【村から町へ・外伝】温泉の危機!?
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■ショートシナリオ
担当:STANZA
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 69 C
参加人数:6人
サポート参加人数:1人
冒険期間:09月23日〜09月28日
リプレイ公開日:2008年09月30日
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●オープニング
所々に秋の気配が漂い始めたハーフエルフの村、フォンテ。
この夏までに新しく出来た施設、浴場や学校は、今までのところ上手く機能している様だ。
「オレ、師匠のトコにいてもなんにも出来ないもんな‥‥。だからせめて、自分に出来る事はやらなきゃ‥‥!」
ウォルは前に来た時と殆ど変わらない、のどかな村の様子を眺めながら呟いた。
「あ、ひっさしぶりー!」
その姿を見付け、授業を終えて学校から出て来たハーフエルフの少女ブランが大きく手を振る。
「よっす。元気そうじゃん?」
「うん、お陰様でね」
ブランは嬉しそうにウォルの顔を見上げた。
「勉強もちゃんと出来るようになったし、お風呂のマナーもだいぶ良くなったみたい。全部ウォルのお陰だよ?」
「オレはなんにもしてねーよ」
ブランの言葉に、ウォルはぷいと横を向いた。
「全部、冒険者とか、この村の人とか‥‥それに、師匠とか‥‥」
「そう言えば、坊やがなんか大変な事になってるって聞いたけど?」
坊やとは、円卓の騎士ボールス・ド・ガニスの事。祖母であるエルフの里長イスファーハがそう呼ぶ影響で、ブランも遙かに年上である彼をそう呼んでいた。
「‥‥こんなトコにまで、噂が広まってんのか‥‥」
ボールスが今記憶喪失の状態である事は、部外者には‥‥いや、内部の殆どの者にさえ秘してある筈だった。
「ったく、どっから漏れるんだろうな」
ウォルは大きく溜息をつく。
「でも、もう少しで治りそうなんでしょ?」
「そんな事まで!?」
やはりボールスがいつも言っていた様に、どうせバレるのだから最初から正直に公表しておいた方が良かったのかもしれない。
「ちゃんと治ったら、ここに連れて来てね? 教会、ずっとあのままにしてあるんだから」
「あのままって‥‥」
「だって、坊やが土台の石が良いって言うから」
そう言えば、土台の石に刻印がどうとか聞いた様な気がする。
「うん‥‥わかった。他になんか、困ってる事とかないか?」
「ううん、別にないよ。今んトコは私達だけで何とかなってる‥‥って言うか、何とかなるように、色々考えてくれたんだもんね。うん、上手く行ってるよ?」
「そか‥‥じゃ、オレ温泉の方見回って帰るから。またな」
村から少し離れた場所に建設中の、公衆温泉施設。
こちらもまだ建設の途中だが、これから農閑期に入れば再び作業が開始されるのだろう。
「それでも、けっこう形になってんじゃん?」
浴槽の周囲は耐久性を考えて石造りになる予定だが、他の場所は材料がタダ同然で豊富に手に入る事から、木造にされる事に決まっていた。
既に受付や脱衣所、食堂などは、内装と整えるだけですぐにでも営業を開始出来そうな程に仕上がっていた。
しかし‥‥
「‥‥な〜にが温泉だ、あの連中、半端モンのくせにデカいツラしやがってよぉ」
誰かいる。
ウォルは咄嗟に物陰に身を隠した。
「気に食わねえよな、バケモンのくせに」
「奴等を贔屓にしてる、あの野郎も気に食わねえな」
――ガンッ!
何かを蹴飛ばす音。数は‥‥二人?
「‥‥そう言やアレ、今なんかおかしな事になってるらしいな?」
「ああ、なんか知らねえが‥‥マトモじゃねえって話だ」
「って事はよ‥‥今なら何をやってもお咎めナシって訳か」
「そうだな」
クックック、と下卑た忍び笑いが聞こえる。
「これ‥‥ぶっ壊しちまおうぜ?」
「ククッ、やるかァ」
その言葉に、じっと身を潜めていたウォルは拳を握り締めた。
(「冗談じゃねえ‥‥! こんなバカどもに好き勝手させてたまるか!」)
ウォルは腰の短剣に手をかけた。
今は護身用のこれしか、手持ちの武器はない。だが、相手はチンピラが二人。この程度なら‥‥
だが、ウォルは踏み止まった。
(「こいつらはまだ、何もしてない。もしオレがこいつらをやっつけたとして‥‥後で何か難癖でも付けられたら‥‥」)
きっと、師匠の立場がヤバい事になる。
(「くそ‥‥何か証拠でもあれば‥‥」)
あの二人組が建設途上の温泉施設を壊そうとしていた、その証拠。
だが、その時‥‥
「なあ、どうせやるなら徹底的にぶっ壊しちまおうぜ? もう二度と、生意気な真似が出来ねえように」
「そうだな‥‥人間様の世界に、奴等バケモンの生きる場所はねえって事、思い知らせてやるか」
ヒッヒッヒッヒ‥‥
下卑た笑いを残して、二人組はその場から立ち去った。
後刻、冒険者ギルド。
「奴等、仲間を集めて焼き討ちするつもりなんだ!」
息を切らせて駆け込んで来たウォルは一気にまくし立てた。
「オレ達が一生懸命作ってきた、あの温泉を‥‥もう半分くらい出来てるのに。これから冬に向けてちゃんと整備して、そしたら本格的にお客さんも呼んで‥‥なのに、あいつら‥‥!」
あれは、ただの観光施設ではない。フォンテ村に暮らす者だけでなく、全てのハーフエルフと、周囲の人間やエルフ、それに他の種族達‥‥彼等を繋ぐ架け橋となるべき最初の一歩なのだ。
「あんな奴等に邪魔はさせない! でも‥‥」
フォンテ村の人達が冒険者を雇って彼等を撃退したとなれば、ハーフエルフを嫌う人々にとっては更に嫌悪感を募らせる材料ともなりかねない。
「だから、これはオレが勝手にやったって事にしといて。勿論、師匠も関係ない。オレが‥‥見回りしてて、たまたま見付けたとか。そだ、皆で温泉に入りに来たら、たまたま奴等と出くわした事にすれば良いか」
それが、ウォルが今までに得た知識と経験から導き出した結論だった。
「だから、あからさまな武装とか、警戒とかは、なるべく控えて欲しいんだ。相手は‥‥数はわかんないけど、多分ただのチンピラやゴロツキだ。撃退するのは多分、簡単だと思う」
問題は、いかに後腐れなく処理するか、だ。
施設を守っても、周囲の住民に被害が及んだりマイナスの印象を残す結果になっては何にもならない。
「じゃあ、えと‥‥よろしくお願いします!」
ウォルは師匠の真似をしてか、丁寧に頭を下げるとギルドを後にした。
●リプレイ本文
「フォンテ村には一度来てみたかったんですよねぇ‥‥」
のほほん。
ウェーダ・ルビレット(ec5171)は木陰のベンチでお茶を飲みながら、村の様子をのんびりと眺めていた。
「えっと、さっきの答えだけど」
ハーフエルフの少女ブランが言った。
「ここは住みやすいし、生活の様子は見ての通りだし、困った事は‥‥別にない、かな」
目下の困り事と言えば‥‥例の温泉荒らし。
集会所では、大人達が集まってウォルや冒険者達からの説明を聞いていた。
「ウォルが聞きつけてきてくれた所によりますと、この村を襲おうとしている心無い人たちがいる事がわかりました」
「村じゃなくて‥‥」
つん、とウォルがサクラ・フリューゲル(eb8317)の袖を引っ張る。
「村の外に作った温泉、だってば」
「あ‥‥そ、そうでしたわね」
サクラはひとつ咳払いをすると、話を続ける。
「切なくて悲しい事ですし憤りも覚える事と思います。けれど憎しみの連鎖はどこかで断ち切らなくてはなりません‥‥」
「いや、まあ‥‥慣れてるからな」
村人の一人が言い、周囲の者達も頷く。
「壊されたら作り直せば良いだけの事だし」
「それは‥‥そうかもしれませんが」
諦めてばかりでは先へ進めない。
「反抗は私達が阻止いたします。そして彼らに制裁を加える事に致します」
「いや、でも‥‥荒っぽい真似は」
「そこを皆さんで止めて下さる様、お願いしたいのです」
「‥‥え?」
「憎まれ役は私達が引き受ける、という事ですわ♪」
星宮綾葉(eb9531)がにっこりと微笑んだ。
「皆様には平和共存を望む善意の仲裁者という事で、颯爽とご登場頂ければ、と」
「このような事がもう起こらない様にする為に必要な事と理解して頂き、ご協力をお願い致します」
「いや、それは‥‥」
冒険者達にそんな汚れ役を頼んでも良いものかと迷いつつ‥‥
「結局、そういう事になったのですね」
作りかけの温泉施設を間近に望む林の影で、シャロン・シェフィールド(ec4984)がくすりと笑みを漏らす。
「私達はウォルに温泉に誘われた冒険者、という立場でよかったのですよね?」
「で、チンピラ連中に制裁を加える役でもある、と」
作戦上、あくまでも「振り」というか「未遂」止まりではあるが‥‥と、伏見鎮葉(ec5421)が少し残念そうに言った。
「二度と変な気を起こさないように徹底的に制裁したい気持ちはあるけど、それをやったら坊主がぐっと堪えた意味もなくなるし‥‥ね」
くしゃっ。鎮葉はウォルの頭を無造作に撫でた。
「ああっ! それは私がー!」
狙っていたのに、先を越されたと悔しがる綾葉。
「ああ、いえ‥‥冗談はさておき」
結構真剣に戦闘態勢に入っていたくせに。
「逆恨みされては面倒ですし、あることないこと言いふらされたら立場が弱いですからね。折角芽生えた後ろ暗さも暴力を受けることで帳消しになった気分になられては困ります。あくまで加害者は向こう、という事で」
「はい、村人と私達の関係はバレないこと 誰からの恨みも買わないよう処理すること‥‥ですね」
ウェーダは自分に言い聞かせるように、しっかりと口に出して確認していた。
「偏見に凝り固まって差別する人々は大っっ嫌いですから、問答無用にやりたいですけど‥‥」
我慢だ、ウェーダ。
「‥‥村の将来のためにはなりませんからね」
ふう、と大きく深呼吸。
「大丈夫、頑張ります‥‥キレないように」
その日の夕刻。
「もうちっと暗くなってからの方が良いんじゃね?」
「バカ、暗くちゃ何も見えねえだろがよ」
周囲に誰もいないと思っているのだろう、品の悪い男達の声が響いて来た。
「適当にぶっ壊して、火ぃ付ける頃にゃ陽が暮れて、丁度良い明かりになるって寸法さ」
さっさとやっちまおうぜ‥‥と、そんな事を言いながら建物に近付いた、その時。
「きゃあぁぁっ!!」
衣を裂く様な悲鳴が響き渡った。声の主は‥‥綾葉だ。
「お姉ちゃん、どうしたの!?」
続いて女の子の声。自ら妹役を買って出たブランだった。
「あそこ! 誰か覗いてるわ!」
「ええ!? チカン!? 覗き魔!? ヘンタイ!?」
‥‥そこまで言わんでも。
「誰か、助けて!」
その声に男湯の方から飛び出してきたのは、ウォルとウェーダ。
「何だ、お前ら!?」
わかってはいるが、訊かない事には始まらない。
「‥‥ちっ、誰かいやがったのか‥‥つか、ハーフエルフ?」
「なんで人間と一緒にいるんだ?」
「一緒にいるって事は、同類だよなあ?」
チンピラどもは綾葉がわざとらしく見せた人間の耳を見ても驚かなかった。
「この近くの村じゃ人間とエルフが一緒に住んで、バケモノ作りに励んでるって聞くが‥‥お前ら、そこのモンか?」
「なるほど、バケモンの仲間‥‥」
――ばちいぃーーーん!!!
なんか、すごい音がした。
「い‥‥でぇえッ!!」
チンピラの一人が頬を抑えて蹲る。
「子供もいる前で、恥ずかしいとは思わないのですか!?」
その目の前で仁王立ちしているのは、サクラだった。
心無い偏見での嫌がらせ。もうフォンテ村に着いている筈のアデレードや‥‥もう問う事も出来ない彼女も、同じように感じていたのだろうか。
怒りよりも、悲しみの方が強い。何故、化け物などと平気で言えるのか‥‥
「この‥‥ッ! ナメた真似しやがって‥‥女だからって容赦しねえぞ!」
男の足がすっと引かれ‥‥
――ドカッ!
「うぐ‥‥ッ」
「――ウォル!?」
咄嗟にサクラの前に飛び出したウォルは、腹を思い切り蹴られて蹲る。
その時。
「‥‥ちょっとあんた達。何してくれてんのよ?」
物陰でタイミングを見計らっていた鎮葉とシャロンが現れた。
目撃証拠、GET。もう、暴れても大丈夫‥‥勿論、加減はするが。
「こっちも温泉を楽しもうと来てるのに、くだらない理由で随分な真似をしようとしてるじゃない?」
鎮葉は怒りを隠そうともしない。
「その、手に持ったハンマーと松明で何をされるつもりなのでしょうか?」
逆に、シャロンは静かに落ち着いた口調で言った。
「まさか、この建物を壊すおつもりでしょうか?」
しかし、段々と怒りのボルテージが上がり、反対に声のトーンが下がる。
「どんな理由であれ、人々が手間をかけて作り上げ、周囲に利用されている物を壊して良いとでも?」
‥‥背中からどす黒い霧が立ち上っている様に見えるのは、気のせいだろうか。
主人の怒りに呼応するかの様に、体格の良い戦闘馬がその頑丈な蹄で大地を踏み鳴らす。
「深く根付いた価値観、感情としての嫌悪、それら全てを否定する心算はありませんが、だからといって人が作った物を壊す理由にはなりません‥‥」
最後はもう、独り言に近い。
「さて、覚悟は出来てるね? 目には目を、蹴りには蹴りを」
キラリ。下駄の先に仕込まれた鋭い刃物が、チンピラ達の持つ松明に照らされる。
だが、その程度の脅しに怯む様な連中ではなかった。
「けっ、強がったって所詮は女ばかりじゃねえか」
「‥‥ふ、女ばかり、とな?」
突然、野太い声が響く。
「‥‥祖国を遠く離れた土地で温泉に入れるとはな」
かぽーん。
「‥‥温泉は良い、心も体も癒される。それに裸の付き合いはとても良い。年も、性別も、職業身分、国籍、それに種族の違いなど気にならなくなる。なにせ皆、生まれたままの姿なのだからな。そこには垣根などなにも無い‥‥」
朗々と響く、野太い親父声。
そして、声の主は湯から上がり‥‥
「そういうわけで、そこなボーイ達よ。ぼさっとしてないでこっちに来い。苛々は体に毒だからな」
ばさあっ!
湯着を脱ぎ捨て、褌一丁の姿で仁王立ちするのは天堂朔耶(eb5534)‥‥が、人遁の術で化けたマッチョ侍!
「癒される為に、温泉入っちゃいなYO、ボーイ達!」
ずびしぃっ! と、褌マッチョはチンピラ共を指差す。
しかし、反応はない。と言うか、呆れて反応も出来ない?
「ほぅ‥‥ワシの誘いを断るとはしゃらくさい。何だか知らんが、ワシのリラックスターイムを邪魔した事、後悔するがいいわ! 変・身‥‥とぅ!」
なんか変身した?
「仮面ニンジャー・シバ‥‥満を持して、イギリスにも参上!」
真紅の忍び鎧に、勇敢な犬を模した仮面。
「最初に言っておく! 俺は湯治を邪魔されてすこぶる機嫌が悪い! だーかーら、お前ら全員始末するけど構わんな、答えは聞いていない!!」
ああ、誰か止めなくて良いのだろうか、これ。いや、村人達が止めてくれる筈なんだけど‥‥
「そろそろ呼んで来ましょうか、ね」
どさくさに紛れてウォーターボムをぶっ放して溜飲を下げ、チンピラが持っていた松明の火が全て消えた事を確認すると、ウェーダは静かにその場を離れた。
「‥‥あの‥‥け、喧嘩は良くない‥‥と‥‥」
何故かゴロツキ達のお尻にタッチしまくり、高笑いを響かせる仮面ニンジャーに向かって村人達が止めに入る‥‥が、効果はあるのだろうか?
そこへ‥‥
「何をしとるか、この馬鹿者どもがーっ!!」
鼓膜が破れんばかりの、本物の親父声。現れたのは近所の親父集団だった。
「へへっ、お母さんの入れ知恵。ご近所の人間達にも知らせれば、一緒に懲らしめてくれるかなって」
ブランが悪戯っぽく笑った。
「‥‥確かに、村の方ばかりでは却って印象を悪くされたかもしれませんね」
屈強な親父達に引きずられる様にして去って行く馬鹿者どもを見送りつつ、綾葉が言った。
「周囲に理解者がいる事を印象づけた方が効果的‥‥という事ですか」
シャロンが苦笑を漏らす。
「あ、でも。上手く行ったんだから良いじゃん?」
サクラに手当をして貰ったウォルが立ち上がる。
「これで少しは懲りただろうし」
「だと良いけど」
鎮葉が肩を竦める。
「連中が八つ当たりで変な噂流すかも知んないし、こっちは酒場とかで愚痴でも吐いて噂を流しておくかね」
「でも、その前にさ‥‥折角だから温泉どう?」
ウォルが誘う。下心は‥‥さて?