お届け物です!

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:4人

サポート参加人数:1人

冒険期間:02月13日〜02月18日

リプレイ公開日:2008年02月21日

●オープニング

「あの、すみません‥‥届け物をお願いしたいのですが‥‥」
 冒険者ギルドは配達屋ではないが、時折こうした依頼が舞い込んで来る。普通の手紙や届け物ならばシフール便の仕事だが、道中に危険が伴うならば、それは立派に冒険者の仕事だった。
「はい、かしこまりました。それで、届け物はどちらに?」
 受付係はそう言って、依頼人の少年を見た。年の頃は15〜16歳、装備と身なりからして、騎士か‥‥その見習いだろう。
「あの、僕を届けて欲しいんです」
「‥‥は?」
 それはつまり、届け物ではなく護衛では?
「護衛‥‥って言うか‥‥でも僕、どこへ行けば良いのかわからなくて。だから、届けて欲しいんです。主人の所に」
 少年は真剣そのものの顔でそう言った。ふざけている訳ではないらしい。とすると、記憶喪失だろうか?
「いいえ、そうじゃありません。‥‥あ、でも、そうなのかな‥‥どこに行けば良いか覚えてないって事は」
 下を向き、所在なさげに視線を彷徨わせる。
 彼の名はバート・エヴァンズ、15歳。とあるベテラン騎士の従者をしているらしい。今回、久々の武者修行だと言って旅に出た主人のお供をしていたのだが‥‥
「途中でモンスターの群れに襲われて、主人は僕にひとりで逃げろと‥‥それで、落ち合う場所も聞いた‥‥と思ったんですけど、僕、逃げるのに夢中で‥‥聞こえなかったのか、覚えてないのか、よくわからないんです」
「ええと、つまり‥‥君は従者なのに、危機に陥ったご主人を見捨てて先に逃げた、と?」
 思わずそう口にした受付係に、少年は涙目になってぶんぶんと首を振った。
「だって、その方が良いんです! 僕、戦いは得意じゃないし、手出ししても足手まといになるだけだし!」
 騎士の修業をしているのはただ、たまたま自分が代々続く騎士の家に生まれた長男だから。戦いよりも、礼儀作法や騎士としての心構えなどを学ぶのがその目的だった。
「僕、本当に格好だけなんです‥‥」
 確かに、装備は充実しているようだ。装備だけは。
「それで、あの‥‥僕を主人の所まで届けて頂けませんか? 別れた場所まで戻れば、足跡とか、何かの痕跡とか‥‥辿れると思うんです。僕には無理ですけど」
 別れた場所の近くに町か村があるなら、主人はそこで待ってくれている筈だと少年は言った。
「その‥‥ご主人って、強いのかな? モンスターにやられた可能性は?」
 置き去りにされた主人の身を案じ、そう尋ねた受付係に、少年はにっこりと微笑んだ。
「大丈夫です、ご主人様は本当に、とってもお強いんですから!」
 ‥‥そう断言されると、ますます不安になる。
「‥‥その、モンスターというのは‥‥種類は? 数は?」
「ええと、わかりません。僕、逃げるのに夢中でしたから。でも多分、オーガとか、その辺だと思います」
 因みに、オーガだと思ったその根拠は何もないらしい。受付係の不安は更に募った。
 ‥‥まあ、少年の言う通りに実力のある主人なら大丈夫だろうが‥‥そうなると今度は、心配になるのはこの少年、バートの方だ。従者として、全く何の役にも立っていない。
「もしかして、体よく厄介払いをされたのでは‥‥?」
 受付係は少年の耳には聞こえないように呟く。
 だとしたら、主人を見付ける事は難しいかもしれない。見付けたとしても、この荷物は受け取って貰えないかも‥‥。
 だがとにかく、請け負った以上は最低限の事だけでもやらねばなるまい。荷物の主人を見つけ出す事‥‥その後の事は、まあ‥‥なるようになれ、だ。
 受付係は店の隅にちょこんと座って、不安のカケラもなさそうな様子で物珍しげに辺りを見回している少年を横目に見ながら、新たな依頼書を貼り付けた。

●今回の参加者

 ea3071 ユーリユーラス・リグリット(22歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 ea9937 ユーシス・オルセット(22歳・♂・ナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ec1110 マリエッタ・ミモザ(33歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ec3466 ジョン・トールボット(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

水之江 政清(eb9679

●リプレイ本文

「う〜ん、それらしい噂、聞こえて来ないですね〜」
 モンスターに襲われたなら、ギルドか騎士団、或いは然るべき役所に何かしらの報告が入っている筈だと考え、あちこちで聞き込みを行っていたユーリユーラス・リグリット(ea3071)だったが‥‥
「ほんとに、モンスターに襲われたですか?」
 ユーリに問われ、バートは困ったように首を傾げる。
「はい‥‥だと思いますけど‥‥でも、あれ? 言われてみれば違ったかも‥‥?」
「頼りない奴だな‥‥」
 ジョン・トールボット(ec3466)が肩をすくめ、やれやれといった風に首を振る。
 彼もやはり、酒場や宿などで主人の容姿、紋章、所属を伝え、負傷した騎士か、供のいない騎士がいないかを尋ねて回ったが、こちらも成果なし。やはりまだ、別れたというその場所から遠くへは‥‥少なくともキャメロットへは移動していない様だ。
「バートさんって‥‥ちょっと不思議な方ですね」
 マリエッタ・ミモザ(ec1110)が本人には聞こえないように、こっそりと仲間に耳打ちする。
「護りたいものとか無いのでしょうか? 領地、領民、大事な方々、誇り‥‥」
「それさえ、まだわかっていないと言うか‥‥見えていないのかな」
 年齢も近く、同じように立派な騎士を目指して修行中の身であるユーシス・オルセット(ea9937)が言った。
「とにかく、バートさんの主観だとミスリードになりかねない。彼に従ってその場所に戻るよりも、僕達である程度は調べを付けた方が良いと思う」
 そう言って、ユーシスは図書館で借りた近隣の地図を広げた。
「徒歩一日程度なら載ってると思うんだけど‥‥」
「最後にご主人と別れた場所はわかりますか?」
 マリエッタに問われ、バートは再び首を傾げる。
「う〜ん、確か両脇が藪で覆われていて、いかにも何かが出そうな場所でしたけど‥‥」
 そんな場所はどこにでもある。
「せめてキャメロットの西か東か、南か北か、それ位はわからないです?」
「ああ、それならわかります。ずっと南に向けて歩いて来ましたから」
「じゃあ、北の方ですね‥‥」
 ユーリが溜息と共に言う。
「北に向かう街道沿いにある町か村で、徒歩一日以内の場所というと‥‥」
 マリエッタがその周囲にある町や村の名を次々と読み上げ、聞き覚えがないかと尋ねた。
「‥‥ああ、それ! それです!」
 何個目かに読み上げた名前に覚えがあったらしい。
「最後に宿をとった町です! そして、襲われたのが‥‥そう、だんだん思い出してきました!」
 ホントか?
「ええと、町を出てすぐです。1時間ほど歩いた所で‥‥!」
「だったら、その町に戻っているか‥‥或いは近くの村にいるか。もし無事でいるなら、だが」
「ご無事に決まってます! ご主人様はお強いんですからっ!」
 ジョンの言葉に口を尖らせたバートの抗議は華麗にスルーし、冒険者達は彼を連れてその足どりを逆に辿るべく、北へ向かう街道へと急いだ。

「‥‥装備が良いのに何処か似合わない騎士さん、目立つですよね。誰か覚えてると良いですが‥‥」
 バートの記憶だけでは今ひとつアテにならないと、道中の宿場や休憩所ではユーリがその足取りを確認する。
「やっぱり、ココ通ったですか? ありがとうです〜」
 ついでに主人である騎士やモンスターの出現情報なども尋ねてみたが、それについては何の情報も得られなかった。
「キャメロットに寄ってないなら、これからっていう事も考えられるよね。道ですれ違ったりするかもしれないし、注意しておかないと」
「もし怪我を負っているなら、道中の宿で療養している可能性もあるか‥‥」
 ユーシスとジョンも辺りに注意を払いつつ、馬の手綱を引いてゆっくりと歩く。
 だが肝心の本人は‥‥冒険者達に任せきり、時折「ここは見覚えがある」などと言うだけで、自分では何一つ動こうとはしなかった。
「あの‥‥バートさん」
 そんな様子を見て、マリエッタが尋ねた。
「もし、自分の大事なものが目の前で壊されたり殺されたりされそうな時、バートさんはどうされるのですか? やはり逃げ出すのでしょうか?」
「うん、そうだね。逃げるんじゃないかな」
 ええっ!?
 その答えに、全員が道の真ん中で足を止めた。
「‥‥私は騎士ではありませんから、騎士道がどういうものか詳しくは知りませんが‥‥」
 マリエッタが言う。
「騎士としてそれは、どうなのでしょうか‥‥?」
 いや、その前に人間としてどうよ?
「でも僕なんかが手を出しても足手纏いになるだけだし、誰か助けを呼びに行く方が役に立つし」
「‥‥今回も、そう思って逃げたの?」
 ユーシスが尋ねた。
「それが最良の選択なんだと自分なりに考えて動いたなら、恥ずかしい事でもなんでもない。重要なのはあなたが本当に騎士になりたいのか、それともそうじゃなくて、ただ代々騎士の家に生まれたからって無理してるなら、誰も守れないし、幸せにもなれないと思う。あなたの考える騎士道って、何?」
「え、何‥‥って、そんな事、急に聞かれても‥‥」
 目を泳がせて狼狽えるバートに、ジョンが言った。
「急には答えられない‥‥つまり、普段から何も考えていないという事か? 君には本当に、騎士になるという覚悟があるのか?」
「覚悟‥‥?」
「そうだ。これは騎士だけに言える事ではないが、何事も覚悟の程というのが重要になってくる。私の考える騎士道とは、弱者の正義‥‥弱き者を守り、助ける存在である事だと、そう思っている。その為に必要なのは外見的な強さではなく覚悟の強さだ。己の信念の為にどこまで出来るか‥‥君は確かに、見た目は立派な騎士だ。だが、中身はどうだろうな? 君にはできれば内面的な強さが人の強さの根源だという事をわかってほしいのだが‥‥」
「そ、そんな事、言われなくても‥‥自分が格好だけなのは、ちゃんと、わかってる」
「わかってるなら、その見た目に釣り合うような中身になれるように努力しないといけないんじゃないかな‥‥あ、ごめんなさい、年下なのに生意気なこと言って‥‥」
 謝りつつも、ユーシスは持論を曲げない。自分にも理想があるから。それに向かって努力しているから。
「騎士になりたいという強い意志と覚悟が無いなら、止めた方が良いと思う。騎士道に殉じる覚悟が無いなら辛いだけだし、騎士以外の人生だってあるんだから」
「バートさん何したいですか?」
 俯いたバートの顔を下から覗き込みながら、ユーリが尋ねた。
「ボクは演奏が歌が大好きだから楽士やってるですよ? バートさんはどうして騎士やってるです?」
「‥‥どうしてって‥‥」
 それが長男としての義務だから。それ以外、特に考えた事はなかった。
「目標無く適当に、はだめですよ? 何にも身にならないし、何より相手に悪いです。何も出来ない従者はご主人様に不名誉しか与えないですよ?」
 不名誉と聞いて、バートのなけなしの騎士道精神が反応した。
「僕は、ご主人様にとって‥‥不名誉な存在なのでしょうか? ご主人様の名誉を傷付けてしまったのでしょうか!?」
「それは‥‥ご主人が現在、どんな状況に置かれているかにもよるでしょうね」
 マリエッタが言った。
「とにかく、お会いしてみない事にはわかりません。さあ、先を急ぎましょう」

 やがて夕暮れも迫った頃‥‥
「今日はこの辺で休むです?」
 キャメロットを出たのが昼過ぎ、道中もゆっくり歩いた為に、まだ行程の半分程しか来ていなかった。
「そうですね、街道とは言え暗くなってからの行動は危険ですし」
 ユーリの提案に、マリエッタが適当な場所を探してテントを張る。夜間はちょうど昇って来た月のお陰でムーンフィールドを張る事が出来た。
「4人で交代で見張りに立つですよ。バートさんは‥‥」
 先程から元気がない。どうやら冒険者達に言われた事について、あれこれと考え、思い悩んでいる様子だった。
「うんうん、いっぱい悩むです。いっぱい悩んで大きくなるです♪」

 そして夜間は何事もなく過ぎ、翌日‥‥再び歩き出した一行が例の襲撃地点にさしかかったのは、昼近くだった。
「この辺り、でしょうか?」
 マリエッタがバートに尋ねる。ステインエアーワードで確認をしようにも、その辺りに淀んだ空気は見当たらない。バートの記憶と地図で割り出した推定位置だけが頼りだった。
「何か荒らされたような跡があるですよ」
 ユーリが地面に痕跡を見付ける。それを聞いて、マリエッタは魔法をブレスセンサーに切り替え‥‥
「‥‥えっ!?」
 反応があった。両側の藪の中に、いくつも。
 それと殆ど同時に、人相のよろしくない一団が飛び出して来た。
「さ‥‥山賊!?」
 だが、冒険者達が剣を構え、魔法の詠唱を始めようとした瞬間‥‥
「‥‥随分と遅い救援だな」
 賊達の後ろから、恰幅の良い壮年の騎士が現れた。
「ご主人様!?」
 ‥‥え?
 冒険者達は一斉にバートと‥‥そして現れた騎士、更には賊達を交互に見比べる。
 賊達は攻撃して来る様子もない。
 これは一体、どういう事か‥‥?
「もしかして‥‥試したです? バートさんがどう動くかを含めて‥‥」
 ユーリの予想は的中した。では、最初に襲われたというのも‥‥?
「ああ、この通り、わしが雇った傭兵達だ」
 バートにはその姿がオーガに見えたらしいと聞いて、騎士と、そして傭兵達は苦笑いを漏らす。
「‥‥ええと、それで‥‥合格、です?」
 騎士はその問いに、冒険者達の後ろに隠れるようにして様子を窺っている従者を見て言った。
「そうだな、最後に見た時より多少はマシな顔つきになっているか‥‥世話をかけた様だな」
「‥‥良いご主人だね」
 それを聞いて、ユーシスが言った。
「あの人の武者修行に同行なんて、付きっ切りで指導を受けられる好機だよ。もし、本当に騎士になりたいなら‥‥強くなりたいなら、ね」
 その言葉に、ギリギリ合格のヘタレ従者は僅かに頷いた。
 迷える若人の未来に、幸あれ。