【ボクらの未来】いざ、勝負!

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:08月06日〜08月11日

リプレイ公開日:2008年08月16日

●オープニング

「‥‥もうヤダ! オレはもう、二度と絶対、誰に頼まれたって、何があったって‥‥」
 海での戦いから戻ったその日、ウォルは動かない地面の有難さを噛みしめながら言った。
「‥‥船になんか、乗るもんかーっ!!!」
 その様子を見て、師匠のボールスは弟子の奔放に跳ねた髪を軽く掻き混ぜる。
「すみません、まさかあれほど酷い船酔いになるとは‥‥」
「‥‥あ」
 ウォルの眉がピクリと動いた。
「師匠‥‥今、笑ったろ」
「え?」
 気のせいだろうとトボけて見せるボールスだったが‥‥
「嘘だっ! 笑った! 絶対笑った! 思い出し笑いなんて、やらしーぞ師匠っ!!」
「ああ‥‥ごめん。でも‥‥ぷーっ!」
 今度は、遠慮なく盛大に吹き出した。
「あはは、あんなに元気で派手で、騒がしい船酔いは‥‥くくっ、初めて見‥‥ぷくくくっ」
「笑うなーーーっ! オレはホントに、死ぬかと思ったんだからなっ!!」
「‥‥確かに、あれは苦しいものですよね」
 漸く笑いの発作を押さえ込んだボールスが言った。
「私も初めての時は死ぬかと思いましたから‥‥かといって、休ませても貰えませんでしたが」
「え?」
 どういう事だろうと首を傾げるウォルに、ボールスは事もなげにサラリと言った。
「密航がバレて、強制労働の最中でしたからね」
「み‥‥密航!?」

 それは故国を追われ、イギリスに渡る途中の出来事だった。
「お前が選べる選択肢は2つだ。今ここで兄弟揃って鮫の餌になるか、それとも船賃の分を働いて返すか‥‥」
 二人の密航者を発見した船長は、弟を後ろに庇ったボールスの細い腕を乱暴に捻り上げた。
「痛っ!」
「だが、こんな細っこい腕じゃ何も出来ねえだろうなぁ、王子様?」
 船長は、二人が先頃失われた王国の最後の生き残りである事を知っていた。敵対する勢力が彼等を血眼で探し、亡き者にしようとしている事も。
「働かせるより、連中に付き出して賞金でも貰った方が遙かに割が良いってモンだ」
 だが、その後何度か各地の港に寄る事があっても、船長は二人を売るような真似はしなかった。
 それどころか‥‥

「イギリスの港に下りる時、給金だと言って金貨を一枚ずつ握らせてくれたんですよ。それに、船の上ではイギリス語も教えてくれて‥‥もっとも、余り品の良い言葉遣いではありませんでしたが」
 ボールスは当時を懐かしむ様に言葉を継いだ。
「私達を匿うのは、とても危険な行為だったに違いありません。下手をすれば自分達の首が飛ぶかもしれない状況で、彼等はただ自分達が正しいと思う事を貫いた。打算でも保身の為でもなく、見返りも求めない‥‥彼等の様な人々がいる限り、世の中は捨てたものではないと、その時に思ったのです」
 そして、王国の形や器などではなく、そこに暮らす人々をこそ守りたいと。
「‥‥だから、国に帰らなかったの? 帰って、国を立て直そうとか思わなかったの?」
「後釜に座った者も、上手くやっている様でしたからね」
 王位を取り返したとしても、まだ子供だった自分に彼等以上の統治能力があるとも思えなかった。人々が幸せに暮らして行けるなら、上に立つ者が誰だろうと構わない。
「それに、頂点に立つと、どうしても器を守る事が求められますからね。この土地が肌に合っていたというのもありますが」
 ボールスは嬉しそうに微笑んだ。
「ここは、ほら‥‥ノルマンに比べて涼しいでしょう?」
「は?」
「だから、夏場でも虫が少ないんですよ。森の中を散歩しても、困る様な事は滅多にありませんから。そこは重要なポイントですよね」
 ウォルはニコニコと本気で嬉しそうにしている師匠の顔をまじまじと見た。
「それ‥‥本気?」
「さあ、どうでしょうね?」
 ニコニコニコ。

「‥‥ダメだ、やっぱ師匠って掴み所がないっつーか‥‥なんか、すげぇ」
 真面目なのかふざけているのか、どうも良くわからない。
 仕事があるからと出て行ったボールスと別れ、いつもの様にギルドに出掛けたウォルは、勉強の為だと様々な報告書に目を通しながら先程のやりとりを思い出していた。
「そう言えば、師匠って王子様だったんだよな‥‥」
 先日弟のライオネルを紹介された時、ウォルは彼等がノルマンのとある王家の血筋である事を初めて知ったのだが‥‥なるほど、言われてみればあのどことなく浮世離れした雰囲気にも納得がいく。
「円卓の騎士だって充分頂点だと思うけど、それでも王様よりは自由が利くのかな‥‥」
 だが王の仕事が国の器を守る事なら、その直属である円卓の騎士もやはり、器を守る為に存在するのだろう。器を守る為に中身を捨てろと命じられれば、それに従うしかない。
「‥‥従う、のかな‥‥師匠」
 何となく、不安だ。
「どっちにしても、助けは必要だよな」
 自分が、その助けになれれば良いのだが。
「せめてエルひとり位は守れるように‥‥でも、オレに出来るのか?」
 未だに周囲の大人達に守られている自分に、他人を守る事なんて‥‥。
 それに、自分の力がどの程度まで通用するのか、それがさっぱりわからなかった。
「師匠が相手じゃ、差がありすぎなんだよな‥‥」
 手加減されては実力が測れないし、かといって本気で来られても困る。
「マジでやったら、オレ絶対死ぬ。ってか‥‥そう言や師匠は強くなんなきゃ死ぬような相手に稽古付けて貰ったって言ってたな。だから嫌でも上達したんだって」
 自分にもそんな厳しい稽古をしてくれないものか。
 とは言え、ウォルにもわかっていた。自分にはまだ、そこまでの実力さえない事が。
「まずは、死ぬ程の稽古を付けて貰える程度には自分で頑張んなきゃって事か」
 それさえも、かなり厳しそうではあるが。
 ウォルは財布の中身をひっくり返して、コインの数を数えた。
「よし‥‥行ける」
 自分の実力を知り、出来ればどの程度まで伸びるのか、それも知りたい。伸ばす為にはどうすれば良いのか、それも。
 もし、いくら頑張ってもモノにならない程度なら‥‥何か他の道を考える必要があるだろう。師匠は急いで決める必要はないと言ってくれるが、次の誕生日が来れば自分も14歳。そろそろ一人前の大人として扱われる年齢だ。
「ま、どっちに転んでもオレの師匠はただ一人だけどな」

 そして後日、こんな依頼がギルドに貼り出された。
『自分の実力を知る為に、本気で手合わせをお願いします。手加減無用。――ウォルフリード・マクファーレン』

●今回の参加者

 ea3153 ウィンディオ・プレイン(32歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb2018 一条院 壬紗姫(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb3862 クリステル・シャルダン(21歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 eb8317 サクラ・フリューゲル(27歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ec3682 アクア・ミストレイ(39歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ec4979 リース・フォード(22歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec4984 シャロン・シェフィールド(26歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ec5171 ウェーダ・ルビレット(24歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

七神 蒼汰(ea7244

●リプレイ本文

「くそ〜、そーたの奴!」
 向こうでアクア・ミストレイ(ec3682)と剣を合わせている七神蒼汰の戦いぶりを見ながら、ウォルは紅潮した頬を膨らませた。
「アクアとは真剣勝負なのに、何でオレはハリセンなんだよっ」
 実力不足である事はわかっている。それに、ぺちぺち叩かれながら言われたその指摘が尤もな事も。
 だが‥‥
「あいつ、絶対遊んでる。オレをオモチャにしてる。くそぉ、今に見てろよっ!」
 拳を握り締めたウォルの背を、手合わせを終えたアクアが軽く叩いた。
「ウォル、ちゃんと見ていたか? 他の人の戦い方を見る事でも得られるモノはある筈だぞ」
「え、う‥‥うん」
 ウォルは曖昧に答える‥‥が、実は頭に血が上って殆ど見えていなかったり。
「よし‥‥じゃあ、試してみるか」
「へ?」
「ちゃんと見ていたか、それに蒼汰に言われた事がちゃんと頭に入ってるか‥‥」
 突然、アクアの背に殺気が宿った。
「真剣にやらないと危ないでは済まないからな! 行くぞ!」
 ‥‥確かに、危ないだけでは済まなかった。打ちかかる度に盾や十手で受けられ、反撃を喰らう。回避もままならず、盾を持つ余力もないウォルは、あっという間にアザだらけにされてしまった。
「くそぉ、全然歯が立たない‥‥っ!」
 せめてもう少し体力が付けば。今のままでは、アクアに貰った剣さえ両手でなければ持てない。
 ウィンディオ・プレイン(ea3153)との対戦では、まだ多少はマシな動きが出来た様だが、それでもまだ、その実力にはかなりの開きがあった。
「やっぱりオレ、戦いには向いてないのかな」
 見物席を兼ねた休憩所でクリステル・シャルダン(eb3862)が用意した飲み物を喉に流し込みながら、ウォルは溜息をついた。
「体力ないし、才能もない気がする‥‥」
「ウォルの成長は、まだこれからでしょう?」
 空になったカップを受け取りながら、クリスが微笑む。
「体力も、背だってこれから伸びるでしょうし、今はまだ剣で充分に戦えないなら、先に神聖魔法を幾つか覚えておくのはどうかしら」
「まあ、少しは覚えたけどさ‥‥でも、初級だし」
 初級でも十分役に立つのだが‥‥それは団体戦の時に実践して見せるとして。
「焦らずに、ゆっくり考えた方が良いわ。神聖騎士はできる事が多いですものね」
「多すぎだよ」
 溜息をついたウォルの肩を、サクラ・フリューゲル(eb8317)が軽く叩いた。
「ウォル、もう休憩は済みましたか?」
「え? ああ、うん」
「この間からどれほど腕を上げたか見せて頂きますわね?」
「‥‥上がってないよ、全然」
 いつもの威勢良さはどこへやら、青菜に塩のウォル。だが自覚がないだけで、腕は上がっている様だ‥‥少しずつでも。
「基本はきちんと身に付いている様ですわね」
 何度か剣を交えた後、サクラは嬉しそうに微笑んだ。
「え‥‥そう? うん、まあ‥‥打ち込みとか素振りは毎日やってるけど」
 効果の程はさっぱり実感出来ないらしい。
「多くの人と戦ってみる事だな」
 と、アクア。
「きっと自分に合った戦い方も見えてくるのではないか? 例えば‥‥対魔法使いとか」
 視線の先には二人の魔法使い。
「あ、私は見学で」
 その一人、ウェーダ・ルビレット(ec5171)は手を振った。
「今の私では個人戦難しいですしね。人の戦闘見ているだけでも勉強にはなりそうです」
「俺はやってみたいな」
 リース・フォード(ec4979)が前に進み出る。
「ウォルさえよければ、だけれど。対魔法使いも、当然あり得る事だと思うからね」
「そうかな‥‥魔法使いと一対一って、あんまりないんじゃない? いつも後ろに隠れてるってイメージだし」
「いや、闘技場では結構あるぞ?」
 首を傾げたウォルに答えたアクアの言葉に、リースが返す。
「じゃあ、改めてよろしく、ウォル。ギルドでよく報告書を読んでいる少年がいるなあ、と思ってたけど、君だったんだね。まあ、俺の力量なんて大した事ないから、練習だと思って気楽にしててよ」
 開始直後、高速詠唱を警戒したウォルは咄嗟に物陰に身を潜めた。が‥‥
「あれ?」
 これまで高レベルのベテラン冒険者達に囲まれて過ごしていたウォルにとって、魔法使いとは必ず高速詠唱を使って来る強敵という印象だったのだが。
「な〜んだ、じゃあ怖くねーや!」
 最初の攻撃をかわすと、ウォルは相手の懐に飛び込んだ。身を守る術を持たない魔法使いは、接近されると流石に弱い。
「単独では何かしらの弱点を抱えるのは、誰しも同じだとは思いますけれどね」
 その様子をじっと見ていたシャロン・シェフィールド(ec4984)が言った。
「私も近付かれたら手も足も出ませんが、遠距離なら‥‥まあ、それは明日の団体戦を楽しみにして貰いましょうか」
「では、残りの時間は歳の近い者同士、自由に手合わせしてみるか?」
 ウィンディオの言葉に、どこかで『きゅんっ』という音がした様な。
 音の出所は、埴輪の橘花と共にジャパン語で『ウォル殿ふぁいと』と書かれた手製の旗を振りつつ応援、もとい見物に興じる一条院壬紗姫(eb2018)だった。
「‥‥はぁ、やはり可愛い少年達が一生懸命に物事に取り組んでいる姿は良いものですね。これだけでも、はるばる渡英してきた甲斐があったというものです」
 うっとり。壬紗姫はカワイイモノにとことん弱いらしい。
 そんなカワイイ(?)少年達は、訓練のつもりがいつの間にか喧嘩になっていたりするのだが。原因は勿論、口の悪いチャドだ。
「‥‥せめて王家の方と円卓の騎士の方々の名前くらいは覚えておいて欲しいものだな。あと礼儀作法‥‥あぁ、彼だけでも教えなければならない事が山積みだ」
 頭の痛いウィンディオ先生でありました。

 そして翌日。
「この木札を体に。取られたり、割られたりした場合は死亡と見なし、離脱して頂きます」
 アクアの提案で木札が配られる。
 シャロン、ウェーダ、クリス、ウィンディオ、そしてエストとチャドが赤い木札。サクラ、リース、アクア、壬紗姫、それにウォルと埴輪の橘花が青い札のチームだ。
「よろしくお願いしますね、ウォルくん」
 相手チームのウォルを挑発しようと、シャロンはわざと『くん』付けでウォルを呼ぶが‥‥
「べつに良いよ、くんなら」
 ウォルは平気な顔をしている。
「では‥‥ウォルちゃん?」
 ――ぶちっ。
 ウェーダの呼び掛けに、ウォルの中で何かが切れた。
「そこはやはり、ウォルきゅん、でしょう」
 ――ぶちぶちっ!
 ‥‥って、味方が煽ってどうしますか壬紗姫さん。
 勢い余って今にも飛び出しそうなウォルをサクラが宥め、どうにか自陣に連れて行き‥‥庭の両端に分かれた2チームによる模擬戦が開始された。
「余り無理はしないでね。疲れたら下がって休んで良いのよ?」
 クリスは自分のチームの少年二人にグットラックをかけ、そのまま後方に展開したホーリーフィールドの中で待機する。
 だが結界を張れるのはクリスだけではなかった。
 遠距離からサクラの腕に付けられた青い札を狙ったシャロンの矢は結界に弾かれる。次のターゲット、アクアも然り。勿論、魔法使いのリースも結界の中から動かない。どうやら相手は攻撃よりも防御を重視するつもりの様だ。
「チーム戦でも自分の得意な事を生かすのか、苦手な所を補うのかで役割が違う。良く見ておけ」
 ここを守りきれば他の人が攻撃するチャンスも増える、とアクア。
「それなら‥‥」
 シャロンは物陰に隠れながら移動を開始する。そんな彼女を付け狙っているのは埴輪の橘花だ。
「はい、脱落です」
 追いかけて来る埴輪に気を取られ、シャロンは壬紗姫の接近を許してしまった。バーストアタックで赤い木札が真っ二つに割れる。
「なんだ、シャロン退場か‥‥折角仲間と対戦出来ると思ったのに」
 リースが呪文を唱える。
「でも、まだウェーダが残ってるよね? なかなかこんな機会はないし、直撃しないようにするけど、本気でいくよ」
 ニヤリと笑ってライトニングサンダーボルト。
「うわっ!」
 それは自陣を離れ、忍び歩きで気配を消して近づいていたウェーダの足元を直撃した。
「気付かれないようにしたつもりなのに‥‥!」
「へっへー、サクラがちゃんと見てたんだよ、な?」
 得意気に言い、目の前に立ちはだかったウォルに、ウェーダはぼそりと言った。
「あ、ウォルちゃん」
 ――ぶちぶちぶちっ!
 だが、ウォルは偉かった。
「平常心平常心、冷静に冷静に‥‥っ!」
 ――どバキイッ!
 ちっとも冷静でも平常心でもない気はするが、ともあれ‥‥赤札まっぷたつ。
 遠距離攻撃陣を撃破した青チームは自陣を離れ、敵陣に突入する。残ったウィンディオ達師弟とクリスだけでは防ぎ様がない‥‥と、思われたが。
「だめーっ!」
 クリスを狙った壬紗姫の小太刀が結界を破ったその時‥‥ウォルがそれを遮った。
「だめっ! 何かあったらオレ、師匠に殺されるっ!」
 バーストアタックは人体には無害なのだが。ある意味これも死ぬほどの訓練?
 そんなウォルの背中に、クリスは小さく微笑み‥‥
「コアギュレイト」
 ――ぴきぃん!
「‥‥ね、初級でも充分役に立つでしょう?」


「ウォルはボールス様と同じく神聖騎士の道を選んだのですよね?」
 模擬戦の後、とりあえず自分もそうである事は脇に置いて尋ねたサクラに、ウォルは黙って頷く。
「それなら、政治や礼儀面も重視しないといけないでしょうね。一緒に勉強しませんか?」
 目指す所は決まっている。後はそこを目指すだけだ。
 少し恥ずかしそうに小さく頷いたウォルにリースが言った。
「騎士って強いだけじゃなく、いろんな人の立場や状況を理解して適切な手助けが出来る事も重要な仕事なんじゃないかな?」
 誰かの涙を止めてあげられるような、そんな立派な騎士殿になってほしい。
 そして、いずれまた‥‥
「お互いが強くなった頃、もう一度手合わせしよう」
 差し出された手を、まだ小さく頼りない手が握り返した。