キューピッドは伝書ネコ!?

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:6人

サポート参加人数:3人

冒険期間:08月01日〜08月06日

リプレイ公開日:2006年08月08日

●オープニング

「ニャ〜ン」
 窓の外でネコの鳴き声がする。
「ぶにゃ? 帰ってきた‥‥」
 部屋の中でボンヤリしていた青年は、慌てて窓を開けた。
 だが、その目に飛び込んできたのは真っ白で‥‥彼のネコとは似ても似つかない、上品そうなネコ。
「‥‥そうだよな。ぶにゃはあんなカワイイ声じゃない」
 窓を開ける音に驚いたのか、慌てて塀から飛び降りる白い後ろ姿に溜め息をつく。
 違うとわかっていても確かめずにいられないのが飼い主のサガだ。
「‥‥今日で5日目‥‥。やっぱり、頼んでみるか」
 彼は静かに窓を閉めた。

「その‥‥いなくなったというネコの特徴は?」
 冒険者ギルドは『町の便利な何でも屋さん』‥‥ではなかった筈なのだが。
 そう思いつつ、その細い目のおかげで常に営業スマイルを浮かべているように見える受付係が、依頼主に詳細を訊ねる。
「はい、ぶにゃは‥‥その、えっらいブサイクなデブネコで、態度もフテブテしくて、いつも人をバカにしたような目で見るくせに、ゴハンの時だけはゴロゴロ甘えてしゃがれた声で『ぶにゃ〜』って鳴くんです。他の人から見たらとてもそうは思えないだろうけど、僕にとってはカワイイ天使なんです!」
「はあ、そうですか‥‥」
 典型的な親バカだな、と思いつつ、それだけでは何の手がかりにもならないので、受付係は更に質問を重ねた。
「それで、他に誰が見てもわかる特徴などはありませんか?」
「あ、はい。白黒の、ウシみたいな模様で、シッポはまんまるで、その、立派なタマコロが付いてます」
「オスネコですか。でしたら、何日も帰らないのもそう珍しい事では‥‥」
「でも、今はその季節じゃありませんし、いつもは1日か2日おきには帰って来てるんです。その‥‥首の赤いリボンに、手紙を付けて」
「手紙?」
 青年は、照れたように頬を赤らめ、下を向いた。
「はい、あの‥‥ぶにゃにゴハンをあげてるのは僕だけじゃなくて、他にもうひとりいるんです。ぶにゃは僕とその人の家と、交互に行き来してるんですが‥‥」
 彼は、その相手の顔を知らないと言う。どこに住んでいるのかも。
「ぶにゃがどこか他の家でもゴハンをもらっていると知った時、試しにその人に宛てた手紙を首のリボンに結んでおいたんです。そうしたら、返事が来まして‥‥それ以来ずっと、文通を続けてきました。そっ、それで‥‥」
 ますます顔を真っ赤にして、青年は続けた。
「その人は、リリーさんと言うんですけど、彼女もぶにゃがカワイイって言ってくれて‥‥それで、気が合うんじゃないかと思って‥‥こ、今度、町の広場で会おうって、手紙に書いたんです」
 だが、返事を携えた筈のネコは帰らず、待ち合わせ場所にもそれらしき人は現れなかった。
「どこかでケガをして動けなくなっているのかもしれません。ケンカとか、馬車にはねられたとか‥‥首のリボンがどこかにひっかかっているのかも‥‥」
「わかりました、それほど遠くへ行っていなければ、恐らく探し出せるでしょう」
「お願いします。‥‥あの、できれば、ついでに‥‥その、リリーさんも探していただければ‥‥なんて、えへへっ」
 ‥‥何が『えへへ』だ、手紙の相手が色々と詐称していないとも限らないだろう‥‥と、腹の中をどす黒く染めつつ‥‥
「安心してお任せ下さい。リリーさんも、読み書きの出来る人といったら結構限られますからね、きっとすぐに見つかりますよ」
 受付係はニッコリと微笑んだ。

●今回の参加者

 ea0448 レイジュ・カザミ(29歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea6065 逢莉笛 鈴那(32歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea9027 ライル・フォレスト(28歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ea9957 ワケギ・ハルハラ(24歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 eb3310 藤村 凪(38歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb5505 サクヤ・クロウリー(20歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

ライカ・カザミ(ea1168)/ 来生 十四郎(ea5386)/ ルスト・リカルム(eb4750

●リプレイ本文

 町のあちこちに、綺麗な字で書かれた訊ねネコの立て札が立てられている。
 広場の中央では、それを設置した本人(ただし、字を書いたのは彼の姉だが)、レイジュ・カザミ(ea0448)が声をかけられるのを待っていた。
 その隣では姉のライカが、少しでも皆の注目を集めようと楽の音を響かせている。
 だが、確かに注目は集めているものの、肝心の情報提供者はなかなか現れない。
「もっと目立ったほうが良いのかなあ? ‥‥よし、ここは僕が葉っぱ男になって‥‥!」
 その提案が即座に却下された、その時。おずおずと声をかけてくる青年がいた。
「あのう‥‥そのネコなら、よく僕の家の屋根で昼寝してます。でも、ここ暫く見てないんだけど。‥‥こんなので役に立ちます?」
「ありがとう、とっても参考になるよ!」
 レイジュは青年に家の場所を聞き、お礼のお菓子を手渡した。
「よし、この調子で頑張ろう!」

 同じ広場の片隅では、遊んでいる子供達に話しかけるサクヤ・クロウリー(eb5505)の姿があった。
 頭に巻いたバンダナで耳を隠した彼女は、集まってきた子供達の目線に合わせるようにしゃがみこむ。
「ねえ、こんなネコさん、見た事ない?」
 ぶにゃの特徴を細かく説明するサクヤの話が終わらないうちに、子供達から次々と声が上がった。
「あー、ぶーだ!」
「うん、それ、ぶーだよね」
「しってるしってるー!」
 どこでも似たような名前で呼ばれているらしい。
「あのね、いっつもそこでねてるよ」
 子供の一人が広場を囲む塀の上を指さす。
「でもね、きのうはいなかったよ。えっと、そのまえは‥‥わかんない」
「じゃあ、見つけたらお姉ちゃんに教えてくれる? 明日もここにいるから、お願いね」
「うん!」

「あのう」
 路地裏では井戸端会議に精を出す下町の奥様方に聞き込みをすべく、ワケギ・ハルハラ(ea9957)が果敢な挑戦を続けていた。
「この辺りにリリーさんという方は‥‥」
「まあ、可愛い魔法使いさんだこと!」
「なあに? 冒険者さんなの?」
「坊や、いくつ? 偉いわねえ、お仕事?」
 東洋人とのハーフである彼は、歳よりも若く見られるらしい。たちまちオバチャン達に囲まれ、逆に質問責めにされた。
「ぼ、僕は子供ではありませんっ!」
「あらまあ、真っ赤になっちゃって。ホントに可愛いわねえ」
「だっだからっ僕は人を探して‥‥っ」
「おばちゃんもリリーって名前だけどねえ」
 でっぷりと太った肝っ玉母ちゃんが豪快に笑う。
「でもあたしゃ読み書きなんてアッハッハッハッ」
「ネコ好きの人? さあねえ‥‥」
「坊や、ちょっと上がって休んでらっしゃいな。おばちゃん達が探してあげるから。ね?」
「い、いえっ、結構です! ありがとうございました!」
 やっとの思いでオバチャンの輪から脱出する。
「次からは、質問する相手を選ばなければ‥‥」
 乱れた息を整える為に深呼吸をすると、彼は再び歩き始めた。
 出発前に試したサンワードは、情報が足りないのか、それとも対象が日陰や家の中にいるせいなのか、何の答えも示してはくれなかった。
「地道な作業になりそうですね‥‥」

 一方、依頼人トム・ダルトンの家には、本人から詳しい話を聞こうと3人の冒険者が集まっていた。
「これがリリーさんの手紙です。手紙と言ってもネコの首に付ける物ですから、羊皮紙の切れ端ですけどね」
 そのうちの1枚を受け取ったライル・フォレスト(ea9027)は、それを丁寧に折り畳んでポケットに入れた。
「じゃあ、ちょっとお借りしますね。シフール便の詰め所に行って、筆跡に見覚えがないか聞いてみたいと思うんだけど、見せても構わないかな?」
「ええ、ほんのメモ書き程度の物ですし」
「ありがとう。ぶにゃの体調が心配だし、一刻も早く見つけられるように頑張るよ。じゃあ、行ってくるね」
 ライルは、連れていた子猫の土岐耶を逢莉笛鈴那(ea6065)に預けると、元気に飛び出して行った。
「私はこの子を抱いて、動物好きの人達に聞いてみようと思います。新しく子猫を飼う事にしたんだけど、このあたりに猫好きのお仲間はいませんかって。それから、この子達に‥‥」
 と、足元に控える2頭の犬を見る。
「ぶにゃの匂いを辿ってもらおうと思うんだけど、何か借りられますか?」
 鈴那の言葉に、古いリボンが差し出される。そこにはぶにゃの毛と匂いがたっぷりと残っていた。
「ところで、トムさんはどうして‥‥その、リリーさんが若くて綺麗な女性だと思うんですか? 結婚してるとか、恋人がいるとかは‥‥」
「いません!」
 断言する彼の目の奥には『妄想』と『願望』の文字がハッキリと読み取れた。
「‥‥ほいなら、ウチはここの家からず〜っと、リリーさんを探しながら地図を作ってくわー」
 藤村凪(eb3310)が懐から高級羽根ペンを取り出しながら言う。
「でもな、肝心の羊皮紙が手に入らんかったんやわ。トムさん、すんまへんけど、1枚貸してもらえへんやろか?」
「ええ、ぶにゃの為なら羊皮紙の1枚や2枚どうってことありません。差し上げますから、どうぞ使って下さい」
「おおきに、すんまへんなあ」
 凪は、両手でそれを押し頂くと、ペコリとお辞儀をした。
「ウチはリリーさんの落とし物を拾た事にするわー。それなら色々と聞いて回っても怪しまれへんやろ?」

 3日目の朝、それぞれが独自に調べた情報を手に、冒険者達は町の酒場に顔を揃えた。
「おはよう、何か収穫あった?」
 レイジュが自分と同じくネコの行方を探っていたサクヤに声をかける。
「僕の方は昨日とか3日前とか、以前見かけたって話は聞けたんだけど‥‥」
「ええ、私の方も子供達が色々教えてくれましたけど、今どこにいるのかは結局わかりませんでした」
「リリーさんのほうはどうだった?」
「それがさ」
 ライルが悪戯っぽく笑う。
「見つけてしまいましたー!」
 鈴那が愛犬の前足を持ってバンザイさせながら後を続けた。
「ええっ!?」
「早っ!」
 驚きと賞賛の声に、ワケギが頬を赤らめる。
「僕達4人、それぞれバラバラに調べていたのですが、昨日の夕方‥‥」
「ぐーぜん、同じ家の前で鉢合わせしてもうてなー」
 凪が完成した地図の一点を指さした。
「じゃあ、リリーさんに会えたの? どんな人だった? ぶにゃは?」
 立て続けに質問するレイジュにライルが答える。
「昨日は夕方遅かったし、皆揃ってからのほうが良いと思って、中には入らなかったんだ」
「4人共同じ結論なら間違いないでしょうし」
「だから、これから皆で行こうと思うんだけど‥‥」

 果たして。
 彼等の前に現れたリリーという名の女性は、確かに知的で優しそうな雰囲気を纏い、美人という点でも依頼人の推測に誤りはなかった。ただし、若者の恋愛対象となるには少々‥‥いや、かなり年齢を重ねすぎてはいたが。
「あの日は、いつも通りにお家を出て行ったのよ。今日あたり、また遊びに来る頃だと思っていたのに」
 リリーばあさんは品の良い顔を曇らせた。
「じゃあ、あのお手紙も届いていないのかしら‥‥」
「これの事ですか?」
 鈴那が、懐から手紙が結ばれた赤いリボンを取り出す。
「犬達に匂いを辿らせていたら、これを見つけたんです。でも、近くにはぶにゃの姿は見当たりませんでした」

 かくして、6人総出のネコ探しが始まった。
 二人の家を中心に、目撃情報のあった範囲をくまなく探す。
「僕は人間、ネコの感覚でぶにゃを探して!」
 レイジュは2匹の飼いネコの後を追って生け垣の破れ目を抜け、藪を掻き分け『猫道』を辿る。
 途中、何かが首筋に落ちてきたが、これは葉っぱだと自分に言い聞かせ、懸命に頑張った。‥‥勿論、葉っぱが自分でウゾウゾと動き回ったりしない事は百も承知だったが。
「ぶにゃ、ぶにゃー? いるなら出ておいでー」
 ライルは友人に聞いたネコの生態を考慮に入れながら、家の下や隙間など、狭くて薄暗い場所を重点的に探す。
 屋根や塀、木の上は鈴那の担当だった。
「夏場はよく鳥が煙突に巣を作るけど‥‥それを狙って落っこちちゃったとか?」
 ワケギとサクヤは、地図上に印が付けられた『ネコ好きの家』に保護されていないかと、地道に訪ね歩く。
「あの、サクヤさん、この裏通りの怪しい店にも行くんですか?」
「勿論です。可能性のある場所は全て調べなければ‥‥」
 ワケギはまたしても女性達のオモチャにされそうな予感がしたが、それでもここは自分が先頭に立たねばと覚悟を決めた。

 一方、凪はリリーと一緒にぶにゃのお気に入りの場所を探し歩いていた。
「すんなへんなあ、リリーさんにまで手伝わせてしもて」
「良いんですよ、私も久しぶりに若い人と一緒で若返ったような気がするわ。昔は教師をしていてね‥‥」
 ぶにゃを探しながら昔話に花が咲く。
「それにしても、どこに行ったのかしら。これでもう、思いつく所は全部探してしまったわ」
 既に陽も西に傾きかけている。今日はこれで打ち切りにしようと決めたその時。
「ぶにゃ〜〜〜」
 足元で、声がした。

 かくして、無事にトムの家に戻ったぶにゃは、何事もなかったようにお気に入りのクッションに座り、毛繕いに余念がない。
「ネコって‥‥」
 脱力した笑いを顔に張り付かせたライルが溜め息をつく。
「よくあるみたいだね。いくら探しても見つからないのに、いつの間にかひょっこり現れるって‥‥しかも探した筈の所から」
「僕のあの苦労は何だったんだ〜〜〜」
 レイジュが首筋の感触を思い出して身震いした。
「でも、良かったね、どこにも怪我がなくて。もう二度と、皆に心配かけるんじゃないよ?」
「ぶごろにゃ〜?」
 頭を撫でられて、ぶにゃが上機嫌で返事をした。
 隣の部屋では、トムとリリーが感動のご対面と相成っていた。
「ごめんなさいね、変に気を持たせたりして‥‥」
「いいえ、僕の方こそ勝手な思い込みで‥‥」
 トムは努めて明るく振る舞おうとしていたが、妄想が打ち砕かれたショックは隠せなかった。
「その代わり、私の孫を紹介するわ。私の若い頃にそっくりな、美人で気だての良い子よ。ただ‥‥」
 リリーばあさんはニッコリと微笑んだ。
「あと少し、待っていただけるかしら。そうねえ、あと‥‥10年ほど」