【ボクらの未来】友を追って

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 31 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:12月21日〜12月24日

リプレイ公開日:2007年12月29日

●オープニング

「えー、なんだよ、調べて貰わなかったの?」
 孤児院の仲間、小さなテオが里親に引き取られて数日。道中の安全を確保する為、そして里親夫婦の人となりを確認する為に冒険者達と行動を共にした時の出来事を聞いて、留守番をしていた相棒のシフール、チャドは言った。
「その紋章、ほんとは気になるんだろ?」
 チャドはエストが背負っている大きくて重そうな剣の、柄頭に刻まれたイルカの紋章を指差す。
「それは、そうだけどさ‥‥でも、わかったからって、別に‥‥何も変わらないし」
 その剣は、育ての親から父の形見だと言われて手渡された物だった。いつも身に付けている、母の形見のペンダントにも同じ紋章が刻まれていた。
 道中、その紋章が誰の物か調べてやろうという申し出を、エストは断っていた。育ての親がいずれ話すと言ってくれた、その時を待つ為に。
「今は、僕にもちゃんと父さんがいたんだって‥‥形見を遺してくれるほど、母さんや僕を大事に思っててくれたんだって、それがわかっただけで充分だよ」
「でもさ、紋章なんか持ってるって事は、貴族だろ?」
「多分ね」
「だったら! お前すんごい良い暮らし出来んじゃん! それにさ、貴族の子ならヘッポコでも騎士になれるぜ?」
「そうかもしれないけど‥‥でも僕はここが好きだし、それにもし名乗り出るなら‥‥」
 エストは背中の剣を抜いた。それは両手で持ってもずっしりと重たく、今のエストには支えているのがやっとだった。
「こんな物を使いこなしてた父さんの息子として恥ずかしくないような、力と技を身に付けてからだ」
「ふ〜ん、マジメだねえ」
 チャドが呆れたように、茶化すように言う。
「ねえ、チャドは? 来年になったらチャドも冒険者ギルドに登録出来るよね。何になるか決めた?」
 問われて、チャドは胸を張って答えた。
「だから、オレは前から言ってんだろ? 騎士だよ、騎士! 将来は絶対、円卓の騎士になるんだ!」
「‥‥それは‥‥無理だと思うけど」
 少し遠慮がちにそう言ったエストの言葉に、チャドは「なんで?」と首を傾げた。
「‥‥だってさ‥‥チャドはシフールだろ? シフールの騎士なんて、あんまり聞いた事ないし‥‥」
「だから、オレが第一号になるんだよ。円卓に座る最初のシフールにさ!」
「‥‥でも‥‥チャド、鎧なんか着たら飛べなくなっちゃうだろ? 防寒着だけでもフラフラしてるのに」
「それは、オレがまだ子供だからさ。大きくなったら体力だって付くし、それでも足りなきゃ気合いと魔法で何とかする!」
 気合いで何とか出来る問題ではないような気もするが、チャドは何とか出来ると思っているようだ。
「あのさ、夢があるのは良い事だと思うよ。でも、チャドのそれは、夢、見過ぎって言うか‥‥」
「なんだよ、シフールが騎士になっちゃいけないってのか?」
「そうじゃないけど、でも‥‥チャドは頭良いんだからさ、魔法使いとかの方が向いてない?」
「イヤだ。騎士が良い」
 頬を膨らませ、チャドはぷいと横を向く。
「でも‥‥」
 何かを身に付けるなら、得意な事を早いうちに伸ばした方が良い。不得手な事には早々に見切りを付けて、仲間に任せる事を覚えろ‥‥かつて、誰かにそう言われた。
「僕が前衛で相手の攻撃を引き受けるから、チャドが後ろでサポートしてくれれば‥‥」
「うるさいっ!!」
 チャドは顔を真っ赤にして怒鳴った。
「でも、でも、でも、でもっ! もうたくさんだ! 聞きたくないっ!」
「チャド‥‥?」
「お前は良いよな、父ちゃんも騎士で、ちゃんと形見もあって‥‥それ調べれば、自分がどこの誰か、ちゃんとわかるんだ。後を継ぎたいって言えば、きっと‥‥剣なんか使えなくたって、ナナヒカリで騎士になれるんだ! でも、オレは‥‥っ」
 両親が亡くなった為に孤児院に預けられたエストとは違い、チャドは捨て子だった。両親や親戚について、何の手掛かりもない、天涯孤独。
「良いさ、見てろよ。オレは自分の実力で騎士になってみせる。そんで‥‥オレをバカにしたお前を、いつかブッ倒してやるんだ!」
「バカにしてなんか‥‥チャド!? どこ行くの!?」
 エストの制止も聞かず、チャドは外に飛び出して行った。

 数日後、冒険者ギルド。
「‥‥あちこち探して、やっと手掛かりを見付けたんだけど‥‥」
 がっくりと項垂れたまま、エストは言った。
「チャドの奴、色んな人に弟子にして欲しいって頼みに行ったらしいんだ。でも、どこも断られて‥‥」
 だが一人だけ、実力さえあれば種族も年齢も問わずに受け入れるという人物がいた。
「その人に、一人でオーガを退治して、その証拠に角を持って来たら弟子にしてやるって言われて‥‥あいつ、一人で山に入ってったらしいんだ」
 その山は、彼等にとっては普段から遊び場や自然の恵みを貰い受ける為に利用している馴染みの場所だった。だが、いつもはモンスターが出るような場所には近付かない。
 エストは背中の剣を外すとカウンターに置いた。
「これ‥‥お金に換えれば、依頼料は払えると思う。だから、お願いします。チャドを助けて!」
 だが、それは彼の父親の形見だ。
「良いのかい? 一度手放せば、もう二度と君の手許には戻らないかもしれないよ?」
 受付係が念を押す。
 エストは暫く、その剣をじっと見つめ‥‥頷いた。
「僕は、父さんの力を借りなくても、自分で騎士になってみせる。手放したくはないけど‥‥でも、僕があいつに酷いこと言ったのが原因なら、僕も何か、代償を払わなきゃ‥‥戻って来てくれないと思う。だから‥‥」
「わかった。これは預かっておくよ」
 受付係は剣を受け取り、カウンターの奥に大事にしまい込む。
「それで、山には‥‥君も、一緒に行くかい?」
 その言葉に、エストは力強く頷いた。

「‥‥あと、一人‥‥」
 ギルドの片隅で、エストは不安げに時計を見上げた。
 募集の締切まで、もうあと数時間しかない。だが、彼の依頼が仕事として成立するには、あと一人足りなかった。

 そして‥‥
「‥‥ありがとう、ございました」
「ちょ‥‥っ、エスト君、どこへ!?」
 硬い表情でギルドを後にしようとしたエストを、受付係が呼び止めた。
「決まってるでしょ? チャドを助けに行くんだ」
「君一人で!?」
「他に誰がいるの?」
 結局、最後の一人は現れなかった。ならば、自分一人で行くしかない。
「でも、それは無理だよ。もう一度、募集してみよう。ね?」
「そんな時間、ない!」
 エストは受付係の制止も聞かずに、通りへ飛び出して行った。父親の形見の剣をそのままにして‥‥。
「待って! 待ちなさい!」
 受付係はギルドの店内を見回して叫んだ。
「誰か、手の空いている人! あの子を連れ戻して下さい!」
「‥‥連れ戻すだけで、良いのかい?」
 そう、ぽつりと呟いたのは‥‥ここ暫く姿を見なかった、見かけだけはベテランのビギナー親父だった。
 彼は先程掲示板から剥がされたばかりの依頼書をヒラヒラと振り、言った。
「この依頼‥‥俺が引き受けた。いや、俺が行く訳じゃねえ。俺が依頼人になるってんだ。ただし‥‥金はこれしか出せねえ」
 と、カウンターに僅かばかりの金を置く。
「それでも構わねえって奴は、手ェ上げな」

●今回の参加者

 ea0286 ヒースクリフ・ムーア(35歳・♂・パラディン・ジャイアント・イギリス王国)
 ea3153 ウィンディオ・プレイン(32歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb2626 オウ・ホー(63歳・♂・ウィザード・シフール・ノルマン王国)
 ec1007 ヒルケイプ・リーツ(26歳・♀・レンジャー・人間・フランク王国)
 ec2813 サリ(28歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)
 ec3246 セフィード・ウェバー(59歳・♂・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 ec3682 アクア・ミストレイ(39歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ec4154 元 馬祖(37歳・♀・ウィザード・パラ・華仙教大国)

●サポート参加者

タケシ・ダイワ(eb0607

●リプレイ本文

「エスト君待って!」
 エストと共に、最後の一人が現れるのをやきもきしながら待っていたヒルケイプ・リーツ(ec1007)が後を追って飛び出す。だが聖夜祭を前に浮かれ気分の人々でごった返す往来の中に、その小さな影はあっという間に呑み込まれてしまった。
「フライングブルームで追った方が早そうだな」
 用意していた道具類をひっ掴み、アクア・ミストレイ(ec3682)は箒に飛び乗る。
「エスト、待て!!」

「‥‥何の騒ぎだ?」
 追って行った二人と入れ違いに現れたウィンディオ・プレイン(ea3153)は受付係に事情を聞き、その顔に後悔の色を浮かべた。
「父親の形見を‥‥? そのような大切な物を売ってまで友を助けたいと考えた彼の救いを求める声に気付けなかったとは‥‥」
 ウィンディオは口惜しそうに拳を握り締めると、持っていたブレードホイップをカウンターに置いた。
「あぁ、剣はそのまま保管しておいてくれ。報酬や手数料が足りなければコレでも売って‥‥」
「いや、兄さん。金の心配には及ばねえよ」
 依頼を肩代わりしたオヤジがポンと肩を叩き、それを引っ込めるように言った。
「んな事より、さっさと追っかけてやんな」
「‥‥ああ、そうだな。すまない」
 ウィンディオは軽く一礼すると、外に繋いであった馬を引き出した。だが、どちらへ向かったのか‥‥?
「こちらです!」
 その声に振り向くと、フライングブルームに乗った元馬祖(ec4154)が今まさに飛び立とうとしている所だった。
「係員の方に伺いました。私は先に行きますので‥‥合流は町外れで!」

「エスト‥‥さん?」
 仕事を探しに来ていたサリ(ec2813)が、聞き覚えのある名を耳にして振り返る。
 それは丁度、飛び出して行ったエストを二人の冒険者が追いかけて行った、その瞬間だった。
「え‥‥依頼が、出ていたのですか?」
 今の今まで気付かなかった。
「それは、申し訳ない事をしました。今からでも間に合うでしょうか‥‥?」
「顔見知りかな?」
 後ろの‥‥遙か頭上で声がした。振り向き、見上げると‥‥そこにはヒースクリフ・ムーア(ea0286)の姿があった。
「私も協力したいのだが、その子の顔を知らないのでね。同行させて貰って構わないかな?」
「はい、喜んで。では、急ぎましょう!」

「‥‥何やら騒がしいですね‥‥」
 友人のタケシ・ダイワと共に、ギルドの隅で今後の事について話し合いをしていたオウ・ホー(eb2626)が顔を上げる。
 周囲の者に事情を聞いたオウは、タケシを振り向き「行っても良いか」と無言で問いかける。相手が頷いたのを見て、オウは荷物を馬に積み、先に行った者の後を追った。
「では‥‥行って来ます」

「‥‥行ったか‥‥」
 飛び出して行く冒険者達を見送ったセフィード・ウェバー(ec3246)は落ち着き払った様子で馬に荷物を積み込み、エストの後を‥‥追うのかと思えば。
「まあ、大勢で追いかけても仕方があるまい」
 彼はそのまま酒場へ向かった。そこで、この辺りでオーガが出る場所はないか、現れるのはどんなオーガか、等を効いて回る。
「‥‥集合場所は町外れと言ったか」
 一通り情報を集め終わると、セフィードは馬の手綱を取りゆっくりと歩き出した。

「その子を捕まえて下さい!」
 人混みをかき分けながら叫ぶヒルケイプの声に、何事かと注目が集まる。何人かの男達が先を行くエストの姿に気付き、あっという間に取り囲んだ。
 一人の男がその襟首をむんずと掴んで持ち上げる。
「は‥‥離せっ! 何するんだっ!!」
「こら小僧、何しやがった!?」
 どうやら泥棒か何かと勘違いされたらしい。
「あ、待って! 違うんです! その子は‥‥!」
 追い付いたヒルケイプが息を切らしながら慌てて事情を説明すると、男は苦笑いを浮かべながらエストを解放し、人混みの中に消えた。
「よ、良かった、追い付いて‥‥」
 肩で息をしているヒルケイプの顔を見ようともせず、エストは黙って下を向いている。
「この、馬鹿野郎!」
 フライングブルームから降りたアクアが大声で一喝した。が、すぐにいつものように静かな口調に戻って言う。
「‥‥タイミングが悪かったな。どうやら人手が足りない時間だったようだ」
 エストは恐らく自分達が見捨てられたと感じているのだろう。だが、そんな事はないとアクアは追い付いてきた仲間達を見て言った。
「大切な物を手放してまで友を救いたいと願ったキミの助けを求める声、気付けなくて申し訳ない」
 ウィンディオが片膝を付き、深々と頭を下げた。
「今からでも遅くないなら是非とも手伝わせて欲しいのだが‥‥」
「ごめんなさい、依頼に応じられなくて‥‥でも、今からでもチャドさんを捜すお手伝いをさせて貰えませんか?」
 サリが言う。
 集まったのは顔見知りの者ばかりではない。全く面識のない者達もいた。
「チャドさんを助けるために急遽依頼を出してくれた人がいたので集まることができました」
「‥‥え?」
 何の事かと尋ねるエストに、オウはギルドでの出来事を話して聞かせた。
「長らくお待たせしてしまったことは本当にお詫びいたします。お許し頂けるとは思ってませんが、どうか今一度私共に機会を与えて下さい」
「私達は君と君の友達を助けたいと思って集まったんだ。それは信じて欲しい」
 エストはまだ半分疑っているような目で一同を見渡した。だがそれを見返す瞳は、どれも真剣そのものだった。
「さあ、今度こそチャド君を探しに行きましょう!」
 ハラハラしながら成り行きを見守っていたヒルケイプが、どうやら大丈夫らしいと明るく声を上げ、拳をぐっと握り締めた。
「‥‥‥‥」
 エストは黙って頷き、手の甲でぐいっと何かを拭った。

「‥‥そうですか、そんな事が‥‥」
 チャドが向かったらしい山へと急ぎながら、エストから事の発端を聞いたサリが言った。
「シフールだから騎士はだめと最初にはっきりと言ったのがまずかったかと思います。正論なのかもしれませんが、自分の考えを伝える前に相手の気持ちをよくききだして、受け止めてからでないと、思いは正しく伝わらないかもしれません」
「思うにチャド君は、高名な騎士になれば両親が自分を見つけてくれるかも、と考えているのではないかな」
 ヒースクリフが言う。
「彼は君に引き離されている、と感じているのかもしれない。もしそうなら、そんな事は無いと言ってあげなさい。君達の絆はそんな弱い物では無いだろう?」
 その言葉に、エストは黙って頷いた。
 一行はまず、この山で最もよくオーガが目撃されているという場所へ向かった。だが、近くに最近出来たような、それらしい足跡はない。ヒルケイプが近くの植物に尋ねても、やはり最近は姿を現していないようだった。
 アクアが匂いを辿らせようと連れてきた忍犬も、何かを嗅ぎつけた様子はない。
「もっと奥へ入ったのか‥‥?」
 ウィンディオが周囲に目を凝らす。しかし人なら通った痕跡が残るだろうが、シフールではそれも難しい。
 一行はチャドの名を呼びながら暫く山中を歩き回ったが、何の反応も返っては来ない。途中、オーガの物と思しき乱れた足跡がいくつか見付かったが、近くにはチャドの痕跡はなかった。匂いも血の跡も、そして考えたくはないが‥‥死体も。
「子供ですから、心細くなって木の上や岩の陰で泣いてるかも?」
 ヒルケイプが言った。
「防寒着も持たない可能性が有るなら、何処か寒さの凌げる場所で身体を休める等しているかもしれない。山小屋や洞窟が無いか、探してみよう」
「あ、それなら‥‥」
 ヒースクリフの言葉に、エストが「秘密基地がある」と言った。
「僕達が遊び場にしてる所に作ったんだ。そこなら、多分少しは温かいし‥‥」
 チャドがまだ自分を友達だと思ってくれているなら、そこで待っているかもしれない。
「では、そこに急ぎましょう」
 馬祖がエストをフライングブルームの後ろに乗せ、一足先にその場所へと向かった。

「‥‥何しに来た!」
 チャドはそこにいた。怪我もなく、元気そうだ‥‥ただ、寒さに震え、お腹を空かせてはいたが。
「良かった、無事ですね」
 馬祖は防寒具と食糧をそこに奥と、後は二人に任せようと外に出る。だが二人の少年は互いに黙ったきり、一言も口をきかない。やがて仲間達が集まってきた。
「お邪魔しても良いでしょうか?」
 ヒルケイプがおずおずと尋ねる。返事はないが、この際だ。良いという事にしてしまおう。
「ねえ、チャド君。エスト君は意地悪で騎士になれないなんて言ったんじゃ無いですよ? だってあなたを助けるために大切な形見の剣を売ろうとしたんですから」
 その言葉に、チャドは初めてエストの方を見た。確かに、その背にあの剣はない。
「エスト君の言い方も悪かったですけど、チャド君も分ってあげないと‥‥」
「シフールの騎士なら何人か知ってるぞ。だが相当な覚悟が必要だ」
 今のチャドは騎士には向いていない、とアクアは言った。
「体格とか実力、経験といったことではない」
「じゃあ‥‥何だよ?」
「騎士とは何だと思う? 騎士に必要なものは? 強いだけでは騎士とは呼べないぞ」
「騎士になりたいのなら、まずは現実を見なくては駄目だ」
 恐らくチャドはオーガに挑み‥‥一太刀も与えられずに怖くなってここに逃げ込んだのだろうと、ヒースクリフは考えた。
「今の自分の力を知り、理想の自分との間にどれだけの差が有るかを認識する。その上で、その差をどう埋めるかを考えないと」
「でも‥‥私はやはり、チャド君が円卓の騎士になるのはかなり難しいと思います」
 と、実際にその戦いぶりを見た事のあるオウが言った。
「それよりは友人に想いを託し、魔法使い等で友人を支えるのが良いのでは? それは、貴方自身が騎士になるのと同じ位尊い事だと思いますよ」
「イヤだ! オレが騎士になりたいんだ! ずっとあいつの陰に隠れて、あいつのオマケみたいに思われて‥‥そんなの、ヤダ!!」
「では聞くが‥‥今まさに、君は一人で何が出来た?」
 セフィードが尋ねた。
「シフールが体力をつけても微々たるものだ。力業ではゴブリン一匹さえ倒せないかもしれないな。普通の騎士を目指していたら円卓の騎士なんかになれないと思わないか? それより‥‥」
 どうせなら先にいろいろな魔法を習得して、その後に騎士になればいい、とセフィードは言った。
「4大魔法を使いこなし、そしてもちろん剣も扱える。回避も超一流で、作戦も誰もが考え付かないような最高のアイデアを出すんだ。どうだ?」
「そんな事‥‥出来るの?」
「ああ、頭の良いチャドなら、な。エストには無理だろうけどね」
 さすが年の功、チャドの優越感を刺激する事も忘れない。
「実際にどんなものか、騎士の方に付いて知ってもらうのはどうでしょうか? 実際に見てみると理想とは違うでしょうし‥‥」
「そうだな、私で良ければ基礎くらいなら教えられるが」
 ヒルケイプの提案にウィンディオが頷く。
「習いに来るか? ただし、それには条件があるが」
「条件?」
 首を傾げるチャドに向かって、サリが代わりにニコニコと答えた。
「二人一緒に、ですね?」
 二人の少年は互いに顔を見合わせる。
「‥‥お前には負けないっ!」
「こっちだって!」
 いつの間にか、二人の間には笑顔が戻っていた。まだ多少、ぎこちなくはあったが‥‥。
「さあ、ギルドに寄って、大切なものを返して貰いましょう」
 サリの言葉に、あれは依頼料の代わりにしたのだから、と言うエストの背を、アクアがぽんと叩く。
「そいつは、出世払いな」
「依頼を出してくれた方にも、お礼を言わないといけませんね。もちろんチャド君も一緒にですよ?」
 ヒルケイプの言葉に、二人の少年は多少躊躇いながら‥‥それでも素直に頷いた。