ここ掘れわんわん
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■ショートシナリオ
担当:STANZA
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:6人
サポート参加人数:3人
冒険期間:08月07日〜08月12日
リプレイ公開日:2006年08月12日
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●オープニング
そこは、見渡す限り一面の荒れ野原だった。
「村は‥‥わしの家は、あの大きな木は‥‥どこへ消えてしまったんじゃ‥‥」
杖にもたれかかるように立っていた老人は、がっくりと膝をついた。
故郷の村を一目見たいと言う老人を、荷馬車に乗せてきた親切な青年が、そっとその肩に手をかける。
「な、じいさん。言っただろ、この村はずっと前に起こった戦で戦場になったんだ。もう、何も残っちゃいないって‥‥」
老人は放心したように岩と雑草‥‥そして、かつては家の土台だったらしい石積みが所々に僅かに残るだけの、故郷の残骸を見つめたまま動かない。
「さあ、町へ戻ろう。泊まる所がないなら、俺の家に来るといい」
青年は老人に手を差しのべ、こう付け加えた。
「ここは夜になると、死んだ戦士達が彷徨い出てくるって噂だからな‥‥」
その数日後、キャメロットの冒険者ギルドに老人の姿があった。
「頼む、わしの宝物を探してくれ。あの村のどこかに埋まっとる筈なんじゃ‥‥!」
老人は若い頃、将来を誓った女性がいた。だが、仕事で海の向こうへ渡った際に事故に巻き込まれ、全財産を失った挙げ句、故郷に戻るすべをなくしてしまったのだ。
「‥‥彼女とは、戻ったら結婚しようと約束していたのじゃ。そして、約束の印に、指輪を木の下に埋めたんじゃ。戻ったら一緒に掘り返して、それを彼女の指にはめてやるつもりじゃった‥‥」
だが、老人が何とか事業を立て直し、故郷に帰る費用を工面出来た頃には10年の歳月が流れていた。
待っている筈がない。
老人は、異国で新しい生活を始めた。
「じゃが、この年になって、死ぬ前にどうしても、もう一度故郷を見ておきたくなってのう‥‥」
しかし、待っている筈の故郷は失われ、彼女も戦に巻き込まれ命を落としていた。老人の帰りを待ち続けたまま‥‥。
「だからせめて、あの指輪だけでも取り戻したいんじゃ。頼む‥‥!」
そこは、夏の日差しを遮るものとてない荒野。
老人の家も、目印の大きな木も、今となってはどこにあったのか皆目わからない。
手当たり次第に掘り返しても、恐らく体力を消耗するだけで何の成果も得られないだろう。
「‥‥これは、犬の鼻にでも頼るしかありませんかねえ‥‥」
受付係は天井を仰いだ。
●リプレイ本文
「ああ、あの爺さんの村かい?」
先日、老人を村まで案内した青年は、マリー・プラウム(ea7842)の問いに顔を曇らせた。
「時々仕事で近くを通るんだがね。あの辺りは広い範囲が戦場になったらしいんだが、あの村は特に酷くてね、焼き討ちに遭って全滅したって話もある」
「全滅‥‥」
「ああ、生き残りがどこかにいるって話も聞いた事がないな」
マリーは丁寧に礼を言うと、情報収集に走り回っているだろう友人の元へ急いだ。
だが、こちらもあまり収穫はなかったようだ。唯一焼け残った小さな教会もその後略奪に遭い、辛うじて住民の出生や結婚を記した記録が図書館に残るのみだという。
「ありがとう、図書館にはヴァンアーブルさんが行ってる筈だから、先に待ち合わせ場所に行ってるね」
「これでは名前と生年月日しかわからないのだわ」
閲覧を許可された記録を前に、ヴァンアーブル・ムージョ(eb4646)は溜め息をつく。
「しかも、殆どの人が既に亡くなっているのだわ」
問題の彼女も、戦禍に巻き込まれて亡くなったらしい。結婚もしていなかったようだ。
ヴァンアーブルはポケットに入れた小箱の手触りを確認すると、図書館を後にした。
「そろそろ待ち合わせの時間なのだわ‥‥」
待ち合わせに指定された町外れの辻には、行商のキャラバンと見紛うばかりの荷馬車の列が待機していた。
「ど、どうしたんですか、この荷物‥‥?」
その光景に、ディアナ・シャンティーネ(eb3412)が目を丸くする。
「師匠は言った。魔法使いは隠し味」
クリムゾン・テンペスト(ea1332)は涼しい顔で答えた。
「いつもの保存食では味気ないのでな、色々と食材を見繕って積んできた。他にも何か要る物があれば調達してくるが?」
本当は現地まで配達を頼むつもりだったのだが、町の外までは出来ないと断られたらしい。
「あ、お水もあるんだ‥‥私、向こうで井戸を探そうと思ってたんだけど、必要なくなっちゃったかしら?」
と、マリー。
「私も水樽を作ろうと思っていたのですが、見ればテーブルや椅子もあるようですな」
アドムン・ジェトルメン(eb2673)も、自分の馬に積んできた材木が無駄になったかと、少し残念そうに言う。
「いや、水は日持ちがしないからな、井戸の確保は必要だろう。それに、シフールサイズの家具は用意がないそうだ。日除けも必要だしな」
「なるほど、では私はそれらを制作すれば良いのですな?」
アドムンは安心したように馬の首を撫でた。
「では、そろそろ出かけるとしようか」
七神蒼汰(ea7244)が全員揃った事を確認して、皆に声をかける。
依頼人の老人を荷馬車に乗せると、一行は目的の村に向かって出発した。
一行が村外れに野営地を定め、テントの設営を終えた頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。
「この辺りまで死人が襲ってくる事はないと思うが‥‥」
クリムゾンが野営地を囲むように薪の束を並べ、クリエイトファイヤーで火を付ける。長時間有効な炎のバリアが出来上がった。
「これでとりあえずは大丈夫だろう。さあ、宴会だ!」
口には出さないが、想い果せず老いゆく老人に、せめて故郷での楽しい一時を提供したいという思いがあった。
「お料理は私に任せて下さいね。お爺さんはどんなお料理がお好きですか?」
ディアナが荷馬車に山と積まれた食材から見繕い、自慢の腕を披露する。
「わあ〜、何だか遠足みたい。じゃあ、マリーはお酒を提供するね」
マリーが自身は飲めない発泡酒を皆に振る舞う。
それを受け取ったクリムゾンは、軽く目の高さに掲げた。
「ご老人、忘れえぬ思い出に‥‥乾杯」
老人の、村で過ごした楽しい思い出と共に、最初の夜は静かに更けていった。
翌朝、老人と、日除け作りに精を出しつつ護衛役も兼ねたアドムンを野営地に残し、冒険者達は村の跡地に向かった。
昨夜の宴席で老人が語った昔話や村の様子などを元に、マリーがその位置を空から確認し、地図に書き込んでいく。井戸も外観はかなり壊れていたが、水質に問題はなさそうだった。
「お水み〜つけた♪ これで暑くたって大丈夫だね」
「では、後で汲みに来るとしよう」
蒼汰が持参した水袋に当座の分を確保し、皆に配る。
「お爺さんの話だと、丘の中腹にあった何本かの木のうち一番大きくて立派な木の根元に埋めたという事でしたが‥‥」
ディアナの視線の先、丘があった筈の場所は、あちこち削れて大きな穴があいていた。
「とにかく、あの辺りに木の根株の痕跡が残っていないか調べてみよう。後はその周囲を犬に調べてもらって、掘り返すのはそれからだな」
蒼汰の言葉に、ディアナは彼から貰い受けたばかりの愛犬コハクの耳の後ろを撫で、グットラックをかけた。
マリーもコハクのやる気が暑さでなえない様に竪琴を奏で、メロディーで元気付ける。
「太陽がきらきら 僕の牙もきらきら 尻尾をくるんと立てて宝箱をみつけるぞ♪」
「ガイコツなんて怖くない 骨っこなんて食べちゃうぞ♪ ここ掘れわんわん♪」
「わん!」
コハクは丘を目がけて一目散に駆けていった。
丘の中腹にはいくつかの木の根らしきものの跡が残っていた。だが果たしてどれが目的の木なのか、コハクの鼻にもわからない。
「とにかく、掘ってみるしかなさそうですね‥‥」
と、ディアナ。
「この炎天下に、汗水たらして肉体労働か‥‥俺には似合わんな。ほら、俺って頭脳労働専門だし?」
などとブツクサ言いながら、それでもクリムゾンはかなりの早さで掘り進む。それは実は気合いを入れて掘っているせいか、それとも携帯用の小さな物ではない本格的なスコップを用意したせいなのか。
そして久方ぶりに訪れた生者の活動する気配に死者も活気づいたのか、掘り起こしたわけでもないのに、あちこちで腐肉や骨が起き上がってくる。
「哀れな亡者達よ。我が炎で美しく昇天したまえ!」
その度にファイヤーボムで撃破する彼は、何だかとても楽しそうだ。はーっはっはっは、という高笑いが聞こえてきそうな程に。
だが、結局その日は、いくら掘り返しても肝心な物は見つからなかった。
翌日は日除けが完成した事もあり、老人も作業に同行する事となった。
「さて‥‥どうするかな」
蒼汰はあちこち掘り返された丘の斜面を眺め渡す。昨日のうちに木が生えていたらしい場所は探し尽くしていた。
「肝心の木は、痕跡すら残っていないのかもしれんな。あの大きな穴のあいた場所は爆発の跡だろう。あの辺りに生えていたなら、どこか遠くへ吹っ飛んだのかもしれんし‥‥」
「とにかく、この辺りには違いないのよね。頑張って探しましょ」
マリーが元気に言うと、ディアナも愛犬を撫でながら微笑む。
「そうね、コハクも頑張ってくれていますし」
「今日は私もオーラパワーとオーラソードで援護いたしますぞ」
その時、変わり果てた丘の風景を見つめていた老人が静かに口を開いた。
「‥‥もう、充分ですじゃ。これ以上探しても、何も見つかりますまい」
「諦めるのはまだ早いと思うが」
と、蒼汰。
「そうなのですわ。まだ時間はあるのですわ」
「しかし、これ以上年寄りの我が儘に付き合わせるわけには‥‥」
「大事な物を取り戻したいって思うのは、我が儘なんかじゃないよ」
「最後まで、お手伝いさせて下さい」
「そうだな、こんなに早く切り上げたら、折角用意した食材が余ってしまう」
「私の活躍も、これからですからな」
皆の言葉に、老人は目を潤ませる。
「‥‥ありがとう‥‥。こんなに良くして貰って、もし、何も見つからなくても本望じゃ‥‥」
「何言ってるの、絶対見つけるからね、期待して待ってて!」
「ワンワン!」
ここ掘れ、ではなく、掘るなとコハクが教える。吠えた場所には死者が眠っていた。
冒険者達はその場所を避けて固い地面をひたすら掘り続ける。
だが、時折起こされもしない死者が勝手に起きあがってくるのは昨日と同じだ。
アドムンは穴掘りをしつつ時折舞い上がり、そんな彼等の動きに注意を払う。
「蒼汰殿、来ますぞ!」
傍らで待機する蒼汰の刀にオーラパワーを付与し、自らもオーラソードで援護に回る。
蒼汰は、相手が怪骨系なら峰打ちの居合いで打ち砕き、ズゥンビは刃側で切り裂いていく。
マリーのシャドウボムやクリムゾンのファイヤーウォールとも連携し、招かれざる客は次々に土へと還っていった。
しかし、順調に進むモンスター退治とは裏腹に、小さな指輪は見つからないままに最後の夜が訪れた。
「‥‥わしが悪かったんじゃ。格好付けとらんで、さっさと一緒になっておけば良かったんじゃよ」
酒が入って饒舌になった老人が、吹っ切れたような笑顔で語った。
「一緒に連れて行っとったら、わしの人生も変わっとったじゃろうなあ。あんたがたも、意中の相手がおるなら躊躇せん事じゃ。でないとこの年寄りのようになるでのう」
ふぉっふぉっと笑う。
そこへ、ヴァンアーブルが綺麗な小箱を差し出した。
中には、小さな指輪がひとつ。
「これは‥‥」
老人は震える手でそれを受け取る。
「同じじゃ、あの指輪と‥‥」
「今も昔も、恋人に想いを伝えるならこの指輪だと、工房の職人に教わったのだわ。代わりにはならないかもしれないけれど、受け取って貰えると嬉しいのだわ」
思わぬ贈り物に、老人は言葉をなくす。ただ、それを大事そうに両手で包み込み、肩を震わせていた。
マリーが老人の思い出の曲を竪琴で静かに奏で、冒険者達がそれに合わせて歌う。
歌声は死者の村をも包み込んでいった。
今宵は彼等も安らかに眠れる事だろう‥‥。