憎みきれない、お人好し

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:4人

サポート参加人数:1人

冒険期間:10月13日〜10月18日

リプレイ公開日:2008年10月21日

●オープニング

「ああ、ここの空気も懐かしいわね」
 冒険者ギルドのドアを開けた女性は、ふと足を止めて周囲を見渡した。
 相変わらず様々な依頼が雑多に貼り出されている掲示板と、その前に屯する冒険者達。隅には待ち合わせや依頼についての話し合いに利用出来るような、ちょっとしたスペースが設けてある。
 だが、今日は‥‥用があるのはそちらではない。
「こんにちは。仕事をお願いしたいのだけど、良いかしら?」
「はい、どの様な‥‥あれ?」
 顔を上げた受付係は、その声に聞き覚えがある事に気付いて首を傾げた。
「マリア‥‥ガーネット、さん?」
 その言葉に、相手の女性は少し意外そうに目を見開き‥‥コロコロと笑い出した。
「まさか、覚えていてくれたとは思わなかったわ。私が冒険者だったのは、ずいぶん昔の事なのに‥‥」
「美人さんの事はしっかり覚えていますよ」
 それなりに年齢を重ね、少しやつれて疲れた様子ではあったが‥‥美人には変わりない。
「ありがとう。でも残念‥‥って言った方が良いのかしら。私、もうすぐバートンになるのよ。マリア・バートン」
「それは‥‥おめでとう、ございます」
 ちょっぴり残念そうに祝辞を述べる受付係。
「でもね、肝心の彼が‥‥帰って来ないの」
「え‥‥?」
「この間の手紙に、戻ったら結婚しようって書かれてたんだけど‥‥」
 マリアの婚約者、ルイス・バートンも冒険者だった。
 その彼が、仕事から戻らないのだ。
「ルイス‥‥あの、いつもボンヤリしてるくせに妙な所で慌て者のウッカリさんで、おまけに貧乏くじばっかり引いて‥‥それでもニコニコしてるような、バカが付く程お人好しの男、ですか!?」
「随分な言われ様だけど‥‥でも、そこが良いのよ?」
 あ、そうですか。それは‥‥ごちそうさま。
「言われてみれば‥‥彼はまだ、冒険から戻っていませんね。確か、一緒に冒険に行った者の話では、帰る途中で迷子を見付けて、その子を送って行ったとか‥‥」
「ああ、やっぱり」
 マリアは苦笑混じりの溜息をついた。
「きっとそれだけじゃ済まなくて、家の手伝いとか、他にも困ってる人を見付けちゃったりして‥‥」
 だが、それだけにしては戻りが遅すぎる。
「確かに、もう何ヶ月も前に引き払った住所に宛てて手紙を送る様な人だけど、流石に帰る場所を忘れたり‥‥私の事を忘れちゃったりする事は、ないと思うの」
「それは、流石に‥‥」
 ないと思いたい。
「だからきっと、途中で何か困った事になってるんじゃないかと思って」
「なるほど、だから助けに行きたい‥‥それで仲間を募りに?」
 だが、受付係の言葉にマリアは首を振り、少し悲しげに目を伏せた。
「私も行きたい気持ちはあるわ。でも‥‥きっと足手まといになるから」
 言われてみれば、マリアの顔色は青く‥‥いや、白いと言って良いほどに血の気がなかった。行方の知れない婚約者を心配しての事、だけとは思えない。
「あの、失礼ですけど‥‥どこか具合が?」
「ええ、もうだいぶ良いんだけど‥‥体力が続かなくて」
 昔は重装備で戦場を駆け回る体力自慢の騎士だったのだが、と溜息をつく。
「でも、こんないつ倒れるかわからない病気持ちの女でも良いって言ってくれる人なんて、他にいないもの。帰って来て貰わなきゃ‥‥ね」
 マリアはそう言うと、幸せそうに微笑んだ。


 その頃‥‥いつもボンヤリしてるくせに妙な所で慌て者のウッカリさんで、おまけに貧乏くじばっかり引いて、それでもニコニコしてるような、バカが付く程お人好しの男は、少々困った事になっていた。
「この森で落としたのは間違いない筈なんだけど」
 この仕事が終わったらマリアに渡そうと、肌身離さず持っていた小さな木箱。その中には細い銀の指輪が収められていた。
 上着のポケットに入れてあったそれは、この森に入るまでは確かにそこにあった。
「奴等に追いかけられて転んだ、きっとあの時に‥‥」
 奴等とは、木の天辺に上ったルイスが落ちて来るのを今か今かと待ち構えている‥‥バグベア達。
 迷子の女の子を家まで送り届け、そこで一晩泊めて貰った後で屋根の雨漏りを修理し、手が足りずに困っていた隣家の畑の収穫を手伝い、その知り合いだというお爺さんに森でキノコを採って来るように頼まれ‥‥そして今、ここ。
 キノコの入った籠を死守しつつ、ルイスは木の枝にしがみついていた。
 彼も年季の入ったファイターとは言え、下で待ち構えている5頭のバグベアの中にはボス格らしき体格の良いものもいる。
 多勢に無勢‥‥無事に帰る為に、無理は出来ない。
 しかし、いつまでもこのままでいる訳にもいかなかった。
「‥‥どうしよう‥‥」
 とりあえず、腹が減った。腹は減ったが‥‥
「生キノコの丸かじりは遠慮したい、な」
 暫くこのままでいれば、あの爺さんが異変に気付いて誰か人を寄越してくれるだろうか。
 いや、しかし一般人ではこの状況は危険すぎる。
「‥‥下の奴等と根比べ、かな‥‥」
 ルイスは覚悟を決めた様に、枝の上で体勢を整えた。

●今回の参加者

 eb3225 ジークリンデ・ケリン(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb3503 ネフィリム・フィルス(35歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 eb5534 天堂 朔耶(23歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ec0212 テティニス・ネト・アメン(30歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)

●サポート参加者

ニセ・アンリィ(eb5758

●リプレイ本文

「あら、この前の大きなマリアさん」
 ギルドで意外な人物の姿を見付けたテティニス・ネト・アメン(ec0212)は、そう言ってマリアに笑いかけた。
「その後身体の具合はどう?」
「あら、ええと‥‥お姉さんの方、だったわよね」
 見覚えのある顔に、マリアは微笑みを返す。
「ええ、お陰様でだいぶ良いみたい。あなた達が小さなマリアちゃんと会わせてくれたお陰かもしれないわ」
 だが‥‥と、マリアは僅かに表情を曇らせ、ギルドを訪れた経緯をかいつまんで話した。
「え‥‥? あれから2ヶ月ちょっと経つのに、まだ婚約者さんが戻って来ないの? それは心配ね」
 改めて募集の内容を見たテティは、マリアの肩をぽんと叩き‥‥
「分かったわ、喜んで引き受けましょう」
「あ‥‥ありがとう!」
「でも残念。妹が居れば、太陽神に彼の居場所の神託を受けられたのだけれど‥‥ちょっと間に合わなかったわ」
「ううん、気持ちだけでも嬉しいわ。それに‥‥」
 どうやら仲間も無事に集まった様だ。
「私に許されるのでしたら、 少しだけこれから幸せを掴もうとしているお二人の為に力になってさし上げたいと思います」
 ジークリンデ・ケリン(eb3225)が軽く会釈をする。
「あ〜、まぁいいか〜。とにかくその彼氏というか婚約者のルイスっちを救出するさね」
「え? あ、いいえ、まだ‥‥婚約まで、は」
 ネフィリム・フィルス(eb3503)の言葉にマリアは血色の悪い頬を僅かに染める。
「その‥‥今度の冒険から帰ったら、とは‥‥」
「まあ、どっちでも良いさね」
「じゃあ、マリアさんも一緒に探索すたーと! なのです!」
 元気な天堂朔耶(eb5534)に腕をぐいぐいと引っ張られ、マリアは強引に店の外へ連れ出されてしまった。
「でも、私は‥‥この通り何も出来ませんし、足手まといに‥‥」
「にゅっふっふ♪ そんなの気にする必要なっしんぐー! なのです」
 と、朔耶は胸を張る。
「なぜなら! 朔耶ちゃんも『あうとおぶ戦力外』だからなのです!」
 そこは自慢する所じゃない‥‥と言うか、戦力外の更に外ってどんだけ?
「馬には乗れるのよね?」
 テティの問いに、マリアは走りさえしなければ、と頷く。
「それなら大丈夫。一緒に行きましょう。どうせ私達は徒歩だし、足取りを追うのに度々足を停めなくちゃいけないもの」
「でも‥‥」
「足手纏いなんて思わないで。家で待っていても落ち着かないでしょう?」
 その言葉に、マリアは躊躇いながらも頷いた。


「まずはルイスさんのお仲間に伺った、最後に立ち寄った町まで行ってみましょう」
 ジークリンデの提案に従い、一行は街道を歩き出した。
「迷子を送って行ったのはその近くの村の様ですから、そこで聞き込みをすれば何かしらわかるのではないかと存じます」
「ではでは、朔耶ちゃんの本領発揮なのです! ひとっ走り村まで聞き込みに行ってくるのですよー♪」
 言うが早いか、朔耶はペット達をマリアの護衛‥‥になるかどうかはわからないが、とにかく彼女の傍に残し、疾走の術を使って瞬く間に視界から消え去った。
「ルイスさんの着物でも持ってるなら、この子に臭いを嗅がせて追跡してみてようと思うんだがね‥‥何か持ってるかい?」
 ネフィリムの問いに、マリアは首を振る。唯一、この間小さなマリア経由で届けられた手紙をお守りの様に懐に忍ばせてはいたが‥‥
「それじゃもう、辿れる程の匂いは残ってないかねえ。ところで‥‥彼氏はどんな感じの人だい?」
「え、あの‥‥慌て者ですが、とても優しくて‥‥」
「ああ、いや。惚気を聞こうってんじゃないんだ。捜索に必要だからね、背格好とか顔の特徴なんかを聞きたいのさね」
「あ‥‥っ」
 マリアの血色の悪い頬が、今度は真っ赤に染まった。
「あ、あの、私より少し背が高くて‥‥体格はがっしりしています。歳は31、顔の特徴は‥‥」
 以下、思いつくままに並べて行く。
「なるほどね。‥‥で、馴れ初めは?」
「‥‥はい?」
「いや、今度は惚気て良いからさ」
 そんな話をしながら頻繁に休みを取りつつ、一行は街道を行く。
「‥‥あら、また休むの? 私なら大丈夫だから‥‥」
「ううん、今度は水汲み。ほら、丁度そこに川があるでしょ? そうそう、馬にも水をあげなきゃ」
 テティはマリアに余計な気を使わせない様にと気を配っていた。
 食事の際にも栄養をつけ易いようにと保存食に手を加えるなど、マリアの体調を考えて行動する。

 やがて‥‥
「わっかりましたー! なのですっ♪」
 先行していた朔耶が戻って来た。
「ルイスさんはあっちこっち寄り道して、とーほんせいそー紆余曲折の末、今! 森でキノコ採りなのです!」
 朔耶から詳しい話を聞いたマリアは、やっぱりそうかと苦笑いを浮かべつつ、不安げに懐の手紙を握り締めた。
「モンスターの出る森で茸採り‥‥急いだ方が良さそうね」
 テティの言葉に、一行は少し――マリアの負担にならない程度に歩を早める。
 やがて森の入口に辿り着くと、ジークリンデはリトルフライで上空に舞い上がり、テレスコープとインフラビジョンを併用して熱源を探った。
「森の奥に特徴的な熱源があります。大きなものが幾つか集まり‥‥小さなものが、ひとつ。木の上にいるのでしょうか」
「了解ですー!」
 報告を聞いて、朔耶が飛び出して行く。木から木へ、疾走の術を使いサルの様に素早く、身軽に。
 やがて‥‥
「見付けたのですー!」
 果たしてそれがルイス本人かどうか、マリアが特徴を話した時にはそこに居なかった朔耶にはわからない。が‥‥森の奥でバグベアに追われ、木にしがみついている男など彼の他に居る筈もなかった。
「HEYボーイ、こんな高い所で休憩かい? それじゃ、僕もご一緒させてもらおうかな」
 木の枝にしがみつきウトウトしかけていたルイスの耳にイケメンボイスが、そして目には犬の仮面が飛び込んで来た。
 犬仮面‥‥いや、仮面ニンジャーは己が目と耳を疑いつつも呆然と佇むルイスに保存食の包みを手渡す。
「ルイスさん‥‥だよね? マリアさんが心配してるし、僕の仲間も近くに来てるから、早々にここから立ち去ろうか」
「‥‥マリアが!? マリアが‥‥来てるのか!?」
 その名前を聞いた途端、相手の怪しさは気にならなくなった様だ。
「でも、今ここを離れる訳には‥‥!」
「え‥‥指輪がない? じゃ、まずは邪魔者排除♪ 」
 ルイスの話を聞いて、朔耶は眼下に集まるバグベア達を覗き見る。
「いるいる、間抜けな顔した森の熊さんが。それじゃ、僕のお仕事をやらせてもらおうか」
 ――したっ!
 華麗に着地を決めた仮面ニンジャーは、何故か腰をクネらせながらバグベア達に言った。
「間抜けな熊に餌は要らない‥‥お前ら、僕に釣られてみる?」
 そして挑発する様に手招きをしつつ、ゆっくりと後ずさる。
 ――かかった。仮面ニンジャーは自分を追いかけ始めたバグベア達を巧みに仲間達の許へと誘導し‥‥
「後は任せたのですー!」
「皆、目を閉じて!」
 ――ピカッ!
 待ち構えていたテティの全身から眩い光が迸った。
 その光に目が眩み立ちすくんだバグベア達に、ジークリンデが連れていたフロストウルフのアインラッド吹雪を見舞う。
 続けてかけられたイリュージョンの効果で右往左往している中に、テティが斬り込んで行った。
 フェイントを交えつつ鋭く斬り付け、群れの間を駆け抜ける。
「さて、さくっと片付けちまおうかね」
 ネフィリムがオーガスレイヤーを思い切り振り回し、吹雪とテティの攻撃で弱ったバグベアに止めを刺していった。
「少しばかり大きいのがいる様だが‥‥同じだな」
 まるで薪割りでもするかの様に、一刀両断。
 木から下りたルイスが追い付いて来る頃には、全てが片付いていた。
「‥‥ルイス!」
 馬と共に後方でネフィリムのフロストウルフに守られていたマリアが声を上げる。
「マリア‥‥!」
 いつもに増して青白いマリアの顔を見るや、ルイスは助けて貰った礼もそこそこに駆け寄り‥‥
「どうして、こんな所まで‥‥っ!?」
「さあ、どうしてかしら。ね?」
「うぐ」
 これは‥‥効く。自分のせいだとわかっているだけに、下手に責められるよりも、余程。
「いや、あの‥‥!」
「聞いたわ。また、色々巻き込まれてたって」
「ごめん、ほんとに‥‥っ!」
 必死の面持ちで頭を下げるルイスに、マリアはふと表情を和らげた。
「どうして謝るの? 私は‥‥あなたのそんな所が好きなのに」
「‥‥‥‥!」
 このまま二人の世界に突入しそうな勢いだが‥‥その時、間に割り込む勇者が一人。
「お取り込み中申し訳ないのですがー、何か忘れていませんかー? なのですっ」
 朔耶に言われ、ルイスは‥‥
「そうだ、指‥‥っ! い、いや、その‥‥」
 何事かと首を傾げるマリアに背を向け、冒険者達に小声で告げる。
「‥‥そんな大切な物を落としたの?  急いで探すわよ!」
 と、テティ。
 中身は秘密にしておきたいらしい彼の気持ちを察し、冒険者達は「小箱」を探す。
 ジークリンデは小箱の特徴を詳しく聞き、先程作っておいた森の鳥瞰図にバーニングマップを使った。
「‥‥最後は、視認での捜索になるとは存じますけれど‥‥大体の位置は確認出来るのではないかと」
「落とした場所に心当たりは? どのルートを通ってきたか、思い出せるかい?」
 ネフィリムが尋ね、その記憶と森に残された足跡を辿り、フロストウルフに匂いを探らせる。
 ついでに「マリアっちの何処が可愛いのさね?」なんて事も聞いてみたりして。
「え? あの、その‥‥ぜ、全部です!」
 あ、そ。
 やがて、森の中を半刻も歩いた頃。
「あ‥‥あった!!」
 探し物は見付かった。箱は少々汚れたが、中身は無事だ。
「あぁ〜まぁなんだ、幸せになりなよ」
 安堵した様子でその場にへなへなと座り込んだルイスの背を、ネフィリムは思い切りひっぱたいた。
 これ以上首を突っ込むのは野暮というものだ‥‥ね。