通せんぼ
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:STANZA
対応レベル:1〜3lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 39 C
参加人数:5人
サポート参加人数:1人
冒険期間:09月26日〜09月29日
リプレイ公開日:2005年10月04日
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●オープニング
「た‥‥助けてくれぇえっ!!」
冒険者ギルドに血相変えて駆け込んできた男の、上擦ってひっくり返った声に、受付係の青年は全開してもなお糸のようにしか見えない目をめいっぱい見開きながら訊ねた。
「どうしました? 何かお困りのようですが」
訊ねられて、男はなおも肩で息をしながら切れ切れに答える。
「た‥‥助け‥‥っ! む、村に‥‥道で、ごっ、ゴブリンがっ! ゴブリンがワーって、ウワーって‥‥っ!」
男は差し出された水を一気に飲み干して、ひとつ大きな溜め息をついた。
「お、おれ‥‥カミさんが産気づきそうなんで、隣村に産婆を呼びに行ったんです。そ、その帰り道、いきなり道端の藪から小さい、茶色い人影が飛び出してきて‥‥! おれ、モンスターとか詳しくないけど、ゴブリンくらいならわかります。時々、山のほうで見かける事もあるし‥‥。でも、人里に出てくるなんて! しかも、よりによってこんな時にっ!」
男は空になったカップを握りしめた。青銅製のそれは、男の手の中で今にもひしゃげそうだ。
なるほど、お産婆さんか。実はけっこうな貴重品だったりする備品の安否を気遣いながら、受付係は男の背中に目をやった。そこには小柄な老婆がちんまりと乗っかり、小さな丸い目をパチクリさせている。
「しかしゴブリンに襲われたにしては‥‥どこにもお怪我はなさそうですが?」
「あ、おれ、逃げ足だけは自信あるんです!」
男が胸を張って答える。その途端、背中のお婆さんが後ろに転げ落ちそうになった。
「おっと危ねえ! すまねえバアさん、オンブしてたの、すっかり忘れてたぜ!」
男は彼女を丁寧に背中から下ろし、続けた。
「と、とにかく、早いとこあいつらを退治してもらって婆さんを連れて帰らないと、カミさんと娘の命が危ないんです! あそこを通らないと村に帰れない! でもおれ、足には自信あるけど腕のほうはからっきしで‥‥!」
生まれてくるのが娘だと決まったわけではないだろうという定番のツッコミを呑み込んで、受付係は羊皮紙とペンを取り出し、糸目を更に細くして営業スマイルを放った。
「お急ぎなのは承知していますが、これも決まりですので‥‥」
――依頼内容――
村に行く道を塞いでいるゴブリンを退治してください。
奴等は4〜5匹の集団だと思われ、山賊の真似事をして喜んでいるようです。その中の1匹はリーダー格のようで、ひときわ体が大きく、強そうに見るという事です。
村までの距離は歩いて半日ほど、同行する依頼人のペースに合わせつつ、お産に間に合うように出来るだけ急いであげてください。
●リプレイ本文
ギルドの奥、依頼書が張られている広間は待ち合わせにも利用されている。そこに依頼を受けた冒険者達が集まり始めていた。
「おほほ〜い、コレはええもんじゃの〜〜〜!」
入って来るなり無邪気に顔を綻ばせ、ふさふさのヒゲに覆われた鼻の下を伸ばしたカメノフ・セーニン(eb3349)は、艶やかな肌を惜しげもなく晒すフィーネイア・ダナール(eb2509)にスルスルと近寄って行った。
「わしはカメノフ、エルフのウィザードじゃ。よろしくのう、お嬢さん」
「レンジャーのフィーネイアよ。普段は踊り手をしているの。よろしくね」
「ほうほう、踊り手! そりゃまたええのお! どうじゃ、この仕事が終わったら、ひとつ見せてくれんかのう?」
「ええ、無事に終わったらね」
フィーネイアは微笑んだ。本当は仕事を無事に終えたら、脇にひっそりと佇む磐猛賢(eb2504)と共に、誰にも気付かれないようにこっそりと帰途に就くつもりだったのだが。二人はハーフエルフ、ハメを外してそれがバレてはいけないとは猛賢の言だ。今も二人はその特徴ある耳を隠す為に、頭にバンダナを巻いていた。
そんな彼等の思惑をよそに、カメノフは続ける。
「しかし何じゃな、スケスケと見通しがええのはまことに結構じゃが、これではスカートめくりの醍醐味が‥‥」
厚い布で隠された神秘の世界を暴き、陽の光に晒す。それがスカートめくりの醍醐味、らしい。だが、彼女の腰に巻かれた薄布は神秘を守る役割を放棄していた。
その時、勢い良くドアが開いて、2人の冒険者が入ってきた。
「ナマステ!」
先に立った少女、シータ・ラーダシュトラ(eb3389)が胸の前で手を合わせる。だが、フィーネイア以外は誰もその意味がわからなかった。
「ボクはファイターのシータ。これはね、ボクの国の挨拶なんだ。こんにちはって意味だよ」
「おお〜、ナマステナマステ!」
女の子大好きのカメノフが、早速お近付きになろうと寄っていく。だが。
「ふむ、惜しいのう。ずぼん姿もそれはそれでええもんなんじゃが‥‥」
シータは足首を絞ったゆったりしたズボンをはいている。残念無念。
「ボクはスカートなんかはかないよ、戦士だからね」
笑いながら答えたシータが同郷である筈のフィーネイアに視線を向けた時、その眉根がかすかに寄せられたが、その理由は当事者以外にはわからないようだった。
後に続いた如何にも傭兵か或いは山賊崩れと言った風体のアルフレドゥス・シギスムンドゥス(eb3416)が、室内を見渡しながら言った。
「全部で5人か。どうする、もう少し待つか?」
「いえ、これだけ集まってくだされば充分でしょう」
背後から現れた糸目の受付係が、脇に連れ立った依頼人に同意を求めるように言う。
「とにかく、一刻を争う事態ですからね」
「はい、皆さん、よろしくお願いします!」
深々と頭を下げた男の背中から、またしても産婆が転げ落ちそうになっていた。
一行は依頼人の村を目指して道を急いだ。途中、その背中に収まったバアさんが、後ろに続くハーフエルフの二人組をしきりに振り返っている。どうも、頭に巻いたバンダナが気になるようだ。
「まさか、バレたのか‥‥?」
猛賢が並んで歩くフィーネイアに囁く。いやな汗が背中を伝った。
バアさんが男の耳元に何かモゴモゴと話しかける。
「え? 何、バアさん? はあ?」
話を聞いた男が振り返って言った。
「あの、それは流行りなんですか?」
それ、とは何の事か。
「そのバンダナです。お二人ともとても良く似合ってますよ。それで、バアさんも土産に欲しいって‥‥」
何だ、そういう事か。二人は揃って胸をなで下ろした。
「ああ、わかったわかった、後で買って来るから、な、バアさん」
彼は上機嫌で答えた。これからモンスターの出る道にさしかかろうというのに、何も不安はない様子だ。
「‥‥私、依頼人さんたちとおしゃべりして、不安や緊張を和らげてあげようと思ってたんだけど」
「バアさんのほうが何枚も上手だったな」
二人は顔を見合わせて照れたような苦笑いを浮かべた。
「‥‥ねえ、そろそろじゃないかな?」
周囲を警戒しながら先頭を歩いていたシータが歩調を落としながら振り向いた。左右に広がる木立は次第に密になり、藪も深くなってきている。そろそろ陽も傾きかけていた。
「そうだな、何時襲われても良い様に剣を抜いておくか」
アルフレドゥスの言葉に、一同は思い思いの得物を構える。
「しかしゴブリンちゅうヤツは弱い者を襲うと言うからのう」
カメノフが顎髭をなでながら前へ出た。
「強そうな御仁が武器なんぞ構えておったんじゃ、出て来んのじゃないかな?」
「それもそうだね。通り過ぎた後で後ろから襲われたんじゃ堪んないや。じゃあ、ボクが丸腰で前に出ようか?」
「いやいや、カワイイ女の子にそんな真似はさせられんわい。わしが出よう。これでも目の良さはピカイチじゃ。な〜に、危なくなったらリトルフライで上空に避難するからの、それを合図に、な」
「よし、それで行こう。頼んだぜ、ジイさん」
「ほいほい、任しときんしゃ〜い♪」
カメノフは片手をヒラヒラさせながら、ひょろひょろといかにも頼りなげに歩き出した。カラフルなシャツを着た彼の後ろ姿は味方からもよく見える。囮にはうってつけだった。
‥‥暫く後。カメノフの体がふわりと宙に浮く。
「出たな!」
ゴブリンが3匹。影になってよく見えないが、その背後にいる巨体がボスのホブゴブリンだろう。なるほど、道の幅いっぱいに広がり行く手を塞いでいる。
念のため挟み撃ちを警戒し、周囲に潜んだ敵がいない事を確かめてから、アルフレドゥスは前に飛び出した。
「あまり無理をするな。危ないと思ったら依頼人達と後ろに下がっていろ」
戦闘時の緊迫感を体験すると狂化を起こしてしまうフィーネイアに囁いて、猛賢も前に出る。
二人は手近なゴブリンに狙いを定めた。ボスよりもまず、ザコを掃除してしまおうという作戦だ。少々手強そうなボスには最後に全員で挑むつもりだった。
「ボクがあいつを足止めするね!」
シータが投げたダーツがボスに命中した。しかし。
「グゴガオアァァッ!!!」
ボスは痛みに逆上し、傍らの手下を突き飛ばしてドスドスと走り寄ってきた。しかも何故か、依頼人の方へ。
「ごめん失敗っ! 何とかしてっ!」
シータが祈るように叫ぶ。
フィーネイアは夢中でスリングから石を投げた。それは偶然ボスの目に命中し、巨体が動きを止めた。カメノフがサイコキネシスで手近な岩を飛ばし追撃する。そこへザコを倒して追いついた猛賢がロングロッドで脳天を一撃、更にアルフレドゥスのロングソードが背を切り裂いた。
「グオアァァッ!!!」
今度の叫びは断末魔だった。
ボスに突き飛ばされ、地面に転がった哀れなゴブリンを片付けて、シータが合流する。
「た、助かったあ〜。みんな、ありがとう! 依頼人さん達も無事だよね?」
男が少々青ざめた顔で頷く。フィーネイアも何とか狂化せずに済んだようだ。
道には大小のゴブリンの残骸が転がっている。とりあえず通り道を確保しようと、アルフレドゥスがそれを足で転がした。
「こいつらの片付けは後で良いな。まずは村へ急ごう」
「こ〜のボンクラ亭主は! 海の向こうまでお産婆さんを呼びに行ったのかい!?」
隣のオバチャンが依頼人の家の前で仁王立ちしていた。
「か、カミさんと娘は!?」
「ついさっき陣痛が始まったトコだよ。ホレ、さっさとバアちゃんを連れて行きな!」
豪快に依頼人の尻を叩き、オバチャンは冒険者達に目を向けた。
「ちょっと、そこの二人! 女の子だろ!? 中に入って手伝いな! さあさあ、何をボヤボヤしてるんだい、やる事は山ほどあるんだからね!」
有無を言わさぬ勢いに圧倒され、二人は家の中に吸い込まれていった。
「俺達はどうすれば‥‥?」
こういう事には不慣れらしいアルフレドゥスが呆然とつぶやく。
「この時ばかりは男の出番は無しじゃよ。黙って待つ事じゃ」
産婆を送り届けると同時に追い払われた依頼人を交え、男4人は暗くなりかけた庭先で所在なさげに佇んでいた。
「ほんぎゃあああっっ!!!」
元気な産声と共に勢い良くドアが開き、待ちかねた父親が飛び込んで来た。
「おお! 元気な男の子だ! でかしたぞ! そうか、男の子か、おれの予想通りだ!」
先程までと言ってる事が違うような気がする。
「ほらほら、カワイイだろ〜?」
早速親バカ丸出しで、お産を手伝った二人に見せびらかした。
「ほんと、可愛いわ」
「うん、国は違っても、赤ちゃんは一緒だね」
フィーネイアとシータは顔を見合わせて微笑んだ。
「―――!」
はっと気付いて、どちらからともなく気まずそうに目をそらす。
「私、他の皆さんを呼んで来ますね」
(「‥‥あの子も、悪い子じゃないみたい。ただ‥‥」)
いつかは仲良くなれるかもしれない。出口に向かいながら、そんな考えがフィーネイアの心に浮かんでいた。
背後でシータの声が聞こえる。
「ボク、友達の占い師に良い名前占ってもらったんだ。すっごく当たるんだよ。えーと、男の子はねえ‥‥」
「ほっほっ、ぱーちーぱーちー♪」
祝いのパーティーを前に浮かれるカメノフにアルフレドゥスが訊ねる。
「ジイさん、コレはいけるクチかい?」
「む、酒か。どうじゃろうのう、ひとつ勝負してみるかの?」
全てが上手く行き、誰もが上機嫌だった。
「さて、帰るか」
そんな彼等に気付かれぬよう、フィーネイアと猛賢は帰り支度を始めた。だが。
「何やってんだいアンタ達!」
オバチャンに見つかってしまった。
「なに、帰る? バカお言いでないよ、祝い事に遠慮は御法度さね。さあさあ、入った入った!」
抵抗は、不可能だった。あまりハメを外さなければ何とかなるだろう‥‥。
村の夜は静かに、一部騒々しく更けていった。