあるものか! 例え村を追放されても子供を護るのが親の‥‥!」
「しぃ‥‥っ」
事情を聞いて激昂するエスリン・マッカレル(ea9669)を、柊静夜(eb8942)がそっと窘めた。
「お気持ちはわかりますが‥‥」
そう言って店の奥を見た静夜の視線の先では、保護された少年が仲間達の治療を受けている所だった。
「ああ‥‥すまない。あの子の耳に入っては拙かろう。しかし‥‥どうも腑に落ちん」
誰も見た事がないのに、牛のような怪物と知られている事。そして 両親の簡単過ぎる諦観。何か裏があるのだろうか?
「恐らくミノタウロスでしょうが‥‥あれが手下を使うなど、おかしな話です」
「ああ、生贄として定期的に女性を要求するというのはともかく、その手段が回りくどすぎる」
声を潜めて言うロッド・エルメロイ(eb9943)の意見に、尾花満(ea5322)が頷く。
「何者かが怪物を騙っているか‥‥さもなくば、怪物を使役しているか」
「‥‥最悪、全てが絡んだ人身売買もあり得る、か」
「強盗団か、はたまた別の何かでしょうか‥‥」
「いずれにしろ、ただ生贄などという悪い風習が残っている、という訳ではないようですね」
その点で、四人の意見は一致していた。
「これでもう、どこも痛くない筈ですよ」
依頼人の少年にリカバーをかけたマロース・フィリオネル(ec3138)が微笑む。
少年は魔法など見るのは初めてなのだろう、たちまち傷が癒えていくその劇的な効果に目を見張りながら「ありがとう」と言った。
「偉かったな、坊主‥‥いや、漢に対してそれは失礼だな。名前は?」
そう尋ねた空木怜(ec1783)に、少年はマーカスと答えた。
「マーカス、俺はお前の行動が人として、漢として正しいって断言してやる。誰が何と言おうとだ」
怜は少年の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「この季節に3日も‥‥無茶しやがって。絶対、無駄にはしないからな」
その目を真っ直ぐに見つめ、少年は力強く頷く。
その力強い眼差しに、怜は同行する事に問題はないだろうと判断した。
「落ち着いた所で、ちょっと聞きたいんだがな」
来生十四郎(ea5386)が尋ねた。
「まずは、その生贄の儀式はいつなのか‥‥それに、そいつが始まったのは、いつだ? 覚えてるか?」
「ずっと、昔から‥‥僕が生まれる前から、みたい」
少年は今、10歳だと言う。
「10年以上も続いてるって訳か‥‥。それで、本当に怪物や悪魔の類が出た事はあるのか?」
「うん、ずっと前‥‥最初の時に、生贄を出さなかった家の人が皆殺しになったって聞いた。それ以来、みんな怖くて逆らえないんだ」
「ふむ‥‥しかし、いつも決まってこの時期なのかのう?」
顔を少年の方に向け、しかし視線はマロースの大胆な衣装に固定しつつ、カメノフ・セーニン(eb3349)が言った。
「それが判っておって、何故結婚式なんじゃろうかのう。相手さんの都合と言うても、こっちにも風習があるとごまかしが出来るんじゃろ?」
「‥‥知らない」
大人の事情は、子供にはわからないようだ。
怜は考えを巡らせる。
「何にしろ、ここには確実に悪意が込められてる。裏で糸を引いてると俺は見るね。最低のゲス野郎がさ」
「‥‥さて、どうしましょうか。もし家に帰るなら、ご家族には‥‥」
村外れ、目立たない場所で馬を下りたマロースが少年に言った。
「そうですね、道に迷って行商の人に送って貰った、とでも伝えて上手く誤魔化して頂けると有難いのですが」
「‥‥姉さんには? 助けに行くって、言って良い?」
「いや、気持ちはわかるが‥‥」
と、エスリン。
「それに、家族にも隠し通すのは難しかろうと思うのだが‥‥どうだろう、このまま私達と一緒にいては貰えないだろうか?」
村人の中に下僕がいた場合、万が一にも気付かれては拙い。場合によっては命の危険もあるだろう。
「救出時に姉御を安心させる為にも、私達と一緒にいて欲しい。安心なさい、姉御は必ず助けると誓おう」
少年は遠くに見える村‥‥いつもと変わらないその様子を暫く見つめてから頷いた。
「じゃあ、洞窟まで案内するよ。付いて来て」
洞窟の入口は、確かに大きな岩で塞がれていた。これを人の手で動かす事が出来るとは‥‥とても思えない。
「ミノタウロスでも無理じゃろうのう」
やはり魔法の力を使う事の出来る誰かだろうと、カメノフが言う。
出発前に占って貰った結果では、恐らく姉の名がリンダというありふれたものだった為に人物の特定が難しかったのだろう、その未来は殆ど何も見えなかった。ただ、試しに村の名と組み合わせたところ、見えたものがある。それは彼女を待つ運命が「怪物の花嫁」ではない事を示していた。
「やはり人身売買の線が濃いか‥‥」
エスリンが言うが、怪物や悪魔の存在が完全に否定された訳でもない。
「ただ、村の周囲を探ってみた所では、デビルの存在は感知出来ませんでした。今も‥‥」
洞窟周辺に反応はない、と、マロース。
カメノフがブレスセンサーで、怜がバイブレーションセンサーでそれぞれ洞窟の中を調べたが、探知出来る範囲には呼吸をするものも、動くものの存在もないようだ。しかし、だからといって何もいないとは限らない。
「直接、中を見られれば良かったのですが‥‥」
ロッドが透視を試みるが、洞窟の中は真っ暗で何も見えなかった。
洞窟の周囲にも、他に出入りが出来そうな場所や抜け道のような物は‥‥少なくともこの周辺には見当たらない。
「当日を待つしかなさそうですね」
静夜が溜息混じりに呟いた。
そして花嫁行列の当日‥‥どこから湧いたのか、洞窟の入口付近では黒ずくめの下僕達が数人、周囲を警戒するように目を光らせていた。
「まずは、これを片付けるか」
満はそんな下僕の一人に背後からそっと近付き‥‥
――ドスッ!
「う‥‥ぐ‥‥ッ!?」
スタンアタックが決まり、下僕はその場に沈み込んだ。
物音に気付いた他の下僕達も、十四郎と怜が黙らせる。離れた敵はロッドとマロースの魔法で動きを封じた上で気絶させた。
「見張りはこれで全部か?」
「そのようじゃのう」
満の問いに、カメノフがブレスセンサーの結果を伝える。
「‥‥見覚えは?」
気絶した下僕達の覆面を外し、問いかけたロッドに少年は首を振った。
「そうか‥‥さっさと尋問して正体を吐かせたい所だが、今騒がれても困るからな」
物陰に隠した下僕達が目を覚まさないうちにと、怜が猿轡をかませ、満がロープで縛り上げる。
やがて、洞窟の前に花嫁行列が到着した。
「‥‥あんなに哀しそうな花嫁は初めて見ました‥‥」
馬上で静夜が呟く。その背には、少年がしっかりとしがみついていた。
「隙を見て駆け込み、お姉さんを浚います。良いですね?」
「うん」
静夜はそのまま、花嫁と少年を村の外‥‥彼女が嫁入りするという相手の所まで送り届けるつもりだった。事件の全容が解明されるまで、村の者には花嫁は怪物の生贄になったと思わせておく方が安全だろう。
「‥‥見張りはどうした?」
様子がおかしい事に気付いた下僕の一人が周囲を見回したその時。
身を隠していた冒険者達が一斉に攻撃を仕掛けた。
列の中心で馬に乗せられた花嫁に当たらないように、前の半分をカメノフがグラビティーキャノンで吹っ飛ばし、後ろを怜がローリンググラビティで地面に叩き付ける。
体勢を崩した所に、ロッドのフレイムエリベイションを付与された満と十四郎が躍り込んだ。
そして、花嫁を乗せた馬の轡を取っていた下僕の足元に、エスリンが放った矢が突き刺さる。驚いた馬がいななき、竿立ちに‥‥
「姉さん!」
「リンダさん、こちらへ!」
振り落とされそうになった花嫁を軍馬で駆け抜けた静夜が抱き留め、そのまま走り去る。
「これで遠慮はいらねえな。存分にやらせて貰うぜ」
二人を安全な場所まで逃がした事を確認し、十四郎が言う。だが、殺しはしない。
「色々と、吐いて貰わにゃならんからな」
「‥‥知らん。俺達の仕事は、生贄をここに連れて来る事だけだ。そこから先の事は‥‥」
捕えられ、縛り上げられた下僕の一人が言った。
「あの大岩に穴が開いて、中から迎えが現れる。怪物? さあね」
本当にそれ以上の事を知らないのか、或いはシラを切っているのか‥‥
冒険者達は下僕達をその場に残し、洞窟内に突入した。
「分厚い岩じゃのう‥‥ウォールホール一回では抜けられんか」
だが‥‥中には誰もいない。何も。
「風が通っているようだな‥‥」
エスリンの掲げた松明の炎が揺れる。怪物の唸り声というのは、この風の音だろうか‥‥風向きや強さによっては大きく反響する事もあるかもしれない。
洞窟には複数の足跡が残っていた。新旧とり混ぜ、全て人間のものだ。
そして、出口。そこには今しがたまで馬が繋がれていた形跡が残っていた。
「勘付かれたか‥‥?」
しかし、今ここで深追いするのは得策ではないと判断した冒険者達は、洞窟の入口へ引き返した。
だが、そこで待っていたのは‥‥切られたロープと、一人の男。村長だった。
「何という事をしてくれた! ああ、確かに怪物などいない‥‥だが、奴等はそんなものよりも、もっと恐ろしいのだ!」
村長は言った。下僕達を逃がした事で、怒りを鎮めてくれれば良いのだが‥‥
「そいつは何なんだ? いや、何にしたって‥‥生贄を捧げる以外の選択肢が無かったなんて言わせない!」
「どんな事情であれ、それが神の御前で正しいと誓えるか?」
「村を守りたい気持ちは判るが、永遠に生贄を出せる筈はないだろう?」
「もし、何かを握られているのであれば‥‥」
怜が言った。そしてエスリン、十四郎、満。しかし。
「もういい、関わらんでくれ。そっとしておいてくれ!」
村長は誰の言葉にも耳を貸さず、逃げるようにしてその場を立ち去った。
そして、新たな事件がここから始まる‥‥。