【ご近所の勇者様】猫啼きの鎧

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月07日〜05月12日

リプレイ公開日:2008年05月15日

●オープニング

 ――がしゃん。
「みゃ〜」
 ――がしゃん。
「みゃう〜」
 ――がしゃん。
「ふみゃ〜ん」
 何処からともなく聞こえる、猫の声。
 それは重厚な全身鎧を纏った騎士が、一歩足を踏み出す度にその中から聞こえる‥‥ような。
 騎士はゆっくりと重そうな足取りでキャメロットの町を歩く。そして‥‥

 ――がしゃん。
 やがて立ち止まったのは、木造家屋が密集した下町に並ぶ一件の長屋。
 王都とは言え、城から離れたこんな下町では騎士の姿を見かける事など滅多にない。
 庭先の日溜まりで井戸端会議に興じていた主婦達は水を打った様に静まり、少し怯えたような視線を騎士に向けた。
「ああ、いや‥‥怪しい者ではございません」
 そう言われても。
 頭の天辺から足の先まで、全身を一分の隙もなく覆う鋼の鎧。僅かに開いた兜の隙間から中を覗き込んでも、中は真っ暗で何も見えない。
「いや、あの‥‥ゴーストが取りついて鎧を動かしているとか、そういった事ではありませんから」
 ちゃんと中の人はいます‥‥と、兜を取ったその中身は、暑苦しい外身とは裏腹に目元が涼しげなちょっとイイカンジの若者。まあ、ぶっちゃけオバチャンキラー、みたいな?
 たちまち目をハート型に変形させたオバチャン達に、キラーな若者は言った。
「あの、ちょっとお願いがあるんですけど‥‥聞いて頂けますか?」
 実はこの若者、行商人だった。何を売っているかと言えば‥‥
「火災報知器です♪」
「か‥‥さい、ほーちき?」
「はい♪ この辺りは木造家屋が多いでしょう? 一度火が出たら大変な事になりますよね?」
 うんうん、と頷く主婦達。
「ですから、大切なのは初期消火! 水をかければすぐ消える程度の小さな火のうちに消し止める事が大切なんです!」
 うんうん、そうよね。でも、なかなか気付かないのよねぇ、特に夜中なんか。
「そこで、火災報知器の出番なんですよ奥さん!」
 若者は、胸のプレートをぱかっと開いて何かを取り出した。
「これぞ、我がアルフォンゾ商会の誇る最新鋭の火災報知器!」
「みゃーーー」
 ‥‥はい?
 それって‥‥猫、よね? どう見ても、ただの。
「いいえ、ただの猫ではありませんっ! 我が商会の猫は皆、火災の前兆‥‥小さな火花から煙、匂いに到るまで、この立派なヒゲで敏感に異常をキャッチして、飼い主様に知らせるように特別な訓練を積んでいるのです!」
 でも、うちは家族揃って猫嫌いで‥‥
「大火事になって全財産を失う事を思えば、苦手な猫と一緒に暮らす事など! それに、猫は可愛いのです! 一緒に暮らしてみれば、あなたにも必ずその良さがわかって頂けます!!」
 力説する若者。
 その熱意溢れる説得の故か、はたまたキラーな面差しのせいか、或いは猫の魅力か‥‥若者が鎧の中に忍ばせていた猫、計10匹はめでたく商談が成立し、それぞれの家庭に引き取られる事になったのでありました。
 しかし‥‥

「ねえちょっと奥さん! 奥さんとこの猫、ちゃんと役に立ってる?」
「あら、奥さんの所も? うちの猫なんか、この間台所でボヤが出た時に真っ先に逃げ出したのよ! 火はアタシが気付いて消し止めたから大事にはならなかったけどねぇ」
「あ〜らお宅も!? ウチもそうなのよォ、猫が火事を知らせるなんて、もうてんっでウソ!」
「詐欺よ詐欺! 訴えてやるワ!」
「誰か、あの詐欺師を捕まえてちょうだいっ!」

 ‥‥とう事で。
 ギルドの掲示板には騙された事に怒り心頭のオバチャン達による、詐欺師討伐依頼が貼り出される事と相成った。
「‥‥猫を使った詐欺‥‥その、売られた猫達はちゃんと大事にして貰っているのでしょうか‥‥」
 たまたまギルドに立ち寄ったとある円卓の騎士が、その掲示を見て心配そうに呟いたとか。
 まあ、それは置いといて。

 ――がしゃん。
「みゃ〜」
 ――がしゃん。
「みゃう〜」
 ――がしゃん。
「ふみゃ〜ん」
 誰が呼んだか猫啼きの鎧。
 それが発する奇妙な音が、今日もキャメロットの町に響いていた‥‥。

●今回の参加者

 ea4910 インデックス・ラディエル(20歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 ec1007 ヒルケイプ・リーツ(26歳・♀・レンジャー・人間・フランク王国)
 ec1071 阿倍野 貫一(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ec1110 マリエッタ・ミモザ(33歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

「猫は良いですよね‥‥。心の友です」
 決して、「彼氏がいない」とか「もう行き遅れた」とか思っている訳じゃない‥‥と、件の猫鎧を探して住宅地を歩きつつ、マリエッタ・ミモザ(ec1110)は愛猫ルークの背を撫でる。
「そうです、猫好きにレベルは関係ありませんっ!」
 ビシッ! ‥‥っと、ヒルケイプ・リーツ(ec1007)は冒険者達の行動を記録しようと後を付いてくる記録係に指を突き付ける。
 はい、ごめんなさい‥‥怒られてしまいました。
「それはそれとして、猫を使って詐欺をするなんて許せませんね。騎士団に突き出すか、詐欺の被害にあった方にお金を返して償いをしてもらいましょう」
「しかし、猫はなかなか賢い者。心胆の悪い者に懐くなどあり得るものなのか‥‥裁かれるにしても、何故かような行為に及んだのか、突き出す前に伺いたい所ですな」
 異国人の自分は目立つかもしれないと案じた阿倍野貫一(ec1071)が、ヒルケの背後に隠れるようにして歩きながら言う。
 詐欺師が立ち寄りそうな住宅街に目星を付け、住民に尋ね歩けば何かしらの情報が得られるだろうとの、この作戦。余り目立って怪しまれても拙いだろう。
「猫の鳴き声がする鎧が歩いてませんでしたか?」
 マリエッタが道行く人に尋ねる。
 だが、わざわざ尋ねるまでもなく‥‥それは、現れた。
 ――がしゃん。
「みゃ〜」
 嫌でも目立つ。
「はっ!? 何故か鎧の人に背の低いお兄さんがいる様な気が‥‥気のせい?」
 気のせいです。
 そんなインデックス・ラディエル(ea4910)の不思議な妄想は置いといて。
「まずは気付かれないように後をつけて、猫を全部売ってしまうまで待ちましょう」
 ヒルケが言った。売れ残りが出たなら、家に帰って鎧を脱ぎ、猫を解放するまで。
 ――がしゃん。
「ふみゃ〜ん」
 相手の歩みは遅い。逃げられる恐れはないだろう。それに‥‥嫌でも目立つその姿は、近所の子供達や物見高い連中を惹き付け、そして、引き連れて歩いている。尾行した所で気付かれるとも思えなかった。
「それにしても、本当に口が上手いと言うか‥‥」
 オバチャン達、乗せられすぎではないだろうか。次々と売られて行く猫達を見て、ヒルケが溜息をつく。
「本当に‥‥口も上手い様ですが、その‥‥」
 マリエッタの溜息は、何やら別の意味を含んでいる様だ。
「世の女子というものは、概してあの様な面立ちの男子を好むもの、の様でがんすな」
 率直な感想を述べた貫一に対し、マリエッタは何故かオロオロと狼狽える。
「わ、私は別に、あんな美形の彼氏がいたら良いな、とか、是非違う形でお会いしたかったとか、そんな事は‥‥!」
「ほほう、マリエッタ殿もあの様な男子を好ましく思われるでがんすか。では、拙者も是非協力を‥‥」
「しなくていいですっ」

 そんな具合に、色々と生暖かく見守ること数時間。
「これで‥‥全部売れた様です」
 鎧の中に反応がない事をブレスセンサーで確かめたマリエッタが皆に報告する。
「後は、ご近所に迷惑がかからない様な場所まで尾行して捕まえましょう」
「お仕置きだね♪」
 ヒルケの言葉に、何を企んでいるのかインデックスは楽しそうに含み笑いを漏らした。
「じゃあ、私は逃げられないように、ちょっと先回りしてみるね」
 ――がしゃん。
 ――がしゃん。
 猫の鳴き声がしなくなった、ただの鎧が通りを歩く。
 鎧は、人気のない広場で立ち止まった。
 よし、攻撃のチャンス‥‥!
 ‥‥が。
「座り込んだ?」
 鎧は、何を見付けたのか広場の隅に座り込み‥‥
「みゃ〜、みゃ〜、みゃ〜」
 ‥‥子猫?
「ああ、また見付けてしまった‥‥どうしよう、うちじゃもうこれ以上は飼えないし‥‥」
「待たれよ!」
 折角猫を手放した所なのに、また増やされてはかなわないと貫一が飛び出した。
「なるほど、その様にして猫を増やしている訳でがんすね?」
「べ、別に、好きで増やしてる訳じゃ‥‥って、誰ですかあなた達!?」
 お困りご近所から頼まれた正義の冒険者、とでも名乗っておきます?
「ひとまず、その子達から離れて下さい」
 猫と離れないようなら、愛犬の律丸に吠えかからせて猫を脅かしてみようかと考えていたヒルケだったが、流石に子猫にそれは可哀想だ。
「く、くそ‥‥っ! あれがバレたのか!?」
 あれとは、火災報知猫の事だろうか。そらバレるでしょ普通。
 だが、男は素直に子猫達から離れた。彼等を盾にするつもりはない様だ‥‥という事は、猫好きな事だけは確からしい。
「あなたの悪事は露呈しています。諦めて大人しく捕まって頂けませんか?」
 ヒルケが言う。だが‥‥
「僕は何も悪い事などしていない!」
 嘘つけ。
「僕はただ、猫助けをしてるだけだ!」
 そして、腰の大剣を抜き放つ。
「あれは、ただの飾りではなかった様ですね」
 マリエッタが呟き、そして‥‥
「戦うなら、容赦はしません」
 気配を察して貫一が射線上から飛び退く。そして‥‥
 ――バリバリバリッ!
「ぎゃあぁっ!」
 ライトニングサンダーボルトが鎧を直撃した。
 ふらふらと倒れかかる鎧を目掛けて、今度は貫一のバーストアタックが炸裂する!
「めえぇぇん!」
 ――ぱきーん!
 兜が割れ‥‥
 ――きらーん!
 何故か妙な効果音、そしてキラキラと光の乱舞するエフェクトと共に、中身が露出した。
 うん、多分、エフェクトは気のせいだと思うけど。
「う‥‥っ!」
 第二撃をぶち込もうとしたマリエッタ、何故か途中で詠唱が止まってしまった。鎧に対しては何の感慨もないが、中身を見てしまうと‥‥どうも乙女心が揺れる、らしい。
 だが、一方のヒルケは容赦ない。中身が何だろうとお構いなしに‥‥
「えいっ!」
 中に小麦粉を詰めたタマゴを、スリングを使って投げ付ける。
「うあぁ、目が、目があぁぁ!」
「どおぉぉうっ!」
 ――どかーん!
 む、流石に鎧は一度では壊れないか。
 しかし敵わないと悟ったのか、鎧男は涙でぐしゃぐしゃになった顔を押さえつつ、踵を返して逃げ出した!
 ――がしゃんがしゃんがしゃんがしゃん
 ‥‥だが。
「はい、いらっしゃいませ☆」
 待ち構えていたインデックスのコアギュレイトが、無慈悲にもとても他人様にはお見せ出来ない様な‥‥と言うか百年の恋もいっぺんに冷める様な間抜けな顔と格好で、男を固まらせたのでありました。

「誰も怪我は‥‥してないね」
 男も涙とくしゃみが止まらないだけで、特に異常はなさそうだとインデックス。
「猫を利用して荒稼ぎをするなんて!」
 怒っているのは猫の為なのか、それとも他に何か色々と複雑な事情があるのか‥‥ともあれ、マリエッタはロープで縛られた男に対して何故こんな事をしたのかと問い詰める。
「だ、だって、毎年春になると、野良猫や捨て猫が町に溢れて‥‥」
 男は涙ながらに語り出した。
「特に子猫は、見付けると放っておけなくて‥‥でも、僕にはそんなに沢山の猫を飼う余裕はないし、だから‥‥」
「やっぱり、そういう事でしたか」
 と、ヒルケ。
「でも、それなら真っ当な手段で引き取り手を探せば良いのではありませんか? 私も‥‥流石に全部は無理ですが、一匹までなら引き取れますよ?」
「あ、ありがとうございます。でも、大人になってしまった猫は、貰い手が見付からなくて‥‥」
「なるほど、それであの様な嘘を‥‥」
「あれって、やっぱり嘘だったの?」
 貫一の言葉に、インデックスが言った。
「嘘は、いけないと思うの‥‥だから」
 と、嬉しそうに微笑む。
「本当に火災報知器猫の育成が出来る様に、ジャパンにいる『火消し』という人みたいになれる様に何処かで修行をするのがいいと思うの」
 そして、修行と称した火の輪潜りをするはめになる‥‥なんて事を期待していたり。
「いや、それでも火災報知器猫なるものが育成出来るとは、拙者も聞いた事がないでがんす。ただ、改心するならば拙者も協力は惜しまない所存でがんすが‥‥いずれにしても被害者に詫び補償をする事を優先させてからの話でしょうな」

「ねえ、このお兄さんはあなた達に優しくしてくれていた?」
「にゃ〜」
 つい今しがた売り払った猫達を、代金を返して引き取って来た後で、ヒルケは猫達にテレパシーで尋ねてみた。
「ごはんはちゃんと貰ってた? 可愛がって、遊んで貰ってた?」
「にゃ、にゃ」
「うん‥‥酷い扱いは受けていなかったみたいですね。それに‥‥良い人だって言ってますよ?」
 ヒルケはちらりとマリエッタを見る。
 ただ、火災報知器猫としての訓練も受けていなかった‥‥と言うか、勿論それは真っ赤な嘘だった訳だが。
「詐欺を働いたといってもそんなに悪質では無いですし、ちゃんとお金も返して謝罪もしましたから、それほどの罪にはならないと思いますが‥‥どうしましょうか?」
「とりあえず、騎士団の人に相談してみる?」
 何故か指パッチンで火の魔法を使う人とか、筋肉質なオジさんが出てくる様な気が‥‥などと思いながら、インデックスが言う。
 いや、ないない。ないから。多分。
「猫の方は、ギルドの係員の人に引き取ってくれる人に心当たりがありそうかも」

「ええ、まあ、確かに‥‥心当たりは‥‥」
 受付係はギルドに連れて来られた猫達を見て天を仰ぐ。
 総勢‥‥ざっと数えても20匹はいるだろうか。中には詐欺と知りながら、情が移ったのかそのまま飼い続ける者もいたが、大抵の猫達が返品扱いを受けていた。
「あの方なら、絶対に断らないと言うか、断れないと言うか‥‥」
「良かった、では‥‥この子達も一緒にお願いして良いでしょうか?」
 ヒルケが抱えているのは、あの広場にいた3匹の子猫達。どうやら捨て猫だったらしい。
「あー‥‥そうですね、大丈夫、でしょう、きっと」
 自分が責任を持って「あの方」に押し付けるからと、受付係はにっこりと微笑んだ。
 ついでに、男の方も押し付けてみてはどうだろう‥‥などと心の中で思いながら。