【園遊会の影で】目撃者
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■ショートシナリオ
担当:STANZA
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:5 G 55 C
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:07月15日〜07月20日
リプレイ公開日:2009年08月03日
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●オープニング
「師匠‥‥ほんとに大丈夫なの?」
キャメロットにある、猫屋敷。
ウォルフリード・マクファーレンは、疲れた様子でベッドの端に腰掛けた師匠の顔を覗き込んだ。
幽霊船の甲板で倒れ込んで以来、数日ぶりに目を覚ました彼‥‥ボールス・ド・ガニスは心配そうなその顔に小さく笑みを返す。
「大丈夫‥‥少し、疲れただけです」
少しどころじゃないだろう、とウォルはその表情を見て思う。
これ以上心配をかけまいと、何とか明るい表情を保つ様に努力をしている様だが‥‥どう見ても、それは成功しているとは言い難い。
だが、ウォルは何も言わなかった。
「‥‥すみません、また‥‥迷惑をかけて」
「そう思うならシャキっとしろよな!」
つっけんどんに言うと、ウォルは一通の手紙を無造作に差し出す。
「招待状。園遊会だってさ‥‥出るだろ?」
だが、ボールスはその手紙を見もせずに首を振った。
「私は労をねぎらって頂ける様な事は何もしていませんし‥‥人が多い所は、どうも‥‥ね」
「まだ、ダメなの?」
弟子の問いに、ボールスは黙って頷く。
見知った者と顔を合わせ、他愛もないお喋りをして過ごす‥‥普通なら楽しい筈のそんな一時が、今の彼にとっては想像するだけでも苦痛の種となっていた。
それに‥‥自分が出席する事で気拙い思いをする者もいるかもしれない。
「ウォル、私の代わりに‥‥名代として出席して貰えますか?」
「‥‥良いけど‥‥師匠はどうすんのさ? また隠れ家に籠る気?」
「私は‥‥少し出掛けて来ます」
「え?」
王妃主催の園遊会を蹴ってまで行く必要のある用事とは、一体‥‥?
「沿岸部の町に被害が出ていると聞きました。その、復興の手伝いを‥‥ね」
現場では多くの人が作業に携わっているだろうが、見知った者がいなければ苦痛も感じない。
自分が何者であるか、名乗る必要もなければ知られる恐れもなかった。
「レオンを‥‥連れて行きます」
彼がまた海に出てしまう前に、きちんと向き合って‥‥話がしたい。互いに納得の行くまで。
「うん‥‥わかった」
ウォルは余計な事は何も言わなかった。
ただ、ひとつ‥‥
「ねえ、ルル借りて良い? オレ、ひとりで行くのも何だし」
「ああ‥‥そうですね」
そう言えば、彼女が笑った顔も随分長い事見ていない気がする。
それもきっと、自分のせいだ。
「ルルの為にも‥‥早く、治さないと‥‥な」
「いいよ、無理しなくて」
待ってるから、とウォルは言った。
急かしても、諭しても、理詰めで説いても‥‥ましてや責めたところで、どうなるものでもない。
「ゆっくりで、良いから‥‥さ」
「‥‥ありがとう」
もう、子供扱いは失礼だな‥‥ボールスは小さく微笑み、頭に伸ばしかけた手を引いた。
「園遊会‥‥か」
師匠の部屋を辞したウォルは、小さく溜息をついた。
本当なら、師匠が行かないと言うなら自分も行きたくないし、一緒に復興作業に当たりたい。
しかし、今の彼にはひとつ、気になる事があった。
『‥‥ウォルフリード様、ご活躍でしたわね』
リヴァイアサンとの戦いを終えて港に戻った彼に、話しかけて来た女性がいた。
『その腕を見込んで‥‥お願いがあります』
腕も何も、自分はただの騎士見習いなのだが。
だが、訝しげに様子を伺うウォルにはお構いなしに女性は続ける。
『この度、王妃様の主催で園遊会が催される運びとなった事はご存知でしょうか。その際に‥‥とある貴賓の一人を誰にも見つからないようにお連れ頂きたいのです』
何故、そんな話を見ず知らずの自分に振るのか。
それに、とある貴賓とは‥‥?
『これは、極秘の会見となりますので、王宮に勤める騎士には頼めないのです』
心の中を見透かした様な言葉。
『勿論、万事が上手く運んだ暁には相応のお礼を致しますわ。そう、わたくしから王妃様にお願いして‥‥』
だが、ウォルは耳を貸さなかった。
怪しすぎる。まともな企みである筈がない。
王妃主催の園遊会に、人目を忍んで来なければならない人物。それは‥‥
(「ラーンス・ロット卿‥‥か。まだ王妃様を諦めてないって噂だしな」)
冗談じゃない。
そんな密会の手引きなど、下手をすれば反逆罪だ。
それに‥‥
(「あいつは師匠の従兄だ。余計なトラブル起こしたら、一族って事で師匠まで立場が悪くなっちまうじゃないか‥‥!』)
ただでさえ、余所者だという事で彼等の事を快く思わない者も多いのだ‥‥未だに。
そんな連中に、排斥の口実など与えてなるものか。
‥‥止める。もし本当にその相手がラーンスなら、王妃と会う前に。
「つーか‥‥未練たらしいんだよ、あの野郎! うちの師匠みたく、ダメなもんはダメって潔く諦めやがれっ!」
‥‥師匠の場合は諦めが良すぎる気がしないでもないが。
そんな決意を胸に宴を抜け出したウォルは、奥の庭に通じる小道の脇に身を潜めていた。
自分の代わりに誰かがラーンスを手引きするとしても、使うならこの道しかない。
ここで待っていれば、ラーンスは必ず現れる筈だ。
いや、現れないのであれば、それが一番なのだが‥‥
だが、じっと見張っていた筈のウォルの目と耳を、相手は巧みにすり抜けた。
『ウォル! ちょっとアンタ何してるのよ!?』
離れた場所から奥の庭を見張っていたルルのテレパシーがウォルの頭を揺さぶる。
『ラーンス、来ちゃったじゃない!』
『ええ!?』
『ってゆーか、何? ちょっとこれ、アイビキって雰囲気じゃ‥‥きゃああっ!』
最後の叫びはテレパシーか、それとも耳に聞こえたものだったのか。
『ルル!? どうした!?』
奥庭の方から喧噪が聞こえる。
だが、何が起きているのか‥‥ウォルが居る場所からは何も見えなかった。
自分の目で確かめようと、小道へ出ようとしたその時‥‥
――ドンっ!
誰かにぶつかった。
「うわっ!」
無様に尻餅をついたウォルの目に、背の高い男の影が映る。
「――邪魔だ、どけ」
だが、ウォルは動かなかった。
こいつを止めなければ‥‥何故かは知らないが、そう思った。
起き上がりざま、体当たりを喰らわせる。
だが、その程度の事でどうにかなる相手である筈もなかった。
男は向かって来たウォルに当て身を喰らわせると、その体を荷物の様に担ぎ上げ‥‥
そして、闇に消えた。
暫く後‥‥
「ボールスさまーっ!!」
猫屋敷に、慌てふためいた小さなシフールが飛び込んで来た。
「ルル? どうしたんですか? まだ宴は‥‥」
自らも復興作業から戻ったばかりのボールスがのんびりと答える。
その顔には、何故か大きな青アザが出来ていた。
だが、それにも気付かない様子でルルは一気にまくしたてた。
「ウォルが! ウォルが大変なの! 園遊会が奥の庭で、王妃さまがエクスカリバーになってラーンスを‥‥っ!」
‥‥わけがわからない。
「ルル、落ち着いて‥‥」
どうにか落ち着きを取り戻したルルから聞いた話。
それは「ラーンスが王妃からエクスカリバーを強奪し、ウォルを浚って逃げた」という信じ難いものだった。
「それで‥‥何処へ?」
その問いに、ルルは黙って首を振る。
テレパシーで呼びかけようにもウォルは気を失っており、暗闇に溶け込んだラーンスの姿を追う事も出来なかったのだ。
「ごめんなさい‥‥」
「大丈夫、必ず見付けます‥‥だから、ルル。力を貸して下さいね?」
そう言って微笑んだボールスは、以前と変わらない様に見えた。
●リプレイ本文
「‥‥また密会かと思っていたら、予想以上の展開だな」
緊急事態に急遽駆けつけた冒険者達。
現場に居合わせたアリオス・エルスリード(ea0439)は、まさかの事態に首を振った。
「事態を早急に収拾しないと、またデビルの思惑どおりに国内が混乱してしまう」
「でも、まさか‥‥ラーンスさんがセトの眷属‥‥デビルと‥‥そんな!?」
自らも舞台のお膳立てに一役買う形になってしまったネフティス・ネト・アメン(ea2834)も、信じられないという面持ちで暫し呆然とそこに佇んでいた。
「ネティ、元気出してよ。ボクも協力するからさ」
友人のシータ・ラーダシュトラが、その肩にそっと手を置いた。
「‥‥ありがとう。うん、そうよね。占い師として、私にははっきり言えるわ。あの人の迷いも決意も本物だった。本心から奴等に与してる筈がないわ!」
どう糸が絡まってるのかはわからないが、それは本人を探して聞き出すしかない。
「しかし訳が判らん。ラーンス卿程の方がデビルと行動を共にするなんて‥‥」
その場にいた者達の話を聞いて、七神蒼汰(ea7244)が頭を抱えた。
「話を聞く限り、忍んできた理由自体については信頼したい内容なんだが‥‥」
「謎だらけですわね‥‥」
ミシェル・コクトー(ec4318)が首を捻る。
「でもだからこそ、信じてみたいと思いますわ、ラーンス様を」
かつての憧れであり、騎士の中の騎士と呼ばれた者が、そう簡単に闇に堕ちる筈がない。
「王妃様への想いに偽りはないと、そう信じたいですわね」
「とにかく、まずはウォルくんを探し出すのだわ」
ヴァンアーブル・ムージョ(eb4646)もまた、事件を目の前で見ていた一人だ。
「ここは何とかしてあげたいのだわ」
ムージョはテレパシーを使い、交信範囲10kmの念話網を構築した。
これで離れた仲間との情報交換も可能になる。
「まずはそれぞれに思いつく心当たりを探してみるか」
アリオスが言った。
「成果があってもなくても、ひとまずはギルドに集合だ」
集合の日時を決め、冒険者達は思い思いの方向へ散って行った。
「事件がいつ頃起きたか、正確な時刻はわかりますか?」
ユリゼ・ファルアート(ea3502)がルルに訊ねた。
バーストの魔法で過去を見るには、正確な情報が必要だった。
「えーと、あれは確か‥‥」
少々あやふやなものの、大体の時刻を把握したユリゼはミシェルのペガサスに同乗し離宮の上空へと向かった。
そこは現在閉鎖されており、一般の出入りは固く禁じられている。
ちょっと反則な気もするが、上空から覗く程度なら咎められる事もないだろう‥‥多分。
「でも、見付かったらやっぱり拙いわよね‥‥手早く済ませましょ」
ユリゼは手元のスクロールを広げた。
書かれた文字を読み上げると、一瞬にして辺りは夜の闇に包まれる。
それは事件当日の、まさにその場の状況。
だが‥‥
「暗いし遠いし、何も見えないわ」
がっくり。
まあ、便利魔法一発で全てがわかれば苦労はない。
「地道に足で稼ぐのが一番かしら‥‥」
その頃、便利魔法その2、サンワードもしっかり苦戦していた。
「ウォルとは随分前に会っただけだけど、ラーンスさんとはしっかり話してるもの。太陽神の啓示を受けるには充分よね」
ただし、相手が陽の当たる場所にいれば、だが。
「やっぱり、どこか部屋の中にいるのかしら。各地に拠点となる場所があるって聞いたけど‥‥そっか、初めて会ったあそこもそうね」
心当たりの場所に、ネティはセブンリーグブーツで急いだ。
今もそこにいるとは思えないが、何か手掛かりが残っているかもしれない。
その合間に時折サンワードも試してみれば良い。
「この辺りで見失っちゃったのよね‥‥」
ルルに案内され、ムージョとシャロン・シェフィールド(ec4984)が向かった離宮の南側にある小さな木立。
ウォルを抱えたラーンスがそこに飛び込んだ所までは見ていたと、ルルが言った。
「あいつ、気を失ってたからテレパシーも通じないし、ラーンスはまるで昼間と同じ様にサクサク動いてたし‥‥」
「この辺りでは土地勘もあるでしょう。デビルが関与していたという事ですから、何らかの手引きがあったのかもしれませんね」
周辺の踏み倒された草などを仔細に観察しつつ、シャロンが言った。
「ルルさんがウォルとの念話中に悲鳴を上げた時、ウォルは庭にはおらず、ラーンス卿は庭にいた。ウォルが連れ去られたのはその直後な訳ですから、連れ去ったのはラーンス卿ではない‥‥」
「うーん、直後って言っても‥‥実際どれくらいだったか、よく覚えてないのよね」
一瞬の後だった気もするし、その間に色々な事があった様な気もする。
「ごめんね、役に立たなくて。でも南の方に行ったのは確かよ!」
遠回りをして他の方角に向かった可能性は否定出来ないが‥‥
「では、私は南の方を探して探してみますね」
シャロンは愛馬の手綱を取る。
今現在デビルの動きが活発なのは、南方遺跡群。騎士や冒険者への反発は収まり気味とは言え、彼等が動き難い土地である事に変わりはない。身を隠すには適しているだろう。
「介入してきたデビルがラーンス卿を利用したのか、それともラーンス卿がデビルと手を組んでいたのか‥‥いえ、ラーンス卿だけに囚われていたのでは、本質を見失いますね」
それに、自分が今すべきなのはウォルを探す事。
「姉貴分を自称するなら、ここで何も出来ずにいるわけにはいきません」
大きな声では言えないが、ラーンスや宝剣はそのついでだ。
「では、そろそろ行くのだわ」
ムージョが鷹の背に乗り、南の空へ向けて舞い上がった。
(「‥‥以前王妃様に憑いていた悪魔が今度はラーンス卿に囁いたのかも知れないのだわ」)
もしくは、ラーンスはエクスカリバーを咄嗟に護っただけとも考えられる。
(「悪魔は王国の分裂を狙い利用したのかもなのだわ」)
何が正解か、いずれにしろ今はまだわからないが。
「余り詳しくはありませんけど、これで良いかしら?」
離宮から戻ったミシェルは図書館で写した近郊の地図をユリゼに手渡した。
「ありがとう、もう少し情報が揃ったらバーニングマップを試してみるわね」
「まずは‥‥どこから調べましょう」
地図にはラーンス派の拠点やかつて活動が盛んだった場所、縁深い領主や騎士のいる場所が記してあった。
「俺はここを調べてみたいな」
リース・フォード(ec4979)が指差したのはラーンス派の本拠地、喜びの砦。
(「王妃との繋がり、円卓の騎士として戻るきっかけになった何か、デビルとの繋がり、王宮の何が違っていると感じたのか‥‥分からない事は数多いけれど」)
あの場所なら何か手掛かりがある筈だ。
今度の事件と直接の関係はないかもしれないが、今は少しでも多くの情報が欲しかった。
「‥‥パーシ卿が王妃様付きのメリンダ嬢を斬ったのは自身を背後から襲った敵に対してやったつもりで、でも彼女は彼女で逃がそうとしている様に見えて‥‥」
離宮の捜索から閉め出された蒼汰は、頭を抱えながら王宮の周囲をあてもなく歩いていた。
「でもパーシ卿が逃がそうとするなんて、そんな事するハズがないし怪しいのはメリンダ嬢だが‥‥パーシ卿が斬られてから反撃する僅かな間に入れ替わった‥‥とか‥‥」
答えを導き出すには、余りにも情報が少なすぎた。
「あーもぅっわかんねえっ! 何がどうなってんだか‥‥っ」
攫ったのは別人だと思いたい。あのラーンスがそんな事をする筈がないと。
しかし反面、ラーンスであって欲しいとも思う。
彼ならそう簡単にウォルに危害を加えるとは思えないから‥‥
その頃アリオスはキャメロットの各地を歩き回っていた。
何ヶ所かある拠点に通じる、いくつものルート。
そこに至る主な街道の要所に立つ警備兵に話を聞き、道行く者に訊ねる。
だが、それらしい情報にはなかなか行き当たらなかった。
「流石に、堂々と街道を使う筈もないか」
夜の出来事でもあるし、街道を使わなかったなら余計に、目撃者がいる事に期待は出来ない。
だが、それでも誰かの目に留まった可能性はある。
「森に入る狩人や食料品を扱う商人‥‥ラーンス卿本人でなくても良い、デビルの目撃情報でもあれば‥‥」
アリオスは森へと通じる小道に目を転じた。
人や馬、或いは何か異形の足跡はないか、それ以外にも痕跡は残されていないか‥‥
「どういうつもりで攫ったかはわからないが、早くしないとな」
そして後刻。
「ごめん、門前払いされた‥‥」
集まった仲間達の前で、リースはがっくりと項垂れた。
「ラーンス卿はもう長いこと本拠地には戻っていないらしい。それに、部下達は彼が今どこで何をしているか知らなかった‥‥少なくとも、知らないと言っていた」
勿論、デビルと何か関わりがあるらしい事も。
近くの村や狩人生活をしていた時拠点にしていた小屋など、思い付く限りの場所を当たってみたが、結果は同じ。
「何も掴めなかった。縁のある場所なら何か手掛かりがあると思ったのに‥‥」
「ラーンス卿の事は調査が進めば次第に明らかになるでしょう」
シャロンが言った。
「今はウォルを見付け出す事に集中しましょう」
「‥‥そうだね。無事でいる事はわかったんだ、早く助けに行かないと」
キャメロットから南へ、徒歩ならば2日ほどかかるだろうか。
鷹の背に乗って空を行くムージョのテレパシーに反応があった。
「ウォルくんはこの円のどこかにいるのだわ」
ムージョが示した地図に、ユリゼが拠点の位置を記した地図を重ねる。
線で囲まれた円の内部にある拠点はひとつ。
「ウォル君は‥‥ここに?」
それを確かめるため、ユリゼはバーニングマップの魔法を唱えた。
仲間達が持ち寄った捜索結果に、シータやレイア・アローネ、ラヴィサフィア・フォルミナムら協力者から寄せられた情報を加え、地図を燃やす。
しかし現れた道は、拠点とは全く別の場所へと続いていた。
「人に知られていない拠点かしら?」
それとも、与えた情報が間違っていたのか。
「とにかく行ってみよう。オーラセンサーなら大体の距離と方角もわかるしな」
蒼汰が立ち上がる。
有効範囲が100mと短いのが難点だが、足りない分は地上での探索やウォル本人からの情報で補えば良い。
(「ごめん、ウォル。気付けなくて‥‥」)
あの場に居ながら気付けなかった事をリースは悔やむ。
だが立ち止まっている暇はない。
「‥‥宝剣と少年一人を抱えているのだから馬か、馬車か‥‥人目を避けるなら街道は避けるのか‥‥それとも街道を行けば他の旅人に紛れられるか‥‥?」
冒険者達は南へと急いだ。
「ラーンス卿は馬で移動した様ですね。少年と二人乗りの騎士風の男が街道で目撃されています」
シャロンが言った。
キャメロットから離れた後は街道を使ったらしい。
「気絶したまま荷物の中に入れられて、というのも考えましたが‥‥或いは何か小動物に姿を変えられて、とか。でも、二人乗りという事は、自分から付いて行った‥‥?」
『んー、どうせ捕まったんだから、このまま付いてった方が役に立つかなって』
ムージョのテレパシーを受けたウォルから答えが返る。
『その方が足とか付きやすいし、追っかけるのも楽だろ?』
「それで‥‥痛い所はない? 身体の具合は? ちゃんと食べてる?」
今度はミシェルが訊ねた。
『ああ、オレは全然へーき。食事もちゃんと作ってるし』
「‥‥作ってって‥‥ウォルが?」
『決まってんだろ、あいつ何にも出来ねーんだから。台所あるのに保存食そのままとか、ありえねーよ!』
何だか、怒ってる。
「‥‥ウォル、随分と楽しそうだが‥‥そいつは本当にラーンス卿なのか?」
蒼汰が痛むこめかみを抑えつつ、相手の服装等の容姿や特徴などを仔細に訊ねた。
『多分ね』
「デビルに憑依されてはいないか? それに、デビルとの接触は?」
『わかんね、オレ、そういうアイテム持ってねーし。んー、やっぱでてくるあんでっと覚えとけば良かったかなー』
アリオスの問いに対する答えも緊張感ゼロ。
「‥‥それはデティクトアンデットだと言ってるだろーが」
蒼汰の頭痛が激しさを増す。
何故こんなにもリラックスしているのか、この弟分は。
『だって、ビビっててもしょーがねぇし。ヘマした分はきっちり取り返すぜ』
ウォルの話によれば、二人を乗せた馬は途中で街道を外れたらしい。
「宿場で食料を買い込んで、それからすぐ‥‥と言っていたのだわ」
「街道沿いの宿場を虱潰しに当たってみよう」
リースが言った。
ついでに最近変わった事はなかったか、何かちょっとした事件や噂話など、デビルの影響がどこかに出ていないかも調べる事が出来れば。
「そこはどんな場所なのかしら、なのだわ」
窓はあるか、太陽は見えるか、特徴的な建物は、木などはあるか、何か音は聞こえないか‥‥?
『窓はあるけど鎧戸が閉まってるから、なんも見えねーや。着いたのは夜だったし‥‥でも、他にも家の影は見えたけど、朝になっても人の気配は全然ないな』
どこかの廃村だろうか。
そして、少ない手掛かりを元に探し回ること数時間。
「何かがデビルに化けている事はない様ですね。とりあえず、この近くでは」
周囲の建物や木々に真実の鏡を使い、安全を確かめたユリゼが言った。
「だからといってデビルが見張っていないという確証にはなりませんが」
リースが持つ石の中の蝶にも変化はない。
「もっと近くに潜んでる可能性もあるけど‥‥これ以上は近付けないか」
冒険者達はユリゼのテレパシーと蒼汰のオーラセンサーが届くぎりぎりの場所に潜んでいた。
目標の建物は人気のない集落の外れにある一軒家。
さほど広くはない、どこにでもありそうな平屋建ての家だった。
「エクスカリバーは今、どこにある?」
アリオスが訊ねた。
「返す気はあるのか、それにラーンス卿がこれからどうするつもりなのか‥‥」
『部屋の隅に置いてあるよ、デビル除けのアイテムと一緒に。オレでも持ち出せそうな感じだけど‥‥ラーンス自身は、何かを待ってるみたい。殆ど何も喋んないけど、そんな気がする』
見た限りでは特に苦しんでいる様子もない。
「‥‥ウォル君、伝言よ。『貴方は貴方の思う様に‥‥』ですって。誰からか、言わなくてもわかるでしょ?」
悩む事は大事だから、性急に答えを出さない様に。
「動く事も大事。でも貴方が無事でいてくれる事が何より大事なんだから」
ユリゼのテレパシーに、ややあって返事が返る。
『大丈夫。心配すんなって言っといて』
「飛び出す前に伝えてね。手は幾らでも貸すのだから」
『わ〜かってるって、信用ねーな。そっちこそ、無茶して飛び出すなよ?』
冒険者達にもそれはわかっている。
今は人数も装備も足りない。
「場所はわかったんだし、一旦戻りましょ」
ネティが促す。
見えた未来、その暗いビジョンを変える為にも。