氷の迷宮・前編
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■ショートシナリオ
担当:STANZA
対応レベル:6〜10lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 9 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月24日〜02月29日
リプレイ公開日:2008年03月03日
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●オープニング
そこはキャメロットから2日ほど歩いた場所にある、夏でも氷が溶けないような極寒の洞窟。以前、自称芸術家が亡くなった恋人及び無関係な周囲の美女達を氷の棺に封じていた、その現場だ。
そこに、今度は本物の芸術家が住み着いた。いや、彼が作り出すものが芸術か否か、それは判断が分かれるかもしれないが、とりあえず犯罪者でない事だけは確からしい。
その彼が長い時間と手間をかけてコツコツと作ったもの、それは‥‥氷の迷路。
クリエイトウォーターとクーリングで自ら作り出した氷を使って洞窟内を仕切り、その要所に自作の氷像‥‥大抵は何の像かわからないような、前衛的な代物だったが‥‥それを配置して目印にしてある。作りはかなり複雑で、氷の階段が付いた氷の滑り台や一見しただけではわからないような氷の隠し扉など、とにかく氷尽くし。途中で突然霧が発生したり、何もない所に滝が現れたり、水の魔法使いならではの仕掛けが施され、たっぷり半日は楽しめるような娯楽施設だ。
彼の目的はただひとつ、お客さんに自分の作品を楽しんで貰う事。入場料も一切とらない。
その為、最も近い町からも歩いて数時間はかかるような場所にあってさえ、その迷路はなかなかの賑わいを見せていた。
ところが‥‥
数日前、一帯が猛烈な吹雪に見舞われたその翌日から、迷路の中には奇妙な現象が起こるようになった。
突然、全身が凍るような冷気に見舞われたかと思えば次の瞬間には吹雪が迷路を吹き抜け、果ては実際に氷漬けにされる者まで現れた。
「‥‥いいえ、そんな危険な仕掛けなどありません! 僕は皆さんに心から楽しんで貰う為に、この迷路を作ったんです!」
芸術家は必死に弁明した。
恐らく使われているのはフリーズフィールドに、アイスブリザード、そしてアイスコフィンだろう。確かに、この迷路を管理している彼自身の他にはそんな魔法を使える者はいない。そして彼がそうして弁明している間にも、その現象は起きていた。
「誰かが悪戯をしているのか‥‥?」
誰か、魔法の心得のある者が。
芸術家はそれを探した。だが作った本人でさえ簡単には抜けられないような、複雑で、かつ広い迷路。その中で犯人を捜し、捕まえるのは容易ではない。
氷を全て溶かしてしまえば良いのだろうが‥‥折角作ったものだ。出来れば壊したくない。
「‥‥もう少し人数がいれば、大丈夫かな‥‥」
迷路の中でちらりと見えたその姿は、まだ幼い子供‥‥女の子のようだった。子供の悪戯なら、捕まえて少しお灸を据えてやる位で良いだろう。
「しかし‥‥あの子はずっと、この中にいるのか?」
出口でずっと見張っていても、出て行く所は見ていない。もう4〜5日になるが、その間ずっと氷の迷宮に潜んでいるなど普通の子供には‥‥いや、何の用意もなければ大人にだって無理だろう。それに、食事を置いてみても手を付けられた様子は全くない。
とすると、何かモンスターの類だろうか‥‥?
とにかくこれは、自分ひとりで手に負える事ではない。
そう判断した彼は知人に洞窟の見張りを頼むと、キャメロットの冒険者ギルドへと赴いた。
●リプレイ本文
「うわ、寒‥‥っ!」
太陽の光が射し込まない洞窟の中は、空気がキンキンに冷えきっている。吐く息まで凍りつきそうな寒さだった。
その寒さにアルディス・エルレイル(ea2913)は思わず、乗っているハスキー、ヴォルのふかふかの毛皮にしがみつく。犬くさいけど、温かい。
「迷路で遊んで体を動かせばあったかくなるですよ」
とか言いつつ、ユーリユーラス・リグリット(ea3071)もロバのドンちゃんの首にしがみついていたり。
「そうだね。その子を見付けたら一緒に遊ぶのも良いかな」
「でも、その子は寒くないのでしょうか?」
マリエッタ・ミモザ(ec1110)の言葉にレオン・クライブ(ea9513)が答える。
「もうすぐ冬も終わるとなれば、迷い込んだままに住み着く精霊の2、3匹はいても不自然では無いな。いや、精霊の類なら寧ろ、寒くないと生きていけない者もいるかもしれん」
「しかし向こうは遊んでいるつもりでも、エルフや人間にはこの寒さはつらいですよ」
首を縮めながら、セフィード・ウェバー(ec3246)が言った。ただでさえ寒い所に氷の魔法など使われては、下手をすれば凍死しかねない。
「折角楽しい迷路があるのに、楽しむどころか死にそうになるなんて嫌だよね〜」
と、余り緊張感のなさそうな様子でアルディスが言う。
「じゃあ、ここで2班に分かれるですね。ボクはレオンさん、セフィードさん と一緒に入口から」
と、ユーリは左側の「入口」と書かれた通路を指差す。
「私とアルディスさん、それにアートさんは出口から逆に辿ってみますね」
マリエッタは迷宮の地図を入口組に手渡した。
「あ、隠し扉などの仕掛けは地図に書き込んでありますから‥‥多分、合っていると思います」
依頼人、アートが言った。この迷路は所々にアドリブが入り、設計図の通りには出来ていないらしいが‥‥空を飛べるシフール二人がいれば迷う事はないだろう。
「じゃあ、この真ん中あたりの広場に誘導するですね」
ユーリが「中間地点」と書かれた広場を指差す。
「あ、皆〜攻撃は最終手段ですよ? 脅かしちゃめっです♪」
「うん、平和的に解決できたら良いな。血生臭いのってヤだもんね♪」
「見かけが子供なら、ノリも子供と同じだろう」
ユーリとアルディスの言葉に、レオンが言った。目深に被ったフードのせいで表情はわからないが、楽しんでいるような口調だ。
「仲良くやりたい意思を見せて、お願いすれば素直に聞いてくれる筈だ」
「とにかく、調査しないとなにがいるのかハッキリしませんね。では行きましょうか」
セフィードが言い、冒険者達は左右に分かれる。
さて、一体何が待ち構えているのか‥‥?
「こんにちわ〜、おじゃまします〜。遊びましょ〜♪」
「出ておいで〜、仲良くしようよ〜。一緒に楽しく遊ぼう〜♪」
迷宮の左右から、竪琴に乗って歌うような呼びかけが聞こえる。出口側から聞こえる歌は調子っぱずれだったりするが、それもまあご愛敬。
その声に、小さな人影はどちらに行こうかと迷っている様子できょろきょろと左右を見る。
「あそぶ? どっち?」
暫く迷った末、それは入口の方へ向かって駆け出した。
「‥‥小さな反応が近付いて来るな」
ブレスセンサーを唱えたレオンが言った。
「呼吸をしている‥‥」
という事は精霊の類ではないのだろうか、と、セフィード。
その時、通路の奥から肌を切るような冷たい突風が吹きつけてきた。咄嗟に、レオンがストームの魔法でそれを跳ね返す。
「あ、当てちゃダメです!」
ユーリが叫ぶ。しかしレオンは見た目こそ悪人臭いが、無愛想なだけで、小さな子供に‥‥それが人間ではなくても‥‥危害を加えるような事はしない。跳ね返された吹雪は洞窟の天井へ舞い上がり、やがて細かな雪となって迷宮に降る。
少女はそれが気に入った様だ。曲がり角の向こうから、クスクスと楽しそうな笑い声が聞こえた。
『初めまして、ボクユーリです、君のお名前聞いていいです?』
ユーリがテレパシーで語りかけてみる。だが返事の代わりに返ってきたのは‥‥
――ゴオォッ!
またしても、アイスブリザード。そして楽しそうな笑い声と共に、小さな足音が遠ざかっていく。
「やっぱり、遊んでるつもり‥‥です?」
そして少女は迷宮の構造を熟知しているらしく、あっという間にもう一組の目の前に現れた。
「‥‥あ!」
迷宮を照らす松明の明かりに浮かび上がった小さな影に気付いたアルディスが何か言おうとした瞬間‥‥
こちらも氷の吹雪に見舞われた。
「うわあっ! 寒い! 冷たい! ‥‥って言うか痛いっ!」
「やったわね!?」
マリエッタがお返しとばかりにストームをお見舞いする。
「きゃっ!」
少女は風に足元をすくわれ、ころんとひっくり返った。
「いけない、やりすぎたかしら?」
慌てて駆け寄ったマリエッタが助け起こそうとした、その時。
「あそぼ!」
少女はぴょんと飛び起きた。
「‥‥え!?」
そして、身構える間もなく至近距離でアイスブリザード発動。‥‥まあ、アイスコフィンよりはマシかもしれないが‥‥いくら毛皮のコートを着込んでいても、これは堪える。
「大丈夫ですか?」
少女を追って来たセフィードがテスラの宝玉に祈りを捧げ、マリエッタを回復させる。その様子を不思議そうに見ている少女に、セフィードは出来るだけ優しく声をかけてみた。
「遊ぶのは構わないけれど、怪我をさせてはいけないよ。さあ、お姉さんに謝ろうか?」
「‥‥けが? あまやる?」
少女は首を傾げた。言葉は通じる様だが、意味がわからないらしい。
なるほど少女の肌は氷のように冷たい。彼女の仲間は‥‥もし仲間がいるとしてだが、冷気でダメージを受ける事はないのだろう。
「でも、私達は違うんだ。出来ればその魔法は使わないで欲しい‥‥わかるかな?」
「‥‥あそぶの、だめ?」
少女はつまらなそうに言い、ぷうっと頬を膨らませた。
「全部ダメっていう訳じゃないけど‥‥その前に、キミの事を聞かせてくれる?」
どうやらテレパシーは必要ないらしいと判断したアルディスが言った。
「キミは誰? どうして此所にいるの?」
「‥‥どうして、しらない」
「もしかして、こないだの吹雪の時迷い込んじゃった迷子さんです? それで楽しくて遊んでたですか?」
「まいご? しーちゃん、まいご?」
「名前、しーちゃんっていうですか? ここをお家だとおもったです? だから勝手に入ってきた人脅かしたとか?」
「でも、ここには管理している人が居るんだ。此所が気に入ったのなら此所にいられるように頼んであげるから、中に入ってきた人に魔法を使うのは止めて欲しいんだ。ね、仲良くしよう?」
「おうち、ちがう。おうち‥‥おうち、どこ?」
少女は急に家が恋しくなったのか、そのアイスブルーの瞳に涙が溢れる。
「おかーさん‥‥おかーさぁぁん!!」
涙は小さな氷の粒となって、コロコロと床を転がった。
「泣いちゃったです! ど、どうするです!?」
ユーリはおろおろと慌て、アルディスは宥めるように竪琴を爪弾く。
「だ、大丈夫です! 迷子さんならボク達がちゃんとお家に帰る方法探してあげるです!」
しかし、全力で泣き喚く少女の耳には入らない。
「レオンさん、私にレジストコールドをかけて貰えませんか?」
マリエッタが言い、耐寒仕様になった彼女は少女の冷たい体をそっと抱き締めた。
「大丈夫、お家も、お母さんも、探してあげます。だから泣かないで‥‥」
少女が落ち着いたと見て、マリエッタは静かに体を離し、荷物から色々な食糧を取り出して目の前に並べる。
「ねえ、お腹、空かないの? 何か食べたいもの、ある?」
だが、その問いに喉とお腹を鳴らしたのは‥‥
「ぼっ、ボクじゃないデスよ!?」
ユーリさん、声がひっくり返ってますが。
「それ、たべものちがう」
人間の食べ物はお呼びではないらしい。
「じゃあ、お家はどこかわかる?」
マリエッタの問いに、少女は首を振った。今すぐに少女を親元へ送り届けるのは、どうやら無理のようだ。
「では‥‥母親が見付かるまでここに置いてやって貰えないでしょうか?」
セフィードが依頼人に尋ねる。
「他の方々に迷惑をかけることさえなければ‥‥この場所の維持に協力できそうな魔法はの使い手はむしろ歓迎ではありませんか?」
「人寄せにもなりますし、氷の迷路に氷の精霊が棲んでいるなんて芸術家としてのモチーフになると思いますよ」
マリエッタもすっかり少女の味方だった。その子が精霊なのか、それとも他の何かなのか、詳しい事はわからないが‥‥まあ、こういうものはイメージ優先だ。
「‥‥ええ、まあ‥‥悪意はない様ですし、人間ではないと言ってもまだ子供ですから、追い出す訳にも行かないでしょう。でも‥‥」
本当に人に危害を加えずにいてくれるのだろうかと、依頼人は不安そうだ。
「その辺りは残りの期間で‥‥ちゃんと納得して言う事を聞いて貰えるように頑張ってみましょう」
と、セフィード。
「出来ればもう少しきちんと話が通じるように‥‥遊びに来た人達とも会話が出来るようになれば良いですね。文字も少し覚えて貰って‥‥」
まあ、それは今すぐに、という訳にもいかないだろうが。
「じゃあ、お勉強はセフィードさんに任せて‥‥」
アルディスが言った。
「僕は遊びの先生になろうかな。危ない魔法を使わなくても楽しく遊べるって、教えてあげるよ。だから‥‥ねえ、皆で一緒に迷路に挑戦しない?」
「あ、それ良いです! 今度は地図なしで!」
「壁より高く飛ぶのも禁止にした方が良さそうだな」
いかにもそういう事が好きそうなユーリは勿論、一見遊びとは縁がなさそうなレオンまでもが案外乗り気だ。
「じゃあ、一度入口に戻りましょうか」
マリエッタが差し出した手を、少女は嬉しそうに握り返す。その頭上では、レオンのフェアリー、スフィアがくるくると楽しそうに踊っていた。