うちのコがイチバン!

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:6人

サポート参加人数:3人

冒険期間:08月21日〜08月26日

リプレイ公開日:2006年08月27日

●オープニング

「このポスターを店内に貼ってくれないかね、キミ」
 ギルドの扉を開けるなり大きな羊皮紙を差し出した若い男は、気取ったポーズでカウンターに肘をつく。
 いかにも暇と金を持て余した貴族のボンボンといった風情だ。
「何ですか、これは‥‥」
 受付係は丸めて置かれた羊皮紙を広げ、書かれた内容に目を走らせる。
「ペットアジリティ?」
 男は顔にかかる金色の豊かな巻き毛を優雅な仕草で払いのけながら、ふふん、と鼻を鳴らした。
「そうだよ、キミ。聞くところによれば、冒険者にとってのペットはただの愛玩動物ではないようだね。共に戦い、困難を乗り越える為の大切なパートナーだという話ではないかね、キミ」
「ええ、確かに‥‥」
「そこでだ、キミ。僕はその飼い主とペットの美しき絆をこの目で確かめたいと考えたのさ、キミ。詳しい内容はそこに書かれている通りだ、わかったかね、キミ?」

 ポスターには、お抱え絵師にでも描かせたのだろう、犬の絵とともに凝った装飾文字が踊っていた。
 その内容は‥‥。

『ペットアジリティ大会・参加者募集』
『友よ、共に困難を乗り越え、勝利の美酒に酔いしれよう!』
『参加者にはペットと共に様々な障害に挑戦していただき、その速さと正確さ、そして観客を魅了するパフォーマンスで互いの絆の深さを競っていただきます』
『コース上には以下の障害が用意されています』
『1.スラローム‥‥等間隔に植えられた木の間をジグザグに走っていただきます』
『2.平均台‥‥細めの丸太を優雅に渡っていただきます』
『3.トンネル‥‥樽の底を抜いて繋げたトンネル(カーブあり)を素早く潜っていただきます』
『4.ハイジャンプ‥‥低、中、高、3種類の高さに設置したバーの、どれかひとつを華麗に飛び越えます』
『以上4種目を順番にクリアしていただき、速さと演技で総合評価を行います』
『優勝者にはベストオーナーの称号、その他特別賞としてベストパフォーマーの称号の他、参加者全員に参加賞として金一封を差し上げます』
『その他注意事項:小型犬〜大型犬のサイズであれば、犬以外のペットの参加も可。ただし飛行タイプは不可。大会は3日目に行われます。最初の2日間はコース上での練習が出来ます。希望者には室内に秘密の練習場も用意します』

「では、私は屋敷で待っているよ、キミ。存分に楽しませてくれたまえ‥‥」
 男はフリルたっぷりの真っ白いシャツの袖をヒラヒラと振りながら、優雅にギルドを後にした。

●今回の参加者

 ea0050 大宗院 透(24歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea0448 レイジュ・カザミ(29歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea9027 ライル・フォレスト(28歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb0752 エスナ・ウォルター(19歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb1935 テスタメント・ヘイリグケイト(26歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb3412 ディアナ・シャンティーネ(29歳・♀・神聖騎士・人間・フランク王国)

●サポート参加者

カシム・ヴォルフィード(ea0424)/ 七神 蒼汰(ea7244)/ ティズ・ティン(ea7694

●リプレイ本文

「さあ、いよいよ始まります、第一回ペットアジリティ大会! 司会及び実況は、この執事めが務めさせて頂きます!」
 ほんの少し秋めいてきた青空に大音声を響かせる執事の隣には、この大会の主催者である貴族のボンボン、ヴィクター・プライズ氏が耳を押さえつつ座っている。
「では、まず始めに選手のご紹介です! エントリーナンバー1、大宗院透(ea0050)・影凪ペア!」
 首にお揃いのスカーフを巻いた二人に、会場から一斉に拍手と声援が送られる。
「影凪さん宜しくお願いします‥‥」
 透は足元に座った黒猫の首筋を、緊張をほぐすように撫でながら声をかける。
「続いて、レイジュ・カザミ(ea0448)・ミミペア!」
「僕といとしのミミちゃんの絆が誰にも負ける事なんてない!」
 レイジュは右手を高々と掲げ、vサインを作る。
「続きましては、ライル・フォレスト(ea9027)・凍月ペア!」
 ターバンで耳を隠したライルは、愛犬の頭を撫でて微笑んだ。
「頑張ろうな、凍月」
「エスナ・ウォルター(eb0752)・ラティペア!」
 エスナは尻尾を振って見上げるボーダーコリーをぎゅっと抱きしめる。
「いっぱい、練習したもんね‥‥あとは、ゴールを目指して‥‥一緒にがんばろうね」
「テスタメント・ヘイリグケイト(eb1935)・モルゲンレーテペア!」
「行くぞ‥‥モル」
 一言だけ声をかけ、後は人も犬もじっと前を見つめたまま動かない。その姿からは自信と互いの信頼が伺われた。
「最後に、ディアナ・シャンティーネ(eb3412)・コハクペア!」
「今の私達に出来る最高の演技をしようね、コハク♪」
「ワン!」

「ここで採点方法を簡単にご案内しておきましょう」
「まず技術点は、各種目ごと1位通過が10点、以下1点ずつマイナスされて最下位の6位は5点、失敗の場合はゼロとなります。これに芸術点が加算されるわけですが‥‥」
 と、会場を見渡す。
「皆さーん! 旗はお手元にありますかー!?」
 おーっ! という怒濤のような返事が返ってくる。
「皆さんには各選手のパフォーマンスを採点して頂きます。これだ、と思う演技をしたペアに対応する旗を上げて下さいねー!」
 おーっ!!
「その数の多い順に10点〜5点が加算され、その合計で順位が決まります!」
 執事はここで一呼吸置き、思い切り息を吸い込んだ。
「それでは‥‥よーい‥‥」
 ―――パァァン!!
 巨大なハリセンが打ち鳴らされる音で、戦いの火蓋が切って落とされた。

「さあ、第一の障害スラローム、まず飛び出したのは影凪選手!」
「続いてモルゲンレーテ選手が滑るように、軽やかに走り抜けて行きます! 殆ど左右に膨らまない見事な走り!」
「そして凍月選手! ライル選手と8の字を描くように走ります! ぶつかりそうでぶつからない、何とも息のあったコンビネーション!」
「続いてコハク選手、ゆっくりと、しかし着実に走ります!」
「レイジュ選手は‥‥おや? 何やらお尻から尻尾が‥‥? いや、猫じゃらしです! 尻尾の先が巨大な猫じゃらしになってる! ミミ選手、それを追いかける! しかし、追いつかれてしまった! ミミちゃんは尻尾にかじりついて引っ張っています! なかなか前へ進めません!」
「一方、ラティ選手は観客の大歓声に驚いたのでしょうか、途中で立ち止まってしまいました! エスナ選手が駆け寄り、優しく声をかけます! あ、走り出しました! 何とかクリアです!」
「さて、観客の皆さんの評価はいかに!? 会場は‥‥票が割れています! テスタメントペアとライルペアの正確な演技に若干支持が多いか、しかしレイジュペアの演技‥‥と言うかボケっぷりにもネコ好き票が集まっている模様です!」

 ―――ただ今の順位(上位3組)―――
 テスタメントペア19点・ライルペア17点・透ペア16点

「続いては平均台、まずはライル選手が走ります! 丸太の上とは思えない見事な走りですが‥‥おや!? ライル選手、渡りきる直前にしゃがみこんだ! そこに後ろから追ってきた凍月選手、パートナーの背中を踏み台にジャンプ! 着地も華麗に決まりました‥‥が、背中を蹴られた反動でライル選手がバランスを崩している‥‥が、何とか踏みとどまりました!」
「さあ、ネコにとって狭い足場はお手のもの! 影凪選手が華麗に素早く駆け抜け‥‥そして、ジャーンプ! 空中でクルリと一回転!」
「コハク選手はここでも着実に、堅実にポイントを重ねます!」
「ラティ選手も声援に慣れてきたのか、ここはスムーズに、尻尾を振りながらトットコと渡りきる!」
「そして何と! モルゲンレーテ選手は歩いています! その美しい被毛を輝かせ、優雅に、気高く、まるで勝負など眼中にないかのごとく、所謂ひとつの世界を作り上げています!」
「そしてネコ好き注目のレイジュ選手、今度はどんなパフォーマンスを見せてくれるか!? おお、ミミ選手を肩に乗せ、踊りながら後ろ向きに渡っています! 踊りに見せかけ実は足場を探っている、その演出がニクイ!」
「‥‥待ちたまえキミ、今の演技は‥‥」
 ヴィクターが初めて口を開いた。
「競技の主体はあくまでもペットだよキミ。ミミ選手は‥‥自身では平均台を渡っていないではないか!」
 おおっ!?
 会場がどよめく。
「ざ、残念ながらレイジュペア、平均台はクリアミス! しかし、芸術点では高い評価を得ています! さあ、総合得点は!?」

 ―――ただ今の順位(上位3組・合計)―――
 テスタメントペア35点・ライルペア34点・透ペア33点

「順位、変わりません! しかも僅差! 接戦です! 次のトンネルが勝負の行方を決めるか!?」
「やはりここはネコが強い! 黙っていてもトンネルに突っ込んでいきます! 影凪選手、風のようにあっという間に駆け抜けました!」
「続いて先程はまさかのミスのレイジュペア、ミミ選手も今度は大丈夫です! あっという間に出口に到達‥‥いや、後から入ったレイジュ選手がなかなか出てきません! 巨大な尻尾がどこかに引っかかったか‥‥いや、出てきました! 出てきましたが‥‥何故か葉っぱ男スタイルになっています!」
「トンネル潜りではこれといったパフォーマンスは期待出来ないだろうとの大方の予想を裏切ったレイジュペア! 観客の票を独占しています! そして更に、ある種の人々のはーとを鷲掴みだ!」
「さあ、順位は‥‥!?」

 ―――ただ今の順位(上位3組・合計)―――
 透ペア43点・テスタメントペア、ライルペア、レイジュペア42点

「何と3組が同点で2位! 勝負の行方はまだまだわかりません! そして下位の二組にもまだ挽回のチャンスがあります! 最終種目のハイジャンプはバーの高さによって1〜3点のボーナスが加算、更に何と、芸術点が2倍!」
「さあ、注目の最終種目、まず一番に通過したのは‥‥ライルペアだ! 真ん中のバーを二人揃って見事に飛び越した! 最初から最後まで、ぴったりと息のあった演技!」
「続くは影凪選手、一番高いバーを狙います! そして‥‥跳んだ! 支柱の片方を足場に見事な三角飛び! 最後はこれまた空中で一回転! 魅せます、影凪選手!」
「モルゲンレーテ選手はひたすら優雅に軽やかに、美しく跳びます! 着地も完璧!」
「続いては‥‥ラティ選手です! これまでやや観客へのアピールでは遅れをとっていた感がありますが、ここは何か見せてくれるのか!? 来ました、背後から投げられたボールを飛び越しざまにキャッチ! 見事な演技です!」
「コハク選手も見事にクリア! そしてそのまま、優雅に舞い踊るディアナ選手の周りを嬉しそうに跳ね回ります! 何ともホノボノとした光景! 癒されます!」
「そしてネコ好き注目のレイジュペアは‥‥こちらも飛び越しざまにボールをキャッチ! 続いてレイジュ選手が華麗なステップでジャンプ! あの葉っぱは何故落ちない!? ああ、しかし、ゴール目前でミミ選手、またしてもボールにじゃれついています! ゴールは最下位、しかしその分芸術点はダントツ!」

 ―――パァァン!!
 再びハリセンの音が鳴り響き、競技の終了を告げた。

「結果発表です! 優勝は‥‥っ」
「待ちたまえ、キミ」
 またしても横槍が入る。
「私は今、猛烈に感動しているのだよキミ。最高の演技を披露した彼等にベストオーナーなどという呼び名は月並みで陳腐に過ぎる。そこでだ‥‥」
 ヴィクターは立ち上がり、審査結果を待ち受ける冒険者達に一礼する。
「ザ・ベスト猫忍、透・影凪ペア、総合得点71点!」
「続いて第二位、猫バカ大将、レイジュ・ミミペア、68点!」
「ね、猫バカ‥‥で、ございますか、旦那様。しかも大将‥‥」
「何か文句があるのかね、キミ?」
「い、いえ、何も‥‥」
 ヴィクターは何事もなかったように発表を続ける。
「僅差で破れはしたものの、その美しい姿を私の目に焼き付けてくれたテスタメント・モルゲンレーテペアは、まさに暁の盟友!」
「そして‥‥私は見た! 慣れぬ食事で犬が体調を崩してはならぬと気を配り、自らも質素な食事で我慢していた、君のその心遣いの前にはどんな生き物も素直に心を開くであろう。そう、ライル君、キミは凍てつく月をも溶かすに違いない!」
「私は見た! 初めての競技にとまどう犬に、エスナ君、キミが優しく辛抱強く訓練をしていたのを! 遅くても、失敗しても、焦らず、怒らずひたむきにゴールを目指したその姿、実にぷりちぃであった!」
「ぷ、ぷりちぃ‥‥で、ござ」
「私は見た! 秘密の練習場でキミが懸命にダンスの練習をしている姿を! 犬の動きに合わせ軽やかに舞うその姿に、私は確かに感じたのだよ、人と犬の強い絆を! ディアナ君、君達はいつまでも友達だ!」

 ‥‥こうして、独断と偏見に満ちた称号を押し付け、大会は幕を閉じた。
 競技会の楽しさに目覚めた彼によって、またいつか、どこかで、何かの大会が開かれるかもしれない‥‥。