【リトルバンパイア】思いの行方

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:4

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:12月01日〜12月06日

リプレイ公開日:2007年12月06日

●オープニング

「三ヶ月‥‥か」
 レンジャー見習いテリー・ブライトは、的に当たった矢を引き抜きながら呟いた。
 放たれた10本のうち、的の中心に当たったのは僅か一本。残りも辛うじて当たってはいるものの‥‥
「真ん中のコレも、きっとマグレだよな‥‥」
 動かない的に対してさえ、これなのだ。とても実戦で使えるレベルではない。かといって、代わりに剣はどうかと言えば‥‥こちらは更に使い物にならなかった。更にはスクロール魔法を使う為に精霊碑文学を習おうにも、母国語でさえ自分の名前や簡単な単語を読むのがやっとという有様。それでも一般の、田舎暮らしをしてきた者にしては上等な部類には入るのだが‥‥
「三ヶ月‥‥かぁ」
 テリーは再び呟く‥‥今度は溜息と共に。
「でも、何とかしてみせる。俺にだって、五人分の命の責任があるんだ‥‥!」
 テリーは再び的に向き直り、弓弦を引き絞った。

 リューや冒険者達と別れてから数日。テリーは宿を引き払い、近くの森で狩りをしながら自給自足の生活を続けていた。
 幸い、子供の頃から森に親しんできたお陰で、簡単な罠なら仕掛ける事も出来る。森の動物達が冬眠に入る前のこの時期、獲物には事欠かなかった。
 森で獲物を追いつつ土地勘に磨きを掛け、合間に弓の練習をする‥‥それだけでもかなりの鍛錬にはなった。と言うか、それ以外に鍛錬の方法がないと言うべきか。
 今の彼に、人を雇って教えを乞うような金はない。あったとしても、自分が吸血鬼に狙われているなら、誰かと一緒にいればその人をも巻き込む事になりかねない。
「‥‥リューの気持ちも、少しはわかる、かな‥‥」
 同じ理由で、町に住む事も出来ない。そして、冒険者としてギルドに登録し、仕事を請け負う事も出来なかった。人助けのつもりが、吸血鬼も一緒に連れて来ました、などという事になってはシャレにもならないだろう。
「しかし、静かだよな‥‥」
 もし襲われてとしても、そう簡単に血を吸われたりはしない。勿論、吸血以外の手段で襲って来る可能性もあるが‥‥リューや冒険者達から聞いたあの吸血鬼の性格上、それは考えにくい。
「俺を下僕化して、それをリューに始末させる‥‥それが一番ありそうだよな」
「‥‥あら、あんた自分がそんなに重要人物だと思ってるワケ?」
 木の上から、声がした。
「‥‥やっぱり、いやがったか‥‥バンパイア」
 テリーは声の方向を見もせずに、そう言った。
「ふうん、気付いてたの。案外やるじゃない?」
 それは身軽に枝から飛び降りると、テリーの目の前に立った。警戒している様子は全くない。
「バンパイアだなんて、無粋な呼び方しないでくれる? あたしにだって、ちゃんと名前があるんだから」
「バケモノの名前など、知った事か!」
 テリーは一本だけ用意してあった銀の矢をつがえ、弓を構えた。相手との距離は僅か2〜3メートル‥‥この距離なら外す事はないだろう。しかし‥‥
「無駄だと思うわ。あのオバサンでさえ、10年以上も追っかけてて、未だにあたしを殺せないのよ? それにあの、冒険者っていうの? あれも、寄ってたかって結局何の役にも立ってないわよね。で、ド素人のあんたが、あたしに何をしようって言うの?」
「黙れ!」
 テリーは問答無用で矢を放った。それは、相手の小さな体の中心に吸い込まれ‥‥た、かに見えたその瞬間。
 ――ぐにゃり。
 その体が粘土細工のように変形し‥‥矢は、背後の木に突き刺さった。
「ふふ、怖い怖い〜♪」
 体を元に戻したそれは、楽しそうにクスクスと笑った。
「でもあたし、あんたみたいな真面目な努力家って、わりと好きなのよね。だから、協力してあげるわ」
「何‥‥?」
「あんた、あの五人を救えなかった事を後悔して、それで仇を討ちたいと思って頑張ってるわけでしょ? だったら、その動機ってヤツがもっと強くなれば、もっと頑張れるってワケよね?」
「何を‥‥」
 だが相手はそれには答えず、再び梢に飛び乗ると、枝を伝って身軽に森の奥へと姿を消した。
「安心しなさい、あんたを襲ったりはしないから」
 と、そんな言葉を残して‥‥。


「とにかく、あれが何かを企んでる事は間違いないんだ!」
 数日後、テリーの姿はキャメロットの冒険者ギルドにあった。
 人の多い町に出る事に躊躇いはあったが、背に腹は代えられない。自分ひとりで手に負えない事なら、誰かに協力を頼むしかないのだ‥‥それに、リューにも知らせた方が良いとは思うものの、他に連絡手段はない。
「奴の口ぶりからすると、俺に関係ある事で何かしようとしてるんだろう。でも、何を考えているのか、何をどうするつもりなのか、さっぱりわからないんだ」
 だが、どうにかして止めないと‥‥きっと、今まで以上に酷い事になる。そんな予感がした。
「どこかで何か、動き始めてる事は間違いない。とにかく怪しい所を全部調べて、見慣れない少女の噂や、熱を出してる人がいないか、それから‥‥!」
 その他何でも、思いつく限りの事を。
 ただし、今のテリーに報酬を払えるだけの金はない。
「いつか、出世払いで必ず返すから、頼む‥‥!!」

●今回の参加者

 ea0021 マナウス・ドラッケン(25歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea3041 ベアトリス・マッドロック(57歳・♀・クレリック・ジャイアント・イギリス王国)
 ea4137 アクテ・シュラウヴェル(26歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea5840 本多 桂(32歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb3412 ディアナ・シャンティーネ(29歳・♀・神聖騎士・人間・フランク王国)
 eb3630 メアリー・ペドリング(23歳・♀・ウィザード・シフール・イギリス王国)
 eb3776 クロック・ランベリー(42歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb3862 クリステル・シャルダン(21歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

ネフティス・ネト・アメン(ea2834)/ レゥフォーシア・ロシュヴァイセ(ea6879)/ ベルティアナ・シェフィールド(eb1878

●リプレイ本文

「何人雇える?」
 カウンターの上に重そうな金袋が置かれた。
 ここは所謂「裏」の仕事を請け負う店。金さえ払えば誰のどんな仕事でも受ける。例え相手が吸血鬼でも。
 応対に出た男は袋の中を確認し、黙って指を三本出した。
「‥‥じゃあ、全部魔法使いで。達人級で、火の使い手が一人は欲しいわ」
 再び指が三本。
「三日待てって事ね。いいわ、また来る」
 パワー型ならゴロツキでも狙えば良い。実際、先程の金も餌食にした盗賊が持っていた物だ。
「でも魔法使いって少ないし、なかなか良いのに当たんないのよね‥‥」
 少女は外へ出ると、満天の星空を見上げて微笑んだ。
「さて、あの坊や達は楽しませてくれるかしら?」

「相変わらず小セコイ手を使っているようね。弱いテリーだけの時を狙って姿を現すとはね‥‥見た目は子供だけど中身は小ずるいオバサンといったところかしらね」
 本多桂(ea5840)の言葉に、テリーはずっしりと沈み込む。どうやら「弱い」という単語が心に突き刺さったようだ‥‥が、桂は気付かない振りをして言葉を継いだ。
「この前、あんたにレンジャーの道を示したのはあたしだからね。最後まで面倒見るわよ。大丈夫、あんたが背負えない分はあたしらが背負ってやるから、あんたはあんたの一番大切な物を守るのよ」
 一番大切な物。余り考えた事はなかったが‥‥強いて言えば、生まれ故郷の村と、そこに住む人達か。
 それが今、自分のせいで危険に晒されようとしている。
 ベアトリス・マッドロック(ea3041)が友人のネフティスに頼んだ未来見の結果、見えたものは‥‥燃えさかる彼の村と、そこに跪くテリーの姿だった。
「ったく、よくよく人を弄んでくれるねぇ‥‥。だけど、そうそう思い通りにゃさせないよ!」
 ベアトリスはテリーの背を景気良く叩く。
「こりゃ坊主だけの問題じゃないさね。力が足りなきゃ頼れって言ったなァあたし等だ、金の事ァ気にしなさんな」
「‥‥いいえ、報酬は後でちゃんと払って貰います」
 ディアナ・シャンティーネ(eb3412)がきっぱりと言い放った。
「ですから、それまでは決して死んでは為りません。いいですね‥‥?」
 報酬が欲しい訳ではない。動機付けという所か。
「とにかく、まずは情報集めだな‥‥村と宿以外に、最近面識のある人はいないか?」
「そうですね、後は今までに関係した場所も」
 マナウス・ドラッケン(ea0021)とアクテ・シュラウヴェル(ea4137)の問いに、テリーは暫く考えて答えた。
「いや‥‥後はこのギルドと近くの宿屋だけだ。リューも、なるべく誰にも関わらないようにしてたから」
「わかりました。では、そこにも注意を促しておきましょう。後は近隣の村々の村長に、吸血鬼に備えるようシフール便を出しておきますね」
 アクテが言う。以前の事件でも注意は喚起してあるが、念には念を。
「では、私達は先に村へ向かおう。その未来がいつのものかわからない以上、急ぐに越した事はない故な」
 メアリー・ペドリング(eb3630)が出発を促す。
「では、私達はリューさんを探してから村に向かいますわ。上手く見付かると良いのですが‥‥」
 クリステル・シャルダン(eb3862)が言い、ディアナがギルドの係に連絡先‥‥宿の住所を伝え、もしもリューが現れたら連絡して欲しいと言伝を頼んだ。
「俺は手の少ない方に回ろう」
 ‥‥捜索の方だな、と、クロック・ランベリー(eb3776)が言う。
「あ、俺も捜索の方に‥‥いや、リューじゃない。吸血鬼を、さ」
 テリーの言葉に桂が疑問を投げる。
「どうして? あの中身オバサンはあんたの村を‥‥」
「ああ、でもあいつ一人で出来るかなって‥‥この前も、下僕が五人もいたのに撃退されたし」
「あたしも、どこかで下僕を作って寄越す事も考えちゃァいるが‥‥あんたもそう思うかい?」
 ベアトリスの言葉にテリーは黙って頷く。
「だから俺は、そっちに行く。どうせ村に行っても役に立たないし‥‥だから、任せた」
「わかりました。私も時折ダウジングペンデュラムで占ってみるつもりですので‥‥」
 占いの技術を持たないので過信は禁物だが、とアクテ。
 そして冒険者達は二手に分かれた。

「あのバンパイアが‥‥しかし何故? 事件は解決した筈だが」
 村長の問いに、ベアトリスとアクテは顔を見合わせる。正直に話せば、テリーに対して今後余計な反発を招きかねない。無事に村を守っても、彼が村人から恨まれてしまっては元も子もないのだが‥‥
「少なくとも村長殿には正直に伝えた方が良いのではないだろうか」
 そんな二人の耳元でメアリーが囁いた。
「何の事情もわからずに警戒して頂きたいと頼んでも、現状では実感もないであろうと思うのだが。テリー殿も覚悟は出来ているであろうし‥‥」
「‥‥そうさね、正直に言っちまった方が良いか」
 事情を聞いた村長は、村人にはテリーの事は伏せ、上手く説明すると約束してくれた。
「前に話した対策は皆に広まってるかい? それに、いざって時に村人皆が集まって篭もれる準備も頼みたいね」
「行動を皆で把握し合い、村の方々は当面出歩きを控えて欲しいかと。外に出る場合は護衛しますのでご相談下さい」
「夜はあたしらが見回るから、安心して良いわ」
 ‥‥だが、吸血鬼は現れなかった。

 一方、街道や宿、それに町の周辺での初日の聞き込みも、空振りに終わっていた。
 この季節、陽が沈むのは早い。初日だけで調査と村への移動の両方をこなすのは難しかった‥‥相手は吸血鬼、陽が沈んでからの移動は危険すぎる。
 その夜の宿。最初の見張りに立ったディアナとクリステルの前に、ふらりとテリーが現れた。
「眠れないのですか?」
 ディアナの問いに頷くテリーを見て、クリステルは暫し席を外し‥‥戻って来た時には温かい飲み物を三人分、トレイに乗せていた。
「‥‥リューさんの気持ちを理解できた今でも決意は変わりませんか?」
 それを差し出しながら問いかける彼女にテリーは力強く頷いた。
「では、その為にも今はゆっくり休んで下さい」
 頷き返しながら、クリステルが優しく微笑んだその頃‥‥
 町外れの街道では、旅路を急ぐ商人が二人の賊に襲われていた。賊はかなりの手練で、商人が雇っていた三人の護衛もあっという間に倒される。
 その時、物陰で様子を見ていた小さな影が動き‥‥
「あんた達、強そうね」
 賊の前に、ふわりと降り立つ。
 そして‥‥

「だって女の子だぜ? こんな小さな!」
 翌朝、とある酒場。行商人の男が誰彼となく捕まえては、昨夜起こった「信じ難い出来事」を語っていた。
「‥‥その話、詳しく聞かせて貰えないか?」
 男の両側から、同時に声がした。声の主達は互いに顔を上げ‥‥
「‥‥リュー?」
 マナウスが言った。
「冒険者‥‥か」
 彼女は独自に吸血鬼の行方を追っていたらしい。
 二人は商人から詳しい話を聞き、仲間達を呼ぶと、倒れた二人の賊を運び込んだという町外れの廃屋へと向かった。
「しかし、何だって奴は手掛かりを残すような真似を?」
 商人を生かして帰した事に疑問を持つマナウスに、リューが答えた。
「楽しむ為、だな。自分がした事を、誰も気付かないのでは面白くないと」
「‥‥今までも、ですか?」
 ディアナが吸血鬼の行動予測の参考にと、さりげなく過去の事を尋ねる。
「何かをやる時、奴は必ず足跡を残す。そして、気付いても何も出来ない人間達を見て悦に入るのだ‥‥そうだろう?」
 最後の一言は、屋敷の暗がりに潜んでいるであろう吸血鬼に向けたものだ。
「弱い人にはハンディを付けなきゃ。ゲームって、どっちが勝つかわからないから面白いのよ?」
 漸く薄暗い室内に慣れた冒険者達の目に映ったものは、高熱に苦しむ二人の男と、傍らに立つ少女。
「‥‥まず、名前を聞いておこうか?」
「お名前を聞かせて下さい。本当の名前を」
 マナウスとディアナの言葉を聞いて、少女は嬉しそうに微笑む。
「ありがとう。でも、好きに呼んで良いわよ。アンジェは嫌だけど‥‥あの子の事、思い出すから」
「下手な芝居はやめろ」
 悲しげに目を伏せた少女にリューが言った。
「何を企んでいる、吸血鬼?」
「まだヒントが欲しいの、おばかさん? ‥‥そうね、あたしに勝ったら教えてあげる」
「わかりました、貴方に対して敵意はありませんが‥‥これ以上罪を重ねさせない為に」
 ディアナがレイピアを抜く。
 マナウスとクロックがそれに続いた。だが単独の攻撃では張られた結界を破る威力はない。連携を取ろうにも部屋は狭く、そしてリューはまだしも、テリーの矢は‥‥クリステルがこっそりグットラックをかけてさえ、味方に当たる危険の方が高かった。
「まだまだ、遊び相手には物足りないわね‥‥また遊びましょ。今度はお友達を紹介するわ。まだ足りないし、この子達の代わりも探さなきゃいけないから、暫く待たせるかもしれないけど」
 そう言うと、少女は奥の暗がりに消えた。笑い声と下僕になりかけた二人、それに三体のアンデッドを残して。
「もし全部探し出せたら、手を引いてあげるわ。‥‥でも無理ね、きっと」

 置き土産を倒し、二人を教会へ運び込んだ冒険者達は、これからどうする、と顔を見合わせた。
「友達というのは下僕の事でしょうね」
 ならば、犠牲者を探すのが先か。
「ええ、全部探し出せたら手を引くと言っていましたし‥‥」
 それが無理でも、下僕になる者を減らせば襲撃の規模は小さくなる筈だ。
「周囲の村へは注意を促してある。後は‥‥町か」
「人手が要るな」
「村へ向かった方達を呼びに行きましょうか?」
 準備が済むまで、村は恐らく安全だ。
「人を雇って情報を広めて貰ってはどうでしょう?」
 以前、吸血鬼は下僕が弱い事に不満を持っていた。標的は恐らく、腕の立つ者。一般人ではなかろう。それだけでもかなり捜索の範囲は狭まるが‥‥
 残りの数日で果たして何人助けられるのか、それは時間との勝負だった。