【黄金葱】奪われた黄金葱
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■ショートシナリオ
担当:STANZA
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:6人
サポート参加人数:1人
冒険期間:09月17日〜09月22日
リプレイ公開日:2008年09月25日
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●オープニング
黄金の葱を頂きに乗せた城は、その役目を終えて崩れ去った。
それを守っていた謎の人物の霊‥‥輝ける葱の歴史、その真の開祖である男の魂も、安らかに天へと還って行った。
黄金葱とその子孫たる葱達が、正しく愛と正義と平和の為に使われる事を信じて‥‥。
だが、世の中に悪事の種は尽きず。
遂に白日の下に晒された黄金葱の存在を、悪党どもが見逃す筈もなかったのだ。
「‥‥盗まれたの」
巨匠の孫娘にしてフライング葱開発者のワンダは、冒険者ギルドに設置された受付カウンターの前でがっくりと項垂れた。
先日、冒険者達が数々の試練を乗り越え、手に入れた黄金の葱。それは彼女、ワンダの手に預けられていた。
しかし‥‥
「油断してたわ。葱なんか盗って行く人はいないと思ってたの」
ワンダや冒険者達の努力にも関わらず、葱に興味や理解を示す者は一向に増えなかった。冒険者達の間では、フライング葱の魅力と魔力は深く静かに、だが確実にその勢力を拡大している‥‥ような気もするが、一般人に対する普及と啓蒙は一向に進んでいなかった。
だから、鍵などかける必要はないと思ったのだ‥‥普段から来る者拒まず、オープンな自宅にも、そして黄金の葱が飾られた作業場にも。
「黄金の葱が盗まれた事は悔しいし、私を信じて預けてくれた冒険者の皆にも本当に申し訳ないと思うわ。でも‥‥ごめんなさい」
ワンダはカウンターに置いた手を堅く握り締めた。
「それ以上に悔しいのは‥‥泥棒が他の葱には目もくれなかった事よ!」
彼女にとって、黄金だろうが赤かろうが、或いはごく普通のものであろうが、葱は葱。その価値はおしなべて平等だった。
しかし、泥棒にとっては‥‥
「大事なのは葱じゃなくて‥‥黄金って事よね?」
まあ、恐らく世間一般、誰に訊いてもそう答えるだろう‥‥葱リスト以外は。
「そんな奴に、葱は渡せない。だからお願い、取り返して!」
真の価値を知らぬ者に、黄金の葱は渡せない。いや、黄金であろうとなかろうと、葱を悪党の手に渡す事は出来なかった。
「いつものように、必要なら葱は貸し出すわ。でも‥‥」
困った事に、犯人の手掛かりが殆どない。
わかるのは、作業場に残されていた足跡から見て、犯人は二人組の‥‥恐らくは男である事だけだった。
一方その頃‥‥
「‥‥おい、金って‥‥水に浮くっけか?」
ずっしりと重たい黄金の葱。
その手応えからして、頭の先から尻尾の先まで純度100%、どこをとっても正真正銘の純金製だと思っていた。
だが、念の為に水に浮かべてみた結果が‥‥
「ただの、金箔‥‥か?」
男達は浅い池のほとりでがっくりと膝を付いた。
だが、こんな事でメゲていては泥棒稼業などやっていられない。
「なに、わざわざこうして調べる物好きもいるまい。バレる前に高値で売りつけて、トンズラしちままおうぜ?」
「そうだな、それが良い‥‥」
二人の男は黄金の葱を拾い上げ、水気を丁寧に拭き取ると、豪華な装飾を施した木の箱にそれを収めた。
「どうだ、いかにも値打ちモンに見えるだろ?」
二人はその箱を手に、キャメロットの裏町へと向かった。
さて、どの店をカモってやろうか‥‥などと、ほくそ笑みながら。
●リプレイ本文
「ワンダさんよ、今回の件は気にしなくていい」
工房の片隅に座ったワンダの肩を、来生十四郎(ea5386)が軽く叩いた。
「ただな、女性の一人住まいなんだから、家の鍵くらいはかけといてくれ」
「大丈夫、黄金の葱はきっと俺達が取り戻してみせるよ」
ターバンで耳を隠したライル・フォレスト(ea9027)が片目を瞑ってみせる。
「みんなが苦労して手に入れた黄金の葱を、悪事に利用されたくないもんね」
「しっかし‥‥葱、ねぇ‥‥」
各自に配られたフライング葱をしげしげと眺めながら、伏見鎮葉(ec5421)が呟いた。
「まあ黄金だというなら盗まれたのも分からないではないけど」
でも‥‥なんで、葱?
「‥‥まあ、物が何にしても、盗人を許す道理もありはしないし、協力させて貰うわ」
ただし、これに乗るのは‥‥遠慮したい気もするが。
「葱の創始者から伝説の葱を譲り受けたんだ、絶対取り返して見せるよ!」
町の広場で葱をしっかりと握り締め、レイジュ・カザミ(ea0448)は気合いを入れた。
「盗人達の情報は二人組の男という以外は不明。とすれば痕跡を追うのは難しい、か‥‥」
おおよその犯人像を元に、鎮葉が推理を展開する。
「盗品なんてさっさと手放したいだろうし、買い手を装って誘き出す方が手っ取り早いでしょうね」
まさか真っ当な店に堂々と売りにくるとも思えない。ちょっと表から離れた酒場や、少し品の悪そうな質屋。
「要するに、怪しい店?」
「じゃあ僕は、掲示板にチラシを張り出したり、その辺で適当に噂を流してみるね」
と、レイジュ。キャメロットの葉っぱ男としてのネームバリューを活用すれば、噂なんてあっという間に拡がる‥‥かもしれない。
取引所になりそうな場所が見付かったとのライルの報告を受け、仲間達は町の各所へと散って行った。
「いや〜、音に聞く騎士と変態の都エゲレスの亀ロットでござるな、空気が違うでござるよ」
何の因果か、ふとした弾みで参加申込書にサインをしてしまった暮空銅鑼衛門(ea1467)は、そんな独特の空気を鼻いっぱいに吸い込みながら町を歩いていた。
「世にも珍しい黄金の葱を探しているでござる。売りに出されたらバイヤーに直接交渉したいでござるよ」
歩くついでに、そんな噂を流して行く。
「上手い具合に引っかかってくれると良いでござるが」
「このあたりで黄金の葱という物を売り込みに来た奴がいると聞いたのだが、見かけなかっただろうか?」
困っている女性を放って置いては漢が廃るという事で、何だか良くわからないうちに参加してしまった春日龍樹(ec3999)は、それなりに大きい商人の所を訪ねて回っていた。
どうも、怪しい店を中心にという鎮葉の言葉を聞いていなかったらしい。と言うか、いきなり押し付けられた葱に気を取られて聞こえていなかったと言うか。
「しかし‥‥葱? 野菜の葱と同じに見えるが‥‥イギリス語は覚えたばかりだからなぁ‥‥」
この時、彼はまだ葱というものについて、一欠片の知識も持ち合わせてはいなかった。無論、自らを待ち受ける運命を知る由もない‥‥。
まあ、そんな無垢(?)な青年の堕ち逝く先についてはとりあえず置いといて。
「黄金で出来た葱が流れたって聞いてね。出所が怪しかろうがなんだろうが、そんな珍しい物なら出来ればこの目で見て、手に入れてみたいわ」
いかにも危ない雰囲気の漂う酒場にに気後れもせずに入って行った鎮葉は、店じゅうに聞こえる様な声でマスターに話しかけた。そして、わざと声を潜めて続ける。
「もし何か噂を聞いたら‥‥知らせてくれるかしら?」
と、塒の場所を示した簡単な地図をカウンターに置いた。
そして、これまたいかにも怪しく危ない古物商ではライルが‥‥
「珍品収集が趣味の金持ちが黄金の葱の噂を聞いて欲しがっているんだけど、この辺に出回ってないかな? もし誰かが売りに来たら、ここに来てくれるように言って欲しいんだ」
差し出したのは、例の地図。だが‥‥
「冗談じゃねえ。あんた、そいつらと直接取引しようってか?」
そんな事をされては商売上がったりだ。
「欲しけりゃ買いに来るんだな‥‥ま、入ったら教えてやるからよ」
‥‥まあ、それはそうか。
「金持ちの好事家の依頼で伝説の黄金の葱を探しているんだが‥‥」
十四郎が入った店には、先客がいた。
細長い木の箱を大事そうに抱えた、二人組の男。
だが、十四郎は敢えて彼等を無視し、店の主人に話しかけた。
「もし誰かが売りに来たら、ここを紹介して欲しい。高値で買い取ると、そう伝えてくれ」
カウンターに地図を置き、そのまま店を出る‥‥と見せかけて、十四郎は物陰から中の様子を窺った。
「‥‥おい、そいつを寄越せ」
中から声が聞こえる。
そいつとは、店の主人が丸めて捨てようとした地図の事らしい。
(「かかった‥‥な」)
十四郎は足音を忍ばせ、静かにその場を後にした。
「待っていたよ、泥棒さん達!」
数刻後、所定の場所に姿を現した二人組の前に、葉っぱ男が立ちはだかった。
「僕はキャメロットの葉っぱ男、そして葱の勇者にして伝道者! 僕達が苦労して手に入れた葱を盗むなんて許せないね。その価値がどれほどかわかっているのかい?」
その言葉に、男の一人が鼻を鳴らす。
「なるほど、ハメられたって訳か。こいつはただの安ピカだが‥‥お前達にとっちゃ価値があると、そういう事か?」
男は箱から黄金の葱を取り出し、これ見よがしにチラつかせた。
「だったら、相応の値で買い戻すんだな」
「そんなにお金が欲しいのかい? ‥‥良いさ、勝負に勝ったら葱はあげるよ」
「勝負だぁ?」
「そうだ。素直に葱を返せば乱暴な真似はしない。でも、返す気がないなら勝負して貰うよ」
退路を塞いだライルが言った。
「レイジュさんが言った様に、俺達に勝ったらそれは好きにして良い。でも、負けたら素直に返して貰う」
「‥‥なんだよ、ジャンケンでもしようってのか?」
「そうじゃないよ」
レイジュが手にした葱を高く掲げた。
「僕達は誇り高き葱リスト。葱リストなら、葱で勝負だ!」
「ワケワカランっ!?」
泥棒達は、この時点で既に何やら色々と圧倒されていた。素直に黄金の葱を返した方が身の為だと思うのだが‥‥
しかし、泥棒にも彼等なりの譲れない何かがあるらしい。
「何だか知らねえが‥‥受けて立とうじゃねえか!」
という事で殆ど何の脈絡もなく突如開始された葱レース。
「なにゆえレースで悪党を懲らしめることになるのかよく判らないでござるが、恐らくエゲレスの風習なのでござろうな」
銅鑼衛門は首を傾げつつも、そういうものだと納得したらしい。
「では、ミーは集まってきた野次馬に売り子をしつつ、レースの実況中継と解説をするでござるよ」
しかし、その前に。
「まずは葱の乗り方から教えにゃならんのか?」
十四郎が野次馬達から見えない場所に、男達を手招きした。
「こいつはな、こうやって乗るんだ」
諸事情により詳しい描写が不可能な光景が、そこに展開される。
「‥‥なるほど、葱と変態の国ネギリス‥‥噂には聞いていたが、衆道程度、まだまだという事か‥‥」
「あら、あなたも初めて?」
呆然とその光景を見つめる龍樹に声をかけたのは、勝負の行方を見届けに来たワンダだった。
「折角だから、あなたも体験してみたら?」
「え? いや、褌は葱の為の衣装ではぁ‥‥あ、んふぁっ!」
何が起きたかは、ご想像にお任せします。
「う〜ん、やっぱりジャイアントさんには専用の葱が必要かしら」
流石に丸ごと呑み込むまでには到らないが‥‥褌の脇から突き出ているのは、葱の青い部分のみ。
そして何故か、前の方にも何かが突き出て‥‥
――んにゃあぁぁぁっ!!
しかしその時! 久々に黒猫の集団が現れた! 黒猫達は危険物(龍樹)を回収し、何処ともなく去って行く!
そんな光景を、呆然と見つめる二人組。
――カラン。
その手から、黄金の葱が滑り落ちた。
「ま、まさか‥‥これも‥‥?」
あんな風に使用されていたのだろうか。
「そうさ、その黄金の葱には先人達の血と汗と‥‥」
色々なモノが染みついている、筈だ。
「い‥‥嫌だあぁぁッ!! いらない! もう、そんなものイラナイっ!!」
二人組は泣きながら逃げ出した!
しかし!
回り込まれてしまった!
「力ずくで奪い返したって、こっちは構わないんだけどね?」
もう、要らないって言ってるんだけど。黄金の葱はそこに放置されてるんだけど。
しかし、勢いに乗ってしまったものは、もう止まらない。
『さあさあ、いよいよ伝説の黄金の葱を賭けた大勝負が始まり始まりでござるよ〜!』
「ひいぃぃぃ!」
泥棒は葱に乗り、空へ舞い上がった‥‥バトン代わりに黄金の葱を持ち、泣きながら。
「こうなったら、このまま逃げてやるぅ!」
しかし!
「逃がさないよ!」
――スパアァン!
『ああ〜っと、監視役のライル氏、選手にも劣らぬドライビングテクニックで逃げる相手をコースに引き戻した!』
十四郎がそれに追いすがる!
「く、来るなあぁぁっ!!」
しかし十四郎は容赦しない! 何を何処にとは言えないが、深く刺し込み一気に加速、全気力を振り絞って相手を抜き去る!
『なにぃ、ここであの技を出すのか!』
そして‥‥
「レイジュさん、後は頼む!」
バトンを受け取ったレイジュは一気に勝負を持ちかけた。
「負けられない‥‥葱リストの凄さを知らしめる為に!」
しかし彼には見えていなかった。
相手チームの二番手が、既に白旗を掲げている姿が‥‥。
勝負は付いた。いや、始めから付いていたような気もするが。
『会場の皆様! 力と技を尽くして戦った選手たちに惜しみない拍手をお願いするでござるるる〜』
気力と体力を使い果たし、抜け殻のように座り込む二人には、これから楽しいお説教タイム。
かくして、ここにまた新たな葱リストが誕生‥‥する、かもしれない、か?