焼いちゃダメ!?

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 80 C

参加人数:5人

サポート参加人数:2人

冒険期間:01月29日〜02月03日

リプレイ公開日:2008年02月06日

●オープニング

「今年は何だか、裏の山には餌が少ないようでねぇ‥‥」
 依頼人の男は冒険者ギルドのカウンターに申し訳なさそうな様子で小さな金袋をそっと置いた。
「人里に近い所にもモンスターが下りて来るんだよ。幸いまだ被害は出てないんだが、何かあってからじゃ遅いしねぇ。ただ‥‥」
 と、男は金袋と受付係を交互に見る。
「この程度で足りるのかどうか‥‥」
「それは、相手にもよりますが‥‥姿は見ましたか?」
「ああ、ちらっとだが」
 受付係の問いに男が答える。
「青っぽい肌をした、でっかい巨人みたいな奴だたっね。見たのは一頭だけだが、足跡の様子だともっと多くいる感じかなぁ。3から4、いや、もっとか‥‥」
 その話から、恐らく相手はトロルだろうと受付係は判断した。
 3体程度なら中堅の冒険者でも問題はないだろう。もっと数が多いか、集まったメンバーの中に火の魔法が使える者がいない場合は苦戦を強いられるだろうが‥‥まあ、返り討ちに遭う事はあるまい。
「今それは山から下りて、人里の近くにいるんですね?」
 受付係が確認する。
「ああ、お陰で今年は小鬼達の姿が見えないのは助かるんだがね」
 小鬼とはゴブリンの事か。今のところ、トロル達はその小鬼で腹を満たしているらしい。だがその餌がなくなれば、次に襲われるのは家畜や‥‥人間。
「そんな事になる前に、頼むよ。報酬が少なくて申し訳ないんだがね‥‥」
 男はまだ金の事を気にしていた。
「いやいや、そんなに気にしなくても大丈夫ですよ。冒険者は金だけの為に動くような人達ではありませんから」
 受付係が糸のように細い目を顔の笑い皺と同化させて微笑んだ。

 ‥‥が。
 どうもこの受付係の「大丈夫」はアテにならないようだ。結局募集に対して充分な人数が集まらず、男は来た時と同じように一人で村へ帰って行った。
「‥‥いや、大丈夫だ。人里近くで姿を見たからと言って、必ず襲って来るとも限らんしね‥‥」
 そう、自分に言い聞かせるように呟きながら。

 そして後日。
 風の噂で、その村の家畜小屋がトロルに襲われたという話を聞いた受付係は意を決した。
「軽々しく大丈夫などと言った私にも責任がありますから‥‥」
 受付係が自腹を切り、再びトロル討伐の人員が募集される事となった。
 果たして、今度は‥‥?

●今回の参加者

 eb7700 シャノン・カスール(31歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec1071 阿倍野 貫一(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ec1110 マリエッタ・ミモザ(33歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ec2813 サリ(28歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)
 ec3138 マロース・フィリオネル(34歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

サスケ・ヒノモリ(eb8646)/ スティンガー・ティンカー(ec1999

●リプレイ本文

「申し訳ありませんでした!」
 雪に閉ざされた村に突然現れた見知らぬ人間達に首を傾げる村の代表者‥‥以前、ギルドに依頼を出しに来た男を前に、マリエッタ・ミモザ(ec1110)はいきなり頭を下げた。
「前回は仕事が入って来られなかったのですが‥‥その事で村が危機的になってしまい心が痛いです。でも、これ以上被害が出る前に、きっちり、片をつけます!」
「え? いや、あの‥‥でも、頼んだ覚えは‥‥ないんだが、ね」
 覚えはあるが、その話は結局人手が集まらずに流れた筈だ。
「噂でこの村の事を聞きつけて、依頼を出し直してくれた方がいるのです」
 シャノン・カスール(eb7700)が言った。
「最初の時に、すぐに駆けつけていれば良かったのですが‥‥もっと早ければ被害も少なかった筈ですから」
 申し訳ないと頭を下げるシャノンに、男は慌てて首と手を振った。
「と、とんでもない! いや、でも‥‥報酬に用意した金は、もう‥‥」
「報酬もその方が用意して下さいましたので、ご心配には及びません」
 サリ(ec2813)が微笑む。
「それで、問題の小屋はどちらでしょう? 家畜小屋にトロルが立て籠もっていると伺ったのですが」
「ああ‥‥とろる、と言うのか、奴等は?」
 男は村外れの‥‥小屋と呼ぶにはかなり大きな建物を指差した。
「いや、本当に‥‥退治してくれるなら本当に助かるんだがね‥‥」
 自分にも出来る事があったら何でも言ってくれ、必要な物は出来る限り用意させて貰う‥‥そう言って、男は深々と頭を下げた。

「トロル達はまだ、小屋の外には出ていない様ですね」
 マリエッタは小屋の周囲をババ・ヤガーの空飛ぶ木臼で飛びながら、小屋の周囲に付いた足跡や近くに出歩いているトロルががいないかを確認すると、そっと地面に降りてブレスセンサーを唱えた。
「中には‥‥4匹?」
 そして、サリが足音を立てないように用心しながらゆっくりと小屋に近付く。足には雪上を歩く為のかんじきを履いていた‥‥ただし、自作ではないが。コロポックルの伝統なので見よう見まねで作れるかと思ったのだが、外枠の代わりにと用意した刺繍用の丸い枠にロープをかけて固定するのは至難の業。今、彼女の足にあるのは代わりに作り方を聞いた依頼人‥‥いや、元依頼人が用意してくれた、トネリコの枝を曲げて作った物だ。
 開け放しになった戸口からそっと中を覗くと、青い肌をした巨体が4つ、ぐっすりと寝入っている。小屋の中に、他の生き物の姿はなかった。
「‥‥もう、全て食べられてしまったのでしょうか‥‥」
 だとしたら、危ない所だった。目覚めたトロルは今度こそ人間を襲うかもしれない。
 あらかた準備が整った所で、サリと同様にかんじきを作って貰ったシャノンが小屋に近付き、自らにフレイムエリベイションをかけ、更にサリと阿倍野貫一(ec1071)が手にした武器にバーニングソードの効果を付与する。そして、寝ているトロル達にアグラベイションをかけた。
「これが効いているうちに、小屋から外へ誘き出しましょう」
「拙者に任せるでがんす!」
 貫一はトロル達を広い場所に誘き寄せようと、新巻鮭を持ってマロース・フィリオネル(ec3138)と共に木臼に乗る。
「とろる、とやらは回復する妖怪でがんすか。さすがに世界は広いものですな‥‥」
 出発前にサスケ・ヒノモリやスティンガー・ティンカーから聞いたトロルについての話を思い返しながら言う貫一に、しかしマロースは首を傾げた。そう言えば彼はまだイギリス語を修得しておらず、スティンガーの話もサスケやマリエッタに通訳を頼んでいた事を思い出す。
「こ、これは失礼。せ、拙者、まだイギリス語に疎いもので。まことにおしょずい話でがんす」
 と、そうは言ってもそれもジャパン語なので、やはり通じない‥‥が、何となく意図は伝わったようで、マロースが「気にするな」と言うように微笑みながら頷き返す。
 しかし木臼は本来お一人様専用。そこに二人で腰掛けるのはちょっとキツい‥‥そしてバランスも悪い。貫一が新巻鮭を下に落とそうと体重を移動させた瞬間‥‥
 ――グラリ。
 木臼が揺れた。そして、半ケツ状態になった貫一が木臼から滑り落ち、次いでマロースも‥‥
「ぬぉぁあっ!?」
「きゃあぁっ!」
 ――ぼすっ!!
 二人は雪に埋もれた‥‥。幸い高度もそれほどではなく、下が雪だった為に怪我はなかったが‥‥代わりに、物音でトロルが起きた。
 一頭の青い巨体が、のそのそと小屋から出て来る。
 マロースは慌てて起き上がると、他のトロルが出て来ないうちにと小屋の入口を塞ぐようにホーリーフィールドをかけた。だが、威力よりも確実性を重視して初級で唱えたそれは、見えない壁に阻まれて機嫌を損ねたトロルの一撃で簡単に破られてしまった。
「一匹ずつ誘き出せればと思ったのですが‥‥」
 思った通りには事は運ばなかったようだ。4匹のトロルが列をなして、二人が落ちた場所へと近付いて来る。
 その後ろから、扉の影に隠れたマリエッタがストームの魔法を放つ。角度を調整し、まだ身動きが取れずにいる仲間に当たらないように。トロルを転がし、上手く行けば邪魔な雪を飛ばしてしまえれば‥‥
 ――ゴオォッ!!
 突然の暴風に、後ろにいた二頭のトロルがひっくり返る。雪も上手い具合に吹き飛ばされた様だが‥‥二人の周囲の雪は当然、まだそのままだ。突風で煽られ、かえって高く積もったような気もする。
「ジャパン浪人、阿倍野、推して参るでがんす!」
 雪を掻き分け、漸くその中から脱出した貫一は未だバーニングソードの効果が残る斧を手に、ストームの影響を受けなかったトロルに向かって突っ込んで行く。トロルの方も、そこに転がっている新巻鮭や強烈な匂いの保存食よりもピチピチフレッシュなお肉の方がお好みらしく、真っ直ぐに貫一の方に向かって来た。
「拙者の攻撃がどこまで通ずるか、いざ尋常に勝負でがんす!!」
 思わずジャパン語で叫びながら、貫一はトロルの背後に回り込み、その背に斧の刃を叩き付けた。
 その脇から、サリがフェイントアタックEXで切りつける‥‥が、折角の攻撃もフェイントアタックでは威力が低下し、全くダメージを与えられない。
「サリ殿、背中からならポイントアタックの方が有効でがんす。お持ちではないでがんすか!?」
「あ、いいえ‥‥」
 言われて、サリは攻撃方法を切り替える。それでも軽傷程度ではあったが、それならばダメージの累積が出来る。
「阿倍野さん、ありがとうございます」
「なんの、さて、こいつをきっちり片付けるでがんす!」
「はい、後ろには行かせません!」
 その二人を挟み撃ちにしようと追ってきたトロルに、マロースがコアギュレイトをかける‥‥が、元気な相手にはなかなか効きにくいようだ。
 仕方なく、マロースは貫一とサリの攻撃でダメージを負ったトロルに矛先を変える。それが動きを止めたのを見て、二人は新たな敵に向かって行くが、そろそろバーニングソードの効果が切れそうな頃合いだった。
 そしてマリエッタはスクロールを広げ、二体が倒れた所を狙ってファイヤーボムを撃ち込む。
「炎でしかダメージを与えられないなんて屈辱!」
 と、叫びながら。しかしその炎でさえ、初級ではかすり傷しか与えられなかった。仕方なく、マリエッタはスクロールをスリープに持ち替える。
「少し眠ってなさい!」
 そこにマロースがコアギュレイトで追い打ちをかけ、身動きの出来なくなった二体に対して火の鳥シャノンがファイヤーバードで一体ずつ集中攻撃をかける。動かない相手なら、格闘能力が低くても外す心配はそれほどない。一度の発動で一体に重傷を与え、さて二度目‥‥と思った時、前衛の二人から声がかかった。
「シャノン殿、すまぬ、もう一度お願いしたいでがんす!」
 MPは‥‥ぎりぎりで何とかなるか。
 シャノンから再びバーニングソードの付与を受けた貫一とサリは、残ったトロル達に止めを刺して行く。ファイアーバードで仕留め損なった一体には、シャノンからファイヤーボムより僅かに威力の高いマグナブローのスクロールを借りたマリエッタが最後の一撃を入れた。
「これなら文句ないでしょう!?」
 などと叫びながら‥‥。

「ありがとうございます、本当に何とお礼を言って良いか‥‥」
 脅威が去った事を聞いて姿を現した村人達が、口々に礼を言う。
「でも、本当に、その‥‥報酬は良いのだろうかね?」
 申し訳なさそうに、そして少し心配そうに言う元依頼人の男に、家畜小屋の掃除と犠牲になった家畜の弔いを終えたマロースが言った。
「私達はきちんと報酬を頂いていますし‥‥それに、余裕があるなら新たに家畜を買う時の為にとっておいた方が良いのではないでしょうか」
 今回の依頼人であるギルドの受付係からは、自分の事は言うなと口止めされていた。何と言うか‥‥気恥ずかしい、らしい。
 それに、まだ他にもトロルが残っている可能性がある。今の所はこの近くにはいない様だが、今回片付けたこれが全てであるとは限らない。だが、冒険者達には近くの山まで入ってそれを確認する余力はなかった。
「もしまた何かが出て来たら、遠慮なくギルドに頼んで下さいね」
 マリエッタが言った。
「私達は本当に、皆さんのお力になりたいと思っているのですから」
 それに応えるよう笑顔で頷いた冒険者達に、村人達は再び感謝の言葉を浴びせかける。
「今日はこの村でゆっくり疲れを癒していって下さい。何もありませんが、とりあえず温かいものと寝床くらいは用意出来ますんでな‥‥」