【黙示録】――はじまり――【七本樫の夢】

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:12月01日〜12月06日

リプレイ公開日:2008年12月18日

●オープニング

●デビル北上
 ――これは、或る森でモンスター退治の依頼を受けた冒険者の軌跡である。
「これで最後だ! そっちは片付いたか?」
 最後の1体を切り伏せたファイターは、仲間に状況を促した。
「こっちも完了した。所詮は雑魚、この程度の相手に‥‥ん? どうした?」
 剣を収めながら答えたナイトは、怪訝な色を浮かべる。瞳に映るのは、指輪を見つめ戸惑う若いクレリックだ。
「蝶が羽ばたいていますッ」
「蝶って、デビルがいるのか!? 魔法は!?」
 ナイトは静かに首を横に振る。経験も浅いパーティーはデビル対策を失念していたらしい。
 尤も、今回の依頼はモンスター退治。襲って来なければ問題はない。
「近づいていますッ。どんどん激しくなって‥‥ッ!?」
 刹那、冒険者達は何かの夥しい気配が通り過ぎたように感じた。
 沈黙と困惑に彩られる中、クレリックが安堵の溜息を洩らす。
「行ってしまったようです‥‥」
「行った‥‥って軽く無視かよ」
 彼等は気配が去った北の空を見つめた――――。

●デビル防衛線
 ――イギリス各地でデビルの出現報告が届くようになる。
 村や町で騒動を起こす事件もあるが、共通する点が一つ確認された。
 一部のデビルが北海に向けて収束しているらしい。
 裏付けるようにキャメロットより北で出現情報が多くなり、メルドン近隣に集中しつつあった。
「王よ。黙示録の時が近づいております」
 マーリンは静かに告げる。
「地獄のデビル共が動き始めています。静かに。だが確実にその爪を伸ばして参りましょう」
「北海の騒動が要因か元凶か定かでないが、デビルに集結される事は勢力拡大を意味する。北海のデビルと思われる男の早期探索と、北海付近に進軍するデビルの集結阻止が重要となるか」
 アーサー王は王宮騎士を通じてギルドに依頼を告げた。

「王宮からの依頼は北海に向かうデビルの早期発見と退治だ。我々は北で防衛線を張り、デビルと対峙する事になるだろう。既に向かったデビルを追っても仕方ない。今は僅かでも勢力を拡大させない為にも、冒険者勇士の協力を期待する」
 幸いというべきか、円卓の騎士により、北海のデビルと思われる男の探索依頼は出されている。王宮騎士団は北海地域に展開しており、日々出現し続けるデビルと奮戦中との事だ。
 つまり、冒険者達は最前線に陣を置き、デビルを探索、退治する事が目的となる。
「ここでデビルの動きを伝えよう」
 デビルの動向には大きく二つに分類された。
 北へ向かうデビルと、近隣の村や町に留まり、騒動を起こすデビルである。
 推測に過ぎないが、デビルにも嗜好というものがあるらしい。
 しかし、北海に向かわない保障はないのだ。


 ――そして、ここにも‥‥、



『‥‥駄目だ』
 その人は言った。
『お前を、こんな危険な任務に当たらせる訳にはいかない』
『でも、私は部下です!』
 私は叫ぶ。
 あなたの為に死ぬ覚悟は出来ていると。
『やはり‥‥お前は除隊させておくべきだった。お前を死地に向かわせる事など、出来る筈がない』
 部下が、剣を捧げた者に命を預けるのは当然の事。
 主君に代わって死地に赴くのも、また部下の務め。
 ‥‥私は、喜んでその任に就くつもりだった。
 だが‥‥
『愛する者に、死んで来いと命令出来る人間がいると思うか?』
 ならば、自分が行く。
 そう言って、あの人は出て行った。

 そして‥‥
 私は斬った。
 この手で‥‥吸血鬼の下僕となった、彼を。

 あの時、裏で糸を引いていたのは、あの男。
 彼の、弟――



「ロシュフォード・デルフィネス‥‥!」
 キャメロットから北に一日ほど歩いた所にある、とある町の宿。
 そこに、暫く前から一人の女性が逗留していた。
 彼女の名は、リュディケイア・オルグレン。
 恋人の仇である吸血鬼を倒した彼女‥‥リューは、次の標的、真の仇であるロシュフォードを討つべく、その機会を窺っていた‥‥筈だった。
 だが、相手は余りにガードが堅く、自分ひとりの手に負えるものではなかった。
 かといって、無関係の者‥‥テリーや冒険者達を巻き込む訳にはいかない。
 吸血鬼は誰にとっても危険で、倒すべきものだったが‥‥ロシュフォードはセブンオークスの現領主。
 黒い噂は色々とあるが、具体的な証拠も掴めず、そう易々と尻尾も出さない。
 つまり、彼に手を出せば、現時点ではこちらが犯罪者という訳だ。
 それではギルドに依頼を出せる筈もなかった。
 それに‥‥
「奴が直接手を下した訳ではない‥‥奴はただ、見ていただけだ」
 殺したのは、自分だ。
「‥‥エスティード‥‥様」
 リューは力なく呟いた。
 吸血鬼を倒した事で自分の役目は終わったと、今ここで自ら命を絶ったとしても‥‥彼の元へは行けないだろう。
 彼の命を奪った者として地獄に堕ちるのが相応しいと、彼女は考えていた。
 そして‥‥父親の死から半年以上が過ぎた後に生まれ、同じ名を継いだ息子にも、会わせる顔がない、と。
「‥‥これから、どうすれば良いのか‥‥」
 リューは独り宿屋の固いベッドに座り、ぼんやりと壁の染みを見つめていた‥‥。



 それから数日後。
「リューの様子がおかしいんだ」
 キャメロットの冒険者ギルドを訪ねた、リューのかつての相棒‥‥いや、本人は今でも相棒のつもりだが、レンジャーのテリー・ブライトが言った。
「修業の合間に、久しぶりに尋ねてみたんだけど‥‥」
 リューが、赤ん坊を抱いていた。
「どうしたんだって聞いたら‥‥自分の子だって。そんな筈ないのにさ」
 他にも、部屋には数人の男の子がいた。
 いずれも薄い金色の髪に、碧の目をした子供‥‥
「どこからか、浚って来たんだ」
 テリーは信じられないという表情で首を振った。
 子供達が外に出ようとすると、まるで鬼の様な形相でその頬を叩く。
「リューは‥‥厳しいけど、子供相手にそんな事をする人じゃない。きっと、何かあったんだ。何かが化けてるとか‥‥取り憑かれてるとか」
 その言葉に、受付係は首を傾げ‥‥
「好んで女性に取り憑くというのであれば、夜叉というデビルが考えられますが‥‥」
 だが、それはイギリスで見られる事は滅多にない。
「でも‥‥近頃は物騒な話も聞きますからね。地獄の門が開いたとかなんとか」
「だから、そんなレア物のデビルが現れても不思議はない、と? それで、どんな奴なんだ、そいつは?」
 テリーの問いに、受付係は答えた。
 女性の嫉妬心や復讐心の様な、暗い感情につけ込んで憑依し、悪行を行わせるデビルだ‥‥と。
「復讐心‥‥は、心当たりがあるな。でも、何で子供を集めたりすんだ‥‥?」
 とにかく、自分ひとりで手に負える相手ではなさそうだ。
 そう判断したテリーは、冒険者達の手を借りる事に決めた。
 依頼の内容は‥‥リューに何かが取り憑いているならそれを追い出し、可能なら取り憑かれた原因を探る事。
「ああ‥‥出来れば、子供達を親元に帰すのにも、協力して欲しいかな」

●今回の参加者

 ea0071 シエラ・クライン(28歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea2804 アルヴィス・スヴィバル(21歳・♂・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 ea3153 ウィンディオ・プレイン(32歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb3630 メアリー・ペドリング(23歳・♀・ウィザード・シフール・イギリス王国)
 eb4803 シェリル・オレアリス(53歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 ec3682 アクア・ミストレイ(39歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

七神 蒼汰(ea7244

●リプレイ本文

「悪魔に憑かれて子供を拐かした、ね‥‥」
 標的が立て籠もる宿屋の二階を見上げ、アルヴィス・スヴィバル(ea2804)が呟いた。
「よくわからないけど、聞く限り彼女がやっているのは代償行為みたいだね。金髪碧眼の子供がいるのか親しい人がいるのかな?」
「俺も本人から聞いた訳じゃないけど‥‥そういう事、らしいな」
 訊かれて、テリーが返す。
 今回のメンバー、ウィンディオ・プレイン(ea3153)に剣を教わっている弟子の一人が、そうらしい。
 今は預けられた孤児院を切り盛りする母親代わりの女性の姓を借り、エスト・マイヤーと名乗っているが‥‥本当の名は、エスティード・デルフィネス。
 子供の顔を見ずに亡くなった父親の名を譲り受けた、淡い金髪に碧の目をした少年‥‥
「なるほど、だから似た様な子供を集めている訳か。会いたいなら素直に会いに行けば良いのにね」
「まあ、それが出来る性分じゃないからな‥‥」

 一方、他の仲間達は宿の主人に渡りを付けていた。
「あなたも既に、彼女の様子がおかしいと感じていることでしょう。退治が必要である事はわかって頂けると思いますが」
 アクア・ミストレイ(ec3682)が言った。
「その客人は、あくまでデビルにのっとられているだけであり、憑依が解ければ危険もなくなる。協力しては貰えぬか?」
「まあ、ちょっと事が荒くなるかも知れないけど‥‥その辺りは目を瞑って頂くしかないわね」
 メアリー・ペドリング(eb3630)とシェリル・オレアリス(eb4803)の言葉に、主人は思わず顔を引きつらせる。
 デビルを退治してくれるのは良いが、その為に一体どれだけの犠牲を払う事になるのか‥‥
「勿論、部外者を巻き込まず、可能な限り穏便に済ませるつもりではいます」
 青ざめた主人を安心させる様に、シエラ・クライン(ea0071)が言った。
「それでも万が一、という事もないとは言い切れませんが‥‥その為に、迷惑料として幾らか収めさせて頂きますので」
 仲間達から集めた、相場よりかなり多めの金額を握らせる。
「我々は奇襲攻撃をしたいわけではありません、周りの安全を確保することが第一、この現状を改善したいだけです」
 アクアの言葉に、主は渋々ながらも頷いた。
「それで‥‥どうすれば? 宿には他の客もいるし、下の酒場にも、昼間っからクダを巻いてる連中が‥‥」
「すまないが、避難誘導をお願い出来ないだろうか」
 ウィンディオが答える。
「そう遠くに離れる必要もないし、時間も取らせないつもりだが」

「‥‥話は付いた様だね」
 不安そうな表情の客達が宿から出て来る様子を見て、アルヴィスが言った。
「じゃあ、僕達も行こうか」
 向かうのは、二階の中央にある部屋。
「‥‥しかし、流石に反応が強いな」
 アクアの指に填めた石の中の蝶は、忙しく羽ばたいている。
 それだけでは相手の数はわからないが、とりあえず大物が近くにいる事だけは確かだ。
 各種センサーを使い中の人数を確認、対デビル結界の発動、そして味方に対する魔法の付与‥‥出来る限りの手段を駆使し、突入の準備を整えた彼等は‥‥
 ――コンコン。
 真っ当に、部屋のドアを叩いた。
「リュー、いるか? 珍しいお客さんだぞ」
 テリーが何食わぬ顔で部屋の中に足を踏み入れる。
 その後ろにはシエラが続いていた。
「こんにちは、家の子達と遠出をしていた時にテリーさんとばったり会いまして、たまにはこういうのも良いかな、と足を伸ばしてみたのですよ」
 と、シエラはペットの散歩を装い、気楽な様子で話しかける。
「色々と立て込んでいそうですけど‥‥」
 虚ろな目でこちらを見つめるリューと、その腕に抱かれた赤ん坊。
 周囲には4人の子供達‥‥年齢はまちまちだが、いずれも金髪に碧の目をしていた。
「愚痴や悩みなら聞きますし、ちょっとした弱気や疲れもごにょごにょ‥‥はい、吹き飛びません?」
 シエラは気楽な様子で相手の肩を叩くふりをして、フレイムエリベイションを唱えてみる‥‥が、特に何の効果も見受けられなかった。
「‥‥あ、こんな所で立ち話というのも何ですね。テリーさん、何か飲み物でも‥‥」
 普通、それは出迎えた側が口にする台詞だと思うのだが。
「おっと、悪いな、気が利かなくて」
 しかし、テリーは気を悪くした風もなく頷くと部屋の外へ出て行った。
 ルームサービスの為、ではない。

「リューは部屋の東側の隅に、赤ん坊を抱えて座ってる。両脇に二人、その後ろにも二人‥‥」
「ふむ、では隣の部屋から穴を開ければ、後ろの二人は気取られずに救出出来るであろうか?」
 部屋の見取り図を広げ、メアリーが侵入コースを指差す。
「じゃあ、その役目は僕が」
 アルヴィスが言った。
「でも、他の二人と‥‥それに、赤ん坊は抱きかかえられてるんだよね。人質にされる危険もあるかな」
 もしそうなら、アイスコフィンでその子供を凍らせて保護するという手もあるが。
「怖がられそうで気が進まないけどね」
「私はドアの方から入って、リューさんの注意を引き付けておこう。もし何かあれば、力ずくで抑え付けるつもりだ」
 アクアが言った。
 傷付ける事よりも、救出時間を稼ぎ拘束手段を待つ為‥‥だが、リューもかなりの腕前と聞く。
 果たして傷付けずに済ませる事が出来るかどうか。
「そこはリュー殿の生命力を信じるしかあるまい。デビルを追い出す為には、説得か‥‥シェリル殿のレジストデビルが効かなければ力ずくで追い出すしか方法がない事であるしな」
 メアリーが言った。
 説得が功を奏してくれるのが一番良い方法ではあるのだが‥‥。

「心の弱さに付け込む声でなく、心の底から我が子を案じる声に耳を傾けて‥‥」
 魂を失った様に赤ん坊を抱えたまま動かないリューに、シエラは言った。
「リューさんなら聞き分けられる筈です。あなたの子供は‥‥もう、赤ん坊ではありません。その子達の様な、小さな少年でも‥‥」
 確か、13歳か‥‥或いは14歳になっていた筈だ。
「だから、その子達を‥‥」
「ウルサイ、ダマレ‥‥!」
 突然、リューが口を開いた。
「コノコハ、ワタシノコダ‥‥アノヒトノ‥‥ワスれガタミ‥‥タダひトツノ、アのヒトガ遺シタ、存在ノあカシ‥‥」
 片手で赤ん坊を抱いたまま立ち上がり、腰に差した剣を抜く。
「奪おうとするものは、誰であろうと‥‥斬る!」

「あら、ダメだったみたいね」
 扉の外で、シェリルが言った。
「コアギュレイトで動きを止められれば良いのだけれど」
 赤ん坊を抱えたままで固めるのは危険だろう。
 まずはウィンディオとアクアが部屋の中に突入し、二人の背後に隠れたシェリルがその場にいた全員を対象にレジストデビルをかける。
 同時に、リューの背後の壁に丸い穴が開き、アルヴィスが手近な子供の腕を引っ張った。
「大丈夫、助けに来たよ」
「すぐに終わるから、向こうで少し待ってて、ね?」
 ウィンディオからお菓子の入った荷物を預かったテリーが難を逃れた子供達を別の部屋へ誘導する。
 だが、リューは相変わらず赤ん坊を抱えたまま。片手に持った剣を無闇に振り回し、近付く者を拒んでいる。
 各種の結界で力は弱まっている筈なのだが、レジストデビルも効果はなかった様だ。
「これでは抑え込む事も出来ないか‥‥!」
 まずは、あの赤ん坊を何とかして引き離さなくては。
「仕方ない、か」
 アルヴィスが赤ん坊を狙い、アイスコフィンの魔法をかける。
 ――ごとん。
 一回り大きなサイズの氷の塊となったそれは、リューの手を離れ床に転がった。
 その瞬間、メアリーの手からグラビティーキャノンの重力波が放たれる。
「人に取り憑いたデビルは、宿主を攻撃する事である程度のダメージを受けると外に逃げようとする習性がある」
 それまで、リューの体力が保つ事を信じよう。
 重力波に足を取られ床に倒れ込んだリューの体を、ウィンディオとアクアが押さえつける。
 大の男が二人がかりでないと抑えていられない程の力は、やはりデビルに取り憑かれているせいだろうか。
「シェリル殿、もう一度!」
 レジストデビルを。
 リューにダメージが入ったせいか、今度は効いた様だ。
 その体から、もう一人の女性が現れる。
 黒い髪に、白い肌。一見するとごく普通の女性の様だが。
「お前が、夜叉か」
 ウィンディオは七徳の桜花弁を叩きつけると、アクアに借りたデビルスレイヤーで追い打ちをかける。
 どう見ても人間の女性にしか見えない相手に攻撃を加える事に抵抗はあったが‥‥


「‥‥他に、デビルの反応はない様だな」
 夜叉の気配が消えた後、他には石の中の蝶が反応する様子もない事を確認し、アクアが言った。
「それにしても‥‥夜叉にとり憑かれるなんて、心の隙があったってことかしら?」
 放心した様に座り込んでいるリューに向かって、シェリルが言った。
「事情はよく判らないけど‥‥会いたい人がいるんだよね?」
 アルヴィスの言葉に、リューは僅かに顔を上げる。
「会いたいなら会えばよいし、向こうが望んでいるなら尚更だ。会わせる顔が無いというのは君が勝手に言っていることだし、それを理由にするのは卑怯だよ」
 リューには会う責任があるようだし、それに相手が家族──大切な人──なら会ってあげなきゃ寂しいじゃないか、と言うのが家族主義者としてのアルヴィスの意見だった。
「ひとまずは、この子等を一刻も早く親元に帰してやる事が先決であろうが‥‥」
 メアリーが言った。
 氷漬けにされた赤ん坊も、それが溶かされた今ではどこにも以上はない様だ‥‥身体的にも、精神的にも。
「リュー殿、その後は貴殿の子息に会い、鍛えることを考えてはどうであろう?」
 吸血鬼を滅ぼした後、リューが目的を喪失してしまったとは気づかなかった。
「だが、知ったからには放ってもおけまい。一緒にこれからの行動を考えぬか? なんにせよ、貴殿には新たに生きる指針が必要だ」
 だが‥‥返事はない。
 そんなリューに、アクアはイギリス紋章録の一ページを開き、差し出した。
「見覚えがある筈だ。この紋章が付いた剣を持つ少年を、私は知っている」
「‥‥!」
「あなたの噂は聞いている、彼は元気でやってるぞ。だが‥‥彼ももう子供ではない」
 自分の出自について、独自に調べ始めたところだ。
「必要以上の危険なことに探りつく前に、なんとかした方が良いんじゃないかと思うのだが」
 そして、ウィンディオが一通の手紙を差し出した。
 弟分である七神蒼汰から託されたその手紙には、リューが仇と狙うロシュフォードが自分の上司の政敵である事、そしてエストとは上司共々面識があり、最早無関係ではない事などが書かれていた。
「リューどの、貴殿の御子息は‥‥エスティードという名で、間違いはないのだろう?」
 リューは答えない‥‥が、否定もしなかった。
「そこにある通り、貴殿が手を貸してくれるなら、我々も協力を辞さない。それに、私はエストの師だ。関係者として、話を聞かせて欲しいのだが‥‥」
 今すぐにとは言わない。
 心の整理が付いてからで良い。
 だが‥‥手遅れになる前に。
「とにかく今は‥‥一緒に親御さんに謝りに行きましょうか。 ね?」
「‥‥謝って‥‥それで、済むのだろうか‥‥」
 シェリルに言われ、リューは漸く口を開いた。
 今回の事件に巻き込んでしまった親子は勿論‥‥自分の息子にも。
「それは‥‥謝ってみないとわからないけれど」
 少なくとも、今回の被害者はわかってくれるだろう。
 後は‥‥
「まずは、会ってみない事には何も始まらないだろうな」
 アクアが言った。
「前向きに考えてくれる事を、期待している‥‥あの子の為にも」
 ウィンディオの言葉に、リューは微かに頷いた様に見えた。