オレが頑張るから。
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■ショートシナリオ
担当:STANZA
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:5人
サポート参加人数:1人
冒険期間:04月21日〜04月26日
リプレイ公開日:2009年04月30日
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●オープニング
「‥‥ねえ師匠、まだ戻らないの‥‥?」
タンブリッジウェルズ近郊の森の中。
その奥にある隠れ家に、円卓の騎士ボールス・ド・ガニスは身を潜めていた。
いや‥‥身を潜めると言うより、仕事をサボって遊んでいると言った方が良いかもしれない。
「私がいなくても、問題はないでしょう?」
樹上に作られた陽当たりの良いデッキ部分に腰を下ろし、寄り添う猫の背を撫でながらボールスは答える。
その下では、彼の息子エルディンが狐と一緒に楽しそうに転げ回っていた。
「そりゃ、今んとこ大丈夫だけど‥‥」
小さな溜息と共に、ウォルは諦めた様に肩を竦めた。
あの事件以来、ボールスは暫くどこかへ行方をくらましていた。
どこで何をしていたのか、本人は何も話さない。そして、誰も訊かなかった。
帰って来てくれただけで、充分だから。
そして、その後すぐに息子や動物達を連れてこの隠れ家へやって来たのだ‥‥野菜の苗と、農作業の道具一式を持って。
それから数日が経った今、目の前の空き地には小さな畑が出来上がっていた。
釣りや狩り、それに森での山菜採りなどと合わせれば、充分に自給自足が出来る。
つまり、誰にも会わずに済むという事だ。
本当は一人で来るつもりだった様だが、息子の顔を見て考えを変えたらしい。
「(エルがあんな楽しそうにしてるの、久しぶりだな)」
ウォルも子守担当として出来る限りの事をしてきたつもりだが、やはり家族には‥‥父親には敵わない。
‥‥例え、血の繋がりがなかったとしても。
「‥‥じゃあ、オレ、帰るね」
これ以上ここにいても、親子の邪魔になるだけだ‥‥多分、どちらも「邪魔だ」などとは言わないだろうが。
「仕事とか、色々‥‥は、こっちで何とかするから」
訊きたい事は山ほどある。
特に、弟ライオネルの事。
助けに行かないのか、と尋ねたい。
だが‥‥
恐らく、動けないのだろう。
もし今、状況が整って出陣の要請があったとしても、多分。
助けたい気持ちがあっても、助ける手段を見付けたとしても‥‥体が、動かない。
ウォルにも、そんな経験がある。
だから、わかる。
今はただ、待つしかないのだと。
「ウォル、ばいばーい!」
背を向けたウォルの背に、エルが元気に手を振った。
暫く後。
ウォルは領地の外れにある小さな村に来ていた。
村と言っても、住んでいるのは老婆がひとりきり。
昔は村人も大勢いたらしいが、十数年前に戦禍に巻き込まれて以来、村を離れる者が後を絶たないのだという。
「‥‥ほんとに、空き家だらけだな‥‥」
何処の家も、草が伸び放題。
既にその勢いに侵食されて崩れかけた家もある。
綺麗に手入れされているのは、今も村に残る老婆の家と、その周辺に拡がる畑のみだった。
だが、その畑も‥‥近寄ってみれば「綺麗」とは言い難いものである事がわかる。
周辺の空き家に住みついたデビルの集団に荒らされているのだ。
今日はそのデビル退治について、老婆の了解を得ようとやって来たのだが‥‥
「何度言われても、ダメなもんはダメだよ!」
玄関先にウォルを立たせたまま、老婆は言った。
「あの畑には誰であろうと一歩も入らせないって言ってるだろ!」
「でも‥‥デビル達は平気で入り込んで荒らし回ってるし。奴等を退治しなきゃ、荒れる一方だろ?」
「それが何だい?」
老婆は腰に手を当ててふんぞり返った。
「あたしゃね、騎士って奴が大っキライなんだよ! あいつらと来たら、壊すばっかりで何も作りゃしない!」
それは‥‥確かに、この村に人がいなくなった経緯を考えれば、その気持ちはわからなくもない。
「でも、お婆さんはまだ、ここで暮らしてたいんだろ? だったら‥‥!」
「余計な世話だって言ってるんだよ。あたしゃ誰の世話にもならない。ここで一人で生きて、一人で死んでいくんだ。ほっといておくれ!」
それに退治と称してさんざん畑を踏み荒らし、雑草も生えない荒れ地にされる位なら悪魔に荒らされた方がまだマシだ、と老婆は鼻を鳴らした。
「とにかく、帰っとくれ。あたしゃ奴等を退治して欲しいと頼んだ覚えもないし、退治して欲しいとも思っちゃいないんだからね!」
「でも‥‥っ!」
老婆に背中を押されて追い出されそうになりながら、ウォルは必死で踏ん張り、食い下がる。
「だったら‥‥っ! 畑に入らなきゃ良いんだろ?」
畑には一歩も足を踏み入れず、これ以上荒らさない様に。
「バカかい、あんた。出来るわけないだろ!?」
確かに、畑は広い。
その中に入り込んだデビルを‥‥さて、どうしようか。
弓や魔法なら遠距離攻撃も出来るが、撃ち落としたものをどうやって回収すれば良いのか。
「‥‥一撃で仕留められれば、死体も残らなくて楽なんだけど‥‥ま、いいや」
自分ひとりの頭で考え付かないものなら、誰かの頭を借りれば良い。
「とにかく、何とかするから‥‥オレに任せてくれよ、ばーちゃん!」
そう言うと、ウォルは相手に断る間も与えずに村を飛び出して行った。
●リプレイ本文
「過去の戦禍で何があったか、今更知る術は無いが‥‥」
キャメロットから現地へ向かう道すがら、オイル・ツァーン(ea0018)が呟く。
「当時の騎士達とて、人を守る志はあったと信じたいものだ」
しかし結果として村が荒れ、人が去り‥‥独り残った老婆の心を傷付けた事も事実。
「ウォルフリード、それをどう思う?」
「‥‥どうって‥‥」
オイルに問われ、ウォルは考える。
「そりゃ、オレ達が戦うのは誰かを‥‥何かを守る為だけど。でも、犠牲を全然出さずにっていうのは‥‥無理だよ」
「‥‥それは、強者の理屈ですね」
マイ・グリン(ea5380)が言った。
「‥‥ボールス卿の下にいると見失いそうになりますけど‥‥」
「見失ってなんかいない!」
「‥‥そうでしょうか。‥‥支配する側の都合に巻き込まれたり、顧みられなかったり、或いは見落とされた土地は大体そうなります」
「じゃあ、師匠が悪いってのか? 気付かなかったから‥‥」
「ウォル、誰もそんなこと言ってないってば〜」
アルディス・エルレイル(ea2913)が飛んで来て、ウォルの頭にとまる。
「どうしたのさ、なんか機嫌悪いね」
「べつにっ」
不機嫌なのは、そういうお年頃だから。14歳は思春期真っ只中だった。
「べつに‥‥何でもない」
ただ‥‥
自分の大好きな人が悲しみの底に沈んだままでいる事が。
上手く行く筈の事が、何もかも上手く行かない事が。
何かしたいのに、余りにも無力である自分が‥‥
悲しくて、悔しくて。
『私達が護るべきは形のあるものばかりではないですわ』
出がけに聞いた、サクラ・フリューゲルの言葉。
わかってる。
守りたいのは、人の心だ。
でも、それが出来ない‥‥どうすれば良いのか、わからない。
『ウォル、貴方は貴方の答えを‥‥』
御守り代わりにと口づけを受けた額の真ん中が、熱を持った様に疼く。
「‥‥失った信用は言葉で取り返せませんし、ゼロ以下からでも1つ1つ行動するしかありませんね」
‥‥それも、わかってる。
「人の心は難しいね〜 」
ウォルの気持ちを代弁するかの様に、アルディスが頭の上で呟いた。
「とにかく、畑に入るなと言うのだから、それは当然守るべきだろうな」
畑に入らず戦えるように武器は持ったが、畑から引き離して戦えるならそれが一番良い、とオイル。
幸いと言うべきか、デビルの内の一部はグレムリンだという話だ。
それならエールで誘き寄せる手が使える。
「ウォルフリード、手配を頼めるか?」
「あ、資金半分は出してあげるからさ。うん、大丈夫、後で弟分から取り立てるから」
だが、アルディスの言葉にウォルは首を振った。
「活動資金は師匠から貰ってるから」
エール樽はタンブリッジウェルズの町で手配すれば良いだろう。
それに‥‥
「お前も、少しは装備整えておけよ。これも経費って事でオレが出してやるからさ」
今回が初めての冒険だという僧兵の白宵藍(ec6386)に声をかける。
が‥‥
「‥‥?」
「あー‥‥アルディス、悪いけど通訳頼む」
「はいはい〜」
宵藍はまだ、母国である華国の言葉しか話せなかった。
片言ではあるが一通りの言葉を操れるアルディスに通訳を頼み、やっと話が通じる。
「え、あの、僕‥‥?」
「そう、お前。保存食とか薬とか、必需品だぜ?」
「あ、はい、ごめんなさい‥‥」
「謝ることねーから。次から気を付けりゃ良いんだし」
自分の方がほんの少し年上という事で、何だかお兄さん風を吹かせている様な。
そして辿り着いた件の村。
「‥‥とても、人が住んでいる様には思えませんね‥‥」
荒れ放題になったその様子を見てシャロン・シェフィールド(ec4984)が呟いた。
それでもほんの僅か、人手が入っている様に見える‥‥あれが老婆の畑だろうか。
だが、その畑にしても踏み荒らされて無残な姿を晒している。
「こんな状態でも『畑を荒らすな』『デビルが荒らした方がまだマシ』と仰っているのですよね」
畑そのものより、そこに象徴された物に踏み入られたくないという事だろうか。
戦禍以降、村人達が去り、今は老婆がただ一人。
「もしかすると、畑はかつての村の、人と活気ある頃の象徴なのかも‥‥畑に踏み入られる事で、頑なに守ってきた村での生活、最後の意地を再び踏み荒らされる事を恐れていらっしゃるのかもしれませんね」
しかし、だからといって悪魔の放置を許すわけにもいかない。
「例え今は人がおらずとも、村を使わせてもらうことになるのだ。まずは老婆に話を通しておかねばなるまい」
自身は騎士ではないが、騎士の遣いという形になる以上、罵声は覚悟の上だとオイル。
「じゃあ、僕はちょっと‥‥」
アルディスが老婆の家の脇に立つ木の上へ飛ぶ。
「(あの人‥‥か。ほんと、気難しそうな人だね)」
開け放たれた窓から狙いを定め、チャームの魔法を発動。
これで少しは話がしやすくなるだろう‥‥なる、筈だ。が。
「何だい、あんたら? 今度は数の暴力でどうにかしようってのかい!?」
‥‥効果は、あったのだろうか。
「おばあさん、ボク達デビルを退治しにきた冒険者だよ」
「頼んだ覚えはないね」
「あ、うん、そうかもしれないけど‥‥でも、このまま放って置く訳にいかないでしょ?」
「このまま放っといたら、何かあんたらに都合の悪い事でもあるのかい!? せいぜいババアがひとり、おっ死ぬだけじゃないか。あんたらにゃ痛くも痒くもないだろうさ!」
「お気持ちは‥‥わかります。いいえ、わかってはいないのかもしれませんが‥‥」
シャロンが言った。
「もう一度、この村を守らせて頂けませんか?」
誠実である事だけで信頼を得られはしないだろう。
それに、もう遅いかもしれないし、茶番と取られるかもしれない。
それでも‥‥
アルディスが続ける。
「畑には出来るだけ入らないし、荒れた畑は退治した後にキチンと耕して綺麗にする。約束するからボク達が退治しにいくの、認めて?」
「耕して綺麗にする? 素人に何が出来るってんだい。入らせないよ、例え誰だろうと!」
「‥‥わかった。だが、この村に滞在する事はお許し頂けるだろうか。畑は確かに貴女の所有だろうが、村全体がそうという訳でもあるまい」
「だから何だい? あんたの言う事は確かに正しいがね、そんなもんは畑の肥やしにもなりゃしないんだよ」
オイルの言葉にも、老婆はそう言い返す。
頑なな相手に言い訳をするよりは、行動で示すしかないのだろう‥‥と、その場を辞そうとした、その時。
――くいくい。
誰かがアルディスの羽根をつまんで、遠慮がちに引っ張った。
「‥‥宵藍? 通訳してほしいの?」
「‥‥はい」
老婆に挨拶がしたい様だ。
「こんにちは、初めまして。僕は、僧兵の白宵藍 (バイ・シャオラン)と申します。どうぞよろしく、お願い致します」
――ぺこり。
「‥‥ふん」
老婆の反応は相変わらずだが、宵藍はメゲなかった。
「あの、皆さんが準備をしている間‥‥僕はここに居ても良いでしょうか?」
仲間達に訊ねる。
老婆は悲しい事が続いて、深く傷ついているのではないだろうか。
そんな時は、誰かが傍にいる事が一番だ。
言葉が通じても言い合いになるだけなら、いっそ通じない方が良い。
その方が、心が通じる時もある‥‥
にっこりと微笑んだ宵藍に、老婆は‥‥
「‥‥ふん」
だが、追い返す事もしなかった。
「数は30から、昼は隠れ潜んでいるとなれば、動きを見せる夜に確実に蹴散らさねばなりませんね」
村の空き地に野営用のテントを張りながら、シャロンが言った。
「‥‥例え射撃主体でも、畑内での戦闘は確実に畑を荒らすでしょうから‥‥」
なるべく離れた場所に誘き寄せたい所だと、空飛ぶ絨毯でエール樽を運んで来たマイが野営地の外れに樽を下ろす。
「‥‥この辺りなら、流れ矢が畑に入る心配もないでしょうか」
無警戒を装いつつ、石の中の蝶をちらり。
数はわからないが、そう遠くない場所にデビルがいるらしい反応があった。
「グレムリン辺りはこれで釣れる可能性があるが‥‥インプもいるという話だったな。一気に全滅は難しいか」
「‥‥こちらが劣勢のふりをすれば、油断するでしょうか」
相手に傷を負わせつつも、追い払われるように逃走してはどうだろうかとマイ。
「‥‥その後、敵の注意がこちらから外れるのを待って、出来れば包囲の上で反撃に転じれば効果的かと」
「そうだな。それでやってみるか‥‥」
そして‥‥真夜中。
「(どうか、皆さんの足を引っ張りませんように‥‥少しでもお役に立てますように‥‥)」
テントの中でそう祈りつつ、宵藍が見守る目の前。
エールの樽に近付く影が‥‥1、2、‥‥沢山。
見張られているとも知らず、或いは知っていても油断しているのか、警戒はしてもエールの魅力には抗し難いのか‥‥
アルディスが、そっとテントから飛び立つ。
反対側から抜け出したウォルが、十字架を手に祈りを捧げ‥‥
暗くて良く見えないが、蠢く影が集まる場所はわかる。
その場所に向けてホーリーライトの光球を投げると、たちまち阿鼻叫喚の騒ぎが巻き起こった。
それを合図に仲間達の攻撃が開始される。
「(相手は初級デビル、それにこれだけ固まっていれば‥‥)」
翼を狙い、シャロンの矢が飛ぶ‥‥3本同時に。
「デビルは人とは根本的に異なるもの、容赦はしませんから!」
宵藍は出来る限りの速さでブラックホーリーを撃ち込んでいった。
まずは広く浅く、なるべく多くの相手にダメージを与える様に。
そして、ある程度の手応えを感じた所で‥‥ひと芝居。
「ダメだよ、数が多すぎる!」
木の上からアルディスがわざとらしく情けない声を上げる。
どこかで見ている筈のインプ達がこれで油断し、「カモだ」と思って姿を現してくれると良いのだが‥‥
「(うわ‥‥簡単に騙されてるよ‥‥)」
誰もいなくなった野営地で悪戯をしようと言うのか‥‥放置された荷物に小さな影がいくつか、近付いて来る。
グレムリンの方は逃げた相手よりもエールの方が気になるらしく、すぐさま先を争って樽に取り付き始めた。
このまま酔い潰れてくれると楽なのだが‥‥と、そんな淡い期待を抱きつつ、冒険者達は反転しエール樽を取り囲む。
今度の攻撃は、手加減なしだ。
翼に傷を負った敵を狙い、マイが足払いを仕掛ける。
「‥‥格闘は苦手なのですけど、転がして踏みつける程度なら‥‥」
――むぎゅっ!
‥‥結構、痛い?
「畑に入らせはしない‥‥!」
オイルは両手に持ったダガーで次々に斬り付けて行く。
「ほらほら、食べられちゃうよ〜?」
難を逃れた敵にはアルディスがイリュージョンで幻覚を見せ、抵抗の意思を奪っていった。
確実に倒さなければ、逃げられる。
そうなっては、ますます老婆の信用を得られなくなってしまうだろう。
「そちらには行かせません」
逃げる相手との間に入り、シャロンは矢を放つ。多少の反撃は気にしない。
「しかし、単体では苦戦する筈もない相手だが‥‥」
間断なく斬り付けながらオイルが呟く。
こう数が多いと、それだけでも脅威だった。
しかし、それでも‥‥
「これで、全部かな?」
上空から村を見渡し、アルディスが訊ねる。
「‥‥蝶の反応は、ありません」
逃げた者もいるかもしれないが、これだけ派手にやられた場所に舞い戻る気はしないだろう。
死体が残らない為に正確な数はわからないが、恐らく殆どのデビルを倒した筈だ。
「後の処理は、朝になってからだな」
オイルが言った。
ひとまず休憩が必要だし、こう暗くては何も出来ない。
そして翌朝。
「約束通り、畑には入らなかったけど‥‥」
やっぱり怒ってるかな、とアルディスは老婆の家の方をちらり。
「チャーム、効かなかったみたいだね」
「仕方ないさ。魔法で何とかなるなら苦労しないし」
それより、後の作業が大切だとウォル。
落ちた矢は全て回収し、野営地の跡も元通りにした。
後は畑での作業だが‥‥
「入らせて貰いますね」
聞こえないとは知りつつも、宵藍は一礼し、亜荒れ果てた畑に足を踏み入れる。
「どんな作物が植えられていたのか、これから何を植えるのかもわかりませんけれど‥‥せめて綺麗に耕すくらいは、何とか」
慣れない手つきで鍬を振るう。
「また怒られるかもしれないけど、約束だもんね」
アルディスは踏み潰された作物を回収し、一箇所に集めていった。
「時が経ち過ぎてはいますが、村から去った方々がどうしているかの調査は出来ないでしょうか」
手を動かしながら、シャロンが言った。
「可能なら帰還と村の復興支援の計画も立ててみてはどうかと思うのですが」
「‥‥そうだね。ちょっと調べてみるよ」
ウォルが答える。
出発前に調べた所では、この村は廃村になって久しい。
「師匠がここに来た時にはもう、村の名前も記録になかったみたいだけど‥‥」
老婆は、教えてくれるだろうか。
村の名前と、それに‥‥自分の名前を。
「これが終わったら、訊いてみましょうか」
老婆の家から、パンを焼く香ばしい香りが漂って来た。
‥‥自分達の為に焼いてくれているのだと、そう思うのは虫が良すぎるだろうか‥‥。