留守番騎士の事件簿
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■ショートシナリオ
担当:STANZA
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 32 C
参加人数:6人
サポート参加人数:1人
冒険期間:06月19日〜06月22日
リプレイ公開日:2008年06月27日
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●オープニング
「おっ、兄さん久しぶりだな! また呑気にお散歩かい?」
そんな声と共に、傍らの屋台から大きな饅頭が飛んで来る。それを片手で受け止めると、兄さん‥‥円卓の騎士ボールス・ド・ガニスは柔和な微笑みを浮かべながら、市場の雑踏を抜けて贈り主の元へ歩み寄った。
「ご無沙汰しています。ここはいつ来ても賑やかですね」
「ああ、まあ今んとこはな」
店の主人は僅かに肩をすくめ、小声で囁いた。
「ほれ、海の方じゃアレがナニしてるって言うだろ? おかげで海からの荷揚げがガタ落ちだってんで、ここんとこ輸入品の値段がやたらと上がっててな‥‥」
品不足になった輸入品の値が上がるのは仕方がないにしても、月道から入って来る物にまで値上げの噂があるらしい。
「月道は海の騒動とは何の関係もねえ。いつもと同じ様に、同じ量が入って来てるってのにさ。ほれ、便乗値上げって奴だよ。まあ今んとこ具体的な動きはない様だがね」
男が売り物にしている饅頭も、材料は月道経由で入って来る輸入品だ。もっとも、そんな高価な材料を使っているのは極一部の商品だけで、他は国内で普通に手に入る物を使ったオリジナルのメニューだが。
「その、アンコの入った饅頭も食い納めかもしれないぜ?」
「それは、困りますね‥‥」
そんな貴重品をタダで貰ってしまって良いのだろうかと思いつつ、ボールスは饅頭を腹に収めながら言った。
「余り極端に値上げが進行する様なら、何か手を打たないと」
「ああ、頼むよ。あんた、上にも顔きくんだろ?」
相手はボールスが円卓の騎士である事は知らない。だが猫屋敷の主で、王宮ではそれなりの地位にある人物だという事は、辺り一帯の人々に広く知られていた。
「それからな、これは噂なんだが‥‥」
男は更に声を潜めて言った。
「ただでさえ高い月道輸入品がますます高くなるってんで、そいつをごっそり頂こうと企んでる連中がいるって話だ。ほれ、今は王宮の騎士も海の方に手を取られてるだろ? 円卓の騎士も皆出払ってるって言うし‥‥」
いや、皆じゃないんですけど。目の前の人だって呑気に散歩を楽しんでいる様に見えて、実はこれでも仕事中‥‥‥‥まあ、良いか。
「だから、町中は警備が手薄だと思われてんじゃないかな。今度の月道が開いた時が危ないって話だ。兄さん、上の方に気を付けるように言っといて貰えないかな?」
「わかりました、報告しておきましょう」
ボールスは子供達の土産にと饅頭をいくつか買い込むと、雑踏の中へのんびりと戻って行った。
そして後日。ボールスは冒険者ギルドを訪れていた。
いつもと同じ、殆ど普段着の様な格好で、武装もせずに。勿論、外から見えないだけで丸腰ではないのだが‥‥どう見ても暇を持て余したお気楽な貴族の若旦那がのんびり散歩を楽しんでいる様にしか見えないのは‥‥狙ってやっているのだろうか。
「その後、少し調べてみたのですが‥‥」
先日露天商から聞いた話と共に、ボールスは受付係に詳しい事情を説明した。
「流石に月道が開いた直後は警備が厳しいと踏んだのでしょう、賊達は数日後に行動を起こす様です」
月道からの輸入品は、貴族達の他にそういった高級品を扱う商店主達も買い付けに来る。大量に仕入れた所を脇から奪い取り、法外な値段で売り捌こうという腹だ。
「今のところ月道輸入品の値上げというのはデマのようですが、品薄になれば必然的に値段は上がりますからね」
「なるほど、貴族って奴は値段がどうだろうと、どんな手段で手に入れた物だろうと、欲しい物は欲しいと金に糸目を付けずに買いたがるもんですからねぇ」
受付係は腕組みをしながら、うんうんと首を振った。
「ああ、別に貴族が全部そうって訳じゃありませんけど‥‥勿論、ボールス卿も」
「‥‥いや、私も似た様なものです」
ボールスは苦笑いを浮かべながら罰が悪そうに視線を逸らす。
「実は、今度の月道で七夕に使う笹を取り寄せて貰う事になっていて‥‥」
「いや、良いんじゃないですか、それ位は? ‥‥って、今年もやるんですか? その‥‥たばなた、でしたっけ?」
「ええ。ただ‥‥今年はのんびり遊んでいる場合ではありませんから、身内だけでひっそり楽しむつもりですが」
海の事件が片付かない限り、大規模なパーティや遊びの計画などは控えるべきだろう。その代わりに今年は本物の笹を用意してやろうと考えたらしい。
「あんな物は他に欲しがる人もいないでしょうし、被害に遭う事はないと思いますが」
問題は高価な食糧品や、特産の細工物など、誰でも欲しがる様な物だ。
「狙われる可能性のある店は二軒。どちらもキャメロットの市内にある店です」
二つの店は、それほど遠くない距離にある。賊の規模が小さければ襲われるのはどちらか片方だろうが、大規模な組織だった場合は両方一度に襲われる事もあり得る。だが、犯行が月道開通後の数日間である事は掴んだが、それ以上の情報は手に入らなかった。
「厳重に警戒して、犯行を未然に防ぐ事も考えましたが‥‥この際ですから、泳がせておいて一網打尽にした方が後々の為にも良いでしょう」
勿論、王宮の騎士達やボールスの部下も警戒には当たっているが、騎士というものは元来、隠密行動は得意ではない。余り数を増やし警戒が厳重であると思わせても、相手が餌に食いついて来なくなる恐れがある。
「わかりました、そこで冒険者達の出番という訳ですね」
受付係がポンと手を叩く。
「お任せ下さい。キャメロットの町中なら詳しい者も多いし‥‥人によっては賊達よりも裏道や抜け道に詳しいかもしれませんからね」
そんな参加者が一人でもいれば、待ち伏せや逃げ道を塞ぐ時など有利になるだろう。
「それから‥‥」
と、ボールスは付け加えた。
「余程危険な仕事でなければ、ウォルに手伝わせても構いません。あの子にも少しずつ、色々な経験をさせておきたいので‥‥足手纏いかもしれませんが、もし余裕があれば声をかけてやって欲しいと、皆さんにお伝え頂けますか?」
それに、町の地理に詳しいと言えばウォルの新しい友人達も相当なものだと聞いた。彼等に声をかけてみるのも良いかもしれない。
「では、よろしくお願いします」
丁寧に頭を下げて、ボールスは冒険者ギルドを後にした。
●リプレイ本文
「やれやれ‥‥便乗値上げもだが、騒ぎに乗じて不逞を働くような輩は願い下げもよいところだ」
尾花満(ea5322)は懐手にして組んだ腕を解き、着物の外に出すと、きちんと襟を整えながら呟いた。
「後顧の憂いにならぬよう一網打尽にしてしまいたいな」
満は標的になっていると思われる店のひとつに入る。今日の彼は、ジャパン渡来の品を扱う小さな店の主人という触れ込みだった。品物を物色しながら、彼は店の主人に尋ねた。
「このところ何か不穏な噂を聞いた事はないだろうか? 不審な事は? ‥‥いや、近々こうして小豆を買う事も難しくなるという噂を聞いてな。慌てて買い付けに来たのだが」
だが主人は自分の店では便乗値上げなど絶対にしないと断言した。妙な噂なども聞いていない様だ。
「ふむ‥‥では、慌てずとも良いか」
満は店を出ると、そのままぶらぶらと歩きながら周囲の様子を探る。今の所、怪しげな動きをする者は見当たらない様だが‥‥
その同じ頃、もう一軒の店ではデメトリオス・パライオロゴス(eb3450)が店の主人に作戦への協力を求めようと、接触を試みていた。
「おいら、トラキアを中心に商いを展開しているんだけど、このキャメロットにも足がかりが欲しいと思って、協力してくれる店を探してるんだ」
胡散臭そうにこちらを見ている主人には構わず、デメトリオスは続けた。
「まず最初にひとつ、個人的な注文を受けてくれない? ジャパンの珍しい植物を手に入れたいんだけど‥‥」
手続きの間、デメトリオスは世間話のように襲撃計画の概要を話して相手の反応を伺ってみた。
「おいら、冒険者もやっていて‥‥本当は今、その襲撃を阻止する為に動いてるんだ」
嘘をついた事を素直に謝ると、デメトリオスは言った。
「今後の憂いを断つ為に捕縛や殲滅に協力してくれないかな?」
主人もその噂は耳にしていたらしい。噂の真偽を確かめる為に円卓の騎士が兵を割いてくれると聞いて、信用する気になった様だ。
「じゃあ、今回の月道輸入品はこの店が独占したっていう噂を流させて貰うね。大丈夫、被害が出ないように、ちゃんと警備はするから」
これで、こちらの店だけが襲われるようなら警備や戦いが楽になるだろう。ただ、この短い間に噂がどれだけ広まるかは疑問だし、相手は既に準備を整えているかもしれないが。
仲間達がそうして店の周囲を警戒する中、七神蒼汰(ea7244)とサクラ・フリューゲル(eb8317)は、ウォルを連れて「下町の生き字引」エストとチャドのいる孤児院を訪ねていた。
「こんにちは、エストさん、チャドさん」
「よお、この間城で会ったよな?」
だが、二人はサクラの事はよく覚えていたが、蒼汰を思い出すには随分と時間がかかった。
「余り顔を合わせなかったし、あの時は和装だったからな。俺はおまいさん達の師匠の弟分でボールス卿の部下の七神蒼汰だ。蒼汰で良いよ」
そして、蒼汰は二人が街の裏道や抜け道に詳しいと聞いて協力を求めに来たのだと言った。
「お礼はするから俺達に協力してくれるかな?」
勿論そんな面白そうな事、チャドが嫌と言う筈もない。エストは何となく気乗りしない様子だったが‥‥
「お二人とも、最近妙な大人が増えてはいませんか?」
母親に了解を取って来ると言って奥に入って行った蒼汰を待つ間、サクラは二人に尋ねてみた。
「う〜ん、別にないなあ。ってか、オレら夜はあんまり出歩かないし」
流石に昼間から怪しい行動をしていては目立ちすぎだろう。
「それもそうですわね‥‥」
やがて用事を済ませた蒼汰が出て来ると、五人は仲間の元へ戻るついでに裏道を歩きながら、抜け道や行き止まりの情報を地図に書き込んで行った。
「流石に詳しいね」
出来上がった地図を見て、フレイア・ヴォルフ(ea6557)が言った。
「こういう時は正確な情報が有ればあるほどやりやすいんだ。それに‥‥」
と、チャドを見る。
「これを空から見られるのは強味だね。もし何かあった時の連絡役にもうってつけだ」
「ああ、俺もそれは頼もうと思ってたんだ」
蒼汰が言った。
「俺達は二手に分かれて警戒するつもりだ。だから、いざという時の為に連絡係が欲しい‥‥どうだ、やってくれないか?」
「危険だがシフールの特性を生かせば迅速な伝達が出来る。あんたにしか出来ない事だよ?」
自分にしか出来ない‥‥それを聞いて、チャドは目を輝かせた。
「戦うことも重要だけど、この場合情報も又非常に大切だからね‥‥後の二人はお留守番だけどね?」
「やる! オレ、連絡係やる!」
いつもはエストに活躍を持って行かれがちなチャドはやる気満々だ。
「コレも借りたし、大丈夫!」
と、指に填めた指輪を見せる。蒼汰は危険手当として進呈するつもりだったのだが、チャドは終わったら返すと言って聞かなかった。どうやら過剰な施しは受けない主義らしい。
「なあ、オレ達は? そーた、オレにもなんか仕事くれよ!」
不満そうな顔でウォルが言った。だが‥‥
「二人はそれぞれの家で留守番だ」
「そんなあ! だって、相手はそんなに強くないんだろ? オレにだって‥‥!」
「相手の情報は何も掴めちゃいないんだ。とんでもない手練がいたらどうする?」
フレイアがむくれたウォルの頭を掻き回す。
「今回は大人しく待ってな。その代わり、早く済んだら‥‥そうだ、投げナイフでも教えるかね」
勿論エストにも、と、フレイアは片目を瞑って見せた。
そして、昼間は特に何事もなく過ぎ‥‥
「火の用心、とかゆーたらアカンやろかー?」
夜間の巡回中、どうすれば自然な感じで歩けるかと思案した藤村凪(eb3310)が呟いた。
「いや、それは何と言うか‥‥違うだろ、色々と」
隣を歩く蒼汰が苦笑いを浮かべる。
出歩く者もない夜中に、不審者と思われないように自然な様子を装って歩くのは案外難しい‥‥二人三人と連れだっていれば尚のこと。
「かといって一人で歩くのも危ないやろし、余計に怪しまれるやろしな‥‥」
やはり火の用心か? 叫んでみるか?
一方、もうひとつの店の周囲では、満とフレイア、そしてサクラが張り込んでいた。
昼間フレイアに言われた通りに騎士達が用心を促したお陰か、周囲の家は扉を固く閉ざしている。ふらふらと出歩いている者もいない様だ。
やがて真夜中を過ぎ、昼間張り切っていたチャドがサクラの肩で居眠りを始めた頃。
月明かりに照らされた店の影で、何かが動く気配がした。
サクラに起こされ慌てて飛び起きたチャドは、事態を把握すると離れた仲間達の元へ飛んで行く。
だが、サクラは動かなかった。反対側で見張る満と、屋根の上で弓を構えるフレイアも。
できるだけ数が増えるのを待って挟み撃ちにする。それが狙いだった。
「この店の商いは主に食品‥‥ならば火をかける様な事もあるまい」
賊達は見張られているとも知らず、裏口の鍵を外しにかかる。
「流石、主力のいない隙を狙うような連中だ。こりゃ、とんだ小捕物かねえ」
ただ、人数だけは多そうだ。数だけは大捕物‥‥か?
そこへ、蒼汰、凪、デメトリオスの三人がそっと合流する。
「ご苦労さん、流石案内が良いと早いね」
屋根の上に飛んできたチャドに、フレイアは小声で言った。
「済まないが、もう一仕事頼めないか?」
向こうも襲われないとは限らない。騎士達を残しては来たが‥‥
「わかった、なんかあったら知らせる!」
その姿を見送り、フレイアは弓弦を引き絞った。
「さて、そろそろ始めるかね」
「痛い思いをしたくなければ、大人しくお縄に付け‥‥なんて言っても無駄か」
店の中から品物を運び出し、意気揚々と引き上げにかかった賊達の前に、蒼汰が立ちはだかる。
「盗んだ物をその場に置いて去れば罪には問わぬ‥‥などとは言わぬ」
賊達を挟むように、暗がりの中から満が現れた。
「これで全員表に出たやろか? ほな、この扉は閉めさせて貰うなー」
店の中に戻った賊が店主などを人質にする事がないように、凪が裏口のドアを閉める。
「大丈夫です。どなたかが負傷した場合にはきちんと治して差し上げますから‥‥縛り上げた後で、ですけれど」
サクラがにっこりと微笑んだ。
「ちッ、誰かチクりやがったな!?」
賊の一人が吠えた。
「だが、ここに残ってる奴ァどうせ雑魚だ。やっちまえ!」
「皆、離れて!」
地上の四人に挟まれ、気が付けば一直線に並んでいた賊達の頭上から稲光が走る。
デメトリオスが放ったライトニングサンダーボルトが賊達を薙ぎ倒し、そこに四人が斬りかかった。
「峰打ちだ、殺しはしない」
「次はどいつだ? ‥‥まぁ、誰でも良い。最終的には全員捕らえるのだからな」
「あー、こない危ないモン振り回したらあかんで?」
「はい、怪我をされた方は大人しくしていて下さいね?」
それでも刃向かおうとする者には屋根から矢の雨が振り、逃げようとする者には犬達が吠えたて、食らいつき‥‥
「ほう、少しは出来るか。だが‥‥」
最後に一人残った賊の攻撃を巧みにかわし、疲れが見えた所で満はその武器を奪い取る。
「残念だったな」
「く‥‥っ! だが、俺達を倒しても今頃は‥‥!」
その時、チャドが血相を変えてすっ飛んで来た。伝言の内容は聞かなくてもわかる。冒険者達は賊の捕縛を騎士達に任せると、もうひとつの現場に急行した。
「お疲れさんやー。ほな一服しよかー?」
もう一方の現場も手際よく片付けた冒険者達は、店に上がり込んでお茶していた。お茶菓子は勿論、賊達から大事な商品を守って貰った店の主人提供の、ジャパンからの輸入品だ。
「結局はゴロツキの寄せ集め程度のものであったか」
満が呟く。
「だから余計に、いくら潰しても後を絶たないんだろうけどな」
しかし、現れたらまた潰せば良い。
ぐっすりと寝込んだチャドを膝に乗せ、蒼汰は渋いお茶をすすった。朝になったらこの子を送るついでに改めてエストを訪ねてみようと思いながら‥‥