●リプレイ本文
‥‥猫、猫、猫。
柱の陰に、ソファの上、棚に、テーブル、窓辺‥‥どこもかしこも、猫だらけ。
そして、出迎えた主人の頭の上にも。
「‥‥猫‥‥被ってるな、ボールス卿」
「猫かぶりなら、おりも負けないのじゃ〜!」
まるごと猫かぶりを着込み、そう叫んで脇をすり抜けて行った鳳令明(eb3759)の姿はとりあえず見なかった事にして、セイル・ファースト(eb8642)が言った。
「この間は、どうも。少しは本気を出せてもらえたのかな?」
先日行われた訓練依頼。
「ええ‥‥そうですね。自分の力不足を‥‥痛感しました」
「力不足?」
あの人数でかかってやっと‥‥しかも、予期せぬ事態が起きての事だ。
そう悲観する事もない様に思うが‥‥
「まあ、今日はのんびり遊びに来た訳だし。堅い話はこれ位にしておくか」
その言葉に、ボールスは小さく微笑みながら頷く。
「‥‥でも、セイルさんが猫好きだとは思いませんでしたよ」
「ああ、いや‥‥まあ、嫌いではないんだが‥‥」
友人のサクラ・フリューゲル(eb8317)やレア・クラウス(eb8226)といった面子に引っ張られて来ただけ、らしい。
「猫さん達と楽しく遊べると良いですわね♪」
猫を亡くした事で気落ちしていなければ良いのだがと、サクラが気遣う。
「もしかしたらその猫さんがあの子達と引き合わせてくれたのかも知れないですねぇ」
エリンティア・フューゲル(ea3868)が、のんびりと言った。
「ボールスさんが悲しむ暇が無いようにですぅ」
そして、思い出した様に付け加える。
「そう言えば、ボールスさんには初めましてなのですぅ」
「あ、あたしもボールスたまに依頼であうのって初めてな気がする〜♪」
いつも元気なパラーリア・ゲラー(eb2257)が言った。
「あたしはボールスたまに元気になってもらいたいにゃ〜」
「私は‥‥元気ですよ?」
いや、それ絶対嘘だから。
誰が見ても‥‥彼の事を全く知らない者の目にも、気落ちしている様子は明らかだった。
「‥‥はい、これ」
突然、目の前にお茶の入った湯呑みが差し出された。
「‥‥今日はよろしくお願いするよ」
――ずず−っ。
自らもお茶をすすりながらそう言ったのは、瀬崎鐶(ec0097)。
「あ、はい‥‥頂きます。‥‥ええと‥‥よろしくお願いします」
何だか微妙に調子が狂うが‥‥
「あの、私の事は気にしなくて良いですから‥‥皆さん、楽しんで下さい、ね?」
そう言うと、ボールスは湯呑みを手に、猫を被ったまま、陽当たりの良い窓辺に腰を下ろした。
「‥‥気にするなと言われましても‥‥ねえ」
ボールスには聞こえない様に、シャロン・シェフィールド(ec4984)が小さく溜息をついた。
「この猫たちを引き取るというのも、やはり亡くなった奥様の事で思うことがあればこそなのでしょうね‥‥或いは、エル君が託されたことと重ねていらっしゃるのかも」
改めて自分が踏み込むまでも無い事とは思いながら、やはり心配になる。
「いや、奥方の事はもう‥‥整理が付いてると思うんだが、な」
多分、落ち込んでいる原因はそれとは別の事だと七神蒼汰(ea7244)。
「うん‥‥でも、俺達は猫と遊ぶ為に呼ばれた訳だし。そういう事は‥‥本当に、気にしなくて良いんじゃないかな」
リース・フォード(ec4979)が言った。
「ボールス卿もいろいろ考えていらっしゃるんだろうし‥‥きっと大丈夫だよ」
自分達が楽しく遊んでいる姿を見れば、少しは気も晴れるだろう。
「そうですわね。できるだけ盛り上げていきましょう。その方がいなくなった方への供養になると信じて‥‥」
「んー、お通夜でどんちゃん騒ぎするよーなもん、か?」
サクラの言葉にウォルが答える。
「折角ですし、軽いお茶会のようにできればよいですわね」
「じゃ、何か作るか? 俺の料理じゃ、あんま効果なさそうだけどな」
ウォルはちらりと師匠を見る。
「では、お手伝いを致しますわね♪」
そして、料理が出来るまでは思いっきり遊ぶ!
という事で‥‥
「にゃんこ、にゃんこ♪」
リースは楽しそうに猫溜まりに突っ込んで行った。
「俺と長い耳繋がりのお友達、うしゃぎのラルフと一緒に遊んでくれるかなー♪」
‥‥うしゃぎは獲物だと思うけど、どう考えても。
「ああっ! いぢめちゃダメだぁっにゃんこさんっ!!」
いや、無理だって。
チビ猫となら仲良く遊べるかもしれないが‥‥
「じゃあ、新人にゃんこさん達とっ!」
リースは狩猟本能のスイッチが入った大人猫達の中から、うしゃぎを救い上げた。
うん、チビ達の中に入ると余り違和感もない、様な。
「後は‥‥我が家のホワイトイーグル、リリの羽根をちょっと貰って来たからね」
引っこ抜いた訳ではない。寝床に落ちていたのだ。
その羽根をいくつか纏めて、紐を付けてみる。
たちまち、猫の軍団がそのオモチャ目掛けて突進して来た‥‥しかも、大きいのが。
「うわああっ!」
‥‥あー、まあ、怪我でもしたらリカバー位はかけてあげるから、うん。
「私は‥‥どうしましょうか。猫じゃらし、というのも今の時期探してすぐ見つかるものとも思いませんし‥‥」
指を疑似餌に見立てる、というのもいいかもしれないとシャロン。
いや、それはやめた方が良いと思う。
手で遊ばせる癖を付けると、大人になった時に大変だから‥‥生傷が絶えない意味で。
「‥‥オモチャなら、貸すよ?」
猫の下から、リースの声が聞こえた‥‥。
「俺はちょっと、猫達に話を聞いてみるか」
蒼汰はインタプリティングリングを指に填めると、暇そうにしている大人の猫達に近付いた。
「ウチの蟲っこ兄貴分に聞いた話、以前新しい子達が来たときは家出したって事だからなぁ‥‥今回は仔猫だし、大丈夫だとは思うが」
また臍を曲げて出て行かれても困るし。
‥‥こう、いちいちデリケートで何かあるとすぐに自分から引っ込もうとするのは‥‥やはり、飼い主に似たのだろうか。
『仔猫達を受け入れる気はあるのか?』
その問いに、返ってきたのは‥‥
やはり、猫達も仲間がいなくなった事を寂しく感じていたのだろう。
賑やかになるのは嬉しい、チビなら問題ない等、概ね好意的だった。
それに‥‥
『あいつ、よろこんでる』
あいつとは勿論、飼い主の事だ。
彼が喜んでいるなら、煩いチビどもにも我慢してやろう、という事らしい。
「お前ら‥‥イイヤツだなあ」
蒼汰は猫の頭を撫でる‥‥が、相手は煩そうにぶるっと体を震わせると、のそのそと何処かへ行ってしまった。
「猫ネコねこ‥‥猫だらけ。いんや、なんともステキな光景だこと♪」
限間時雨(ea1968)は、うっとりとその光景を眺めていた。
棒の先に毛玉をくっ付けた即席の猫じゃらしを作り、猫達の目の前で振ってみる。
「さぁ、ここのにゃんこ達は何処までついて来れるかしらっ♪ まずは‥‥ブラインドじゃらし!」
死角から目にも留まらぬ素早さで、猫じゃらしを繰り出してみる。
「ふみゃっ!」
反応したのは大人の猫だった。
流石に子猫ではその速さに目が付いていかないらしく、何が起こったのかと小首を傾げている。
その様子を見て、トロけているキュート属性マイナスの神聖騎士が約一名‥‥いや、この家の主人ではなく。
「‥‥‥‥‥‥」
マロース・フィリオネル(ec3138)は言葉も忘れ、それはそれは幸福そうな笑みでトロけていた。
「‥‥はっ!」
しかし、トロけていては仕事にならない。
いや、別にトロけたまんまでも構わないんだけど。
それでもマロースは無理矢理に魂を引き戻し、後ろ髪を思いっきり引かれながらも厨房へと姿を消す。
猫達のご飯を用意する為だ。
「あ、あたしもお手伝いしまっす!」
その後を、パラーリアが追いかけて行く。
「んとんと、猫さん達はお魚よりもチキンが良いにゃ、って言ってましたぁ〜☆」
その間にも、時雨はひたすら猫じゃらしを振るう。
「ポイントじゃらし!」
正確無比に虚を突く猫じゃらし技。
「次は‥‥ソニックじゃらし!!」
衝撃波を飛ばし、遠くの猫にもとどく猫じゃらし‥‥って、無理だから、それ。
「猫が獲物を必死で追いかけてるのを見るのは楽しいねぇ、うん♪」
「ああ、猫‥‥なんという甘美な響き‥‥」
ここにもまた、猫の魅力に取り憑かれた者がひとり。
フィーナ・ウィンスレット(ea5556)の黒さも、こう猫だらけの場所では流石に陰を潜める様で‥‥
――え?
また何か余計な事言った?
「‥‥残念ですが、今回はボールスさん『で』遊ぶ余裕はなさそうですね」
や、遊ばなくていいから。今、薬切らしてるし。
「折角ですので、我が家の愛猫プーチンとコロチンも連れて来ました」
普段は家で寝ているだけの彼等を解放する。
「たまには自由に遊ばせるのもいいでしょう‥‥さて、全力でお相手をしましょうか」
ヤンチャ盛りの子猫達には先端に毛糸をくくりつけた紐を揺らしてみたり、鳥の羽で作ったオモチャを与えてみたり。
まあ、この位の子猫達なら遊び方にそう工夫はなくても喜んでくれるものだ。
人間で言えば‥‥箸が転がっても可笑しいお年頃?
「わあ、猫さんが増えたね。じゃあ、おいらも‥‥」
と、デメトリオス・パライオロゴス(eb3450)も自分の猫、イドラとキトラを部屋に放す。
「猫さん達、また遊びに来たよ。よろしくね。相変わらず、お髭が立派でキュートだね」
褒めちぎったついでに、よいしょと抱き抱えてみる。
「あれ? なんか‥‥重くなった?」
「ルイズもみんなと仲良く遊ぶんですよぉ、それと子猫たちは面倒を見てあげて下さいねぇ」
そしてまた、猫が増える‥‥今度はエリンティアの猫、ルイズだ。
「リインは猫さん達を驚かせないように僕と一緒ですぅ」
この家の猫達はフェアリーをオモチャにする様な事はないのだが、念の為に避難。
「大量のにゃんこ‥‥。にゃんこ一杯です‥‥」
自らもネコミミを付けたサクラ・キドウ(ea6159)もまた、トロけていた。ただし無表情で。
既に全部で何匹いるのかわからない。
にゃんこどころか、サラサ・フローライト(ea3026)が連れて来たケット・シーまで居るし。
「ほら、二匹とも一緒に遊んできなさい‥‥」
更にはネコミミサクラが連れてきた猫のランと犬のシバシバまで加わって‥‥もう、何が何だか。
「子にゃんこ可愛いです‥‥。にゃんこー、にゃんこー」
無表情に撫でている。
無表情だけど喜んでいる‥‥らしい。
「‥‥ここの猫達はテレパシーを使うまでもなく幸せそうだな」
その傍らで、サラサが根付をぷらぷら揺らしながら呟く。
じゃれついて来る子猫を見つめるその顔には、珍しく微笑みが浮かんでいた。
そして、部屋の一角では‥‥
「あそぼぉ〜☆」
子猫団子に突入したファム・イーリー(ea5684)が、もみくちゃにされていた。
「んにゃ〜!!!???」
人間サイズの生き物にとっては、子猫などまだまだ掌に乗る様な大きさだが‥‥身の丈35cmのシフールには、ちょっとした脅威。
ましてや成猫ともなれば‥‥猛獣。
「にょぉぉぉ〜〜〜$%&#☆◆!?」
前足でぺいっと転がされ、名状しがたい悲鳴とも何ともつかない奇声を発しながら転がって行く。
そして、転がされた先にも‥‥
「にゃっ♪」
きらーん!
鋭い爪が光っていた。
「×○△□!!?」
慌てて上空に飛び上がり、相変わらず窓辺でぼんやりしている円卓の騎士の頭の上へ‥‥と思ったら。
そこにも猫がいた。
と言うか、まだ猫被ってるし。
「うちの子達は、小さな人を虐めたりはしないのですが‥‥」
どうやら犯人は遊びに来た余所の猫達の様だが。
同じくシフールの令明は被り物のせいか、猫達とじゃれあってもさほどダメージは受けていない様だ。
「可愛いものと遊ぶとき、人は本性を現すものなのじゃ〜」
自分も猫と遊びつつ、猫と遊ぶ大人を観察するのが今回の目的らしい。
「ほーら子猫ちゃん、マタタビなのじゃ〜」
「にゃうー!」
しかし、寄って来たのは大人の猫。
――どっすん。
あ、なんか潰されてる。
――ごろごろ、くねくね、すーりすーり‥‥
大きな猫の下でヨダレまみれになったシフールの運命や如何に!?
「‥‥子猫ちゃんと言うと、別のものを思い浮かべるのは男の性でしょうか」
フォックス・ブリッド(eb5375)が呟く。
いや、それ君だけだから、多分‥‥この中では。
やがて‥‥遊び疲れたのか、子猫達はてんでの場所でパッタリと倒れる様に眠り込んでしまった。
「良いなぁ猫は。あのつぶらな瞳、柔らかな肉球‥‥ああもう、本当に愛らしい‥‥色んな事が割りとどうでも良くなってきそうだね」
アルヴィス・スヴィバル(ea2804)が、そんな子猫達を回収しつつ、その小さな肉球をぷにぷにと弄びながら恍惚の表情を浮かべる。
遊んで撫でて頬ずって肉球触って膝に乗せて‥‥
「ああもう可愛いなぁ‥‥同居猫になろうと口説きたいなぁ‥‥」
「阿呆がぁ!」
――すぱーん!
そんな彼にジャンピングスリッパ叩きを見舞ったのは、ディーネ・ノート(ea1542)‥‥一応、彼のコレ、らしい。
え、一応じゃない? それは失礼しましたー。
「まったく、相変わらずなんだから。なんでこんな奴にベタ惚れなんだろ、私」
「んー? なに? 羨ましいの?」
猫にキスをした瞬間、ふと視線に気付いたアルヴィスは、にっこりと微笑む。
「ほら、師匠も遠慮せずに。ちゅー」
――すぱーん!!
ジャンピングスリッパ叩き、再び‥‥耳まで真赤にしながら。
「えー、さっきはぎゅーされて喜んでたくせにー」
久しぶりの再会を、喜んでいた筈なのだが。
「阿呆がぁ!」
って言うかその猫、ついさっき自分のお尻を丁寧に舐めてたし。
「‥‥え゛」
固まった恋人の腕から猫を奪い取り、ディーネは肉球を触ったり頭を撫でたり愛でたり‥‥ちゅーは、しないけど。
子猫達は、暖炉の前で一塊りになり、安らかな寝息を立てていた。
毛布が敷かれた鍋に、てんこ盛りになっている‥‥キュート抵抗の低い猫好きが見たら悶え死にしそうな光景だ。
「可愛い‥‥もきゅっとしたいですねえ‥‥」
その寝床を用意したフォックスは、起こさない様にそっと子猫達を撫でる。
「でも、まだ小さいですし‥‥」
撫でるだけで我慢しておこう。
そして、猫と同じ様に遊び疲れて転がっている人間が約一名‥‥エリンティアだ。
先程まで猫と一緒にゴロゴロ転がって遊んでいたのだが。
「静かになった事だし、そろそろお茶会にしない?」
レア・クラウス(eb8226)が言った。
「‥‥お茶‥‥良いよね」
鐶は猫鍋を前に正座をし、お茶を啜りながら微動だにせず黙々と何事かを考え込んでいる。
その動かない膝は居心地が良いのか、一匹の大きな猫がどっかりと座り込んでいた。
「‥‥和むよね。お茶飲みながら、一時の安らぎ‥‥え、お酒?」
目の前に、杯が差し出される。
「宴もたけなわだしねー♪」
隣に座ったレアが差し出したのは、またたび酒。
それを一気にあおった鐶は‥‥踊り出した。
表情も変えず、黙ったまま。
ころん、と膝の猫が転げ落ちた。
その踊りに花を添える様に、セイルの竪琴が静かな曲を奏でる。
合わせて、サクラも歌い出した。寝ている猫と、人を起こさない様に、子守歌の様な小さな声で。
「ディーネもどう?」
勧められるままに一口‥‥いや、一滴。
それだけで、「に゛ぎゅぅ」と声を上げるや、ディーネは倒れ込んでしまった。
そのまま、アルヴィスの膝枕で猫の様に丸くなって寝息を立てる。
「この子達、名前は決まっているのでしょうか?」
ヒルケイプ・リーツ(ec1007)の問いに、ボールスは首を振った‥‥相変わらず猫を以下略。
どうもその猫は、彼の気分が晴れるまではそこから下りる気はないらしい。
「‥‥やっぱり、問答無用で遊びに巻き込んでみましょうか‥‥」
子猫達が目覚め、再び遊びに誘って来たら‥‥と、シャロンが呟く。
が、今はとにかく名前を決めておこう‥‥また起き出して、動き回り始めたら誰が誰やらわからなくなりそうだし。
「この美人の子にはベス、やんちゃな男の子にはカール‥‥」
ヒルケは眠っている子猫達を次々と指差し、ふと顔を上げて一同を見渡した。
「ミーコ、ロビン、アーチェ、フーファ‥‥あ、皆さんも何か考えていらっしゃいますか?」
沢山候補が挙がったら、その中から気に入ったものをボールスに選んで貰おう。
「おりは仲良くなったこの子に『陽光』と名前をつけるんじゃじゃ」
令明が一匹の子猫を指差す。
「この家の日差しになって、明るくして欲しいという願いを込めてなのじゃじゃ」
うん、良い名前だ。
「猫の名前? ‥‥うーん‥‥『トリュフ』とかどう? 脂っこくて美味しそうな名前でしょー?」
レアが一番大きくて丸い子猫を指差した。
猫鍋状態だからって、まさか本気で食べるとか‥‥?
「もちろん冗談よ?」
‥‥だよ、ね?
「この白い子は『スノート』が良いな」
膝枕継続中のアルヴィスが言った。
「俺は‥‥『鈴蘭』って考えたんだけど」
と、蒼汰。
しかし生憎、白猫は一匹しかいない。
さて、どちらにするか‥‥。
「シストラムなんてどうだろう?」
エジプトの猫の神様が持っていた楽器の名前らしいと、デメトリオス。
「美しい鳴き声で癒してくれる存在になってくれるんじゃないかな?」
ちょっと長いから‥‥縮めても良いかな。
システィ、とか。
「あ、私が考えた名前も‥‥長いかもしれません。『レーヴェンツァーン』‥‥私の好きな花‥‥なんです」
「何て意味?」
サクラの言葉に、ウォルが首を傾げる。
「タンポポ、ですわね」
良く覚えておく様に。
「んー、ダンディライオンか‥‥イギリス語でも長いな。レーヴで良い?」
「‥‥私は‥‥蜜柑と椿」
鐶が呟く様に言った。
先程までじっと考え込んでいたのは、猫の名前だったらしい。
「‥‥果物と花の名前になっちゃったけど‥‥どうかな?」
しかし、子猫は6匹。
折角考えて貰っても、全部の名前を使う事は出来ない。
「残った名前は、また新しい子が増えた時に使わせて貰いましょうか」
ボールスが言った‥‥って、まだ増やす気か。
「出会いは、神様が授けて下さるものですからね」
拒む気はないらしい。
結局、フーファ、トリュフ、鈴蘭、システィ、レーヴ、そして蜜柑が採用される事となった。
「猫さん達、気に入ってくれるといいですね」
ヒルケが微笑む。
「じゃあ、猫さん達が起きたら命名式だねっ☆ それまで、皆でお話しよ〜♪」
パラーリアが爺の袖を引っ張った。
「ねえねえじいやさん、子供の頃のボールス卿って、どんな子だったのかにゃ〜?」
あー、爺はそれを語り出すと止まらないから‥‥。
そして、猫まみれのお茶会はまだまだ続く。
テーブルの隅ではサラサが膝に乗せた猫の額をくりくりと撫でながら、開いた片方の手で肉球をぷにぷにしていた。
「‥‥帰ったら、住処で留守番している猫達とも遊んでやろう」
そして、子猫達が目覚めた時‥‥
マロースは再びトロけていた。
寝起きでお腹を空かせた子猫達がお行儀良く座り、『ごはんマダー?』と可愛らしく絶妙な角度で、しかも全員揃って同じ方向にちょこんと首を傾げている。
これは‥‥溶けない方がおかしい。
抱きしめたい衝動を全力で我慢していたマロースだったが‥‥
「すみません。無理です」
‥‥いや、それ危ないって。
ちょっと失礼して、コアギュレイトをかけさせて頂きますので‥‥子猫の安全の為に。
やがて、人も猫達も共に遊び疲れ、満足した頃‥‥
「また、猫と遊びに来ても大丈夫でしょうか‥‥?」
相変わらず無表情に、ネコミミサクラが言った。
「勿論、お好きな時にどうぞ。門も玄関も、いつでも開いていますから」
不用心だな、おい。
しかし、それを聞いてサクラは‥‥喜んでるんだと思う。表情には出ないけどっ。
そして、帰り際。
「ボールスさんは、無理をせず自然体なままが一番だよ」
デメトリオスが声をかけた。
「背伸びしていると、大事な人をまた追いてっちゃうよ? 気をつけてね」
悪気がないのは承知だが‥‥流石は円卓の騎士を泣かせた者。
ボールスが求めるものは、無理をしてでも背伸びをしなければ届かない所に在る。
いや、在ると断言出来る訳でもない。
「‥‥でも、手を伸ばす事しか‥‥私には出来ないから」
客人達を見送ったボールスは、独り呟いた。
それで大切な人達が離れて行くなら、自分はどうすれば良いのだろうか。
答えは、どこにもない。
「‥‥しかし、重いですね‥‥」
その頭には、相変わらず大きな猫が張り付いていた。
重いけれど、暖かい。
温もりが伝わるから、どんなに重くても我慢出来る。
いや、その重さこそが心地良いのだ。
「でも、爪は立てないで下さいね?」
‥‥返事の代わりに、猫はボールスの頭にぎゅうっとしがみついた。
勿論、思いっきり爪を立てて‥‥。