キャメロットを楽しもう!
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■ショートシナリオ
担当:STANZA
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 39 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月16日〜07月19日
リプレイ公開日:2008年07月24日
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●オープニング
「どうして‥‥」
ファティナ・アガルティア(ec4936)は焦り、戸惑い、そして困惑していた。
「どうして辿り着けないのでしょう? 目の前に見えているのに‥‥っ!」
彼女が目指すのは、キャメロットの王城。それはすぐ目の前、立ち並ぶ家々のすぐ向こうに偉容を誇っている。
なのに何故か、彼女はそこに辿り着く事が出来なかった。
「うう、この街は霧の都とか、ヘ○タイの都とか、色々な噂を耳にはしましたが、まさか街全体に人を惑わす魔法でもかかっているのでは‥‥!?」
まあ、ある意味、人を惑わす街ではある。
活気に満ち、そして様々な誘惑に満ち溢れたイギリスの王都。
運悪く、もしくは好奇心から「あなたの知らない世界」へ足を踏み入れてしまう事もあれば、或いはただギルドで仕事を受けただけなのに、気が付けば昨日とは違う自分になっていたりする事も珍しくはない、そんな街。
だが、ファティナは今、そうした意味で迷っているのではない。ましてや、道を踏み外している訳でも。
純粋に本来の意味で道に迷っているのだ‥‥今の所は。
「こ、今度こそ‥‥今度こそ迷わずに、しっかりきっちり辿り着いて見せます!」
ファティナは目の前に聳える王城を睨み付け、びしっと指差すと、そのまま歩き出した。
目指す場所は、この指の先に見えている。これなら絶対に迷う筈がない。
しかし‥‥
「‥‥あっ!」
何かに興味を引かれたらしく、ファティナは道端の商店にふらふらと吸い寄せられる。
「何でしょう、これは‥‥? ここには見た事もない珍しい物が沢山あるのですね」
危険な場所は本能的に避けている様だが、それ以外は何処にでも、本来の目的を忘れて寄り道してしまうのだ。
そして、道行く人に誰彼となく気さくに話しかけ、相手がノリの良い人だったりすると時間を忘れて話し込む。
‥‥これでは、いつまで経っても辿り着ける筈がなかった。
そうして王宮の周囲をぐるぐると歩き続けること数時間。
遂に力尽きた彼女は、見覚えのある店のドアを叩いた‥‥
「た、助けて下さい。どなたかボクを、王宮に‥‥王宮に連れて行って‥‥」
ぱたり。
ファティナはカウンターに突っ伏し、待った。
自分を無事に王宮まで導いてくれる、救いの神が現れるのを‥‥。
●リプレイ本文
「えぇと‥‥迷子、なんだよね?」
唯倫(ec5066)は町並のすぐ向こうに聳える城と、目の前で半べそをかいている依頼人ファティナ・アガルティア(ec4936)を見比べながら尋ねた。
「この距離で迷子って、あんまり想像出来ないけど‥‥でもボクもキャメロットは来たばかりなんだ。とりあえず港と教会とコロシアムまでの道順は知ってるけど、王宮には行った事なかったな」
最悪、他に誰も案内がいなければ一直線に壁を破壊しながら行こう、などと秘かに考えていた倫だが、神様は街の破壊を良しとしなかった様で、他に二人、ちゃんと道順と道理のわかった助っ人を用意してくれていた。
「普段から冒険に明け暮れているから、ここでの生活には余り慣れていないのだが‥‥流石に主要な施設の場所くらいは、な」
ジョン・トールボット(ec3466)が苦笑いを浮かべる。
「しかし、城までの道案内ならほんの数分で済んでしまうな。わざわざギルドで人を集めなくても、往来で案内を乞えば済んだ様な気もするが‥‥」
「折角ですから、街を見物しながらのんびり行きましょうか。急ぐ用ではないのでしょう?」
ルーウィン・ルクレール(ea1364)の問いに、ファティナは頷いた。
「はい、夕方までに辿り着ければ‥‥」
「そうか。ならば‥‥まずはどこから案内するかな」
ジョンは楽しそうに街を見渡した。通常は真面目で寡黙、お堅い印象のある彼だが、今日はいつになく口数が多い様だ。
「ファティナ殿は、何処か行ってみたい場所はあるのだろうか?」
「ええと‥‥賑やかな所が大好きです! それに、楽しそうな事とか‥‥あ、キャメロットを一望できる高台とか 、そんな場所があれば行ってみたいです」
「一望できる‥‥か」
ジョンには何か心当たりがある様だが。
「それは、街巡りの最後になるかな」
「ボクも今回のでいっぱいキャメロットを知りたいな。お二人とも、よろしくお願いしますね!」
倫さん、案内は二人に任せっきりにする気満々の様ですが‥‥まあ、良いか。
ギルドを出た4人がまず最初に向かったのは、多くの人や物が集まる広場だった。
「あそこに何か人だかりが出来ています!」
――ぐいっ!
ファティナは迷子防止の為に繋いだ倫の手を引っ張って走り出した。
「あ、ちょ‥‥人混みの中で走ったら危ないよ!」
引きずられる様にして走る倫と、それを追いかける男二人。
「ああ、大道芸か。キャメロットには芸人も多い様だな」
ジョンは何とかその様子を見ようと背伸びしている女性二人に道を作り、人垣の最前列へと導いてやった。
「わあ、すごいです!」
ジャグリングにアクロバット、手品、寸劇‥‥魔法を使った派手な演出に観客達は目を奪われている。芸を披露するのは人間ばかりではない。
「猫です! 猫さんが綱渡りをしています!」
どうやら、ファティナは猫好きらしい。
「猫好きなら‥‥格好の場所がありますね」
「そう言えば、あの屋敷もここから近いか‥‥」
ルーウィンとジョンは、どうやら同じ場所を思い浮かべたらしい。
「何ですか? 猫さんがいっぱいいる所、ですか?」
ファティナが目を輝かせる。だが、流石にアポなしは拙いだろう‥‥全然拙くない様な気もするが、そこはやはり大人の判断で。
「いや‥‥多分、この後でそこの主人に会う事になるだろうからな」
その時に了解を貰えば良い。
「まずは、この広場を堪能しましょうか」
ルーウィンの言う通り、広場にはまだまだ魅力的なものが沢山あった。
お菓子や軽食を売る屋台、ガラクタにしか見えない品々に結構な値を付けて並べている露天商、ひとり朗々と演説を披露する者もいれば、歌や演奏で盛り上がっている者もいる。
「どれ、私もひとつ‥‥」
一通り見て回った所で、ジョンが荷物の中から竪琴を取り出した。
「ジョンさん、演奏出来るんですか? すごいです!」
「いや、余り上手くはないが」
謙遜しつつ、ジョンはお気に入りの曲を奏で始めた。
「お嬢さん、踊って頂けますか?」
ルーウィンがファティナに手を差し出す。
「え‥‥は、はい!」
竪琴の音に乗せて、二人は優雅に舞い始める‥‥広場の雑踏には余りそぐわない気もするが、それもまた一興。
「‥‥ボクもダンスくらいは習っておいた方が良いかなぁ」
その様子を見て、倫が小さく溜息をついた。
「踊ったら喉が乾きましたね」
「あ、ボクはミルクが飲みたいな。おいしいミルクがあるお店があるといいな♪」
そんな訳で、ひとしきり広場でのイベントを堪能した一行は、喉の乾きを癒すべく酒場へと向かった。
「おいしいミルクか‥‥探せばあるのかもしれないな」
「そうですね、普段は酒と食事位しか頼みませんから、気にした事はありませんでしたが」
酒場といっても、普段彼等が出入りしている店の他にも様々な特徴を持った店がキャメロットには沢山ある。料理自慢の店、酒よりもお茶やお菓子が自慢の店、吟遊詩人の演奏が聴ける店。宿屋が併設されている店も多い。まあ、宿にも色々と種類はあるのだが‥‥そこは大人の世界につき割愛させて頂くとして。
「あ、ここのお店はお持ち帰りOKだそうですよ。お土産でも買って行きましょうか♪」
ファティナは一軒の店にいそいそと入って行く。
「ふむ、甘酸っぱい青春の味か‥‥ファティナ殿には、まだわからないだろうな」
甘酸っぱい保存食と酒を手にしたジョンは、ファティナにはこれだと、お菓子の様な甘い味の保存食とハーブティーを手渡した。
「未成年だし、この味がわかる様になるのはまだまだ先だな」
「‥‥もしかして、子供扱いしてます?」
「いや、そんな事は‥‥」
いや、してるだろ。綺麗な女性と見れば見境なく口説くのがキミの本性だし。‥‥え? 違う? でも‥‥
‥‥まあ、それはともかく。
「そろそろ、真面目に王城を目指した方が良い頃合いですね」
ルーウィンに言われ、一行は港で船や馬車の往来を眺めたり、教会で荘厳な空気に触れたり、あちこち寄り道をしながらも、目指す王城に向かって歩く。
やがて‥‥
「着きました! 漸く‥‥漸くここに! 皆様、ありがとうございました!」
城門を前に、ファティナはぴょこんと頭を下げた。
「へえ、大きいんだね。ボクもこんな近くまで来たのは初めてだよ」
倫が感嘆の声を上げる。
「それで‥‥ファティ、お城には何の用なの?」
「え? 用って‥‥」
「だって、何か用事があるから、ここに来たいと思ったんじゃないの?」
「‥‥用事‥‥」
問われて、ファティナは考え込む。
「何か、あった様な気は‥‥します。でも‥‥」
あちこち迷って道草を食っているうちに、忘れてしまったらしい。
「まあ、よくある事‥‥だな。多分。気にしなくて良い」
ジョンが言った。
「だが、折角ここまで来たんだ。中を見学させて貰うとしようか」
「え、でも‥‥用もないのに勝手に入って、怒られたりしないのでしょうか‥‥?」
「勝手に入る訳じゃない。まあ、今日は居るかどうかわからないし、忙しくて相手が出来ない事もあるだろうが」
と、ジョンはルーウィンと顔を見合わせる。
「そうですね。ちょっと門番の方に言伝を頼んでみましょうか」
暫く後、彼等の前に現れたのは‥‥
「‥‥誰?」
「さあ、どなたでしょう‥‥?」
こそこそ、ひそひそ。
「すみません、お忙しいのに無理を言って。この二人は‥‥」
ルーウィンが後ろで様子を窺う二人を紹介すると、その人物は丁寧に頭を下げ、微笑みながら手を差し出した。
「初めまして。ファティナさんと倫さん、ですね。私はボールス・ド・ガニスと申します」
「は、はい‥‥」
「よ、よろしくお願いします‥‥」
「さっき少し、猫が沢山いる屋敷の話をしただろう? そこのご主人だ」
と、ジョンが紹介するが‥‥ちょっと待て。その前に、まずは円卓の騎士という肩書きを紹介しないか普通は?
まあ、本人も気にする様子はないし、わざわざ肩書きを披露するつもりもない様だが。それに、肩書きよりも「猫屋敷の主人」と言った方が通りが良い事も確かだ。
‥‥それで良いのかという気も、しないではないが‥‥まあ、良いか。
「それで、お二方は城内の見学がご希望と伺いましたが、どんな所を見たいのでしょうか? 半刻程度ならお付き合いしますよ」
柔らかい物言いにつられ、ファティナはつい遠慮なく答えてしまった。
「はい、あの、塔のてっぺんに登ってみたいです! それから、猫さん達の所にも遊びに‥‥!」
「いつでもどうぞ。屋敷の場所はその二人が知っていますから、案内して貰うと良いでしょう」
そう言って微笑むと、ボールスは先に立って歩き出した。
「うわあ、すごーい! 街が全部見えますー!」
塔のひとつに登り下を見た瞬間、ファティナは歓声を上げた。広場に酒場、港、教会‥‥今まで巡って来た場所が、一望の下に見渡せる。
「さすがはキャメロット、壮観な光景だ。そういえばここで落ち着いて生活するという事はあまりなかったな‥‥」
自分の家はどこだろうかと探しながら、ジョンが感慨深そうに呟いた。
「本当に広いんだね。広いけど‥‥小さくも見える、かな」
倫が言った。
「王様は毎日、こんな景色を見てるのかな? だとしたら‥‥これを見て、何を思ってるんだろう」
「こうして下を見ると、本当に人の上に立っているんだな‥‥と、そんな気がしますね」
ファティナが呟く。勿論、人の上に立つという事は物理的な位置を指す訳ではないが、時折こうして視点を変え、自分の立ち位置を物理的に確認してみるのも悪くない。
「ここに立って‥‥下に見えるものを守りたいと思うか、それとも支配したいと思うか。ファティナ殿はどっちだ?」
ジョンに問われ、ファティナは躊躇う事なく答えた。
「勿論、守りたいです。それが貴族の務めですから」
「ボクも‥‥貴族じゃないけど、守りたいな」
倫が頷く。
迷いながら辿り着いた場所で得たものは、迷いのない答えだった。