【メルドン慰問】戻らない時に捧ぐ‥‥

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:フリーlv

難易度:難しい

成功報酬:0 G 97 C

参加人数:10人

サポート参加人数:2人

冒険期間:10月07日〜10月17日

リプレイ公開日:2008年10月15日

●オープニング

 ‥‥大丈夫だ。戻っている‥‥ここに書かれている事は、全て。

 冒険者ギルドの書庫に、無造作に収められている数々の記録。
 その中にある、円卓の騎士ボールス・ド・ガニスに関するもの‥‥それは比較的手の届きやすい場所に、一纏めにして置いてあった。恐らく、弟子が読み漁っていたのだろう。
「‥‥あの子の手本になる様な事など、何も書かれてはいないのに‥‥」
 いや、反面教師としてなら役に立っているかもしれない。
「迷惑をかけてばかりですから‥‥ね」
 円卓の騎士として、人々を守る為に在る者として‥‥自分はその責務を全うしていない。ボールスはそう感じていた。
 仕方がない。
 どうにもならなかった。
 ‥‥そんな言い訳は通用しない。
 動くべき時に動く。どんな理由があろうと。
 それが出来ずに、何がイギリス最高の騎士か。
「‥‥もう一度、鍛え直さなければ‥‥」
 心も、体も。

 ――その時。
 床に落ちている一枚の丸まった羊皮紙が、席を立とうとしたボールスの目にとまった。
 報告書なら大抵は依頼書と一緒に束ねられている筈だが‥‥それは、ただ一枚きりでそこに落ちていた。
 拾い上げ、中を広げてみる。
『ねこをさがしてください』
 そこには、幼い字でそう書かれていた。
 場所は‥‥メルドン。あの津波で多くの犠牲が出た場所だ。
「あの‥‥すみません。これは?」
 書庫を後にしたボールスは、受付係にその書類を見せた。
「ああ、それは‥‥」
 数日前に人が集まらないまま募集が締め切られた依頼。
「いや、ただでさえ他に手を取られている所に、内容がこれですから‥‥津波の時にいなくなった猫なんて、もう探し様もないでしょうし‥‥ね」
 依頼人は小さな女の子。
 あの津波で家族は全員無事に避難する事が出来たが‥‥ただ、飼っていた長毛の三毛猫「みゃー」だけが、その日から姿を見せなくなったのだという。
「家は半分水に浸かる位で、壊れて流されるような事もなかったと言ってましたが‥‥」
 それなら、数日もすれば驚いて逃げ出した猫も戻って来る筈だ。
 ‥‥無事でいるなら、だが。
「この依頼‥‥私が受けても良いでしょうか?」
「は?」
 ボールスの言葉に受付係は思わず頓狂な声を上げる。
「いや‥‥だってそれ、流れたものですし‥‥」
「‥‥ああ、そうですね。では、個人的にここを訪ねるなら問題はありませんか?」
 ボールスは依頼書の隅に書かれた依頼主の住所を指す。
「はあ、それは‥‥」
 構わないし、その少女も喜ぶだろうが。
「でも‥‥多分、出来る事は何もありませんよ?」
「‥‥わかっています」
 それでも、知ってしまった以上は放っておけない。
 何も出来ないとわかっていても、それでも‥‥何かを。
 ほんの少しでも、救いを。
 どうすれば良いのか、何をすべきなのか‥‥今はまだ、何もわからないが。
「‥‥本当は私自身が救われたいだけなのかも、しれませんけれど‥‥ね」
 最後の呟きは、誰の耳にも届かなかった。


 その、数日後。
「ちょっ‥‥一人で行ったって、どういう事だよ!?」
「いや、私に訊かれても‥‥」
 少し出掛けて来ると言って、行き先も告げずに姿を消した師匠の行方を追っていたウォルは、噛みつかんばかりの勢いで受付係に迫る。
「ちゃんと休暇は貰って来たと言ってましたが‥‥ウォル君には何も言ってないの?」
 その問いに、ウォルは頬を膨らませたまま首を振った。
「‥‥何で一人で行こうとか思うんだよ‥‥やっぱ師匠、まだどっかおかしい!」
 記憶は戻った筈なのに。
 戻った記憶にも間違いはないのに。
 でも‥‥やはり、何かが違う。
「そりゃ、オレが頼りになんないのはわかるけどさ‥‥他の皆に相談とかすれば良いじゃん!」
 いくら円卓の騎士でも、こんな時に出来る事は普通の人と同じだ。
 なのに‥‥
「その猫、見付からない可能性の方が大きいんだろ?」
 ウォルの問いに、受付係は黙って頷く。
「だったら‥‥余計ひとりで行ったって役に立たねーじゃん! 師匠、何の芸もないんだから!」
 まあ、確かに‥‥慰問には向かないタイプ、かも。
「‥‥しょーがねえなあ、もう‥‥」
 ウォルは大きな溜息を漏らすと、言った。
「オレも行く。勿論、仲間を集めて‥‥バカ師匠を助けに」
 猫探しと‥‥ついでに余裕があれば復興の手助けでも。
「オレもメルドンには行きたかったし、さ」

●今回の参加者

 ea1274 ヤングヴラド・ツェペシュ(25歳・♂・テンプルナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ea5380 マイ・グリン(22歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea7244 七神 蒼汰(26歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 eb3450 デメトリオス・パライオロゴス(33歳・♂・ウィザード・パラ・ビザンチン帝国)
 eb3776 クロック・ランベリー(42歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb3862 クリステル・シャルダン(21歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 eb8317 サクラ・フリューゲル(27歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ec1007 ヒルケイプ・リーツ(26歳・♀・レンジャー・人間・フランク王国)
 ec4979 リース・フォード(22歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec4984 シャロン・シェフィールド(26歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

桜葉 紫苑(eb2282)/ ラディッシュ・ウォルキンス(ec1503

●リプレイ本文

「むむ〜、ボールスどのの精神状態はもはや、お説教をしたくなるレベルであるな〜」
 ウォルから話を聞いたヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)は思わず頭を抱えた。
「円卓の騎士ともあろうお方が、小さな女の子と同レベルとは‥‥」
「どういう事?」
「そうであろう? どちらも大切なものを失った悲しみから抜け出せず、いつまでもそこに囚われて前へ進めない‥‥余にはその様に見えるのであるが」
「‥‥そうでしょうか‥‥?」
 その言葉にサクラ・フリューゲル(eb8317)は、ほんの少し首を傾げた。
「私には少し、違う様に思えるのですが‥‥」
 彼を悩ませているものは、過去よりも寧ろ未来にあるのではないか。
 だが、そう考えて‥‥サクラは思い直した様に静かに首を振った。
「フォローは必要にしてもそこから歩むのはあの方次第‥‥今更疑う事もありませんね。ボールス様が選ぶ道を信じましょう」
 猫探しなどと、状況が変わっても思い悩んでいても、その行動に納得できてしまう事こそ、根本的な部分は何も変わっていない証拠だろう。
「まあ‥‥そうであるな。とにかく、まずはいなくなったにゃんこちゃんを探すのが先決なのだ。諦めてはいけないのだ」
「そうですね。ボールス卿も感じる事あればこそ動いたのでしょうし」
 頼まれたのはボールスの事だが、と、シャロン・シェフィールド(ec4984)はウォルを見る。
「猫探しに協力しても、構いませんよね?」
「うん、オレも探すつもりだし‥‥って言うか、一人で行ったって見付かるわけないのに、あのバカ師匠!」
 何しに行ったんだよ、と、ウォルは頬を膨らませた。
「これで見付かんなかったら、また自分を責めて、ますますドツボに填るだけじゃん、バカ!」
「‥‥それは、本人に言ってやった方が良いんじゃないかな‥‥拳付きで」
 リース・フォード(ec4979)が、ウォルのそんな様子にくすりと笑みを漏らす。
「もっとも、拳に関しては向こうの方が効きそうだけど」
 と、先程から不機嫌を隠そうともせずに黙りこくっているサムライナイトを見た。
「‥‥悪い、俺は先に行かせて貰う」
 不機嫌なサムライナイト七神蒼汰(ea7244)は、ブーツを押し付ける様にしてリースに手渡すと、礼の言葉も聞かずにペガサスに飛び乗った。
「あ、ありがとう。有難く借りて‥‥って、蒼汰!?」
 聞こえてないし。
「あれは‥‥かなりキテる、ね」
 飛び立つペガサスを呆然と見送り、仲間達は一様に苦笑混じりの溜息をついた。
「殴るのは止めんが‥‥まあ、ある意味で当然かなという気もするし」
 クロック・ランベリー(eb3776)が呟く。
「でもいくらオーラセンサーがあるからって‥‥闇雲に探して見付かるものじゃない、よね?」
「ええ、メルドンの町は結構広いですし」
 リースの問いに、ヒルケイプ・リーツ(ec1007)が答える。
「しょうがないな‥‥クリステル、追いかけて貰える?」
 多分、ボールスには救急箱も必要になるだろうし。
 リースの言葉に、クリステル・シャルダン(eb3862)は頷き、ペガサスで飛び立つ。
「じゃあ、おいら達も行こうか。おいらも猫さんは大好きだから、イドラとキトラに協力してもらって猫さんを探すね」
 デメトリオス・パライオロゴス(eb3450)が二匹の猫を抱き上げる。
「‥‥私達が着く頃には、七神さんの気も済んでいるでしょうね」
 ぼそりと、マイ・グリン(ea5380)が呟いた。
「‥‥少し、見てみたかった気はしますが」


「ええと‥‥住所からすると、この辺りかな」
 ギルドで教えられた情報を頼りに、冒険者達は一件の家の前で立ち止まる。
 さほどの被害を受けなかったこの辺り一帯には、既に津波の傷跡は殆ど見られなかった‥‥少なくとも、表面上は。
「でも、この方々も‥‥大切な誰かや、何かをなくされているのでしょうね」
 最初に来た時とは比べ物にならない程に、落ち着きと‥‥日常を取り戻した町の様子を見て、ヒルケが言った。
 町の復興は進んでも、心に受けた傷はそう簡単には治らない。いや、表面上は治った様に見えても、実はずっと、傷は傷のままで抱えているしかないのかもしれない。
 だからこそ、見付かるものなら何としても見付けてやりたい。
「確かに‥‥津波の後は混乱が酷くて猫にまで意識がいかなかったのは事実だ。俺も含めてね」
 と、リース。
「でも、他人からしたらたかが猫一匹かもしれないけれど、その子にとっては大切な家族だ」
 もしかしたら、依頼を受けてくれなかった冒険者に対して憤りを感じているかもしれないけれど‥‥
 そう思いつつ、リースはドアを叩いた。

「あら、今日はお客様が多い日ね」
 応対に出た婦人はそう言って嬉しそうに笑った。
「ついさっきも、何だか怖い顔をした男の人と、エルフのお嬢さんが来て‥‥」
 娘と、そして一緒にいる筈の男の行方を尋ねて行ったのだと言う。
「今は多分、海の方にいると思うわ。うちの猫のお気に入りの場所が、そこにあったの」
 家から海岸までは、そう遠くない。この辺りの地区は比較的高台だった為に、海の近くでもそれほどの被害は受けなかったのだ。少し離れた所では、全壊した建物も少なくなかったらしい。
「この辺りは避難が間に合ったけれど、海の近くでは一家の誰も戻らない家も多かったらしくて‥‥今でも壊れたままの所が結構あるのよ。もしかしたら、その中にでも潜り込んでるんじゃないかって‥‥」

 その頃。
 海に近い倒壊現場の周囲には人だかりが出来ていた。
「おい、何の騒ぎだ? 今更行方不明者の捜索って事もないだろ?」
「いや‥‥なんか、猫を探してるって‥‥」
「猫!?」
 物好きな御仁もいるものだと野次馬達が遠巻きに眺める中、ボールスは黙々と瓦礫を片付けていた。
 だが、彼は独りではなかった。周囲の野次馬の中から、手を貸そうと進み出る者が一人、また一人‥‥今では10人程の者達が彼の作業を手伝っていた。
「すみません、皆さんもお忙しいでしょうに‥‥」
「まあ、気にしなさんな」
 手を動かしながら詫びるボールスに、助っ人の一人がガハハと笑った。
「なんつーか、あんたの顔見てると黙って見てちゃバチが当たる様な気がするんで、な」
 その時。
「――ボールス卿っっ!」
 上空から声がした。と、思った途端‥‥地面に激突しかねない勢いで舞い降りて来た一頭のペガサスから誰かが飛び降りた。
「‥‥蒼汰さん‥‥?」
 何故と問いたげなボールスの呼びかけを無視し、蒼汰はそのまま無言で歩み寄る。
「‥‥この‥‥‥‥大馬鹿野郎!!」
 ――バキィッ!!
 握り締めた右の拳が、ボールスの頬に直撃した。
 受ける気がなければ当たる筈もない、大振りの攻撃。だが、まともに受けても顔色ひとつ変えず、揺らぎもせずに立っている所は流石に円卓の騎士、か。
「何で1人で黙って行くんだっ!? 俺は‥‥俺達はいくつもの事件を力を合わせて共にくぐり抜けてきた仲間じゃないのかよっ!? 言ってくれれば何時だって手を貸すのに‥‥どうして‥‥っ」
 拳を震わせ、勝手に溢れ出そうとする涙を懸命に堪えながら、蒼汰は続けた。
「ボールス卿、俺は今騎士ではあるが武士として育った」
 腰の刀を鞘ごと外し、それを両手で捧げ持つ。
「知ってるか? 武士にとって刀は己の魂なんだ。俺はアンタに剣を‥‥刀を捧げた。つまり、アンタが己の魂を捧げて仕えるに相応しい人だと思ったからだ。他の誰でもない‥‥」
 すっと、腕が上がる。手にした刀の柄を相手に向け、蒼汰は切れた唇から流れる血を拭おうともせずに自分を見つめるその顔を、ぴたりと指した。
「ボールス・ド・ガニス! アンタにだ!」
 恥ずかしい。何だか、とてつもなく恥ずかしい事を言っている気がする。
 だが、言わなければ気が済まなかった。
「そんなアンタが自分を『疫病神』とか卑下するなんてのは絶対に許さないし認めない! 何人かの円卓の騎士と知り合って、それでもその中からアンタを選んだんだっ!!」
 蒼汰の目には、ただボールス一人しか見えていなかった。周囲を取り巻く野次馬達も、そして‥‥全身から怒りを滲ませながら近付いて来る、少女の姿も。
「それでも卑下するなら、アンタは俺を馬鹿にしてるって事だ! 俺の、人を見る目を信じてないって‥‥」
 ――どかっ!!
「いでーーーっ!!?」
 蒼汰の向こう脛に、電撃の様な凄まじい衝撃が走る。
「おにーちゃんを、いじめるなっ!!」
 片足を抱えて蹲った蒼汰の前に立ちはだかったのは、猫探しの依頼を出した少女だった。
「おにーちゃん、いっしょけんめ、みゃーをさがしてくれてるのにっ! いじめるなんて、ゆるさないんだからっ!!」
 今度は小さな拳を振り上げる。だが、それが「わるもの」に届く前に、少女のパンチは止められてしまった。
「大丈夫、この人は‥‥仲間ですから」
 ボールスが言った。
「なかま‥‥? だってこのおじさん、おにーちゃんいじめてたよ!?」
「おじさん!?」
 蒼汰が抗議の叫びを上げる。
「つか、ボールス卿がお兄ちゃんで何で俺が!?」
「いいひとはおにーちゃんなの! わるものはおじさん!」
 蒼汰、すっかり悪者扱い。
「ごめんなさい、びっくりしたでしょう?」
 いつの間にか傍に来ていたクリスが、そんなやりとりに笑いを堪えながら少女の前に屈み込む。
「でも本当に大丈夫だから‥‥ね?」
 優しく微笑まれ、少女は手を下ろして後ろへ下がった‥‥それでも、まだ疑わしそうな目つきは消えなかったが。
「クリス‥‥」
「黙って出て行くなんて‥‥エルはもうしないと約束してくれましたけれど」
 父親の方が余程問題児かもしれないと、クリスはボールスの頬に手を当ててリカバーを唱えようとした。
 が‥‥
「事後自得、ですから」
 ボールスはその手をやんわりと押しのけた。
「でも、あの子が心配しますわ」
「‥‥」
 そう言われては、折れるしかない。
「でも‥‥二人ともどうしてここへ‥‥?」
「ボールス様と同じ理由ですわ」
 クリスは真っ直ぐに相手の目を見ながら言った。
「何も出来ないかもしれなくても、少しでもお役に立ちたくて」
 誰の役に、とは言わない。だが‥‥通じたのだろう。ボールスはふと目を逸らす。
「ごめん‥‥また迷惑を‥‥」
 ――すぱあぁーーーん!
「だから、迷惑じゃねえって言って‥‥あだーーーッ!!」
 ボールスの頭をハリセンでひっぱたいた蒼汰だったが‥‥少女から手痛い反撃を喰らった様だ。
「私達だけでなく、きっと皆さんも‥‥」
 クリスが視線を向けた先には、仲間達の姿があった。

「あのね、このしたからねこのこえがしたの!」
 作業員がいつのまにか倍ほどに増えた現場で、少女が瓦礫の山を指差した。
「みゃーのこえかは、ちいさくてよくわかんなかった‥‥あ、ほら! またきこえた!」
 その言葉に、全員が耳をすます。
 たしかに‥‥微かに聞こえる。猫の声と言われればそう聞こえなくもない音が。
「よし、崩さない様に、慎重に瓦礫をどけて‥‥イドラ、キトラ、入り込める様な隙間はある?」
 デメトリオスが二匹の愛猫に声をかける。が、どうやら相当奥に潜っているらしく、大人の猫が通れそうな隙間も見付からなかった。
 やがて、瓦礫の殆どが取り除かれ‥‥
「わん!」
 クリスの愛犬ミアが「ここだ」と言う様に土砂を掘り始めた。
「‥‥子猫‥‥! 生まれたばかりの‥‥」
 半ば土砂に埋もれたその小さな空間には、まだ目も開かない様な痩せた子猫が三匹。子猫達は折り重なる様にして、冷たくなった母親の腹にしがみついていた。
「まだ、生きています!」
 それを聞いて、野次馬達からどよめきが沸き起こる。
 三匹をそっと母親の体から離し、毛布で包み‥‥それを抱えて瓦礫の山を下りたクリスは拍手と歓声で迎えられた。
「みつかったの!? みゃー!?」
 駆け寄った少女は、それが自分の猫ではないとわかると今にも泣きそうな顔になった。
 だが‥‥
「こねこ、みつかってよかったね。きっと、みゃーもみつかるよね?」
 気丈にも顔を上げて微笑む。
「‥‥あの津波の時から今まで、ずっとここに居たとは考えにくいですから‥‥」
 少し離れた所で、少女には聞こえない様にマイが言った。
「‥‥恐らく出産場所を探して潜り込んだ後、何かの拍子に瓦礫が崩れて出られなくなったのではないかと」
 母猫が死んでいた事は、少女には言わずにおいた方が良いだろう。
 みゃーが無事に見付かる可能性が殆どない事も。


 翌朝、再び少女の家を訪れた冒険者達は、家族の許可をとると少女を連れて町へ出た。
「昨日も随分歩きましたし‥‥疲れたでしょう? 今日は馬に乗って探しましょうか」
 ゆっくり歩くから怖くないと言われ、少女はシャロンの馬の背にちょこんと座る。
 手綱を握った小さな手‥‥その手首に巻かれているのは、津波の直後に近所で見付かったという、みゃーの首輪だった。
「うわあ、たかーい!」
「気持ち良いでしょう? それに高い所から見たら、みゃーの居場所も見付けやすいかもしれませんよ」
「うん!」
 馬を引いたシャロンと、それぞれに犬を連れたヒルケとクリス。4人は犬達に猫の匂いを辿らせながら町を歩く。
 みゃーがいなくなったのは、もう随分前の事だ。その匂いが僅かでも残っている可能性は低かったが‥‥
「諦めていては見つかるものも見つかりませんしね」
 ヒルケは道端で猫の姿を見かけては、テレパシーのスクロールを広げて彼等に語りかける。
『みゃーという名前の、長い毛の三毛猫を知りませんか?』
 だが、返って来るのは好物の魚や気になるあのコのイメージばかり。
 町の人に尋ねてみても、返って来る答えは猫と大差のないものだった。
「目撃情報にしても、混乱した中で猫を気にしておられる方もどれだけいるか‥‥」
 生きているとすれば、今は身を隠している筈。そうでなければ飼い主の許へ帰っている筈だ‥‥帰れない事情でもない限り。
「家は水に浸かったということですし、高台の方へと逃げているのかもしれませんね」
 津波の被害に遭わなかった、高台で、かつ水場がある川沿いの場所‥‥
「飼い主さんの声を聞けば、出て来てくれるかもしれませんよ?」
 ヒルケに言われ、少女は大声で猫の名を呼ぶ。
「みゃー! みゃー、どこー!?」
 猫が隠れていそうな場所では、クリスがお気に入りのオモチャを振ってみるが‥‥飛びかかってくるのは見知らぬ猫ばかり。
「こんなによんでも、でてきてくれないなんて‥‥みゃー、あたしのこと、きらいになっちゃったのかな‥‥」
 泣きべそをかく少女に、ヒルケが言った。
「そんな事ありませんよ、きっとこの近くにはいないだけで‥‥声が届けば、必ず戻って来ますから、ね?」
「でも、かえってこないのは‥‥あたしといっしょにいたくないから‥‥きらわれちゃったから‥‥!」
 ヒルケは、握り締めた小さな手に自分の手を重ね、包み込む。
「あなたがみゃーちゃんの事を好きなように、みゃーちゃんもあなたの事をきっと好きな筈です。だから、泣かないで。あなたが泣いてるとみゃーちゃんも泣いちゃいますよ?」
 その言葉に、少女はまだ鼻をすすり上げながらも、こくんとひとつ頷いた。
「せめて猫さんの安否だけでも確認出来ると良いのですが‥‥」
 やがて馬の背に揺られたまま、疲れて寝てしまった少女に毛布をかけてやりながら、クリスが言った。
「‥‥難しそう、ですね。でも‥‥」
 と、シャロン。
「見つけられるかも勿論大事ですが、今は見つけよう、この子の力になろうという所にだけ集中しましょう。例え見つからなくても‥‥この子がそれを見ていてくれるなら」
 一緒に力を尽くす存在が、少女が立ち上がる支えとなれば。
「‥‥一緒にいなくて、良いのですか?」
「え‥‥?」
 ふと尋ねたシャロンの言葉に、クリスは首を傾げた。
「ボールス様ですよ。あの方が自分を責めて、人を遠ざけていても問題は解決しませんし‥‥」
 ヒルケは小さく溜息をつく。
 一緒に力を尽くす存在‥‥それは恐らく、ボールスにも必要なものだろう。
「それをわかって頂く為にも、傍にいてあげた方が良いように思うのですが」
 もしも、それさえ重荷と感じる様なら‥‥

 その頃、ボールスは仲間達にお説教を喰らっていた。
「‥‥1人で出来る事なんて知れていますし‥‥と言うか、動物探しは人海戦術が基本ですから、最初に一声掛けてもらいたかったですね」
「でも、これは私が勝手に‥‥」
 マイの言葉に、個人的な都合に他の者を巻き込む訳にはいかないと答えるボールスに、もう言葉を重ねても仕方ないような段階だろうと思いつつリースが言った。
「皆、貴方を心配して集まっているのに一人で行ってしまうなんて寂しい事しないで下さい。それとも迷惑ですか?」
 その言葉に、ボールスは首を振る。
「迷惑をかけているのは私の方で‥‥」
 ――すぱあぁーーーん!
「誰が迷惑だなんて言ったよ!?」
 蒼汰‥‥まだ怒ってる。
「つか、俺達はアンタに迷惑かけて欲しいからこうして集まって‥‥‥‥もういい! 俺は勝手に探す!」
 あ、行っちゃった‥‥。
「俺も聞き込みに行って来るか。根気よく探せば何かしら見付かるかもしれん。‥‥ボールス卿の事は‥‥関わりの薄い俺より、言うべき人がいるだろうからな」
 任せると言って、クロックもひとり仲間から離れて行った。
「そうだね。今はにゃんこさんを探すのが先、か」
 リースが言った。
 自分には特に有益なスキルもペットもない。ただひたずら、地道に足で稼ぐしかないのだが‥‥この場合は却って都合が良いかもしれない。一緒に猫を探していく中で、ボールスに何かを感じて貰えれば‥‥
「特に‥‥俺みたいな口下手が何を言っても、ボールス卿のお心には届きそうもないし」
 言葉よりも行動で。無心で猫を探す間に、心の整理が付く事を期待しよう。

「ウォルはどうします?」
「どうするって‥‥」
 仲間達がそれぞれの方法で猫を探すべく町に散った後。残ったサクラはウォルに尋ねた。
「オレも探しに行くに決まってんじゃん」
「それは、そうなのですが‥‥」
 つまり、一緒に行っても良いかって事だよ鈍いなお前は。
「では、私はウォルに着いていく事にしましょう。依頼人はウォルなのですし‥‥それに、何かあると大変ですからね」
「何かって‥‥こんな町なかで何があるってんだよ?」
 罹災直後の混乱期ならまだしも。
「護られる事もまた責任者の仕事ですわよ?」
「責任者なんて、オレはそんなご大層なモンじゃないって‥‥」
 だが、近頃はウォルも慣れて来たらしい。まだまだ子供、という自覚もある事だし‥‥寧ろ素直に護らせてくれない師匠の方が問題、か。
「まあ、良いや。来たきゃ勝手に着いて来れば? お前、ひとりで放っとくとフラフラ危なっかしいからな」
「はい、では勝手に致しますわね♪」

 その頃、デメトリオスは町の復興具合を観察しながら聞き込みを続けていた。
 出会った人々に、得意の植物知識で付近に生えている野草の有効活用法などを教えながら、猫の行方を尋ねる。
「毛の長い三毛猫なんだけど‥‥見かけなかったかな?」
 見付かる確率が低い事はわかっている。それでも、何もしないでいるよりは良いだろう。まずは、出来る事から。
「ボールスさんは、記憶が知識としては戻ってきているみたいだけど‥‥」
 その途中、ボールスの様子を思い出し、デメトリオスはひとり呟く。
「その場その場の決断や、心と言ったものは戻ってきてないみたいだねえ」
 黒の信徒にとって、天から降って来る様々な試練は自分を高める為に父なる神が与えてくれる恩恵の一つ。だが今のボールスには「自分が疫病神だから災厄に見舞われる」としか思えていないのではないか。
「そうじゃないんだけどな‥‥」
 神様は慈しんでくれるものでもあるのだろうが、もう一つの側面でもある試練を否定的に考えすぎではないか。黒の信徒であるデメトリオスには、そう思えて仕方がなかった。
「頑張っても避けられない試練はあるんだから、どう乗り越えることにこそ意味があるんだよ」

「‥‥この辺りで、毛の長い三毛猫を見かけなかったでしょうか‥‥」
 マイは少女の自宅近く、縄張りや猫の集会所近くに住む子供、おこぼれに預かっていたであろう店の者などに尋ねて回る。
「前はよく見かけたけどねえ」
「そう言や、最近見ないが‥‥あれ以来、か?」
「ああ、津波からこっち野良猫の数も随分減ったし‥‥」
 答えはどれも芳しくないものばかり。
 中でも次の証言は決定的に思えた。
「確か、片付けの時に結構な数の猫の死体が見付かってな‥‥その中に、見た様な気がするが」
「‥‥そう、ですか‥‥」
 遺体は既に、空き地に埋葬されているという。気温が高い時期でもあったし、今更掘り返しても特定など出来はしないだろう。
「‥‥でも、見間違いという事もありますからね」
 マイは諦めなかった。愛犬ラビに匂いを辿らせ、名前を呼んでみる。誰が呼んでも返事をするほど人懐こい猫だったと聞くが‥‥
 やはり、見付からない。手掛かりもない。
「‥‥これなら、近所じゅうの猫が集まって来る筈ですが」
 最後の手段に、化け猫も喜ぶと言われている濃厚なマタタビ酒を各地の集会所に置いてみる。
 だが、集まった膨大な数の猫達の中にも、珍しい長毛の三毛猫は見当たらなかった。


 そして、何も見付からないままに、メルドン滞在の最終日が来てしまった。
「ごめん。猫さん、見つけられなかったよ‥‥。おいら達の力不足、だね」
 左腕に填めた猫の首輪を弄りながらじっと話を聞いている少女に、デメトリオスが言った。
「でも、きっと野良猫になって逞しく生きているよ。だから猫さんのことを覚えていて、いつでも帰ってこれるようにしてあげてね。猫さんは気まぐれだから、ある日突然戻ってくるかもしれないよ?」
「ふむ‥‥ねこはセーラ様の元にいるのかもしれないであるな」
「それ‥‥しんじゃったってこと?」
 少女の目から大粒の涙が零れ落ちたのを見て、ヴラドは慌てて発言を修正する。
「い、いやいや‥‥そうとは限らないのだ。そう、セーラ様はきっと‥‥ねこを預かってくれているのだ。一生懸命良い子にしていれば、きっといつか会えるのだ」
「でも、あたし‥‥いいこにしてるもん。いつも、おとーさんとおかーさんのゆうこと、ちゃんときいてるもん」
 なのに、まだ足りないと言うのか。
「いや、その‥‥余も父上と母上、好きな娘といつか会えるよう良い子にしているのだが、いたずらっ子だったゆえ、余計にたくさん良い子にしないといけないのだ。きっと、自分が思っているよりもっと良い子にしないと‥‥」
「あたし、いたずらなんかしないもん! なのに、なんでかみさまはいじわるするの!?」
「いや‥‥神様は君に意地悪してる訳じゃないと思うよ?」
 リースが言った。
「ただ‥‥」
 そうは言ったものの、上手い言葉が見付からない。
「力になってあげられなくて、ごめん」
 それしか言えなかった。
 棒立ちになったままぽろぽろと涙を零している少女を、クリスが抱き締める。
「猫さんの事を、忘れないであげてね。忘れてしまえば悲しみは無くなるけれど、楽しかった思い出まで一緒に消えてしまうから‥‥大好きなあなたの心の中に、猫さんの場所を残しておいてあげてほしいの」
「その場所に、いつか帰って来るかもしれませんしね」
 ヒルケが言った。
「泣いてばかりいると、どこかにいるみゃーちゃんが心配しますよ? だから、ずっと笑顔でいましょう?」
「かえって‥‥くる、の?」
「‥‥一匹で怪我を治しているのかも知れませんし、案外、子連れでひょっこり帰ってくるような可能性もあります」
 見つからない場合、真相は誰にも分からないが、とマイ。
「こづれ‥‥こねこさんと、いっしょに?」
「そうだ、あの子猫達の面倒も見てあげないといけないしね」
 最初の日に瓦礫の下で見付けた子猫達は、三匹とも少女の家に引き取られる事になっていた。
「だから‥‥お願いだからもう悲しまないで? 君が悲しんでいる事で、お父さんやお母さんや友達が心配していないかな?」
 リースは後ろでじっと様子を見守っているボールスにも聞こえる様に言った。
「君の事を心配して想ってくれる人がたくさんいるよ。その人達を悲しませるような事はしちゃいけないよね? 君はひとりぼっちになってしまったわけじゃない‥‥一人で悲しまなくていいんだよ。一人でみゃーを探さなくていいんだ」
 果たして、一番伝えたい者にその想いは伝わったのだろうか‥‥。


 結局、猫の墓は作らなかった。
 帰って来るかもしれないという半端な希望を持たせる事は、場合によっては死という現実を突き付けるよりも残酷な結果になるかもしれない。だが今回は‥‥
「まだ小さな子供ですし‥‥時間が経てばきっと、きちんと理解してくれると思いますわ」
 帰り支度を終え、町を見下ろす高台に集まった仲間達にクリスが言った。
「それに、子猫の世話は大変ですから」
 失った悲しみを思い出す暇もない程に。
 ‥‥それはやはり、誰かの状況に似ている気がする。
 その誰かは、相変わらず浮かない表情で遠くに霞む海を見つめていた。
「ボールスどの、以前講義した筈であるな? 『たとえ何があろうと、慈愛神の地上代行として衆生を救え』と」
 ヴラドが言った。
「大切な者を失うからとて、他人との間に距離を取れば、救える筈の隣人も救えなくなるのだ。それは貴殿の優しさかも知れぬが、貴殿自身が傷つきたくない、という心の弱さでもあり、一人で事が成せる、という奢りでもあるのだ」
 まして結果から逆算して過去を断罪するとは、慈愛神の代行に過ぎぬ我らが衆生を救いきれぬのは当然の事。
「疫病神ならば、それを克服してみせよ。前回の課題を全てクリアして初めて進歩というのだ。貴殿は楽な条件で戦おうとしているのだ」
「私は‥‥そんなに強い訳ではありません。寧ろ、弱い人間である事は自覚しています。無力である事も‥‥」
 だから、出来る事なら全てを投げ出し、逃げ出してしまいたい。
「でも、逃げる訳にはいきませんし‥‥逃げる気もありません。ただ‥‥」
 自分はそれで良い。自分だけなら、信じる神にどれほど嫌われようが、どんな試練を与えられようが構わないし、乗り越える自信もある。だが‥‥
「大切な人達を、巻き添えにするくらいなら‥‥自分が原因で誰かが傷付いてしまうなら、私は‥‥誰とも、深く関わらない方が良い」
 自分の力で護れるものなら、護り通す自信はある。だが、それだけではどうにもならない事が多すぎるのだ。
 それに‥‥
「失ったものは返ってこないかもしれません。忘れる事も出来ないでしょうし、そうしていい事でないのはわかります。ですが‥‥」
 ヒルケは意味ありげな視線をクリスに向け、再びボールスに向き直る。
「ボールス様が人を遠ざけ、不幸になることで悲しむ方もいるんです。皆が幸せになってはいけないんですか? 誰だって幸せになっていけないなんて事はないんです」
「‥‥幸せに‥‥なって欲しいし、私にそれが出来るなら、何を置いてもそうしたいと‥‥そう願っています。でも、私には‥‥!」
「‥‥いずれ失ってしまうから‥‥傷つけてしまうからと遠ざけ、悲しませてしまうのがボールス様の騎士道なのですか?」
 ここまで酷い事を言う権利が自分にあるのかと悩みつつ、サクラが言った。
「近くに居ると傷つけてしまうというなら、離れても同じ事ではないかと思います。同じ傷つけるのであるなら‥‥傍にありたいと、私は思います」
「でも‥‥自分の存在が誰かを傷付けるとわかっていて‥‥それでもあなたは、自分を許せますか? それでも‥‥傍に居られますか?」
「それは‥‥」
「それは、ボールス卿が決める事ではないと思います」
 言い淀むサクラに代わって、シャロンが言った。
「許すのも、傍に居て欲しいと願うのも。それとも、相手の意志など尊重する必要はないとお考えですか?」
「そんな事は‥‥でも」
「‥‥なんとなく、ボールス卿は頼り、頼られ下手になっている気がしますね。頼るのは自分の力が足りず相手に寄りかかる事、頼られるのは相手の背負うものをそのまま背負う事のように感じているというか‥‥」
 シャロンはまるで聞き分けのない子供を相手にしているかの様に、大きく溜息をついた。
「頼る‥‥いえ、助け合う事はそんなに重い事ではない筈です。最後に立ち上がるのは自分の力ですが、その為に手を差伸べあい、肩を貸すことはそんなに重荷でしょうか?」
 その言葉に、ボールスは首を振った。
「重荷などと思った事はありません。私で良ければいくらでも背負うつもりですし、頼って貰えないのは‥‥寂しい、ですから‥‥」
「相手も、同じ事を思っているとは?」
「‥‥‥‥」
「共に泣き、苦労し、迷い、そして一緒に乗り越えた喜びを分かつ。‥‥ご存知だった筈です。忘れてしまったなら、思い出して下さい」
「そうだよ、もっと他人を頼ってほしいな。試練は分かち合う事で乗り越えるものなんだからさ」
 と、デメトリオス。
「俺も、穏やかのほほんなボールス卿の方が嬉しいな‥‥と、これは俺の勝手だけど」
 リースが言う。きっと皆もそう思っている筈だ。
「でも‥‥」
「いいかげんにしろッ!」
 ――すぱあぁーーーん!!
 ハリセン、3発目。蒼汰‥‥まだ怒ってる?
「いつまでもグチグチ言ってんじゃねえっ! 俺らが良いって言ってんだから、良いんだ!!」
 ――どかっ!!
 今度は背中を蹴飛ばした‥‥クリスの方に向かって。
「痛‥‥っ!」
 流石によろよろと前に2、3歩よろめき‥‥目が合う。
 ボールスは暫くそのまま相手の青い瞳を見つめ、そして‥‥意を決した様に。

「‥‥ただいま」

 謝罪や感謝の言葉よりも。何となく、まずはそう言いたい気分だった。