もういいかい?

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月23日〜02月28日

リプレイ公開日:2009年03月03日

●オープニング

「もぉーいぃーかい」
「まぁーだだよ」

 ‥‥‥‥‥‥。

「もぉーいぃーかい」
「もぉーいぃーよ」

 周囲を森や林に囲まれた小さな村で、子供達が隠れんぼに興じていた。
 空き家になって半ば朽ち果てた家や、干し草でいっぱいの家畜小屋。
 それに、森から切り出した丸太が積まれた資材置き場。
 裏の山には木登りに手頃な木や、ちょっとした洞窟もある。
 子供達の隠れ場所には事欠かなかった。

 辺りが夕暮れの色に染まり、家族の誰かが迎えに来るまで、子供達は夢中で遊ぶ。
 その中に‥‥ひとり、変わった子供がいた。
 白い肌に白い髪の女の子。
 氷の様に冷たい息を吐くその子は、雪女の娘。
 名前をシーリーといった。

 村の近くにある一年中氷に覆われた洞窟が、彼女の住処だった。
 雪の精霊である彼女は、暖かい所が苦手だ。
 苦手と言うよりも、暖かさが限度を超えると溶けて消えてしまう。
 だから、夏場は氷の洞窟から出る事はない。

「でもね、いまはさむいの。しーちゃん、さむいだいすきー!」

 そして、洞窟の外に遊びに出掛けた彼女は、村の子供達と友達になった‥‥と、こういう次第だった。

「もぉーいぃーかい」
「もぉーいぃーよ」
 鬼になった子が、声のした方角へ走って行く。
 けれど‥‥

「しーちゃん、どこに隠れたんだろ?」
 小さな雪んこは、なかなか見付からない。
 そのうち‥‥

「いつまで遊んでるの、もうごはんの時間よ!」
 母親に呼ばれ、子供達はひとり、ふたりと家路に就く。
 もう、遊んでいる子は誰もいない。
 それでも‥‥

「しーちゃん、いいばしょみつけた」
 ここなら誰にも見付からない。
「しーちゃんの、かち」
 遠くで父親代わりの青年が呼ぶ声が聞こえる。
 だが、シーリーは動かない。
「かくれんぼ、だもん」
 見付かったら、負け。
 自分から出て行っても、負け。
 小さな雪んこは、案外負けず嫌いだった。


 そして、数日後。
「‥‥うちの娘を、探して下さい」
 冒険者ギルドに駆け込んできたのは、シーリーの養い親を自認する芸術家の青年アート。
「近くの村で隠れんぼをして遊んでいたのですが‥‥」
 どうにも見付からないのだ。
 声の届く場所には居る筈なのに、呼べど叫べど反応がない。
「‥‥普通の子供とは違いますから、大丈夫だとは思いますが‥‥」
 人と同じ食事は出来るが、特に何かを食べる必要はない。
 夜の寒さも、却って心地よく感じる事だろう。
 だが‥‥
 帰りを待つ方は、気が気ではなかった。
「あの子は、誰かが見付けてくれるのをずっと待っているのだと思いますが‥‥」
 一体どこに隠れたのか。
「探して下さい、お願いしますっ!!」

●今回の参加者

 eb3310 藤村 凪(38歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ec0843 雀尾 嵐淡(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ec3246 セフィード・ウェバー(59歳・♂・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 ec5127 マルキア・セラン(22歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

「かくれんぼ、ですか」
 依頼人のアートから話を聞いたセフィード・ウェバー(ec3246)が、くすりと笑う。
「しーちゃんを見つけてあげないと、まだまだ隠れてそうですよね」
「そうなんですよ!」
 その言葉に、アートはますます落ち着きなくウロウロオロオロと、住処とする氷の洞窟の前で行ったり来たり。
 その目の前に、ほんわりと暖かい湯呑み茶碗が差し出された。
「あんなー、こういう時にはお茶でも飲んで、一息ついてみるのが一番やねん」
「お、お茶‥‥ですか」
 立ち上る湯気と、良い香りがアートの鼻をくすぐる。
「あ、そう言えば初めましてやね。ウチ藤村いいますー。宜しく頼むわ」
 藤村凪(eb3310)は、ぺこり、と頭を下げた。
「そんでな、シーリーさんの特徴を詳しく聞きたいねんけど‥‥どんな子やのん? 背ぇの高さは‥‥」
「すっごく可愛い子なんですっ」
 出たよ、親バカ。
「ちょっとオツムが弱いかな、と思う所もありますけどっ、でもそこがまた‥‥ほら、アレな子ほど可愛いって言うでしょう!?」
 ‥‥いや、そんな事を聞いてるんじゃなくて、ね。
「しーちゃんは‥‥あれから変わっていなければ、5歳くらいの背格好でしょうか」
 代わりに、セフィードが答えた。
 彼等の成長速度がどんな風になっているのか、そこはよくわからないが‥‥
「ああ、はい。初めて会った時と、殆ど変わっていません」
 アートが答える。
「ずっとこのまま、大きくならないで欲しいなあ‥‥ああ、でも、成長したらきっと、お母さん似の美人さんに‥‥それも見てみたいですよねぇ」
 ダメだこいつ。
「そやねえ。ほな、ウチ等がちゃんと見つけてくるから、安心して待っててな?」
 これ以上話していても得るものはないと判断した冒険者達は、不安げに佇むアートをその場に残し、現場の村へ向かった。


「この村の中、ゆー事やね」
 いつもは村の外までは行かない筈だと、アートも言っていた。
 暖かい季節なら裏山を舞台にする事もあるが、この時期は大抵村の中の暖かい場所に隠れるのが常らしい。
「そやなー。寒いとこやと、隠れてるうちに凍えてまうし」
「でも、そのシーリー‥‥しーちゃんは、雪ん子なんですよね?」
 マルキア・セラン(ec5127)が言った。
「だったら、普通の人だと隠れていられない様な所に隠れてる可能性が有りますねぇ。井戸の中とか、探してみましょうかぁ」
 とにかく‥‥まずは探しながら呼び掛けてみるか。
 樹木や茂みの陰、使われていない樽に、道具が入っている物置‥‥
「他に涼しそうな所は‥‥どこやろ?」
 小さな子供が好んで潜り込みそうな‥‥しかし、普通の子には入り込めない様な場所。
「やっぱり、井戸やろか?」
「井戸‥‥でしょうかねぇ」
 村の広場にある小さな井戸の前で、凪とマルキアが顔を見合わせる。
 しかし、中を覗き込んでも真っ暗で何も見えない。
「しーちゃ〜ん? そこにいるんですかぁ〜?」
 呼び掛けてみても、反応はない。
「‥‥魔法で調べてみましょうか」
 雀尾嵐淡(ec0843)がデティクトライフフォースを唱える。
 しーちゃんはクリーチャーだ。効果範囲にいるなら反応がある筈だが‥‥
「いない様ですね」
 どこに隠れたのだろう。
 村の中で普段人は行き交うものの、中に入ろうとは思わない建物。
 或いは村から少し離れていて、子供が隠れそうな物置小屋‥‥
 嵐淡は魔法の対象を子供の視線から見て隠れるのに適していそうな場所に向けてみる。
「普段なら人気のないような場所に動かない反応があれば、恐らくそれがシーリーに間違いないと思うのですが」
 村の中にはいないのだろうか?
「しーちゃん、遊びに来たよ〜」
 一方、セフィードは村の子供達から聞いた辺りを中心に、箒に乗って空からの捜索を試みていた。
 自分は特に探査能力は持っていないし、こうして地道に探すしかない。
 役に立てるかどうか、自信はないのだが‥‥それでも、知り合いが困っているのを黙って見過ごす訳にはいかないし、久しぶりにしーちゃんにも会いたかった。
「相変わらず‥‥と言うか、元気そうなのは何よりですが」
 以前教えてあげた事は、覚えているだろうか。
 いや、何よりもまず「せんせい」の事を忘れずにいてくれただろうか‥‥?

「‥‥村の中には、いない様ですね」
 村の隅々まで魔法で探し歩いた嵐淡が小さく溜息をつく。
「外には居らんと思うんやけど‥‥探してみよか?」
 凪が言った。
「外には小さな洞窟があるて言うてはったし‥‥危ないとこには行ってへんやろ思うねんけど、一応、な」
 しかし、それでも。
 洞窟の奥や森の茂み、何処を探しても見付からない。
「これだけ探しても見付からないなんてぇ、どこに隠れたんでしょうねぇ〜?」
 マルキアが首を傾げる。
 と、その時‥‥
「そう言えば、一箇所だけ‥‥村の中で探していない場所が」
 嵐淡が言った。
「墓地の中、です」
 確かに、そこも村の中ではある。
 だが地元の子供は誰も、夏場の肝試しでもない限りは気味悪がって近寄ろうともしない。
 子供達の遊び場では有り得ないのだ。
 しかし‥‥
「しーちゃんなら、平気そうですね」
 セフィードが苦笑いを漏らした。

 そして確かに、しーちゃんは平気だった。
「しーちゃん、おばけなんかこわくないもん♪」
 彼女が潜り込んでいるのは‥‥壊れた棺の中、だった。
 勿論、そこには先客と言うか、本来の持ち主が眠っている訳で‥‥
「しーちゃん、がいこつさんといっしょー♪」

「‥‥いました。あの墓の中です」
 嵐淡が指差したのは、有力者のものだろうか‥‥かなり立派な作りの、玄室を備えた大きな墓だった。
 ただし、かなりの年代物。あちこちが崩れて、玄室に通じる石の扉にも子供が通れる程の隙間が開いている。
「ここから入り込んだんやね‥‥」
 さて、どうするか。
 この中に居る筈なのに、呼べど叫べど出て来ない。
 どうやら、かくれんぼを中断するつもりはない様だ。
「‥‥もっと面白そうな遊びをして気をひいてみますねぇ」
 と、マルキア。
「せやね、奥の手発動や」

 という事で。
「今の季節の遊びと言えば、やっぱり雪合戦ですねぇ」
 ‥‥まあ、墓地でやる遊びではないと思う、が。
 これも、皆の友達しーちゃんを探すため。お母さん達にも事情はきちんと説明済みだ‥‥納得して貰えたかどうかはさて置き。
「大丈夫ですよぉ〜、オバケは寒がりなんですからぁ〜、寒い時には出て来ません〜」
 そうして、マルキアの説得力があるのかないのか、よくわからない言葉に引きずられて渋々集まった村の子供達。
「じゃあ、ルールの説明をしますねぇ〜!」
 マルキアは向こうに隠れているしーちゃんにも聞こえる様に大声で話す。
「とにかく〜、雪玉を相手にぶつける事ぉ〜、それだけですぅ〜!」
 え、それだけ?
「‥‥敵陣の旗を取ったら勝ち、というのは‥‥しーちゃんには難しいかな」
 セフィードが呟く。
 勝敗を決めるのも、またしーちゃんが勝ちに拘って面倒な事になりそうだ。
「では、制限時間だけ決めて、始めましょうか」
 真冬の墓地に、場違いな歓声が響き渡る。
「ほな、いくでー!」
「それーっ!」
「ていっ!」
 子供達よりも、冒険者達の方が楽しそうに見えるが‥‥これも作戦のうち。多分。
 楽しく遊んでいれば、興味を引かれて出て来る筈だ。
「えいっ!」
「そーれっ!」
「きゃああぁっ!?」
 そして、何故か的になっているマルキアさん。
 どうか集中攻撃を受けたりしませんようにという願いも虚しく、こういう遊びをすると常にこうなる、らしい。
「ど、どうしてでしょ‥‥へぶぅっ!」
 どかべしゃぼふっ!
「しーちゃぁん、た、助けてくださぁい!」

「‥‥よんでる。たすけてって、いってる」
 行かなきゃ。
 でも‥‥しーちゃんはかくれんぼの最中なのだ。
 見付けて貰えなければ出られない!
「うー! うー! うぅーー!!」

「‥‥何か、聞こえへんかった?」
「‥‥聞こえましたね‥‥」
 凪とセフィードが顔を見合わせる。
「見付けて欲しいんやろか?」
「そうらしい、ですね」
 しかし、あの場所には子供でなければ入れない。
「では、私が行って来ましょう」
 そう言ったのは、嵐淡だ。
「ミミクリーを使えば、中に入れますから」

 そして‥‥
「シーリー、見付けましたよ」
「しーちゃん、みつかったー!」
 見付かったのに、嬉しそうだ。
 そして、見付けたのは鬼でも何でもない、知らない人なのに‥‥そこは気にならないらしい。
「しーちゃん、たすけにいくーっ!」
 助けるって、まさか‥‥
「あぁっ! もう大丈夫ですからぁ〜、魔法はダメですぅ、あ、特殊能力もぉ」
 ということで。
「どうです、一緒に遊びませんかぁ?」
「あそぶー! しーちゃん、いっしょにあそぶー!」
 ‥‥やれやれ、かくれんぼの事はもうすっかり忘れてしまった様だ‥‥

 そうして、散々遊んで遊び疲れた頃。
「お疲れさんや〜、ほな皆でケーキでも食べよか」
 凪が子供達にケーキを配り、そしてマルキアは暖かいミルクを。
「あ、しーちゃんには冷たいままの方が良いですかぁ?」
「うん、しーちゃんはつめたいのがすきー♪」
「そや、挨拶がまだやってんな」
 ケーキの皿を差し出しながら、凪は恐る恐る、しーちゃんの頭を撫でてみる。
 どうも、知人に良く似ているらしいが‥‥誰だろう?
「初めましてやね?」
「うん、はじめましてー」
 しーちゃんの頭はひんやりと冷たかった。
「なあ、おとうちゃん心配してるで?」
「そうですね」
 と、セフィード。
「かくれんぼは鬼役が皆を探すだけの遊びではありませんよ?」
「え、そーなの?」
「隠れる役が声をかけたりして、見つかってあげるのも楽しいことです。勝っても負けても楽しいのですよ」
「しーちゃん、まけるのいや」
「でも、今日は見付かっても楽しかったでしょう?」
「‥‥ん」
「それに、これからは終了時間は決めておきましょうね。暗くなる前にお家に帰らないと、お友達は怒られてしまいますよ?」
「‥‥うん、せひーせんせーがそーゆうなら、そーする」
 お。どうやらちゃんと覚えていたらしい。
「では、一休みしたらお家に帰りましょうか」
 来る時には覗く余裕もなかったが、洞窟の迷路はきっと、アートの手で改造が施されているに違いない。
 帰る前に、そこでまたひと遊びしてみようか‥‥。