【氷の迷宮】しーちゃんとオバケ迷路

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 9 C

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:08月18日〜08月24日

リプレイ公開日:2008年08月26日

●オープニング

 夏でも涼しい氷の洞窟。
 そこには夏の暑さが苦手な、とっても美人の母娘が住んでおりました。
 ‥‥いや、お母さんは確かに美人ですが、娘の方は将来美人になりそうな、と言った方が良いでしょうか。
 何しろ、人間で言えばまだ5歳ほどの小さな子ですから。
 お母さんの名前はカリア・ヴェラ、娘はシーリー・ヴェラ。
 でも、皆はシーリーの事を「しーちゃん」と呼びます‥‥本人も含めて。

 しーちゃんは洞窟に作られた氷の迷路に遊びに来たお客さん達と遊ぶのが大好き。
 お客さん達も、可愛いしーちゃんが大好きです。
 しーちゃんは少しだけ氷の魔法が使えます。
 でも、仲良くなったお兄さんやお姉さん達と約束したので、危ない魔法でイタズラをする事はありません。
「しーちゃん、いいこ!」
 良い子は約束を守るのです。

 でも‥‥。


「しーちゃんも、たまには思い切り魔法を使いたいと思うんじゃないかな」
 その日の営業を終え、迷宮の中に客が残っていない事を確認しながら、管理人である芸術家アートは母親のカリアに尋ねてみた。
 余り表情豊かとは言えない氷の美女が、片言のイギリス語で答える。
「シーリー‥‥思い切り遊びたい。でも我慢してる。ご褒美、欲しい‥‥」
「うん、そうだよな。今までちゃんと良い子にしてたんだから、たまにはご褒美あげなくちゃ」
 迷宮の営業を一日休んで、その日だけはしーちゃんの好きなように、イタズラでも何でもやりたい放題。使う魔法にも一切制限は設けない。
「そうだ、オバケ屋敷なんてどうかな?」
「オバケ‥‥屋敷?」
「うん、いつもの迷路と違って、お客さんを脅かしたり、怖がらせても良いんだ。いや、たくさん脅かしたり、うんと怖がらせた方が喜ばれるな。どうだ?」
「それが‥‥いい」
 カリアは僅かに顔を綻ばせ、頷いた。ついでに一言‥‥
「カリアも、それがいい。ご褒美‥‥オバケ、やる」
「‥‥え」


 そんな訳で‥‥
 後日、アートからの依頼がギルドに持ち込まれた。
 内容は、氷の迷宮に住み着いた氷の美女達を思う存分に楽しませる事。要するに‥‥彼女達が使う強烈な冷気魔法に耐えつつ、一緒に遊んで貰おうという訳だ。
「流石に一般人じゃ相手が出来ないからな。怪我人か、下手をすれば死人が出かねない」
 それに、何か事故でも起きたら迷宮の営業を続ける訳にもいかなくなるだろう。
「でも、冒険者達なら‥‥そういう危ない事には慣れてるだろ?」
 アートは少し多めの報酬をカウンターに置いて、楽しそうに笑った。
「だから思い切り遊んでやって欲しいんだ。とりあえず、皆にはオバケ屋敷のお客さんって事で、ヤラレ役を頼みたいんだが‥‥何か面白いアイデアがあるなら、脅かす方に回っても良い。‥‥そうだ」
 ふと思いついた様に、アートは付け加えた。
「どうせなら、二手に分かれて脅かしっこするのも良いかもしれないな。せっかく色んな芸を持ってる人達を呼ぶんだし」
 ‥‥冒険者は芸人だと思われているのだろうか‥‥まあ、そんな一面がある事も否定は出来ないが。
「じゃあ、よろしく。期待してるからな!」

●今回の参加者

 ea3071 ユーリユーラス・リグリット(22歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 ea5980 大宗院 謙(44歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea7694 ティズ・ティン(21歳・♀・ナイト・人間・ロシア王国)
 ec2813 サリ(28歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)
 ec3246 セフィード・ウェバー(59歳・♂・クレリック・エルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

ルースアン・テイルストン(ec4179

●リプレイ本文

「氷の迷宮とは、暑い夏には嬉しいですね」
 洞窟の入口から中を覗き込み、防寒着を身に付けながらサリ(ec2813)が言った。
「訪れるのは初めてですが‥‥」
 しーちゃんは自分にも懐いてくれるだろうかと、ちょっとドキドキ。
「大丈夫ですよ〜、しーちゃんは人見知りしないです♪」
 ユーリユーラス・リグリット(ea3071)が洞窟の奥に向かって呼び掛ける。
「しぃちゃん〜〜来たですよ〜、あっそびましょ〜〜♪ お母さんもお元気です? 楽しく暮らしてますか〜?」
 ‥‥返事はない。が、どこからかクスクスと忍び笑いが聞こえる。どうやら既に戦い‥‥いや、遊びは始まっている様だ。
「しーちゃ〜ん、どこですか〜? 隠れてないで、出て来てほしいのですよ〜。皆に御挨拶‥‥」
 ユーリが迷宮の最初の角を曲がった瞬間‥‥
 ――ゴッ!!
「し‥‥しししし、ちゃ‥‥」
 ――ぼとり。
 出会い頭にアイスブリザードの直撃を喰らったユーリは、へなへなと地面に落ち‥‥ようとした所をセフィード・ウェバー(ec3246)に掬い上げられた。
「大丈夫ですか?」
 何はともあれ、テスラの宝玉で回復。
「あ、ありがとうなのです〜」
 ユーリはふらふらと舞い上がり、まだガチガチと歯を鳴らしながら、はしゃいでいるしーちゃんに言った。
「元気なのは良いですけど‥‥寒過ぎは危険です」
「なんでー? きょう、おもいっきりあそんでいいって、いったよ?」
「うん、でも‥‥凍り付けにしちゃったらダメなのです。楽しく遊べないのですよ」
 ユーリはまだ震えている。と言うか、防寒着は?
「あれを着ると飛べなくなるです‥‥誰かレジストコールド持ってないですか?」
 仲間達を見回すユーリに、全員が首を振る。
「うう‥‥ちょっと外で暖まって来るです!」
 ユーリはふらふらと洞窟の外へ出て行った‥‥。

「改めて、初めまして。しーちゃんと、お母さんのカリアさんですね?」
 サリがにこにこと、道中で手に入れたお土産のブルーベリーを差し出した。
「氷で冷やして食べたら、きっとしゃりしゃりして美味しいですよ」
「わー、ありがと、さっちゃん!」
 ‥‥さっちゃん?
「おかーさん、ひやしてー!」
 娘のリクエストに応えて、カリアがさあっと吹雪を吐いた。
「うわ、寒‥‥っ!」
 もこもこのウサギ、ティズ・ティン(ea7694)がぶるっと震える。
「確かにロシア生まれだし、寒さには強いと思うけど‥‥これ、ちょっと寒すぎるよ!?」
 耐えられるのだろうかとちょっと不安になるが、そこはポジティブなティズの事。
「でも、いっぱい着込んでるから大丈夫だよね。折角だし、楽しんじゃうよ」
 実はウサギの下には色々と物騒な装備を忍ばせていたりするのだが‥‥
「まぁ、冒険者風って事で、鎧は着てても大丈夫だよね。着ていないと流石に耐えられそうにないしね」
 寒さにではなく、各種の魔法攻撃に。
「さて、準備は整ったかな?」
 女性達の自己紹介が一通り済んだ所で、何やらちゃらちゃらとした男が言った。
「私は大宗院謙(ea5980)と申す者。お嬢さんがた、よろしくお願いするよ?」
 女性には分け隔てなく丁寧に挨拶を、男性には、まあそれなりに。
「美しい方々に脅かされるなど、とても光栄なことだ。まずは、お近付きのしるしに‥‥」
 母子に差し出したのは、不思議なぬいぐるみ。
「私からのささやかなプレゼントだ」
「おじちゃん、ありがとー!」
 ‥‥流石に、謙はおじちゃんか。
 同じ物を貰った母親のカリアも、表情には出ないが喜んでいる様だ‥‥多分。
「では、始めようか」
「は、始めるですか。大丈夫です、いつでも準備おっけーなのです!」
 謙の声を聞きつけたユーリが外から戻って来る。充分に体を温めたので、暫くは大丈夫だろう。大丈夫だと、良いね?

「もぉーいぃーかい!」
 すっかり子供になりきったティズが、迷宮の奥に向けて叫ぶ。
「まぁーだだよ!」
 奥の方から、小さな声が返って来た。
 そして、何度目かの呼びかけの後‥‥
「もぉーいぃーよ!」
「では、行きますか」
 セフィードが外套の前をしっかりと合わせて前へ出る。
「氷の洞窟でヒンヤリドッキリですね。ちょっと寒すぎる気もしますが」
「さーて、どんな仕掛けがあるですかね〜?」
 ユーリは上空へ舞い上がり、迷宮全体を見渡してみる‥‥と。
「きゃああっ!?」
 真下から、いきなり水が噴き出した。吹き出た水は噴水の様にユーリの体を持ち上げ、弄ぶ。
「そういえばアートさんも向こうのチームなのですっ!? つ、つめ、つめつめ冷たいのですぅっ!!」
 そこへ‥‥
 ――ごおおっ!
 情け容赦のないアイスブリザード。
「あ〜〜〜れ〜〜〜!!」
 くるくるくる‥‥そしてユーリはお星様に‥‥
「なるトコだったですぅ!」
「‥‥魔法解禁は大いに結構なのですが‥‥こちらが死なない程度にお手柔らかにお願いしますね」
 洞窟の外まで吹き飛ばされたユーリを見送りながら、自らは上手く物陰に隠れて難を逃れたサリが心の中で祈る。
 だが‥‥
「きゃーはははっ!」
 逃げるティズに雪玉を投げ付けながら迷宮を走り回るしーちゃんに、そんな配慮があるとも思えない。
 一方、母親はどうかと言えば‥‥
「さぁ、いくらでも、私を脅したまえ。いくらでも君達の想いを受け止めよう!」
 ‥‥煽ってる人がいますが?
「‥‥いくらでも‥‥本当? いい、か?」
「遠慮は要らない、さあ!」
 美しい顔に何故かジャパン風の幽霊の様なメイクを施したカリアの前で、両腕を大きく広げる謙。
「そうですか‥‥」
 それを物陰からこっそり見つめるセフィード。
「お化けといえば金縛りですね」
 という事で‥‥コアギュレイト。かける相手は勿論、そこで仁王立ちしている勇者だ。
「ふふ‥‥カリア、嬉しい」
 久々の獲物を、カリアは氷の様な体でぎゅっと抱き締め、首筋に冷たい息を吹きかけた。手加減する気は‥‥あるのだろうか?
(「さ、流石の私もこれは辛い‥‥だが、耐えろ! ぶっ倒れるまで想いを受け止め続けると誓ったではないかっ! 私は今、金縛りにあって動けないのではないッ! 自らの意思でこうしているのだッ!」)
 それはきっと、ナンパ師の意地。女性の気を引くのも命がけだ。
「カリアさん、死なない程度にお願いしますね? 瀕死までなら回復出来ますから」
 セフィードさん、他人事だと思って呑気に構えてます。次は我が身とも知らずに‥‥。
 一方、子供達は‥‥既にどちらが脅かし役か、わからなくなっていた。
「ばああっ!」
「きゃー! オバケですーっ!」
 頭からシーツを被って走り回るしーちゃんの姿に大袈裟に驚き、迷路の中を縦横無尽に逃げ回るサリ。それを夢中で追いかけるしーちゃんと、更にそれを追うティズ。
 そして‥‥
『わーーーっ!』
「ひゃあぁぁっ!!」
 体を温めて戻って来たユーリがテレパシーの不意打ちでオバケを脅かす。
 勿論、反撃はアイスブリザードだ。
「あ〜れ〜〜〜!」

 ‥‥やがて、散々はしゃぎ回ったしーちゃんの魔力も体力も尽きた頃。
 どうにか本物のオバケを作る事なく、オバケ屋敷は営業を終えた。
「よぉし、じゃあ今度はパーティだね。折角だから、冷たい料理を沢山作っちゃうよ!」
 ティズが張り切って腕を振るう。冷鮮パスタやスープ、氷菓子などが次々とテーブルに並べられた。
「ブルーベリーも、丁度良く冷えている頃合いでしょうか」
 サリのお土産は氷菓子のトッピングに似合いそうだ。
「この寒い中で冷たい物? 私はこの方が良いな」
 出口の近くに作られた小さな焚き火で付けた熱燗を、謙はぐいっと杯を呷る。
「ああ、生き返る‥‥これは中々いいな」
 謙は空になった夜光杯をカリアに渡し、手許の冷酒を注いだ。
「折角だし、一杯どうだ? 大丈夫、これは熱くない」
「なにそれー? しーちゃんものむー!」
「ああ、大人になったらな」
 なりふり構わぬナンパ師にしては、常識的な反応。
「私にも娘がいるが、シーリー殿もこれからの思春期あたりが一番大切だ。しかしいくら美人に育っても、娘はナンパできない。そこが父親として辛いところだ」
「ナンパ‥‥とは、何だ」
「ああ、それはな‥‥」
 いいから、教えなくて。
「しーちゃんは変な言葉を覚えてはいけませんよ? それに、お勉強の続きもしましょうね」
 セフィードは外で摘んできた季節の鼻を、しーちゃんの目の前に差し出した。
「この季節には冬場とは違った草花があるんですよ。ほら、綺麗でしょう?」
「うん、きれー! しーちゃん、みたことない! どーして?」
「しーちゃん達と違ってお花は寒いのが苦手ですからね。しーちゃん達が大好きな寒い季節には、お花は咲けないんですよ」
「‥‥おはな‥‥さむいの、きらい? ここも、きらい?」
「ええ、洞窟はヒンヤリですからね」
「じゃあ、おはな、かわいそう?」
 心配そうに見上げたしーちゃんの頭を、セフィードは優しく撫でた。
「すこーしだけなら大丈夫。しーちゃんも少しだけなら暑くても平気でしょう? だから毎日、少しだけ摘んで来ましょう、ね?」
「うん」
「しーちゃんは良い子なのですね〜。そして優しい子なのです。そんなしーちゃんにプレゼントなのです♪」
 ユーリが取り出したのは、春のリボン。実は既に一本持っているのだが‥‥
「でも2本あればユーリさんと同じ髪型に出来ますよ?」
 お揃いのツインテールに結ってあげようかと尋ねたサリに、しーちゃんは嬉しそうに頷いた。
 そしてお母さんへは春の香り袋。
「それに珍しいお菓子もあるですよ。一寸変わったモノ食べてみないですか?」
 甘い味の保存食に、幸せに香る桜餅。夏ならぬ、春の色と香りが洞窟に溢れる。少しでも季節を感じて欲しいとの配慮だ。
 それから後は、皆で歌を歌ったり、ゲームをしたり‥‥
「あーおもしろかった! またあそぼーね!」
 親子は大満足の様子だった。