【北海の港町】海辺の村を襲う者たち

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 26 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月24日〜07月03日

リプレイ公開日:2008年07月07日

●オープニング

 キャメロットから北東、徒歩4日で辿り着くロッチフォード東端の港町『メルドン』でも北海の異常による余波が訪れていた。
 主に漁猟で支えられている素朴で小さな港町で、大らかな性格の民が多い。特色はないものの、漁で獲れた海の幸が民の自慢で、酒場や食堂、宿屋など幾つか見掛けられ、船乗り達の憩いの場だ。
 メルドンからキャメロットの冒険者ギルドに依頼が届くようになったのは最近の事である‥‥。

 そんな訳で、ここは冒険者ギルド。
「そう、うちはね、そのメルドンのすぐ近くなんだけどさ」
 いかにも「肝っ玉母ちゃん」という形容が似合いそうな、こんがりと日焼けした恰幅の良いオバチャンが言った。
「殆どの家が魚を獲って暮らしを立ててるような、どこにでもある小さな村さ。だけど、ここんとこ漁に出られない日が続いててねえ‥‥ほら、あんたも知ってるだろ?」
 北海の異変。突然の嵐やモンスターの大量発生などによって、漁師達が海に出られずに困り果てているという話はもう、ギルドでも何度も耳にしている。
「あたしらの村でも、それは同じでね。それどころか、陸の上にまでモンスターが現れるようになっちまったのさ。ギヤマンだかゲルマンだか知らないけどさ、魚みたいなナリをした魚人って奴さね」
 それは多分、ギルマンの間違いではないかと。
「え? なに? ああ、名前なんかどうだって良いさね。とにかくそのそれが、村の中を荒らし回ってるんだよ」
 漁には出られないし、貯蔵庫は荒らされるしで踏んだり蹴ったりだと、オバチャンは腰に手を当てて仁王立ち、受付係を睨み付けた。‥‥いや、ここでそんなにスゴまれても‥‥ねえ?
「そんな危ない所に子供達を置いちゃおけないからね。こっちの親戚に預けるついでに、ココに寄ってみたってワケさ。あたしはこっちで当座の食糧を買い込んで、これから一人で村に帰る所なんだけどね。誰か一緒に来て、魚人どもをぶっちめてくれないもんかねぇ?」
 オバチャン、魚人の2〜3匹くらい一人で撃退出来そうだけど?
「なんだって? 何か言ったかい?」
 いいえ、何も。
「女子供の殆どはツテを頼ってどっかしらに避難してるがね、村には男衆やら頑固な年寄りやらが残ってる。連中も海の男だ、そうそうヤワにゃ出来ちゃいないけど、何しろ相手はモンスターだからねぇ。それに、片道4日もかかる道のりだ。荷馬車にゃ荷物が満載だし、なんたってか弱い女の一人旅だろ?」
 オバチャンは「か弱い」をことさら強調するが、自分でもその形容が全くそぐわない事は承知しているらしく、カカカと豪快に笑った。
「まあとにかく、旅は道連れって言うじゃないか。ちょいとそこまで、オバチャンに付き合っとくれよ。ね?」

 ‥‥という訳で、この豪快なオバチャンに付き合って、ちょいとモンスターを退治して来て下さい。

●今回の参加者

 eb5808 マイア・イヴレフ(25歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ec4924 エレェナ・ヴルーベリ(26歳・♀・バード・エルフ・ロシア王国)
 ec4979 リース・フォード(22歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec4984 シャロン・シェフィールド(26歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

 町で買い込んだ食糧を満載した荷馬車が、ゴトゴトと重そうな音を立てながらゆっくりと街道を進む。
「しかしまあ、何だねえ‥‥」
 御者として手綱を握る依頼人のオバチャンは、荷物の両脇に付き従う冒険者達を見てカラカラと笑った。
「これからモンスター退治に行こうってんだから、もっとこう、ガラの悪そうな腕自慢の連中が来るのかと思ったら、まあまあ大層な綺麗所ばっかりで」
 これじゃオバチャン、か弱いなんて言ってられないかねえ、あっはっは。
 ‥‥確かに、一行の中ではこのオバチャンが一番元気で逞しく、腕っ節も強そうだった。実際、荷物を積み込む時も手伝いを申し出た冒険者達が手を出す隙さえも与えず、あっという間に仕事を終えてしまったのだから。
「小麦の袋や日持ちのする野菜‥‥どれも重たい物ばかりなのに、逞しいなあ、マダム‥‥」
 その様子を呆気にとられながら半ば呆然と眺めていたリース・フォード(ec4979)が呟く。
「俺なんてはり倒されそうだよ」
「なぁ〜に言ってんだい!」
 ――どばーん!
「痛ーっ!?」
 ‥‥あ、本当にはり倒されてる。
「ああ、ゴメンゴメン。でもね、あんたもそのうち子供の2〜3人でも産めば嫌でも逞しくなるさ、あっはっは!」
「‥‥いや、マダム、俺は男だから‥‥」
 地面に突っ伏したまま、ささやかな抵抗を試みたリースの声は、果たしてオバチャンの耳に届いたのだろうか。
 そんなやりとりを思い出しながら、リースは小さく笑みを漏らす。
「しかし、やっぱり大勢でワイワイやるのは良いねえ」
 冒険者達に背を向けたまま、オバチャンはちょっとしんみりした様子で言った。
「こっちに来る時にゃ、その荷台に子供達が乗ってて‥‥そりゃあまあ、うるさかったモンだけど、親戚の家に預けた途端、なんだかシ〜ンとしちまってねえ」
 気丈に振る舞ってはいるが、やはり寂しいのだろう。それに当然、預けた子供達や村に残した家族の事など、心配も多い筈だ。
(「早く安心していただけるように尽力いたしましょう」)
 シャロン・シェフィールド(ec4984)は心の中で決意を新たにする。
「だが、今は私達がいる。子供達ほど賑やかな面子ではなさそうだが、この無口な積み荷達よりはマシだろう」
 荷台をポンと叩き、エレェナ・ヴルーベリ(ec4924)が笑った。
「そうだ、きちんと自己紹介をしていなかったね。エレェナだ、宜しく」
 差し出された細く華奢な手を、オバチャンのがっしりと肉厚な手が握り締める。ちょっと痛いが、そこは我慢だ。
「素晴らしく豪気な方だね。貴女のように魅力的な方と知り合えて嬉しいよ」
「あたしもさ。うちの方は何にもないけど静かで平和なだけが取り柄でねぇ、冒険者なんて人種とは一生関わらないと思ってたんだけどね」
 オバチャンはカラカラと笑う。そのまま、二人は怒濤の勢いで世間話に突入した。この国の事、村の事、エレェナの故郷であるロシアの事‥‥もう、誰にも止める事は出来ない‥‥と言うより、止める気さえ起きなかった。

「確かに、のんびりとした平和そうな村ですね」
 数日後、漸く村に辿り着いた一行は、下調べの為に村の中を歩いて回ってみた。
 普段なら魚の水揚げで賑わっている筈の浜にも人影はない。干し竿に掛けられたままの網が風に揺れる姿が、余計に寂しさを感じさせた。
 オバチャンの案内によれば、浜からずっと離れたこの高台の家にまで、ギルマン達は現れると言う。
「海底の生き物がここまで‥‥か。向こうも必死だな」
 家の前に立ち、海を振り向いたエレェナの耳にも潮騒の音は微かに聞こえるのみ。
「確か、体が乾くと死んでしまうという事でしたよね」
 マイア・イヴレフ(eb5808)が言った。
「往復の時間を考えると、この辺りまで来るのが限界でしょうか。お互いに嵐で食料を取れないのは同じ、ギルマンの方も不幸とは思いますが‥‥」
 だが、これも仕事だ。中途半端な事をしても、結果として報復を受けて痛い目を見るのは村人達。仮に追い払えても他の村を襲う可能性もある。
「ここで確実にしとめましょう」
「ああ、事情は分かるけれど、村の生活もあるからね。仕方ない」
 リースも固い表情で頷く。
 とは言え、まともに戦うには流石に戦力が足りない。何か罠を張るにしても、まずは人手が必要だった。
「相次ぐ海の異変で、冒険者は多くが出払っていますからね」
 シャロンが尋ねた。
「無論戦闘はこちらでお引き受けいたしますが、準備やその他のことで、村に残っているという男性方にご協力をお願い出来ないでしょうか?」

 数刻後、冒険者達の要請を受けて集会所へと集まって来たのは、陽に焼けた屈強な男達と、元気そうな老人達、それにもっと元気そうなオバチャン達‥‥つまりは、村に残っている殆ど全員だった。
「自分の村を守る為に力を貸すのは、当然と言えば当然だけどね」
 やる気満々の村人達を前に、エレェナは思わず苦笑を漏らす。
「ただ、ギルマンと直接接触するのは避けて欲しい。流石に危険だからね、戦闘は私たちに任せておくれ」
「まずは戦闘で壊されたくない貴重品なんかを動かして貰おうかな」
 と、リース。自分も手伝うつもりではいるが、力仕事となると‥‥
 ――どばん!
「ああ、その辺はオバチャン達に任せときな! ま、壊れて困る様な物なんかありゃしないけどさ、あっはっは!」
 また、はり倒された。どうも、オバチャン達に気に入られている様な‥‥?
「げほげほ、ぐ‥‥あ、ああ勿論、なるべく被害は最小限にするようには努力するけど‥‥けほっ、念の為に、ね?」
「ついでに水桶なんかも片付けておいて欲しいね。井戸にも蓋が出来るならそれも。それから‥‥近くに川はあるかい?」
 エレェナの問いに、村外れに小さな川があると村人の一人が答えた。
「じゃあ、そっちの方にも行かせない様にしないとね」
「それから、罠を張るお手伝いもお願い出来ないでしょうか? 落とし穴が掘れれば時間稼ぎにもなるのですが‥‥」
 マイアが尋ねる。
「ただ、準備にどの程度の時間をかけられるか‥‥いつも何時頃に来るとか、襲撃のパターンなどはわかりますか?」
「特に決まっちゃいないけど‥‥天気の良い日には滅多に出ないね。曇りや雨、それに夜が多いかねぇ」
 体を乾かして衰弱を待つという作戦上、雨は拙い。何とか晴れた昼間に誘き出せないものか。
「食糧で釣る事は出来ないでしょうか‥‥匂いの強い食べ物を、少し海に流してみるとか」
 と、シャロン。それで釣られてくれるなら‥‥
 やってみる価値は、ありそうだった。

 小さな魚の干物が一枚、ひらひらと波間に揺れている。
 それが波に呑まれて、数分後‥‥
(「来ましたね」)
 海岸近くの漁師小屋に身を潜ませたシャロンが、被った毛布の下から外の様子を窺う。海から上がって来た魚人達‥‥その数は7体、いや、8体か。
 彼等はシャロンの存在には気付かずに、すぐ目の前を通り過ぎる。陸地の奥から漂ってくる干物の強烈な匂いが、彼等の意識を釘付けにしていた。
「き‥‥来たぞ、逃げろ!」
 囮を買って出た村人達が、わざとらしく大声を上げ、頭上で干物を振り回しながら村の奥へと逃げる。逃げるルートは予めエレェナの指示で決めてあった。
 ほぼ同時に、それを追って走り出した‥‥とは言え、陸上ではそれほど素早く動ける訳ではないが‥‥魚人達が海辺に生えた二本の木の間を通ろうとしたその時。
「今だ!」
 掛け声と共に足元の砂に埋められたロープがピンと張られ、魚人達は足をとられて無様に倒れ込んだ。そして、倒れた先に掘られた溝に頭から突っ込む。
 溝はそう深いものではなかったが、魚人達の動きを止めるには充分だった。更に、上からは大きな網がかけられる。
「ギャッ!」
 網に絡まれながらも立ち上がり、穴から出ようとしたその背中に、シャロンが放った矢が突き刺さった。
 危うく難を逃れた魚人達には、リースのライトニングサンダーボルトが襲いかかる。
「悪いね、海に帰す訳にはいかないんだ」
 それでも動こうとする者には、マイアが鞭でその足を絡めとり、引き倒した。
 そうしている間にも、夏の太陽は魚人達の体から水分を奪って行く。このまま放っておけば、手を下さずとも事は済みそうだった。
「こちらもまた、必死なのでね。気の毒ではあるが、退治させて貰うよ」
 せめて苦しまず、眠ったまま逝けるように‥‥エレェナは魚人達にスリープをかける。
「‥‥おやすみ。せめて、その永久の眠りが安からんことを 」

「後味が良いとは、言えませんね‥‥」
 魚人達の亡骸を燃やす煙が天へと昇っていく。その白い筋を見つめながら、マイアが呟いた。
 仕方がない事とは言え、やはり何か胸の奥にずっしりと重く、しこりの様なものが残っている。それにモンスターの脅威は去ったとしても、この海に魚が戻って来た訳ではない。村ではこれからも、漁に出られない日々が続くのだろう。
「こんなことが続いては持ちません。早々に、異変が収まればよいのですが」
「それにしても、北海で何が起きているんだろう? 」
 これからもモンスターが増えたり、海難事故が多発したりするのだろうか。こんな事がなければ、人間も魚人達も、それぞれに棲み分けて上手くやって行けただろうに。
「原因解明の為にも、俺達冒険者が動かないといけないみたいだ」
「そうですね。二度とこんな事が起きない様に‥‥」
 リースの言葉に、シャロンも頷く。
 寄せては返す波に乗せて、エレェナが奏でるオカリナの音が静かに流れていた。
 だが、その静寂を破り‥‥
 ――ずばあん!
「なァにしみったれた顔してんだい!」
 オバチャンだ。
「仕事は大成功じゃないか。ほれ、来なよアンタ達、大したもてなしは出来ないけどさ!」
 どうも、ささやかな慰労パーティを開いてくれるらしい。
 では、遠慮なくお邪魔させて頂きましょうか‥‥半分砂に埋もれた、リースを掘り出したら、ね。