籠の鳥は独り啼く
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■ショートシナリオ
担当:STANZA
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 71 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月25日〜01月31日
リプレイ公開日:2008年02月02日
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●オープニング
「‥‥ウォルが暫く留守にするなら、エルの世話を誰かに頼まないと‥‥」
次の仕事にウォルを連れて行くと決めたボールスは、その日再びギルドを訪れた。
今までもウォルがいない時には城内の者が代わる代わるエルの相手をしていたが、ボールスには今、息子の他にもうひとつ気掛かりな事があった。
それは、望まれざる居候フォルティナ。
彼女の腹部は既にその膨らみを隠すのが難しいほど、大きくなっていた。勿論、ボールスが手を出したという彼女の言い分は嘘八百だ。だから本来ならボールスには何の責任も、義務もないのだ。
しかし追っ手からの保護という名目で関わってしまった以上は、それが狂言だと判明しても尚、勝手にしろと放り出す訳にはいかなかった。彼女も、お腹の子供も。
正直、面倒だ。彼女が宿しているのがセブンオークス領主、ロシュフォード・デルフィネスの子供なら、尚更。
セブンオークスはタンブリッジウェルズのすぐ北にある土地だが、その領主はボールスを追い落とし、タンブリッジウェルズの土地を獲得しようと狙っている節があった。そんな男の子供を保護しているとなれば、どんな言いがかりを付けて来るか‥‥。
だが、生まれて来る子供に罪はない。
親元に帰すのが一番の幸せなら喜んでそうするが、状況から見てその可能性は低い。寧ろ母親もろとも「なかったこと」にされる危険の方が遙かに高いのだ。
安全が保証されない限り、誰に何と言われようとロシュフォードの許へ帰す訳にはいかない。
しかし、ただ安全ならそれで幸福なのかと問われると‥‥
「何が幸福か、そんなものは当人以外、わかる筈もない‥‥か」
これは、不当な拘束なのかもしれない。だがそれでも、彼女に新たな命が宿っていると知れば尚のこと、危険に晒す訳にはいかなかった。
せめて子供が無事に生まれるまで。その後は好きなようにすれば良い。何があっても、責任は自分が取る。‥‥どう取れば良いのか、それはまだわからないが。
彼女が望むなら、生まれた子供は自分が引き取っても良いと、ボールスは考えていた。丁度エルも弟を欲しがっている事だし‥‥いや、生まれて来るのは妹かもしれないが。血の繋がりなど、問題ではない。
当然、フォルティナ本人の承諾も必要だし、他にも相談すべき相手がいる。自分一人で決められる事ではないが‥‥。
「‥‥いや、それはまだ先の事‥‥今はとにかく、少しでも楽しく安心して過ごせるように‥‥」
最近ふさぎがちな彼女には、誰か話し相手が必要だろう。だが城で働く者達に、彼女は心を開こうとはしなかった。
ボールスの要請と知れば、やはり頑なに心を閉ざし、打ち解けてはくれないかもしれないが、それでも。
「どなたか、子守の得意な方を数名お願いします。それに、出来れば出産を控えた女性の、話し相手などもお願いしたいのですが」
ギルドの受付で、ボールスはそう言った。
何やら要らぬ誤解を与えそうな表現ではあるが、本人は全く気付いていない。
「ええっ!? やっちゃったんですかっ!? 手ェ出しちゃったんですか、ボールス卿っ!!?」
ほらやっぱり。
受付係は思いっきり誤解し‥‥
――スパァン!!
思いっきりハリセンで叩かれた。
●リプレイ本文
「エルく〜ん、お名前は〜?」
「えりゅでぃん・ど・がにす、です! よんさいです!」
ウィンディことシェリル・シンクレア(ea7263)に名前を聞かれ、エルは元気にお行儀よく答えた。
「よーしよし、坊主は良い子だねえ」
その金色のふわふわ頭を、しゃがみ込んだベアトリス・マッドロック(ea3041)がわしわしと撫でた。そうしてしゃがんでさえ、その顔はエルの遙か頭上にあるのだが、エルは大きい人にも小さい人にも慣れていた。
「ほう、エル君は大きい人が怖くはないのか。では、これはどうかな?」
ヒースクリフ・ムーア(ea0286)がエルの体をひょいと持ち上げ「高い高い」をしてみせる。本気で高いが、エルは全く怖がる様子も見せなかった。
「もっと高いのはどうかしら?」
シェリル‥‥いや、ウィンディが言った。
「ちょっとだけ目を閉じて待っていて下さいね。ぷかぷか浮かせて上げますわ♪」
そう言って彼女がエルにかけたのは‥‥リトルフライ。しかも超越。自分で飛べます。効果は丸一日。
‥‥どこかに飛んで行ったり怪我をしたりしないように、責任持って一日中エルの世話をお願いしますね?
「大丈夫です♪ ちゃんと手取り足取り教えてあげますわ♪」
‥‥いや、そういう問題じゃなくて‥‥。
まあ、それはとりあえず良いとして‥‥いや、良くはないかもしれないが、遊ぶ方も遊ばれる方も共に楽しんでいるので、その点では問題はない。
問題は‥‥
「さーて、こっちの嬢ちゃんは何て名前だい?」
ベアトリスに尋ねられても、そのお嬢ちゃんはウンともスンとも言わない。ただ黙って視線を逸らしていた。
「もう一度訊くよ? 嬢ちゃんの名前は?」
ベアトリスはその大きな手で相手の両頬を挟み、強引にその目を覗き込む。
「答える義務はないわ。どうせ調べは付いてるんでしょ?」
そして後ろの方で気まずそうにしているエルフの少年‥‥ウォル・レヴィン(ea3827)を指差した。
「あんた、こないだも来てたでしょ? やっぱりあいつの差し金ね!?」
「あ‥‥バレてた? あまり顔を合わせる機会がなかったから、大丈夫だと思ったんだけどな‥‥」
ウォルは観念したように冷や汗混じりの苦笑を浮かべる。
「ええと、フォルティナさん‥‥だよね。そう、ボールス様に頼まれたんだ、エルくんと、あなたの世話って言うか‥‥話相手を」
「余計なお世話よ! 私の為に何かするなら、ここから出して!」
「あ、外出するならお付き合いしましょうか?」
陰守森写歩朗(eb7208)が言った。
「お買い物とかのお散歩くらいなら、軽い運動にもなって良いと思うのですよ」
「そりゃまあ、体を動かす事についちゃ賛成だがねえ」
ベアトリスが言った。既に安定期に入っているなら今の内に体を動かしておかないと出産の時に辛い事になる。
「だが、ここの旦那からは許可は出てない筈だよ」
「中々に複雑な事情が有るようだし、今回はやめておいた方が良いだろうね」
ヒースクリフも気乗りしない様子だった。
「それよりは、ささやかな茶会と洒落込みたいな。互いの自己紹介も兼ねて、難しい事を考えずにお茶を楽しむのも良いんじゃないかな?」
そう言って、持参したリコリスのクッキーを差し出す。
「あ〜。それ、ええわ〜」
藤村凪(eb3310)が相変わらずの〜んびりと言った。
「お茶ならウチが淹れてあげるさかいな〜」
ただし、ジャパンの茶道の技術で紅茶を。
「あんなー。ウチ、紅茶淹れるのが慣れてないから美味しくないかもしれへんけど‥‥」
そしてやはり、そのお茶は何と言うか‥‥
「何これ、まずっ!」
美味しくないと言うよりも、味がしない。それはまあ、低い温度で淹れたのでは味が出なくて当然だろう、緑茶と違って。
「あや〜、さよか〜? 紅茶は湧かしたてのお湯で淹れなあかんのんか〜」
フォルティナに正しい紅茶の淹れ方を教わり、凪は「淹れ直して来るわ〜」と部屋を出て行く。
やがて再び差し出された紅茶に、フォルティナは一言ぽつりと言った。
「‥‥美味しい」
他の誰が何を言っても、ろくに返事さえしなかったのに。
「やはり凪さんの人徳なのでしょうか‥‥」
森写歩朗が感心したように呟く。まあ、彼女のほや〜んとした和みのオーラに晒されて尚、尖っていられるのは相当な強者だろう。
凪のお陰でほんの少し打ち解けたかに見えるフォルティナに対し、皆が口々に語りかけた。
「‥‥1人で2人分の命を支えているのですから、色々と大変なのはしょうがないでしょうし、お手伝い出来る事があるなら、なんなりとお申し付け下さい」
厨房を借りて早速簡単なお菓子を作ってきたマイ・グリン(ea5380)が、それを差し出しながら言う。
「だから言ってるでしょ、私を自由にしてって!」
「‥‥それは‥‥私達には叶えてあげられないけど‥‥あの、良かったら一曲、どうですか? 何か、好きな音楽‥‥ありますか?」
竪琴を抱えたエスナ・ウォルター(eb0752)がおずおずと尋ねる。
「妊娠中は‥‥苛々しちゃいますよね。そんな時‥‥何か、例えば趣味とか‥‥集中できることをしたら、気が紛れるそうですけど‥‥」
返事がないので、エスナは話題を変えてみた。
「そうだねえ、暇な時に産着を縫ってみないかい? 作り方がわからなきゃ教えてやるから。産まれるなァ初夏だけど、先を見込んで毛糸の手袋や靴下を編むのもいいね。子供の為に集中出来る事がありゃ、気も紛れるだろ」
「アクセサリーを少しずつ作ってあげるというのはどうですか?」
「手仕事が苦手なら、おやつとか作ったことはありますか? もし良かったら一緒に作ってみませんか?」
ベアトリスとウィンディ、森写歩朗にも言われたが、反応はなし。
「ん〜、仕方がありませんわ♪ この時期は食欲や情緒が不安定になるそうですから‥‥私は酷くなかったんですけど」
妊婦経験ありと本人は主張しているが、どう見てもそうは思えないと言うか信じられないシェリル‥‥じゃなくて、ウィンディが言った。
「‥‥食欲も影響を受けるのですか‥‥」
マイが言った。
「‥‥それなら、何か食べられそうな物や、好きな物はありますか? ‥‥教えて頂ければ、この期間中は好みに合わせて何か体に良い物を作らせて頂きます」
それでも、返事はない。
「私達を信用しろとは言わないよ。ただ、私達皆、そのお腹の子が無事に生まれる事を願っている。それだけは信じて欲しい」
何も言わないフォルティナに、ヒースクリフが懇願するように言った。
「だから‥‥今はロシュフォード卿やボールス卿の事は置いておいて、まずその子を無事に生む事を第一に考えては貰えないかな」
「‥‥子供なんか欲しくなかった」
フォルティナが呟く。誰の声も聞こえていないかの様に。
「ロシュ様は喜んでなんかくれないわ。きっと、面倒な事になったって‥‥私、ロシュ様の役に立ちたいのに、役に立たなきゃいけないのに!」
何か手柄を立てなければ彼の許へは帰れない。帰っても、妻として迎えては貰えない。
彼の現在の妻を追い落とすには、彼が望むような手柄を立てなければならないと、フォルティナはまだ頑なにそう信じ込んでいた。手柄とは、例えば‥‥この城の主、ボールスの弱味を握り、この土地を欲しがっているロシュフォードに有利な状況を作る事。それは上手くこの城に潜り込んだ自分にしか出来ない仕事だと、彼女は思っていた。なのに、何の情報も掴めず、身動きさえ取れない。だが‥‥
「‥‥ここから逃げたい。もうこんな所にいたくない!」
帰れないと言いながら、一方では無性にロシュフォードに会いたい。誰よりも父親である彼に祝福されたい。
相反するようではあるが、そのどちらも本心だった。
「お腹の赤ちゃんと‥‥フォルティナさんに、幸運が訪れるように‥‥これ、あげますね」
エスナはそう言って、水晶のダイスを手渡した。
「元気な、赤ちゃん‥‥産まれるといいですね」
「じゃあ俺はこれを」
そう言ってウォルが手渡したのは金の羽鶴だった。例えどんな事情があっても、生まれてくる命に罪はない。
「お母さんになるんだし。子供と一緒に幸せになれるよう幸運を祈るよ」
フォルティナは黙ってそれを受け取った。礼も言わないが、返す事もしない。
そんな彼女に、森写歩朗は他の者には聞こえないよう、そっと耳打ちをする。
「もし逃げるつもりがあれば、それはそれで声をかけて下さいね。勝手にお供しますから」
勿論、実際に逃がすつもりはないのだろう‥‥多分。
だがその一言で、彼女の心が揺れた。
ここを出るつもりなら、味方してくれる人がいる‥‥彼女はそう感じたようだ。後は何か、手土産を探すだけだ。自分がロシュフォードの妻の座を獲得し、お腹の子供と共に晴れて領主の一族となれる、それだけの価値のある手土産を。
その瞬間から、フォルティナの態度が変わった。掌を返したように、友好的に。
だが、彼女の内心など知る由もない冒険者達は素直に喜んだ。やっと自分達の気持ちが通じたのだと‥‥。
「ま、誰だって初めての時は不安になるもんさ。考え込むなっても無理な話だろうけど、なるたけ気にせず笑ってるこったね」
ベアトリスがその大きな手で、フォルティナの頭をぽんぽんと軽く叩いた。
「エル君‥‥お歌、好き‥‥?」
お茶会も終わり、遊び疲れたエルを昼寝させようとエスナが竪琴を奏でる。
「うん、だいすきー!」
「よかったら‥‥お姉ちゃんの練習、付き合って貰える‥‥?」
エルは素直に頷いた。練習とは何か、実はよくわからないのだが。
「おねーちゃん、とーさまよりずっとじょーずだねー」
「え、えと‥‥」
ボールスは音痴なのだろうか?
「んとね、とーさまはね、なんてうたってりゅか、よくわかんないの」
それはきっと、ゲルマン語だから。
やがて子守歌を聴きながら眠ってしまったエルの姿を、誰かが遠くからじっと見つめていた‥‥。