【北海の悪夢】美味なるもの、そは海の恵み
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■ショートシナリオ
担当:STANZA
対応レベル:6〜10lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 9 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月05日〜06月10日
リプレイ公開日:2008年06月13日
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●オープニング
●戦慄の大海原
――大海が災厄の警鐘を鳴らすかの如くうねる。
5月15日頃からイギリス周辺の近海で海難事故が頻発するようになっていた。
始めこそ被害は少なかったものの、紺碧の大海原は底の見えない闇に彩られたように不気味な静けさと共に忍び寄り、次々と船舶を襲い、異常事態に拍車を掛けてゆく。
王宮騎士団も対応に急いだが、相手は広大な大海。人員不足が否めない。地表を徘徊するモンスターも暖かな季節と共に増え始め、犯罪者も後を絶たない現状、人手を割くにも限界があった。
「リチャード侯爵も動いたと聞いたが、去年の暮れといい、海で何が起きているというのだ?」
チェスター侯爵であり円卓の騎士『獅子心王』の異名もつリチャード・ライオンハートも北海の混乱に動き出したと、アーサー王に知らせが届いていた。自領であるチェスターへの物資の流入に異常が出ることも懸念しており、重い腰をあげたという。
「キャメロットから遠方の海岸沿いは、港町の領主達が何とかしてくれる筈だが‥‥後は冒険者の働きに期待するしかないか」
現状キャメロットから2日程度の距離にあるテムズ川河口付近の港町が北海に出る最短地域だ。
海上異常事態の解決を願い、冒険者ギルドに依頼が舞い込んでいた――――。
●それはそれとして
「‥‥と、まあ‥‥海の上では相当ヤバい事になってるんだがな」
その日ギルドに現れた、真っ黒に日焼けした男は言った。
彼は近海で魚を捕って生計を立てている漁師だが、近頃は海が荒れたお陰で漁に出られない日が続いていた。たまに波の穏やかな日があったとしても、海に魚の姿はなく、当然収穫もない。
漁師にとっては商売上がったり、死活問題‥‥の、筈なのだが。しかし男は妙に陽気だった。
「世の中、捨てる神あれば拾う神ありってね。海が荒れるようになってから、近くの浅瀬で珍しい貝が大量に見付かるなったんだ」
それは、ジャイアントムール‥‥別名、大紫貝。まあ、要するに巨大なムール貝だ。
「殻の大きさは‥‥そうだな、2メートル位あるか。そんなサイズなら、さぞ大味だろうと思うだろ? ところが‥‥美味いんだ、これがっ!!」
男は思い出しただけでヨダレが垂れそうだと言いつつ、それがどれ程美味だったのかの説明を試みる‥‥いや、実際垂れてるし、ヨダレ。
舌がトロける様な、ほっぺたが落ちるような、いや、寧ろ顔ごと溶けてなくなっても惜しくない。そう思うほど、その肉は美味かったらしい。
しかし肉は美味いのだが、問題はこれがモンスターだという事。ベテラン漁師である彼でさえ、何とかひとつの貝を捕獲するのが精一杯だったという。
「デカいくせに、しかも貝なのに、水の中では物凄い素早さで動きやがる。そいつの口‥‥いや、開くと貝のフチがそう見えるんだが、そこには牙みたいなギザギザがズラっと並んでて‥‥まあ、噛まれると相当に痛いわけだ」
おまけに、時折砂の中からこっそり伸ばされる触手に触れると体が麻痺してしまうという素敵に無敵っぷり。
「ただ、水から出しちまえば殆ど動けねえ。火で炙れば、あっという間にパックリ口を開くんだ。だから、網ですくって陸にぶち上げようとしたんだが‥‥」
食い破って逃げられてしまった。
「だから、何とかならねえかな? あれだけ美味い肉だ、一匹獲れれば相当な儲けになる。2〜3匹も手に入りゃ、漁に出られない間くらいは食い繋げるさ」
暫く待てば、海の異変もお上が何とかしてくれるだろう。何ともならなければ‥‥また「ご馳走」の世話になれば良い。海が荒れている間は恐らく浜辺から動かないだろうから。
「大量に獲れたら、余った分は食っちまって構わない‥‥日持ちはしないからな。浜辺で炙ったアツアツのヤツは最高だぜ?」
そう言うと、近くの宿で待つと言い残して男はギルドを後にした。
●リプレイ本文
「久々の海‥‥」
どこまでも続く白い砂浜に立ち、レイア・アローネ(eb8106)は潮風を胸一杯に吸い込んだ。
「海は良い。何しろ食べ物が旨い。この間のマグロは旨かった‥‥」
そして、この海にもまた旨いものがあるらしい。
「‥‥む、別にそれ目当てではないぞ! 私は困っている漁師達を捨て置けなくてだな‥‥!」
そんな独り言を聞いている者は誰もいなかったが、とりあえず誰にともなく言い訳をしてみる。
気が付けば他の仲間達は依頼人の周囲に集まっていた。どうやら詳しい説明を受けている所らしい‥‥レイアは慌ててその輪に入る。
「船は借りられるかどうか、聞いてみてくれるかの?」
イギリス語が話せない八代紫(eb3902)が、ウィンディオ・プレイン(ea3153)に通訳を頼むが、返って来た答えは‥‥
「まあ、貸せない事もないが‥‥」
依頼人が浜辺を指差す。よく見ると人の背が立つほどの浅瀬のあちこちに、黒っぽい何かが埋まっていた。
「あれが全部、目当ての貝だ。あの辺の奴を2〜3匹浜に上げて貰えりゃ充分なんでな」
「ほんとだ、随分いるね」
ケリー・レッドフォレスト(eb5286)が浅瀬の上を飛びながら、ざっと数えてみる。すぐにも手の届きそうな場所だけでも5〜6匹はいるだろうか。
(「大量に採れすぎても、全部売ったら相場が落ちて、却って今後高く売れなくなるから、2〜3個で良いと言ってるんだろうなあ」)
お裾分けが楽しみだと、思わずこぼれそうになる笑みを抑えつつ仲間の元へ戻ろうとした、その時。
――ビュッ!
水中から、何かが飛んで来た。
「うわあっ!」
――バシャン!
「ケリー殿!?」
その音と叫び声を聞いて、ウィンディオが飛び出す。目の前で波間に沈んで行く硬直したケリーの体。それを素早くすくい上げたその背後で、巨大な貝が口を開けた!
「危ないっ!」
レイアが走り込み、その口を目掛けてスマッシュを放つ。貝柱を薙ぎ払う様に横に一閃してみようかとも考えたが、今は攻撃を防ぐのが第一。とにかく相手を怯ませる事が出来れば良い。
狙い通り、貝は慌てて口を閉じる。そして素早く沖に逃れると砂の中に潜ってしまった。ここでむざむざと逃がすのは惜しいが‥‥
「今はそれどころではないな。二人とも、大丈夫か?」
「ああ、かたじけない。しかし浅瀬で助かった‥‥もっと深い所だったら、間に合わずに呑み込まれていたかもしれん」
浜辺に戻ったウィンディオが、ぴくりとも動かないケリーに何とか解毒剤を飲ませようとするが、麻痺した体では上手く飲み込めない。
だが、飲む事が出来たとしても効果はなかっただろう。その麻痺は、解毒剤では治せない。効果が切れるまで、ただ待つしかなかった。
「‥‥大丈夫なのだろうな?」
ウィンディオが依頼人に尋ねる。
「ああ、一時間位で動けるようになる‥‥命に別状はないさ」
「‥‥そう言えば‥‥モンスターなんですね‥‥」
その様子を見て、マイ・グリン(ea5380)が呟く。どうやらマイは、この貝を新手の食材としてしか認識していなかった様だ。
「ふむ、中々に厄介そうな相手だな‥‥。とにかくケリー殿が回復するまで待つしかない。その間に、もう一度作戦を練り直しておくか‥‥」
そして、二時間ほど経った頃。
「ごめん、もう大丈夫‥‥ちゃんと動けるから」
体の自由を取り戻し、紫のリカバーで体力も回復したケリーが言った。
「水の中では距離感が掴みにくいかもしれぬのぅ。先程も充分に離れているように見えたのであろう?」
と、ウィンディオの通訳を介して紫が言う。
「うん、今度は充分に気を付けるよ」
ケリーは、今度は慎重に海面から距離をとりながら貝の姿を探す。
「ちょっとアイスブリザードを試してみるから、皆下がっててね」
冷気で貝を浅瀬に追いやる事は出来ないかと試してみるが‥‥水の中までは効果は及ばない様だ。まあ、そこまでしなくても、貝は浅瀬にゴロゴロしている訳だが。
そこに転がっている手頃な貝に目を付けると、マイは逃げ場を塞ぐように、ストーンウォールで作った石壁でその周囲を取り囲もうとした。だが‥‥
――ぐらり。
下は柔らかい砂地。石の壁は安定を保てずに倒れた‥‥貝の真上に。
――ごん!
もう少し大きな壁ならそのまま押し潰す事も出来たかもしれない。だが、半端なダメージは巨大貝を怒らせただけ。貝は大きく口を開け、真っ正面にいたウィンディオの足に食い付こうとした。
咄嗟に持っていた盾を突き出し、貝の口の中につっかえ棒の様に噛ませようとするが‥‥
――ガキッ!
勢い良く閉じられた口に弾かれ、ウィンディオは盾ごと後ろに吹っ飛ばされた。
「‥‥まあ、そう上手く行く筈もないか」
その隙に貝の背後に回った紫は、先程倒れた石壁を金棒で思い切り叩いてみる。レイアの説によれば、その衝撃で水中にいるものは何らかのダメージを受けるらしいが‥‥
「この衝撃にて感覚を鈍らせ‥‥鈍ら‥‥鈍って、おらぬか?」
‥‥おらぬ様です。
「ぬう、妾の手が痺れただけであったか!? ならば殻を直接‥‥!」
肉さえ無事に取れれば貝殻が砕けていても問題ない事は確認済みだ。‥‥実はその殻、染料や装飾品の材料として、然るべき場所へ持って行けば良い値で買い取って貰えるのだが‥‥。
――ガゴオォォン!
紫は容赦なく殻をぶっ叩く。ピシリ、と殻に小さなヒビが入った。
「とりあえずもう少し弱らせないと近付く事も出来んな」
レイアが貝の口を横に薙ぎ払う。これで口を開けば、中身に直接攻撃をする事も出来るのだが‥‥貝は頑として口を開かない。
「まあ、中身をグチャグチャにしてしまっては元も子もないからな。‥‥いや、殻ごと叩き割っても同じか」
さて、どうしよう。中身に被害を与えずにダメージを与え、かつ反撃を封じる手は‥‥
「ダメージは与えないけど、アイスコフィンなら反撃は封じられると思うよ」
ケリーが言った。
「ただ、水の中にいる相手に効くかどうかはわからないけど‥‥」
だが、物は試し。ケリーは充分に距離を取りつつ、貝に向けて呪文を唱える。
「‥‥効いた、みたい」
巨大な貝が、一回り大きな氷に包まれて浅瀬に転がっている。間に水があっても問題なく発動する様だ。
「でも‥‥どうやって運ぶ?」
ただでさえ巨大で重い貝に、今や氷の重さも加わっている。周囲にはそれを浮かせる事が出来る程の水量もない。
「スマッシュEXで思い切り叩けば、陸の方に転がってくれぬじゃろうか?」
紫が沖の方から陸地に向かって金棒を振り下ろしてみる。だが、周囲の水と砂が舞い上がるばかりで巨大な氷塊はビクともしなかった。転倒効果のある技なら、或いは転がす事も出来たかもしれないが‥‥。
「‥‥真下から斜めにストーンウォールを使えば、壁の端に引っかかって‥‥引っ繰り返ったりはしないでしょうか?」
マイが試してみるが、壁を作る場所は目で見えていなければならない。貝の真下になっている部分から壁を生やす事は出来なかった。
「地道に転がすしかないか‥‥」
一人や二人で押してもビクともしそうにない塊に溜息をつきながらウィンディオが言った。
下が砂地では馬の力もあまり宛てには出来ない。それでも何とか波の届かない場所まで移動させると、紫が用意した焚き火の炎で氷を溶かす。やがて氷が溶けきると‥‥
――ばこんっ!
あっさりと、貝が口を開いた。
「ご苦労さん。今日はもうこれで良いだろう。まずはこいつを金に換えて来るから‥‥あんたらはこれでも食べて、ゆっくり休んでてくれ。さっと火で炙ってみな、そりゃあもう絶品だぜ?」
一抱えほどもある切り身を冒険者達に手渡して、依頼人は村の方へと荷車を引いて歩み去る。
「うわあ、ありがとう!」
「こ、こら! そうがっつくな、みっともないだろう!?」
早速飛び付こうとしたケリーをレイアが止めるが‥‥
「あ‥‥いや、まあ‥‥くれるのなら皆で戴こうか」
レイアさんの強がりも、火で炙られた貝の何とも言えず食欲をそそる匂いの前では五秒と持ちませんでしたとさ。
「うわ、ほんとに美味しい!」
「マグロも旨かったが、これは‥‥!」
「苦労した甲斐があったというものだな」
「うむ、こんなに旨いものが頂けるとは‥‥たまには依頼を受けるのも良いものじゃのぅ」
冒険者達は濡れた服を着替えるのも忘れて舌鼓を打つ。
「‥‥どれだけ美味しくてもやはり貝ですから。‥‥当たるのだけは運次第ですね」
皆がその旨さに酔いしれる中、マイだけは冷静だったが‥‥幸い誰も中毒になった者はいなかった様だ。
そしてマイは早くも翌日以降の貝料理に思いを馳せる。貝殻を鍋代わりに酒蒸しにしてみたり、新巻鮭や野菜等と一緒に煮込んで海鮮鍋にしてみるのも良いだろう。この分なら、明日以降も順調に獲れるだろうし、移動を急いだ分だけ時間はたっぷりある。レイアに手伝って貰って、色々試してみるのも良さそうだ。
「今夜のうちに、破れたという網を繕っておくか」
ウィンディオが言った。
「氷に閉じ込めてしまえば網を破かれる心配はないし、皆で引けば転がすよりは楽に運べるだろう」
浅瀬には、まさに異常発生と呼べる程多くの貝がいる。依頼の目的は難なく達成出来そうだった。しかし‥‥
「‥‥理由は分かりませんけど、この異変に合わせて一斉に移動してきたのなら、元の生息地で何かトラブルが起こったのでしょうね。‥‥貝とは言え、これだけのモンスターが一斉に逃げ出してくるとは‥‥」
「うん、やっぱり気になるよね。この辺の海の伝承で関係するようなことあったかなあ?」
しかし、依頼人にも他の漁師達にも、原因はわからない様だった。
「いずれそれを調査し、叩く仕事も回って来るかもしれんな‥‥」
ウィンディオが呟いた。
だが、今は素直に収穫を喜び、この海の恵みを堪能させて貰おう。それをもたらした原因が何であろうとも‥‥。