珍獣さん、いってらっしゃい

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 39 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月08日〜01月11日

リプレイ公開日:2008年01月16日

●オープニング

 通い慣れた冒険者ギルド。
 だが、見慣れた店の風景も何とはなしに違って見える気がするのは、自分がいつもとは違った立場にいるせいだろうか。
 暫くの間、カウンターの前で逡巡するようにうろうろと視線を彷徨わせていたクリステル・シャルダン(eb3862)は、たまたま目を合わせた受付係に「何か?」と問われ、思い切ったように用件を切り出した。
「‥‥あの‥‥、お仕事をお願いしても良いでしょうか?」
 その言葉に、受付係はほんの少し首を傾げる。
「‥‥お願い、ですか? 受けるのではなくて?」
「はい、今日はお願いに上がりましたの」
 声を出した事で漸く緊張が解けたのか、クリステルはそう言ってふわりと微笑んだ。

「‥‥珍獣の‥‥散歩?」
「ええ。普段はなかなかお散歩に連れて行けない子達を、外に連れ出してあげたくて‥‥でも、一人ではとても手が足りないものですから」
 そう言ってクリステルが差し出したのは、連れ出す予定のペット達が書かれたリストだった。

 ―――――――――――――――――――
 水のエレメンタラーフェアリー・女
 陽のエレメンタラーフェアリー・女
 月のエレメンタラーフェアリー・女
 火のエレメンタラーフェアリー・女
 風のエレメンタラーフェアリー・男
 不思議な雪玉
 二本足のトカゲ?
 優れたペガサス
 さらに大きくなった妙な塊
 ジヤイアントパイソン(優れた巨大蛇)×3
 クロコダイル(優れた鰐)×2
 モア
 コカトリス
 フロストウルフ
 グリフォン
 イーグルドラゴンパピー
 ―――――――――――――――――――

 そのリストを見て、受付係の背筋が思わず寒くなる。これは確かに、気軽に散歩になど連れて行けるものではない。ましてや一人でなど、どう考えても無理な話だ。
「あの、多すぎるようでしたら、少し減らして頂いても‥‥」
 思わず眉を寄せた受付係の表情を見て、クリステルが心配そうに言った。
「ああ、いや‥‥大丈夫でしょう。冒険者が、5〜6人も集まれば‥‥多分」
「よかった」
 クリステルは嬉しそうに微笑む。
「昼間は人目がありますから、夜のうちに冒険者街を出発して、どこか人気のない所でのんびり遊んで来ようと思いますの。帰りはやっぱり、暗くなってからで‥‥」
 手伝いに来てくれる人も、自分のペットを連れて来て構わない。猛獣でも珍獣でも、人に慣れて、きちんと言う事を聞くのであれば大丈夫。
「ただ、騒ぎならないように‥‥それだけ気を付けて頂ければ。後は一緒に楽しんで頂ければ嬉しいですわ」
 日程は3日間。自分の連れて来たペットの餌や、食事は各自で用意のこと。
「出掛ける場所と、何をして遊ぶか‥‥細かい事は、皆で一緒に決めた方が良さそうですわね。では、よろしくお願い致します」
 丁寧に頭を下げると、クリステルはギルドを後にした。
 その背中と渡されたリストを交互に見比べながら、受付係は思う。どこぞの誰かに連絡しなくて良いのだろうか、と。
「‥‥まあ、大丈夫‥‥かな。多分‥‥」
 何かあったら、連絡しなくてもすっ飛んで来そうだ、などと思いながら、受付係は依頼書を掲示板に貼り付けた。

●今回の参加者

 ea1364 ルーウィン・ルクレール(35歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb2745 リースフィア・エルスリード(24歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 eb3862 クリステル・シャルダン(21歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 eb5295 日高 瑞雲(34歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb6596 グラン・ルフェ(24歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec3680 ディラン・バーン(32歳・♂・レンジャー・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

 町も、人も、大方が眠りについた真夜中。
 冒険者街から郊外へと、人目を避けるように闇に紛れてこっそりと移動する怪しい影が列を作っていた。
 行列は時折動きを止め、その度に確認作業が行われる。
「皆いますかー?」
 小声で呼び掛けるグラン・ルフェ(eb6596)の声に、あちこちから、やはり小声で返事が返る。
「えーと、でかい蛇のセルパン、シュラン、オピス‥‥でかい鰐のホアン、ジョルヌ‥‥それに、雪玉は何て名前だった?」
 手元のメモを見ながら、日高瑞雲(eb5295)は自分の担当分を確認した。
「ああ、ネージュだネージュ。それに、雪狼のシリウス‥‥よし、皆いるな?」
「こちらも大丈夫です」
 道中での確認の為に担当を決めておこうと提案した本人、ディラン・バーン(ec3680)が言った。彼の担当であるモアのティオは走り出したくてウズウズしているようだが、今のところ出がけに言われた「皆の言う事を聞くように」という言いつけを何とか守っていた。
 ルーウィン・ルクレール(ea1364)の周囲にまとわりついている妖精達も、今のところ大人しく猫を被っているようだ。
 ペット達の無事が確認されると、飼い主であり、この「お散歩」の依頼人であるクリステル・シャルダン(eb3862)は安心したように微笑んだ。
「はい、大丈夫なようですわ」
 そして再び、ディランが連れて来た明かり代わりの鬼火を先頭に行列は動き出す。
 真夜中で人目も殆どないとは言え、町の外に出るまで油断は出来ない。グランは時折行列から離れ、通りすがりの一般人がいないか周囲を確認していた。
「いきなり遭遇してパニックになられても困りますからね。ちょっと見コワイだけで、皆大人しい良い子達なんだけど」
 危険な事など何もない、とか言いつつポケットの中でコカトリスの瞳を握り締めていたり。
「いや、別に‥‥コカトリスのリトスくん‥‥さん? を、信用してない訳じゃありません、よ?」
 だが、ペットとは言え相手はモンスターだ。それ位の用心は当然だろう。
「ペガサスやイーグルドラゴンはまだしも‥‥」
 と、リースフィア・エルスリード(eb2745)が呟く。
「気まぐれな妖精、何も考えてなさそうな蛇や鰐、魔獣などは一度何かあればどうなるかわかりませんからね」
 人に慣れ、普段は聞き分けの良いペット達も、遊びに出ればハメを外して言う事を聞かなくなる可能性も全くないとは言い切れない。
 そんな事にならない為にも、まずはしっかり監視する事。それに、依頼人に何かが仕掛けられる可能性も無きにしも非ず、とリースフィアは考えていた。
「ご本人には余り自覚がないようですが‥‥」
 立場上、いつ誰に命を狙われてもおかしくない。
 そう考えたのは瑞雲も同様で、彼はペット達に気を配りながら、周囲をも警戒していた。
「もしクリステルを狙う刺客が現れたら、こいつで抹殺してやんぜ」
 そう言って手にした仕込み杖の刃を光らせる。
 だが道中は何事もなく、一行は無事に目的地に辿り着いた。

「流石にこの集団にケンカを売る人間やモンスターはいなかったみたいですね」
 霜の降りた草原で朝の光を浴びながら、グランが大きく伸びをする。だが油断は出来ない。グランは早速、周辺に鳴子や罠を仕掛け始めた。
「命知らずのマニアが特攻してくるやもしれませんからねぃ♪」
 その傍らを猛スピードで走り抜けて行ったのは、飼い主からやっと「自由にして良い」とお許しを貰ったモアだった。
「ああ! 余り遠くへ行っては駄目ですよ!」
 モア担当のディランが慌てて追いかけるが、到底追いつける速さではない。
「ティオ、待って!」
 飼い主がペガサスのスノウに乗って、そしてリースフィアがアイオーンでその後を追う。地上からは朧丸とにんたまくんが追いかけて行った。
 四方向からペガサスと犬に挟まれ、ティオは不満げに足を止める。まるで「自由にして良いって言ったのに〜」とでも言いたげな目で飼い主を見た。
「ええと‥‥この周りをまあるく走るのはどうかしら? ね?」
 クリステルが手真似で輪を描いて見せる。だがティオはその手の動きに合わせて首をぐるりと動かし、そのまま「?」の位置で止まった。
「朧丸」
 忍犬の朧丸はその一言でリースフィアの意図を察したらしい。
「ワン!」
 ティオに向かって、付いて来いと言うように吠えると走り出した。草原を囲むように、大きく、丸く。
 やがて、漸くその意味が分かったのか、ティオは嬉々として走り出した。大きく、丸く、グルグルと。
「モアが3頭もいれば、良いバリアになりますねぃ」
 そう言えばあの子は去年の今頃も、どこぞの猫屋敷の庭をひたすら走り回っていたような、と、グランは思い出す。
「そうそう、あの時はうみくんも一緒に行ったんだよね」
 そして、そこで何やら新たな歴史が始まる瞬間を目撃してしまった、らしい。
 そう、あれはまさしく去年の今日‥‥と、それは置いといて。

「今回は私の我侭にお付き合い頂いてありがとうございます」
 ペット達がそれぞれ好みの場所に落ち着いた頃、クリステルは改めてお礼を言いながら温かいお茶を冒険者達に配って歩いていた。
「いや、そんな気にすんなよ」
 瑞雲が快活な笑い声を上げる。
「そういや最近どぶろくと遊んでやってねえな‥‥と思ってな。丁度良い機会なんで便乗させて貰ったってワケさ」
 どぶろくとは、彼が連れて来たクマの名前だ。
「さーて、そんじゃいっちょ行くかぁ!」
 お茶を一気に飲み干すと、瑞雲は防寒着を脱ぎ捨てて、そのクマに向かって突進した。
 ――どすーん!
 人とクマはがっしりと組み合い、押し合う。まだ若く、さほどの大きさではないとは言え、クマはクマ。その力は侮れない。遊ぶのも命がけだが、瑞雲はやたらと楽しそうだった。
「おう、お前らも来い!」
 クマと一通り遊んだ瑞雲は、でかい蛇とでかい鰐を呼んだ。
「手加減無用、かかってこいや!」
 蛇たちの締め付けと鰐たちの噛みつきを体験してみたいようだ。
 ――みしみし、べきべきっ!
「うぉぉぉギブギブギブギ‥‥」
 ぱたり。
 本気で命がけです、大将。でも大丈夫、飼い主さんがちゃんと治してくれますから‥‥命さえあれば。

 その傍らではグランがさらに大きくなった妙な塊のアトポスに顔を埋めようとして‥‥埋まらない。ジャパンで見た和菓子のような、ぷにゅぷにゅぽよぽよな感触を期待していたのだが、それは意外にも石のような質感をしていた。ただ、多少柔らかくはあったが。
「キミ、意外と硬派なんですねぃ」
 その肌触りを堪能した後、グランはフロストウルフのシリウスに吹雪を吐いてくれるように頼んだ。
「ここには雪はないようですから、自前でちょっとした雪原を作りましょう、キミと、この雪玉くんの為に♪」
 シリウスはそんなグランを冷たい目でちらりと見ると、お望み通りに吹雪を吐いた。勿論、目の前の彼に向かって‥‥。
 凍り付いたグランを横目に、ディランは好き勝手に遊ぶグリフォンやイーグルドラゴンパピーなどの魔獣を観察していた。
「色々な変わったペットが見られて良いですね」
 寒さに弱そうなトカゲらしいがよくわからない子と、自分のペット、卵から出たばかりでやっぱり何だかよくわからない子を懐に入れ、近くに鬼火を侍らせて暖をとりながら、ディランはじっと魔獣達を見つめる。自らのモンスター知識を少しでも高められれば、という事のようだ。
 その向こうではルーウィンが7人の妖精に囲まれ、何やらめるへんちっくな雰囲気を醸し出していた。
「レイ、アウルム、ルビー、パール、それに、私のムーン、日高さんの鈿女‥‥あれ?」
 時折数を確認していたルーウィンが、何度目かのカウントでその数が足りない事に気付く。
「‥‥ジェイドはどこに‥‥?」
 好奇心旺盛な妖精達は、何か興味を引かれるものを見付けるとすぐに、どこにでも飛んで行ってしまう。
「どうしました?」
 ルーウィンの様子がおかしいのを見て、ディランが駆けつけた。
 話を聞いて、ディランはブレスセンサーで辺りを探る。
「いました、あそこです」
 だが、誰かを見付ければ、別の誰かがいなくなる。妖精達が疲れて寝てしまうまで、そのイタチゴッコは延々と続いた‥‥。
「すみません、この子達を見ていて貰って良いですか?」
 寝静まった妖精達をディランに預け、ルーウィンは自分のケルピーや、走りたそうにしているペット達を広い草原で思い切り走らせる。
「今度、ボールス卿も誘ってみますか‥‥」

「‥‥どうやら無事に終わったようですね」
 夕刻、他の仲間達が好き勝手に遊んでいる間も監視を怠らず、気を張り続けていたリースフィアが言った。
「いいえ、私はいいのです、遊びに来た訳ではありませんので」
「ありがとうございます、お陰で皆も満足‥‥」
 いや、他のペット達が遊び疲れて早く家に帰りたがっている中、黙々と走り続ける影がひとつ。
「‥‥朧丸」
「ワン!」
 朧丸が、今度はティオを止めに走る。爆走を止められたティオは、不満そうに首を振りながら地団駄を踏んだ。
「ごめんね、また連れて来てあげるから‥‥今日は帰りましょう、ね?」
 飼い主の言葉に、ティオは「ほんと?」と言うように首を傾げた。
「約束するわ。だから、ね?」
 何度めかの「ほんと?」で漸く納得したらしいティオを真ん中に挟み、一行はすっかり暗くなった草原を後にした。

「いや、報酬はいらねえって。良い機会作って貰ったしな。楽しかったぜ、有難うな」
 無事に帰り着いたその別れ際、報酬を渡そうとしたクリステルに瑞雲が言った。
「また何かあったら是非呼んでやってくれ。そいつが報酬の代わりだ」
 恐縮するその耳元でグランが囁く。
「この子達みんな連れてお嫁にいくのは大変でしょうね♪」
 その時にはグランが数匹引き取ってくれるそうですが‥‥さて、どうします?