思い出の庭
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■ショートシナリオ担当：STANZA 対応レベル：フリーｌｖ 難易度：普通 成功報酬：0 G 39 C 参加人数：4人 サポート参加人数：-人 冒険期間：05月15日〜05月18日 リプレイ公開日：2009年05月23日 |
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●オープニング
「‥‥あの‥‥」冒険者ギルドの受付で、男は遠慮がちに声をかけた。
「ここは、その‥‥庭の草刈りとか、そんな事をお願いしても良いのでしょうか‥‥」
そして依頼を物色する屈強そうな冒険者達の姿をちらり。
「あの、場違いな依頼‥‥でしたか？」
「いいえ、とんでもない」
その問いに、受付係はとびきりの営業スマイルで答えた。
冒険者ギルドは何でも屋。迷子の猫探しから掃除洗濯喧嘩の仲裁まで守備範囲は広いのだ。
「ああ、良かった‥‥」
それを聞いて、男はすうっと肩の力を抜いた。
「では、お願いします‥‥暫く放置していたら、庭の雑草が私一人では手に負えない程に生い茂ってしまいまして‥‥」
その庭は、彼の実家にある。
数年前まで両親が暮らしていたその家は、父親‥‥つまり母の夫が亡くなって以来、無人になっていた。
「母ももう歳ですし、一人暮らしも何かと不安ですからね。父が亡くなってからは、母には私達の家で同居して貰っているのですが‥‥」
このところ、母がしきりに言うのだ。帰りたい、と。
「長年暮らした家が恋しいと言いまして。最期はそこで迎えたい、と‥‥まだ、お迎えを待つ程の歳ではない‥‥とは思うのですが、ね」
気持ちはわかる。それに‥‥親孝行の様な事もしてみたい。
だから、決めたのだ。
この際一家全員で移り住もうと‥‥両親が暮らし、そして自分が育ったその家に。
「私は独立してからずっと、両親とは離れて暮らしていましたので」
彼の一家が現在住んでいる家は、キャメロットの中心に近い賑やかな場所にある。
王宮の事務官という仕事の関係上、そこに住むのが便利なのだが。
「実家からでも通えない距離ではありませんからね。市内には変わりありませんし」
実家は郊外の住宅地。馬を飛ばして１時間程の場所だった。
「承知しました。では、ご依頼は庭の草刈りでよろしいですか？」
「ええ‥‥」
それでお願いしますと言いかけて、男は付け加えた。
「‥‥ついでに、部屋の片付けとか‥‥掃除なども、お願い出来ますか？」
数年の間無人だった家は恐らく埃が積もり、あちこち傷んでいる事だろう。
「家で寝泊まりして貰って構いませんし、簡単な食事も用意します。ですから‥‥庭の方も草刈りだけでなく、綺麗に整えて頂けると助かります。その分の費用は追加で出しますので」
そう‥‥あの庭は昔、季節の花で溢れていた。
薔薇やクレマチス、ハーブに野の花、ベリー類‥‥空いた土地には綺麗に手入れされた芝生が拡がっていた。
今は雑草に埋もれて見えないが、もしかしたらまだ枯れずに生きているものがあるかもしれない。
草の影に隠れた鉢植えが、細々と命を繋いでいるかも‥‥
「すぐに元通りという訳にはいかないでしょうが‥‥私も手伝いますので」
家族の思い出が詰まった庭を、少しでも綺麗に。
「よろしくお願いします」
男は丁寧に頭を下げた。
●今回の参加者
ea5380 マイ・グリン（22歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国）eb3450 デメトリオス・パライオロゴス（33歳・♂・ウィザード・パラ・ビザンチン帝国）
ec4179 ルースアン・テイルストン（25歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国）
ec5629 ラヴィサフィア・フォルミナム（16歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国）
●リプレイ本文
「‥‥すごぉい‥‥ラヴィ、埋もれてしまいそうですわ」その庭とご対面したラヴィサフィア・フォルミナム（ec5629）の口から、思わずそんな言葉が漏れる。
春になって伸びた草と、冬を越して立ち枯れた草。それらが競い合う様に空に向かって伸びていた。
「‥‥玄関はどこでしょうか」
同様に視界を遮られたマイ・グリン（ea5380）が草を掻き分け足を踏み出そうとする。が。
「ちょっと待って」
ルースアン・テイルストン（ec4179）が呼び止めた。
「危険な害虫が潜んでいるといけませんから、先に調べてしまいましょう」
蜂の巣が隠れていたり、毒を持つ事が多い毛虫サイズの虫はいないかと、バイブレーションセンサーの魔法を唱える。
しかしその結果は‥‥
「調べない方が‥‥良かったかもしれません」
数えきれないほど、どっちゃりごっちゃり沢山の反応が返って来た。どれがどれやら区別も付かない。
「‥‥わかりました。‥‥気を付けます」
マイはさほど気にした様子もなく、手にしたダガーで道を切り開いて行った。
毛虫やナメクジなどは、実害がない限りは慌てず騒がず処理が出来るらしい。
「‥‥先に、家の中を片付けておきます。‥‥家事労働は本職ですから」
その代わり、草刈りなどの肉体労働は余り得意ではないのだが。
「‥‥初日の間に終えて、庭の方に合流したいと思います」
「あ、ラヴィも‥‥」
一緒に家の片付けを、と言いかけたラヴィ。
だが、自分もそちらに回ってしまうと庭の手が足りなくなりそうだった。
「‥‥ラ、ラヴィ‥‥虫さん、すごーーーーく‥‥苦手なんですけれど‥‥」
それに、家の掃除の方がずっとずっと得意なのだが。
でも、頑張る。
「まずは雑草抜きからですわね‥‥でも、どれを抜けば良いのでしょう？」
「ちょっと待ってね。おいらが調べてみるから」
植物に関する事ならお手の物と、デメトリオス・パライオロゴス（eb3450）が前に出る。
「この背の高いスラっとした草は遠慮なく抜いて良いよ。でも、根が丈夫だから気を付けて」
あれもこれもと、デメトリオスは除去する植物を次々に指定していった。
「雑草の中にもそのまま植えておく意味のあるものもあるけどね。花が綺麗だったり、実がおいしいとか、薬効成分が期待出来るとか‥‥」
それに、昔植えられていた植物やその子孫が残っているかもしれない。
「これだけ背の高い草に覆われてると、下の方は光が届かないから‥‥こぼれ種で増えるのは難しいかもしれないけど」
「元々の植物でまだ大丈夫なものはそのままにして、植え替えた方が良さそうなものは一旦植木鉢にでも移しておきましょうか」
と、ルースアン。
「野花にもかわいらしいのがありますしね」
抜くものと、残すもの。あらかたの目星を付けて、作業が開始された。
「うーん‥‥うぅーん‥‥っ‥‥ぬ、抜けません‥‥です、の‥‥っ」
頑張るラヴィ。でも、雑草の根っこはもっと頑張っていた。
「うーーーっっっ！」
――すてーん！
抜けた、と思ったのは根っこではなく、すっぽ抜けたラヴィの手。
「うう、強敵‥‥ですわ」
「最初にスコップで回りを掘っておくと抜きやすくなるよ」
尻餅を付いたラヴィに、デメトリオスが助け船。
「でも、残すと決めた植物の根には影響しないように、掘り返す時は慎重にね」
そんな作業の様子を、小さな女の子が何か言いたそうに、そして少し悲しそうにじっと見つめていた。
「アイリーン、どうしたの？」
ルースアンが声をかけると、その子――依頼主には親戚の子だと言ってあるが、実はアースソウル――は、ぽつりと言った。
「‥‥いやだ、って」
グリーンワードで抜かれようとしている雑草の声でも聞いたのだろうか。
森を守る精霊である彼女にとっては、植物はどれも大切な命。
不要な草など存在しないのだろう。
「ごめんね。でも、後でちゃんと綺麗にするから」
彼女にとっては今のままで充分に「綺麗」な状態なのだろうと思いつつ、ルースアンが宥める。
「雑草なんて、人間の都合で勝手に付けられた名前だけどね」
デメトリオスが苦笑いを漏らした。
「人にとって必要か、そうでないか‥‥何の役にも立たないからって、抜いてしまうのは可哀想な気もするけど」
でも、ここは人が住む家の庭。
外の草原でならいくらでも繁茂して構わないが、庭で勢力を拡大されるのは困るのだ。
「放置してればいろんな植物が自生しようとするのは仕方ないよ。元々植えていた植物は、人の手により守られていたんだからね」
勢力争いになればそうした園芸植物に勝ち目は薄い。雑草だらけになるのも自明の理だ。
「だから少しでも、元々の草木を救出してあげたいんだ。わかってくれるかな？」
その言葉に、アイリーンはわかった様な、わからない様な‥‥縦とも横とも判別の付かない方向に首を振る。
だが‥‥追い払おうとしないからには、それなりに納得はしてくれたのだろう。
「そろそろ、少し休憩にしましょうか」
ルースアンは、アイリーンの茶色い頭をそっと撫でた。
その頃、室内では。
マイがコマネズミの様にくるくると動いていた。
持参した灰で灰汁を作る間に家じゅうの窓を開け、鼠を追い出し、蜘蛛の巣を払い、床に積もった埃を掃き出し‥‥
何だか、やたら活き活きと輝いて見える。
今夜から寝泊まりに使える様に、今日の内に全ての作業を終わらせるつもりだった。
手の届かない場所はレビテーションの魔法を使い、水汲みにはウォーターコントロールでちょっと横着。
「すごい‥‥手慣れていらっしゃいますのね」
台所を借りて何か軽い食事でも作ろうかと入ってきたラヴィが目を丸くした。
「ラヴィのお手伝い、必要ないかも‥‥」
ぽつり、と呟く。
「‥‥いいえ、大工修理的な事は、余り得意ではありませんので‥‥」
開けた途端に外れてしまった窓の鎧戸や、立て付けが悪くなったのか、どう頑張っても開かないドアなど。
「ドアは私が何とかしましょう」
力仕事だから、と依頼人。それに、そこは丁度‥‥母親が使っていた部屋だった。
「この部屋くらいは、自分で片付けようかな」
「あ、では‥‥よろしければ、これをお使い下さいませ」
ラヴィは荷物から魔法の掃除道具各種を取り出し、依頼人に手渡した。
「これなら、お掃除もとても簡単に出来ますわ」
砕けた言い方をすれば、とってもラクチン、なのだ。
使い方の説明を受けた依頼人は、小さく苦笑いを漏らした。
「ありがとう。昔はよく、お袋に『お前は片付けが出来ない』と小言を言われましたが‥‥」
これならそんな自分にも簡単かつ綺麗に掃除が出来そうだ。
「では、ラヴィは窓の取り付けを」
木工初級の腕前では今ひとつ心許ないが、それくらいなら問題なく出来る‥‥だろう。多分。
「たくさんの思い出が詰まったおうちでしょうから、大事に丁寧に行いますわね」
「ありがとう。‥‥ああ、そうだ」
依頼人はふと思い出した様に、母親の部屋に通じる開かないドアを見た。
「この部屋には陽当たりの良いテラスが付いていましてね。そこに椅子とテーブルを出して、庭を見ながら皆でお茶を楽しんだりしたものです」
「お庭を眺めながらのお茶会‥‥素敵ですわ」
ラヴィがうっとりと微笑む。
「綺麗に片付いたら、再現してみましょうか。おかあさまもご招待さしあげれば、きっと喜ばれると思いますわ」
「良いですね、是非お願いします」
「では、頑張って綺麗にいたしましょう♪」
中も、外も、見違える程に‥‥しかし、以前の面影は出来るだけそのままに。
雑草があらかた取り除かれた庭は、何とも殺風景で物悲しい雰囲気を漂わせていた。
「枯れてしまったのは薔薇とクレマチス‥‥それに球根植物もいくつか姿を消してしまった様ですね」
リトルフライで庭を上から眺めつつ、ルースアンはその形状と残った植物の位置を白い布に書き留めて行く。
「お母さまも恋しいと仰っている様ですし、なるべく以前のスタイルを崩さない方が良いでしょうか」
「でも、薔薇は同じ土地に続けて植えると良く育たない事があるんだよね」
と、デメトリオス。
「配置は前と少し変わっちゃうけど‥‥良いかな？」
「全体の雰囲気が似ていれば、場所はそう気にならないと思いますよ」
それに今すぐに元通りになる訳でもないから、と依頼人。
「これから自分で作っていく楽しみもあるでしょうし」
「そうだね、手入れの方法なんかはおいらが教えるからさ」
「では、以前に植えられていたものをお教え頂けますか？ それに、新しく植えたい植物がありましたら」
ルースアンが訊ねる。
しかし、依頼人は「恥ずかしながら」と首を振った。
「名前がわからないくて‥‥見ればこれだ、というのはわかると思いますが」
「では、一緒に苗を選びに行きましょうか。よろしければ、お母さまもご一緒に」
一緒に選べれば楽しいだろうし、全部任せきりにするよりは少しでも関わって貰った方が良い思い出にもなるだろう。
「季節的に、今すぐ植えるのは難しいものもあるけど‥‥それはまた今度、時期が来たらね」
今の季節で手に入るものは、出来るだけ安く買える様に交渉するから、とデメトリオス。
「新しく植えるなら、おいらのお勧めは紫色のライラックかな。白い花は、家に不吉をもたらすと言われるけど、紫なら不吉を祓ってくれるかもしれないからね」
門の脇に植えて、シンボルツリーにしてみようか。
「可愛らしい看板やお人形があってもよろしいでしょうか♪」
ラヴィの言葉に、依頼人が首を傾げる。
「‥‥看板？」
「あの、お花の名前を書いたりする、あれは‥‥」
看板とは、言わないのだろうか。
「ああ、ネームプレートですね」
くすくすくす。
「でも、表札代わりのウェルカムプレートなども良いかもしれませんね」
「では、あの、お作りしても、よろしいでしょうか‥‥？」
遠慮がちに訊ねたラヴィに「お願いします」と依頼人。
「風車や風見鶏なども良いかもしれませんね。綺麗な石でアプローチを飾ってみたり‥‥」
重い荷物は駿馬に頼んで運んで貰おうか、とルースアン。
「アシュリー、お願いね？」
思い出の庭を、未来へ。
マイの働きで新築と見違えるほどピカピカになった部屋と、作りかけだが手伝った皆の思いが込められた庭。
「思い出のたくさん詰まったおうちに越されたら、おかあさま、もっと元気になられるかもしれませんね？」
ラヴィが微笑む。
まず手始めに、テラスでのお茶会を。
庭に残っていたハーブを使って、お茶を煎れたりケーキを焼いてみたり‥‥
「そして更に新しい思い出を積み重ねていって頂ける事、お祈りしておりますわ♪」
