【廃墟の守護者】守護者が守るもの
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■ショートシナリオ
担当:STANZA
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:4
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:12月20日〜12月26日
リプレイ公開日:2007年12月28日
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●オープニング
「すまんが、息子のぬいぐるみを取って来て貰えないだろうか?」
男はそう言うと、カウンターに小さな金袋を置いた。
「少ないかもしれないが‥‥これで何とか」
聞けば、その男の家の近所には、いつの時代の物かわからない古い建物の跡が残っているらしい。廃墟となったその場所は、普段は近所の子供達にとって格好の遊び場となっていた。
「だが、その中心部には、何だかわからないが不気味な祠のようなものがあってな‥‥気味が悪いし、危ないからそこだけは近付くなと、普段から言ってあるのだが‥‥」
子供の好奇心というものは、抑えようがないらしい。
「うちの子が中を覗こうとした瞬間、何かが襲いかかって来たらしい。幸い怪我はなかったが‥‥」
その様子を見ていた子供達の話では、その子が祠の中を覗き込もうとした瞬間、入口の左右に立てられた柱の上にある悪魔のような姿をした石像が動き出し、襲いかかって来たのだという。
「その時、持っていたぬいぐるみがそいつの爪に引っかけられて‥‥祠の中に落ちたらしいんだ。外から見た限りでは、中はそれほど広くはなさそうだが‥‥薄暗くてよく見えなくてな」
石像のある入口には、かつては扉があったのだろうが、それは既に壊れて無くなっていた。そこから数メートルに渡って細い廊下が続き、その奥に恐らく祭壇か何かが祀られているのだろう、小さな部屋があるようだった。
ぬいぐるみはどこまで飛ばされたのか、石像が動き出さないギリギリの所から松明の明かりをかざしてみたが、光の届く範囲には見当たらなかった。
「あれは、うちの女房が作ったもんでな。ブッサイクな代物なんだが‥‥女房が新しいのを作ってやると言っても、あれが良いと言って聞かないんだ。やんちゃな腕白坊主のくせに、あれを抱いてないと一人じゃ寝られない甘ったれでな‥‥」
ぬいぐるみさえ取って来て貰えれば、動く石像は倒さなくても構わないが、子供達の安全を考えると倒してしまった方が良いのかもしれない。それに、そんな物に守らせているような祠には、何か危険な物が祀ってあるのかもしれない。もしそうなら、祠自体を塞いでしまう事も必要だろう。
「だが‥‥そこまで頼むには、足りないよな? いや、ぬいぐるみの件だけでも、これじゃ足りないかもしれないが」
男は申し訳なさそうにそう言った。だが、さほど暮らしに余裕がある訳でもない一般庶民には、それとて簡単に出せる金額ではない筈だ。
「わかりました、出来るだけの事はさせて頂きましょう」
受付係は普段から笑っているようにしか見えない細い目を更に細めて、安心させるように微笑んだ。
しかし‥‥
「‥‥いや、こんな下らない頼み事など、引き受け手が見付からなくて当然だ。手間をかけた‥‥まあ、息子には何とか諦めて貰うさ」
この金で代わりに何かプレゼントでも買って帰るか‥‥そう呟きながら、依頼人がギルドを後にして数日。
例の祠の周囲に子供達が集まっていた。
「大人なんか、ちっともアテになんねえ! オレらだけで何とかするぞ!」
リーダー格の少年、グレッグの言葉に、周囲を取り巻いた子供達が頷く。
「よし、オレらがあの怪物を引き付けるからな。アレス、お前はその隙に、ダッシュで中に入るんだ」
アレスと呼ばれた小さな男の子はしっかりと頷いた。例のぬいぐるみの落とし主だ。
「いいか、ぬいぐるみを見付けたら大声で知らせるんだぞ? そしたら、またオレらがオトリになるからな?」
「うん、わかった」
「おし、行くぞ!」
グレッグと、見るからに逃げ足の速そうな少年がガーゴイルの像にゆっくりと近付いて行く。やがて二体の像の真ん中にさしかかった時‥‥
「う、動いた!」
「ば、バカヤロ、ビビるな!」
思わず足を止めたもう一人の少年をどつき、グレッグが動き始めた石像に泥団子を投げ付けた。
「降りて来いよ、間抜けな犬ども! お前らなんかちっとも怖くないんだからな! ほら、こっちだ! 捕まえに来い!」
その途端、実体化したガーゴイルが二人の少年目掛けて襲いかかってきた。
「うわあぁっ! ホントに来たぁあっ!」
「バカヤロ、来るに決まってんだろ!」
逃げながら、物陰に隠れて様子を窺っていたアレスに叫ぶ。
「今だ! 行け!」
アレスは黙って頷くと、力一杯に手足を動かして祠の中へ駆け込んだ。
同時に、囮の二人も近くの廃墟に飛び込み身を隠す。
「へへ、上手く行ったな。後はあいつが出て来る時にもう一回‥‥」
暫く上空を旋回した後、諦めたように戻って行ったガーゴイル達を見送りながらグレッグが呟く。
「お、オレ、もういい。もうヤダ!」
もう一人の少年は隣で震えている。
「しょうがねえな、オトリは一人でも大丈夫か‥‥」
だが、祠の中からは何の合図も送って来ない。
なかなか見付からずに探し回っているのか、それとも‥‥
「なんか面白いモンでも見付けて、帰るのを忘れちまったか?」
彼等が隠れているこの場所も、崩れた廃墟の地下室だった。この辺りにある建物には、大抵そうした地下室が付いているのだろう。
あの祠も‥‥地上部は小さいが、周囲には何もない。あの、地面には何もない部分に広大な地下空間が広がっているとしたら‥‥何だか考えるだけでワクワクする。
しかし、それは当然‥‥小さな子供がひとりで探検出来るような場所ではないだろう。
「‥‥遅い‥‥よな?」
さっきまで隣で震えていた少年も、心配になったのか顔を上げて祠の方をじっと見つめている。
「グレッグ‥‥ど、どうする?」
その数日後。
冒険者ギルドに再び似たような依頼が持ち込まれた。ただし、今度の依頼人はアレスの父親ではない。
「古い祠の‥‥多分、地下に迷い込んだ親子の捜索だ。金はない。だが、人助けだ。まさか断りはしないだろうな?」
男はそう言って受付係を睨み付けた。
息子が戻らないと聞いて、父親はすぐさま助けに向かった‥‥すばしっこい子供達の手を借り、例の方法で。
だが、彼もまた戻っては来なかったのだ。
息子を見付けられずに未だ地下を彷徨っているのか、それとも‥‥
「明かりと食い物は余分に持ってる筈だ。何かに襲われでもしない限り、生きてはいるだろう‥‥少なくとも親父の方はな」
アレスの母親は、夫と息子が行方不明になって以来、何も食べず‥‥そして殆ど眠ってもいないようだ、と男は言った。
「下手すりゃ、一家全滅だ。まあ、名もない貧乏人の一家がどうなろうと、それで国が傾くワケでもねえ。誰も動かなくても驚きはしないがな。そんな事は‥‥世の中ザラにあるもんだ」
男はそう吐き捨てるように言うと、ギルドを後にした。
●リプレイ本文
「‥‥流石に、視線が冷たいね」
歓迎ムードとはほど遠い村人達の様子に、イレクトラ・マグニフィセント(eb5549)は僅かに肩をすくめる。
祠の前に集まった冒険者達を遠巻きに見つめる彼等の視線は、今更何をしに来たんだと無言で語っていた。
その様子に、マミ・キスリング(ea7468)は「気にするな」と言うように苦笑いを見せた。
「‥‥印象が最悪なのは慣れてしまいましたわ‥‥決していい気分ではありませんが」
先日まで滞在していた異国の地でも、似たような経験をしてきたらしい。
「依頼が流れ、親子が廃墟の中に取り残されるとは‥‥英国紳士として、口惜しく思います。紳士道にかけて、必ず親子を救出致します」
ロッド・エルメロイ(eb9943)が仲間にフレイムエリベイションを付与しながら言った。
「そうさね、ゴチャゴチャ言い訳するより、結果を出す事‥‥か」
イレクトラが一体のガーゴイルに向けて弓を引き絞る。実体化し、空中に飛び上がった瞬間を狙い撃ちするつもりだ。
「ふむ、高さ2メートルの柱の上‥‥であるか。我輩、余裕で届くであるな」
ガーゴイルの像を見てマックス・アームストロング(ea6970)が言う。
「とりあえずこの一体は、我輩確実にヤルである!」
マックスはオーラエリベイションとオーラパワーを自らにかけ、手にした武器を振りかざす。
「光にぃ、ぬぁあれぇぇぇ!!!」
彼の手にあるのはハンマーではないし、それは黄金色に輝いてもいないが‥‥まあ、それはともかく。
――ドカァアン!
トゲの付いた大きな鉄球が石像の体にめり込んだ。たまらずガーゴイルは実体化して反撃に出ようとする。が、初撃で被ったダメージはかなり大きかったらしい。
柱から落ち、恨めしげにマックスを睨み付けている。こうなるともう、ただの雑魚。マックスは宣言通り、その一体にきっちり始末を付けた。
「これ、動き出す前に壊せないかな?」
一方システィーナ・ヴィント(ea7435)は、石像が動き出す位置に踏み込まないように注意しながら、像が乗っているもう一つの柱に近付く。だが‥‥こちらはマックスとは反対に、武器は何とか届くが、上手く当てられそうもない。
仕方なく剣を振りかざし、仲間の魔法を待った。
「果たして実体可前の石像にコアギュレイトが効くものか否か、疑問ではあるがな‥‥」
ルシフェル・クライム(ea0673)が半信半疑で、石像に向けて魔法を放つ。
結果は‥‥
「効いた!?」
試しに目の前を横切ってみても、ガーゴイルは動かない。実体化する事も出来なくなったようだ。
「‥‥こうなるともう、ただの的って言うか置物? 瞬殺よろ」
コアギュレイトが失敗した場合に備えて待機していた空木怜(ec1783)が、仲間にその場を明け渡す。
石像を柱の上から突き落とし、寄ってたかってタコ殴り。
「時間が惜しい、さっさと行くぞ」
止めを刺した事を確認すると、キット・ファゼータ(ea2307)は先に立って歩き出した。
見送る村人達の視線は未だ冷たい‥‥いや、先程よりも冷たくなっているかもしれない。
「‥‥こんな簡単に倒せるなら、なんで早く助けに来ないんだよ‥‥」
「‥‥どうせ、お宝が目当てだろ。ほら、地下があるのがわかったからさ、何か見付かるとでも思ったんじゃないか?」
ひそひそと話し声が聞こえる。
だが、構っている暇はなかった。
「‥‥ガーゴイルが守ってる。それは中にも罠が仕掛けられてる可能性が高い事を示すが‥‥」
素人が無防備に立ち入って、無事に帰れるような場所ではないだろう。だが、かといって行方不明になった親子を責める訳にはいかない。
「それは冒険者の常識であって、一般常識ではないよな」
「大丈夫かな、早く助けてあげないと‥‥」
バイブレーションセンサーで中の様子を探る怜の傍らで、システィーナが心配そうに呟く。
「焦るな。モンスターがいるなら、その動きもきっちり掴んでおかないと‥‥こういう場所は特にジェル系が厄介だからな。前にも不意打ちを喰らった事がある‥‥まあ、このメンバーなら心配は要らないだろうが」
地下空間の、浅い所には今の所動き回るものの気配はないようだ。
「‥‥大丈夫、親子は無事なようです‥‥二人とも」
ブレスセンサーのスクロールを広げたロッドが言った。
「大小二つの呼吸が、纏まって‥‥距離は50メートルほど」
「よし、急ごう」
生きているなら、一刻も早く助け出さなくては。
「‥‥この穴から落ちたらしいな」
入口から少し入った所で、通路の床がすっぽりと抜け落ちていた。子供は恐らくここから落ちたのだろう。
「それほど深くはないか‥‥」
上からランタンの光を差し入れ、キットが下を覗き込む。
「上手く落ちれば怪我はしないかもしれないな」
その真下には、積もった埃が払われたような跡があった。そして、よく見ると小さな足跡らしきものが奥へと続き、その跡を追う様に大きな足跡が‥‥
「この調子で、足跡が続いてくれると楽なのだが‥‥」
ルシフェルが言った。
「しかし、どうする? 見た所ロープを固定出来る様な物は何もないが‥‥」
飛び降りるのは良いだろうが、ロープでもなければ上がって来られそうもない。
「‥‥我輩、手が届くかもしれないである。天井に」
身長245cmのジャイアントが言った。
「ねえ、踏み台にして良い?」
システィーナが無邪気に尋ねる。
「おお、ご婦人の頼みとあらば、我輩喜んで!」
マックスは床や天井を壊さないように、慎重に下の階へ降り、腰を屈める。
「さ、我輩の背をクッションにするである!」
「便利な奴だな‥‥」
と、キットが早速その背を踏みつけて行った。
大小二つの足跡は途中で乱れ、跡を辿る事が困難になっていた。通路は迷路のように入り組み、何本にも分かれている。
「落ちた穴から出られず、他の出口を探すうちに何者かに追われた‥‥か?」
先頭を歩いていたキットが周囲を見渡す。外に見張りがいるなら、中にもいると考えるべきだろう。そして、ガーゴイルなら動き出すまではセンサー系の魔法にもひっかからない。
「そう言えば、この辺りは通路も広いし、天井も高くなって‥‥」
目の良いマミが奥の暗がりにじっと目を凝らす。
「‥‥いましたわ。ガーゴイルが‥‥2体」
通路の向こう、天井近くに張り付いている。
「相手をしている時間はない。固めて通り過ぎるぞ」
先程の戦闘で実体化する前にもコアギュレイトが効く事はわかっていた。ルシフェルは2体の石像を魔法で拘束すると、早く行け、と仲間達を促す。
「距離は‥‥あと20メートルほどです」
ロッドが言った。
「アンデッドの気配はないようだな‥‥」
デティクトアンデッドで周囲を調べたルシフェルが言い、危険はないと判断したキットが大声で叫ぶ。
「おおい、無事か!?」
だが返事はなかった。
「声は届いた筈だが‥‥」
「衰弱しているか、それとも声が届かないような場所に閉じ込められているか‥‥かね」
イレクトラが言う。
「マリィ、出番だよ」
システィーナが愛犬に親子の匂いが付いた布を嗅がせ、その跡を辿らせる。足元や壁、天井に罠が仕掛けられてはいないか‥‥慎重に調べながら、一行は犬の後を追う。
やがて‥‥
「ワン、ワン!」
マリィが勢い良く駆け出し‥‥
「ワン!」
見付けた。
「大丈夫ですか!?」
行き止まりになった通路の奥に、親子が身を寄せ合って蹲っている。子供の腕には、ぬいぐるみがしっかりと抱えられていた。
それは確かにブッサイク‥‥などと言っている場合ではない。
ロッドが駆け寄り、少しでも回復の足しになればとフレイムエリベイションをかける。
「‥‥?」
「気が付いたか。よし‥‥怪我はないな? とりあえず‥‥これは飲めるか?」
怜が差し出したリカバーポーションを、父親は一気に飲み干した。だが‥‥子供は目を閉じたままぐったりと父親に寄りかかっている。
「怪我はなくても、少しは元気にならないかな?」
システィーナが子供にリカバーをかける。
「‥‥毛布の事を忘れていてな‥‥」
父親が言った。
「それに、明かりをつけるとモンスターが寄ってきそうで‥‥」
「どうだね? この場で何とかなりそうかい?」
イレクトラの問いに、怜は首を振った。
「いや‥‥とにかく体を温めないと。それに、早くここから出した方が良い」
多少衰弱はしているが、体の方に異常はない。寧ろ深刻なのは、モンスターに追われた事と、暗闇の中で長い時を過ごした恐怖による精神的なダメージだろう。
「わかった。急いで運ぼう」
キットが子供を毛布にくるみ、マックスに託す。
「マリィ、帰り道を案内して!」
「私も先に行こう。途中のガーゴイルに暴れられては厄介だからな」
「‥‥出て来たぞ!」
「無事か!?」
祠の中から姿を現した冒険者達を見て、村人達が声を上げる。
「この子の家‥‥いや、ここから一番近い家は!?」
先に上がり、マックスから子供を受け取った怜が叫ぶ。
「暖炉に火を! それに、湯だ。湯を沸かせ! 早く!」
数時間後。
明るい場所に出て、体もすっかり温まった子供‥‥アレスは目を覚ました。目の前には‥‥心配そうに見つめる父母の顔。
「よし、もう大丈夫だ」
付き添っていた怜が、くしゃくしゃと頭を撫でる。
「父さんにも母さんにも心配かけない立派な男にならないとな、アレス。まずは、夜のぬいぐるみ卒業が第一歩かな?」
とは言え、暫くは闇を怖がり、一人では眠れないだろうが‥‥。
「‥‥知り合いの娘の手作りだ。味は保証しないがな」
少し離れて様子を見ていたキットが、枕元にクッキーの袋を無造作に置いて行った。
「‥‥奴等‥‥仕事、早かったな」
「あの二人を助けたら、また潜るんじゃないかと思ったが‥‥」
「‥‥ああ、宝が目的じゃ‥‥なかったのかな」
村人の冒険者達に向ける視線は、来た時よりも多少は温かくなったように見えた。