カエル注意報!
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■ショートシナリオ
担当:STANZA
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月05日〜09月10日
リプレイ公開日:2006年09月13日
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●オープニング
「‥‥橋‥‥落ちちゃったね‥‥」
森の奥、ジメジメとした薄暗い沼地のほとりに、二人の少年が呆然と佇んでいた。
一人はシフール、もう一人は人間のようだ。
「ま、オレはべつに橋なんてなくても困んねーケド♪」
シフールの少年がからかうように言いながら、水面でとんぼ返りを打とうとしたその時。
―――バシャァッ!―――
突然、小波ひとつない水面から怪物が現れた。
「う‥‥わあっ!?」
それは、体よりも大きいかと思われる真っ赤な口を開け、獲物めがけて長い舌を伸ばす。
「チャド、危ない!」
長い舌にからめ取られそうになったシフールの少年を、人間の少年が慌てて鷲掴む。
「いでーででっ! 何すんだよエスト! 大事な羽根がもげるだろっ!?」
「カエルに呑み込まれるよりマシだろ?」
「カ‥‥カエル? 今のが?」
周囲には既に怪物の影はなく、ただ水面がザワザワと名残をとどめるのみ。
「ジャイアントトードってヤツだね。シフールくらいなら、一呑みでパックリやられちゃうらしいよ」
エストと呼ばれた少年は、楽しそうに笑う。
「ま、人間なら羽虫と間違えられる事もないだろうケド♪」
「‥‥ちぇっ、さっきの仕返しかよ」
「さ、行こうチャド。他の道を探さなきゃ」
しかし、いくら歩き回っても、他に渡れそうな場所は見つからなかった。
「‥‥ってなワケでさ、おっちゃん。ひとっ走り行って、あのマヌケでノロマな相棒をちゃちゃっと連れて帰ってほしいんだよな」
数時間後、ギルドの受付に、威勢の良い言葉とは裏腹に、疲れきってボロボロのシフールの少年の姿があった。
「あいつ、帰り道探してる途中に転んで怪我しちまってさ、薬の元はカバンにいっぱいあるのに、煎じ方知らなきゃどーにもなんないじゃん?」
「薬の元?」
受付係は、このお調子者の少年から少しでも多くの情報を聞き出すべく訊ねた。
だが、少年は突然、しまったと言うように口を押さえて黙り込む。
「あ、や、何でもないよ。今の聞かなかった事に‥‥」
「聞かれてまずいような事をしていたのですか?」
「そ、そうじゃないけど‥‥多分」
「多分?」
受付係は細い目を更に糸のように細めて、じっと少年を見つめる。
その視線に圧倒されたのか、少年はふよふよとカウンターに舞い降り、膝をかかえて座り込む。
「あの‥‥さ、オレ達‥‥マンドラゴラを取りに行ったんだ」
「マ‥‥!?」
下手に引き抜いた者には死をもたらすという薬草‥‥いや、モンスターか。
素人が手出し出来る物ではない。
「で、でもあいつ、モンスターの事とか、けっこう詳しいから‥‥!」
「詳しければ大丈夫、というものではありません」
冒険者でもなく、ろくに装備もないただの子供が、無事に何本も引き抜いた幸運を神に感謝しながら、受付係は溜め息混じりに言った。
「‥‥その事については、助け出した後にじっくりと伺いましょう。君、チャド君と言いましたか? 君には勿論、現場まで案内して貰いますよ」
「うん、わかってる」
急に大人しくなった少年は、素直に頷いた。
「手伝いの人を集める間、君は少し休んで、何か食べておきなさい。ああ、それから‥‥ご両親に連絡はつきますか?」
「‥‥いねーよ、そんなもん」
「え?」
「オレ達、孤児ってヤツ。世話してくれる人はいるけど、メーワクかけらんないから、黙っててくれよ」
それで、薬草を採って家計の足しにしようとでも思ったのだろうか。確かにマンドラゴラは高い値で売れるが‥‥。
「そうだっ!」
突然、少年が大声を上げた。
「ペンダント! あいつ、足滑らせた時に沼に落としちゃって、それをアレが呑み込んじゃったんだ! なんか、大事なモンだって‥‥」
「アレって‥‥例のカエル、ですか?」
「そう、なんか沼のヌシって感じの、デカくて年季入ってて、コワそうなヤツ!」
「‥‥では、エスト君の救出と、カエルに呑まれたペンダントの回収‥‥と。では、料金は‥‥」
「ええっ!? コドモからカネとんのかよ!? しかも人助けだぜ!?」
「君達の採ったマンドラゴラを売れば、楽に払える額ですよ」
にっこり♪
●リプレイ本文
「お友達が待っている場所は、まだ遠いのかしら?」
先を行くシフールの少年チャドに、メリル・ジェネシス(ea1582)が問いかける。
空では既に陽が傾き、薄暗い沼地はますます暗さを増していた。
「もうちょっと‥‥あの先だったと思うんだけどな‥‥」
チャドはスイっと舞い上がると、上空から見覚えのある地形を探す。
「あ、あそこだ! おお〜いエストぉ〜、生きて‥‥」
相棒の少年が待っている筈の場所に向かって沼を横切ろうとした瞬間‥‥。
ザバアッ!!
水面から巨大な物体が躍り出る。
「うわあっ!?」
間一髪、獲物に逃げられた巨大カエルは、そのまま無表情に濁った水の中に消えていく。
「あ、危なかったぁ〜」
チャドはフラフラと冒険者達の元へ戻ってきた。
「やはりきちんと陸に誘き寄せないと、対処の仕様がありませんね」
水の中では武器も届かない。大きな斧をどさりと地面に置いたコウキ・グレイソン(eb5501)は、釣り竿代わりになりそうな枯れ枝はないかと物色を始める。
「わたくしの鷹は囮になりませんかしら?」
メリルがカエルを誘き出すようにと、自分の鷹に命令する。
しかし、鷹は何を思ったか上空に舞い上がると旋回を始め‥‥そのまま姿が見えなくなってしまった。
「‥‥訓練が足りなかったかしら‥‥」
メリルはその姿を呆然と見送る。多分、戻って来るだろうとは思うが‥‥。
「それで‥‥チャド君、エスト君は見つかりましたか?」
サクヤ・クロウリー(eb5505)が、まだ心臓をバクバクさせて地面にへたり込んでいる小さなシフールに問いかける。
「あ、そだ。わかんなかったよ。多分、そこにいる筈だけど‥‥動いてなければ」
指差した対岸の藪に向かって、サクヤは呼びかけた。
「エスト君、無事ですか? いたら返事をして下さい!」
呼びかける事、数回。対岸の藪から、漸くかすかな声が聞こえた。
「‥‥誰?」
「助けに来ましたよ。もう少しですから、そこを動かないで下さいね」
「‥‥チャドは? チャドは無事?」
「おう、ったりめーよ! このオレサマがカエルなんかに捕まるかってんだ」
つい今し方、捕まりそうになった事は秘密だ。
「‥‥良かった‥‥。ありがとう」
その時、メリルの鷹が戻ってきた。
足に掴んでいた何かをどさりと落とす。
「野ウサギですか‥‥。丁度良い、囮に使わせて貰いますよ」
コウキはそれをロープで縛ると、先程見つけた枯れ枝の先に結び付ける。
「カエル用の釣り竿の完成です。上手く引っかかってくれれば良いのですが‥‥」
水辺に立ち、ウサギ肉をブラブラと振る。
バッシャアァン!
たちまち、一匹のカエルが飛び付いて来た。
餌を取られないように、中州の中央に向かって巧みに誘導し、片手に持った斧を振り下ろす。
動きを止めた所にメリルがマグナブローを見舞った。
カエルの丸焼き、完成。
香ばしい香りが漂うが、お世辞にも美味そうには見えない。
「巨大蛙‥‥。やはり気色悪いものですわね」
こうして、二人がカエルを引きつけている間に、サクヤは沼を泳いでエストの元へ向かった。
チャドもメリルに渡された保存食を持ち、後に続く。
「お待たせ〜、腹減っただろ? まほーつかいのねーちゃんに貰ったんだ、とりあえず食っとけよ」
別れた時のまま、草むらに座り込んでいるエストに保存食を渡す。
「エスト君、初めまして。助けに来ました。‥‥怪我の具合はどうですか?」
持ってきたロープを手近な木に結び付けると、サクヤはずぶ濡れのままエストの足元にしゃがみ込み、傷の具合を調べた。
「あ‥‥ありがとうございます。あの、ご迷惑をかけて‥‥ほんとに、すみません‥‥」
「それほどひどい怪我ではなさそうですね」
と、サクヤは傷を洗ってリカバーをかけ、優しく微笑んだ。
「町に戻ったら、たっぷりお説教をお見舞いしてあげますからね。今はまずそれを食べて、仲間が安全を確保してくれるのを待ちましょう」
「‥‥これだけ倒しても見つかりませんか‥‥」
コウキがカエルの丸焼きの山を前に溜息をつく。肝心のヌシらしいカエルは見当たらなかった。
「仕方がありませんね、もう暗くなってきましたし、今日はここで休みましょう」
「あの‥‥」
濡れた服を焚き火で乾かしながら、エストが言う。
「もういいです、見つからなくても‥‥」
「でも、君にとって大切な物なんでしょう、呑み込まれたペンダントは?」
「母ちゃんの形見なんだよな?」
チャドが会話に割り込んでくる。
「そうだけど、でも‥‥これ以上迷惑かけられないし」
「迷惑ではありませんよ、これも仕事のうちですからね。頂くものはきちんと頂きますし」
「そうなんだよ、ヒドイんだぜ! ギルドのおっちゃん、こんなイタイケな子供からもしっかりカネ取るんだもんなー!」
「そう、しっかり取らせて頂きますから、安心して任せて下さい。ペンダントは必ず取り戻しますよ」
微笑むコウキをエストは憧れの目で見ていた。
「僕も冒険者になれるかな‥‥」
独り言のように呟くエストの鼻を、食欲をそそるニオイがくすぐる。
「ウサギのスープが出来ましたよ」
ランタンの明かりが灯るテントの中から、サクヤの声がした。
翌朝、再び「お肉ぶらぶら作戦」が開始された。ただし、お肉は前の晩に皆の胃袋に収まってしまったので、使われたのは毛皮だったが。
「シフールにも飛び付くくらいだし、動いてさえいれば大丈夫だろう」
だが、毛皮では効果がないのか、それともこの一帯のカエルは既に一掃されてしまったのか‥‥一向に飛びかかってくる気配はない。
「ヌシはどこに行ってしまったのでしょう‥‥? 襲われたのはこの辺りでしょう?」
サクヤの問いにエストが頷く。
「あそこで足を滑らせて、そしたら‥‥」
と、水辺に来て対岸を指差した途端。
「うわっ!」
足を滑らせて尻餅をつく。
「エスト君、大丈夫‥‥」
サクヤが駆け寄ろうとしたその時。
ザバアッ!
「出たァ! あいつだ!」
チャドが叫ぶ。
他のカエルより一回りは大きい、いかにもヌシな顔をしたカエルが、倒れたエストを目がけて飛びかかってきた。
びっちゃん!
サクヤは慌ててエストの体を引っ張り上げ、危うくヌシトードのボディプレスから逃れる。
陸に上がったヌシトードは、その図体の大きさ故か流石に動きが鈍い。頭上から斧を叩き込まれ、下からはマグナブローの炎に焼かれ、こんがりご臨終。
「後はペンダントを探すだけですわね」
メリルが気味悪そうにローストガエルを見ながら言う。
「わたくし、ああいった生き物には触りたくありませんの。どなたか‥‥」
「私も、出来れば遠慮を‥‥」
と、サクヤ。
そして仲間達の視線が一人に集中する。
「‥‥まあ、こうなるだろうとは思っていましたよ」
溜め息混じりに、コウキは武器をダガーに持ち替えると、意を決してカエルの解剖に挑んだ。
腹の中には半分溶けかかった虫やら肉やら、溶け残った毛玉やら骨やら‥‥それらをなるべく見ないように、元の形を想像しないようにしながら、光る物を探す。
「ん? ‥‥これか‥‥?」
胃液と何かがドロドロに絡みついた鎖を引っぱり出す。
「あ、それです!」
沼の水で洗い流すと、それはイルカの模様が付いた銀のペンダントだった。
「これは‥‥紋章のようにも見えますが‥‥裏に文字が彫ってありますね。‥‥エスティード‥‥?」
「多分、僕の本名だと思います」
エストは手渡されたそれを大事そうに両手で包み込む。
「だからさ、こいつ実はどっかの貴族の坊ちゃんじゃないかって、な?」
「イルカの紋章‥‥どこの家でしょう? 見た記憶は‥‥もっとも、私もあまり詳しくはないのですが」
「いえ、良いんです。それより、ありがとうございました。本当に、何とお礼を言って良いか‥‥」
頭を下げるエストを、コウキは腕組みをしながら楽しそうに見おろす。
「じゃあ、そろそろお説教タイムかな?」
「あ、え‥‥!?」
「でも、言いたい事はわかっているでしょうから‥‥勘弁してあげましょうか」
「そうですね」
サクヤが微笑みながら後を引き取った。
「ただ、お世話になっている人の助けになりたい、という素晴らしい気持ちはいつまでも忘れないようにして下さいね」
「‥‥はい!」