氷の迷宮・後編
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■ショートシナリオ
担当:STANZA
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 56 C
参加人数:7人
サポート参加人数:5人
冒険期間:03月24日〜03月31日
リプレイ公開日:2008年04月01日
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●オープニング
氷の迷宮に住み着いたその少女は、今や迷宮のマスコット的存在となっていた。
自称「しーちゃん」、年齢不詳。多分、モンスター。だが、モンスターと呼ぶには余りにも可愛らしい。
「しーちゃん、おきゃくさんとあそぶ!」
迷宮の奥に隠れては、物陰から脅かしたり、追いかけっこをしたり‥‥だが、もう遊ぶ時に魔法は使わない。彼女は先日、冒険者達と交わした約束をきちんと守っていた。
「しーちゃん、いいこ♪」
彼女は、吹雪の日にどこかから飛んできた迷子。はぐれた母親を探しているらしい。だが、それを聞こうとすると‥‥
「おかーさーん! おかーさん、どこーっ!?」
普段は遊びに夢中で忘れているらしく、母親を恋しがるような事もない。だが何かのきっかけで思い出すと、この始末だった。泣きじゃくるばかりで、話が出来る状態ではなくなってしまう。もっとも、きちんと話が出来たところで彼女から引き出せる情報は余り多くはないだろうが‥‥どうも彼女の頭は、余り複雑な構造には出来ていないらしい。
「しかし、困ったな‥‥」
迷宮の作者にして管理人、芸術家のアートは溜息をついた。
物知りな客から聞いた話によると、彼女達は雪や氷がなければ生きられないモンスターで、普段はもっと寒い所に住んでいるらしい。
「まあ、冬場にはこっちの方まで遊びに来る事もあるだろうが‥‥」
その客は言った。
「でも、この辺りも温かくなってきたからなあ。そろそろ北の方に移動しないと溶けちまうんじゃないか?」
彼女達が雪だるまのように溶けて消えるようなものなのか、それはわからない。だが暖かな場所に弱い事は確かだろう。
洞窟の周囲に積もった雪もあちこちで溶け始めている。母親の方もこの子を探しているなら恐らくこの近くにいるのだろうが、モタモタしていたら諦めて一人で移動してしまうかもしれない。
「探しに行くなら、今しかないか‥‥」
しかし、どこを探せば良いのか。この近くで、まだ雪や氷が沢山残っている場所は‥‥
アートがそんな事を考えていた矢先。
「いや、参ったね。もう3月だってのに吹雪だよ、吹雪!」
近くの町に買い出しに出掛けた彼は、酒場でそんな話を耳にした。
「しかも、空は晴れてポカポカ暖かいのにさ! 天気雨ってのはよくあるが、天気吹雪なんて‥‥なあ?」
「あの、それは‥‥どこです? 詳しく聞かせて貰えませんか?」
酒を一杯奢ったアートに上機嫌で応えたその男の話によると、場所はまだ深い雪の残る山の周辺。しかも、その吹雪の範囲は常に移動しているらしい‥‥歩く程のスピードで。
「あの子を探してるんだろうな、きっと」
だとしたら、早く届けてやらなくては。だが‥‥
「誘拐犯と間違われて、襲われたりしないだろうな?」
もしそれが母親なら、しーちゃん本人に説得して貰う手もあるが‥‥果たして彼女にそんな役割を期待出来るものだろうか?
「やはり、ギルドに頼もう」
その方が安全だ。冒険者なら、もし襲われたとしても大丈夫だろうから‥‥多分。
●リプレイ本文
「やっぱり山の近くには、まだ雪が残ってるんだね」
それともこれは、しーちゃんのお母さんが残した吹雪の跡だろうかと、アルディス・エルレイル(ea2913)は首を傾げた。
「では、皆さんにはここでしーちゃんと楽しく遊んで貰う事にして、私達はお母さんを探しに行きますね」
「そうですね、しーちゃんが楽しそうにしているのを見れば、誘拐犯と間違われる可能性も低くなるでしょうし」
マリエッタ・ミモザ(ec1110)とヒルケイプ・リーツ(ec1007)が言った。
実は出発前、ヒルケはしーちゃんに「お母さんのお名前とかわかる?」と尋ねたのだが‥‥案の定、しーちゃんは大パニック。
「あれじゃ、お母さんに誘拐じゃないよって説明して貰うのは無理デスよね〜」
それが出来れば事は簡単なんですけど、と、ユーリユーラス・リグリット(ea3071)が「思い出し溜息」をついた。
「お母さんを探しているということを意識させてしまうと、また収集つかなくなりそうですしね」
セフィード・ウェバー(ec3246)も苦笑いを浮かべる。
とにかく、母親を思い出させるような話は厳禁。運悪く泣き叫んでいる所など目撃されようものなら‥‥ブルブル。
「じゃあ、ノヴァはここで待っててね」
アルディスは連れて来た犬の片方をその場に残し、ハスキーのヴォルに乗った。
「暫くしたら、この子に匂いを辿って貰って追いかけるデスよ」
と、ユーリ。だからもし氷漬けにされても心配は要らない‥‥とは言わないが。
「どこか、いく? しーちゃんも?」
出掛ける気配を察したのか、しーちゃんが首をかしげながら尋ねた。
「しーちゃんは、ここで皆と遊んでてくれる? すぐに戻るから、ね?」
マリエッタが雪の積もった地面に膝をつき、しーちゃんの頭を撫でる。
「うん、しーちゃんあそんでる!」
そう言うと、しーちゃんは嬉しそうに駆け出して行った‥‥理由も聞かずに。
その足元で、小さな鈴が軽やかな音を立てる。レオン・クライブ(ea9513)が目印代わりにと貸したものだ。
「気に入ったようなら、あげてしまっても良いか」
返してほしいなどと言ったら、また大泣きされるかもしれないし。それに、マリエッタから貰った水晶のティアラとバタフライブローチ、セフィードからの春のリボンと合わせたコーディネートは、なかなかにお似合いだった。
「おーし! おりはしーちゃんと遊ぶのじゃ!」
鳳令明(eb3759)が荷物から引っぱり出した「まるごとすのーまん」を装着し、しーちゃんの前に躍り出た。
「ヒーホーおりは令明ホー。華国の雪国から来たんだホー。よろしくなんだホー」
この着ぐるみを着ると、何故か語尾に「ホー」が付くらしいホー。
「そりレースで遊ぶんだホー♪」
令明は持参したおもちゃのそりを山の斜面に引っ張り上げ、しーちゃんを手招きする。
見た目は悪人くさいが実は案外ノリが良いレオンも、陰守森写歩朗作の大人用そりを持って斜面を登る。そりと言っても空き箱に板を取りつけただけの簡単な物だったが‥‥
「樽を縦に割るのが一番手っ取り早くて頑丈なんだろうがな」
実はそのアイデア、友人のマイ・グリンが出したものだったりするのだが‥‥実際にやろうとして、余りの酒臭さに断念したようだ。
「競争だホー!」
しーちゃんの前に座った令明が号令をかける。二台のそりは先を争って斜面を滑り‥‥と、思ったら。
――ガッ! ゴロゴロゴロ、どかん!
やっぱり、即席のそりでは少々難があったらしい。レオンの乗ったそりは途中で何かにひっかかり、そのまま斜面を転がり落ちた。
「きゃーははは!」
その姿を見て、無邪気に笑うしーちゃん‥‥
「いや、笑い事ではないのだがな‥‥。大丈夫ですか?」
セフィードが慌てて駆け寄り、テスラの宝玉に祈りを捧げる。どうもアバラの2〜3本は逝っていそうな様子だが、まあ、死なない限りは大丈夫。
「そり、壊れちゃったデスね」
しかし、そりがなくてもセフィードが持参したソードウィングブーツがある。
氷は依頼人のアートが魔法で作ってくれた。
「では、ちょうど人数分ありますから‥‥しーちゃんには、私が滑り方を教えてあげましょう」
「うん、しーちゃんもすべる!」
セフィードに靴を履かせて貰ったしーちゃんは大喜びだ。
「でも、すべるって、なに?」
‥‥待機組がそうして楽しく遊んでいる間、お母さんを探しに出たアルディス、マリエッタ、ヒルケイプの三人は‥‥
「‥‥防寒対策はしていても、吹き付けてくる風や雪は辛いですね」
ヒルケイプは体をぶるっと震わせ、外套の前をかき合わせた。マリエッタにレジストコールドをかけて貰っているので、実際はそれほど寒くはない筈だが、目に映る光景が寒いという感覚を助長しているのかもしれない。
辺りは一面の吹雪。伸ばした自分の手の先さえも霞むほどの猛烈な勢いだ。それは、一歩進むごとにますます激しさを増していく。
「お母さんの所に近付いてるっていう証拠なんだろうけど‥‥ゴメン、ヴォル。暫く頑張って!」
でも吠えちゃダメだからね、と、アルディスが愛犬に声をかける。
「あ、あれ‥‥あれは、人影‥‥?」
お母さんだろうかと、ヒルケイプが目を凝らす。
「あの‥‥しーちゃんのお母さんですか?」
思い切ってイギリス語で呼び掛けてみたマリエッタの言葉に、人影はゆっくりとこちらを向いた。
「うわ、美人‥‥!」
アルディスが思わずそう漏らしたように、それはこの世のものとも思えないような、美しい女性だった。ただし、その氷のような瞳は敵意と怒りに満ちてはいたが。
「いけない‥‥!」
アルディスは慌ててチャームの呪文を唱える。だが、どうやら効果はなかったようだ。
『待って、怒らないで!』
今度はテレパシー。
『ねぇ、貴女はしーちゃんのお母さんでしょ?』
「しーちゃん‥‥しー‥‥シーリー‥‥?」
シーリー。それがしーちゃんの本名らしい。
『僕達しーちゃんの為に貴女を捜していたんだ。もう少ししたら仲間達がしーちゃんをここまで連れてきてくれるから、吹雪を止めて欲しいの』
だが、一向に止む気配はない。
『お願い、ボクを信じて。ちゃんと元気なしーちゃんを連れてくるから。ウソだったらボクに攻撃しても構わないよ。だから、お願い。暫く吹雪を止めて!』
しーちゃんを知っている証拠にと、アルディスはイリュージョンでしーちゃんの姿を見せる‥‥が。これが見事に逆効果。
「シーリー! どこにいる!? シーーーリーーーー!!!」
――ゴオオオオオオッッ!!!
それが幻であると悟った氷の美女が髪を振り乱して叫ぶと、一段と強烈な吹雪が三人を襲った。
「わたしを信じなくても構わない、でもしーちゃんは無事ですから!」
そう叫んだマリエッタの声は、吹雪にかき消されて届かない。それでも彼女は懸命に、今までの経緯や、みんなで近くまで連れて来た事を説明し続ける。その吹雪をストームで跳ね返す事も出来たが、マリエッタは一切反撃をしなかった。だが、それでも‥‥
「だ‥‥ダメだ、ひとまず逃げよう!」
踵を返し、転がるように逃げる冒険者達。アルディスは逃げながら、待機組のユーリにテレパシーを送った。
「‥‥ええっ!? お母さんを怒らせちゃったデスか!?」
事態を把握したユーリが仲間に知らせる間もなく‥‥猛烈な吹雪が押し寄せて来た。
「うわあぁ、寒いホー! 凍えるホー!」
令明は思わずしーちゃんの後ろに隠れる。他の仲間達も突然の吹雪に為す術もなかった。
が‥‥そんな中、しーちゃんだけは平気な様子で吹雪の吹きつける方を見つめていた。
「あ、おかーさん」
その途端、ぴたりと吹雪が止んだ。
「シーリー!」
氷の美女が、逃げて来た三人を蹴散らして走って来る。
「おかーさん、あのね、しーちゃんね、あそんでたの!」
‥‥母親の顔を見たら大泣きするかと思ったのに。既に自分が迷子である事も、母親を探していた事も忘れているらしい。
「いじめられてた、違うのか?」
母親は冒険者達を見た。
「だから、最初からそう言ってるのにぃ‥‥」
アルディス、涙目。
「すまなかった。シーリーが心配、他に考えなかった」
カリア・ヴェラと名乗った母親は、ひとりで雪だるまを作って遊んでいる娘を見ながら言った。
「これからどうするデスか? やっぱり、帰っちゃうデス?」
もし良ければ氷の洞窟に住む事も出来るというユーリの説明に、母親は興味を持ったらしい。
「そこは、寒いか? 我等は雪と氷さえあれば良い」
「だが‥‥例えあの洞窟に住む事が出来ても、そうなると今度は外に出られるのが次の冬だからな。素直に故郷で暮らす方が快適なのは確かだろう」
それに、珍しい生き物として彼等を狙う人間もいるかもしれないと、レオン。
「そうかもしれませんが‥‥あれはアートさんの魔法の作る幻影、という事にするとか」
それで誤魔化せないだろうかと、マリエッタがアートを見る。だが彼は‥‥。
「アートさん、目がハート型になってるデス!?」
これは、禁断の恋!?
「‥‥とにかく、一度洞窟を見て貰ってはどうでしょうか?」
と、セフィード。
「そうだホー。それから、しーちゃんとママさんで話し合って決めて欲しいホー」
まあ、この親子の場合「話し合い」などというものが成立するか否か、甚だ怪しいものではあるが。
「じゃあ、一度洞窟まで戻りましょうか」
ヒルケイプの言葉に一同は頷く。そして、来た時と同じように‥‥今度は母子二人、保冷用の雪だるまと共に荷馬車で運ばれる事となった。
「あのね、まりーと、ひーけと、ほーちゃんと‥‥」
しーちゃんが冒険者達を独自の呼び名で紹介したり、セフィード先生に色々教えて貰ったり、ユーリと一緒に歌ったり‥‥。これで迷路で遊んだりしたら、お母さんまでもが「帰りたくない」と言い出しそうな雰囲気だ。
「‥‥また、一緒に遊べるかな?」
マリエッタが嬉しそうに呟いた。