【黙示録】北海の決戦〜運命の神は北で待つ

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:16 G 29 C

参加人数:10人

サポート参加人数:2人

冒険期間:03月01日〜03月11日

リプレイ公開日:2009年03月09日

●オープニング

『そろそろ潮時か‥‥』
 かつて『船長』と呼ばれた人物はそう言って楽しげに笑った。
『本来なら、もう少し奴らを苦しめ、悩ませたかったのだが‥‥あやつのせいで‥‥』
 愚かな部下の失態に小さく苦笑し、だがまあいい、と余裕の笑みを浮かべると彼は振り返った。
 足元に跪くデビル達は並ではない力をその身から漂わせている。
 さらにその後方には、無数のインプやグレムリンなど下級のデビル達も集う。
『こちらの用意は整った。招待客を招くとしよう。いよいよだ‥‥。楽しみだ。なあ? 『船長』よ』
『彼』は氷柱とその中の人物に笑いかけると振り返り、デビル達に告げた。
『いよいよ、時が来た! 目的のものを我らの元へ!』
 地響きのような唸りは空間を支配し‥‥海を、時をうねらせる。
 それは‥‥メルドンを超え‥‥やがてキャメロットへと‥‥。
 王城に集った円卓の騎士達は差し出された一枚の羊皮紙に息を呑んだ。
「これは‥‥まさか‥‥パーシ殿」
 トリスタンの言葉の続きを理解し、パーシは頷く。
『円卓の騎士 パーシ・ヴァル
 汝が家族、オレルドを返して欲しくば、指定の時、指定の場所に来るべし。
 さもなくばオレルドの命は無い‥‥。海の王』
 それは、血で書かれた招待状。いや‥‥挑戦状であった。 
「昨夜王城に接近したデビルを倒した。そいつが持っていたものだ。差出人はおそらく‥‥」
「海の王‥‥リヴァイアサン‥‥」
 静かに告げたライオネルの言葉にパーシは無言で頷く。
 指定の場所はメルドンの先、数十kmの海のど真ん中である。
 そして海の調査を続けていたライオネルの元にはその場所を目指すかのようにデビルが集まっている、との報告も寄せられていた。
「間違いなく、これは罠だ。パーシ卿をおびき寄せる為の」
「おそらく」
 頷いたパーシは思い返すように目を閉じる。
 北海で起きた数々の事件。その結果を‥‥
「冒険者の調査と証言により、オレルド船長がデビルである、という疑義は消えた。貴公への追求もじき止むと思うが‥‥危険だな」
 トリスタンの言葉にああ、とパーシは頷き腕を組む。。
「船長がデビルに捕らえられ利用されているという事実に変わりはない。彼の命と多くの人々の命。秤にかけるまでも無いと思っていたのだが」
「パーシ卿!」
 ライオネルの責めにも似た呼びかけをスッと、ボールスは手で遮る。
「思っていた。それは過去形です。‥‥そうですね」
 そして、小さな微笑を浮かべ、真っ直ぐに彼はパーシを見た。
 その目にパーシもまた真っ直ぐな思いと眼差しで答える。決意の込められた微笑と共に‥‥。
「ああ。ある意味、これはチャンスといえる。俺に来いと言うのであればその場に必ず『奴』が現れる筈だ。その時を見逃さずリヴァイアサンを討つ!」
 おお! 手を握り締め意気上がるライオネル。
 トリスタン、ボールスの口元も綻んでいる。
「この国から海の脅威を取り除くチャンスだな」
 騎士としてこの国に剣を捧げた騎士に怯え惑いがあろう筈もないのだから。
「元より、一人で来いとは書いていないし指定の場所に辿り着く為には船が必要だ。力を貸してはもらえないだろうか?」
 円卓の騎士達の返事は一つであった。



 数日後の夜。
 元海賊にして、現在は海を愛しその平和を守る事に心血を注ぐ男達、イルカ団の頭‥‥いや、船長は、目の前に座った男の静かな声に黙って耳を傾けていた。
「‥‥以上で、大体の事情はお判り頂けましたか?」
「まあ‥‥な」
 船長は、手入れもせずに伸び放題になった顎髭をしごき、頷く。
「確かに、船の扱いにかけちゃ俺達の右に出る者はいねえ」
 少なくとも、彼等はそう自負している。
「おまけに悪運の強さも天下一品だ。何百といる敵さんのド真ん中に突っ込んで、しかも生きて帰ろうなんて脳天気な馬鹿に付き合えるのは、俺らくらいなもんだろうぜ?」
 船長は悪魔も裸足で逃げ出しそうな微笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。危険な仕事ですから、報酬は言い値で‥‥」
「いや、折角だがそいつは遠慮しとくぜ」
 金額の交渉に入ろうとした相手を、船長は即座に制した。
「俺達もな、この海で好き放題しやがる奴等にゃいいかげん頭に来てた所よ。この話は渡りに船ってヤツでな‥‥そう、報酬は、アレだ」
 金ではなく、倒したデビルの数。
「この近くに良い酒場があるんだ。一体ぶっ倒すごとに、そこで酒を一杯。どうだ?」
 相手は、黙って頷く。
「だが、俺らは酒にゃ強ぇぞ? 半端な量じゃ水でも飲んだ方がマシってモンだ。安酒で構わねえが、酔い潰れるほどに頼むぜ?」
「わかりました。店じゅうの酒を買い占めておきましょう。それで足りなければ、キャメロットから運んで来ます」
「流石、話がわかるぜ」
 船長は上機嫌で、話は決まったとばかりに「パン」とひとつ、節くれ立った両手を合わせる。
「それにしても‥‥」
 と、船長は顎髭をしごきながら、改めて相手を子細に観察した。
「あんた、暫く見ねぇうちに一段と地味になったな」
 確かに、今日の彼は上から下まで濃淡の差はあるものの、全て黒一色という出で立ちだった。
 以前は、そんな中にも明るい青などの差し色を好んで使っていた筈だが‥‥
「‥‥なるべく目立たない様に、と思って」
 確かに夜の闇に紛れたら存在さえ消えてしまいそうだが。
「なるほど‥‥誰かに狙われてるって訳、か」
 或いは、何かに。
「ほんの気休めですが、ね」
 いくら姿を地味にしようと、その魂に惹かれて集まる者達からは逃れる事は出来ない。
 それでも‥‥人と関わらず、存在を隠す様にしていれば、誰かを巻き込む危険は減るだろう。
 ただ、息子にだけは時々会いに行く様にはしているが‥‥
「‥‥これが終わったら、自分の方にも決着を付けるつもりです」
 自分の魂を狙っているらしいデビルの影。
 今の所、表立って動いているのはその配下のみだが‥‥
 しかし、それ以上に厄介なのが、デビルに踊らされた人間達だ。
「いつまでも、好きにはさせません」
「‥‥だな」
 船長は肩を竦め、目の前に置かれた酒を一気に煽った。
「その為にもまず、景気良く大掃除と行くか。‥‥海の事なら任せときな」


 今回の目的は、北海で待ち受ける敵の集団に正面切って喧嘩を売る事。
 最奥に潜む敵にはパーシ・ヴァルとライオネルが当たる手筈になっている。自分達の役割は、その援護だ。
 彼等に雑魚を近付けない様に、手当たり次第に敵を倒す。
 敵の種類など詳しい事はわからないが、恐らく雑魚から中級、或いは場合によっては上級まで‥‥デビルを中心とした軍勢である事は間違いない。
 そこに、以前の様に各種アンデッドが加わると見れば良いだろう。

 船は二隻、以前に借り受けたものと同型の中型船と、小回りの利くイルカ団の船。
 その二隻に分乗し、状況によって臨機応変に対応する。
 場合によってはパーシ達の船に乗り移り、ライオネルと共に船を守る事も必要になるだろう。

 ただの一体も、友の邪魔はさせない。


 先の幽霊船団との戦いとは比較にならない、イギリス王国とデビルとの大海戦が今、始まろうとしていた‥‥。

●今回の参加者

 ea0071 シエラ・クライン(28歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea3225 七神 斗織(26歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea5556 フィーナ・ウィンスレット(22歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea7244 七神 蒼汰(26歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea9342 ユキ・ヤツシロ(16歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb3225 ジークリンデ・ケリン(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb3310 藤村 凪(38歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb5451 メグレズ・ファウンテン(36歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 eb8542 エル・カルデア(28歳・♂・ウィザード・エルフ・メイの国)
 eb8642 セイル・ファースト(29歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

アルディス・エルレイル(ea2913)/ 黄桜 喜八(eb5347

●リプレイ本文

「ふふ‥‥ふふふふふ‥‥」
 春と言うには、まだ余りにも寒い北の海。
 沖を目指して急ぐ船の甲板の隅から、低い含み笑いが漏れていた。
「とうとう、北海の騒動に終止符を打つときが来ましたか」
 声の主は、フィーナ・ウィンスレット(ea5556)。
 転落者の救助用にと船に積まれたロープを長く結び、滑り止めの為にいくつもの結び目を作っている所だった。
「最後に勝つのはこちらだという事を思い知らせてやりましょう」
 ――ぎゅっ。
 まるで誰かの首でも締めるかの様に、ロープの両端を力を込めて引っ張る。

 その傍らでは、藤村凪(eb3310)が指輪に刻まれた蝶の動きを気にしながら周囲を見張っていた。
 普段のおっとりのんびり、ほわんとした雰囲気とは違い、全身から張りつめた空気が漂っている。
「‥‥まだ戦場は遠い様ですし、今からそんなに緊張しなくても、大丈夫なのではありませんか?」
 声をかけたのは、七神斗織(ea3225)‥‥七神蒼汰(ea7244)の双子の妹だ。
「さよか‥‥?」
 凪が、普段の顔に戻って首を傾げる。
「‥‥せやな。今から気ぃ張っとったら、本番まで持たへんわ。おおきに」
 ぺこり、と頭を下げた。
「ウチ、藤村いいます。宜しく頼むわー」
「七神斗織です。兄様に頼まれましたので、微力ながらお手伝いいたしますわ」
「あの、私も‥‥微力ながらお手伝いを‥‥ですの」
 斗織の背後からおずおずと顔を覗かせたのは、ユキ・ヤツシロ(ea9342)。
 貴重な回復役だが、多量の血を見ると狂化してしまうのが玉に瑕。
「仲間を攻撃するような事は無いですけれど、まともに魔法も使えなくなると思いますの‥‥」
「せやけど、それでも逃げへんのやね。偉いわー」
 凪は、ユキの頭をひと撫で。
 それに応えて、斗織が頷く。
「ええ、それにもしもの時は、私がお手伝いしますから」
 斗織の気遣いと、メンタルリカバーがあれば‥‥大丈夫。
「‥‥はい。頑張ります‥‥の」
 ユキは、少し恥ずかしそうに、そして嬉しそうに小さく微笑んだ。

 ‥‥少し離れた所で、兄の蒼汰は先を行く船を見つめ、ひとり呟く。
「大量のデビルとアンデッドに正面から喧嘩売って引き付ける役か‥‥」
 予想される敵ばかりでなく、予想もしない敵まで現れる可能性がある。
「ヤツは出てこないと思いたいが‥‥気を引き締めないとな」
 その「ヤツ」が狙う獲物、ボールスは向こうの船に乗っている。
 補佐役としては、終始人目を避ける様に振る舞う彼の様子も気になるところだった。
 それに、久しぶりに会うイルカ団の面子にも挨拶しておきたい。
「‥‥斗織、ちょっと向こうに行って来るな。」
 妹に声をかけ、蒼汰はペガサスの御雷丸に飛び乗った。


 先を行くイルカ団の船。
 その甲板ではシエラ・クライン(ea0071)が杖を片手に祈りを捧げていた。
 その杖はスタッフofセントバード。リトルフライの効果が得られる魔法が封じられている。
「これが使えるなら、誰にでも船同士を行き来出来るようになりますから‥‥」
 ――ふわり。
 シエラの体が宙に浮く。この魔法は風の精霊力に依存するもの‥‥地の精霊力に依存する箒などとは違い、海の上でも問題なく効果を発揮した。
 ただし飛行は不安定で、移動中には格闘などの激しい動きは出来ない。勿論、回避行動も。
「‥‥敵の魔法や射撃にとっては格好の的ですね」
 その様子を見ていたメグレズ・ファウンテン(eb5451)が言った。
 しかし、もとより鉄壁を誇る彼女のこと。その程度の攻撃は痛くも痒くも‥‥いや、痛い事は痛い、かもしれないが。
「船の間を自由に行き来出来るのは重宝します。私は魔獣には乗れませんので‥‥」
 確かに、大抵の魔獣にとっては荷が重すぎる。
「ゴーストシップなどに乗り移る必要が出来た時に、お貸し頂ければ、と」
 使う余裕は、ないかもしれないが。
「わかりました。使う時にはいつでも言って下さい」
 シエラが答える。
 当初の予定では、空中からの狙撃をも視野に入れていたのだが‥‥流石にウィザードの体力では集中砲火を喰らってはひとたまりもない。
 何しろ、敵の数は膨大なのだ。
「敵としては幽霊船からアンデッド、悪魔、最悪は大型の海洋魔獣辺りまで何でもありでしょうか」
 行く手に拡がる水平線を見る。
「他にも未知の魔法や天変地異ぐらいは起こる覚悟をしておいてもいいかも知れませんね」
 さて、何が出て来るか‥‥それは蓋を開けるまでわからなかった。

 そして、海を行く船の目印が太陽から星々に変わった頃。
「‥‥ボールス卿、少しは外の空気を吸った方が良いですよ?」
 蒼汰がボールスの部屋のドアを叩いた。
 だが、返事はない。
「動かないと、体に毒ですよ? って言うより‥‥体が鈍って、いざって時にちゃんと動けませんから!」
「‥‥その心配は、無用です」
 漸く、中から返事が返る。
「それに、あなたも関わらない方が良い。私は身内に不幸を呼び寄せる‥‥巻き込まれたくはないでしょう?」
 ‥‥また、始まった。
 蒼汰は心の中で舌打ちをひとつ‥‥ドアを蹴破りぶん殴りたい衝動を抑えて、言った。
「大丈夫です。もう外は真っ暗ですから」
 そういう問題ではない事はわかっている。
 だが、他に言うべき事が思いつかなかった。
 そんな彼の心中を察したのだろうか‥‥中で人の動く気配がした。
「‥‥あなたも、物好きですね」
 静かにドアが開き、ボールスが困った様に小さく微笑む。
 体全体から、疲労の色が濃く滲み出ていた。
 だが、それには気付かない振りをして、蒼汰はふざけた調子で混ぜっ返す。
「まあ、自覚はあります」

 そして、甲板に出た二人が言葉を交わす事もなく、ただじっと‥‥空と海を見つめていた、その時。
「‥‥ボールス卿、少しよろしいでしょうか」
 背後から声をかけたのは、ジークリンデ・ケリン(eb3225)。
「明日の準備をさせて頂こうかと」
 差し出された手から放たれたのは、フレイムエリベイションの魔法だった。
 超越クラスで使用すれば、丸一日の効果がある。自らと、連れている風神にも既に使用済みだった。
「‥‥ありがとうございます」
 丁寧に頭を下げたボールスに、ジークリンデは言った。
「‥‥強く生きてください。人は想い思われ、想いは続いていくのです」
 だが、その言葉にボールスはついと目を逸らし‥‥呟く様に、一言。
「‥‥何の事、でしょうか」
 何の事かは大体見当が付く。
 それに、気遣いは嬉しいし、有難いとも思う。
 だが今は‥‥触れて欲しくなかった。
「明日は、よろしくお願いします」
 二人にそう言い残し、ボールスはひとり船室へと戻って行った。


 ‥‥翌朝。
 戦域を間近に控えた海上でテレスコープを使ったジークリンデの目に飛び込んで来たのは‥‥無数の敵の姿だった。
 最も奥に二隻の幽霊船。
 そして、それを取り囲む様に雑多な魔物達がひしめいていた。
 宙を漂う無数の黒い影はインプか、グレムリンだろうか、中にはその身に炎を纏った者もいる様だ。
 だが、これで全てではないだろう‥‥全ての手の内を最初から見せるほど、相手も甘くはない。
「他の作戦の参加者達から、大体の作戦は聞いているが‥‥」
 セイル・ファースト(eb8642)がイルカ団のメンバーに声をかける。
「とにかく他の作戦の邪魔をしない様に、手当たり次第に敵を片付けるだけだ。操船、よろしく頼む」
 作戦中にも互いに連絡が取れれば良かったのかもしれないが、それを申し出てくれた友人、黄桜喜八は残念ながら初日の準備にしか関わる事が出来なかった。
「まあ、ないものをねだっても仕方ない。俺達はとにかく、目の前の敵を片付けるだけだ」
「後は、仲間が魔法の射線に入らないようにお願いします」
 エル・カルデア(eb8542)が言った。
 彼の攻撃で主軸になるのはグラビティーキャノン、超越クラスなら直線上に500mの範囲で敵を薙ぎ倒す事が出来る。
「そんだけの射程があると、却って位置取りも難しいが‥‥」
 お頭‥‥いや、船長が答える。
「ま、要するに敵のド真ん中に突っ込みゃ良いって事だ、な」
 大雑把すぎる気もするが、まあそういう事、か。
「後はそっちで角度なり何なり調整してくれや」
 がははと笑い、船長は華奢なエルフの背をどんと叩く。
 そんな彼に、ジークリンデが一言。
「倒した敵の数は、きちんとカウントしてくださいね」
「大丈夫、オレらがきっちり数えるっス!」
 ヨーとピッチ、二人の少年が元気に答えた。
「あ、オレらにはジュースと食いもんで頼むっス!」
「俺らが飲みきれなきゃ、お前らの勝ちだ」
 いつの間にそんな勝負になったのか‥‥
 決戦前だと言うのに何となく和やかな雰囲気なのは、彼等の人徳だろうか。
「じゃあ、俺は上空から。‥‥武運を」
 そう言い残し、自らにオーラエリベイションをかけたセイルはグリフォンの背に飛び乗った。
「‥‥ああ、誰か海に落ちる奴がいたら、こいつに拾わせるからな。怯えないでくれよ?」
「アイッサー!」
 お世話になる可能性が最も高そうな少年二人が、びしっと敬礼を返した。
 その姿を微笑ましげに見て、セイルは上空へ舞い上がる。
「さて‥‥一大決戦に赴きますか!」

「それにしても、どえらい面子だな‥‥」
 船に残った冒険者達を見て、船長はゴワゴワの顎髭を撫でながら呟いた。
 シエラ、ジークリンデ、エル、そしてやはり後方からよりは前方の船にいた方が何かと安全だろう――主に味方が――という事で移って来たフィーナ。
 いずれも達人から超越クラスの魔法の使い手が4人。
 彼等の攻撃を逃れたとしても、そこには円卓の騎士と鉄壁の騎士が待ち構えている。
 そして上空にはセイルと、連絡係を兼ねた蒼汰。
「こいつは負ける気がしねえな‥‥」
 酒飲み勝負の方は、反対に勝てる気がしない。
 だが‥‥そう簡単に、予測した通りには事が進まないのがデビルとの戦いだった。


 イルカ団の船はデビルの集団に向けて真っ直ぐに突っ込んで行く。
 その動きに気付いた敵は、脇目もふらずに船の一点を目指して襲いかかって来た‥‥船の舳先に立つ、円卓の騎士の元へ。
「やはり、この餌には食い付いて来ますか‥‥」
 ボールスは剣も抜かずに、ただそこに立っていた。
「近頃どうにも人気者で、困りますね」
 のんびりと、そんな事を呟いている。
 陽の光を反射して輝く銀色の鎧と、金糸で縁取られた純白のマントは、ペガサスで上空を舞う蒼汰の目からもはっきりと見えた。
「‥‥無茶しなきゃ良いけど‥‥」
 それに、やはり気になるのは「ヤツ」の存在。
 だが、戦場を見渡してもわかる筈もない。いや、識別などしている余裕はなかった。
「手当たり次第に片付けるしか、ないよな」
 眼下の動きに注意を払いつつ、自らにオーラエリベイションをかけ、ペガサスの御雷丸にレジストデビルを願う。
 魔法で撃ち漏らした敵を片付けるのが、当面の目標だ‥‥ただし、仲間の魔法に巻き込まれないように注意しつつ、だが。
「いくら数を揃えても、真っ正面から飛び込むだけでは能がありませんよね‥‥」
 舳先に立つボールスの背後から、脇をかすめる様にしてフィーナのライトニングサンダーボルトが上空へと扇状に伸びる。
「海からくるデビルの軍団、必ず打ち倒します」
 そしてエルのグラビティーキャノンが海面を薙ぎ払った。
 数だけを頼みにした雑魚達は、その一撃で多くがなす術もなく海に沈んで行く。
 それを逃れ、或いは耐えた敵には、リトルフライで上空に舞い上がったジークリンデの超越ストーンが襲いかかった。
「私は静寂が欲しい‥‥悪魔も不死者も、万象悉く石暮に変えて滅ぼしましょう」
 しかし、それで全てを沈黙させる‥‥と、そう上手い具合には行かなかった。
 魔法で強化したとは言え、超越ランクで発動するには成功率に問題がある上、石化に耐性のあるレイスなどには何の効果もない。
「ならば、これで灰燼と為しましょう」
 範囲を絞った超高火力のファイヤーボムが飛んで行く。
 だが、敵はそれだけで全てを滅ぼせる様な、半端な数ではなかった。
「そんな時の為に俺達がいる!」
 セイルが上空からスマッシュで威力を増したソードボンバーを叩き込んだ。
 餌に引き寄せられ近付く敵に、手近な所から攻撃を叩き込んで行く。
 更にはウォータードラゴンパピーのヨルムに命じ、船の周囲で海中の敵への攻撃に参加させ‥‥ついでに、海に落ちた者の救助も。
 この時期の海はまだ凍る様に冷たい。
 落ちたらタダでは済まないとは思うが、急げば救命率も上がるだろう。

 一方、船尾に近い甲板ではシエラが左右と後方に気を配っていた。
「出来るだけ敵を引き付ける必要がありますけど、囲まれると多勢に無勢ですから‥‥」
 だが、船は自ら敵に囲まれようとするかの様に、その中心に向かって進んでいる。
「派手に戦いながらもどれだけ引っかき回せるか、ですね」
 船に固定した縄梯子に腕と足を絡め、体を固定する。そして、自らにフレイムエリベイション。
 獲物の背後を突こうと回り込んだ敵に、ファイヤーボムを叩き込んだ。
 その一撃でグレムリンなどは瀕死の重傷だが、無駄に体力の高いブルーマンなどは尚も怯みもせずに向かって来る。
「妙刃、破軍!」
 その前に立ちはだかったのは、自らにレジストデビルをかけたメグレズだ。
 相手の攻撃を受け止め、返す刀で纏めて吹き飛ばす。
 半端な攻撃など避ける必要もない‥‥まともに受けても蚊に刺された程にも感じない、まさに鉄壁。
 その背後に守られたシエラは、安心して魔法を連発する事が出来た。
 ただし、背後からの奇襲を受けない限りは、だが。
「壁を背にしていますから、多少は防御の効果もあると思うのですが‥‥」
 実体のない敵に対しては、何の意味もない。
「――っ!!」
 突然、背中に刺す様な痛みを感じた。
 デティクトアンデッドでその存在を感じ取ったメグレズが振り返る。
「早く、逃げて下さい!」
 剣を振りかざしながらメグレズが叫ぶ。
 だが縄梯子に体を固定していた事が仇になり、すぐには身動きが取れなかった。
 エリベイションのおかげで憑依される事はなかったが‥‥
「飛刃、砕!」
 シエラに当たらない位置へ回り込み、メグレズは実体のない敵に向けて刃を飛ばす。
 その攻撃で青白い炎の様なものが弾き飛ばされる‥‥レイスだ。
 メグレズはそれに向かって踏み込むと、止めの剣を振り下ろした。
 だが‥‥今度は海側の防御が手薄になる。
「‥‥間に合わない!」
 シエラの魔法を耐えたものが、近付き、その腐りかけた腕を振り上げる。
 その瞬間‥‥
 ――ザンッ!
 上空から、刃と共に蒼汰が降って来た。
「大丈夫か?」
 蒼汰はペガサスに怪我の治療を頼むと、尚も迫り来る敵を斬り付けながら言った。
「離れると危険だ。向こうで皆と固まってた方が良い」
 いくらメグレズが鉄壁でも、一度に四方全ては守れない。
「はい‥‥そうします」
 メグレズと蒼汰に守られつつ、シエラは前方の戦場に合流した。

 そうして大量の雑魚を片付けつつ、パーシや他の仲間達の元へ近付こうとする敵を引き付けながら、イルカ団の船は進む。
 その後方には治療班を乗せた旗艦がひっそりと控えていた。
「ホーリーライトで簡易結界を作りましたの。これでアンデッドは近寄ってこられないと思いますの」
 それに、安全地帯となる様に、ホーリーフィールドも。
「前衛さんが安心して手持ちボーションを使える場所は必要だと思いますの」
 とは言え。
 敵は皆、イルカ団の船にばかり引き寄せられる様で、こちらは戦場のど真ん中とは思えない程に静かだった。
「やはり、狙いは円卓の騎士‥‥なのでしょうか」
 斗織が呟く。
 兄の上司がデビルの標的にされているらしい事は聞いていた。
 それが何故なのか、そこまではわからないが‥‥
「ボールスさん、大丈夫やろか」
 凪が前方を行く船を見やる。本当は、彼の行動にも注意をし、何かあれば援護もしたいのだが。
 ‥‥と、その時。
 石の中の蝶が僅かに羽ばたいた。
「こちらは見逃してくれる、という訳にもいかない様ですね」
 斗織が手にした杖を構える。
 オーラエリベイションとオーラボディで強化は図ってはいるが、戦闘に関しては余り自信がなかった。
 だが、今はそんな事を言っている場合ではない。
「ユキさんは私が守りますから」
 しかし‥‥
 何も来ない。
 石の中の蝶は、確かに反応している。
 その羽ばたき具合から見て、船の近くにいる事は間違いないのだが‥‥
 その時。
「‥‥きゃあっ!!」
 ぐらり、と船が揺れた。
 急に梶を切ったのだろうか、それまでひっそりと波間に浮かんでいた船は針路を変え、そして‥‥スピードを上げる。
 まるで、先を行くイルカ団の船に脇から突っ込んで行く様に。
「どうして、急に!?」
「わからへん!」
 操船は、乗組員に任せてある。
 彼等に何かあったのだろうか‥‥?
 凪は操舵手を振り返った。
 舵を取る人物に、変わった様子は‥‥いや、何か変だ。
 そして、その背後には何か炎の様なゆらめきが見えた。
 炎を纏った、デビル。
 凪はその炎に向けて素早く弓を放った。
 初撃に続き、二度、三度‥‥
「せや、デビルの中には姿を消す事が出来るもんもおるて‥‥!」
 わかっていた筈なのに。
 些細な違和感も見逃さないつもりで、注意を払っていた筈なのに。
 姿を消して、操舵手に近付いたのだ。
 そして彼は‥‥恐らくフォースコマンドで操られている。
「止めなくては‥‥向こうの船にぶつかってしまいます!」
 斗織が飛び出す。
 しかし、どうすれば止められるのか‥‥?
「あ、ええと‥‥私も行きますの!」
 何が出来るかわからないが‥‥ユキは安全地帯を飛び出し、斗織の後を追った。

「船が‥‥こちらに突っ込んできます!」
 最初に気付いたのは、シエラだった。
「ゴーストシップでしょうか」
 いや、こちらに突っ込んで来る船など、ゴーストシップ以外にあり得ない。
 エルはローリンググラビティーで反転させ転覆を狙うか、それともグラビティーキャノンによって船体ごと粉砕するか、暫し躊躇った後、呪文を唱えようと目標を定める。
 しかし‥‥
「あれは!」
 そう、彼等の仲間が乗る旗艦だった。
 それが全速でこちらに突っ込んで来る。
「どういう事だ!?」
 いや、今は考えている暇はない。
「全速、回避!!」
 船長の指示と同時に、セイルと蒼汰が向こうの船に乗り移るべく、それぞれの相棒に飛び乗る。
「てめえら、振り落とされんじゃねえぞ!!」
 ぐらり、船体が横へ傾ぐ。
 殆どの者は自力で踏ん張ったが、船縁から投げ出されそうになった何人かはフィーナが用意したロープに掴まり難を逃れた。
 そのフィーナは‥‥
「船を襲って来るものは優先的に倒すべきなんですが」
 しかし、あれは味方。
 いくら船の維持が至上命題とは言え、味方の船を壊してはシャレにならない。
 そして、船が回避行動を取っている最中にも敵は容赦なく襲って来る。
「では、代わりに的になって頂きましょうか」
 標的は、向こうの船に渡るべく上空を飛ぶ仲間達にまとわりつく邪魔者。
 向こうの船は、彼等に任せておこう‥‥と言うか、任せるしかない。

 一方、突進する船に飛び降りたセイルと蒼汰は真っ直ぐに孤軍奮闘する凪の元へ向かった。
 エボリューションの効果か、相手のデビルに対し、凪の攻撃は全く効かなくなっていた。
「野郎‥‥っ!!」
 再び魔法を使う隙を与えぬうちにと、二人は最大級の攻撃を繰り出す。
 二方向から同時に斬り付けられ、デビルは断末魔の叫びを残して消えた。
「お‥‥おおきに」
 ほっと一息ついた凪は、ポーションを喉に流し込んだ。
「あ、舵は‥‥?」
 操舵手は、どうなっただろう。

「‥‥ごめんなさいっ!」
 謝罪の言葉と共に、斗織は操舵手の後頭部を思い切り殴りつけた。
「ぐ‥‥っ」
 鈍い叫びを残して、男は舵に寄りかかる様に崩れ落ちる。
 仕方がない、メンタルリカバーを試してみても効果がなかったのだから。
「ごめんなさいですの。怪我はすぐに治しますの‥‥!」
 ユキが、とりあえずリカバーをかける。
 だが、問題は‥‥
「この船は、どうすれば止まるのでしょう?」
 全く、さっぱりわからない。
 それでも‥‥このまま真っ直ぐ進める訳にはいかない。
 とりあえず、舵輪を回して‥‥
「う、動きません‥‥っ」
 ユキが手を貸してみるが、やはりビクともしない。
「‥‥ああ、悪いな、お嬢ちゃんがた」
 その時‥‥後ろから大きな手が伸びて来た。
 騒ぎに気付いた船員が、漸く駆けつけたのだ。

 ‥‥間一髪。
 二隻の船は、船縁をこする様にしてすれ違った。
「同士討ちなど、洒落になりません」
 フィーナが小さく溜息をつく。
 しかしその間にも、敵の攻撃は続いていた。
「これは、いつまで続くのでしょうね‥‥」
 時間にすれば、そう長い事戦っている訳ではない。
 だが、そろそろ魔力の補給アイテムも心許なくなってきた。
 シエラが見上げた空に、敵に混じってペガサスの姿が見えた。
 伝令役の蒼汰だ。
 味方の援護を受け、甲板に舞い降りた蒼汰はボールスの元へ駆けつける。
「ボールス卿、向こうの船‥‥どうしますか?」
 あちらに残ったメンバーで話し合った結果を伝えた。
 また守りが手薄な所を襲われるのが怖い。ならば戦力をこちらに集中させてはどうか‥‥と。
「そうですね、帰りの足は確保しておく必要がありますし‥‥」
「おいおい、って事は‥‥この船ぶっ壊そうって気か?」
 そんな事までは契約に入っていないと船長。
 だが‥‥
「壊れた所は責任を持って修理しますから」
 ボールスはにっこりと微笑んだ。
 有無を言わせぬ笑顔を向けられ、流石の船長も諦めた様に肩を竦める。
「ま、無傷で帰れるたぁ思っちゃいねえがな」


 そして旗艦を戦域から遠ざけ、冒険者全員がイルカ団の船に合流した後半戦。
 治療者のユキを中心に、冒険者達は円陣を組む。
 ユキの背中を庇う様に斗織が立ち、すぐ外側にシエラ、フィーナ、ジークリンデ、エルの4人のウィザードと凪、そして外周にはメグレズ、上空にはセイルと蒼汰。
 餌であるボールスは、少し離れた所に立っていた‥‥ただし、流石にもう剣は抜いているが。
 船は今、パーシ達の船を守る様に、そのすぐ傍に停止していた。
 彼等の船を守る為にも手が必要な事はわかっている。
 だが、そちらに人手を割く余裕がない程、敵は次から次へと湧き出していた。
「あれは‥‥シップウォーターです」
 下級デビルやアンデッドの背後に隠れる様にして姿を現したデビル。
 その特徴をエルが皆に伝える。
「デビル魔法に加えて水系の魔法が使えた筈です‥‥それに、魅了や言霊も使います。気を付けて」
「ならば、これでお返ししましょう」
 相手が放ったアイスブリザードは、フィーナがストームで相殺。
 その隙を狙って、凪が次々と矢を放つ。
 エボリューションで効果が消されれば、すぐさま標的を変えて連射。
 手持ちの矢は全て使い切る覚悟だった。
 そして4人のウィザードからは四方に向けて範囲魔法。
 取りこぼしは前衛と上空の4人が片付けた。
「妙刃、破軍!」
「妙刃、水月!」
 幽霊船に遭遇出来なかった憂さ晴らしだろうか、メグレズの攻撃には気合いが入っている。
 まあ、派手な破壊活動が出来ない代わりに、相当数の敵を片付けた筈ではあるのだが。
 それでも間に合わなければ、エルのアグラベイションで動きを鈍らせ‥‥

 そうして、どれくらい戦い続けただろうか。
 気が付けば‥‥押し寄せてくる敵の波が、消えていた。
「‥‥終わった‥‥?」
 誰かが呟く。
「全部、片付いたのでしょうか‥‥」
 急に静かになった船上で、冒険者達は互いに顔を見合わせる。
「‥‥よかった‥‥ですの」
 ユキがほっと安堵の息をついた。
 今回は剣での斬り合いなどとは違い、怪我はしてもそう多量の血を見る様な場面はなかった様だ。
 しかし、狂化はせずに済んだものの、果たして自分は役に立てたのだろうか?
「やっぱり回復役が近くにいると助かるな」
 その気持ちを察したのか、セイルが声をかける。
「ああ、ほんと助かったよ。お疲れさん」
 蒼汰も労いの言葉をかけた。
 そして、普段ならここで、上司も何か声をかけてくれる筈だ‥‥と、蒼汰が振り向いた、その時。
「‥‥レオン!!」
 ボールスが叫んだ。
 視線の先には、パーシ達の船。
 そこに一人残った弟、ライオネルの姿があった‥‥ただし、甲板に倒れ伏して。
 敵は、全て片付けた筈だ。
 凪の手にある石の中の蝶にも反応はない。
 だが‥‥
「レオン!!」
 再度の叫びと共に、ボールスの体が白い光に包まれた。
 手は届かない‥‥だが、この魔法なら、届く。
 ギブライフだ。ランクは超越。
 白い光がライオネルの体に流れ込み、彼は死の淵から引き戻される。
 だが、代わりに‥‥
「ボールスさん!」
「ボールス卿っ!」
 凪と、蒼汰が駆け寄る。
 だが、それよりも早く‥‥向こうの船から、魔法が放たれた。
 跪き、動けないボールスに向かって、真っ直ぐに‥‥アイスコフィンの魔法が。
「兄者ああああ!!!」
「――!?」
 その声に顔を上げたボールスが見たものは、自分を庇って氷の中に閉じ込められた弟の姿だった。

 次の瞬間‥‥
 ――ドオォォン!!
 大音声と共に、それが姿を現した。
 目の前の船を粉々に砕き、その真下から。
 衝撃で、こちらの船も木の葉のように揺れる。
 冒険者達も足元をすくわれ、ある者は船縁に頭を打ち付け、またある者はそのまま海に投げ出された。
 その中で‥‥ボールスは見ていた。
 ライオネルを包み込んだ氷柱が海へと落ち、それを‥‥現れた大海蛇が拾い上げ、去って行った、その一部始終を。
 見ている事しか、出来なかった。
「‥‥レオン‥‥レオン!!」
「ダメです、ボールス卿っ! もう‥‥っ、もう、間に合わないっ!」
 駆け寄った蒼汰が必死で押さえ付ける。
 体勢を立て直したエルが海面に向かって魔法を放とうとするが‥‥
 もう、遅かった。
 そこには、何もない。
「レオン!!!」
 大海蛇と共に海の底に呑まれた、彼の姿も。

 一体何が起きたのか‥‥誰も、正確にはわからなかった。
 だが、あの大量の敵はただの囮、捨て駒にすぎなかったらしい事だけは、何となくわかった。
 ‥‥円卓の騎士を手に入れる為の。

「‥‥ダメだな。舵がやられちまった」
 追いかけるのは無理だ、と船長が首を振る。
「相手がどこに消えたのかもわからねえし、それに‥‥」
 あれが、と顎で示した先にはボールスの姿があった。
「あのザマじゃ、な」
 シエラの持つ宝玉による治療で、ギブライフによって受けたダメージは完全に回復している。
 だが‥‥その瞳には何も映らず、耳にも、何も聞こえてはいなかった。
 海に投げ出された者達はすぐに拾い上げられ、フィーナが用意した湯のお陰もあって無事だったが‥‥


 またひとつ、大切なものを失ってしまった。
 それも‥‥またしても、自分のせいで。

 もう‥‥いやだ。

 もう‥‥


「‥‥それで良い‥‥」
 全てが終わった北の海に、静かな声が響いた。
「これで、またひとつ我の元へ近付いた‥‥」
 クックック‥‥と、含み笑いが漏れる。
 やがて声の主は姿を現さぬまま、何処かへと去って行った。