ざ・新薬開発秘話!?

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:04月08日〜04月13日

リプレイ公開日:2008年04月18日

●オープニング

「ちみっこー!!」
 穏やかな春の午後。その静寂を破り、猫屋敷の庭先で一人剣の練習をしていたウォルフリード・マクファーレンの眼前に現れた騒々しい物体は‥‥
「えろふ?」
「エロフゆーな!」
「だったら、ちみっこゆーな!」
「ふ、どこからどう見ても、客観的かつ論理的に、ちみっこはちみっこだろう?」
 その銀髪エロフ、じゃない、エルフ‥‥マナウス・ドラッケン(ea0021)は上から押さえつけるようにウォルの頭を掻き回しながら言った。
 無駄だよウォル。その人には多分きっと、いや絶対、一生勝てないから、色んな意味で。
「さあちみっこ、山に行こーじゃないかっ!」
「山ぁ? なんで? ってゆーか、なんでそんなにテンション高いんだよ!?」
 まるで頭のタガが一斉に外れて吹き飛んだ様なハジケっぷりだ。この陽気か? この陽気のせいで、頭が逝っちゃったのか?
「心配するな、理由はちゃんとある」
 ――がしっ!
 マナウスに首根っこを掴まれ、引きずられて行った先は‥‥
「薬屋‥‥?」
 冒険者御用達の某大手チェーンとは別の、主に一般人をお得意先とする、ごく一般的な薬屋。
 その店先には、こんな貼り紙があった。

『薬の材料、買い取ります。数が纏まっていれば報酬に色もつけます』

「店の主人に話を聞いたんだがな」
 ウォルの首根っこを掴んだまま、マナウスは言った。
「一般的な薬の材料も必要だが、この春に新しく売り出す予定の新薬の材料を是非って事だ」
 なんでも、瀕死以下の怪我から毒、果てはありとあらゆる病気や呪いにまで効く、夢の万能薬を作るのだとか。そんなものが実際に出来るかどうかはさておき、一般的な薬の材料が不足しているのは事実だった。
「俺は何種類かが一緒に存在する山を知っている。どうだ? 山に行く気になったか? 今、入用だろ?」
 畳みかけられ、ウォルは宙ぶらりんのまま首をぶんぶんと振る。
「だからぁ、なんでオレがマナウスに付き合わなきゃなんないんだよ!?」
「さあな、そこの所は俺も知らん」
 おーい。
「とにかく、目標が決まったら後は実行あるのみ! 仲間を集めるぞ!」
「ええ!? ちょ、だから放せってーーー!!」
 そのまま、今度は冒険者ギルドへと引きずられて行くウォル。
「オレはオモチャじゃねえーーー!!!」
「はっはっは、無駄な抵抗は無駄無駄ァ!」

 ‥‥まあ、そんなこんなで。

『山で薬の材料を集めるメンバー募集。鮮度や保存加工の問題により薬草・毒草・動物知識のどれかを専門以上で持つことを推奨します。ペット可』

 そんな依頼が、ギルドの掲示板に貼り出された。
「動物知識は猟師でも良いかもしれんな。生薬に熊の肝なんて物もあるし」
「ちょ‥‥まさか熊狩りまでするつもりじゃ‥‥?」
 今回は戦闘行為禁止の依頼形式をとっている。熊狩りは流石に無理だが‥‥
「知識としては、あっても良いだろう?」
 後は山や森の土地勘があれば尚良し、か。
「‥‥ねえ」
 依頼内容を一通り読んだウォルが言った。
「女性限定って付けないの?」
「ん、まあ‥‥そこは空気読めって事で?」
 ‥‥やっぱり、本当は材料探しよりハーレムでウハウハが目的なんだ‥‥と、ウォルはひとり納得する。
「そうか、オレの役目は‥‥女の人達をエロフの毒牙から守る事なんだな!?」
 意味は多分、よくわかってない。
 でもまあ、とりあえず、ウォルはこの依頼に参加する自分なりの意義を見付けたようだ‥‥その真偽はともかくとして。

●今回の参加者

 ea0021 マナウス・ドラッケン(25歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea1364 ルーウィン・ルクレール(35歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea5556 フィーナ・ウィンスレット(22歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea7263 シェリル・シンクレア(21歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 eb3450 デメトリオス・パライオロゴス(33歳・♂・ウィザード・パラ・ビザンチン帝国)
 eb5357 ラルフィリア・ラドリィ(17歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb8106 レイア・アローネ(29歳・♀・ファイター・人間・イスパニア王国)
 eb8317 サクラ・フリューゲル(27歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

ソムグル・レイツェーン(eb1035)/ アド・フィックス(eb1085)/ イリーナ・リクス(eb3343

●リプレイ本文

●八咫鴉もお手上げ?
「流石にこれで迷うわけには行かないからな‥‥」
 今回の依頼人にして案内人マナウス・ドラッケン(ea0021)は、道に迷った時に正しい道を探す手助けをしてくれるという、八咫鴉の勾玉に加護を願った。
「大丈夫、俺の記憶は確かだ」
 記憶は確かだが、方向感覚は‥‥?
「確か中腹ほどに開けた場所があるはずだ。泉も近辺に在るから水には困らん場所でな‥‥歩いても6時間程で着くだろうよ」
「6時間‥‥か」
 空を見上げてレイア・アローネ(eb8106)が呟いた。
「なあ、マナウス? 町を出たのは、確か朝方の筈だったが‥‥」
 そろそろ陽が暮れる。しかし周囲の景色はマナウスの記憶とは随分と違う様だ。
「まあ、こういう事もあるでしょう」
 落ち着き払ってさっさと夜営の準備を始めたのはフィーナ・ウィンスレット(ea5556)だ。
「その山でなくても、この季節には野草などいくらでもありますし。この辺りを拠点に周囲を探すだけでも、必要な量は確保出来るでしょう」
 実際ここまでの道中で採取した野草は、既に馬に乗せた籠から溢れる程の量だった。もっとも、それは主に当座の食用なのだが。
「町で食糧を買い損ねたからな‥‥と言うか町など見かけなかったし」
 マナウスが「途中にある筈」と主張した町は以下略。結局、保存食の補給も出来ず終いだった。
「仕方ない、忘れた者には暫くこれと野草のスープで我慢して貰おう」
 と、レイアは荷物から新巻鮭を取り出した。
「では、未熟ながら調理は私がしますね」
 サクラ・フリューゲル(eb8317)がいそいそとエプロンをつける。
「未熟じゃないよ、お弁当おいしかったもん。ね、ウォル君?」
 ごはんをくれたサクラにすっかり懐いた様子のラルフィリア・ラドリィ(eb5357)が言った。
「んー、まあな」
「人間、素直が肝心だぞ? ちみっこ」
 気のない返事をしたウォルの頭にマナウスの手が‥‥と、後はいつもの通り。騒がしい子供を適当にあしらい、マナウスは焚き火の準備を始めた。
「向こうに小川がありますよ〜」
 年中ふわふわと身も心も浮いているようなシェリル・シンクレア(ea7263)が、上空から周囲を見渡して言った。だが、自分で汲みに行く気はないらしい。
「だって力仕事は男の人の担当ですもの〜」
「‥‥わかりました。行って来ます‥‥」
 自ら力仕事担当と任じたルーウィン・ルクレール(ea1364)が空きっ腹を抱えて出掛けて行く。
「後は夜の見張りと〜、荷物運びもお願いしますね〜♪」
 シェリルはその背に向かって手を振ると、マナウスの耳元で囁いた。
「女性ばっかりじゃなくて残念でしたね〜義父様」
 まあ状況がどうあれ、とりあえず今のところ魔獣化するつもりはなさそうだ‥‥望まれない限りは。
「誰が望むか!」
 あ、なんか飛んで来た。それはレイアが持っていたノヴァクの剣。
「物騒な物を投げるなーっ!」
 まだ何もしてないし。
「先手必勝!」
 サクラの料理を手伝いつつ、レイアは魔獣に対する警戒を怠らないようにと自らの肝に銘じる。
「‥‥後でシェリルと、あの魔獣の管理について愚痴を交えつつ話をさせて貰おう‥‥」

●大人ちーむ、その1
「特に危険もないみたいだから、おいら一人でも大丈夫だと思ったけど」
 翌朝、マナウスから借りた植木鉢を背中に載せた馬の手綱を引きながら、デメトリオス・パライオロゴス(eb3450)は言った。
「やっぱり共同作業の方が楽しいよね」
 見上げた先で、フィーナが微笑む。
 二人とも植物に関しては豊富な知識を持っている。期待される以上の収穫が望めそうだった。
「止血効果があり、血行促進を促して疲労を回復するもの、咳止めの効果があるもの、不眠や便秘に効果があるもの‥‥オレガノの葉は強壮作用や、頭痛・生理痛を軽減してくれる効果がありますね」
 フィーナは解説を交えながら、まずは群落の中から一株を植木鉢に移す。こうしておけば鮮度を維持できるだけでなく、持ち帰ったものを栽培することも可能な筈だ。
「栽培に成功すれば楽に増やせるしね」
 デメトリオスは今後の事も考えて自生地の場所を手製の地図に書き込んでいる。そうして分布状況等を確かめてから、採取に取りかかった。まずは高価だが量は望めないような種類よりも、単価は安くても大量に手に入るようなものを。
「何かここでしか手に入らないような、珍しいものが見付かると良いね」

●大人ちーむ、その2
「確か月桂樹、野薔薇、サフラン、無花果辺りは見かけたな‥‥ここにあるかどうかは知らんが」
 とりあえず月桂樹と無花果に関しては樹が目印だと、マナウスは周囲を見渡す。
「野薔薇は蔓、サフランは毒草のイヌサフランと間違えないように注意だ」
「大丈夫ですよ〜エロフ義父様。私が付いてますから♪ あ、はぐれないで下さいね〜」
 確かに、シェリルが付いていれば色々な意味で大丈夫そうだ。
「ん〜万人が飲んでも大丈夫なものなんて、本当にポーションぐらいですよね〜‥‥新薬‥‥どんなのが良いんでしょう」
 ハーブなど、地面に生える草の類はフィーナ達が探していた。
「それはそちらに任せて〜、私は木の葉や実で薬の材料になりそうなのを探してみましょう。香木とかもとかも手に入れば良いですね〜」
 そして、手に入れた材料でどんな薬が出来そうか考えてみる。
「この材料だと解毒剤以外で‥‥心を落ち着かせるのとか?? 義父様が一番欲しいのは精力剤でしょうけれど」
 いや、これ以上アレがナニになったら困るから。望まれなくても魔獣が出て来るようになったらどうするんですか。

●お子様ちーむ(+保護者)
「あ、ウォル君‥‥よく似た薬草と毒草有るから気をつけて」
「え? どこが違うの?」
 ラルに言われて、ウォルは両手に持った草を見比べる。どう見ても同じようにしか見えないが‥‥
「ほら、こっちは葉っぱの裏に毛が生えてるし、ギザギザの形も‥‥」
「へえ‥‥。じゃあ、こっちが毒?」
 と、捨てようとしたウォルにまたして待ったがかかる。
「捨てちゃダメだよ。毒草も使い方によっては良い薬になるんだよ?」
 毒草はこっち、と差し出される籠。
「なんか、見た事ないのばっかだな‥‥料理に使うようなヤツならオレも少しは知ってるけど」
「ハーブティ系が多いからね。お茶はあんまり飲まないの?」
「え、オレは‥‥」
 お茶よりミルクだし。背が伸びるお茶なら飲んでも良いが。
「ハーブなら手軽に育てられて量産も出来るし、即効性はないけど、継続して飲むことで効果が出るし何より安価だよ。食べて、飲める薬って普通の薬より気楽だよね。予防って方が大きいけどね 」
 そして、ラルは各種ハーブの効能を並べたてる。
「ローズヒップ、ローズマリー、ミント、レモングラスで疲労回復に美肌とダイエットでしょ、タンポポの根と‥‥」
「ちょっと待った! そんないっぺんに言われても覚えらんねーって‥‥サクラ、任せた!」
 おい、投げるな。
「あ‥‥はい、わかりました。では‥‥ラルフィ、ついでに食事に合いそうなハーブや料理に使えるキノコなども教えて貰って良いでしょうか?」
「うん、良いよ‥‥あ!」
 サクラに言われて更に蘊蓄を傾けようとしたラルは、はっと何かに気付いてレイアの服の裾を引っ張った。
「ごめん、ラブラブ二人邪魔しちゃダメだよね。レイアさん〜、一緒に逃げよ?」
「おっと、そうだな。少し気を利かせてやろうか」
 ニヤニヤと笑いながら、姿を消そうとする二人。
「おい、お前らいなくなったら仕事になんないだろ!?」
 確かに山の案内役であるレイアと薬草の先生ラルがいなければ、残った二人‥‥ウォルとサクラはお手上げ状態。
「迷子になったらどうすんだよ!」
 それはそれで楽しみ‥‥と言うか何と言うか。でも、期待されてるような事は何も起きないと思います。何しろまだお子様だし。

●一日の終わりに
 やがて陽も暮れかかった頃、上空を飛ぶフィーナのホワイトイーグル、シロソフィアの合図で作業を終えた仲間達はそれぞれの収穫を野営地に持ち帰った。
「そうそう、そうやって束ねて干しておけば嵩も減るしね」
 デメトリオスに言われ、皆が探索に出ている間は薪割りや荷物番をして過ごしていたルーウィンが束ねた薬草を木の枝に掛けていく。残りの期間だけでも天日に干しておけば持ち運びもしやすくなるだろう。
 そして今夜も、料理はサクラの担当。
「私も手伝わせて貰うぞ。腕がなまらないようにな‥‥フィーナもどうだ?」
 フィーナからシロが獲ってきた獲物を受け取ったレイアが、ついでだからと料理に誘う。
「え。私に作れと? 自殺願望でもおありなんですか?」
 ございません。断じて、全く、これっぽっちも。
「‥‥さて、何か聞きたい事があるんじゃないかな? ウォルフリード」
「‥‥へ?」
 食事も無事に終わり、一息ついた所でマナウスに声をかけられたウォルは、思わず身を固くした。いや、別に襲われるとか、そんな事を思った訳ではなく‥‥
「だって、ちゃんと名前で呼ばれるなんてさ」
 何か変な物でも食べたのだろうか? まあ、それはともかく。
「‥‥えっと‥‥何でオレを誘ったの? オレ、全然役に立ってないのに」
「俺は薬草の生育条件と採取方法、そして販売ルートを示した、その事自体が目的さ」
 そう、生育条件さえ整えば場所はどこだって構わない。それを示す為にわざと道を間違えた‥‥のかどうかは知らないが。
「後はそれをどう使うかを考えてみな、少なくとも役には立つだろうよ」
 やがて、静かな野営地に竪琴の音が流れ始めた。

●そして帰還
 冒険者達が持ち帰った材料で作られたらしい、謎の液体。
 店主が差し出したそれは、成功なら夢の秘薬、失敗作なら何が起きるか‥‥それは誰かに飲ませてみないとわからない。
「ここはやっぱり、依頼人が責任をもって実験台に!」
 誰かがマナウスの背中をどーんと押した。
 ‥‥まあ、死にはしないから、多分。