【北海の悪夢】ひょっこりデンダン島!?

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:9 G 95 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月10日〜06月16日

リプレイ公開日:2008年06月18日

●オープニング

●戦慄の大海原
 ――大海が災厄の警鐘を鳴らすかの如くうねる。
 5月15日頃からイギリス周辺の近海で海難事故が頻発するようになっていた。
 始めこそ被害は少なかったものの、紺碧の大海原は底の見えない闇に彩られたように不気味な静けさと共に忍び寄り、次々と船舶を襲い、異常事態に拍車を掛けてゆく。
 王宮騎士団も対応に急いだが、相手は広大な大海。人員不足が否めない。地表を徘徊するモンスターも暖かな季節と共に増え始め、犯罪者も後を絶たない現状、人手を割くにも限界があった。
「リチャード侯爵も動いたと聞いたが、去年の暮れといい、海で何が起きているというのだ?」
 チェスター侯爵であり円卓の騎士『獅子心王』の異名もつリチャード・ライオンハートも北海の混乱に動き出したと、アーサー王に知らせが届いていた。自領であるチェスターへの物資の流入に異常が出ることも懸念しており、重い腰をあげたという。
「キャメロットから遠方の海岸沿いは、港町の領主達が何とかしてくれる筈だが‥‥後は冒険者の働きに期待するしかないか」
 現状キャメロットから2日程度の距離にあるテムズ川河口付近の港町が北海に出る最短地域だ。
 海上異常事態の解決を願い、冒険者ギルドに依頼が舞い込んでいた――――。

●遭難、そして漂流
 そしてここにも、船が難破し嵐の海に投げ出された船乗り達がいた。
 この季節なら、海に投げ出されてもすぐさま凍死する心配はないだろうが‥‥果たして何もわからぬままに即死するのと、じわじわと体力を奪われて力尽きるのと、どちらがマシだろうか。
「冗談じゃない、俺は絶対に生きて帰るぞ! こんな所で死んでたまるか!」
 砕かれた船の残骸にしがみつき、男は故郷で自分の帰りを待つ女性の面影を脳裏に浮かべる。
「約束したんだ、帰ったら結婚式を挙げると‥‥!」
 荷物など何も持ち出せなかったが、それでも異国で手に入れた赤い珊瑚の指輪だけはしっかりと握り締め、男は周囲に漂う仲間達に声をかけた。
「頑張れ! お前らだって、待ってる人がいるんだろうが!」
 その時。
 叩き付けるような雨に濡れながら必死に上空に舞い上がり、目を凝らしていたシフールが声を上げた。
「‥‥島だ!」
 遠く、かすかに‥‥霞んだように見える黒い影。それは確かに、島のように見える。余り大きくはなさそうだが、例えただの岩礁だったとしても、このまま海を漂っているよりは遙かに生存率は上がるだろう。
「よし‥‥泳ぐぞ!」
 男達は一斉に、島を目指して泳ぎ始めた。

●小さな島
 それは、確かに島だった。黒い岩のような大地には緑の草が生え、上の方には数本の木も生えている。木の上には巣があるのだろう、根元には鳥の糞が堆積し、少し離れた所には真水の溜まった池もある。救助を待つ間くらいなら、鳥や卵、それが無理なら草を食べてでも何とか生き延びられるだろう。
「無事だったのは‥‥9人、か」
 島にたどり着いた仲間達を見て、男は呟く。乗組員の半数近くが行方不明になっていた。
「いや、まだ‥‥島はここだけとは限らないし、通りかかった船に助けられているかもしれない」
 それは希望的観測に過ぎると、わかってはいたが‥‥。
「とにかく、嵐が止んだら助けを呼びに行って来てくれ」
 男は仲間のシフールに言った。
「太陽が出れば大体の方角もわかるだろうし‥‥嵐に襲われた時、陸地からそう離れてはいなかった筈だ。キツいかもしれないが‥‥頼むぞ」

●島の正体
 その数日後。
「オレも最初は島だと思ったさ!」
 キャメロットの冒険者ギルドに、羽根がボロボロに擦り切れたシフールの姿があった。
「でも‥‥そいつ、動くんだ!」
 彼等が上陸して暫く、島は‥‥当たり前だがピクリとも動かなかった。しかし、数時間後。
 地震のような微かなうねりが大地に走ったかと思うと‥‥
 ――ぶしゅううぅ!
 島が水を吹いた。島の先端、黒い岩肌が剥き出しになったような場所から、水柱が上がっている。
 いや、岩肌ではない。それは‥‥
「クジラだ。ものすごくでっかい‥‥いや、似てはいるけど、クジラとは違うのかもしれない。とにかく‥‥」
 全長は200メートルほど。それだけの大きさになるには、さぞかし年月を要した事だろう。その間に、背中の海水に浸かっていない部分に土が堆積し、草が生え、やがては木も‥‥という事らしい。
「オレ達が上陸した時には、多分‥‥昼寝の最中だったんだと思う。スピードはそんなに速くないと思うけど、動いてる間だったら、多分泳いで上がるのは無理だったんじゃないかな‥‥」
 とにかく、その動く島で仲間達が助けを待っている。
「大体の方角なら、オレがわかるから‥‥だから、お願いします。仲間を助けて下さい!」

●今回の参加者

 ea1274 ヤングヴラド・ツェペシュ(25歳・♂・テンプルナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ea7244 七神 蒼汰(26歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 eb6596 グラン・ルフェ(24歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb7208 陰守 森写歩朗(28歳・♂・レンジャー・人間・ジャパン)
 eb8106 レイア・アローネ(29歳・♀・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ec1783 空木 怜(37歳・♂・クレリック・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 島と間違うくらいデカイ鯨らしきモノの上に取り残された遭難者の救助。まあ、普通は誰もが冗談だと思うだろう。
 だが‥‥
「そんな、生物いるんだな‥‥」
 空木怜(ec1783)はその存在を信じて疑わなかった。
 そして、ヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)も。
「ふむ、昔からジーザス教の伝説には海の魔物の話がよく出るのだな」
 こちらも、そんなものは居て当然といった口調だ。
「‥‥まあ冗談みたいな話でも、遭難者が助けを求めてるのはマジだからな」
 七神蒼汰(ea7244)の言う通り、例えどんなにフザケた状況だろうと当事者が命の瀬戸際にいる事は間違いない。
「急いで助けに行かないと」
「ああ。全員、生きて帰ってそいつの存在があってラッキーだったと思えるようにしようぜ」
 怜の言葉に頷くと、依頼人のシフールは空高く舞い上がる。ボロボロになった羽根を治療して貰い、海に出るまでの間にたっぷりと休息をとった彼は、すっかり元気を取り戻していた。‥‥残念ながら、紅一点の懐に潜り込んで休ませて貰うという目論見は潰えた様だったが。
「こっちの方だ」
 シフールは、かなりいいかげんに沖の方を指差し、付いて来いと手招きをする。
「ふはははは! いざ、大海原に乗り出さん!」
 何やら無駄に威勢の良いヴラドの高笑いと共に、冒険者達を乗せた船は港を出た。

「うみくんはやっぱり、海が好きなんですねぃ」
 船と競う様に泳ぐヒポカンプス、うみくんの背に乗ったグラン・ルフェ(eb6596)は、そのツルヒヤなお肌をピタピタと撫でる。
 見上げた雲ひとつない空では鷹のももやき君が、レイア・アローネ(eb8106)のラクリマと一緒に気持ちよさそうに飛んでいた。
「惜しいな、これがピクニックとかなら最高なんだが」
 レイアが呟く。それほどに、視界は良好。ましてや猛禽の目ならば、小さな島(?)くらい見付けるのは容易いだろう。
 やがて、上空から鋭い鳴き声が響く。鳥達が何かを見付けたようだ。
「いた!」
 依頼人も声を上げ、水平線の彼方に向かって一目散に飛んで行った。
「‥‥あいつ、忘れてないかな‥‥?」
 船の甲板で休ませていたペガサス、御雷丸の背を撫でながら蒼汰が不安げに呟く。要救助者が魔獣達を見て驚く事がないように、予め説明しておいて欲しいと頼んでおいたのだが‥‥。
「では、余は船に残って指示を出す側に回るのだ。デンダンが急に大きく動くとか、別の海の魔物が攻め込んできたとか、何やら異変があった場合は旗で連絡をするのだ。余り大声で連絡をとっても、相手に無用な刺激を与えるだけであろうしな」
 ヴラドは荷物から黒と赤のマントを取り出し、適当な棒の先にくくり付けた。
「黒が敵などの目標補足、赤が母船に帰還せよ。両方の時は緊急事態発生なのだ」
「小舟は付けられそうか?」
 船からでも「島」の姿が確認出来るまでに近付いた時、レイアが尋ねた。
「動いているのかいないのか、よくわからんのだが」
 波間に漂う島は、ただのんびりと浮かんでいるだけの様に見える。
「どうやら、お休み中の様ですね‥‥。今のうちに、急ぎましょう」
 デンダン島の前‥‥動いていないので、どちらが前なのか判然としないが‥‥とにかくそれらしき方に回らないように気を付けながら、近くに寄って様子を窺ったグランが言った。
「よし、小舟が要るようなら知らせに戻るから、そのまま船で待っててくれ」
 遭難した船は、貨物船。より多くの荷を運ぶ為に、船員は小柄で体重の軽い者ばかりだという話だったが、高所恐怖症や魔獣嫌いなど、空からでは運べない者がいるかもしれない。
 そうレイアに声をかけると、怜はペガサスのブリジットで島へと向かった。蒼汰と陰守森写歩朗(eb7208)がそれに続く。
「上陸は可能でしょうか? 潜らせてしまっては拙いですから、なるべく刺激はしない方が良いと思うのですが」
 島の様子を見て森写歩朗が尋ねた。
「これだけ土が積もってるなら大丈夫じゃないか?」
 怜が答える。上空から見る限り草木の生えている部分は普通の島と何ら変わらない様に見えるし、生えている木もかなりの年数が経った、立派なものだ。
「とりあえず、土が厚そうな場所を選べば‥‥」
 眼下では、彼等の姿を見付けた数人の男達が手を振っていた。全部で8人。それだけの人が乗り、かつ動き回っていても、デンダンは何も感じていない様だ。
「よし、降りるぞ」

「た‥‥助かったぁ!」
 舞い降りた冒険者達に抱きつかんばかりの勢いで飛び出して来た男が叫ぶ。
「もう一日遅かったら、共食い始める所だったぜ‥‥!」
 いくら何でもそれは大袈裟‥‥とも言えないか。草木があるとは言え、そこはやはり本物の島とは違う。木の上に巣を作った鳥や、その卵まで食べ尽くした後は、もう食糧になりそうなものは何もない。それ以上に問題なのが、水だった。
「腹を壊して、寝込んでる奴がいるんだ」
 真水の溜まった池はあるが、湧き水などと違って雑菌が多い。しかし消毒の為に湧かして飲もうにも、火を起こす道具さえ持ち合わせていなかった。
「とにかく、元気な方にはこれを」
 森写歩朗が冒険者達で持ち寄った水や食糧を手渡す。
「動ける方には、この子達に乗って脱出して貰いますが‥‥大丈夫でしょうか?」
 ペガサスはまだしも、一般人がグリフォンなどを間近で見たら、さぞかし驚くだろうと思いきや。
「ああ、魔獣だろうが悪魔だろうが、助けて貰えるなら何だって良い!」
 流石に極限状態、恐れるものは何もない様だ‥‥だからといって悪魔の力など借りられても困るが。
「わかりました。でも、もう少しお待ち下さい。今、本船との連絡用に小舟を手配しますから」
 森写歩朗が小舟を手配しに行く間、蒼汰は御雷丸に頼んで船乗り達の体力を回復させて貰う。だが失われた体力は戻っても、リカバーで病気が治る訳ではない。
「薬草の類は持ち歩いてるが、すぐに効果が出る訳でもないからな」
 水あたりに苦しみ、息も絶え絶えな者達に治療を施しながら、怜が言った。
「この二人は下手に動かさないほうが良い。担架でも作れれば良いんだが‥‥」
 毛布はあるが、丈夫な棒がない。
「そこらの木を切り倒したら‥‥起きるよな、やっぱ」
 毛布だけで作れない事もないが、それには運び手が足りなかった。
「ロープでブランコみたいにしてみたら‥‥ダメか」
 蒼汰が提案してみるが‥‥
「自力で掴まってられないんじゃ、無理だよなあ」
 そうなると、ペガサスに直接乗せるのもやはり不安だ。弱って体力のない所に、海に落ちでもしたら‥‥。
「なら、私が背負って運ぶか?」
 いつのまにか島に上陸したレイアが言った。
「小舟はそこに付けてある。この程度の距離なら背負っても問題ないと思うが‥‥念の為、リカバーか何かで体力を補充して貰えるか?」
 レイアは病人の一人を軽々と背負うと、念の為にロープでしっかりと自分の体にくくり付けた。
「じゃあ、俺はもう一人の方を‥‥」
 蒼汰が言った、その時。
 ――グラリ。
 地面‥‥いや、デンダンが動いた。
「ああ、まだ起きちゃダメです! 動かないで‥‥デンダンくん、ね〜むれ〜ね〜むれ〜♪」
 海の上からグランが念を送るが、効果がある筈もなく‥‥島はゆっくりと動き出した。小舟が波に揺られ、次第に島から遠ざかって行く。
「どうする? また寝るまで待つか?」
「そうだな‥‥いや、待て」
 蒼汰に問われてふと母船を見た怜の目に、大きく振られた旗が映る。
「あれは‥‥緊急事態?」
 デンダンが動いた事だけなら、それほどの緊急性はない筈だ。となると‥‥
「‥‥嵐だ!」
 船員達が叫んだ。
 雲ひとつなく晴れ渡った空の一点に、シミの様に広がり始めた黒い雲。
「同じだ、俺達が襲われた、あの時と‥‥!」
「急ぎましょう。少し荒っぽいですが、我慢して下さい」
 森写歩朗はグリフォンのレオンに命じ、レイアと病人の体を縛ったロープに爪をかけて小舟まで運ばせる。もう一人の病人は、毛布で簀巻きにして鷲掴みだ。まるで荷物の様な扱いだが、手段を選んでいる場合ではない。
「よし、うみくんGO!」
 病人を乗せた小舟の舳先にかけたロープを、うみくんが引っ張る。島との距離はたちまち開いた。
「おお、無事であったか!」
 本船で待つヴラドが手を貸し、小舟は無事に母船に回収された。
「しかし、再び船を出すのは難しそうであるな」
 穏やかだった海は、既にうねりが出始めている。小さな船で乗り出すには危険だった。
 一方、デンダン島に残った者達は‥‥
「‥‥残りは6人‥‥2往復で何とかなるでしょうか」
「まずは三人だな。母船まで直接運ぶ。飛行距離が長くなるが、漢なら我慢だ」
「残った者も必ず助けに戻る。だから、暫くここで辛抱してくれ」
 迫り来る嵐と競う様に、魔獣達は空を駆ける。
「これで全員揃ったであるか!?」
 ヴラドの言葉に、船に乗り込んだ者達は互いに顔を見合わせ、無事を確認した。ペット達も皆、船に収容してある。
「よし、ケツまくって逃げるぞ!」
 誰が言ったか、そんな言葉と共に、船は全速でその場を離れた。
「海の神よ、どうか加護を‥‥!」
 レイアが海と常世の神が振るったとされる剣に祈りを捧げる。その祈りが通じたのか、船は嵐を振り切り、そして港へと無事に戻って来た。

「本当に、ありがとうございます! 結婚式には是非、皆さんをご招待させて下さいっ!」
 縁起でもないフラグを立てた張本人が、冒険者達の一人一人に握手を求める。
「いいから、二度と余計なフラグを立てるんじゃないぞ? ‥‥ほら」
 怜の視線の先には、桟橋の向こうから息を切らして駆けて来る、若い女性の姿があった。
「‥‥しかし、あの嵐は‥‥」
 抱き合い、無事を喜び合う恋人達を横目に森写歩朗が呟く。確か他にも、突然の嵐に関連した依頼がギルドに出ていた筈だ。
「原因は同じなのでしょうか? 詳しく調べてみる必要がありそうですね‥‥」