釣りキチ日誌

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:6人

冒険期間:08月31日〜09月05日

リプレイ公開日:2006年09月08日

●オープニング

 それは去年の事‥‥いや、去年に限らず、毎年のように繰り返されてきた事だった。
 毎年恒例のマス釣り大会。
 釣り人が銀色に光る獲物を釣り上げた瞬間、背後の藪から音もなく忍び寄る影。
 影は針の先から獲物をかすめ取り、再び藪の奥へ消えていく。
「い、今のサカナ見ただろ!? こんなにデカかったよな!?」
 しかし、釣り上げた本人以外、それを見ていない。証明する手段もない。
 そして気が付けば、桶に入れてあった魚も残らず消えていた。
「オレはこ〜んなデッカイ奴を5匹も釣り上げたんだぞ!」
「なにおぅ、オレなんかなあ、こ〜んなこぉ〜〜んなヤツを10匹も‥‥!」
 だが、現物がなければ例えそれが事実でも認められはしない‥‥。

「そったらこって、もう毎年、オラ達もすっかり困ってるだ」
 今年も大会を間近に控えたある日、主催者の一人で自身も大の釣り好き、ストロー・ハット氏がギルドを訪れた。
 町のギルドを訪ねるのに釣り竿と桶は要らない気もするが、それは既に彼の体の一部となっているようだ。
「このままこんな事が続けば、この国の釣り文化は台無しだ。今年こそ、まともな大会にしたいだよ」
「なるほど‥‥では、ご依頼は大会が行われている間、釣り上げた魚を盗難から守る、という事ですね?」
「んだ、現物がなければ、数も大きさも比べようがないでな」
「ところで、その犯人‥‥影というのは?」
「ネコだネコ。あのへんの河原に住み着いて、あっという間に数が増えちまっただ」
 ハット氏は、もうどうしようもない、といった風情で肩をすくめる。
「オラ達も犬を連れて行ったり、ホウキで追い払ったりはしとるんだども、どうにもこうにも、ヤツラのほうが何枚も上手でな。ただ、オラ達もネコが憎いわけではねえだ。ちょっと、大会の間だけ、邪魔しねえようにしてもらえれば‥‥結果の判定が終われば、サカナを分けてやっても良いと思ってるだが、何せ言葉が通じねえもんでなあ‥‥」
 んだばヨロシク、と頭を下げ、釣り竿と桶を手に帰っていくハット氏の小柄な、少し丸まった背中を見送りながら、受付係は依頼書を掲示板に張り出した。
 最近どうもネコがらみの依頼が多いですねえ‥‥と、思いつつ‥‥。

●今回の参加者

 ea3071 ユーリユーラス・リグリット(22歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 ea3690 ジュエル・ハンター(31歳・♂・レンジャー・人間・エジプト)
 ea3827 ウォル・レヴィン(19歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 eb2745 リースフィア・エルスリード(24歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 eb3310 藤村 凪(38歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb5505 サクヤ・クロウリー(20歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb5549 イレクトラ・マグニフィセント(46歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb6179 リドル・リンカー(39歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

ミュウ・チャーム(ea4085)/ カレン・ベルハート(ea4339)/ フレイア・ヴォルフ(ea6557)/ マリー・プラウム(ea7842)/ ソフィア・アウスレーゼ(eb5415)/ 龍堂 浩三(eb6335

●リプレイ本文

 大会を翌日に控え、今はまだ人気のない河原に、魚の焼ける良い匂いが漂う。
 下見と称して今日も釣りを楽しむストロー氏が釣り上げたマスを頂戴し、他に友人達が用意した様々な食材を混ぜ合わせてジュエル・ハンター(ea3690)が猫のご馳走を作っていた。
 その匂いに誘われるように、どこからともなく1匹、また1匹と、猫が姿を現し始める。
「なるほど〜、猫さん達はあそこを通って来るデスね〜?」
 上空からその動きを観察していたユーリユーラス・リグリット(ea3071)が、早速仲間にその情報を伝える。藪の中に獣道が出来ているようだ。
「では、道の出口だけを開けるように塀を作っておくか。こうすれば塀のない所だけを見張れば済むだろう」
 イレクトラ・マグニフィセント(eb5549)の提案に、大白鷲のディアを肩に乗せたウォル・レヴィン(ea3827)が頷く。
「塀を乗り越えられたらディアに威嚇して貰えば良いかな。これだけ大きいんだから敵だと思って近付かないだろうと思うけど‥‥ちょっと飛ばしてみようか?」
 ウォルの合図で大きな鷲が空に舞い上がる。藪から出ようとした猫達が慌てて引っ込む姿が見えた。
「うん、効果アリだな」
「塀の上に猛獣さんの毛皮を掛けておいたらどやろなー?」
 釣り大会の関係者に猟師がいたらしく、藤村凪(eb3310)は剥ぎたての血の痕も生々しい熊の毛皮を借りてきていた。
「それは良いかもしれんな」
 イレクトラが同意する。
「僕もクマさんと犬さんの毛をいっぱい貰ってきたデス。これも使うデスか?」
「‥‥まあ、考えておこう」
「では、私はこのあたりの藪を払って見晴らしを良くしておきますね」
 リースフィア・エルスリード(eb2745)がブレーメンアックスで草刈りを始める。
「その、草を刈った所に猫の保護部屋を作るのはどうだろう? 開けた場所は他にないみたいだし」
 と、ウォル。
「なるほどー、そやなー」
 準備が和気藹々と進む中、釣りが一段落したストロー氏が何やら包みを抱えてやってきた。彼は、大会の運営費で色々と差し入れをしたり、買い物の代金を立て替えたりしてくれていたのだが、この上まだ何か差し入れがあるようだ。
「近所の猫好きに話したらな、これを使ってくれと渡されたんだ〜」
 中身は‥‥手作りオモチャと布きれがどっさり、そしてマタタビが少々。
「では、これは私がお預かりしましょう」
 と、サクヤ・クロウリー(eb5505)が嬉しそうに包みを受け取る。
「これだけあれば、猫じゃらしが沢山作れそうですね」
「じゃあ、ゴハンも出来たし、猫達も随分集まってきたから‥‥」
 ジュエルが言い終わらないうちに、ユーリが張り切って答える。
「皆で猫さんに餌をあげるデスー!」
「今日のうちに少しでも慣れて貰えば、明日が楽ですからね」
 などと真面目に意見を述べたリースフィアだが、実は足元にすり寄ってきた人懐こい猫達を構いたくてウズウズしているのだった。

 そして翌日。
 前日の夕方から集まった釣りキチ達は、夜明けと共に一斉に竿を下ろした。
 イレクトラが提案した大会のルール変更は、最後にズラっと並べて自慢するのも楽しみのひとつだと言われては断念するしかなかったが、魚はたっぷり分けて貰える事になった。
「外道ならいくらでも持ってってええだよ」
「外道とは‥‥?」
「狙った以外の、他の魚の事だぁ。マス以外もかなりかかるでな、どれも美味い魚だで、餌に困る事はないと思うだよ」
 こうして、大会の開始と同時に、冒険者達のねこねこ大作戦が始まった。
 まだ暗いうちから、昨日よりも多くの猫がどこからともなく現れて来る。
「さあ、おいしいゴハンはこっちだよ〜、あっちの魚よりおいしいよ〜」
 ジュエルが猫なで声で呼びかけながら、猫よけ用のレモン汁と酢、その他諸々の猫が嫌がりそうなものをたっぷり染み込ませた木くずを、餌の場所に誘導するように置いて回る。同時に釣り人達に近付かないようにと作った塀の周囲にも置いていった。
「レモンは輸入品だし、今は季節じゃないから手に入らないかと思ったけど、今頃出回る品種もあるんだな」
 今のところ、猫達は目の前の餌に夢中になって、釣り人には近寄ろうとしない。もっとも、まだ誰も魚を釣り上げてはいなかったが。
 満腹した猫達は、くしくしとヒゲを撫で、入念に毛繕いを始める。中には警戒心を解いた様子でゴロゴロと転げ回る猫もいた。
「今のうちに眠って貰うデス♪」
 ユーリがスリープを唱え、眠ってしまった猫達を起こさないように皆で静かに保護部屋に運ぶ。
 目覚めた猫達の相手はリースフィアと凪の担当だ。
「あやや。あかんでー、そっち行かんとこっちやで?」
 凪はサクヤから受け取ったオモチャで気を引きながら、まったりと監視する。そんなのんびりムードに引かれた猫達もおっとりのんびり、あまり激しい遊びはしないようだ。
 てし。
「ん?」
 一匹が、前足を片方、凪の膝にかける。
 様子を見ながら、もう一方も、てし。
 嫌がられない事を確認して、のし、のし、どか。
「あんさんは膝好きやなー♪」
 猫の体から、何やら黒くて小さなものが飛んだような気もするが、気にしない。
 一方のリースフィアの所には元気な子猫が群がっていた。
 片手に猫じゃらし、片手にふわふわグローブで応戦するが、あっという間にボロボロになってしまう。
 それを傍らで必死に繕うサクヤだったが、その最中にも猫の魔手は伸びてくる。
「あ、危ない、ほら、針が‥‥! ああ、糸がぐちゃぐちゃに‥‥!」
 悪戦苦闘。
 だが、中にはそんな遊びには全く興味を示さない猫もいる。
 彼等は誰かが魚を釣り上げた気配がすると、止める暇もなくあっという間に保護部屋の塀を越えて飛び出して行った。
「さあ、出番だぞ」
 待ち構えていたウォルが、大白鷲に合図する。
「いいな、猫は傷付けるなよ。威嚇して飛ぶだけだぞ?」
 鷲はふわりと上空に舞い上がり、塀の隙間から飛び出そうとする猫に向かって上空から舞い降りる。
 大きな影が近付いてくる気配を感じた猫は顔を上げ‥‥全身の毛を逆立てたまま、固まっってしまった。
 そこにすかさずジュエルがマタタビ団子を投げると、猫はその匂いに反応し、今までの恐怖はすっかり忘れてクネクネしだした。ジュエルはそれを抱き上げ、保護部屋へいそいそと連行する。
「遊んでなんかないよ、これも仕事なのさ♪」
 イレクトラは釣り人の間を回って不要な魚を回収しながら、猫の襲撃にも目を光らせる。
 しかし、中にはそんな厳重な包囲網さえ突破して釣り人に近付く強者もいた。
 ユーリはそんな1匹と対峙していた。
 手にしたハリセンでパンパンと地面を叩くが、相手は一向に引く気配がない。それどころか‥‥どうやら魚より面白いオモチャを見つけたらしい。
「ぼ、僕は餌じゃないですからね〜、食べないで下さいね?」
 だが、相手は姿勢を低くし、今にも飛びかからんばかりの体勢を作っている。
 ユーリは腹を括り、ハリセンをミニ猫じゃらしに持ち替えると、『決死』と書かれた鉢巻きをぎゅっと締めた。
「僕がこれ持って飛び回れば‥‥被害押さえれるデス?」
 と、同時に猫が飛びかかってきた!
「きゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」

 ‥‥‥‥戦い済んで陽が暮れて。
「いや〜、あんたらのお陰で今年はええ大会だったなや〜」
 マス釣り大会は何とか無事に終了し、待望の宴会に突入した。
 猫に追いかけられたユーリも、どうにか逃げ切る事に成功したようだ‥‥かなりボロボロではあったが。
「‥‥死ぬかと思ったデスぅ」
 そしてその猫は今、ユーリの隣でマスの丸焼きにかじりついていた。時々、ザラザラの舌でユーリの顔を舐めながら。
「気に入られたみたい‥‥デス」
 焼き魚の骨を取るリースフィアの前では、子猫達がきちんとオスワリして『ゴハンまだー?』と待っている。
 絶妙な角度で首を傾げ、まん丸な目で見つめるその姿。
「う‥‥そ、そんな眼でこっちを見ないでください。そんな眼をされたら私は‥‥っ!」
 ジュエルとサクヤは自分の猫に持って帰るお土産を作っていた。
「うちのエレアは焼き魚と生とどっちが好きかな? まだ子猫だし、煮魚のほうが良いかな‥‥?」
「私の猫は家に置いてきてしまったのですが‥‥この席だけでも連れてくれば良かったでしょうか」
 色々なマス料理を堪能したウォルは、同じくお腹一杯の猫達と猫じゃらしで遊んでいる。
 イレクトラもそっけない態度ではいるが、猫には猫好きがわかるもの。さりげなく猫に囲まれ、何気なくいじっている。
 凪は相変わらず猫を膝に乗せ、まったり宴会を楽しんでいた。
「そうそう、うちも何かお土産持って帰らんとー」

 こうして、たっぷりゴハンを貰ってご機嫌な沢山の猫達と、釣果も上々、お酒も入ってこれまたご機嫌な釣りキチ達、そして作戦成功と猫まみれのシアワセにこちらもご機嫌な冒険者達と‥‥夜を徹した宴会はいつまでも続くのだった‥‥。