【リトルバンパイア外伝】ただいま修業中!
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■ショートシナリオ
担当:STANZA
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:01月16日〜01月23日
リプレイ公開日:2008年01月24日
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●オープニング
15メートル先の、動かない的。そこには10本の矢が刺さっていた。
それを引き抜きながら、レンジャー修業中のテリー・ブライトは溜息と共に呟く。
「‥‥前よりはマシになってる‥‥けど、なあ‥‥」
動かない的が相手なら、ほぼ五割の確率で狙った場所に当てられるようになっていた。だが、相手は魔物だ。じっとしていてくれる筈もなく、そして手練の冒険者でさえ「奴」には未だに傷ひとつ付けられていないのだ。
「俺なんかが手を出しても助けになるどころか、却って足手纏い‥‥かなあ、やっぱり」
犠牲になった村人達の仇を討とうなどと、考えない方が良かったのかもしれない。
‥‥そうだ、彼等が犠牲になったのも、自分のせいじゃない。あれが吸血鬼の仕業だと、急がないと危ないと言われれば、自分だって全力で走って助けを呼びに行った筈だ。悪いのは自分じゃない。何も知らなかった無知な村人達と、そして吸血鬼のそんざいとその危険性について、今まで何も教えてこなかった役人や上の連中の責任だ。
「‥‥って、押し付けて知らんぷり出来れば楽なんだろうな‥‥」
テリーは的に刺さった最後の一本を引き抜くと、矢筒に収めた。
自分がそうして諦め、誰かのせいにして大人しくしていれば、自分の村も二度まで襲われずに済んだだろう。
村人達は誰も、何も言わないが、被害を広げたのは自分のせいだとテリーは感じていた。そしてあれ以来、村人達が外の人間に対して敏感に、神経質になっている事も。
それまでは来る者拒まず、困っている者がいれば誰でも温かく受け入れ、もてなしていた気の好い村人達が、あの襲撃の後、最初に修復に取りかかったのが村の出入り口を塞ぐバリケードだった。冬のさなかだというのに、襲撃で乞われた家の修復は後回し。襲撃からひと月ほどが経とうとしている今でも、村には帰る家がなく集会所で寝泊まりしている者がいた。
吸血鬼の楽しみは血を吸い、下僕を増やす事よりも寧ろ、人の心を弄び、人間関係を破壊する事。その意味では、前回の襲撃は成功だったのかもしれない。根が深く、修復も難しいこの傷跡をどう癒していけば良いのか‥‥。
それも問題だが、それにはまず根本の原因を断たなくては、いつまで経っても、何度修復しても同じ事の繰り返しだ。
「‥‥今は、奴を倒す事だけを考えよう」
村を出て、森の中に小さな小屋を作ったテリーは、今そこでひとり修業に励んでいた。
「でもやっぱり、一人でやるには限度があるよなぁ」
吸血鬼は一度たっぷり血を吸えば、1〜2ヶ月は食事をしなくて済むそうだ。個体によってはもっと長い期間、食事をせずに過ごす事も出来るらしい。
そうなると、まだ暫くは動かないと見て良いだろう。
「今のうちに、出来る事はやっておくか‥‥」
一週間の短期集中、レンジャー特訓。
冒険者達に頼んで付き合って貰おう。
弓に、読み書き、スクロール魔法に隠密行動‥‥剣の使い方も学んでおくべきかもしれない。その他、とにかく自分に必要な事を全て。
金は‥‥少ないが、この間仕留めた鹿の肉を売って手に入れた報酬がある。
「‥‥よし」
テリーは支度を整えると、キャメロットの冒険者ギルドへと向かった。
●リプレイ本文
「‥‥もう、ダメだ‥‥死ぬ‥‥っ!」
只今絶賛レンジャー修業中のテリー・ブライトは、小屋の中に作られた寝台にどさりと身を投げると、そのまま気絶するように眠りの中に落ち込んで行った。その寝台に敷かれた布団や毛布がふかふかになっている事にも、小屋の様子が出掛けた時とはだいぶ違って‥‥綺麗に片付いている事にも気付かずに。
「やれやれ、しょうがないねえ」
その様子を見たベアトリス・マッドロック(ea3041)は、ボロ雑巾のごときテリーの体をひょいと抱え上げると、寝台にきちんと寝かせて毛布をかけてやった。
「‥‥大丈夫でしょうか‥‥?」
心配そうに覗き込んだクリステル・シャルダン(eb3862)が言う。あちこちに出来た生傷や打ち身にはリカバーをかけておいたので、命の危険はないだろうが‥‥
「まあ、2〜3日もすりゃァ慣れるだろうさ。あたしらの役目は、皆の特訓をしっかり受け止めて消化出来るよう心と身体を整えてやるこった」
座学の方はもう少し余裕が出来てからだねえ、と、ベアトリスは豪快に笑った。
それは昼間の事。
「あの腐った吸血鬼を相手にしようっていうんだ。なかなか並みの根性じゃ出来ないだろう」
レンジャーの大先輩、クオン・レイウイング(ea0714)が言った。
「その根性に免じてレンジャーの奥義を教えてやる。‥‥と言っても、いきなり来た知らない奴の実力は信頼できないだろうからな」
クオンは吸血鬼と対峙した事はあるが、テリーと会うのはこれが初めてだった。
「本当のレンジャーの技術を見せてやるよ。針の穴をも通す弓の腕と全てを惑わす隠密の技をな」
そして、まずはグラン・ルフェ(eb6596)を的に‥‥
「‥‥って、ええっ!? ま、的ですか俺っ!?」
「心配するな、怪我はさせない」
「は、はいっ! 信じてますクオン大先輩っ!」
そんな訳で。
グランは森の中を走る。頭と手足にヒラヒラと動くリボンを付け、その先端に的となる小さな板きれを結び付けて。
「よく見てろよ」
それを追ったクオンは、複雑に動き、逃げ回る的をいとも簡単に次々と砕いていった。
「す‥‥げ‥‥っ!!」
テリーが目を丸くする。
「やる気を見せるならそれこそ本当のアルスターの奥義を教えてやる。その代わり、反抗は一切許さない、勿論泣き言も逃げる事もな。生半可な練習じゃ、死ぬだけだからな」
それでもやるかと問われ、テリーは力強く頷いた。
「良い覚悟だ。じゃあ‥‥まずはあの動かない的に当ててみろ」
「それなら‥‥」
多少は自信がついてきたと本人が言うだけあって、放った矢は殆どが的の中心近くに当たる。
「以前は殆ど当たらなかったと聞いたが、随分上達したではないか」
その様子を見ていたメアリー・ペドリング(eb3630)が素直に褒めた。褒める事で人は成長する、彼女は過去の経験からそう学んだらしい。それに実際、お世辞を言うまでもなくテリーの腕は確実に上がっていた。
だが、それがレンジャーとしてどの程度のレベルなのか、それは門外漢であるメアリーにはわからない。
「テリー殿もそれがわからず、不安に思っていたのやもしれぬな」
と、聞こえないように呟く。
そしてやはり、プロの目から見ればまだまだ到らない所だらけのようで、テリーは弓を構える時の足や腕、体の角度など、細かい所を直され、その結果‥‥
「やっぱり一度は誰かにちゃんと見て貰わないとダメだな」
矢の命中率は格段に上がっていた。
礼を言うテリーに、クオンはまだまだこれからだとニヤリ。
「動物を狩ることは問題ないようですから、動いている的に正確に当てることは難しくないでしょう」
次はこれですね、とロープと毛布を木の枝にかけて自在に操れるようにした、動く人型の的を作ったグランが言う。
「あの吸血鬼の少女のイメージをしっかり頭に描き、心臓に狙いを定め‥‥臆さず矢を放てるよう繰り返し練習ですよ」
ならば的の方もそれらしく見えるように‥‥とは思うが、まあ想像力を鍛えるのも練習のうちだ。
狙いを定め、疲れて腕が上がらなくなるまで矢を放ち続ける。
それが終わったら、今度は隠密行動の訓練だ。罠の作成・発見・撤去、忍び足、縄抜け等々、まずはグランが手本を見せ、その後でテリーに同様の事をさせてみる。失敗したり、気になる癖は徹底的に直す。
その後はちょっと一息‥‥と、思いきや。
「あたしがレンジャーの道に行かせた訳だから責任はあるわよね」
と、現れたのは木剣を手にした本多桂(ea5840)。
「弓はどうやら超一流の先生がついたみたいだし、あたしは自分の得意の剣を教える事にするわ」
「いや、ちょ‥‥俺、もう腕がっ!」
剣など持てないとアピールするテリーに対し、桂はにっこりと微笑んだ。
「大丈夫、あんた剣は得意そうじゃないし、避けるのを中心に覚えた方が良いから。前衛はリューに任せる訳だからリューが来るまでの時間稼ぎ程度の腕があれば良い訳だからね」
という事で、まずは避ける訓練。これなら剣は持たなくても出来る。
「少しづつスピードを上げていくから安心しなさい。あたしの見えづらい剣技を避ける練習をする訳だから、弓に必要な動体視力も養われるって事よ。一石二鳥よね」
暗くなり剣筋が見えなくなるまで訓練は続き‥‥
気が付けば、朝。
その日も昨日と同様、いや、それ以上のハードな訓練がテリーを待ち構えていた。
まずはシエラ・クライン(ea0071)によるナイフやアイスチャクラによる攻撃の訓練。
そして‥‥
「テリーさんの一番優れている所は生来の危険察知能力だと思いますので、そこを伸ばす為に俺が心を込めて森の中に罠を仕掛けておきました!」
グランが嬉々として言う。
「よし、今日はその罠を回避しつつ、俺達二人と戦って貰おう」
「えええっ!!?」
クオンの言葉に思わず声を上げたテリーだったが‥‥
「言った筈だ、反抗は一切許さない」
「‥‥はい」
覚悟を決めたテリーに昼食用の弁当を手渡しながら、クリステルが言った。
「訓練に集中するのは悪い事ではありませんが、食事や休息をとる事は忘れないで下さいね」
だが、それは生徒よりも、そこの鬼教官に言った方が良いような気がする。
「時間が無いのは承知していますが、どうかお体を大切に‥‥」
「だが、上に行こうとするならば時には無理も必要であろう。テリー殿自身がわかっているように、まだまだ足りぬであろうからな」
今日も褒めておだててその気にさせる作戦続行予定のメアリーが言った。
そして数日。テリーの体が地獄の特訓にも慣れ、夜にも多少は余力を残しておけるようになった頃‥‥今度は頭の特訓が始まった。
「吸血鬼の弱点に関する噂は色々ありますけど、陽の光に弱い事と、鏡に映らない事以外は確認出来ていないのですよね。敵の弱点にはあまり頼らない方が良いでしょう」
シエラがこの先戦う可能性があるアンデッド類の習性や能力、特に黒の神聖魔法等を優先して教える。本当は他にも色々と‥‥他のモンスターや動植物に関する知識や魔法の道具の解説等、教えたい事、知って欲しい事は山のようにあるのだが、時間は限られている。しかも体を動かした後の疲れた状態では、頭の働きには余り期待出来そうもなかった。
「読み書きについては、どの程度出来るのでしょうか?」
アクテ・シュラウヴェル(ea4137)が尋ねた。
「いや、その‥‥読むのは、何とか‥‥まあ、ギルドの依頼書は半分位わかる、かな」
恥ずかしそうに言うテリーに、アクテは恥じる必要はないと微笑む。
「冒険者でもその程度な方々は沢山いますから。必要なのは相手に分かりやすく状況を伝えようという心、相手の事を理解しようという心ですわね」
「ただ、簡単な文章とテリー殿自身の名前が書ける程度は目指したい所であるな」
メアリーが言った。
「吸血鬼を倒した後も、テリー殿の人生は続く。読み書きの技術は、その後にも活かせようからな」
「では、その辺りを目標に‥‥精霊碑文学は、手間と時間をかけて学ぶ事で成功率を高め、必要なスクロールを揃え、状況によってそれらを使い分ける判断力まで身に付けて初めて実用たり得る分野ですから‥‥。今、無理して身に付けても使いでは薄いと思いますし」
「そうですね。では、これは宿題という事で‥‥読み書きの次の課題ですね」
シエラの言葉にアクテは頷き、今はまだ読めなくてもと、テリーに一枚の羊皮紙を手渡した。それはウィンドスラッシュのスクロールを彼女が自分で書き写したものだった。
「時間があれば、武器の手入れも教えましょう。腕が上がっても武器の手入れの基本を知らなければ宝の持ち腐れです。優しく丁寧に見てあげて下さい。信じられるものを増やしていくのはとても大事な事です」
そう言って、アクテは筆記用具とシルバーアローを一本、テリーに渡す。
読み書きの教材は、自習も出来るようにとシエラとクリステル、それにクオンが用意してくれた‥‥クオンは、一人でも訓練が出来るようにと特訓メニューも。
そして、あっという間に一週間。
「この程度なら今の坊主にも読めるだろ?」
最終日、そう言ってベアトリスが手渡したのは、テリーへの応援メッセージが書かれた羊皮紙だった。彼の決意を後押しして欲しいと、村まで行って集めて来たものだ。
「坊主はちゃんと正しい道を歩んでるよ、安心おし」
例によって、テリーの今イチ頼りなさげな背中をドカンと叩く。
「皆、テリーさんを応援してくれてるんですね」
グランが嬉しそうに言った。
「どうか村に帰る時は笑顔で村人達を元気付けて下さい。どんなバリケードよりも皆が気をしっかり持って支えあう絆こそ吸血鬼を退ける筈ですからね」
「あたしらがいないからって、サボるんじゃないわよ? ボヤボヤしているとリューとの約束の時間はすぐに来るんだから」
桂が悪戯っぽく笑った。
「あんたがあたしらの切り札になるかもしれないんだからね」