わんわん! わんわんわん!

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:5人

冒険期間:04月15日〜04月20日

リプレイ公開日:2008年04月24日

●オープニング

「わんわん! わんわんわん! わん!」
 一頭の犬が冒険者ギルドに飛び込んで来た。
 大きな白い体に、くるりと巻いた尾。真っ赤なバンダナを首に巻いているところを見ると、どうやら飼い犬の様だ。
 だが、飼い主の姿は見当たらない。それに、白い体のあちこちに血の跡のような赤い斑点が飛んでいる。ぴんと立った三角形の耳の片方には、何かで切り裂かれた様な生々しい跡があった。
「どうしたんだい? 何か‥‥モンスターにでも襲われたの?」
 受付係が声をかける。
「わん!」
 それを聞いて、犬は彼の服の裾をくわえ、ぐいぐいと引っ張った。付いて来いと言っているのだろう。だが‥‥
「ちょっと待って。お前、傷だらけじゃないか。ちゃんと手当をしないと‥‥!」
「うぅ〜〜〜! わんわん! わん!」
 それどころではない、と言っているらしい。が、テレパシーもオーラテレパスも使えない受付係には、犬の言葉などわからない。そんなものが使えなくても、犬語や猫語はおろか、虫語以外なら何でも理解出来そうな人物に心当たりはあるが‥‥生憎と、今ここにはいない。店の中をざっと見渡しても、犬と会話が出来そうな者はいなかった。
「困ったな‥‥」
 もしも飼い主が窮地に陥って犬を遣いに寄越したなら、ギルドの仕事として成立するだろう。報酬は後で飼い主に請求すれば良い。だが、それは単なる推測にすぎない。
「でも‥‥このまま見て見ぬふりは‥‥出来ないよなあ」
 受付係は足元で必死に何かを訴えようとしている白い犬の、澄んだ瞳をじっと見つめた。
「‥‥わかったよ。とりあえず、私が依頼人になってやるから‥‥もし、お前がご主人のお遣いで来たなら、後でちゃんと請求するからな?」
 そう言って犬の頭を撫でると、受付係は店内の者に呼び掛けた。
「どなたか、この犬の頼みを聞いてやってくれませんか?」
 どこに行って何をすれば良いのか、全くわからない。
 耳に受けた真新しい傷と、恐らく同じ相手から受けたものだろう、体じゅうの引っ掻き傷。白い四肢は泥で汚れ、爪の間には枯草の繊維がからまっている。よく見ると口の周りも赤黒く汚れていた。牙の間に挟まっている濃い色の剛毛は動物か、それともモンスターのものか。
 今のところ、手掛かりはこれだけ。
 だが、ベテランの冒険者なら何が相手でも、何が起きていようとも、上手くやってくれるだろう。‥‥多分。
「わん! わんわんわん!」
 早く来い、と言うように白い犬が吠えた。

●今回の参加者

 ea0018 オイル・ツァーン(26歳・♂・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 ea2856 ジョーイ・ジョルディーノ(34歳・♂・レンジャー・人間・神聖ローマ帝国)
 ea3179 ユイス・アーヴァイン(40歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea5380 マイ・グリン(22歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea9669 エスリン・マッカレル(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb5347 黄桜 喜八(29歳・♂・忍者・河童・ジャパン)
 ec0843 雀尾 嵐淡(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ec3138 マロース・フィリオネル(34歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

ミッシェル・アリアンテ(ea4539)/ シルヴィア・クロスロード(eb3671)/ 鳳 令明(eb3759)/ マルティナ・フリートラント(eb9534)/ 元 馬祖(ec4154

●リプレイ本文

「よしよし、一緒に行くから落ち着いてくれ‥‥お前の主人がどうかしたのか?」
 服の裾を引っ張る犬に、エスリン・マッカレル(ea9669)がオーラテレパスで話しかける。だが‥‥
「気が急くのは判るが、確実に助ける為に‥‥こら、急くなと言うのに‥‥!」
 犬は話を聞くのも事情を説明するのももどかしいといった風に、先に立って走り出す。
「セタンタ、頼む、その犬を‥‥!」
「わん!」
 しかし、止めてくれと命じられたエスリンの愛犬よりも先に飛び出したのは、マイ・グリン(ea5380)の愛犬、犬情溢れるラビだった。
 ラビはセタンタと共に行く手を阻み、逸る犬を押しとどめようと‥‥あれ? もう一頭増えてる?
「‥‥コウダユウ、お前ぇ‥‥」
 息を切らせながら、その増えた一頭‥‥ボルゾイのコウダユウを追いかけてきたのは黄桜喜八(eb5347)。別の依頼に入る為に書類に筆を入れている最中だったのだが‥‥
「仕方ねえな‥‥で、何がどうなってんだ? オイラ犬の言う事はわからねえが、お前ぇ、なんか妙に切羽詰まってそうだな」
「わんわん! わんわんわん!」
「いや、だからオイラにゃわかんねえって!」
「これは〜、少し落ち着いて貰わないと話も聞けませんね〜」
 の〜んびりと現れたユイス・アーヴァイン(ea3179)が、友人のミッシェル・アリアンテに言った。
「では、一曲お願いしましょうか〜」
「♪焦っても何にもならないよ。ゆっくりいこ〜? ね?」
 静かなメロディを奏でられ、犬は漸く落ち着きを取り戻したようだ。
「まずは治療をさせて下さい‥‥良いですね?」
 マロース・フィリオネル(ec3138)がリカバーで傷の手当をしている間に、ギルドで話を聞いた冒険者達が次々と集まって来た。
「事情はよく分からないが、これだけ足を泥だらけにしてまで駆けてきたのだ。応えねば冒険者が廃るというものだろう」
 犬の様子を子細に観察しながら、オイル・ツァーン(ea0018)が呟く。
「それで、この犬は何と?」
 問われて、エスリンは再び犬との会話を試みる。
「む‥‥どうも今ひとつ意識と言うか、思考がはっきりしないが‥‥ふむ、ふむ‥‥?」
 その様子を眺めながら、喜八は首を傾げた。
「しかし、お前ぇ‥‥ワンコロっぽくねぇな。自分を犬だと思ってねぇだろ? コウダユウもそうなんだよなぁ」
「‥‥思ってないと言うか‥‥なんだかコイツ、犬にしちゃあ仕草とか人間っぽいよな」
 ジョーイ・ジョルディーノ(ea2856)、JJが犬の顔を覗き込みながら言った。
「‥‥あれ、頷いてる?」
「――何? 本当は人間? 呪いで犬にさせられた!?」
「おいおい、マジか!?」
 犬の反応を何とか解読したエスリンの言葉に、JJは思い当たるフシがあった。
「待てよ‥‥そういえば、最近噂で聞いた事がある。『この世の人間は全て獣となるべきなのである』なんてイカレた事を言ってる連中が、この辺りで暗躍してるらしい」
 流石は盗賊を生業にしているだけあって、裏の情報には詳しいようだ。
「こいつはその被害者って可能性がある。たぶん獣化の呪いとかだ。それが急がせるって事は‥‥」
「何と、幼馴染の少女が生贄に!?」
「やっぱりそうか! お前の大事な人か? そうなんだな!?」
「わん!」
「‥‥絆の深い犬は忠義の塊のような存在ですから‥‥呪いをかけられた人間なら、尚更」
 JJとエスリン、そして犬、二人と一匹の奇妙な会話を聞きながら、マイは自分なりの推測を立ててみる。
「‥‥外敵との戦闘中などなら背を向ける選択肢など選ばないと思います。‥‥少なくとも、急場の家族の安全が保証出来ていないと‥‥」
 自分の愛犬ラビなら、自分が戦ったり危機に瀕している限り例え命じてもその場を離れないだろう。
「‥‥とりあえず、その方‥‥今は安全だと思われます。‥‥急ぐに越した事はないでしょうけれど」
 そんな声が聞こえているのかいないのか、犬に対する尋問は最高潮。
「例え犬になっても愛する女を取り戻す! か。グッとくるじゃないか」
 JJは犬の両手をぎゅっと握り締める。
「OK、そういう事なら付き合うぜ、ワンちゃん!」
「ワンコロの歯についてた毛‥‥人だ、『まるごと』を着込んだ人間だ‥‥違ぇねぇ、まるごと団だ‥‥そうに決まった! 今決めたっ!! 根拠は無ぇっ!」
 喜八は荷物から引っぱり出した愛用のまるごとウサギさん+1を着込み、犬にその姿を見せた。
「うぅ〜、わんっ!」
 がぶり。
「ほれ、ワンコロも反応してるしよ‥‥って、いででででっ! オイラは敵じゃねえっ!」
「いや、しかし、そのような突拍子もない話‥‥」
 普通に考えれば犬の知能だ。事態を正確に把握しているかはわからないし、飼い主が事故に巻き込まれるなどで錯乱している可能性はある、と、オイルは冷静に考えを巡らせる。
「‥‥しかし、これだけ必死になっているのだ。あり得ないと断じる事はしたくない‥‥か」
 とにかく、どこかに敵がいて、この犬だか人だかの大切な相手が危機に陥っている。それだけは確かな様だ。
「呪いならば‥‥これで解けないでしょうか」
 雀尾嵐淡(ec0843)がニュートラルマジックを試してみる。だが、効果はなかった。
「これは相当に強力な魔法か、或いは手の込んだ呪いの様ですね」
「なに、この手の呪いを解くには‥‥昔から決まってるだろ?」
 ニヤリ、とJJ。
「まずは囚われのヒロインを助けなきゃあな」
「そういう事ですので〜、今はゆっくり休んでいてくださいな〜。コトは必ず成しますので〜」
 ユイスが犬を愛馬ノルデンの背に載せる。水馬の背よりは戦闘馬の方が乗り心地は良さそうだ‥‥多分。
「マイ殿、途中で何か柔らかく食べ易い物を作って食べさせてやって貰えないだろうか?」
 と、気を遣ったエスリンにマイが快く応じた。
「‥‥わかりました、では、途中で休憩を入れながら‥‥」

 そんなこんなで盛り上がったものの、果たして本当にそんな話で良いのだろうか。一抹の不安を抱えながらも、犬の案内に従って現場に辿り着いた一行が見たものは‥‥!
「‥‥旅先で色々な呪いを見てきましたので、別段驚きはしませんけれど〜。なんと言いますかまぁ、悪趣味ですね〜」
 どんどこどんどこ。焚き火の周囲で、何かが踊っている。人の形をした獣‥‥らしきもの。
「やっぱり‥‥まるごと団だ! オイラの推理に間違いはなかった!」
「面倒なので、変態で括っちゃって構いませんよね〜?」
 うん、構わないと思う。
 そこは背後に洞窟の入口を控えた、ちょっとした広場。焚き火の中心に立てられた杭には、少女がひとり、縛り付けられていた。想定していたよりも若い‥‥と言うか、幼いと言うか‥‥子供?
 まあ良い。愛に年齢は関係ない‥‥多分。足元で燃える炎は、今のところ彼女を焦がす危険はなさそうだが‥‥
「とりあえずアンデッドやゴーレムなどを従えてはいないようです」
 と、デティクトアンデッドで周囲を探ったマロース。いや、だって、見るからに‥‥そんな上等な輩じゃあ‥‥ねえ?
「人の知恵と獣の力か。厄介だな‥‥」
 エスリンが呟く。いや、だから多分きっと、そんな上等な‥‥
「熊狩りの如く風下から慎重に接近‥‥お、おい待て!」
「わんっ! わんわんわんっ!!!」
 作戦を練る間も与えず、犬が飛び出して行く。仕方なく、冒険者達はその後を追った。
 嵐淡は咄嗟にミミクリーでクレイジェルに化け‥‥化け、ようとした、らしい。でも何か‥‥違うモノになってますが。それ、半端な知識じゃちゃんと化けられないから、うん。だが、その何だかわからない妙なものは敵の注意を引き付けたらしい。
「よし、今のうちに!」
 オイル、JJ、マイ、そして喜八。4人が犬の後に続く。エスリンはその背後から弓矢で援護射撃を、ユイスは‥‥
「変態さんには、多少の地獄は見せても構わないですよね〜?」
 楽しそうに笑っている。
「‥‥むっ! 敵襲かっ!? 我等まるごとけもけも団の神聖なる儀式を邪魔だてするとは不届き千万!」
 突然の騒ぎに、踊りの輪が乱れる。その中のひとり‥‥なんか色々ハミ出しちゃってる男が合わせた両手を天にかざして叫んだ。
「おお、我等がけもな〜の神よ! 我と我が身に聖なる獣の力を与え給え!」
 男の体が黒い光に包まれ、その体はたちまち熊に‥‥! まあ、よーするにミミクリーだ。しかも初級。効果は6分、本人限定。周囲のまるごと達は、その神々しい姿を指をくわえて見ているだけ。
「くうぅ、口惜しや! 我等にも神の力があればっ!」
「いや、あの生贄を捧げれば我等にもっ!」
 けもな〜の神に生贄を捧げれば、全員が獣になりその姿と力を我が物に出来る。彼等はそう考えていたらしい。
 だが、その生贄は冒険者達の手によってあっさり救出されていた。なす術もなく、逃げ惑うまるごと達。
「こ、こいつら‥‥っ」
 弱い。弱すぎる。っつーか、イカレてるだけの、ただの一般人?
「ぐおおぉぉっ!!」
 しかし、唯一獣神の力を宿した熊男は‥‥やっぱり弱かった。だって、ただの熊だし。そして熊は逃げた。洞窟の奥へ。
「深追いは‥‥」
 しても問題は全くなさそうだが、一応、洞窟の中にはマトモな敵がいるかもしれない。って言うか居て欲しい。だが、今は少女の安全を確保し、犬の呪いを解く事が先決だ。
 マロースが張った結界の中で、犬と人は感動の再会を果たした。
「助けに来てくれたのね! ありがとう!!」
 少女は犬の首にぎゅっと抱きついた。しかし‥‥
「ううん、まだダメ。呪いは解けないの。あの中にいる、ボスを倒さないと‥‥!」
 熊男が消えた洞窟。あの中に、やはり強敵が潜んでいるのか‥‥?
「一応、体勢を立て直して臨んだ方が良かろう」
 持参したロープでまるごと達を縛り上げながら、オイルが言った。彼等から詳しい話を聞く必要もありそうだ‥‥まともな話が聞けるとは思えないが。

 そんな訳で‥‥待て次回っ!