冬が来る前に
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■ショートシナリオ
担当:STANZA
対応レベル:フリーlv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月02日〜12月07日
リプレイ公開日:2007年12月10日
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●オープニング
めぇ〜、めぇえ〜〜〜。
「‥‥もう! そっちじゃないってば! 家に帰るんだよ! ‥‥この‥‥バカ羊!」
ちっとも言う事を聞かない羊達に業を煮やし、羊飼いの少年は持っていた木の杖で地面を思い切り叩いた。
そこには、羊達の餌になるような草はもう殆ど生えていない。これから春までの間、羊達はこの山の牧草地を離れ、麓の小屋で過ごす事になっていたのだが‥‥
「いいよ、もう。言うこと聞かないなら、ずっとそこにいれば良いんだ。オオカミにでも何でも、食べられちゃえば良いんだ!」
少年は片足を引きずりながら、羊達を残してさっさと山を下りてしまった。
「お前は‥‥羊飼いの仕事さえ満足に出来ないのか!?」
案の定、帰宅した少年に父親の怒号が飛んだ。
だが、少年は横を向いたまま、父親の方を見ようともしない。
「いいか、パル。お前のその足じゃ、父さん達の畑仕事は手伝えない。他の仕事だって、満足に出来やしないだろう。せいぜい、羊の世話くらいしか‥‥」
「どうせ僕は役立たずだよ! 羊なんか、みんな死んじゃえば良いんだ! 父さんも、母さんも、みんな大っ嫌いだ!」
少年はそう叫ぶと、自分の部屋に閉じ籠もってしまった。
その翌日、父親は冒険者ギルドを訪ね、こう言った。
「‥‥俺が、代わりにやっても良いんです。いや、その方がずっと手早く、簡単に終わる。でも‥‥」
父親は息子にその仕事を継がせたいと考えていた。と言うよりも、それ以外に彼に出来る事はないと。
「今年の春、あの子は子羊を連れ出して山に逃げた事がありまして‥‥いや、覚えてはいないでしょうが、その時もギルドにお願いしたんですよ。その子羊を探して欲しいと」
だが、その仕事は引き受け手が上手く集まらず‥‥
「息子は山でゴブリンに襲われましてね‥‥」
人が集まらなかった事に対して文句を言ったり、ギルドのせいだなどと言うつもりは毛頭ないと前置きをしてから、父親は言った。
「子羊と、息子達を探しに行った犬は奴等に殺されました。息子も足に怪我をして‥‥以来、膝を曲げる事が出来なくなってしまったのです」
息子のパルは一般庶民の例に漏れず、読み書きなど出来ない。体を動かさずに済む仕事に就ける望みは薄いが、その代わり、幼い頃から任せていた羊の世話は得意だった。
「それなら、足にもそれほど負担はかからないし、何よりあの子は動物が好きで‥‥いや、昔は、好きだったのですが」
子羊が売られて行くのが可哀想だと、それを山に隠そうとした行為が仇となって、羊ばかりか仲良しだった牧羊犬まで失う事になってしまった。そして、自分は癒える事のない傷を負った‥‥体にも、心にも。
「それ以来、大の動物嫌いになってしまいまして‥‥彼等にもそれがわかるのか、近頃は羊達も息子の言う事を聞かないそうなんです。でも‥‥」
何とかして、元通りとは行かないまでも、多少は‥‥せめて心だけでも癒してやりたい。
だが、お互いに不器用なせいか、そんな父親の思いは息子には届かなかった。
だから、自分の代わりに‥‥羊を山から連れ帰る仕事を手伝うという名目で、部屋に閉じ籠もってしまった息子を外に連れ出し‥‥何とか出来るものなら何とかしてやって欲しい。
それが父親の願いだった。
●リプレイ本文
「‥‥パル君?」
グラン・ルフェ(eb6596)は閉ざされたドア越しに、中にいる筈の少年に語りかけた。
「ねえ、君も一緒に来てくれないかな?」
依頼内容には含まれていないが、彼と行動を共にして少しでもその心を解し、傷跡を癒してやりたい‥‥それが冒険者全員の総意だった。
勿論、快諾するとは思っていない。どう説得するか‥‥と、アザート・イヲ・マズナ(eb2628)も考えを巡らせるが、それは彼の得意分野ではなかった。
そんな時は、得意な仲間に任せるに限る。
という事で、ここはグランの独壇場だった。
「羊達も知らない人間に大人しく付いて来るかどうかわからないし‥‥」
それは本当。
「俺達の誰も、羊の扱いなんか知らないんだ。無理に運ぼうとして怪我をさせるかもしれないよ?」
それは、真っ赤な嘘。彼自身ある程度の動物知識はあるし、牧羊犬も連れている。仲間のエスナ・ウォルター(eb0752)も牧畜の技能を持っていた。
だが、嘘も方便。こんな連中に大事な羊を任せては大変と、責任感に目覚め、動物を愛する心を思い出してくれれば‥‥
しかし、ドアの向こうからは何の反応もない。
「‥‥じゃあ、先に行ってるからね。向こうで待ってるから」
仕方なくそう言い残し、冒険者達は山の牧草地に向けて出発した。
多分パルは、こちらに姿を見られないように後を付けてきているのだろう‥‥そう期待して、一行はゆっくりと山道を登って行った。
やがて山頂に着いた時には、冬の陽は既に西に傾き始めていた。
「ここ‥‥だよね。でも、ひつじさん、いないよ?」
ベルナベウ・ベルメール(eb2933)が周囲を見渡して言う。だが、地面には荒らされたような跡も‥‥血の跡もない。夜のうちに何かに襲われたという事はなさそうだった。
「えと‥‥サンワードの巻物で、調べてみますね‥‥」
エスナが巻物を広げ、「白い動物の群れ」や「9頭の羊」の行方を太陽に尋ねる。返って来た答えは‥‥
「‥‥近い、としか‥‥」
しかし、近くならブレスセンサーでの探知も出来そうだ。
「‥‥向こう、です。でも‥‥」
エスナが指差したその方向には、切り立った崖がある。恐る恐る下を覗いてみると、そこに白い塊が見えた。
「羊達が下りられたって事は、どこかに道がある筈ですよね」
グランはボーダーコリーのペロくんに道を探すように命じた。
エスナも自分の犬、カカオに同じ事を命じるが‥‥
「あ、カカオ? どこ行くの?」
無邪気な愛犬は飼い主が指差したのとは反対の方角に嬉々として走り去り‥‥
「わんっ!」
「うわあっ!?」
パルを見付けた。
「べつに、心配なんかしてない!」
隠れていた所をカカオに見付けられ、顔中を舐め回されながらパルは言った。
「ただ‥‥」
言い訳を探して、その視線があちこちに彷徨う。
「そ、そうだ。お前達が報酬を持ち逃げしたり‥‥羊を盗んだりしないか、見張ってただけだ!」
だがそんな事を言われても、誰も怒りはしない。
「じゃあ、そこで堂々と見張っていて下さいね。ついでに、下に下りる道を教えて貰えると助かるんだけどな」
グランが人の好さそうな笑顔で尋ねる。
その笑顔に顔を背けると、パルは足を引きずりながら黙って歩き出した。
「そっちだね? ああ、教えて貰えれば俺達が‥‥」
足に負担だろうと呼び止めたグランに、パルは無言で振り返り、睨み付ける。同情や憐れみは御免だ、と言いたいのだろう。
一行は黙ってその後に従い、9頭の羊達は無事に保護された。
「羊は知っている‥‥が、間近で見るのは初めてだ‥‥しかし‥‥もう陽が暮れるな‥‥」
アザートは日の入りに先んじて火を起こし、野営の準備を始めた。
「羊さん達、一ヶ所に集めないと‥‥」
先程まで固まっていた羊達は主人の姿を見て安心したのか、今では好き勝手な方向に散らばっていた。エスナが魔法少女の枝を指示棒代わりにしてカカオに指示を出し、羊達を追わせてみようと試みる。
「パル君の為にがんばってね、カカオ」
「わふ?」
頭を撫でた飼い主に、カカオは無邪気に尻尾を振った。『お仕事したら、パル君と遊んでいい? なら、がんばるー』と言っているようだ。しかし実際は‥‥羊と遊んでいるようにしか見えないのはご愛敬。
暫く後、羊達は漸く指定された場所に集まって来た。崖を背にした場所にグランが簡単な柵を作り、その周囲をアザートが獣除けの焚き火で囲む。
「ほら、さっさと入れよ」
相変わらず言う事をきかない一頭の尻を、パルが持っていた杖で軽く叩いた。痛くはない筈だが‥‥
「べうは、ひつじさんだーいすきなの。だから、ひつじさんを叩いた子はあぷっ! なの!」
ベルナベウ‥‥べうが、両手を腰に当ててパルの前に立ちはだかり、怖い顔‥‥とは言っても全く怖くはないが‥‥を、して見せた。
「あ‥‥あぷ?」
どうやら「めっ!」と同意語らしい。
「あと、お父さんやお母さんを悪く言う子もあぷっ! なの!」
「な‥‥何でそこに親の事が出て来るんだよ!?」
「だって‥‥お父さんやお母さんがいるだけで、とってもしあわせなはずなんだもん」
「僕のどこが幸せに見えるんだよ!?」
パルは怒鳴った。
「僕にだって‥‥なりたいものがあったんだぞ! なのに、こんな怪我して‥‥羊飼いしか出来ないなんて言われて‥‥っ! お前に何がわかるんだよ!?」
だが、べうは動じない。パルの目を真っ直ぐに見返して言った。
「ホントは、ひつじさんも、お父さんも、お母さんも、みんな、大好きなんだよね? べうにはわかるんだよ。おめめをみれば、わかるの」
「な‥‥っ!」
「‥‥いっぱい傷ついちゃったんだね。深い傷になっちゃったんだね。でもその傷は、治ってきてるよ?」
「治ってなんかいない!」
「それは、きみが、かさぶたをはがしちゃうから。いこじになって、そこから先に進もうとしないから」
「どこに進むんだよ!? 僕は一生、つまんないバカ羊達の番をして暮らさなきゃなんないんだぞ! 皆から同情されて、憐れっぽい目で見られて! そんな未来に、僕は進みたくない!」
「‥‥それに関しては‥‥本当に、申し訳なかったと思うよ」
二人の会話を聞いていたグランが遠慮がちに口を挟んだ。
「俺達がちゃんと依頼を受けていれば、君が怪我をする事もなかったんだから」
「‥‥そうだな‥‥依頼されるという事‥‥必要だから、依頼が出される。‥‥必要ない依頼など、ない」
アザートも言葉は少なく拙いながら、その思いを伝えようとする。
「だから‥‥償いは出来ないけど、もし君が何か他の道に進みたいなら、手伝いくらいは出来ると思うよ。冒険者には色々な人がいる。ハンディを抱えて頑張ってる人だって‥‥」
「うるさいっ! 余計なお世話だ!」
グランの申し出を突っぱね、パルは用意してあったテントのひとつに潜り込んでしまった。
閉ざされたテントの入口に向かって、べうが声をかける。
「ほんのちょっとでいいの。勇気を出して、こころをひらいて、ありのままの自分に戻ろうよ。ひつじさんも、お父さんも、お母さんも、みんなが大好きな自分に戻ろうよ。あとになってみんなにごめんなさいって言いたくなっても、言えなくなっちゃうこともあるんだよ?」
反応はない。だが、べうは構わず続けた。
「だから今、このしゅんかんを、だいじにしよう? ね、おねがいだから‥‥」
その背に、アザートがそっと毛布をかける。
「‥‥もう、休め。思いは‥‥きっと伝わっている‥‥」
今は無理でも、いつか。
アザートはもう一つのテントにべうを落ち着かせ、ペットの世話を頼むと、自分は外で見張りに立った。
そんな様子を黙って見守っていたエスナは、足元のカカオに話しかけた。
「‥‥カカオ、パル君の傍に居る‥‥?」
「わん♪」
カカオは思い切り尻尾を振り、パルが引き籠もったテントに頭から突っ込んで行った。
‥‥暫く経っても出てこない。という事は‥‥パルも無邪気なカカオに気圧されて追い出すのを諦めたか、それとも気に入られたのか‥‥
エスナは少し寂しそうに微笑むと、自分のテントの中に入って行った。
翌日、一行は羊達と共に無事に下山し、パルの家へと帰り着いた。
だが、道中‥‥パルは一言も口をきかず、そんな彼の足元には、カカオがまとわりついていた。
「‥‥パル君、その子‥‥気に入った?」
羊を小屋に入れ終わった後、エスナが言った。
「もし、良ければ‥‥その子、パル君の新しいパートナーに‥‥どう、かな」
その言葉に、パルは今日初めて口を開いた。
「だって、こいつ‥‥お前のだろ?」
「うん、だけど‥‥カカオもパル君が気に入ってるみたいだし‥‥ね?」
しかし、パルは首を横に振った。
「大事な友達なんだろ? だったら、そんな簡単に手放すなんて言うなよ!」
「簡単に‥‥なんかじゃ、ない。でも‥‥私はパル君に何もしてあげられないから‥‥」
「余計なお世話だ。‥‥ほらバカ犬、お前の飼い主はそっちだろ!?」
パルはカカオの尻を手で押しやると、再び自分の部屋に籠もってしまった‥‥最初と同じように。
だが、全く同じではない筈だ。
「試す必要も‥‥ない、か」
アザートはバックパックに入れた兎、バゥの頭を撫でた。パルの態度が変わらないようなら、その子が行方不明になった事にして反応を見ようと思っていたのだが。
ふらりと立ち寄った小屋では、羊達が丸裸にされている最中だった。
「‥‥羊は‥‥あれほど体毛を短く切られるのか‥‥」
とても寒そうだ。
「あれを貰ったら、ぬいぐるみにしてあげようかな」
パルと妹に‥‥と、同じくその光景を眺めていたグランが言った。
そして最終日。
彼等の荷物には毛糸の手袋と靴下、それに帽子と‥‥ふわふわの羊毛が入っていた。
だが、彼等にとって何よりも嬉しかったのは‥‥
「あの子、子犬が欲しいんですって」
帰り際に何気なくそう告げた、母親の言葉だったかもしれない。