楽しい旅のお手伝い

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:2〜6lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 3 C

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:09月15日〜09月20日

リプレイ公開日:2006年09月23日

●オープニング

「旅のお供をお願いしたいのじゃが‥‥」
 その日ギルドの扉を叩いたのは、身なりの良い老人だった。
「わしの孫が、目の病を患ってしまいましてな、今はもう殆ど何も見えませんのじゃ」
 老人は手を尽くして治療に努めたが、可愛い孫の目は一向に良くならない。
 もう一生このままかと諦めかけた時‥‥。
「少し離れた町に良い先生がいらっしゃると噂に聞きましてな、孫を連れて行こうと思いますのじゃ」
 だが、街道を行く旅とは言え、野盗の類が襲ってこないとも限らない。
「それで、道中の護衛を頼みたいのじゃが‥‥ひとつ、条件があるのじゃ」
「条件、と言いますと?」
 無理難題をふっかけられるのではないかと、受付係は少し身構える。
「いや、簡単な事ですじゃ。その、もし戦いが起こった時に、孫を怖がらせないようにしてほしい、と‥‥」
 老人は続ける。
「何かで孫の気を逸らして貰うなり、歌って誤魔化すなり‥‥そうじゃ、孫はチャンバラが大好きじゃで、即興のお芝居に仕立るのも喜ぶと思いますじゃ」
「芝居に見せかけて敵を倒し、尚かつお二方の身の安全もお守りする‥‥なかなか難しそうですね」
「いやいや、難しく考える事はないじゃろうて。要は孫が道中を安全に、退屈せずに過ごせれば良いのじゃから。ま、少しくらい危険が降りかかっても、演出じゃと誤魔化せば、かえって喜ぶかもしれんのう」
 老人は悪戯を思いついた子供のように目を輝かせてカウンターに身を乗り出した。
「そうじゃ、孫はどこぞの王子様、わしはその爺やという事にしようかのう。護衛の皆さんは王国の騎士じゃ。城が敵に襲われて、逃げる途中なんじゃ。町外れで護衛の者達と落ち合い‥‥彼等も敵の目を誤魔化す為に冒険者に身をやつしているのじゃ。馬車もあまり急いでは怪しまれるからの、のんびりゆっくり‥‥そうじゃそうじゃ、それが良い!」
 老人はポンポンと手を打って楽しそうに笑うと、少し多めの依頼料をカウンターに置き、去り際に一言付け加えた。
「馬車にはわしらの他に2人ほど乗れますでな、歌やお話の得意な方に一緒に乗って貰うのも良いかもしれませんな‥‥そう、宮廷楽師や乳母、家庭教師‥‥もちろん、そういう事が得意な方がおれば、で良いのですがな」

●今回の参加者

 ea3780 極楽司 花朗(31歳・♀・忍者・パラ・ジャパン)
 eb3412 ディアナ・シャンティーネ(29歳・♀・神聖騎士・人間・フランク王国)
 eb5451 メグレズ・ファウンテン(36歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 eb5549 イレクトラ・マグニフィセント(46歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb5818 乱 雪華(29歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)

●サポート参加者

リアナ・レジーネス(eb1421

●リプレイ本文

「ねえ、おじいちゃん、護衛の人まだ?」
 馬車の固い座席に座り、両腕にクマのぬいぐるみを抱えた少年は、足をブラブラさせながら頬を膨らませる。
「エディ王子、王子たる者、そのような話し方はおかしゅうございますぞ」
「あ、そっか。‥‥えーと‥‥爺、護衛の者はまだか?」
 傍らに座る祖父の言葉に、どこで習い覚えたのか、それらしき口調で言い直す。
「もうすぐですじゃ、もうすぐ‥‥ああ、ほれ、あそこに」
 騎士団に扮した冒険者達が待つ広場で、馬車は歩みを止めた。
「今回護衛をさせて頂くことになりましたメグレズ・ファウンテンと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
 一同の中からメグレズ・ファウンテン(eb5451)が進み出る。
 視界にぼんやりと映るその背の高い人影に、少年は頬を紅潮させた。
「わあ、でっかい! 僕、ジャイアントの人なんて初めて‥‥あ、いや、では、そなたが隊長であるな?」
「た、隊長? ‥‥あ、はい、左様でございます。そして、こちらが副官の‥‥」
 と、傍らのイレクトラ・マグニフィセント(eb5549)に振る。
 副官に指名されたイレクトラは、恭しく頭を下げた。
「このイレクトラ、王子をお守りする為、身命を擲つ覚悟」
「‥‥では、私達は平隊員でしょうか?」
 乱雪華(eb5818)は小声で隣の極楽司花朗(ea3780)に耳打ちし、くすくすと笑う。
「シュエホアとお呼び下さい、殿下」
「私はねー、普段はスパイでがんばる騎士だよ‥‥あわわ、で、ございます。かろ、とお呼び下さい」
「スパイ? なら、敵の様子とかわかる?」
「ええと‥‥敵は今、囮の部隊を追いかけています。こちらに気付くには、まだ時間がかかるでしょう」
 思い付いた事を適当に言ってみる。
「奴等は王子が城から持ち出した宝を狙っているのです!」
「宝物? 僕、そんなの‥‥」
「王子がその腕に抱えていらっしゃる、それの事ですよ」
 ディアナ・シャンティーネ(eb3412)が進み出た。
「クマのぬいぐるみとは仮の姿、実は‥‥ええと、その中に王家の宝物庫の鍵が隠されているのです」
「へえ〜、そうなのか、知らなかった!」
 ‥‥本気にしているのか、芝居なのか、エディはぬいぐるみのお腹をむにむにと押してみる。
「えと、それで、お姉ちゃんは?」
「申し遅れました、私は王宮の詩人、ディアナと申します。道中、王子が退屈なさらないように、お話をして差し上げますね」
 足元で愛犬のコハクがキュ〜ンと鼻を鳴らす。
「あ、わんこだ! ね、触って良い?」
 返事を聞かないうちに手を伸ばす。コハクは大人しくいじり回されるままになっていた。
「王子は犬がお好きですか?」
「うん、家にもいるよ。猫もいるんだ、ね、おじい‥‥あ、そ、そうであるな、爺?」
 結局、小型のペット達は馬車に乗せて貰える事になり、一行は王子の号令の下、ゆっくりと動き出した。
「では、いざしゅっぱーつ!」

「‥‥ねえ、まだ?」
 馬車に揺られる事、半日。同乗したディアナとメグレズが交代で冒険談などを披露し、少年も目を輝かせて聞き入っていたのだが‥‥流石に退屈してきたらしい。
「町まではまだまだ‥‥途中で1日休まなければ辿り着けませんぞ」
 祖父の言葉に少年は首を振った。
「そうじゃなくて、敵はまだ出て来ないの?」
「‥‥王子、敵などというものには遭遇しないほうがよろしいのではないかと‥‥」
「えー、そんなのつまんないよ!」
 少年はメグレズの言葉に頬を膨らませ、彼女に命じた。
「隊長、僕がここにいる事を敵に知らせるのだ」
「ええ!?」
「きっと敵は、僕を見失ってるんだ。だから隊長は馬車の横について大声でここにいるぞって言うんだ、ほら!」
 丁度、交代の頃合いだ。馬車から降りる事に異存はなかったが‥‥。
「お、大声で、呼ばわるのですか‥‥」
 考えただけで顔が熱くなる。だが、やらねばなるまい。
「‥‥王子様のお通り〜! これなるはエディ王子の御一行なるぞー!」
 だが、メグレズの熱演も虚しく、残念ながら(?)昼間のうちは誰も襲っては来なかった‥‥。

 夕暮れ、一行は街道脇でキャンプを張った。冒険者達が交替で見張りにつく中、一日中馬車に揺られて疲れたのだろう、エディは簡単な夕食を済ませると、あっという間に眠りに落ちてしまった。
 その時、見張りに立っていた花朗が、微かな物音を聞きつけた。
 薄闇に目を凝らす。
「‥‥誰か来たよ‥‥お客さんかな?」
 ランタンの明かりチラチラと映るのは、抜き身の剣のようだ。
「そのようだな」
 馬に乗ったままで見張っていたイレクトラが弓に矢をつがえ、引き放つ。
 矢は、野盗の頭をかすめ、闇に消えた。
 それを合図に、彼等は一斉に襲いかかってきた。
「王子、敵襲です!」
 テントの中で眠っていたエディをディアナが揺り起こす。
 二人の前にコハクが立ちはだかった。
「え‥‥? ど、どこ?」
 怖がる様子もなく、エディは寝惚け眼をこする。
「王子、ここは我等にお任せを!」
 花朗は一声叫ぶと隼のマントをたなびかせ、戦場に飛び込んでいく。
「卑怯な敵め、宝は渡さないぞ! しゃきーん! ひゅーん! ばすっ!!」
「花朗騎士が果敢に飛び出して行きました! ニンジャ刀を煌めかせ、マントを翻して舞うように戦っています!」
 ディアナも抜き身の剣を構えながら、戦闘の状況をエディに伝える。
「遠からんものは音にも聞け。近くばよって目にも見よ。我はメグレズ。我は宝と主を守りし騎士也。汝らに与えるは冥府の川の渡り銭也。いざ尋常、勝負!」
 高らかに名乗りを上げ、颯爽と躍り出るメグレズを見て、二の矢をつがえようとしていたイレクトラも、はたと気が付く。
「そうか、演技をするのであったな‥‥」
 恥ずかしいが、仕方がない。
「や、やあやあ我こそは、て、天下無双の軍船乗りイレクトラ・マグニフィセントなるぞ! 主君に仇なす裏切り者どもよ、正義の鉄槌を食らうが良い!!」
 雪華も負けじと声を張り上げる。
「王国の庇護を受けながら、恩を仇で返す奸賊ども、覚悟するが良い! 王国騎士の名にかけて、この乱雪華が成敗致す!」 
「‥‥な、何だ、こいつら!?」
 野盗はビビっていた。賊に襲われながら、嬉々として高らかに名乗りを上げる獲物など見た事がない。しかも、どう聞いても言っている事がおかしい。マトモじゃない。女子供と老人、絶好のカモだと思ったのだが‥‥。
 こいつら、ヘンだ。
 絶対ヤバい。
 野盗達は後悔していた。こんな集団とは一刻も早くオサラバしたい。しかし、退路は既に断たれていた。
「忍法、みじん切り! しゃかしゃかしゃかっ! すぱっ!!」
「花朗騎士の攻撃! 敵の服を切り刻んでいます!」
「破剣、天昇! ドッカーーーン!!」
「騎士団長の必殺技が炸裂しました!」
「オォーラシィーーールド!!」
「雪華騎士の体が淡いピンクの光に包まれました! 次の瞬間、その手には光り輝く盾が握られています!」
「必殺! 鳥! 爪! 撃!! シュシュシュシュシュシュ‥‥‥‥‥‥!!!」
「雪華騎士、目にも止まらぬ速さで蹴りを繰り出しています! 敵の攻撃を全く受付けません!」
「‥‥な、なんといいますか違う意味で疲れますね、この戦い‥‥」
 王子様には聞こえないように、こっそりと呟く雪華だった。

 そして、哀れ不運な野盗達は、縛り上げられて王子様の前に引き出される事となった。
「ふむ、こやつらか、我が父を裏切り、宝を狙うフトドキモノは」
「王子様、いかがいたしましょう?」
 隊長の問いに、王子は暫く考え込む。
「う〜〜〜ん。どうしようかな〜」
「お、お願いします、もう二度としませんから! 見逃して下さい!」
 このままでは、このイカレた集団に何をされるかわからない。野盗達は必死に謝り、更正を誓った。
「それじゃ、しょうがないな。お前達、城に戻って包囲を解くように仲間に伝えるのだ、良いな?」
 わけがわからないが、ここは素直に頷いておくべきだろう。
「はい、仰る通りに!」

 かくして、王国の脅威は去った‥‥らしい。
 翌日の馬車の中では、王子様が交代で乗り込んで来る冒険者達に飽きる事なくリプレイを要求していた。
「ねえ、あそこのシーン、もう一回やって!」
「もう一回名乗り上げてよ!」
「あれ、カッコ良かったよね!」

「ああ、楽しかった!」
 ようやく目的の町に着き、馬車から降りた少年は、笑顔で冒険者達を振り返った。
「楽しまれたようで、何よりです王子」
 花朗の言葉に、少年は笑って首を振った。
「もういいよ、それは。でも、僕の目が治ったら、またお芝居見せてね。僕も一緒にカッコイイとこ見せるから」
「うん、楽しみにしてるね、エディ君」
「そうだな、目が治ったら、軍船に乗せてあげても良いぞ?」
「ほんと!? 絶対だよ、約束だからね! そんで、隊長さんは肩車ね! 雪華お姉ちゃんにはあの足ワザ教えて貰うんだ!」
「‥‥では、エディ君に慈愛神のご加護のあらん事を‥‥」
 ディアナは神に祈りを捧げ、少年にグットラックを付与した。
「ありがとう、また会おうね!」
 その時は、少年の目が元通りに光を取り戻していますように‥‥誰もが、そう願っていた。