【ボクらの未来】キミは誰?

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 71 C

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:05月22日〜05月28日

リプレイ公開日:2008年05月30日

●オープニング

「んー、そうなんだよなー。エストの奴、なんかパニクっちゃっててさ」
 冒険者ギルドの奥。いつものように報告書を読みに来たウォルに、エストの相棒、シフールのチャドが言った。
「エスティードって、アレ、多分あいつの本名だぜ。オレも忘れてたけどさ、確かペンダントの裏に刻まれてた名前だし‥‥自分でもそう言ってたのに」
「こないだは、そんな名前知らないって言ってなかったっけ?」
「ああ、だから、パニクってるんだって」
 チャドはせわしなく羽根を動かしてふわふわと飛びながら小さく肩をすくめる。
「ま、わかる気もするけどさ」
「そうだな‥‥運命の急転ってヤツだもんな」
 今までは親の名前も顔も知らない、ただの孤児だと思っていた自分が、実はどこかの貴族‥‥しかもかなり有名どころのお坊ちゃまだったなんて、普通は驚くだろう。怖くなる事もあるかもしれない。
「でさ、お前‥‥あの紋章、調べたんだろ?」
 チャドが尋ねた。
「ああ‥‥まあね。でも、あいつは知りたくないって言ってんだろ? だったら‥‥」
「でもさ、ずっとこのままでいるワケいかないじゃん! オレらの先生も調べたらしいけど、教えてくれないんだ。でも、あいつにとっちゃ、いつかは知らなきゃいけない事だぜ? だったら‥‥周りにいるオレらが先に調べといてやってさ、手助けするのも必要だと思わね?」
「そりゃ、そうかも‥‥な。でもお前、あいつに言わないって約束出来るか? なんかクチ軽そうだし」
 疑わしげな目で見るウォルに、チャドは頬を膨らませた。
「おう、自慢じゃないけどオレはクチから先に生まれて来たって言われてるくらい、クチは軽いぜ! だけど、あいつはオレの親友だぞ? 親友の為ならいくらでも黙ってられるに決まってるじゃん!」
「‥‥親友‥‥か」
 ちょっぴり羨ましいな、と思いながら、ウォルは言った。
「まあ、詳しい事はわかんないけどさ。あれは‥‥」
 セブンオークスの領主、デルフィネス家の紋章。
「評判は‥‥まあ、あんま良くない。つか、めちゃめちゃ悪い。ぶっちゃけオレの師匠の敵だ」
「師匠って?」
 だが、問われて何故か、ウォルは口をつぐんだ。
 自分はあの師匠の弟子に相応しいのだろうか、弟子だと胸を張って言えるのだろうか‥‥そんな事を考えたらしい。
「まあ、良いじゃん、そこはどうでも。今はエストの話だろ?」
「んー、ま、いっか。それでさ、そいつの事、どんくらい知ってんだ?」
「それが‥‥師匠にも殆どわかんないらしい。セブンオークスってすごく閉鎖的な場所らしくて、領主もガード固いから、なかなか情報が集まらないって言ってた」
「なんだ、ダメ師匠だな。敵の情報くらいガッツリ握っとけよ」
「何だとっ!?」


「それで‥‥喧嘩別れしてきたのですか?」
 後刻、猫屋敷にて‥‥くすくすと笑いながら、師匠が言った。
「だってあいつ‥‥!」
 ダメ師匠と言われたのが余程腹に据えかねたらしい。ウォルは帰ってからも顔を真っ赤にして怒っていた。
「人には色々な価値観や判断の基準がありますからね。それに、相手の情報が殆ど掴めていない事は確かですから」
 だが、領主の個人的な情報や内部の機密に関するものは別として、一般的な情報や民の評判、過去の出来事など、基本的な事は流石に把握している。
「え、そうなの? じゃあ‥‥エスティードって名前、知ってる?」
 その名を聞いて、ボールスは僅かに眉を動かした。
「それを聞いて、どうするのですか?」
「え、どうって‥‥あの、あいつの本名が‥‥」
 ウォルの新しい友達がデルフィネスと縁のある者らしいという事はボールスも聞いていた。だが‥‥
「大事な友達の事なら、自分で調べた方が良いでしょう。それに、調べても良いか、きちんとその子に了解は取ってありますか?」
「‥‥‥‥」
 ウォルは黙って首を振る。
「例え親切心でも、自分の事を無断で調べられたら‥‥あなたも良い気はしないのではありませんか?」
「う‥‥うん」
「その子にも色々と覚悟が必要な様ですから、一度きちんと話し合って、調べるなら一緒に。その方が良いと思いますよ」
「‥‥うん‥‥」
「それに、チャドという子にも謝らないとね」
 ボールスは不満そうな弟子の頭をくしゃくしゃと掻き混ぜた。


「‥‥って事でさ‥‥」
 後日、彼等の孤児院を尋ねたウォルは、隣に漂うチャドの方を見ないようにしながらエストに言った。
「どうする? 調べるならオレも付き合う。町で情報を集める位なら良いだろうって師匠も言ってたし、多分、聞き方と相手さえ間違えなきゃ、結構な情報は集まると思うぜ?」
「なあ、エスト。お前さ、オレには現実見ろって言ったよな? シフールに騎士は無理だとかさ」
 チャドは先日の事件を思い出しながら言った。
「だったら、お前もちゃんと現実見ろよ。目ぇ逸らして後ろ向いてんなら、オレはお前なんか置いてっちまうからな!」
 チャドは今、何とかシフールの騎士として一人前になれるように、彼なりに頑張っている最中だった。
「このまま、ここにいる方が居心地が良いのはわかるけどさ」
 ウォルが言った。
「こないだの妖しい奴の事もあるし、お前が黙ってても、きっと相手はお前を見付ける。そん時、お前がここにいたら‥‥」
「うん、危ないよな。それは、わかってんだろ?」
 チャドが相槌を打ち、エストもはっきりと頷いた。だが‥‥
「もう少し、考えさせて‥‥」
 まだ、決断には踏み切れない様子だった。

●今回の参加者

 ea3153 ウィンディオ・プレイン(32歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb5357 ラルフィリア・ラドリィ(17歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb8317 サクラ・フリューゲル(27歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ec2813 サリ(28歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)
 ec3682 アクア・ミストレイ(39歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

ユキ・ヤツシロ(ea9376

●リプレイ本文

「だからさぁ、もういいかげんに腹くくれって!」
 その日の朝、なかなかベッドから出て来ないエストに業を煮やしたチャドは、毛布の上から細い針のような剣で‥‥
 ――ぷすっ!
「痛いっ!」
 流石に、これでは寝てもいられない。エストは飛び起きて、ぶんぶんと飛び回るチャドを捕まえようと手を伸ばす。が、寝起きのボンヤリとした状態では捕まる筈もなかった。
「なんだ‥‥眠れなかったのか?」
 エストは目の下にくまを作っていた。それを見て、チャドは相手に聞こえないように小さく舌打ちをすると、朝食が冷めるぞと言い残して部屋を後にした。
「ったく、らしくねーな。何をそんなに怖じ気付いてんだか‥‥」

「あれ? あいつら‥‥まだ来てないの?」
 待ち合わせ場所に決めた広場を見渡したウォルは、不満そうに呟いた。
「何だよ、あいつらの為に集まってやってんのに、主役が来なきゃ話になんないじゃん!」
「まあ、そうむくれるな」
 ぽむ、とウィンディオ・プレイン(ea3153)が宥めるようにその頭に手を置く。
「なかなか決心が付かないのも無理はなかろう。しかし‥‥そろそろ本格的に事情を調べて行くべきだろうな」
 まだ迷う様なら、背中を押してやった方が良いだろう。
「お迎えに上がっては、良くないでしょうか? エストさんがご自分で来られるのを待った方が‥‥?」
 サリ(ec2813)が、どうしましょう、と仲間達を見る。
「待つ時間はあるが、ここでぼんやりしていても埒が明かんだろうな。決めるのは彼だが、その程度の後押しは構わんだろう。それでも来なければ‥‥それまで、という事だな」
 アクア・ミストレイ(ec3682)が言った。いつもニコニコと愛想は良さそうだが、言う事は厳しい。
「では、土産もある事だし私が行って来よう。他に誰か‥‥」
 ウィンディオの問いに、サリが頷く。
「アクア殿は?」
「いや、遠慮しておこう。待つ間に剣の稽古でもしておくさ」
「じゃあ、僕は‥‥その間に図書館で調べ物しておこうかな? お兄ちゃん‥‥一緒に行く?」
 ラルフィリア・ラドリィ(eb5357)がウォルを見て言った。
「お、お兄ちゃん!?」
「だって、この間‥‥僕のこと妹って」
 そう言えば、そうだった。
「え、良いのか? ほんとに?」
「お兄ちゃんは‥‥イヤ?」
「い、イヤなわけないじゃん! そっか、よしよし、じゃあお兄ちゃんと一緒に調べ物して来ような」
 ウォルは上機嫌で鼻の下を伸ばしている。
「だってオレ、妹欲しかったんだもん!」
 どうらや彼は妹萌えの属性持ちらしい‥‥。
 そんな様子をちょっぴり羨ましそうに見つめながら、サクラ・フリューゲル(eb8317)は溜息をつく。
「‥‥私も年下の方が良かったのかしら‥‥」
 いやいや、年上は年上でまた違った魅力が‥‥お子様には少々ハードルが高いかもしれませんが、まあそのうちに、ね。
「‥‥は! いけない、お仕事に集中しませんと‥‥。でも、どうしましょう」
 エスト達を迎えに行くと言っても、初対面の自分は遠慮した方が良さそうだ。かといってウォル達について行くのも、どうも憚られる。
「初めてなんだからさ、センパイに色々教えて貰っとけば?」
 何か困っているらしい事を察して、ウォルが言った。
「アクア暇そうだし、あいつらの事は結構知ってんじゃない?」
 暇そうだとは失礼な。だが、アクアは気を悪くした風もなく言った。
「ああ‥‥稽古はいつでも出来るからな、何か知りたい事があれば。ただ、人伝に聞いた事で変な先入観を持つような事にならなければ良いが」
「そうですわね‥‥では、稽古のお相手でもさせて頂きましょうか」
 相手になるかどうかはわからないが、一人で素振りをするよりは良いだろうとサクラ。
「では、そうして貰おうか。‥‥ウォル、家系図を調べに行くなら、これを持って行くか?」
 アクアは荷物からイギリス紋章目録を取り出し、ウォルに手渡した。
「あ、それなら持って‥‥そうだ、城に置いて来ちゃったんだっけ。じゃあ、ちょっと借りとくな」
 そして、三組の冒険者達はそれぞれの目的へと散って行った。

「えーっと‥‥ああ、これこれ。この、変な顔したイルカの紋章が‥‥って、あれ?」
 系図や年表から情報を得ようと宮廷図書館に向かったウォルが紋章目録から顔を上げる。しかし、一緒に来た筈のラルの姿が見当たらない。
「どこ行ったんだ、あいつ‥‥?」
 まさか、また腹を減らして倒れているのだろうか。図書館で餓死なんて事になったら笑えないぞ‥‥?
 ウォルはずらりと並んだ書棚の間をひとつずつ覗いて行く。‥‥と、やたらと難しそうな本の前でウットリしているラルを見付けた。
「‥‥本沢山‥‥幸せ‥‥これ‥‥」
「何やってんだ?」
「‥‥はっ! あ、えと‥‥調べもの?」
 本当か?
「腹減ってんなら後でまんじゅうやるから‥‥本なんか食うなよ?」
 ウォルよ、君には本に囲まれる幸せというものがわからないのか? だが、対するラルの答えも良い勝負だった。
「‥‥おまんじゅう‥‥じゃあ、頑張る」
 いや、まんじゅうの為に頑張るのは何か違う‥‥まあ、良いか。
 ラルは司書を捕まえて、家系図を見せて貰えないかと尋ねた。
「お兄ちゃんが騎士になる為のお勉強してて‥‥紋章とか、色々知りたいんだって。見せて貰えます‥‥か?」
 お兄ちゃんという言葉に何か引っかかりを感じた様だが、司書は二人を快く案内してくれた。
 ただ、最新の物は見せて貰えない様だが‥‥
「昔のなんか調べても、しょうがないか」
 だが、それでも何かしらの手掛かりがあるかもしれないと、ウォルはデルフィネスの家系図を取り出した。
「これ、何年前のだ?」
 羊皮紙は随分と古く、あちこち痛んでいる。とても参考になるとは思えないが‥‥
「あ、お兄ちゃん、これ‥‥」
 ラルが指差したのは、下の方。インクの跡がいくぶん新しそうに見える書き込みだった。
「エスティード・デルフィネス‥‥?」
 エストの本名だと思われている名前。
「でも、この人‥‥生まれたの随分前だぞ? 今‥‥40歳くらい?」
「‥‥お父さん、かも?」
「あ‥‥そうか。師匠も親と同じ名前だって言ってたっけ」
 そのすぐ脇に、ロシュフォードの名前もある。
 ロシュフォードは亡くなった領主の弟だという事は聞いている。そして、エストの父親が既に亡いという事も。
「どうして、死んじゃったのかな。事故とか‥‥事件? 何か、あった?」
「よし、それも調べてみよう。何か記録あると良いけど‥‥」

 暫く後、調べ物を終えた二人は町外れの空き地に集まった仲間達と合流した。
「お、やっと来たか」
 ウォルはチャドの方を見ないようにしながら、エストに向かって手を振った。チャドもまた、知らんぷりを決め込んでいる様だ。
「何だ、二人はまだ喧嘩しているのか?」
 その様子を見てウィンディオが言った。
「チャド、キミは自分が尊敬する人を面と向かって馬鹿にされたらどう思う?」
「どうって‥‥オレが尊敬すんのは、強い奴だけだ。強い奴は誰かにバカにされたりしない!」
「‥‥では、好きな人‥‥例えばお母さんの悪口を言われたら?」
「勿論、そんな奴はぶん殴る!」
「ぶん殴る‥‥か。という事は、良い気持ちはしないという事だな?」
「当たり前じゃん!」
「だが、騎士というものが気を悪くしたからといって、やたらに人を殴ったり喧嘩をしたりして良いものではない事も知っている筈だな。立派な騎士になりたいなら、まずその辺りから考えなくては。ここまで言えば、この後誰に何をするべきか判るだろう?」
「でも‥‥」
 チャドはちらりとウォルの方を見る。誰に何をするべきか、それはちゃんとわかっている様だ。ただ、きっかけが掴めないだけ、か?
「‥‥わかったよ。謝れば良いんだろ? 悪かったな!」
 チャドはウォルに向かってふんぞり返りながら、怒鳴りつけるように言った。
「それが謝罪の態度かテメエ!」
 ああ、火に油。ウォルは上空に飛び上がって舌を出すチャドを猛然と追いかける。
「‥‥私の教育が、到らなかったのだろうか‥‥」
「そんな事、ないと思うけど」
 その様子を見て、がっくりと肩を落としたウィンディオ先生に、エストがクスクスと笑いながら言った。
「ほら、なんか楽しそうだし‥‥僕達も仲直りする時は、いつもあんな感じですよ」
 だが、ここに来た本来の目的を思い出し、エストは急に黙り込む。やはりまだ決心はつかない様だ。
「‥‥まずは少し、汗を流すか」
「え?」
「そうだな、悩んだ時は体を動かすのが一番だ。稽古に集中できてくれば、おのずと迷いが晴れる時は来るだろう」
 ウィンディオの言葉に、アクアが立ち上がる。
「良ければ複数戦をやってみないか? お前達三人と‥‥こちらは私とウィンディオさんでどうだ?」
「あの、私も混ぜて頂いて良いでしょうか? ウォルの腕前も見てみたいですし‥‥」
「ええ、サクラもやんの!?」
 ウォルが叫ぶ。
「私ではお役に立てませんか?」
「そうじゃないけどっ! オレ、手加減なんか出来ないからなっ!」
「あら、ウォルに手加減をして頂くほど、か弱くはありませんわよ?」
「い‥‥言ったなっ!? いつかオレの方が強くなったって、サクラなんか守ってやんねーっ!!」
 いや、それは拙いだろ、とりあえずは騎士として。と言うか、まだ自分の方が守られる立場だという自覚はあるのか。
「‥‥今の人、誰?」
 両陣に分かれたところで、エストが尋ねた。
「ああ、サクラってんだ。オレの姉貴分」
「姉貴分?」
「そ、お節介で口うるさくてさー、やたら心配性だし。そのくせ割とドジでさ、なんつーか、あんま年上とは思えないっつーか、ほっとけない感じ?」
「ふうん‥‥仲、良いんだ?」
「良くねえよ! ‥‥いや、悪くもねーけど‥‥多分」
 なんとなく、ウォルは頬を膨らませてみる。
 エストはそんなウォルの様子を見て可笑しそうに笑った。
「美人、だよね」
「そーか?」
「うん。ウォル君、もしかして目が悪いの?」
「いや?」
「じゃあ‥‥まだ子供なんだ?」
 くすくすくす。
「何だとっ!? お前だって同い年じゃねーか! つか、お前には言われたくねえ!」
「それ‥‥どういう意味?」
「知るか! 自分で考えろ!」
 ああ、なんか険悪ムードになってるよ。
「ほら、そこまでだ‥‥始めるぞ!」
 アクアの声がかかる。
 3対3、数の上では互角だが、実力の差は明白だった。しかもお子様チーム、団体戦だというのにチームワークがまるっきりなってない。
「お前ら、オレの足引っ張んな!」
 ちょこまかと素早く動き回り、相手の死角からチクチクと地道に攻撃を続けるチャドだけが、唯一のまともな戦力だった。
「ウォル、キミは熱くなりすぎだ。それに‥‥」
 暫く後、ウィンディオは剣を納めてエストに向き直った。
「やはり、キミの剣には迷いがあるな」
 師匠に言われ、エストは思わず体を固くする。
「戸惑う気持ちは判らぬでもない。だが、キミは騎士を目指しているのだろう?」
「‥‥はい」
「ならばいつまでも迷うな、目の前にある苦難の道のりから目を逸らしてはならない。果敢に立ち向かう勇気を持つのだ」
「もう少し‥‥というけれど、何を思い迷うのか、エストさんの口から聞かされたことはありませんね」
 汗を拭く為のタオルを差し出しながら、サリが言った。
「理由は何となくわかりますが、受身のままだと心が弱ってしまいますよ?」
「何かを知れば何かが変わるかも知れない‥‥それは怖い事でしょう」
 サクラが言った。
「けれど貴方も知りたいと思っているのでしょう?」
「‥‥知りたい‥‥けど‥‥」
「今の生活を変えるのは、とても大変なことですが、ひとりで全てを背負うことはありませんよ? ほら‥‥」
 と、サリは俯いたエストに顔を上げるように促した。
「ここにいるみ〜んなが、エストさんのことを応援したい気持ちでいっぱいなのです」
「そうですよ。貴方にはこれだけ思ってくれている人がいるのですから‥‥それはエストさんの素性が何であれ変わる事はない、そう思いませんか?」
「‥‥違う、皆が変わる事が怖いんじゃない‥‥僕が、僕自身が変わってしまう事が‥‥」
 最初の一歩を踏み出してしまったら、もう元には戻れない。
「それも、わかるけどさ」
 ウォルが言った。
「じゃあ、自分から踏み出すのと、誰かに突き飛ばされるの、どっちが良い?」
 自分から踏み出した一歩なら、後戻りも出来る。
「オレなんか、しょっちゅう里帰りしてるけど‥‥でも、もし‥‥言いたかないけど、お前が迷ってるうちに帰る場所がなくなっちまったら? 最初の一歩が最悪の思い出と一緒なんて、キツすぎるだろ?」
 彼の‥‥恐らくは叔父であろうロシュフォードが敵か味方か、それはまだわからない。だが、敵に回るとしたら?
「‥‥知らないで済む時間‥‥もう終わり? 知るのも辛いけど‥‥知らずに流されて、後から後悔するのは‥‥もっと辛い?」
 何故か疑問形になりつつ、ラルが言った。
「真実は確かに一つ、でもそこにある想いは一つじゃない? 知ってそれをどうするか、それは君次第。何を信じて、何を選ぶのか、それは自分でしかできないから。でも、知らなければ何も分からないし、出来ないよ?」
 大切な人や、大切な場所。それに、大切な時間。それを壊したくないなら、今は少しだけ離れてみる事が必要なのかもしれない。
「嫌なら無理には調べませんが、ラルフィリアさんが仰る通り、知らないと抗うこともできません。それに‥‥選んだ道を歩くのはあなたですが、御両親もいつもあなたの傍にいらっしゃいます」
 サリが相変わらず背負ったままの形見の剣を見て言った。
「彼らの歩んだ道はあなたのものでもあります。あなたがどんな道を選ぼうと、それはご両親が歩まれた道と繋がっているのです。ならば‥‥ご両親に恥じない道を、歩きたいとは思われませんか?」
「これは、立派な騎士になるための最初の苦難だな」
 ウィンディオが言った。
「母上はキミが自ら望むまでは何も言わないと仰ったそうだが、話して貰えるまで待っている様ではダメだ。自分から動かなくてはな」
 育ての母がエストに形見の剣を渡したのは、巣立ちを促す為だったのだろう。
「ならば、そのまま巣に留まっていても飢えて死ぬだけだ。自分の翼で飛び立たなければ」
「迷う事は大切な事です。そして、その果てに出した答えであれば、その結果がどうあれ胸をはれるのだと思います。ですからどうか悔いのない選択を‥‥」
 サクラの言葉が最後通牒のように、エストの耳に響く。
「‥‥アクアさんは、何も言わないの?」
 先程から黙ったままのアクアに、エストは逃げ道を求めるように尋ねてみた。
「私は口を挟むつもりはない。これはお前自身の問題だ。多少時間がかかっても誰かに促されてのものよりは、自分自身で決めることが大事だろう。ただ‥‥その時間があるかどうか、それはわからんが」
 それを聞いて、エストは再び下を向いた。
 答えは‥‥もう、随分前から出ているのだ。動かなければいけない事は、わかっている。恐らく、それほど時間の猶予はないであろう事も。
 それでも動けないのは、やはり甘えがあるからだろう。母にも、友人にも、そして自分自身にも。
「‥‥僕は‥‥何を知れば良いの?」
 エストはやっとの思いで、それだけを口にした。
「エストさんは何を知りたいのですか?」
「わからない。色々ありすぎて‥‥」
「調べても、良い? 僕達が調べた事‥‥聞ける?」
 エストはラルの問いに微かに頷く。
「でも‥‥最初はあんまり‥‥」
「ショックが大きそうな事は聞きたくないか?」
「うん」
「って言われてもなぁ」
 ウォルは困ったように頭を掻く。
「オレ達が調べた事、どれもこれもインパクトありすぎなんだよ‥‥な、ラル?」
「うん‥‥すとーかーさん、探した方が、良い?」
「‥‥ストーカーって‥‥この間、僕達を付け回してた?」
「ああ、あれはお前の味方だ‥‥って、本人はそう言ってる。多分、嘘じゃないと思うけど」
 その男に聞けば、知りたい事の殆どはわかるだろう。
「恐らく今もどこかで、こちらの様子を窺っているのではないか?」
 アクアが言った。
「或いはエストと共に街角にでも数時間ほとんど動かずにいれば向こうから接触があるのではないか‥‥特にこちらが何かを待っているとわかって貰えれば」
 「エスティード、求む」とでも書いた立て札を掲げておくのも良いだろうか。
「関係無い者には意味が解らないくらいで丁度良いのではないか?」
「いや‥‥それ拙いよ、その名前は。一部じゃわりと有名っぽいし」
 色々と余計なものを呼び寄せかねないと、ウォル。
「それさ、多分‥‥お前と、お前の父さんの名前だ。エスティード・デルフィネスは、先代のセブンオークス領主。でも、母さんの名前はわかんなかった‥‥ああくそ、それもあいつに聞けばわかるんだけどな‥‥」
「んじゃ、呼んでみるか?」
 チャドが言った。そして、止める間もなく‥‥
「おぉ〜〜い、ストーカー野郎! 出て来ぉぉい!!」
「ば‥‥っ! お前、それ拙‥‥っ!」
 だが。やはり彼は、期待通りにトーキングの最中だったらしい。いつの間にか、黒い影が一同の背後に立っていた。
「漸く、決意なされましたか?」
 影はエストに向かって恭しく頭を下げた。
「ちょっと待って‥‥あ、あなたは、誰?」
「私は‥‥」
 言いかけて、影は周囲の冒険者達に視線を投げる。
「見ての通り、私達は彼の敵ではない。私はウィンディオ・プレイン。及ばずながら彼等に剣の稽古を付けさせて貰っている」 それに続いて、仲間達も次々に名乗りを上げる。
「僕は‥‥会ったのは今日が初めてだけど、お兄ちゃんのお友達だから。僕もエスト君の味方でありたいと思ってるよ?」
 ラルに見上げられ、影は微かに微笑んだ様に見えた。
「案ずるな。私とて敵味方の見定め位は出来る」


「母さん!」
 その日遅く、エストは孤児院で待つ育ての母の元へ駆け込んで来た。
「母さん‥‥ほんと!? 僕の母さん、本当の母さんが生きてるって‥‥本当なの!?」
 それを聞いて、母は静かに頷いた。
「どうして‥‥どうして黙ってたんだ!? なんで教えてくれなかったんだ!?」
 だが、母は答えない。その代わり、反対にこう尋ねてきた。
「エスト、母親の名前は聞いた?」
「え‥‥」
 エストは黙って首を振る。
「父さんの名前と‥‥僕がその名前を貰った事。それに、父さんが南の方の領主だった事は聞いた。でも、母さんの事は教えてくれなかった‥‥生きてるって事しか」
「だったら、それはあなたが自分で調べる事ね」
「でも、母さんは知ってるんでしょ!? 教えてよ!」
「エスト、いつまでも母さんを頼らないで‥‥いえ、もう母さんでもないわね」
 母は寂しそうに微笑んだ。
「まずは自分で調べなさい。それでもわからなければ教えてあげる。でも、あなたには力になってくれる友達が大勢いるでしょう?」
 それだけ言うと、母はエストに背を向けた。もう何も話す事はないと、その背中が語る。
「‥‥わかった‥‥。じゃあ、行って来るね‥‥」
 母さん、と言おうとしたが、それは声にはならなかった。


 翌朝、目を赤く腫らしたエストと共に一行は彼の父親が眠る土地、セブンオークスへと向けて出発した。
「馬の背というのは、随分高いものなのですね。景色がいつもとは違って見えます」
 ウィンディオの馬に乗せて貰ったサリが務めて楽しそうに言う。実は少しばかり、その高さとスピードが恐ろしかったりするのだが‥‥親切に乗せてくれた彼の手前、それを正直に言うのも憚られる。それに、沈みがちな空気を少しでも明るくしたかった。
 昨日、例の影から聞いた所では、これから向かうセブンオークスという町は以前、吸血鬼に襲われて甚大な被害を出した事があるらしい。それはラル達が図書館で得た情報とも一致していた。エストの父もその際に亡くなったという事だが、資料も、そして影も、それ以上の詳しい事は語らない。
『一度に全てを知る事は無理ですし、恐らく精神的な負担が大きすぎるでしょうから』
 影はそう言っていた。町へ行くなら充分に気を付けろ、とも。

 やがて町に入った一行は馬を宿に預けると、住民から直接話を聞こうと食堂や酒場へと向かった。
 ただ、単独行動は望ましくない‥‥特に子供達、とりわけエストは。
 ウィンディオは例の剣とペンダントを母の元へ託して来るようにと促したのだが、やはりどうしても手放す気にはなれなかった様だ。布を巻いて隠してあるとは言え、背中の剣はいかにも目立つ。影の話ではエストの面影には父親に似た所は余りないという事だったが、念には念を。
「エスト、そのマントは絶対に外すなよ?」
 アクアに言われた通り、エストはパラのマントを頭からしっかりと被っていた。その彼を中心に、チャド、ウォル、そしてラル。前後を挟むようにウィンディオとアクアが警戒に当たりつつ町を回る。
「彼らを護ってやってくれ」
 アクアに命じられ、忍犬が子供達の脇を歩いていた。
「孤児院の遠足です」
 誰かに聞かれれば、そう答える。あながち間違ってはいないだろう。ラルなどは遠足ついでに母親を探すちびっ子という役が実に填っていた。マントを被ったエストは、ハーフエルフだからとでも言っておけば、近寄ろうとする者もいない‥‥それはそれで、また別の問題を孕んではいるが。

 一方、サクラとサリの二人は旅の吟遊詩人という触れ込みで、広場や酒場など、人の多そうな場所を尋ね歩いていた。人が多いと言っても、キャメロットや‥‥それにタンブリッジウェルズの町を見慣れた目には、いかにも寂れて見えるのだが。
「サリさんにご一緒して頂いて、助かりました」
 サクラが小声で囁く。歌には自信があるが楽器の演奏が出来ないサクラは、歌を披露するのに伴奏がなかったらおかしくはないだろうかと、少々不安だったらしい。
「それに、サリさんは詩を作るのもお上手ですし、その場で歌詞を作れと言われても大丈夫ですわね」
「え‥‥私が、ですか?」
「ええ、いつもギルドの名簿に一言、素敵な詩を添えられていますよね。今回は‥‥我誘う、まだ踏みもせぬ大地‥‥でしたか?」
「あ、あれは、そんな大したものでは‥‥」
 本人は謙遜するが、季節毎に変わるそれを楽しみにしている者もいたりするのだ。
 そして、手近な酒場で歌と横笛による演奏を披露した二人は、余り多くはない‥‥そしてノリも良いとは言えない客達に尋ねた。
「新しい歌を作る為に、各地の伝承や噂話を集めて回っているのです。どなたかこの地に伝わる、歌の題材になるようなお話をご存知ありませんか?」
 だが、反応は鈍い。
「お嬢さん、この町には気の滅入りそうなネタしか転がってないよ」
「そうそう、お嬢さんがたに似合いそうなのは、この南にある町だ。そこでなら、楽しい歌がいくらでも作れるだろうさ」
「いいえ、楽しい題材でなくても構わないのです。例えば‥‥」
 サクラは思い切って話を振ってみた。
「この町は昔、吸血鬼に襲われたとか‥‥」
 途端、酒場の空気が変わる。その話はしたくない。思い出したくもない。誰も、何も言わないが、客達の表情はそう語っていた。

「吸血鬼は、この町では禁句のようですわね‥‥」
 二日間をかけて一通りの聞き込みを終え、宿に戻ったサクラは大きく溜息をついた。
「領主に関する話題も、なるべくなら避けたいといった風だったな」
 と、ウィンディオ。遠足組も、余り目立った収穫はなかった様だ。わかったのは、エストの母親は領主に仕えていた腕の立つ騎士だったらしい、という事くらい。
 だが、結婚はしていなかったらしい。そして、エストが生まれた事を事実として知っている者も、そう多くはない様だ。ただ、「忘れ形見が仇討ちを狙っている」という類の噂だけは多く聞かれたのは、一種の「救世主待望論」‥‥現在の領主がいかに民から恐れられ、厭われているかを示す証拠、か。
「その嫌われ領主が、僕の叔父さん‥‥なんだね」
 状況から考えて、彼がエストの味方になるとは考えにくい。それに、前領主‥‥エストの父はその彼に殺されたのだという噂もあった。勿論、今はエストの耳には入れないが‥‥
「僕は‥‥どうなるんだろう」
「もう少し、詳しいお話が聞けると良いのですが‥‥」
 サリが言った。
 他にも吸血鬼の襲来が前領主の死に何らかの関係があるらしい事など、噂の断片から伺える事はあったが、それ以上の事は誰も語りたがらない。
「やっぱ、師匠に聞いちゃう?」
「そうですわね。ボールス様やフォルティナさんにお伺いした方が良いかもしれません」
 危険を冒さずに得られる情報は殆ど手に入れただろう。ボールスもきっと、合格点をくれる筈だ。
「よし、そうと決まったらさっさと行こうぜ! ここからすぐだからさ!」
 流石のウォルも、この町の重苦しい雰囲気は苦手らしい。
 一同は荷物を纏めると、すぐ南、タンブリッジウェルズの町へ向かった。


「あ、ええと‥‥は、初めまして。僕はエスト‥‥です。エスト・マイヤー‥‥」
 ウィンディオによってボールスに紹介されたエストは、円卓の騎士を前にしてガチガチに固まっていた。本名にはまだ馴染みがないのか、それとも緊張の故か、使い慣れた名を名乗っている。マイヤーとは育ての親の姓だ。
「初めまして。ウィンディオさんのお弟子さんですね?」
「え、あ、はいっ」
 それを聞いて、自分などまだまだ弟子をとれるような実力はないのだが、と、ウィンディオは謙遜する。
「それでも、師と呼んでくれるこの子達の為に出来る限りの頃はしてやりたいと考えていますが‥‥」
「この子‥‥達?」
 エストの他にもいるのだろうかと尋ねたボールスの耳に、ウォルの怒声が響く。
「な・ん・だ・とぉおおおっ!!?」
「だから、そんなの知らねーって。ボーなんとかって、円卓の騎士にそんな人いたか?」
 おい。
「何で知らないんだよ!? アリエネー!」
「オレは強い奴にしかキョーミないの。そいつ、弱っちいんじゃね?」
「師匠は弱くないっ!!」
 あーあー、またやってるよ。
「も‥‥申し訳ない。私の教育が到らぬばかりに‥‥!」
「ああ、いいえ‥‥私の方も、教育の成果は今ひとつの様ですし‥‥」
 お互い様?
 まあ、そんな騒々しいお子様達の事は置いといて。
「短期間に、よくこれだけ調べましたね」
 報告を聞いて、ボールスは言った。
「しかし、残念ながら私も余り多くは知らないのです」
 ボールスがこの地に来た時、既に吸血鬼騒動は終息してから数年が経過していた。領主の交代による混乱期も過ぎ、その頃には既に今と同じような空気が漂っていたという。
「私も昔のことはよく知らないわ」
 サクラに尋ねられたフォルティナ‥‥ティナが言った。
「だって、その頃3つか4つよ? ロシュ様の事なら結構わかるつもりだけど、お兄さんの事はサッパリ」
 そして、エストの顔を覗き込む。
「あんた、甥っ子ですって? でも‥‥ロシュ様には全然似てないわね。中身はどうか知らないけど」
「あの‥‥ロシュフォードっていう人、そんなに嫌な奴‥‥あ、ごめんなさい!」
「別に良いわよ、皆そう言ってるし」
 エストの問いに、ティナはあっさりと答える。
「あ、でも、お腹の赤ちゃん‥‥お父さんは‥‥」
「坊や、オトナの世界は複雑なのよ?」
 ティナは、勝ち誇った様にふふんと微笑む。エストとは4つしか違わないのだが‥‥やはり、母の貫禄だろうか。
「政治的な情報については、今はまだ詳しく知る必要はないでしょう。必要ならば開示はしますが、なにぶん機密情報ですので‥‥」
 余程の事がない限り、教える事は出来ないとボールスは言った。エストは将来ボールスの敵に回る可能性もある。勿論、そうならない事を願い、出来る限り阻止するつもりではいるが‥‥。
「ええ、今の所はご自分の出自がわかれば充分ではないでしょうか‥‥エストさん、どう思いますか?」
 サクラに問われ、エストは頷く。
「でも‥‥お母さんの事は、もう少し詳しく知りたい‥‥です」
「そうですね、お母様ならお父様についても詳しく御存知の筈ですし‥‥」
 それに何より、生きているとわかれば一刻も早く会いたいだろうとサリが言った。
「今のお母さまにも御存知のことがないかお訊ねしては如何でしょう?」
「でも、母さんは自分で調べろって‥‥」
「僕達に出来る事は全部、調べたよ? だから、お母さんも意地悪しないと思う」
 ラルが言った。
「きっと、お母さんも君に自分で道を見付けて欲しいから‥‥。どーしたい? 君の道は見えた? 流されず、自分の思いで‥‥進んで?」

 その夜、城の中庭で‥‥
「どうしたエスト、眠れないのか?」
「アクアさんこそ‥‥まだ寝ないの?」
 町で宿をとった時も、アクアはひとり稽古の時間をとる為と称して野宿を選んでいた。ここでは流石にテントを持ち出す様な真似は控えた様だが、剣の稽古は欠かさなかった。
「あの‥‥僕も一緒に、稽古させて貰って、良い?」
「また、煮詰まったか?」
 アクアがニヤリと微笑んだ。
「良かろう‥‥気の済むまで付き合わせて貰おうか。ただし、手加減はしないぞ」
 とは言っても、怪我をさせるつもりはないが。
「あーっ! エストばっかズルイ!」
 相棒の抜け駆けに気付いたチャドが自分も混ぜろと飛んで来る。
「キミの相手は私がしようか?」
 ウィンディオまでもが現れた。そして‥‥
「師匠っ! オレにも稽古っ! 稽古付けてよ! あんな奴に負けらんねーっ!!」
 騒ぎを聞きつけたウォルが、これまた大騒ぎ。
 果ては、まだ城に滞在していた他の冒険者達まで仲間入りし‥‥
「あらあら、賑やかですこと」
「ええ、本当に」
「これが、せーしゅん‥‥だね?」
 ま、賑やかなのは良い事です。はい。