【ご近所の何でも屋さん】手紙
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■ショートシナリオ
担当:STANZA
対応レベル:6〜10lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 9 C
参加人数:5人
サポート参加人数:3人
冒険期間:08月31日〜09月05日
リプレイ公開日:2008年09月08日
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●オープニング
「ちぃーっす! 手紙の配達っすー!」
キャメロットの郊外にある、静かな住宅地。
その一角に佇む小さな家のドアを、何やらガラとついでに頭も悪そうなシフ便配達が叩く。
「はぁーい!」
パタパタと軽い足音を響かせ、ドアを開けたのは小さな女の子だった。
「嬢ちゃん、ここにマリアって人いるかい?」
「まりあ? まりあは、あたしだよ?」
「おお、そうかい‥‥んじゃ」
と、シフ便配達は持っていた紙筒を小さな手に渡した。
「手紙、確かに渡したぜ。じゃな!」
「‥‥おてまみ?」
手紙って何だろう?
飛び去ったシフールを見送りつつ、少女は紙筒をひっくり返したり、くるくると回してみたり、目に当てて中を覗いてみたり‥‥
何だかよくわからないけれど、何となく嬉しい。
「おかあさーん! まりあ、おてまみもらったー!」
少女は嬉しそうに、奥の間へと駆け込んで行った。
「‥‥お手紙? マリアに?」
差し出された紙筒を見て、母親は不思議そうに首を傾げた。
マリアはまだ3歳だ。手紙を寄越すような相手など、いる筈もない。それに何より、字が読めないのだ‥‥この家の、誰も。
「誰か、人違いじゃないかしら?」
一家は、空き家だったこの家に先月越して来たばかりだった。
「前に住んでいた方も、同じ名前だったのかもしれないわね。でも、困ったわ‥‥」
人違いだとしても、一体どこのマリアさんなのか。それに、差出人は‥‥?
紋章や個人の印章が使われる事の多い封蝋には、一般的な封の印があるだけ。
差出人の名が書かれる筈の場所にも、四つ葉のクローバーをデザインしたような小さな絵が描かれているだけだった。
受け取った本人なら、誰からの手紙かすぐにわかるのだろうが‥‥。
‥‥その、数日後。
「ご近所の方に伺いましたら、そのマリアさんは暫く前に遠方に引越されたという事でした」
娘の手を引き、冒険者ギルドを訪ねた母親は言った。
「何かご病気だったらしく、静かで空気の良い場所で静養されるのだとか‥‥確か、少し北の方にある湖の近くにある村だというお話でした」
キャメロットからは、歩いて二日ほど。途中までは街道が整備されているが、最後の半日ほどの行程は街道から外れ、途中に森があるせいもあって、旅慣れない者が護衛もなしに歩くのは少々危険だった。
「あの、それで‥‥シフール便の方にお願いして、そちらに届けて頂こうと考えたのですが‥‥何しろ手紙などというものには縁がなかったものですから、どこにお伺いすれば良いのかわからず‥‥」
近所の誰も、手紙の出し方など知らなかった。だがその代わり、冒険者ギルドとは随分と馴染みがあった様だ。
「あそこは何でも屋だから困った時には頼れば良いと、皆さんそう仰るもので‥‥あの、ご迷惑でしたでしょうか?」
「いえいえ、とんでもない。冒険者ギルドはまさしく何でも屋ですよ?」
遠慮がちに尋ねた婦人に、受付係はとびきりの営業スマイルで答えた。
「ああ、良かった。では‥‥」
お願いします、と言いかけた時。
「まりあもいくー!」
母親と手を繋いだ少女が言った。
「おんなじなまえのまりあさんに、まりあがおてまみとどけるー!」
という訳で。
冒険者達は一通の手紙を届ける事となった‥‥小さな女の子マリアと、心配だからと付いてきた母親の二人を連れて。
●リプレイ本文
「こんにちは、えと、よろしくおねがいします!」
小さな家のドアを叩いた冒険者達に、小さなマリアはぺこりと頭を下げた。
大事そうに持っているのは、大きなマリアさんに届ける手紙。
(「‥‥場所が分ってるなら、シフール便で再送すれば‥‥」)
と、ゼノヴィア・オレアリス(eb4800)が秘かに思っていた事はバツグンに秘密だ。
「こんにちは、マリアちゃん。私はネティよ」
ネフティス・ネト・アメン(ea2834)は足元に座っているボーダーコリーの頭を撫でる。
「ほら、ペフティもマリアちゃんとお母さんにご挨拶しなさい」
「わん!」
ぱたぱた。
「わんこもよろしくね?」
なでなで。
「ふふ、いい子ね。ネティがこれぐらいだった頃を思い出すわ。いつも私の後ろをトコトコ付いて来て‥‥」
「やだ、姉さま、そんな昔の話‥‥」
姉妹のように育ったテティニス・ネト・アメン(ec0212)に言われ、ネティは頬を真っ赤に染める。
そんな妹の様子に目を細めながら、テティは依頼主の二人に片目を瞑ってみせた。
「道中よろしくね」
「私はセフィード・ウェバー(ec3246)って名前だ。宜しく、お譲ちゃん。セフィで良いよ」
「せひー?」
まだ、余り上手く舌が回らないらしい。
「そう、せひーだ」
マリアの前に膝を折ったセフィは、ニコニコと頷いた。
「私はサリ(ec2813)。よろしくお願いしますね」
「うん、よろしくなのー!」
一通り挨拶を終えた所で、さあ出発。
「マリアお姉さん、早く元気になると良いね」
「そんじゃ気を付けて行っといで。二人とも、小さな子にゃ気を配るんだよ?」
姉妹の友人、ベアトリスとレヴィに見送られ、一行は小さな家を後にした。
「一期一会っていうけれど、こんな出会いもアリなのかなぁって思ったわ」
街道を親子のペースに合わせてゆっくりと歩きながら、ゼノヴィアが楽しそうに言った。
「もっともこんな感じのイイ出会いって稀だと思うけれどね」
でも、二人のマリアが無事に出会えたら、きっと素敵だろう。
「手紙を届ける事で、まりあちゃんにも良い経験になるでしょうし‥‥」
サリが嬉しそうに微笑む。
「一通の手紙の繋ぐ縁、まりあちゃんとマリアさんで文通が始まったら素敵ですね 」
「それにしても同じ名前だなんて、本当に偶然ってあるものね。それともマリアというのは、この国ではよくある名前なの?」
「ええ、そうよテティ姉さま」
姉の問いに、妹はイギリス暮らしの先輩として胸を張って答えた。
「ジーザスってこっちの主神の母神の名前がマリアだもの。ホルス神とイシス女神みたいな感じね」
その説明は正しい様な、微妙に間違っている様な‥‥?
「マリアちゃんのお名前は? 全部言えるかな?」
女性達がそんな会話に興じている間、セフィは母親に手を引かれ楽しそうに歩いているマリアに語りかけた。
「まりあはまりあだよ?」
「ああ‥‥そうだね。じゃあ、お母さんのお名前は?」
「おかーさんは、おかーさん!」
「じゃあ‥‥お家の場所は言えるかな?」
「んっとね、おっきいわんこがいるおにわを、こっちにいって」
と、マリアは右手を上げる。
「そんで、ねこさんがおひるねしてるとこを、おこさないように、そ〜っととおったとこ!」
それがマリアの認識している自宅の「住所」‥‥他人には全くわからないが、まあ、本人さえ迷わず家に帰れれば良いのだ。
「‥‥そろそろ一休みしましょうか」
そんな会話にクスクスと微笑みながら、見た目に反して(失礼)意外にも(ますます失礼)優しくて面倒見の良い、細やかな気配りの出来る女性、テティが言った。
「そうね、姉さま。少し休みましょう」
マリアは勿論、母親も旅慣れてないだろう。歩みはゆっくり、且つ休憩と水分補給はこまめに。
「私達の故郷からしたら大した事ないけど、この国としてはまだ暑いもの」
「じゃあちょっと早いけど、おやつにしましょうか」
道端の空き地に腰を下ろした皆に、ゼノヴィアは手作りケーキを切り分けた。
「ちょっとしたピクニック気分ね♪」
「わあ、ありがとー!」
マリアは自分の分け前を嬉しそうに受け取ると、早速パクリ。
「おいしー! おかーさんのよりおいしー!」
マリアちゃん、それは言わないお約束。例え本当の事でも。ほら、お母さん真っ赤になって下向いちゃったよ?
「それにしても前の住人の方のお手紙‥‥ふむ」
サリが話題を変えようと、マリアがしっかり握っている手紙を指差した。
「まりあちゃん、そのお手紙、少し見せて貰って良い? 何か変わった所はあるかな?」
ふむふむ。封はありふれたもの。隅には四つ葉のクローバーの絵。
「これは、マリアさんとの秘密のサインかな? まりあちゃんはどう思う?」
字が書けないという事もある‥‥か。本文や宛名は代筆で、サインだけは本人、とか。
「クローバーの妖精さんからのお手紙かな?」
「よーせいさんも、おてまみかくの?」
「書くかもしれないね。まりあちゃんも、お手紙書いてみる?」
「そうですね、字が書けなくても‥‥」
セフィは手近な所から大きな葉っぱを取って来て、マリアに渡した。
「これで、お顔を作ってみましょうか。マリアさんってどんな人かな?」
葉っぱに目や口、鼻などを書き込んだり削ったり。
「えっとね、まりあさんは、きっとやさしくてきれいなひと!」
そんなやりとりを聞きながら、ネティはひとり妄想に耽る‥‥
「マリア・ガーネットさん‥‥どんな人かしら」
字が読めて武器も使えるなら騎士かもしれない。
「いい知らせの手紙だといいんだけど‥‥もしかして、身分違いの恋人がいて、結婚を反対されて離れていたけど、体調を崩したのは赤ちゃんが出来たせいで、ようやく結婚が認められた知らせの手紙とかっ☆」
妄想、暴走中。
「ちょっと占ってみましょ♪」
ネティはタロットを広げ‥‥さて、結果は如何に?
やがて、旅も後半。
夜間、宿で休んでいる間にこっそり体力の回復をしておいたが、流石に疲れたのだろう。マリアは馬の背に揺られたまま、ぐっすりと眠り込んでいた。勿論、落ちないように毛布やロープなどで軽く固定してある。まるで積荷の扱いだが、バランスの良い所で固定してしまうのが、安全かつ安心だった。
道は街道を外れ、森の中にさしかかる。ギルドで集めた情報では、盗賊やモンスターも出るという話だったが‥‥
「昼間に出る事はなさそうだけど」
ホルス神の眼たるウジャトに祈りを捧げ、警戒を強めたテティが周囲に気を配りながら小声で囁いた。
「賊の類なら、女子供ばかりと見て襲って来るかもしれないわね」
マリアが眠っているのを幸い、テティはダガーを抜き、これ見よがしに鋭い刃をチラつかせる。クルクルと器用に回すその手つきは、格闘もかなりの腕であろう事を匂わせた。
「ペフティもお願いね。 何か怪しい気配がしたら教えるのよ?」
ぱたぱた。
サリも時折エックスレイビジョンで周囲の葉陰を見通し、安全を確認する。
‥‥途中、何かの気配がした。それが何か、正確にはわからなかったが‥‥
「私達に手を出すと‥‥神罰が下るわよ?」
そんな言葉と共にテティの体から眩い光が溢れる。神の光(?)を身に纏ったその姿に恐れをなしたのか、気配はそれっきり‥‥
「良かった。身を守るためとは言っても、傷つけるのもつけられるのもどちらも気分の良いものではありませんからね」
セフィが安堵の溜息をついた。
目指す村は、もう近い。
「こんにちはー! おてまみですー!」
サリの提案で、マリアが一人で玄関のドアを叩いた。
どきどきどき‥‥
ややあって、中から落ち着いた感じの女性の声が聞こえた。
「‥‥おてまみ‥‥お手紙? ちょっと待ってね、今、開けるから‥‥」
その声で相手が小さな子供である事に気付いたのだろう、女性は優しく語りかけると静かにドアを開けた。
「‥‥まりあさん? まりあもまりあだよ! おてまみ、とどけにきたの!」
その女性、マリアは、小さなマリアが差し出した‥‥大事に握り締めていた為に少しだけヘタってしまった手紙と、後ろに控えた冒険者達を交互に見つめ‥‥
「ありがとう、小さな郵便屋さん。お礼にお茶でもいかが?」
事情を聞いたマリアはコロコロと笑った。
「あの人ったら、相変わらずそそっかしいんだから」
新居の住所はきちんと伝えてあるのに。
「ねえ、あかちゃんどこ? まりあ、あかちゃんみたい!」
「‥‥え?」
旅の途中でネティが話していた妄想。それを聞いて、マリアは再びコロコロと笑い出した。
「あなた、まだまだ恋に恋するお年頃っていう所かしら?」
マリアは引出しから何かを取り出すと、真っ赤になっているネティに手渡した。
「私のお願いは、もう叶ったから‥‥あなたにあげるわ」
それは、恋のお守りキューピッド・タリスマン。
「そう、赤ちゃんは外れだけど、これは‥‥」
プロポーズの手紙。
「そんな大事な手紙なのに、宛先を間違えるなんて‥‥」
「有り得ないわよねぇ?」
コロコロコロ。
「でも、お陰で可愛いお友達が出来たわ」
テーブルの上には、小さなマリアが作った葉っぱの手紙と綺麗な石ころ。それを包んだ大きな葉には、習いたての字で一生懸命に書いた二人のマリアの名前があった。四つ葉のクローバーは見付からなかったが、一輪挿しには道端で摘んだ大輪の花。
「そうだ、あなたは子供好きみたいね?」
マリアはセフィを見て微笑む。
「後で倉庫から良い物を出して来るわ。ハロウィンで子供達と遊ぶにはピッタリの‥‥」
大きなカブを模した兜、ターニップ・ヘッド。
「では、今日という日に、そして巡り会えた事に感謝して」
ゼノヴィアがお茶のカップを捧げ持つ。
「お幸せに‥‥そして、まりあちゃんが人の温もり、優しさをずっと持ち続けてくれる事を祈って」
小さな音と共に、いくつのもカップが打ち合わされた。
マリアの顔色は良いとは言えないが‥‥しかし、とても幸せそうだった。