【村から町へ・外伝】温泉の村へようこそ!

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月23日〜10月28日

リプレイ公開日:2008年11月06日

●オープニング

 秋の気配が色濃く漂い始めた、温泉の村フォンテ。
 その一角に佇む小さな家の窓から、ひとりの少女が黄色く色付いた木々の葉が風に揺れる様子を眺めていた。
 窓から吹き込んでくる風は、少し冷たい。
 だが、そこから見える世界に明るい光が溢れている間は、開け放したままにしておきたい‥‥もう二度と、暗くて狭い場所には戻りたくないから。

「ねえ、今日は天気も良いし‥‥ちょっとだけ、外に出てみない?」
 窓の向こうに少女の姿を見付け、ブランが声をかけた。
「閉じこもってばっかりだと色々良くないよ? 体力もなくなっちゃうし、お日様に当たんないと骨とか弱くなるんだって」
 それは父親から聞いた話なのだが‥‥相手の少女が父と離れ、この村に一人で暮らしている事をブランは知っていた。
「‥‥嫌なら無理にとは言わないけど‥‥仲間に入りたくなったら、いつでも声かけてね!」
 ブランはそう言い残し、友人達の輪の中へ駆けて行く。
 その後ろ姿を、少女‥‥アデレードは少し眩しそうに、いつまでも見送っていた。


「うん、その子‥‥ね、今は私の家にいるんだけど」
 数日後、村に立ち寄ったウォルに、ブランが言った。
「なんか、外に出るのが怖いみたいなんだ。でも、前にずっと狭くて暗いとこに閉じ込められてたらしくて、暗いとこも嫌だって言うんだけど」
 共に同じハーフエルフで、年齢も同じ。そして女の子同士。ブランとしては仲良くなりたいのだが‥‥
「私、アウトドア派だし。家の中でじっとしてらんないのよねー」
 あはは、と頭を掻く。
「アデル、か。オレも報告書は一通り読んだけど‥‥まだ、笑わないの?」
「うん。ま、べつに無理して笑わせる必要もないと思うけど? 笑うか笑わないかより、あの子が今の生活を楽しんでくれてるかどうかの方が大事でしょ?」
「そりゃ、そうだけど‥‥楽しんでると、思う?」
 ブランはウォルの問いに首を捻る。暫く後に出た答えは‥‥
「わかんない」
 嫌がる素振りは見せないし、気分的にも落ち着いてはいる様だ。
「やっぱりまだ慣れないんだろうし‥‥それに、寂しいんだよね、きっと」
「んー‥‥じゃあ、歓迎会でも開いてみる?」
「歓迎会‥‥うん、誘ってみた事はあるんだけど」
 ウォルの提案に、ブランは目を伏せた。
「もし何かあって怪我とかさせたらいけないからって、断られちゃったんだ。楽しいパーティにするからって言ったのが拙かったのかな」
 アデルの狂化条件は、笑う事。
 微笑む程度なら問題はないが、心の底からの笑い‥‥感情を爆発させる様な大笑いをすると、タガが外れた様に破壊衝動を抑えられなくなるらしい。
「だったら、オレ達が誘ってみようか? 冒険者なら女の子の攻撃くらいどうって事ないし、まず最初に大丈夫だって安心して貰ってさ。村の皆にはその後にでも、少しずつ慣れてって貰えば良いじゃん?」
「そっか‥‥」
 ブランは感心した様にウォルを見‥‥そして嬉しそうに頷いた。
「うん、じゃあ楽しみに待ってる。‥‥私も出て良いでしょ?」
「構わないけど‥‥パーティったって、いきなりどんちゃん騒ぎとか、そういうのだと主役が置いてきぼりになりそうだから‥‥軽いお茶会程度だけど、良いか?」
「あ、そうだね。良いよ、それで」
「じゃあ、お前は村の子供代表ってトコだな。この村の事とか‥‥オレ達がやろうとしてる事とか、そういうの説明しながら、かな」
 とりあえずは、この村が安心して暮らせる場所である事をわかって貰えれば。
「じゃ、ちょっと依頼出して来るな」
 ウォルは自分を見上げる少女の頭を軽く叩いた。

●今回の参加者

 eb2874 アレナサーラ・クレオポリス(27歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 eb3450 デメトリオス・パライオロゴス(33歳・♂・ウィザード・パラ・ビザンチン帝国)
 eb8317 サクラ・フリューゲル(27歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 eb9531 星宮 綾葉(27歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 ec4984 シャロン・シェフィールド(26歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ec5171 ウェーダ・ルビレット(24歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

「アデル、お客さんだよ!」
 ノックの音と共に、ドアの外からブランの声が聞こえる。
「お客‥‥さん?」
「うん、アデルとお話したいんだって。入っても良いよね?」
 カチャリ。返事も聞かずに部屋のドアが開けられた。
「あ‥‥」
 突然押しかけた訪問者達に、アデルは怯えた様にぴくりと体を震わせ‥‥だが、その中に見知った顔を見付けると僅かに顔を綻ばせた。
「‥‥サクラ‥‥」
「アデレードさん、お久しぶりですね」
 サクラ・フリューゲル(eb8317)はそう言ってにっこり微笑む。彼女はアデルがこの村に来るきっかけをくれた人だ。
「歓迎会が開かれる事は聞いていますよね? ‥‥参加いたしませんか?」
 だが、アデルは答えない。
「大丈夫ですわよ、私達がついています。ですから、ね?」
「でも‥‥」
 サクラと、時々村に顔を見せるウォル以外は皆、見知らぬ人。彼等は信頼出来るのだろうか?
「その人達‥‥サクラの、友達?」
「ええ、そうですわ。‥‥あ、自己紹介がまだでしたわね」
 その言葉を受け、ウェーダ・ルビレット(ec5171)が前に進み出た。
「初めまして。ウェーダと言います」
 アデルと同じ、ハーフエルフ。それだけでも、他の者よりは多少なりとも打ち解けやすいだろうと考えての一番手だ。
「この前この村へ来た時に気に入ってしまいましてね。ハーフエルフと人間が仲良くやってますし、穏やかですし、居心地が良かったですから今度はゆっくりしたかったんです」
 それに‥‥と、ウェーダは付け加える。
「アデルさんにも会ってみたかったですし」
「私‥‥に?」
「そうそう、私も楽しみにしていましたの」
 そう言いながら、星宮綾葉(eb9531)がウォルに意味ありげな視線を投げる。
「村にとっても可愛い子が来たってウォルくんが嬉しそうに自慢するものだから‥‥ね、ウォルくん?」
「言ってねーよ」
 ‥‥自分もハリセンが欲しいと思う、今日このごろ。
「ああ、こいつこんなノリだけどさ、村の事とかちゃんとわかってるから」
 綾葉はサクラと並んでこの村の発展の為に力を貸してくれた仲間の一人だ。それにもう一人、デメトリオス・パライオロゴス(eb3450)も。
「よろしくね、アデルさん」
 デメトリオスが差し出した手は握り返しては貰えなかったが‥‥子供の様なその外見のせいか、さほど警戒はされていない様だ。
「試練は神様からのプレゼントだけど、時には試練を忘れて休むことも必要だと思うんだ。だから、歓迎会を楽しもうよ。勿論、ただお客様になるんじゃなくて、準備も手伝って貰うけどね?」
 デメトリオスは今回も得意の植物知識を活かした手伝いをするつもりだった。
「おいらは近くの森で野草を採って来ようと思うんだ。アデルさんも一緒にどう?」
「あ‥‥それ、良いですね。私も一緒に行って良いですか?」
 デメトリオスとウェーダの誘いに、アデルは「どうしよう?」と言う風にサクラを見た。
 その視線に、サクラは微笑みながら頷き返す。
「‥‥じゃあ‥‥行く」
 アデルが蚊の鳴くような声でそう答えた瞬間、部屋の中がぱっと明るくなった様に感じられた。
「では、私はその間に狩りでもして来ましょうか」
 シャロン・シェフィールド(ec4984)が言った。鹿の様な大型の動物は厳しいかもしれないが、ウサギなどの小動物程度なら罠を仕掛けておくだけでも収穫が望めそうだ。
「上手く材料が手に入ったら、お料理はお任せ下さいね」
 サクラの声に背を押され、4人は近くの森へと入って行った。


「そんな事が‥‥」
 アデル達が出掛けた後、サクラからこれまでの経緯を聞いた綾葉は深い溜息と共にそう漏らした。
「ハーフエルフというのはやはり哀しい人生しか送れないのでしょうか」
「そんな訳ないだろ!」
 その言葉に猛然と反発したのはウォルだ。
「お前がそんな事言っててどうすんだよ! お前のコレもそうなんだろ?」
 と、小指を立てる。
「お前、そいつが哀しい人生送ってるとか本気で思ってんの?」
「そんな事ある筈ないでしょう? こんなに美人で気だての良い恋人がいるんですのよ?」
 料理は出来ないけど。
「それはともかく‥‥折角幸せを掴もうとしているアデルちゃんの為にも、私達は無理にでも笑わなければ」
「べつに、無理して笑う必要もないと思うけど? あいつも、オレ達も」
「ウォルくん‥‥いちいち突っかかるわね。反抗期かしら?」
 ぐりぐりぐり。
「撫でんなー!」
 多少背が伸びても、撫でられ属性に変化はないらしい。
「狂化する条件が笑うこと。 難しいですね。 なれるようにしないといけませんね。 村が村ですのでなれるための手伝いかな」
「で、具体的にはどうすんの?」
 ウォルの問いに、アレナサーラ・クレオポリス(eb2874)は何も答えられなかった。


 その頃、森の中では‥‥
「ほら、こんなに綺麗なキノコがありましたよ。サラダのトッピングに良さそうですよね」
 そう言ってウェーダが見せたキノコは、毒々しいまでに色鮮やかだった。
「ああ、ダメだよそれ、毒キノコだから!」
 デメトリオスが慌てて首を振る。
「え‥‥そうなんですか? こんなに綺麗なのに」
「綺麗なキノコは大抵毒があると思った方が良いよ。そうじゃなくても、食べられるものと区別が難しいのもあるから‥‥」
「採集と言っても色々難しいんですね‥‥アデルさんは、こういうの得意なんですか?」
 その問いに、アデルは黙って首を振る。彼女が手にした籠には綺麗な色の落ち葉や変わった形の木の実など、とても食用とは思えないものが満載されていた。
「‥‥これは‥‥だめ?」
「あ、ええと‥‥」
 食材としては問題外だが。
「飾りに使うには良いかもね。そうだ、木の実なんかは聖夜祭のリースを作るのにも使えそうだよね」
「‥‥聖夜祭‥‥」
「うん。だから好きなの拾って良いよ? ウェーダさんも、必要ならおいらが教えるし、後できちんとチェックもするから」
「ありがとうございます。‥‥私一人だったら、使えないものばかり集めていそうですよね。デメトリオスさんがいてくれて、助かります」
「知識自体の価値は、使われるからこそだもん。遠慮しないで、どんどん利用してほしいな」
 そして別の場所ではシャロンがウサギ捕獲用の罠を仕掛けて回っていた。
「確か、うさぎ等は排泄を一箇所に行うとか‥‥」
 糞が固まっている場所があれば、またそこを訪れるかもしれない。その近くに罠を仕掛けておけば‥‥
「複数設置していれば、どれか1つくらいはかかってくれるでしょう」
 だが、見張っていようにも気配を隠せる自信はない。
「暫く離れておいて、時間を置いて見に行きましょうか‥‥」


「ウォル、一緒に頑張りましょうね♪」
 やがて山の様な山菜やキノコ、二羽のウサギが材料に供され、サクラは張り切った様子でウォルに声を掛ける。
「んー、まあ適当になー」
 何だか気のない返事だが‥‥
「この材料だとウサギ肉と香草のシチューあたりかな、オレが作れそうなの」
 一応やる気はある様だ。
「では、メインディッシュはお任せしますわね」
 後は町で仕入れた食材なども使って適当に‥‥アデルの好物なども取り入れながら。
「場所はどうしましょうか?」
 差し入れの酒とお菓子を手にしたウェーダが尋ねる。
「今日は天気も良いし、外にテーブル出せないかな?」
 摘んで来た香草で気分を落ち着かせる効果のあるお茶を淹れながらデメトリオスが答えた。
「村の人達も気軽に飛び入りで参加出来るし‥‥アデルさん、良いよね?」
 その問いに、アデルは暫しサクラや他の面々の顔を見渡し‥‥小さく頷いた。
「では、アデルさんにもセッティングを手伝って頂きましょうか」
「じゃあ、私も手伝いますね」
 綾葉はやる事がなくて暇を持て余していた様だ。そして手を動かしながら、アデルを捕まえてある事ない事を吹き込もうと‥‥
「私は人間ですから、この村やハーフエルフの事には何の関係もないと思われるかもしれませんね。でも、私にはハーフエルフの恋人がいるんです」
 だから、他人事ではない‥‥と、そこまでは良い話だったのに。
「彼ったら最近武闘大会とかそんなのばっかり。そのうち浮気しちゃいますよ? 今回だってウォルくんに情熱的なプロポーズされちゃいましたの。『お前は何もしなくていい。オレが食わしてやる』ですって!! きゃーきゃー、どうしましょ!!?」
「言ってねえーーー!!!」
 そこへシチューの大鍋を抱えたウォルが現れた。
「お前、こいつの言うコト信じるなよ!? いや、コレがいるってのはホントらしいけどさ。信じらんねーよな、こんなんでも貰い手がいるなんてさ」
「そうですわよねー‥‥って、何言わせるの!」
 そんなやりとりを見て、デメトリオスが心配そうに二人の袖を引き小声で囁いた。
「‥‥ねえ、あんまり笑わせない方が良いんじゃないかな‥‥」
 自然に笑みがこぼれる程度ならば、狂化を防げるとは思うが。
「笑わせようとしてくれているのに、笑っちゃったら大惨事なんて可哀想過ぎるよ」
「大丈夫ですよ。それが危険だという事はおそらく彼女が最も良くわかっているでしょうし‥‥笑わせないようにと警戒すれば、彼女の傷を深める結果に繋がりかねませんし」
「‥‥そうかな‥‥」
 だが当の本人は先程の会話にも眉ひとつ動かさず、殆ど表情を変えなかった。
「面白くなかったのかな?」
 ウォルが首を傾げる。
「そうですわね‥‥でも、余り笑った事がないなら、自然に笑える様になるにもある程度の訓練が必要でしょうし」
 料理をテーブルに並べながら、サクラが言った。
「みんなと溶け込むのにも時間がかかるでしょうからね」
 綾葉が頷く。
「無理しなくていいのよ? 急いだりせずゆっくりと村になじめば良いのです」
「そうですね。ここは良い所ですけど、慣れるまではどんな場所でも大変ですし、焦らず気楽にやってくのが一番だと思います」
 ウェーダが言った。
「私はまだこの村に来たのは二度目ですが、ここが私の故郷だったら良いのにと、そう思いますよ」
 彼の故郷は差別が酷かったらしい。
「この村を見たとき正直羨ましかったんですよね。こういう故郷だったら平和に暮らせたんだろうなって‥‥」
「そうですね。周辺に住む方々との関係も良好な様ですし」
 シャロンが先日の事件‥‥温泉が危機に瀕した時の状況をかいつまんでアデルに話して聞かせた。
「あの時助けに入ってくださった近隣の方々の様に、周囲には理解者も多い様ですし。皆々様、並々ならぬ苦労を乗り越えての事でしょうけれど、この村の方が勝ち取った『絆』の1つとして。だから、アデレードさんもきっと打ち解けていけますよ」
「‥‥アデルで‥‥いい」
「では‥‥アデルさん、ゆっくりでいいんです。ゆっくりでいいですから色々見ていきませんか? そうすれば貴女がしたい事もきっと見えてきますわ」
 サクラの言葉に、アデルは小さく頷く。
「良かった‥‥。では、折角の楽しいお茶会ですし、難しいお話はこれでお終いにしましょうか」
「うん、そうだね‥‥あ、おいらの故郷の話なんかどう? 行ったことのない外国の話って、興味ないかな?」
「外‥‥国‥‥」
 余所の国どころか自分の家からさえ殆ど出た事がなかったアデルにとっては想像もつかない世界だ。デメトリオスの熱の篭もった話にも余りピンと来ない様子ではあったが。
 後は、食べたり飲んだり、歌ったり。途中で村人達の飛び入りがあったり‥‥だが、アデルはそれを嫌がる様子は見せなかった。
 こうして少しずつでも慣れていく事が出来れば良い。
「この村がアデルさんにとって安らぎの地になる事を‥‥」
 サクラの祈りは、いつかきっと届くことだろう。