わんわん! わん‥‥わんわん?

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:5 G 55 C

参加人数:8人

サポート参加人数:7人

冒険期間:05月03日〜05月08日

リプレイ公開日:2008年05月11日

●オープニング

 冒険者達の活躍によってその実態が明らかになった「まるごとけもけも団」‥‥彼等は『この世の人間は全て獣となるべきなのである』というイカれた信念の元に『人類けも化計画』を企む悪の秘密組織だった!

 獣のまるごとを身に纏った戦闘員はほぼ全員が捕らえられた。だが、敵の幹部である「はみだしけもなー」ことキングベアは洞窟の奥へと逃亡を図る!
 そして、囚われの少女は言った。洞窟の奥に潜む敵のボス、大総統ロードケモナーを倒さなければ、彼女の幼馴染みであるアレクサンドロス・リヴィングストンにかけられた犬化の呪いは解けないのだと‥‥!

 洞窟の奥には「けもなーの神」が祀られ、その神聖なる場所にヒトの姿で踏み込んだ者には天罰が下ると言われている。けもなー神の使いである恐ろしい化け物が目覚め、穢れし者を地獄に引きずり込むと。

 しかし、それでも! 我々は行かねばならぬのだっ!

 起て、冒険者達よ! 幼い恋心を救う為に、今こそその力を以下略っ!!


 ‥‥と、そんな訳で。
「いやぁ先日はどうも、娘が世話になったようで‥‥」
 ギルドのカウンターで受付係向かってしきりに頭を下げているのは、生贄として「まるごとけもけも団」‥‥略してまるけも団に囚われていた少女の父親だ。
「あんたが報酬を立て替えてくれたんだって? いやあ、すまなかったねえ‥‥」
 だが、と彼は続けた。
「立て替えて貰った金の事なんだが‥‥いや、払えない訳じゃないんだ。ただ、今は持ち合わせがなくてね‥‥村のどこも、それは一緒さ。あの、まるけも団に全部持って行かれちまったんでね」
 まるけも団の連中は、たまたま拠点の近くにあったその村から金目の物や食糧、果ては生贄まで、目に付くものは片っ端から奪って行ったらしい。
「まあ‥‥冷静に考えてみりゃ、大した恐ろしい敵でもないんだ。その‥‥戦闘力とか、そういった方面では、ね。でも‥‥」
 彼等には別の恐ろしさがあった。何というか、妙に逆らい難いと言うか、逆らっちゃいけないような気がするとか、そんな、主に精神的な方面で。
「だもんで、村の皆は奴等の言いなりに‥‥」
 そして彼等は奪ったものを例の洞窟の奥に隠しているらしい。
「わかりました、あの犬‥‥いや、呪いをかけられた人間、アレクサンドロスさんの為にも、逃げた幹部やボスは倒さなければなりませんし」
 奪われた金品を取り返すまで、報酬については自分が引き続き立て替えておこうと受付係は言った。
「はあ、ありがとうございます‥‥」
 相手の男は礼を言いながらも、何故か視線を宙に彷徨わせている。そして、下を向いて口の中で何かモゴモゴ。
「‥‥呪い‥‥ねえ。あれが呪いなら、寧ろ娘の方を‥‥いや‥‥ブツブツ」
「あの、何か?」
 問われて、男は弾かれたように顔を上げる。
「い、いや、何でもありません、何でも‥‥」
 その後で、「ま、どうせなら面白くしておいた方が良かろう」と、そんな声が聞こえたような‥‥?

●今回の参加者

 ea0018 オイル・ツァーン(26歳・♂・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 ea2856 ジョーイ・ジョルディーノ(34歳・♂・レンジャー・人間・神聖ローマ帝国)
 ea3179 ユイス・アーヴァイン(40歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea9669 エスリン・マッカレル(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb2745 リースフィア・エルスリード(24歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 eb9943 ロッド・エルメロイ(23歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec1783 空木 怜(37歳・♂・クレリック・人間・ジャパン)
 ec3138 マロース・フィリオネル(34歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

フォルルス・フォルルス(ea1400)/ ネフティス・ネト・アメン(ea2834)/ ショコラ・フォンス(ea4267)/ レア・クラウス(eb8226)/ ジャン・シュヴァリエ(eb8302)/ アイン・アルシュタイト(ec0123)/ 元 馬祖(ec4154

●リプレイ本文

「なんと恐ろしそうな相手なのでしょう‥‥!」
 まるけも団の実態を前回の参加者に聞いたリースフィア・エルスリード(eb2745)は、思わずその身を震わせた。でも、多分それは‥‥武者震い。
「オーケー、細かい事情は説明されてもよくわからん!」
 一方、空木怜(ec1783)は解説を右から左に流して断言する。
「だが、変態を倒せば世界が平和になるって事は理解したから大丈夫だ。大丈夫だよな?」
 うん、大丈夫。
 ほら、ユイス・アーヴァイン(ea3179)も言ってるし‥‥
「えぇと〜前回の続きで、変態狩り、と言うコトでいいんですよね〜?」
 ‥‥と。
「あまり近寄りたくない一団ではあったが‥‥」
 エスリン・マッカレル(ea9669)が、何やらズキズキと痛む額を手で押さえつつ、友人のネフティスに占いと未来見を頼んだ。だが、その結果は‥‥
「えぇと‥‥ほら、よく言うじゃない? 世の中には知らない方が良い事もあるって‥‥ね?」
 一体何が見えたというのか。
「洞窟の中では戦意の喪失に気を付けて」
 恐らくそれが、一番の強敵。
「そうだろうな‥‥娘の父親にせよ、あの連中の実力を恐れたり危険視したりといった様子は感じられなかった」
 と、オイル・ツァーン(ea0018)が傍らで待つ件の娘メリンダと犬のアレクには聞こえないように呟く。もし本当に人を獣に変えるような力があったなら、流石にのんびり構えてはいられない筈だ。
「大丈夫です。そんな時には私がメンタルリカバーで皆様のやる気を支援させて頂きますので」
「私もフレイムエリベイションを‥‥」
 マロース・フィリオネル(ec3138)と、何故か白い仮面を付け、全身をフード付きの外套で覆った着膨れ男が拳を握る。
 その着膨れ男、中身はロッド・エルメロイ(eb9943)なのだが‥‥外套の下に何かを着込んでいるらしい。ついでに、名もマスク・ウィザードと名乗っていた。
「さ、決着をつけに行こうか。準備はいいかい、アレク?」
「わん!」
 ジョーイ・ジョルディーノ(ea2856)、JJの問いに元気に答える犬。傍らの少女も決意に満ちた表情で頷いた。
「呪いを解くために。そして‥‥お前のその手で、忌まわしい運命を乗り越えるために。‥‥そういう事だろ? まあそういう事にしときなって。頼むから‥‥な?」

 そして。
「ここが‥‥彼等が踊っていた場所なのですね。真面目にまるごとを着込んで輪になって踊るなんて、正気の沙汰とは思えません」
 例の洞窟前の広場に残された焚き火の跡や、獣とも人ともつかない沢山の足跡。そんな夢の痕跡を目の当たりにしたリースフィアは、改めて彼等の怖ろしさに感じ入っている様だ。
「この奥に、けもなーの神が‥‥。酒場の酔っ払いが寝言で言っていたのを聞いたことがあります。その者黒き衣をまといて茶色の洞窟に降りたつべし。失われし野生の力を呼び覚ましついに人々をけもなーの地に導かん。獣の力を得た人とはすなわち獣人のこと。つまり、まるごとけもけも団は伝説の獣人界へ行こうとしていたのですよ!」
 あ、拙い。目が泳いでる。
「リースフィアさん、しっかり! 気を確かに持って下さい!」
 マロースが慌ててメンタルリカバーを唱える。
「‥‥はっ! 私は今、一体何を‥‥!?」
「いいえ、気にしなくて良い‥‥気にしなくて良いのです!」
 どうやらこの洞窟周辺の土地には、何かしら人の精神を不安定にさせるオーラの様なものが、あるような、ないような。
「ボスの正体は不明‥‥か」
 怜が呟く。高位の神聖黒魔法使いか、或いはデビルか。変態趣向のデビルが遊んでいるという事も、考えたくはないが、考えられない事もない、ような。
「‥‥しかし、真面目に予想したからカスリもしない気がするぜ‥‥」
「同感だ」
 松明の準備をしながらエスリンが頷いた。
「だが、先入観を捨てて考えれば要はただの盗賊退治‥‥の、筈だ。セタンタ、周囲の警戒を頼むぞ」
 エスリンは愛犬にそう頼むと、自分は隊列の殿につく。
 そして冒険者達は、まるっきり戦意が失せた様子のオイルと、ランタンを手にした着膨れマスクを先頭に洞窟へ侵入する。
 ――ぐおぉ〜ん
 ――ごわおぉ〜ん
 奥から響く、不気味な音。
「これはもしや、ロードケモナーの声‥‥いや、例の化け物‥‥!?」
「‥‥どうだろうな‥‥」
 連中の様子から考えれば、自分が飼いならしている犬だのといった動物に付け角をしたり、別の動物のまるごとを着せたりがせいぜいな気がする‥‥と、心の中でオイルが呟いたその時。
 今度はマロースに何かが取りついた。
「‥‥それは一人の男からだったという。七度妻を娶り、七度妻子に逃げられ、人の身のはかなさを嘆いた男は、獣の力に憧れた。戦う牙を、探る鼻を、ぬくもりを護る毛皮を身に備われば、と願った。男の願いはかなえられ、けもなー神が降臨し、そこにまるごとけもけも団が生まれた‥‥」
「マロースさん、気を確かにっ!」
 今度は着膨れマスクがフレイムエリベイションで、その魂を呼び戻す。
「何と恐ろしい‥‥これがあの、けもなー神の呪いだと言うのか‥‥っ!?」
 マスクはしかし、不敵な笑みを浮かべて洞窟の奥を指差す。
「だが、この私には呪いなど効かん! 効かんぞぉぉ!」
 何だかすっかり別人格になりきってますが‥‥それも一種の呪いの様な気が以下略。
 ――ぐおぉ〜ん
 ――ごわおぉ〜ん
 不気味な音が響く、その場所に辿り着いた一行が目にしたものは‥‥っ!!
 頭から毛皮を被り、寝ている人影。あの不気味な音は‥‥
「イビキかよっ!?」
 へなへなと膝から崩れ落ちる冒険者達。しかし、ここで挫けてはいけない!
「ええい、起きろォ!!」
 ばさり。
「むおっ!?」
 飛び起きたのは、キングベアだった!
「き、キサマら、一体どうやって‥‥っ!?」
 いや、どうやっても何も、罠もなかったし、アンタ寝てたし。
「しかし、迂闊だったな愚か者め! この聖地に人の姿で踏み込んだが最後、キサマらは獣となる事を許されず、永遠に人の姿のまま、この下界を彷徨うのだッ!」
「な‥‥なんだってー!?」
「バカなッ! まさかそんな事がッ!?」
「‥‥とか言ってやるのが」
「礼儀‥‥なんだろうな、きっと」
 怜とJJが溜息をつきつつ顔を見合わせる。
「って言うか、それが呪いか、オイ?」
「そうなのだろうな‥‥獣になりたい彼等にとっては」
 エスリンが溜息をつく。だが彼等とは言うものの、ここに居るのは熊ひとり。
「ボスは‥‥?」
 その声に応えるように、洞窟の出口の方から声がした。
「我はここに在り! 罠にかかったな愚か者ども、挟み撃ちだ!」
 振り向いた冒険者達の目に映ったその姿は‥‥まるごと‥‥牛? それに、両手には水の入った桶を下げている。
 つまりは、丁度外に水汲みに行っていた所だったらしい。
「トップが率先して雑事をこなすというのも、部下の手本として重要な事だとは思いますが〜」
 ユイスが楽しそうに笑いながら、詠唱の準備を始める。
「前口上は1分以内でお願いしますね〜」
「よし、1分だなっ!? 我々ま‥‥んぎゃあぁっ!」
「あ、兄者っ!」
 熊が叫ぶ。‥‥兄弟?
「おのれキサマら、我々まるけも団の真の怖ろしさを思い知るが良い! 我等がけもな〜の神よ! 我と我が身に‥‥」
「いや、それはもう聞いたから」
 ――ぷすっ!
 ミミクリーを唱えようとした熊の尻に、JJの投げたダーツが突き刺さる。
「おぉうっ!?」
「そんな短い1分があるかぁ!」
 向こうではボス牛が怒り狂っていた。
「あら〜、ごめんなさいね〜」
 ユイスは途中でカウントが面倒になったらしい。
「でも、構いませんよね〜? 本当の地獄と言うモノは、案外身近にあったりするモノなんですよ〜?」
「待て卑怯者! まだ我のターンは終わっていない! そして、全人類の未来のため、けもけも団は起たねばなら‥‥」
「ホーリー!」
「アウチ!」
 どうやら、奇人変人の部類にもホーリーは効果があるらしいとマロースは納得する。いや、こいつら一応悪人だし。
「く、くそ‥‥っ! こうなったら最後の手段! けもなー神の化身よ、いでよ!」
 ボス牛が何やら妖しげな呪文を唱える。が‥‥
「神の化身とは、これの事か?」
 オイルが何か奇妙な生き物の鼻面を撫でながら言った。それは頭に鹿の角を付け、何かのまるごとを無理矢理着せられた、馬。
 角を外し、まるごとをダガーで切り裂いて捨てると、オイルは外の空気を吸わせてやろうと手綱を引いて歩き出す。周囲の奇人変人は、既に全く眼中になかった。
「‥‥粛清する‥‥」
 仲間達のやりとりを黙って聞いていた着膨れマスク、いや、ロッドが、拳を震わせながらその着膨れた外套を脱ぎ捨てた!
「それが呪いの正体だなどと‥‥そんなふざけた話、私は認めません! 呪いを破る為に恥を忍んで着込んだ姿、この屈辱を纏めて貴方がたに返します‥‥!」
 怒りを込めた、まるごとウサギさんの渾身の一撃がボス牛の頬に炸裂する!
 ――ぺちっ!
 しかし悲しいかな、エルフのウィザードは非力だった‥‥。
「ロッドさん、仇は取ります!」
 リースフィアとエスリンが二人の変人に襲いかかり、そして‥‥
「決着をつけてこい、アレクッ!」
 JJが犬の首をがっしりと掴み、ボス牛を目掛けてぶん投げる!
「いぃぃぃけぇーーーッ!!」
 ――キャインキャイン‥‥どがあん!

 ‥‥かくして、まるけも団の脅威は去った。盗まれた物も無事に持ち主の手に戻った。しかし‥‥
「犬のままだな」
「わん!」
 怜に頭を撫でられ、尻尾を振るアレク。
「恐らく‥‥彼は人に囲まれて育ち、自分が人であると思い込んでいる、ただの犬だ」
 オイルが言った。
「少女の方も‥‥」
「ほんとだもん! アレクはいつか人間になるの! ほんとは王子様なんだから!」
 予想、大当たり。
「もうお前ら全員犬になってしまえッ!」
 脱力しながらJJが叫ぶ。
 ‥‥ともあれ、めでたしめでた‥‥し?