赤ずきんちゃんにご用心!

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:6人

サポート参加人数:3人

冒険期間:09月12日〜09月17日

リプレイ公開日:2006年09月20日

●オープニング

「森の様子も、少し秋めいてきたな‥‥」
 僅かに木漏れ日が差すだけの薄暗い森を、行商の荷物を背にした若者がひとり家路を急いでいた。
 藪が鬱蒼と生い茂る角を曲がったその時、行く手に赤いずきんを被った小さな女の子の姿が見えた。
「‥‥ん? なんだ、こんな森の中を、子供がひとりで‥‥?」
 昼間とは言え、森の中は危険が多い。大人の自分でさえ、こうしてビクビクしながら急ぎ足で通り過ぎようとしているのに‥‥。
 若者は、赤ずきんの少女に駆け寄り、声をかけた。
 ところが―――!!!

「あ〜あ、また犠牲者が出たか‥‥」
 この森を狩場にしている猟師の男が、倒れている若者に鼻をつまみながら近付く。
「大した怪我は負わされないとは言え、これはやはりギルドに相談したほが良さそうだな」
 独り言を言いつつ、若者の肩を揺さぶる。
「これ、お若いの。大丈夫かね?」
 あちこちにコブや青タンを作った若者は、う〜んと呻きながら目を開ける。
「とんだ災難だったな。ほれ、起きられるか? 動けるようなら、そこの川にでも飛び込む事だな。その服は‥‥捨てにゃならんだろうが」
 言われて若者は、どうも先程から強烈な匂いが鼻をつくと思いながら、ふと胸のあたりを見ると‥‥。
「ああああっっっ!!!?」

「‥‥ゴブリンの悪戯‥‥ですか。しかも、何故か赤ずきんを被って女の子の格好をした」
 相談を受けたギルドの受付係は首を傾げる。今までに何人も被害にあっているのなら、何故そういった噂が耳に入らないのだろうと。
「そりゃ、被害にあったほうも言いにくいだろうさ」
 猟師の男が言う。
「親切心とは言え、森の中で女の子に声をかけたら逆襲にあったなどと言えば、変に疑う者もいるだろうしな。現に悪さをしようと近付いた者もおる。それに‥‥」
 猟師は少し言い淀んだ。
「連中はただ相手を適当に痛めつけて楽しむだけで、物盗りなどはせんのだが、その代わりに置き土産をしていくのだ」
「置き土産、ですか?」
「そう、気絶した相手の胸の上に、くっさ〜いヤツを、こう、てんこ盛りに‥‥な」
 自分が被害者だったら、そんな事は絶対に人には言えない。いや、そんな目に遭ったらと思うだけで目の前がクラクラしてくる。
「連中はわしのように見るからに強そうな者は決して襲わん」
 確かに、猟師は見るからに‥‥熊でさえ素手でのしてしまいそうな大男だ。
「今までは通りすがりの商人が主に狙われているようだが、秋も深まれば森に入る人も多くなる。今のうちに、と思ってな」
「なるほど‥‥では、駆け出しの冒険者に囮になってもらえば、簡単に出て来そうですね。でも、何故そいつは赤ずきんを?」
「さあな、モンスターの考えなどわしにはわからん。ただ、女の子の格好をしていれば人間が声をかけてくると、どこかで学習したのかもしれん。それに、正体を見た時の驚いた顔が、さぞかし面白かったのだろうな」
「置き土産は‥‥?」
「それこそ、わかるもんかね。まあ、それもどこかに隠れて様子を見ながら反応を楽しんでいるのかもしれんな」
 ああ、それから‥‥と、猟師は付け加えた。
「奴等はそれを投げてくる事もあるから、気をつけてな」

●今回の参加者

 ea2220 タイタス・アローン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea5931 黒 者栗鼠(38歳・♂・ファイター・ドワーフ・華仙教大国)
 eb0606 キッシュ・カーラネーミ(32歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 eb2749 マルケルス・アグリッパ(38歳・♂・ファイター・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb6662 マリア・フェラーリン(27歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb6761 ラシゥス・ゼラス(22歳・♂・神聖騎士・ジャイアント・ロシア王国)

●サポート参加者

ムネー・モシュネー(ea4879)/ フィリッパ・オーギュスト(eb1004)/ ウルバン・ゼーンケ(eb2795

●リプレイ本文

 宿として提供された猟師の小屋の一室で、冒険者達がゴブリン討伐の準備をしていた。
「教会の信者が被害を受けると困りますからね。神聖騎士として当然の努めですよ」
 荷物の整理をしながら、タイタス・アローン(ea2220)が穏やかに微笑む。だが表情とは裏腹に、腹の底では怒りがふつふつと滾っていた。
 よりによって置き土産をするゴブリンの始末を自分に頼むとは‥‥!
 取り出そうとした時にバックパックに引っかかった矢を外そうと、怒りに任せて思い切り引っ張る。
 ビリビリッ! 嫌な音がした。
「‥‥あ」
「変装して人を襲うゴブリンとは‥‥しかも可愛い女の子に変装ですか。ずいぶんと知恵が回りますねぇ」
 黒者栗鼠(ea5931)は赤ずきんゴブリンを研究対象としてじっくり観察してみたいようだ。
「でもまあ、被害があると言うならしょうがないですね。ゴブリンは群れで行動しますから、これに味をしめて群れにこの習慣が広まらないとも限りませんし」
「‥‥ま、下心で『あかずきんちゃん』に近付いた人には、イイ薬だとは思うけど」
 キッシュ・カーラネーミ(eb0606)は肩をすくめて苦笑いする。
「善意の人の被害を無くす為に、一肌脱ごうかしらねぇ」
「私はこんな物を用意してみたのですが‥‥」
 マルケルス・アグリッパ(eb2749)がボロ布の束を広げた。
「あの危険な攻撃を受けたら、服だけでなく装備も二度と使えなくなるような気がしませんか?」
「そうですね、洗って使いたいとは‥‥ちょっと、その‥‥」
 マリア・フェラーリン(eb6662)は、その状況を想像してみる。
「ですから、捨てても惜しくないように古着を頂いて来たのです。皆さんの分もありますから、いかがですか?」
「‥‥これはまた、何というか‥‥その、雑巾でもここまで汚くはないような‥‥」
 1枚の服らしきものをつまみ上げた者栗鼠は、思わずニオイをかいでみる。だが、洗濯はしてあるようだ。
「古着屋にわけを話したら、まだ着られるような物は勿体ないと‥‥それで、捨てる寸前の物をタダで頂いて来たのですが」
「これを着たら、ゴブリンよりも酷い格好になりそうね‥‥」
 キッシュは着るつもりはなさそうだ。
「どなたか、着られるかしら?」
「‥‥いや、俺は遠慮しよう」
 タイタスは攻撃を食らわない自信があるようだ。
「私も、いざという時には代役が出来るよう、女の子の服を用意してきましたから‥‥」
 者栗鼠も辞退する。
「囮役には丁度良さそうですね」
 言いつつ手を伸ばすマリアに、それまで黙って様子を見ていた猟師の男が口を挟んだ。
「あんたが囮になるのか!?」
 驚くのも無理はない。ジャイアントのマリアは、猟師よりも遙かに背が高く、体格も良い。普通ならゴブリンが襲って来るとは思えないのだが‥‥。
「ええ、ですから、思いっきり演技をしようと思っています」
「ジャイアントの方が囮をするのもインパクトがあって面白そうですよ。ゴブリンなど、案外簡単に騙されそうですし‥‥」
 者栗鼠の言葉にマルケルスが頷く。
「もし襲って来なければ、次は私が‥‥いや、私もジャイアントですが、これでも小柄なほうですし」
 結局、マリアの囮に食いついて来ない場合は全員が交代で試す、という事で話が纏まった。
「私、ちゃんと襲われるように頑張りますね!」
 気合いたっぷりにガッツポーズをするマリアは、とても逞しく見えた‥‥。

 その日の午後も早い時間、森の小道をよろよろと進む奇妙な物体があった。
 言うまでもなく、それは囮役のマリアだったが‥‥ボロを縫い合わせたツギハギのマントを纏い、泥で汚した髪を振り乱し、思い切り背中を丸め、片足を引きずりながら太い木の枝を杖代わりに歩くその姿は‥‥何と言うか、一種異様な、鬼気迫るものがあった。
 傍らの藪や木陰で仲間が不安げに見守る中、マリアはゆっくりと進む。
 そして漸く、赤ずきん出現ポイントと言われた曲がり角を曲がると‥‥‥‥‥‥。
 いた。
 赤ずきんが、道の真ん中で、囮が近付くのを待っているかのように、背中を向けて佇んでいる。
 よく見れば、頭巾は汚れて色褪せ、着ている服も囮のボロと良い勝負だ。だが、薄暗い森の中では目の錯覚が起きるらしく、それはちゃんと、赤ずきんの女の子に見えた。
 マリアは逸る気持ちを抑えつつ、ゆっくりと赤ずきんに近付く。
 そして‥‥。
「もしもしお嬢さん、女の子の一人歩きは危ないですよ」
 その言葉にくるりと振り向いた赤ずきんゴブリンを、マリアはマントの下に隠し持ったクレイモアで一刀両断!
 ‥‥しようと思ったのだが。
 殺気を感じた赤ゴブが金切り声を上げた。
 その声に驚いたマリアも悲鳴を上げる。
「ギャアァァァッ!!!」
「キャアァァァッ!!!」
 リーダーの危機を感じたのか、それを合図にどこからか黒っぽい物体が飛んで来る。
 隠れていた冒険者達も慌てて飛び出したが‥‥間に合わなかった。
 ―――べちゃっ!
「マ、マリアさん!」
 ショックで気絶したマリアに、マルケルスが慌てて駆け寄り、手近のボロ布でとりあえず顔面に張り付いたソレを拭き取るが、その程度で綺麗に取れる筈もない。
「ちょっと、どいて下さるかしら」
 背後から声がかかる。
「水をかければ少しはマシだと思うわ」
 キッシュが威力を抑えたウォーターボムを放つと、確かに少しはマシになったようだ。
 その間に、どこからともなくゴブリンの大群が湧いて出ていた。
 びしょ濡れになったマリアの体を戦闘に巻き込まれないように移動させると、マルケルスは両の手に盾を装備し、ゴブリン達の中に飛び込んでいった。
 盾で攻撃を避けつつ、足で急所を蹴り上げる。
「うギャオゥゥッ!!!」
「‥‥ゴブリンもやはり、そこは痛いようですね‥‥」
 どうやら、オスだったようだ。
 木陰に隠れたキッシュも、今度はパワー全開の魔法をお見舞いする。
 者栗鼠は素手でゴブリンをボコり倒していた。
「死なない程度にぼこ殴りしてとにかく怖がらせ、恐怖心を徹底して植えつけてやりましょう」
 何故か常に被っている美少女仮面のお陰で表情は見えないが、何だかとても楽しそうだ。
 タイタスは木陰から数本の矢を放った後、武器を剣に持ち替えて斬りかかる。妙に気合いが入っているような気がするのは、やはりこみ上げてくる怒りのせいだろうか。
「あら? 赤ずきんちゃんはどこかしら?」
 キッシュがふと見ると、赤ゴブは手下を見捨て、ひとりで森の奥へ逃げようとしているところだった。
「仲間を見捨てて逃げるなんて、随分じゃない?」
 言いざま、赤ゴブに向けてアイスコフィンを放つ。
 ぴきいぃぃん!
 氷のオブジェの出来上がり。ただし、鑑賞に堪える代物ではないが‥‥。
「ゴブッ!?」
「ゴゴブッ!?」
 残ったゴブリン達が慌てて駆け寄りオブジェを取り囲むが、オロオロするばかりでどうしようもない。
「‥‥悪戯を止めないなら、あと6匹くらい氷の像が増えるわよ‥‥?」
 すうっと腕を上げ、ゴブリン達を指差すキッシュ。
「ゴブーーーッ!!}
 その姿が、さぞかし恐ろしいモノに見えたのだろう、ゴブリン達は蜘蛛の子を散らすように、森の奥へと消えて行った‥‥赤ずきんちゃんを残して。
「‥‥この方法はリスクが高いと、思い知ってくれれば良いのですが」
 と、者栗鼠。
「とりあえずは、依頼完了できましたね」
 タイタスは軽く溜め息をついた。
「‥‥ところで、この赤ずきんはどうするのですか?」
 マルケルスの問いに、キッシュが笑って答える。
「暫くそのままにしておきましょう、見せしめの為にね☆」

 夕刻、全身くまなく洗い上げ綺麗な服に着替えたマリアは、皆から賞賛と労いの言葉を受けていた。
 だが、本人は浮かない顔だ。おまけにまだ、鼻の奥にあの臭いが残っているような気がする。
「もう、囮なんてこりごりです‥‥」
 それでも、猟師が用意した夕食を食べ、皆と語らううちに少しは気分も解れてきたらしい。
「皆と作戦出来て、楽しかったし、これからも頑張って、成長しようと思います」
 この経験は良いコヤシになったようだ‥‥。