奇跡のカケラ

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 71 C

参加人数:5人

サポート参加人数:2人

冒険期間:12月05日〜12月10日

リプレイ公開日:2007年12月13日

●オープニング

「まっててね。きっといきかえらせてあげるから、ぜったい、まっててね!」
 少女はそう言って、動かなくなったネコの体を自分のベッドに横たえると、そっと毛布をかけた。
 そして、誰にも見付からないようにこっそりと、家の裏手に広がる森へ入って行く。
 その奥には「奇跡のカケラ」がある筈だった。
「あたしより、おにいちゃんのほうがずっとかなしいにきまってる。おにいちゃんのほうが、なかよしだったもん」
 でも、兄は泣かない。男の子だから。
 生き返らせてほしいなどと、無理な事も言わない。大人だから。
「でも、あたしはこどもだもん」
 子供なら、奇跡のカケラを見付ける事が出来る‥‥兄はそう言った。
 それを見付けて聖夜祭のツリーのてっぺんに飾れば、サンタさんが見付けてくれて、特別なプレゼントをくれるのだ。なくなってしまったネコの命も、サンタさんがくれるだろう。
「キラキラの、きれいないし‥‥どこにあるんだろ?」
 少女は足元に散らばる石ころを注意深く見ながら、どんどん森の奥へと入って行った‥‥。

「‥‥お前は‥‥何だってそんな嘘を教えたんだ!?」
 娘の姿が見えない事に気が付いた父親が、兄を問い詰めた。
「だって‥‥そう言えば諦めると思ったんだ!」
 もうすぐ聖夜祭‥‥サンタさんに頼めば何でも好きなものが貰えると、妹は信じていた。死んだネコの命でさえも。
「あいつ、サンタさんにお願いして、ニャーの命を貰うって‥‥それをニャーにあげれば生き返るから、それまで埋めないでくれって‥‥」
 だが、いくら寒い時期とは言え、埋めずにおくには限度がある。それに、サンタさんは命のプレゼントなど、くれはしない。
「だから‥‥そんな特別なプレゼントを貰うには、奇跡のカケラが必要だって、そう言ったんだ。森のずっと奥にあって、お前くらいの小さな子供にしか見付けられない、特別な物だって‥‥そう言えば、諦めるだろうと思ったのに‥‥」
 森は、日頃から危険な場所だと言われ、奥へ入ってはいけないと言われている。
 まさか、そんな所に一人で行こうとするなんて‥‥
「あの森には、熊や狼‥‥それに、モンスターも出るんだぞ。たかがネコ一匹‥‥しかも、死んだネコの為に、何という馬鹿な事を!」
 たかがネコ。そんな父親の言葉に猛然と抗議したい気持ちを抑えながら、少年は言った。
「僕が探しに行く。少しは武器も使えるし‥‥それに、僕のせいだから」
「いかん。お前はここにいろ。お前まで失う事になったら‥‥!」
 父親はギルドに頼んで来ると言って、家を出て行った。
 後に残されたのは、少年と、両手を合わせて必死に娘の無事を祈る母親。そして、妹のベッドに寝かされた、動かないネコ。
 そのネコ、ニャーは少年がまだ幼い頃に拾った、大事な友達だった。ガリガリに痩せて、今にも死にそうな子猫だったニャーは、元気になるとまるで犬のように少年の後をついて歩き、昼も夜も、いつでも一緒。妹がヤキモチを焼く位に仲が良かった。
 だからこそ、妹はきっと‥‥自分の為にニャーを生き返らせようと、そう思ってくれたのだろう。
「だったら‥‥僕が行かなきゃ」
 妹を助けて、嘘をついた事を謝って、それから‥‥ありがとうって。
 少年は動かないネコの頭をそっと撫でると、剣を手に家を出た。
 妹を追って、森の奥へ‥‥。

●今回の参加者

 ea8311 水琴亭 花音(29歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb2237 リチャード・ジョナサン(39歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb5286 ケリー・レッドフォレスト(32歳・♂・ウィザード・シフール・イギリス王国)
 eb5522 フィオナ・ファルケナーゲ(32歳・♀・バード・シフール・フランク王国)
 ec1110 マリエッタ・ミモザ(33歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

里市 静(eb2153)/ レン・コンスタンツェ(eb2928

●リプレイ本文

「これは‥‥血の匂い、か」
 木々の向こうから漂って来るその臭気に、一行は足を早めた。
「まさか、子供達のどちらかが‥‥!?」
 だが、その臭気の出所は‥‥人間ではなく、一匹のゴブリンだった。
 その光景に、冒険者達はひとまず胸をなで下ろす。だが、安心するのは早い。血の跡がひとつ、点々と森の奥へと続いていた。
「兄の方は多少剣が使えると言っておったが‥‥ゴブリンがたった一匹で人を襲う筈がない。奴等は集団で無防備な者を攻撃するのが常じゃからのう」
 水琴亭花音(ea8311)が言った。他は恐れをなして逃げたか、或いは逃げたのは兄の方か。
「どこかに淀んだ空気があれば、ステインエアーワードで何かしらわかるのですが‥‥」
 マリエッタ・ミモザ(ec1110)が周囲を見渡すが、風通しの良い冬枯れの森の中でそれを探すのは難しい。
「確かに多少は戦えるようだが、焦りは実力を阻害する。まして自分が理由で妹が危険に晒されているとなれば、余計に危うかろう。急がないとな」
 リチャード・ジョナサン(eb2237)は仲間達に纏まって行動するように指示を出す。出来れば手分けをして探したい所だが、それには人数が少なすぎた。
「二重遭難の恐れがあるからな‥‥」
 しかし幸いな事に、森の中は見通しもさほど悪くはない。声を上げ、視覚を補い合えば何とかなるだろう 。
「これだけ派手に跡を残しておれば、追跡は容易いじゃろう。ダイもおるしのう」
 花音は忍犬の頭を撫でると「行け」と命じた。まずは片方だけでも、出来るだけ早く保護しなくては。
「じゃあ、あたしは空から探してみるわね」
 視力が自慢の、鷹目のフィオナ・ファルケナーゲ(eb5522)が上空へ舞い上がる。
「僕は後ろを見張るね」
 ケリー・レッドフォレスト(eb5286)は愛馬の背に後ろ向きに腰掛けた。
 冬の陽は既に西に傾き始めている。
「急ごう」
 一行は更に足を早め、森の奥へと進んだ。

 その数刻前。
 一人で森に入った少女を連れ戻して欲しいという依頼を受けた冒険者達は、依頼人の家を訪ねていた。
「一刻を争うけど、情報が少なすぎますものね。まずはお家の方にお話を聞いてからでないと」
 と、マリエッタ。
「そうね、妹さんの背格好や容貌、服装‥‥」
 それに、兄に会ったら「必ず連れて帰ってくるからね」と、約束を。
「僕もどういう話をしたのか、お兄さんに直接聞きたいね」
 だが、フィオナとケリーの望みは叶わなかった。
「‥‥追いかけて行った?」
 リチャードの問いに、父親は黙って頷いた。
「それは、いつ頃の事じゃ? それに、娘が出て行ったのは?」
「‥‥娘がいない事に気付いたのは、朝方だ。息子もその時に‥‥」
 今はもう昼も近い。
「急がねば陽が暮れてしまうのう」
 花音は愛犬に匂いを辿らせる為に兄妹の所持品を借り受けると、そのまま出て行こうとした‥‥が、両親の不安げな表情に気付いて立ち止まる。
「安心せい、二人とも必ず無事に連れ帰る。ただ‥‥情が移れば、動物とて立派な家族じゃ。後先考えてなかったとは言え、今回の件は心根が優しい子に育っている証。戻っても、余り責めずにやって欲しいのう」
 その思いは恐らく、誰もが抱いていた事だろう。

 そして‥‥
「いたわ、囲まれてる!」
 フィオナが声を上げた。ゴブリンが6匹、大きな木を囲んで上を見上げている。その視線の先に、少年がいた。
 左腕から血が滴り落ちている。
「今、助けるわ。頑張って!」
 その声に、少年は顔を上げた。
「援護を頼む!」
 リチャードがクレイモアを両手に前線に飛び出す。
 続いて忍犬のダイと共に、花音が続いた。
 ゴブリン達は強そうな相手が現れたと見るや、先を争って逃走を始める‥‥が、ここで逃がしては、まだ見付からない妹が危険だ。
 逃げる背中にリチャードと花音の攻撃が容赦なく襲いかかり、難を逃れた者にもマリエッタのライトニングサンダーボルトが、それでも逃げようとする者にはフィオナがコンフュージョンをかけ、その足を止めた。
「本来はこっちが闖入者だからね、殺しはしないよ‥‥ただ、逃げられても困るからね」
 行動不能に陥ったゴブリン達を一ヶ所に集め、ケリーがアイスコフィンで氷の中に封じ込める。
「もしかしたら、春まで溶けないかもしれないけど」
 さて、これで一安心‥‥と、思ったのも束の間、騒ぎを聞きつけたのか、今度は2体のオーガが現れた。
「オーガ‥‥戦士、かのう?」
 その様子を見た花音の言葉に、リチャードは不敵な笑みを浮かべる。
「上位種か‥‥なるほど、少しは手応えがありそうだな。それに、こっちに集まってくれた方が都合が良い」
 こちらが目立てば、妹の方に注意を向ける者は少なくなる筈だ‥‥近くにいれば、だが。
 リチャードは大剣を掲げ、オーガ戦士に斬りかかる。こちらは流石に一撃で、という訳には行かないが、それくらいタフな方が戦い甲斐もあるというものだ。
 もう一方はフィオナが作り出した巨大な幻に怯え、マリエッタの雷撃にチクチクと体力を削られ、そして花音とダイの連係攻撃に翻弄されていた。
 二頭があらかた疲弊した所で、再びケリーが氷の中に閉じ込める。
「他にお客さんは‥‥いないみたいね」
 周囲を見渡して、フィオナが言った。
「お兄ちゃん、一人で下りられるかしら?」

「‥‥あ、ありがとうございました。何とお礼を言って良いか‥‥」
 木から自力で下りた少年は、事情を聞くと深々と頭を下げた。
「お礼を言うのはまだ早いですよ。一刻も早く、妹さんを見付けなくては‥‥」
 マリエッタが薬を手渡しながら言う。
「何か手掛かりは見付かりましたか?」
「途中までは‥‥でも、あいつらに追われて」
「じゃあ、一度あそこまで戻ってみましょうか?」
「そうじゃな、ダイにもう一度‥‥今度は妹御の匂いを辿らせてみよう」
 フィオナの提言に、花音が頷いた。

「きせきのカケラ、キラキラのカケラ、キラキラ、キラキラ‥‥♪」
 歌うように呟きながら、少女は森の中を歩いていた。いや、歩くと言うよりも‥‥飛んだり跳ねたり、這いつくばったり、時にはでんぐり返ってみたり。
「どこにあるんだろ、キラキラのカケラ」
 カケラ探しに夢中な少女は、次第に闇が迫って来た事にも気付かない。木の根に躓き、転んで、顔を上げ‥‥その時になって初めて、少女は自分がたった一人で暗い森の中にいる事に気が付いたらしい。
 少女は立ち上がると、不安げに辺りを見回した。先程までは彼女の友達だった木や草が、今は見知らぬ影となってゆらゆらと揺れている。
「‥‥お‥‥おにいちゃん‥‥?」
 恐る恐る呼んでみるが、返事はない。
「おにいちゃん! おにーちゃあぁん!!」
 少女は大声で泣き喚き始めた。と、その時。
「ワン! ワン!」
「ミーナ!!」
 犬の声と、自分の名を呼ぶ声‥‥

「すっかり暗くなる前に見付かって、何よりだ。怪我もないようだし‥‥」
 兄にしがみついて泣きじゃくる少女の姿を目を細めて見守りつつ、リチャードが言う。
「お腹が空いたでしょう? お食事の支度が出来るまで、これを食べて待っててね」
 少し落ち着いた頃合いを見計らって、マリエッタが手作りのクッキーを手渡した。
 周囲はもうすっかり暗くなっている。動き回るのは危険だと判断した冒険者達は、既に夜営の準備を整えていた。
「それで、探し物は見付かったのかしら?」
 フィオナの問いに、ミーナは「ううん」と首を振った。
「あのね、ミーナ‥‥ごめん。奇跡のカケラなんて、本当は‥‥」
 ただの作り話だと言おうとした兄を、マリエッタが止めた。
「でも‥‥」
「いいから、任せて下さい」
 そう言ってこっそり手渡したのは、キラキラ光る星の水晶。

「命というのは一度きり‥‥。全うすれば失われ、神であってもそれを取り戻す事は出来ぬ。そう言う物じゃ」
 夕食後の一時、焚き火を囲んだ冒険者達は、兄妹の話に耳を傾けていた。
「でもキラキラのカケラがあれば、ニャーはいきかえるって、おにいちゃんそうゆったもん!」
 花音の言葉にミーナは頬を膨らませた。
「でもね、人も動物も、死んだら神様の許に行くんだよ? 生きている間に悪い事をしていなければ、そこで幸せに暮らすんだ。せっかく天国で幸せに暮らしてるのに、呼び戻しちゃって良いのかな?」
 ケリーが言う。
「ニャーはおにいちゃんといっしょにいるのが、いちばんしあわせなんだもん!」
「では、お兄さんがニャーと一緒に神様の所に行ってしまっても良いのですか? お兄さんはあなたの事を心配してここまで来たのですよ?」
 マリエッタは兄がその為に怪我をし、命も危なかった事を話した。
「もしかしたら、あなた達は二度と会えなくなっていたかも知れないんです。こうして無事に会えたのは‥‥」
 ニャーがサンタさんに頼んだから。
「自分が生き返るのと引き替えに、お兄さんを助けて欲しいと‥‥」
「ニャーは‥‥いきかえらないの? おにいちゃんをたすけたから?」
「でも、また会えるよ。いつか、君達が神様の所へ行ったらね」
 ケリーが頷く。
「神様の所へは、十分に生きてからじゃないと行けないの。猫の十分は人間の十分よりずっと短いから、きっとニャーは随分待つと思うわ。でも、きっと忘れずに待っててくれる」
「ほんと?」
 問いかけたミーナに、フィオナは柔らかく微笑んだ。

 そして、無事に家へ帰り着いたミーナが見たものは‥‥
「あっ! キラキラ!」
 ネコの遺体の枕元に、そっと置かれたキラキラのカケラ。
「おにいちゃん、カケラあったよ! ニャーがもってた!」
 少女はそれを手に取り、窓から差し込む光にかざしてみた。
「キレイだね‥‥。そうか、ニャー、これでサンタさんにたのんだんだ。おにいちゃんをたすけてって‥‥」
 このカケラは、いつかまた大事な兄が助けを必要とした時、その時までとっておこう。
「‥‥さあミーナ。ニャーのお墓‥‥作ろうか」
 兄の言葉に、妹は笑顔で頷いた。